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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成12年 7月18日 衆議院大蔵委員会における速水日本銀行総裁報告

2000年 7月18日
日本銀行

[目次]

(はじめに)

 去る6月6日、日本銀行法第54条に基づき、平成11年度下期の金融政策運営にかかる半期報告書を、国会に提出させていただきました。本日は、本報告書につきましてご説明の機会を頂いたことに、あつく御礼申し上げます。はじめに、日本経済の現状に対する認識と金融政策運営についての考え方を述べさせていただきます。

(日本経済の現状)

 日本銀行は、昨年2月にゼロ金利政策という思い切った金融緩和措置を講じました。当時の日本経済は、デフレ・スパイラルの瀬戸際という危機的な状況にありましたが、それから約1年半が経過し、経済情勢は大きく改善してまいりました。

 まず、昨年の夏場以降、輸出がアジアを中心とする世界経済の回復を反映して明確に増加し始めました。また、ゼロ金利政策や金融システム対策を背景に、金融システム不安や企業の資金調達に関する懸念は大きく後退しました。こうしたもとで生産活動は増加を続け、現在では、企業収益や業況感の改善も顕著になってきております。景気の自律的な回復の鍵となります民間需要の動きをみますと、設備投資は明確な増加傾向を辿っています。個人消費は、依然回復感に乏しい展開となっておりますが、消費者マインドが改善傾向にあるほか、賃金・雇用者数の減少傾向に歯止めがかかりつつあるなど、前向きの動きも出始めております。

 こうした情勢を踏まえ、日本銀行では、景気の現状について、「わが国の景気は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している」と判断しています。

(中長期的な課題への取り組み)

 また、日本経済は、これまで直面してきた中長期的な課題についても解決の糸口をつかみ始めており、バブル崩壊後の停滞から脱却するための足場を固めつつあるようにうかがわれます。

 その第1が、産業構造や経済構造の改革です。情報通信分野における技術革新や流通革命の流れは、経済活動を活性化させています。また、最近の設備投資や輸出の伸びには、情報通信やその関連分野が大きく貢献しています。

 第2は、金融システム面での新たな動きです。日本の金融システムは、公的資金の投入や金融機関のリストラ努力などによって安定を回復してきました。その中で、昨年来、大規模な金融再編や事業会社による銀行業への新規参入構想など、グローバルな金融環境の変化を背景に、新たな展開もみられ始めています。

 もっとも、様々な構造的課題がすっかり解決されるためには、まだ時間を要するものと考えられます。その意味で、日本経済に対する重石がとれたわけではなく、ただちに高い成長が実現するといったことは望みにくいかもしれません。しかし、そうした制約のもとでも、民間部門に前向きの循環の力が芽生え始めたことは評価できるものと思います。

(当面の金融政策運営)

 日本銀行は、昨年4月以来、ゼロ金利政策の解除の基準として、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」になることを挙げてまいりました。また、この条件は「民間需要の自律的回復が展望できるようになること」とかなり近い意味であると申し上げてきました。

 昨日の金融政策決定会合では、景気の先行きについて、「海外経済等の外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い」というところまで、判断が前進してまいりました。これを受けて、物価面では、「需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している」と認識され、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつあるということが、大勢の判断となりました。

 一方、留意点も少なくありません。技術革新などを梃子とした経済の活性化は、まだ緒についたばかりです。また、企業のリストラが続く中では、全体的な経済状況の改善の恩恵が、家計に伝わりにくい面があります。昨日の会合でも、雇用・所得環境を含め、情勢判断の最終的なつめに誤りなきを期したいとの意見がありました。また、企業の過剰債務はまだ相当の規模で残っています。企業の過剰債務問題が金融システムや実体経済に及ぼす影響については、これまでも政策委員会で議論を重ねてきており、そうした要素も織り込んだうえで、先行きの経済動向を見通すよう努めております。したがって、今回のいわゆる「そごう問題」についても、その民事再生法の適用申請自体が、経済全体の先行きに大きな悪影響を与えるとは判断していません。しかし、短期的には、市場心理などに与える影響をもう少しみきわめる必要があるとの指摘がなされました。

 以上の点を総合的に検討した結果、昨日の金融政策決定会合では、賛成多数でゼロ金利政策の継続が決定されました。

 ゼロ金利政策については、その効果や副作用を巡り、様々なご意見があることは承知しております。また、大幅に改善している経済情勢と、このような極端な金融緩和政策は整合的ではない、というご指摘もいただいております。今後の金融政策決定会合では、こうした点も念頭において、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったかどうかという基準に則して、適切に判断してまいりたいと考えております。

(おわりに)

 金融政策運営を巡っては、ゼロ金利政策についての評価をはじめ、政策運営の手法や枠組みなども含めて、様々な論点があろうかと存じます。日本銀行でも、現在、金融政策の目的である「物価の安定」の考え方について、政策運営の透明性向上の観点から、総括的な検討に着手しております。

 本日は、私どもの金融政策運営について様々な角度からご意見・ご批判を頂戴するとともに、日本銀行の考え方をできるだけ率直にご説明し、ご理解を賜りたいと存じておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。

以上