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「通貨及び金融の調節に関する報告書」概要説明

平成11年 6月30日 衆議院大蔵委員会における速水日本銀行総裁報告

1999年 6月30日
日本銀行

はじめに

 去る6月4日、日本銀行法第54条に基づき、昨年度下期の金融政策運営にかかる半期報告書を、国会に提出させていただきました。新しい日本銀行法が昨年4月に施行されて以来、今回で2回目の報告書提出ということになります。本日は、本報告書につきましてご説明の機会を与えていただいたことに、あつく御礼申し上げます。まず始めに、私から、日本銀行の最近の金融政策運営に関する考え方を述べさせていただきたいと存じます。

昨年度下期以降の金融経済情勢と金融政策運営

 振り返ってみますと、一昨年来、日本経済は、実体経済面、金融システム面ともに、たいへん厳しい状況に直面してまいりました。昨年夏場以降は、ロシア金融危機や米国大手ヘッジファンドの経営危機をきっかけに、国際的な金融資本市場の緊張が著しく高まりました。わが国においては、金融機関の資金繰りがきわめて厳しくなったほか、一時は、優良企業でさえ資金調達が難しくなるといった状況に至りました。景気の悪化が続く中で、こうした金融市場の動揺は、企業金融の逼迫や企業・家計のマインドの悪化を通じて、わが国の経済活動全般に、さらに深刻な影響を与えることが懸念されました。

 日本銀行は、こうした危機的状況を踏まえ、昨年9月以降、迅速かつ弾力的に新たな政策措置を講じ、金融市場の安定と経済活動の支援に全力をあげて対応してまいりました。すなわち、まず、昨年9月には、2年ぶりに追加的な金融緩和を実施し、コールレートをほぼ0.25%に引き下げる決定を行いました。また、11月には、企業金融の円滑化に資するために、CPオペの積極的な活用や臨時貸出制度の創設など、新たな対策を決定いたしました。さらに、本年2月には、過去に前例のない、いわゆるゼロ金利政策、すなわち「より潤沢な資金供給を行い、オーバーナイト・コールレートをできるだけ低めに推移するよう促す」という、きわめて思いきった措置に踏み切ったわけであります。

 幸い、この間、海外における金融資本市場の緊張は、次第に沈静化してまいりました。また、政府による累次にわたる経済対策や金融システム対策の実施、ただいま申し述べたような日本銀行の思い切った金融緩和策の浸透などを背景に、本年入り後は、事態の改善が徐々にはっきりしてまいりました。すなわち、金融市場は安定を取り戻し、景気の悪化テンポは次第に緩やかとなってまいりました。現在では、足許の景気は、はっきり下げ止まったと判断できるようになっております。

当面の金融政策運営

 とはいえ、企業のリストラの動きが本格化しつつあることなどを踏まえますと、設備投資の減少基調や、雇用・家計所得の厳しさなどは、当面続く可能性が高いと考えられます。したがって、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくい状況にあります。このため、こうした面からの物価に対する潜在的な低下圧力は根強く残存しており、まだ、デフレ懸念が払拭されたといえる状況には至っていません。

 申し上げるまでもなく、金融政策の目的は、物価の安定を通じて、国民経済の健全な発展に資することにあります。こうした理念に照らして、日本銀行としては、デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、現在の思い切った金融緩和基調を維持し、金融面から、物価の安定と経済の回復をしっかり支えていく方針であります。

 日本銀行としては、金融・財政面から経済を下支えしているうちに、経済や産業の構造改革が着実に進められ、日本経済の新たな自律的成長の道筋が確かなものになることを強く期待している次第であります。

おわりに

 さて、新しい日銀法が施行され、1年3か月近くになろうとしています。この間、日本銀行は、新法の理念を十分踏まえ、与えられた使命の達成に全力をあげるとともに、政策決定過程の透明性の向上に積極的に取り組んで参りました。幸い、政策委員会・金融政策決定会合の議事要旨の公表、金融経済月報の刊行等の新しい仕組みも、次第に定着してきたものと考えております。また、こうして、国会においてまとまったお時間をいただき、政策運営に関するご質問にお答えする場をいただくことは、透明性の向上のうえで、きわめて重要な機会と認識しております。本日は、金融政策運営をめぐる様々な問題について、日本銀行の考え方をできるだけ率直にご説明し、ご理解を賜りたいと存じておりますので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。

以上