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平成14年度の考査の実施方針等について

2002年4月8日
日本銀行

1.平成13年度を振り返って

平成13年度においては、銀行31先、信用金庫78先、その他(外国銀行、証券会社等)11先、合計120先に対して考査を実施した。考査の標準的な立入り期間は概ね2~3週間としたが、同年度は、経営状況に特段の問題が見受けられず考査周期が長期化している信用金庫を対象に、期間を1週間強に短縮した考査を19先実施した。これは、検証の焦点を経営体力、信用リスク、市場リスクに絞ることにより、考査の効率的な運営を図ることを狙いとしたものである。この結果、実施先数の合計は前年度を上回った(下表参照)。

このほか、金融業務のIT(情報通信技術)への依存度の高まり等を踏まえ、システムの安全性や安定性の確認に焦点を当てた考査を3先実施した。

なお、考査実施に際しては、考査先の事務負担軽減の観点から、内部信用格付の定着度合いを勘案し、可能な限り資産査定対象の抽出方法を信用リスク量ベースでのカバー率を重視したものに見直し、実効性を確保しつつ査定件数の削減を図った。

考査実施先数の実績 (実施先数)
  11年度 12年度 13年度
銀行 41 31 31
信用金庫 30 59 78
その他(外国銀行、証券会社等) 37 21 11
合計 108 111 120

以上の考査を踏まえた特徴点および留意点は、以下のとおりである。

  1. (1)多くの金融機関において、貸出資産の劣化に歯止めがかかっておらず、重い不良債権処理負担が続いている。このため、全体として、期間収益の蓄積により経営体力の充実・強化を実現することはなお難しい状況にある。
  2. (2)信用リスク管理面では、自己査定への対応が中小金融機関を含め概ね定着してきているほか、内部信用格付をはじめとするリスクコントロールの枠組みの整備も相応に進んでいる。一方、与信先の実態把握の充実や財務分析の精緻化、内部信用格付のタイムリーな見直しと経営管理面での活用、および担保不動産の適切な評価等の点で、引続き改善が必要である事例が見受けられた。
  3. (3)大手行では、市場リスク管理の体制および運用両面での高度化が進展しており、政策投資株式についてもリスク削減を急いでいる。また、地域金融機関でも、リスク指標の計測・モニタリング体制の構築に取組んでいる。もっとも、地域金融機関については、貸出低迷や超低金利の下で有価証券投資を積極化する動きの中に、リスク評価が必ずしも十分でない投資事例も窺われ、リスクの解析や内部的な牽制機能の確保など、運用面での一段の整備が重要であることが確認された。
  4. (4)大手金融グループ等での経営統合の動きや金融業務におけるITへの依存度の高まりに応じて、金融機関においては、システムの安全性・安定性の確保が重視されてきている。ただし、システム部門等におけるアウトソーシングや共同化が進展する中で、これらに対応した的確なリスク管理体制の整備の面で課題が残されている。また、決済リスクの面では、日本銀行当座預金決済等のRTGS(即時グロス決済)化後における業務対応上の留意点に関して、金融機関の認識が深まりつつあることが確認された。

2.平成14年度考査における重点事項

(基本的視点)

わが国の金融機関では、現状なお資産内容の改善が捗々しくない中にあって、各種リスクを適切に管理しつつそれを吸収し得るような収益基盤の強化を図ることが、重要な経営課題である。また、経営統合や新たな業務展開に伴いリスクの所在・態様が変化し、多様化していくものと考えられる。このような中で、本年度は、預金等の全額保護の特例期間終了(注)(いわゆるペイオフ解禁)に伴い、預金者や市場参加者からの信認の確保が従来にも増して重要となる。

同時に、日本銀行としても、万一、特定の金融機関に経営上重大な問題が生じた場合であっても、これが金融システム全体の動揺に繋がらないように適時適切な判断と対応が求められている。

  • (注)ただし、普通預金、当座預金、別段預金については、平成15年3月末まで全額保護が継続される。

こうした現状認識の下で、平成14年度の考査では、以下の点を基本的視点において実施していきたい。

  1. (1)金融機関が、自らの経営体力、資産内容の実態とそれを踏まえた償却・引当の必要性、および将来の収益力強化に向けての展望について適切に認識し、それぞれの経営課題について的確な対応を行っているかを確認する。
  2. (2)金融機関が、多様化、複雑化する各種リスクに対応した機動的な管理体制の整備・拡充やその実効性向上に努めているか確認する。特に、経営統合等の経営構造の改革を行っている金融グループについては、こうした改革を反映したリスク管理体制の整備状況や機能度合い等について実態を確認するほか、システムの統合・共同化に際し不測の事態を招かないような適切な対策が採られているか、を調査する。
  3. (3)金融機関間の取引や決済の連鎖の実態、およびこれらを通じて波及するリスクの所在をできるだけ正確に把握し、金融システムの一角に何らかのショックが生じた際にも、日本銀行が、その金融市場全体への影響等を想定し流動性の面で適時適切に対応できるように、関連する情報を収集する。

(経営体力・リスクカテゴリー毎の重点項目)

(1)経営体力

不良債権の現状を踏まえた現時点での自己資本の充実度合いや、収益力の実態について検証する。その際、自己査定における債務者実態の的確な把握や、それを反映した償却・引当の十分性について入念に検証していく。併せて、大手行等においては、償却・引当の十分性を多角的に検証する観点から、後述の信用リスク計量化の手法等を活用した分析も行う。

加えて、金融機関における収益力強化のための諸施策(信用コスト控除後の資産収益率の改善策、業務のリスク・リターンに応じた資源配分の再構築計画等)についても、将来の経営安定性やリスク管理の観点を踏まえ、議論を深めていくこととする。

(2)信用リスク

金融機関の業務実態や信用リスクの態様を踏まえ、リスクの捉え方やリスク管理のあり方について、引続き議論を深めていく。

まず、与信ポートフォリオ全体の管理については、必要に応じ内部信用格付を用いた信用コストの把握や貸出債権のキャッシュフロー分析等、信用リスク計量化の手法に着目した調査を行う。その際、こうしたリスク管理の枠組みの有効性や、その与信業務運営や債権管理の面での活用状況を検証のポイントとする。

また、個々の貸出債権管理については、業況の悪化した債務者に対する再建に向けた経営指導や保全の強化等の対応が、貸出債権の質的改善に着実に繋がる実効性のあるものになっているか、を重点的に調査するほか、担保不動産の評価額の算出が、実態を踏まえて適切になされているか、を入念に検証する。

このほか、信用リスク統括部署を含めた牽制機能に関する調査を通じて、管理体制の強化に向けた取組みを求めていく。

(3)市場リスク

貸出低迷や超低金利の下で、地域金融機関を中心に有価証券投資を積極化する動きがみられており、市場リスク管理の実態やその実効性について引続き注意深く検証していく必要がある。特に、高利回り確保を目的に、複雑な仕組みの債券に投資する動きが目立っており、ポートフォリオ管理が、こうした債券が有する複雑なリスクを的確に分析し運用できるような仕組みに整備されているか、また、運用執行部署に対して経営陣の関与や市場リスク統括部署の牽制機能が実効性を有しているか、等を検証する。さらに、預金・貸出に係る運用・調達の期間のミスマッチから生じる金利リスクについて、リスクの捉え方、モニタリングおよびコントロール等の妥当性について検証し、必要に応じて問題点を注意喚起していく。なお、大手行においては政策投資株式リスクの削減が急務であるとの認識が高まっており、その進捗状況やリスク認識についても確認していく。

こうした中で、市場取引を通じたリスクの拡散に備えるとの観点から、現状の市場参加者の業務運営や市場取引慣行等を前提とした場合、金融システムの一角に生じるショックがどのような波及効果を及ぼすかについても、必要に応じて調査を行い、その情報を市場の安定性確保に役立てていきたい。

(4)決済・流動性リスク

預金等の全額保護の特例期間終了に伴い、預金者や市場参加者の行動により資金繰り運営が影響を受ける度合いが従来に比べ高まってきている。こうした状況を踏まえ、日常的な流動性リスク管理の適切性および資金繰り逼迫時を想定した緊急時対応についても、引続き確認していく。

また、円滑かつ安定的な決済の運行を確保すべく、引続き決済実務面の課題について議論を深める。具体的には、日本銀行当座預金決済等のRTGS化後における資金・証券残高管理の複雑化やシステム依存度の高まりを踏まえ、決済事務に対して高い堅確性を求めていく。

さらに、各種システムダウンを想定した緊急時の対応策について、整備状況を確認する。特に、電算センターやオフィス等の機能が失われた場合(拠点被災時)における決済業務の継続計画に焦点を当てることとする。

なお、近年、民間決済システムにおいて、支払不能参加者が発生した場合でも当日の決済が円滑に実行されるための各種ルールが整備されてきているが、こうしたルールに則した金融機関の事務対応状況についても確認していく。

このほか、金融機関間の資金・証券決済の状況(決済プロファイル)等についても、必要に応じて調査していく。

(5)オペレーショナル・リスク

金融機関が、経営統合や業務提携等を梃子に一段の経営効率化を目指す中で、人員配置のスリム化、事務処理の集中化およびアウトソーシングの動きが一段と加速している。こうした状況の下で、集中化やアウトソーシングの対象事務を含め、事務フローに内在するリスクが適切に把握・管理されているか、相互牽制が十分に機能しているか、といった点を重点的に調査する。

システム関連については、情報セキュリティの侵害やシステムの障害が適切な金融サービスの提供を妨げる惧れがないか、システムが提供する機能・情報が業務要件に照らして的確か、といったシステムの安全性、安定性、信頼性について引続き確認していく。特に、金融機関の経営統合や業務提携に伴うシステムの統合・共同化に際し、不測の事態を招かないよう適切な対策が採られているか、IT革新の進展に伴いシステム基盤の変化に対応したリスク管理が適切に行われているか、に重点をおいて調査する。

オペレーショナル・リスクの複雑化、経営の効率化、バーゼル合意見直し作業等への対応を背景に、同リスクの計量化等による管理技術の高度化や経営管理への活用の試みが広がりつつあり、今後の望ましいあり方を中心に引続き議論を深めていく。

(6)統合的リスク管理等

多様なリスクを共通の見方で統合的に捉えた上で、こうしたリスクをカバーするような資本を業務部門別に配賦するといった内部管理体制が、大手行中心に一般化しつつあるほか、一部の地域金融機関でもこうした体制の導入に向けた取組みがみられ始めている。もっとも、対象とするリスクの範囲や、リスクの計量化手法、適切な業務運営上のインセンティブ付けに繋がる資本配賦・収益評価の枠組みなど、検討を要する課題は少なくない。こうした観点から、管理技術の高度化や経営管理上の活用について、引続き議論を深めていきたい。

大手行では、経営構造の改革を反映したリスク管理体制の整備状況や実務との整合性、新体制の機能状況などについて、実態を把握する。

なお、金融機関における内部監査の充実・高度化へ向けた取組みを後押しする観点から、内部監査に対する経営陣の関与度合い、リスクの所在に応じた監査手法の導入、部署・業務毎のリスクに応じた監査頻度・監査内容の調整、等を含む内部監査体制の整備状況を重点的に確認するとともに、改善の方向性について議論を深めていく。

(考査運営面での対応)

考査運営面においては、引続き厳正な考査を心掛けるとともに、考査結果に対し考査先からも十分納得が得られるよう適切に対応し、日本銀行考査に対する信頼の維持・向上に努めていきたい。この点、従来から、考査期間中に考査先および会計監査人との間で綿密な意見交換を行うとともに、考査終了後のモニタリングを通じ考査先からの意見聴取にも努めてきたところである。こうした取組みに加えて、平成14年度より、考査の場において考査先との間で見解の相違が生じた場合に、考査先が、立入り終了後に考査局長に意見を提出できる仕組み(注)を新たに導入することとした。

また、引続き考査先の事務負担の軽減や考査の効率的な運営にも十分配慮していきたい。このため、特定のリスクに関する実態把握が必要と判断される場合、調査対象を絞った考査の積極活用を継続していく方針である。さらに、考査実施先の選定に当っては、考査先の有するリスクの大きさ、課題の所在等に応じて、考査の周期および内容や期間を弾力的に判断していくこととする。

  • (注)考査先は、立入り終了後3営業日以内に、立入り終了時点で考査の内容に関して考査役と見解の相違が明らかとなった事項について、疎明資料および会計監査人の意見書等を添付の上、書面により意見を考査局長宛に提出できることとする。

以上