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BISグローバル金融システム委員会報告書「グローバル金融市場における住宅金融」の公表について

2006年 1月18日
日本銀行

 BISグローバル金融システム委員会(Committee on the Global Financial System <CGFS>)では、報告書「グローバル金融市場における住宅金融(原題:Housing finance in the global financial market)」を公表しました。以下には、報告書のサマリーの日本銀行仮訳を掲載しています。

 なお、プレス・リリースおよび報告書の原文(英語)はBISのウェブ・サイト(アドレス:www.bis.org(外部サイトへのリンク))に掲載されておりますので、併せてご参照ください。

日本銀行仮訳

グローバル金融市場における住宅金融

要旨

 グローバル金融システム委員会(CGFS)は、金融の安定に対するリスクを監視するという役割の一環として、2004年11月の会合において、住宅金融システムに関する最近の変化を調査する作業部会(WG)を設置した。議長は、スウェーデン中銀のLars Nybergである。

 世界の金融市場における住宅金融の最近の動向 —— 家計債務の増加、住宅価格の上昇など —— は、多くの中央銀行にとって政策運営上の注目点であり、おそらくは金融政策を決定する上での一要素となってきている。しかしながら、このレポートはそうした点に焦点を当てるものではない。当WGは、主たる目的を、住宅金融の需給に影響を与える重要な要因を分析することに置いた。当レポートは、このWGの主な分析結果を取り纏めたものであり、主に各国の住宅金融システムの変容に寄与している類似点、相違点を整理している。

何が起こっているのか?

 WGが注目したのは、以下にみるような動きである。まず供給面では、—— 殆どの国で住宅金融の貸し手となっているのは依然として多くが国内金融機関であるが —— loan-to-value ratioの上昇、融資規制の緩和、融資契約(住宅ローン商品)の多様化、住宅ローンの証券化などによる資金調達の資本市場依存の高まり、といった動きが多くの国に共通してみられている。また、こうした動きによって、借入がより低コストで容易になり、新たなカテゴリーの家計が住宅市場に参入できるようになっている。とりわけ、sub-prime lendingは、これが許容されている国(米、英、豪、加)においては急増している。需要面では、多くの国で家計がリスクの選好を高めており、とりわけ変動金利借入に伴う金利リスクを取るようになっている。

 このような動きは、家計債務の増加に関係している。住宅価格は殆どの先進国、エマージング諸国で上昇しており、多くの国で一人あたりの住宅債務と住宅価格が過去最高となっている。しかしながら、住宅債務が大幅に増加しているにも拘らず、債務返済コストは緩やかな増加に止まるか、一部の国ではむしろ減少している。そしてこのことは、各国の低金利が家計の借入増加を促しているとの見方とも整合的である。

 以上のような住宅金融部門にみられる変容は、多くの国に共通して明らかになってきているが、国による違い、とりわけこうした変容が生じる速さや程度の違いも大きい。このため、幾つかの国では家計債務が急速に増加しているのに対し、別の国々では緩やかにしか増加していない。

何故住宅金融の変容は起こっているのか?

 以上のような住宅金融の変化をもたらしている共通の要因としては、次の4つが挙げられる。

 第一に、マクロ経済環境、とりわけインフレ率の水準・ボラティリティの低さに関連した実質・名目の低金利、世界的な高く安定的な経済成長、国際的なクロス・ボーダー投資の増加などが、住宅金融に対する需要を着実に高めた。

 第二に、情報技術の発展と金融革新が、住宅金融システムの効率性を高め、住宅金融商品の規模の経済性を拡大させ、貸し手のコスト削減 —— 国によっては借り手のコスト削減も —— をもたらした。

 第三に、金融の自由化や規制緩和が進み、融資規制が緩和・撤廃された。規制の枠組みは、「厳格な統制」から、市場規律・監視・リスクベースの自己資本基準などによる「効率性向上」にシフトした。これらの変化と、それに伴う資本市場のグローバル化がモーゲージ流通市場の力強い成長のきっかけとなった。

 第四に、政府の政策、とくに住宅政策も、全般的に住宅金融への需給双方に影響する重要な要因となっている。多くの国で政府は徐々に住宅市場への関与を削減してきている。しかし、各国政府の政策は、家計債務の増加や住宅価格上昇の国による違いをもたらす、少なくとも一因となっている。例えば、幾つかの国では土地の利用規制や都市計画に関する政策が、一定の需要増加に対して住宅価格の上昇率を高めている可能性がある。加えて、税制や担保法制が、モーゲージや住宅への需給、ひいては住宅価格にも強い影響を及ぼしている。

住宅金融市場の参加者にとっての含意は?

 世界の住宅金融システムにおいて近年みられる幾つかの動向は、住宅金融市場の機能を高め、金融とマクロ経済の安定性を高めてきた。また、リスクに見合った貸出金利やクレジット・スコアリングは、融資におけるより効率的な価格形成、資源配分を可能にしてきた。さらに証券化は、金融市場の専門化傾向を高め、世界の金融システムにおけるリスクの配分やプライシングを向上させた。証券化はまた、投資家に質の高い分散投資先を提供している。

 近年の多くの国における家計債務の急増や住宅価格の上昇は、低金利と借入へのアクセスが改善した時期に生じている。こうした動向を受けて、中央銀行や格付機関などは、金融システムの安定性に対する新たなリスクが高まってきているのかを見極めようとしている。しかし、各国中央銀行その他の当局が行ってきたストレステストによれば、家計債務の水準は全般に返済可能なものであり、借り手の大半は住宅価格の下落と金利上昇の影響を吸収できる。加えて、金融機関、とくに銀行は、住宅金融の資産劣化が相当程度進んでも十分耐え得る資本基盤を有している。

 しかしながら、もう一方で明らかなことは、新しい、より複雑なタイプの住宅融資契約が家計の選択肢を増やし、潜在的には厚生を高めている一方で、一部の家計にとってはそれまで手の出なかった住宅に手を伸ばすことを可能にし、おそらくは住宅市場の下降局面におけるリスクを高めていることである。sub-prime lendingの急増も、貸倒れが想定以上に増えた場合には潜在的なリスク要因となり得る。

 金融機関にとっては、家計債務が増加し、新しいタイプの住宅ローンが導入されることに伴って慎重な信用リスク、オペレーショナルリスク、評判リスクの管理が必要となる。さらに、資金調達における資本市場への依存度の高まりは、貸し手にとっては資金調達力が高まる反面で、金融市場のボラティリティに直接晒されることとなる。

 投資家にとっては、貸し手が資本市場調達への依存度を高めることにより、モーゲージ債という潜在的には非常に大きなアセットクラスへのアクセスが提供される。このことは、リスクのプライシングが健全になされていれば、分散投資とリスク配分の機会向上にも繋がるものである。より広範な視点からみると、住宅金融にリンクした新たなアセットクラスの登場は、グローバルな金融市場と各国国内の住宅政策とのリンケージを強めるかも知れない。あり得べき含意のひとつは、このことが市場のボラティリティの新たな一因となるかも知れないという点である。

政策的な論点や推奨事項とは?

 中央銀行にとっての重要な政策的論点、推奨事項としては、以下のような点が考えられる。

  • 家計は、住宅ローン契約の内容、或いは金利その他の変化により彼らの返済額がどのように変わるのかについて、完全には理解していないかも知れない。とくに、negative amortization loansを始めとする新しいタイプの住宅ローン契約は、より多くの、そしてより複雑なリスクを家計に負わせることになる。これは、リスクが家計にシフトするという世界の金融市場にみられるトレンドのひとつである。
  • 変動金利住宅ローンその他の新たな住宅ローン商品の増加によって、家計は金利変動の影響をより受けやすくなっている。
  • 貸し手、投資家、規制当局は、旧来型のリスク管理システム —— 大半の借り手が信用度が高く固定金利ローンを利用していた時期には有効であった仕組み —— が、信用度の劣る借り手が大幅に増え、変動金利物その他のより複雑な商品が一般的となった現在の環境の下では、もはや適切ではないかも知れない、という点に留意が必要である。
  • 中央銀行などの政策当局は、幅広い範囲の非集計(個別)データ、とくにより脆弱な家計グループに関するデータを入手できるようにすべきである。さらに政策当局は、良質の住宅価格データを確保しておく必要がある。
  • 中央銀行は、自らストレステストの実施を検討するとともに、他の当局や市場参加者にストレステストの実施を促すことができるはずである。ストレステストでは、家計の脆弱性、住宅価格、住宅ローンの商品多様性や資本市場調達の増加に伴う流動性リスクなどに焦点を当てることが望ましい。
  • グローバル化のトレンド、とりわけ投資家層のグローバル化に伴って、より国際的な情報交換が必要になっている。政策当局と市場参加者にとって重要な課題は、住宅金融のリスクを最終的に誰が負っており、リスクの集中が生じているのかどうか、という点を見極めることである。
  • 家計債務や住宅価格の近年の動向、住宅を巡る制度などは国によって異なっている。公共政策の違いがしばしばそうした国による違いをもたらす主因のひとつとなっている点を理解することが重要である。こうしたなかで、政策当局にとって大事な点は、規制や税制、補助金などが如何に住宅市場に影響するのか、さらには、それが、グローバルな金融市場との相互作用も含めて、住宅金融システムを通じて如何に実体経済に影響するのか、ということである。

以上