【概要説明】 通貨及び金融の調節に関する報告書 衆議院財務金融委員会における概要説明
日本銀行総裁 植田 和男
2025年3月26日
はじめに
日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について、詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。
経済金融情勢
まず、最近の経済金融情勢について、ご説明致します。
わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。輸出や鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっています。企業収益が改善傾向にあるもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にあります。雇用・所得環境は緩やかに改善しています。個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にあります。先行きは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けるとみています。
物価面をみると、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、政府によるエネルギー負担緩和策の縮小もあって、足もとは3%程度となっています。先行きについては、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えています。
先行きのリスク要因をみますと、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い状況です。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があると考えています。とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があると考えています。この間、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有していると判断しています。
金融政策運営
次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。
日本銀行は、先週の金融政策決定会合において、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0.5%程度で推移するよう促す」という金融市場調節方針を維持することを決定しました。先行きについては、経済・物価・金融情勢次第ですが、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえますと、「展望レポート」でお示しした経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。なお、国債買入れについては、現在、昨年7月に決定した減額計画に沿って、買入れ額を段階的に減額しています。
今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営して参ります。
ありがとうございました。