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機関化された資産運用におけるインセンティブ構造

2003年 3月31日
国際決済銀行・グローバル金融システム委員会

日本銀行から

 以下には、報告書の要旨の抄訳を掲載しています。報告書の全文は国際決済銀行(BIS)のウェブサイト(http://www.bis.org/)(外部サイトへのリンク)から入手できます。

日本銀行仮訳

 個人や企業といった最終投資家が、資産運用を機関投資家などの運用機関に委託する動きは拡大基調にあり、現代金融市場の重要な特徴として定着しつつある。資産運用は、委託—受託構造を伴うため、最終投資家と運用機関の間で、適切なインセンティブ構造が形成される必要がある。また、資産運用業や金融市場で生じた構造的な変化は、こうした運用担当者のインセンティブ構造を媒介として、金融市場に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 こうした問題意識の下で、国際決済銀行・グローバル金融システム委員会は、「機関化された資産運用におけるインセンティブ構造」と題するワーキング・グループを立ち上げた。

 これは、中央銀行の持つ責務—— 金融市場動向の分析と金融システムの安定維持——に向けた努力の一つである。本報告書は、ワーキング・グループが行った文献調査および14か国の100以上の運用機関に対するインタビューにより明らかになった論点を取り纏めたものである。

資産運用業の近年の傾向

 本報告書では、まず、資産運用業に以下のような構造変化が生じていることを明らかにしている。

  • 運用対象資産の拡大:投資家の関心は、国債、株式といった伝統的な資産から、社債、各種流動化商品、代替投資などにまで広がってきている。
  • 資産運用のパッシブ化:株式市場を中心として、市場効率性の高まりが認識される中、時価総額加重インデックスをベンチマークとする運用スタイルのパッシブ化が進展している。
  • 運用機関の統合と特化:資産運用では規模の経済性が働きやすいことから、特に、インデックス・ファンドの増加が、運用機関の整理・統合を加速させている。同時に、アクティブ運用を行う運用機関では、運用対象を、肌目細かなリサーチを必要とする特定の資産に特化する動きが進展している。

 上記の構造変化に加えて、本報告書は、運用機関のインセンティブ構造の特徴として以下のような点を指摘している。

  • 運用委託内容の厳格化:最終投資家が政策的な資産配分計画を自ら策定するようになるにつれて、運用委託内容はより厳格化している。具体的には、相対的な運用パフォーマンス評価法の採用や、特定の資産に対する投資制限や分散投資ルールの厳格化などが実行されている。
  • パフォーマンス評価と投資スタイル・プロセス:最終投資家は運用機関のパフォーマンス評価に当り、投資プロセスの安定性と投資スタイルの一貫性を重視し始めている。このため、過去の運用パフォーマンスは、もはや運用担当者を評価する唯一の物差しではなくなっている。
  • 運用報酬体系:運用報酬は、運用資産額に一定比率を乗じた額として算出されるのが一般的である。これは、高い運用パフォーマンスがファンドへの資金流入を促すことを通じて、暗黙のインセンティブ構造として機能している。

金融市場の機能に対するインプリケーション

 ワーキング・グループは、金融市場の機能に対して、以下のようなインプリケーションを引き出している。

  • 市場の効率性と変動性:運用委託内容の厳格化により、運用機関サイドで、長期的な視野で資産価格を評価するインセンティブが低下している可能性がある。しかし同時に、運用対象資産の拡大や、最終投資家自身による戦略的資産配分の策定などは、こうしたインセンティブを高める方向に作用する。これら2つの効果が相殺し合う結果、資産運用の機関化が、市場の効率性の低下と変動性の上昇をもたらし、市場価格をファンダメンタルズから大幅に乖離させているという仮説を支持するには至っていない。
  • 市場の流動性:理論的には、資産運用業における近年の構造変化は、機関投資家行動による市場流動性供給を制約する方向に働き得るものの、そうした効果を立証するには至らなかった。むしろ、主要なベンチマーク・インデックスに含まれる金融商品の流動性は高まる傾向にある。
  • リスク管理:最終投資家自らが意思決定を行い、リスクをとるといった構造変化は、リスク移転型・利回り保証型の金融商品に対する需要を高めている可能性が高い。これにより、運用機関には、組織内部および顧客との情報交換の緊密化とリスク管理体制の充実が求められる。

政策的インプリケーション

 以上の調査結果から得られる政策的インプリケーションは、以下のとおりである。第一に、運用機関が最終投資家に高度に標準化された運用商品と投資戦略を提供するようになる中で、こうした構造変化が金融市場の機能を阻害しないようにする必要がある。従って、運用機関の行動の多様性を確保するうえで、いかに最終投資家に幅広い運用商品や投資戦略を提供していくのかという視点が重要と考えられる。これは、他方で、最終投資家が、投資戦略自体や運用機関による実行が適切になされているのかについて、十分な情報を得たうえで判断できるような環境整備の重要性を示している。

第二に、以下の4点について、政策的提言が行われた。

  • リスク管理と情報公開の強化:上記のような構造変化は、最終投資家と運用機関の双方において、リスク管理強化の必要性を高めると予想される。同時に、最終投資家がより多くのリスクを負担するようになったことから、運用機関は、運用商品に関する詳細かつ正確な情報を提供する必要が生じる。
  • 利益相反の認識:利益相反の可能性は、金融資産の運用委託─受託過程に常に内在するものである。情報開示や競争的な環境は、利益相反を生じさせる可能性を低下させるのに役立つため、今後は、投資コンサルタント、インデックスの提供者、格付会社などを巡るインセンティブ構造の重要性は高まるだろう。
  • 円滑な市場参入の確保:市場の効率性と流動性を維持するためには、特に、市場価格のミスアライメントにより生じる超過収益機会を活用する市場参加者の参入を促進する環境を維持していくことが必要である。
  • 規制のプラス面・マイナス面双方の認識:規制や会計ルールは、市場の効率性やダイナミクスに影響を与え得る。加えて、規制は、運用担当者の投資行動の制約を通じて市場の発展を阻害するおそれがある。つまり、規制の導入は、投資家保護といった金融市場に合理的な規制を課すことと、金融市場参加者にコストを課すことの間で、トレード・オフの関係を内在することが多い。従って、より厳格な規制を課す場合には、こうしたトレード・オフの関係に留意する必要があり、また、既存の規制は、この観点から見直されるべきかもしれない。

以上