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エマージング諸国の金融セクター向けの直接投資

2004年 3月30日
国際決済銀行・グローバル金融システム委員会

日本銀行から

以下には、報告書要旨の抄訳を掲載しています。報告書の全文は国際決済銀行(BIS)のウェブサイト(http://www.bis.org/(外部サイトへのリンク))から入手できます。

日本銀行仮訳

 エマージング諸国の金融セクターに対する海外からの直接投資は、1990年代に急増した。2000年以降も引続き投資が続いているが、2002年のアルゼンチンにおける経済危機の発生と、国際的な企業買収活動の減速もあって、そのテンポはやや落ちている。金融セクター向けの投資の大半は銀行を対象としたものである。現在、中南米や東欧では、銀行資産全体に占める外資系の銀行のシェアが過半を占めている国もある。一方、アジアでは、外資系の銀行のシェアは相対的に低いものの、最近ではある程度の規模には達している。

 金融セクター向けの直接投資は、多くのエマージング諸国における金融自由化や資本取引の自由化などの改革によって後押しされた。金融業におけるグローバル化の進展や企業統合の活発化という大きな潮流の一部という側面もある。さらに、国際的に活動を行っている銀行においては、既存の市場における競争が厳しさを増していることを背景に、新たな成長分野に進出する動きが強まっており、潜在的魅力を秘めたエマージング市場への参入手段として直接投資の利用が活発化したと考えられる。

 エマージング諸国に進出した多くの金融機関は、リスク調整後の収益率を重視しており、目標実現のために様々な経営戦略が採用されている。例えば、現地におけるリーテイル・バンキングや証券ビジネスへの参入などがあげられる。多くの場合、顧客との関係構築と良好な評判の確立が、企業価値の重要な源泉となっている。それだけに、そうした銀行がある国から撤退する場合、そのコストは大きくなりがちである。

 エマージング諸国での業務に伴うリスクの管理は、金融インフラの整備などに伴い、以前よりは容易になっている。もっとも、1998年のロシア危機や、2002年のアルゼンチン危機といった出来事を経験して、金融機関は「確率は低いが潜在的なコストが高い」リスクに対して、より敏感になっている。現在では、多くの先進国の金融機関が、カントリー・リスクの個別管理、国別のストレス・テスト実施といったよりきめ細かな管理手法を採用している。また、前述のような撤退コストの高さも勘案して、リスク管理面ではカントリー・リスクへの対応手段の充実が図られるようになっている。具体的な対応手段としては、現地通貨建ての資金調達を増やすこと、厳しい状況に備えて予め潜在的な資金源を確保しておくこと、などがあげられる。

 金融セクター向けの直接投資がもたらす重要かつ持続的な便益として、現地の銀行セクターにおける競争の促進を通じた、金融市場における効率性の向上が指摘できる。また、外資参入に伴う商品・ビジネス手法における技術移転などもメリットとなりうる。このほか、貸出慣行などビジネスのあり方を改めて考え直す機会を提供し、その結果として、リスク管理、価格形成、市場全体としての信用配分機能などの面において、改善をもたらす契機となる可能性もある。

 さらに、外資系の銀行の存在は、投資受け入れ国における金融システムの安定性の向上につながりうる。金融セクターが損傷している国においては、外資による直接投資はその修復に即効性があり、加えて国際収支面でも貢献しうる。また、外資系の銀行は自己資本の厚み、多様な資産構成、親銀行の資金力へのアクセスなどの特性ゆえに、受け入れ国の銀行部門が、当該国の景気循環や金融市場情勢に大きく左右される度合いを薄める効果がありうる。さらに、計量的なリスク評価をベースとした与信審査の推進が貸出構造の偏りの軽減につながりうること、金融情勢の悪化時に迅速な損失認識と処理がもたらされうること、地場金融機関に代わる預金先の存在が危機時における資金の国外流出の歯止めとなりうること、といったメリットもあると考えられる。

 もっとも、上述のような便益がありえる一方で、銀行資産の過半を外資系が占める国々などを中心に、いくつかの懸念も聞かれている。

 一つの懸念は、外資による買収の結果、もともとの銀行における重要な意思決定機能(経営戦略の策定やリスク管理などを含む)が親銀行にシフトすることに伴う影響である。こうした変化は、現地の監督当局が入手可能な情報の減少や、経営陣へのアクセスを妨げることにつながる可能性がある。特に、親銀行の経営上の決定が、投資受け入れ国の金融市場に著しい影響を及ぼすようなケースでは大きな論点になりうる。例えば、買収された銀行が地元の株式市場への上場を廃止した場合、市場を通じたシグナルや情報が失われることは、親銀行による情報開示だけでは補い切れない可能性がある。

 そのほかの懸念として、外資のプレゼンスが大きい国の金融システムは、自国以外の経済や金融面でのショックが波及しやすくなる可能性があることが挙げられる。この点がどの程度のリスクになりうるかは、投資受け入れ国や各銀行固有の事情、例えば、金融システムの構造、経営戦略、経営手法、進出の法的形態などに大きく依存すると考えられる。

 こうした懸念の一部は、金融監督面での手だてにより、対応が可能と考えられる。例えば、投資受け入れ国の監督当局は、現地法人に対して、情報開示の義務を課すことができる(支店についても原則として同様と考えられる)。監督当局は、こうした適切なディスクロージャーを求めることに加え、国際的な監督当局間の情報共有の枠組みを一層活用することを目指すべきであろう。とりわけ、(1)エマージング諸国への業務拡大に伴うリスクの複雑化、(2)国際金融市場における競争の強まり、(3)株主・債券保有者からの潜在的情報ニーズの存在、といった環境変化を考慮に入れると、投資受け入れ国と母国の監督当局間の協力関係を一段と密接なものとすることは、お互いにとって大きな利益があると考えられる。

 金融監督当局間の情報共有は、金融経済情勢が厳しい状況下では、とりわけ重要である。こうした状況では、投資受け入れ国から母国という方向の情報のフローが重要になることが多いと考えられる。もっとも、母国監督当局も、親銀行が困難に直面した場合には、投資受け入れ国側の監督当局に情報ニーズがあることを認識する必要がある。同様に、関係する中央銀行も、親銀行における問題が、エマージング諸国内の子会社・支店に影響があると考えられる場合には、密接に接触すべきである。

 外資系の銀行が従来と異なる経営戦略を持ち込むことは、現地監督当局に新たな課題を課すことになる場合があるが、これを監督スキルを向上させるための契機ととらえることもできよう。そうした観点からは、先進国とエマージング諸国の監督当局が監督スキルの向上のために協力することが重要である。例えば、幾つかの市場では、外資系の銀行は、消費者向けローンや外貨建てローンを急激に伸ばしている。監督当局は、こうした貸し出しのリスク管理が適切に行われているかを判断するための適切なツールが必要である。また、金融システムの安定性に責任を有する当局は、金融面での脆弱性を測定するために、追加的な情報や新たな手法が必要となるかも知れない。こうしたニーズを満たす方法としては、国際的な情報共有、研修プログラム、その他の技術支援などの利用が考えられる。

 エマージング諸国における金融セクターの改革を進める上では、これまで様々な調整コストも伴ったが、1990年代における金融セクター向けの直接投資の急増を通じて明らかな便益ももたらされた。今後の政策運営を考えるに際しては、金融システムにおける競争を促進し、こうした便益を最大化することに焦点を当てるべきである。

 投資主体にとってのカントリー・リスクの重要性を勘案すると、カントリー・リスクの削減につながるような手だては極めて有益と考えられる。そうした観点からは、やはり投資受け入れ国における安定的な経済成長に対するコミットメントが不可欠である。さらに、財産権の保護や内外金融機関の平等待遇、会計制度や企業買収・倒産法制の整備、ディスクロージャの充実なども重要である。また、発展途上にある国においては、公的セクターにより提供された政治リスク保険などを通じた金融セクター直接投資の支援も、有益な可能性がある。

以上