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ディスクロージャー強化のための共同ワーキング・グループ報告書

2001年 4月26日
バーゼル銀行監督委員会
グローバル金融システム委員会
保険監督者国際機構
証券監督者国際機構

日本銀行から

 報告書の全文は、こちら (bis0104b.pdf 152KB) から入手できます。

日本銀行仮訳

要旨と提言

 本報告書は金融機関(financial intermediary)のパブリック・ディスクロージャーの改善に向けた提言である。この提言はバーゼル銀行監督委員会(BCBS)、グローバル金融システム委員会(CGFS)、保険監督者国際機構(IAIS)、証券監督者国際機構(IOSCO)(以下、「親委員会」)によって設置された共同ワーキング・グループ(Multidisciplinary Working Group、以下MWG)が行うもので、各親委員会にその実現に向けた検討を要請するものである。

 ディスクロージャーに関するMWGの提言は、開示される項目によって次の三つのカテゴリーに分類される。第一に、有意なレベルの金融リスクに直面している金融機関が、株主、債権者および取引先に対して定期的に報告し、開示「すべき」と考えられる具体的な項目である。第二に、情報として価値はあるものの、費用対効果の観点や具体的な開示方法についてさらなる検討を要する項目である。これらの項目にかかる問題点は早急に解決され得ると考えられる。第三に、定量的な情報が現在のディスクロージャーに欠けている点を埋めると考えられるものの、実際に開示するにあたってはリスク評価のための概念・方法論の充実が求められる項目である。最後の二つについては、当局間の協力が望まれるとともに民間部門の適切な努力も必要である。次に各々の提言について要約した後、本文で詳述する。

 市場規律が金融市場の安定性維持の上で果たしている重要な役割について、世界の規制・監督当局や中央銀行の間で関心がますます高まっている。こうした中、市場規律を強化するために金融機関によるリスクの開示状況を改善する方法を設置母体である親委員会に提言することを目的として、1999年6月、MWGが設立された。MWGは、9か国44先の多様な業態の民間金融機関の協力を得て、2000年第2四半期にパイロット・スタディを行った。同スタディでは、幅広い金融リスクに関する非公表のデータが集められた。このパイロット・スタディのデータは、MWGが参加金融機関とディスクロージャーの考え方に関する実態に基づいた建設的な議論を行う上で手助けとなり、提言の作成にも役立った。参加金融機関との意見交換や他のいくつかの監督当局の協力は非常に有益であった。ただし、報告書の結論と提言の責任はMWGのみに帰属するものである。

 金融分野のディスクロージャー慣行を改善するための具体的な提言を行う上で、MWGは次の三つの大きな結論に達した。

 第一に、企業が抱える金融リスクの程度や特性、および当該企業のリスク管理手法の有効性に関して、一段と有意義な情報を開示していくためには、定量的なディスクロージャーと定性的なディスクロージャーのバランスをとることが必要である。この点について意見の不一致は生じないものの、如何にバランスをとっていくかについて議論になる。

 第二に、ディスクロージャーは企業のリスク管理手法と整合的であるべきである。MWGが取り上げたいくつかのリスク要素では有意義な比較可能性を確保することができないが、比較可能性を確保できない場合には、当該企業がリスクを評価・管理する際に使用している内部のパラメーターやエクスポージャーの分類に従って開示項目が決められるべきである。比較可能性の確保は重要な目的であるとはいえ、常に可能であるとは限らないと考えるべきである。

 第三に、企業のリスク・プロファイルをより有意義に判断するためには、エクスポージャーの期末値だけではなく、期中値の情報(特に最大値、最小値、メディアン)が重要である。いくつかの分野では前進がみられるものの、現在のディスクロージャーの多くは依然として期末値に依存しており、このため債権者や投資家に提供される情報を取り繕うこと(「お化粧」)が可能になっている。

金融リスクの望ましいディスクロージャー

 MWGの提言における金融機関とは、銀行、証券会社、保険会社およびレバレッジの高い投資を行うファンド(ヘッジファンド)を指している。第5章および付属書Iで詳述するように、金融機関は規制のあるなしにかかわらず、次に掲げる定量的な情報を(有意な)リスクに対するエクスポージャーが最もよく分かるように定期的に開示すべきである(その方法は金融機関の判断に任せられる)。

  1. トレーディングのように積極的に運用され、あるいは、時価評価されているエクスポージャーについては、(1)ポートフォリオの合計値、リスク・資産毎の内訳のVaRの期中最大値、最小値、メディアンおよび期末値、(2)リスク推計値の実現損益との比較を含む全社的なリスク・リターンの実績値の推移。
  2. 内部的なリスク管理の枠組みで全社的なマーケット・リスクを評価している企業で、かつ、そうしたリスク評価に信頼がおけると考えている企業については、マーケット・リスクに対する全社的に統合されたエクスポージャーの状況(資産・負債およびオン・オフ一体かつ報告期間中の最大値、最小値、メディアンおよび期末値)。
  3. 資金流動性リスクについて、定量的な情報で裏付けられた定性的な説明。
  4. 金融機関の信用リスク・エクスポージャーの特性を反映した分類・定義による信用エクスポージャーの内訳(エクスポージャーの種類、信用度、満期別構成)。

 多くの金融機関では、程度の差こそあれこれらの情報をすでに開示している。これらの情報は、すべての金融機関において定期的なディスクロージャーが技術的に可能であり、リスクが有意な水準にある限り開示すべき項目である。

 第一段階として、MWGは、四つの親委員会が管下の金融機関すべてに対し、上記4項目の株主、債権者、取引先向けの定期的なディスクロージャーをできるだけ早期に始めるよう、働きかけることを要請する。また、MWGは、上記の項目が金融機関の財務状況を把握する上でも重要であることに鑑み、これらの情報を財務諸表とともに開示すべき項目の一部に含めるよう、親委員会が関連団体と協議することを提案する。しかしながら、仮にこの二つの方法で進展がみられず市場規律を十分に強化できない場合には、ディスクロージャーの内容を決定する権限を有する規制・監督当局に対して、管轄下にある金融機関に上記項目のディスクロージャーを義務付ける上で必要な措置を取るように要請する。

 レバレッジの高い投資を行うファンド(ヘッジファンド)は、現在、幅広い財務情報の定期的なディスクロージャーを行っていない。MWGは、親委員会がこうしたファンドに対し、上記項目を定期的に株主、債権者および取引先に開示するように促すべきであると考える。これらのファンドが上記の情報を開示しない場合、規制・監督当局に対して各当局の規制体系の下で可能な範囲で情報開示を義務付けるための検討を要請する。また、これらのファンドと取引関係にある規制下の企業のリスク管理が十分であるかを判断する上で、上記の情報は(有意な場合)取引相手相互間で開示される最低限の情報と考えられるべきである1

  1.  トレーディングを行うカウンターパーティによっては、信用リスク管理のためにこれ以上の情報が求められることもある。より詳しくは、CRMPGの『Improving Counterparty Risk Management Practices』(1999年6月)を参照。

他の開示項目の望ましさ

 リスクの集中度。リスクの集中度が重要であり、すべてのリスク指標の算出において相関関係が明示的あるいは暗黙のうちに前提とされていることを考えると、マーケット・リスク、信用リスクおよび保険リスクにかかるリスクの集中度がもたらす脆弱性をどのようなかたちで計測すべきかについて公的当局が(民間の協力の下)検討を深めるように親委員会に要請する。

 信用リスク。信用力に関する情報については、民間部門から適宜情報を得つつ、親委員会が協調することを要請する。そこでは、(1)損失削減策をどのように信用エクスポージャーや信用格付の表示に反映させるべきか、(2)信用リスク関連のパフォーマンス指標をどのように拡充し、より時宜を得たものにできるか(例えば、エクスポージャーの信用格付間の遷移に関する情報、または信用格付のパフォーマンスに関する情報など)を共同して追求すべきである。

リスク評価の概念と手法の検討

 MWGは、次の二つの分野において民間部門が重要な貢献を行うことができると考えている。すなわち、(1)市場流動性を考慮したリスク評価方法の一段の発展、およびマーケット・リスクを開示する上でそれが如何に利用されるべきかの検討、(2)資金流動性リスクの定量的なディスクロージャーに向けた第一段階として、そのリスク評価に関する一般的な原則の確立である。こうした分野では、パブリック・ディスクロージャーの一段の拡充に向けた概念的フレームワークを発展させる上で、民間の業界団体や市場参加者の委員会が、当局との意見交換を行いつつ共同作業を行うことが有益であろう。

 より長期的には、(1)マーケット・リスクに対する全社的なディスクロージャーのためのベスト・プラクティスを検討し発展させる、(2)全社レベルでのポテンシャル・フューチャー・エクスポージャーの算出方法やディスクロージャーに関する考え方を発展させるために親委員会が民間部門と協力関係を発展させるよう推奨する。

 次の二つの章で本プロジェクトの背景、ディスクロージャーの目的、パイロット・スタディについて述べた後、提言については第4章と第5章で詳述する。付属書Iでは望ましいディスクロージャーの具体例、付属書IIではパイロット・スタディの結果、付属書IIIではパイロット・スタディの参加先、付属書IVでは用語解説を示している。