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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成15年7月16日、衆議院財務金融委員会における福井日本銀行総裁報告

2003年 7月16日
日本銀行

[目次]

はじめに

 日本銀行は先月、平成14年度下期の「通貨及び金融の調節に関する報告書」を、国会に提出いたしました。今回、日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

 本日は、最近の経済金融情勢や金融政策運営について、日本銀行の考え方を申し述べさせて頂きます。

日本経済の動向

 まず、最近の経済金融情勢について、ご説明申し上げます。

 わが国の経済は、横這い圏内の動きを続けています。個人消費は、厳しい雇用・所得環境のもとで、弱めの動きを続けていますが、設備投資は企業収益の改善を背景に、振れを伴いつつも緩やかな持ち直し傾向にあります。また、輸出は、横這い圏内で推移しております。

 先行きについては、輸出や生産が次第に増加基調に戻り、前向きの循環が働き始めると考えられます。その背景として、イラク情勢や新型肺炎(SARS)を巡る不確実性の低下などから、年後半には、海外経済の成長率が高まるとの見方があります。

 7月初に公表された日本銀行の短観をみましても、企業収益は増益基調を維持する見込みであり、設備投資の持ち直し傾向も確認されたところです。もっとも、過剰雇用、過剰債務の調整圧力が根強い中、当面内需の回復は緩やかなものに止まる可能性が高いと考えられます。また、輸出環境についても、米国経済の回復力などを巡って、なお不透明感の強い状況が続いています。国内面でも、金融システム情勢や金融資本市場の動向などについて、引き続き注視していく必要があると考えております。

 この間、物価面をみますと、消費者物価は、需要の弱さや技術進歩、流通合理化といった要因が、引き続き物価を押し下げる方向に働いているほか、海外からの安価な消費財の輸入もごく緩やかながらも増加傾向を続けていることなどから、当面現状程度の小幅下落が続くとみられます。

 金融面では、日本銀行の潤沢な資金供給のもと、金融市場は総じて落ち着いた推移を辿ってきました。また、資本市場では、このところ世界的に、景気や物価の先行きに対する悲観的な見方が若干後退している中で、株価が大幅に上昇し、長期金利も上昇しています。

 企業金融を巡っては、全体として緩和的な環境が維持されています。ただ、相対的に信用度の低い企業の資金調達は、なお厳しい状況にあるものと認識しております。

最近の金融政策運営

 次に、最近の金融政策運営について、申し述べさせて頂きます。

 前回ご説明させて頂いてから、約3ヶ月が経過いたしましたが、この間、日本銀行は、経済の先行き不透明感が高まる中、金融政策面での対応を機動的に講じて参りました。

 すなわち、4月30日の金融政策決定会合では、日銀当座預金残高の目標額を5兆円引き上げました。この時期、欧米諸国の景気回復力については依然不確実性が高く、東アジア経済についても、SARSの影響が懸念されておりました。金融面でも、銀行株をはじめとして株価が不安定な動きを示していました。このような経済金融情勢に関する不確実性の高まりを踏まえ、金融市場の安定確保に万全を期し、景気回復を支援する効果をより確実なものとするために、実施したものです。

 また、5月半ばには、りそな銀行の問題が生じたのを機に、金融面からの対応措置を強化しました。日本銀行は、まず、同行に対して、必要が生じた場合ただちに、日本銀行法第38条に基づく無担保の貸出を含め、所要の資金を供給する方針を決定しました。また、金融調節の面でも、当座預金残高の目標をさらに3兆円引き上げ、十分な資金を供給することとしました。この頃は、海外経済を巡る不確実性に加え、株価や為替相場の不安定な動きなどから、景気の先行き不透明感が強まっていました。それだけに、金融市場で不安定性が高まるような事態になれば、実体経済活動にも悪影響が及ぶ懸念がありました。このような対応もあって、りそな銀行の資金繰りに問題は生じず、金融市場も概ね安定を維持しております。

 その後の状況をみますと、日本経済を巡る先行き不透明感は、多少後退しているように窺えます。

 まず、輸出を左右する海外経済については、米国経済の不透明感はやや緩和され、東アジアにおいても、SARSの問題が終息に向かっています。これを受けて、国内資本市場では、経済や物価に対する悲観的な見方が若干後退し、株価は大きく上昇しました。銀行株価も、大幅に反発しています。こうした状況のもと、長期金利は、0.4%台の史上最低水準まで低下した後、上昇しました。

 このように、幾分明るい動きもみられますが、日本経済が引き続き様々な構造問題を抱えていることに変わりはありません。日本銀行といたしましては、引き続き、海外経済の回復力や、金融システムの状況、金融資本市場の動向などに十分注意を払いながら、機動的な金融政策の運営に努めて参りたいと存じます。

 この間、日本銀行は、金融緩和の効果が経済全体に行き渡るよう、波及メカニズムの強化に取り組んでおります。その一環として、今月29日より資産担保証券の買入れが可能となるよう鋭意準備を進めています。中央銀行が民間の信用リスクを直接負担することは異例ではありますが、わが国の金融機関の信用仲介機能が万全とはいえない現状においては、資産担保証券市場の発展を支援することは、意義があると考えております。

 具体的な実施の細目を決定する際には、中堅・中小企業金融の円滑化に資するよう最大限の配慮をいたしました。まず、裏付けとなる資産は、売掛債権や貸付債権、リース債権など幅広い資産を対象とすることとしました。また、信用力の低い債券に対する投資家が不足していることも、市場拡大を阻害する一因となっていることに鑑み、BB格相当の債券まで買い入れることとしました。買入総額については、当面1兆円に設定しております。

 資産担保証券市場は、将来日本の金融市場にとって非常に重要な市場になると考えております。日本銀行の買入れも契機となって、市場が自律的に発展していくことを期待しています。

銀行保有株式の買入れ

 なお、日本銀行は、株価の変動が金融機関経営ひいては金融システム全般に及ぼすリスクを緩和する趣旨から、昨年11月以降銀行保有株式の買入れを実施しております。本年7月10日時点の買入額は、1兆4,981億円となっております。

おわりに

 以上申し上げましたように、日本銀行は、厳しい経済情勢に対応するため、必要と考えられる政策は、中央銀行としては異例の対応を含めて、果敢に実施して参りました。同時に、新たな資産を保有することに伴うリスクを適切に把握し、財務の健全性確保にも努めています。財務の健全性は、将来に亘る日本銀行の政策運営能力を維持し、通貨の信認を支える重要な基盤であると認識しております。

 日本経済は、80年代後半から生じたグローバル化、情報通信革命、少子高齢化などの大きな潮流変化に対して、新たな経済の仕組みを構築すべく苦闘を続けています。様々な制約のもとで、これは決して容易なことではありませんが、日本企業の持つ高い技術力や知識創造力を活かしていけば、必ずや実を結ぶものと信じております。

 日本銀行といたしましては、こうした民間の努力も踏まえながら、デフレの克服と持続的な成長軌道への復帰に向けて、今後とも全力を挙げて取り組んで参る所存です。

 ありがとうございました。

以上