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国際決済銀行(BIS)アジア諮問会議による「アジア太平洋地域におけるインフレ、対外金融環境およびマクロ金融安定の枠組み」の公表について

2023年10月11日
日本銀行

国際決済銀行(BIS)アジア諮問会議(Asian Consultative Council)は、10月10日、「アジア太平洋地域におけるインフレ、対外金融環境およびマクロ金融安定の枠組み」(原題:Inflation, external financial conditions and macro-financial stability frameworks in Asia-Pacific)と題する報告書を公表しました。

本報告書では、アジア太平洋地域の中央銀行が2022年に直面した様々なショックに対し、各種政策(金融政策、マクロプルーデンス政策、為替政策、資本フロー管理政策)をどのように組み合わせて対応したのかについて、取りまとめています。

詳細につきましては、以下をご覧ください。

報告書要旨(Executive Summary)の抄訳(日本銀行作成)

国際決済銀行(BIS)アジア諮問会議作業部会報告書

「アジア太平洋地域におけるインフレ、対外金融環境およびマクロ金融安定の枠組み」

  • アジア太平洋地域の経済は、2022年中、新型コロナウイルス感染症の余波、サプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争やそれによる国際的な食料・エネルギー価格の上昇、グローバルな金融環境のタイト化等、前例のない様々なショックに直面した。サプライチェーンの混乱が徐々に解消するもとでも、インフレ率は引き続き総じて高水準で推移した。金融面では、多くの経済で、自国通貨安や債券利回りの上昇、不安定な資本フローがみられた。
  • 資源価格の上昇が、生活必需品を輸入に依存している経済において特に顕著なインフレ圧力となったように、2022年中のショックは、各経済の構造的な特徴等によって、その影響に差異がみられた。この間、銀行部門は総じて健全なバランスシートを維持し、外的ショックの国内金融システムへの波及を防いだ。より広くみれば、銀行の自己資本・流動性バッファーの増強、適切な損失引当、外貨準備の蓄積、金融政策の枠組み強化、マクロプルーデンス手段の活用、資本市場の自由化など、近年の改革の取り組みにより、域内経済の頑健性は高まった。一方で、債務が感染症前に比べて増加したことで、政策の対応余地は幾分縮小した。
  • 2022年半ばまでは、域内の多くの経済において、供給要因がインフレ率上昇の最大の要因となっていた一方、年後半には、いくつかの経済で、ペントアップ需要や拡張的な政策等の需要要因がより重要となった。こうしたもとでも、労働市場の柔軟性や労使間の賃金交渉、企業間の価格競争に加え、それまでにインフレ予想のアンカリングが進展していたことが、インフレの二次的波及効果の抑制に寄与した。
  • 為替レートの変動は、3つの経路で域内経済に影響を与えた。第一に、為替変動に対するインフレ率の感応度は総じて低下しているものの、いくつかの経済では、大幅な自国通貨安や非線形的なパススルーにより、インフレ率が大きな影響を受けた。第二に、自国通貨安は、資源輸出国を中心に経済成長を下支えした。第三に、為替レートのボラティリティ上昇は、外貨建て債務や、国外投資家による自国通貨建て債務の保有を通じて金融面から影響を及ぼすが、対外債務の抑制、金融市場の機能維持、適正な外貨準備高の確保、国内投資家層の拡大等を背景として、各当局はこれらの課題に適切に対処することができた。
  • こうした状況を踏まえて、本報告書では、(1)各経済において、2022年中にどのような政策ツールが用いられたか、(2)政策ツールの利用は、感染症前後でどのように変化したか、という2つの視点から、経済政策の評価を行った。
  • 2022年中に用いられた政策ツールをみると、物価の安定については、時期や程度に差はありつつも、引き続き、利上げが主な政策手段となった。また、利上げを補完する政策として、流動性支援策の手仕舞い、為替介入、重要な品目に対する政府の補助金等の政策も利用された。
  • 国内金融システムの安定確保については、マクロプルーデンス政策が引き続き多くの経済において主要な役割を果たした。不動産市場の状況に応じて、住宅関連のマクロプルーデンス政策が引き締められる例や、緩和される例がみられた。感染症拡大初期に講じられた規制緩和や流動性支援策も、マクロプルーデンス政策を補完したが、経済が回復するにつれて縮小される傾向がみられた。
  • 対外的な経済安定については、域内の多くの新興国において、中央銀行による為替介入が、為替相場の過度な変動抑制のための第一の手段として用いられた。いくつかの経済では、為替関連のマクロプルーデンス政策も用いられたが、金融市場の流動性が低い、外貨エクスポージャーのリスクヘッジが十分でない、国外投資家の影響力が大きい、外貨準備が少ないといった経済においては、上記政策が講じられる頻度や程度がより顕著だった。
  • 次に、感染症前後での政策ツールの利用方法の変化をみると、各当局は、複数の政策ツールをどの程度組み合わせて用いるかを、経済状況に応じて変化させてきた。すなわち、感染症以前は、多くの中央銀行において、一つの政策目標に一つの政策ツールを割り当てる色彩が強かった。これに対し、2022年中は、いくつかの中央銀行、特に新興国経済では、補完的な手段をより多く利用し、複数の政策ツールを組み合わせて政策目標の達成に取り組む傾向がみられた。
  • 今次局面の経験から得られた教訓としては、(1)国内債券市場への介入など新たに用いられた政策ツールについては、その有効性を踏まえると、今後は常設的なツールになり得ること、(2)複数の政策ツールの相互作用に関する経験を踏まえ、将来の組み合わせを最適化すること、(3)予防的対応と受動的対応のトレードオフや、新たなデータに応じた柔軟な政策目標変更の必要性について理解が深まったこと、(4)構造改革の重要性といった点が挙げられる。
  • また、マクロ金融安定の枠組みが有効に機能するかどうかを規定する要因として、政策対応のトレードオフ・補完性・制約や、利害関係者とのコミュニケーション、中央銀行と他の政策当局との間の調整の重要性が作業部会メンバーから指摘された。
  • 先行きインフレ率が中央銀行の物価目標に近づき、グローバルな金融環境が安定化すれば、域内の中央銀行は政策を修正し、政策対応余地の回復を図る可能性がある。その過程では、感染症前のポリシーミックスに回帰する中央銀行もあれば、2020から2022年に多様な政策ツールを組み合わせた教訓を基に、感染症前とは異なるポリシーミックスを採用する中央銀行もあると考えられる。いずれにせよ、債務残高の増加等、感染症に起因する変化を考慮すれば、政策の見直しは慎重かつ漸進的に行われる必要がある。