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【概要説明】 通貨及び金融の調節に関する報告書 参議院財政金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 植田 和男
2023年12月7日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について、詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

経済金融情勢

まず、最近の経済金融情勢について、ご説明致します。

わが国経済は、緩やかに回復しています。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっています。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は緩やかに改善しています。こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加しています。雇用・所得環境は緩やかに改善しています。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、緩やかなペースで着実に増加しています。先行きは、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化に加え、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果などにも支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。

物価面をみると、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果などによって、ひと頃に比べればプラス幅を縮小しているものの、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から、足もとは3%程度となっています。先行きについては、来年度にかけて2%を上回る水準で推移したあと、2025年度にはプラス幅が縮小すると予想しています。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、2025年度にかけて、2%の「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくとみています。

先行きのリスク要因をみますと、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い状況です。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があると考えています。この間、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。先行き、グローバルな金融環境のタイト化の影響などには注意が必要ですが、内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有しています。より長期的な金融面のリスクとしては、金融機関収益への下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かう惧れがある一方、利回り追求行動などから、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあります。現時点では、これらのリスクは大きくないと判断していますが、先行きの動向を注視する必要があります。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行としては、現時点では、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っておらず、今後、賃金と物価の好循環が強まっていくか注視していくことが重要と考えています。こうした中、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていく方針です。

また、日本銀行は、10月に、長短金利操作の運用において、柔軟性を高めておくことが適当であるとの判断に基づき、長期金利の上限の目途を1.0%とし、大規模な国債買入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行うことを決定しました。

日本銀行としては、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指して金融政策を運営して参ります。

ありがとうございました。