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金融経済月報(基本的見解1)(1998年 8月)2

  1. 本「基本的見解」は、8月11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、8月11日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

1998年 8月13日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp9808.pdf 403KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢は全般に悪化を続けている。

 最終需要面をみると、公共投資は下げ止まり傾向にあり、純輸出も、輸入の減少を主因に、再び増加に転じている。その一方で、設備投資の大幅な減少が続いており、住宅投資も一段と低迷している。個人消費については、一進一退を続けている。こうした最終需要動向の下で、引き続き大幅な減産が実施されている。この結果、在庫は幾分減少しているが、なお高い水準にある。以上のような支出・生産活動の低下に伴って、企業収益の減少が続いているほか、雇用者所得も前年水準を下回って推移している。また、有効求人倍率が既往最低水準まで低下し、失業率もさらに上昇するなど、雇用・所得環境が一段と悪化している。

 このように現状、生産・所得・支出を巡る循環は引き続きマイナス方向に働いているが、今後は、政府の総合経済対策に盛り込まれている公共事業の追加や特別減税実施の効果によって、景気のさらなる悪化には徐々に歯止めが掛かるものとみられる。しかし、経済活動の水準が既に相当程度低下していることを踏まえると、民間需要への波及は限定されたものとならざるを得ず、速やかに自律的な回復に繋がっていくとは考えにくい。そうした中で、金融システムの建て直しに向けての諸法案が国会に提出されたほか、新政権の下で、補正予算による公共投資の追加や、個人所得・法人税減税の検討を含む、新たな景気対策を策定する方針が打ち出されている。今後は、これらがどのように具体化され、企業・家計のコンフィデンスにどう影響を及ぼすか、といった点に注目していく必要がある。

 この間、物価面をみると、卸売物価が基調としては下落を続けているほか、消費者物価も、制度変更要因 3 を除いてみれば、前年比マイナスで推移している。先行きについては、輸入物価を通じた物価下落圧力は弱まってきており、また、総合経済対策の実施に伴って、需給ギャップの拡大にも徐々に歯止めが掛かるとみられる。しかし、現下の需給ギャップの水準を踏まえると、内生的な物価下落圧力が目立って弱まるとは考えにくく、物価は、なお当分の間、軟調に推移する公算が大きい。

 金融面をみると、長期国債流通利回りや株価は、恒久減税等に対する期待が高まったことから、7月中旬にかけて上昇したが、その後は、市場の関心が新政権の経済政策の具体的な内容に移り、様子見姿勢が強まったことなどを受けて、低下した。また、ユーロ円金利やジャパン・プレミアム等をみると、金融機関の信用リスクや、9月中間期末の流動性リスクに対する市場の警戒感は、依然として根強い状況にある。

 量的金融指標をみると、民間銀行貸出が低迷を続ける下で、マネーサプライ(M2+CD)も総じて伸び率鈍化傾向を辿っている。これには、民間金融機関が慎重な融資姿勢を維持していることも作用しているとみられるが、より基本的には、経済情勢が全般に悪化を続けている下で、企業の資金需要が落ち込んできていることが強く影響しているものとみられる。

 この間、中小企業などを中心に、企業によっては、アベイラビリティー、金利の両面で厳しい資金調達環境が続いているとみられる。その実体経済に与える影響について、引き続き注意深く点検していく必要がある。

  1. 397年9月実施の医療保険制度改革に伴う保健医療サービスの上昇。

以上