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金融経済月報(基本的見解1)(2000年 1月)2

  1. 本「基本的見解」は、1月17日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、1月17日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2000年 1月19日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0001.pdf 513KB)から入手できます。


 わが国の景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 最終需要面をみると、住宅投資は、このところ頭打ちとなっており、公共投資の増加もほぼ一服したものとみられる。個人消費は、雇用・所得環境に目立った改善がみられない中で、回復感に乏しい状態が続いている。これまで減少基調にあった設備投資は、下げ止まる気配をみせている。また、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、月々の振れを伴いつつも、基調としては、海外景気の好転を背景に増加傾向を辿っている。

 このような最終需要の動向や、在庫調整の進捗を反映して、鉱工業生産は増加を続けている。また、企業収益の改善も明確化しつつあり、こうした動きを背景に、企業の業況感の改善が続いている。雇用面でも、一部指標には雇用者数の減少に歯止めが掛かりつつあることを示唆するものもみられる。もっとも、収益や業況感の改善は、設備・雇用過剰感がなお強く、借入金返済等による財務体質改善が強く意識されるもとで、必ずしも積極的な企業行動には繋がっていない。また、企業が人件費抑制スタンスを堅持する中で、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢については、日本銀行による金融緩和措置などによる金融環境全般の改善や政府による一連の経済対策が、引き続き下支え効果を発揮していくことが期待される。また、アジアをはじめとする海外景気の回復が生産面に及ぼすプラス効果も当面継続し、それが企業、ひいては家計の所得面にも好影響を及ぼしていくとみられる。しかし、住宅投資は、当面頭打ちの状況が続く可能性が高い。また、企業部門では、リストラによる収益改善が相応の成果をあげつつあるが、控え目な売上見通しのもとで、設備投資に対する慎重なスタンスが暫く続くと考えられる。また、昨年夏場以降の円高は、当面企業収益の減少要因として作用するとみられる。これらを踏まえると、民間需要を巡る環境が徐々に改善しつつあるとはいえ、今後の展開については、なお注意深くみていくことが必要である。また、民間需要の立ち直りを促すような構造改革を進めていくことも重要と考えられる。

 物価面をみると、輸入物価は、円高の影響から、足許では、幾分下落している。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いているものの、原油価格上昇を受けた石油・化学製品の上昇等から、横這いの動きとなっている。また、消費者物価も、引き続き横這い圏内で推移している。企業向けサービス価格は小幅の下落が続いている。先行きについては、一部機械類等で価格の下落が続くとみられるものの、在庫等の動きからみて足許需給バランスが緩やかに改善していることに加え、既往の原油価格上昇分の転嫁が暫く続くことから、物価は当面、概ね横這いで推移していくものと考えられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きが依然みられず、賃金の軟化傾向が続く中にあっては、物価に対する潜在的な低下圧力に対し、引き続き留意していく必要がある。

 金融面では、年末越え資金手当てや「コンピューター2000年問題」に伴う大幅な資金需要の増加がみられたが、日本銀行によるきわめて豊富な資金供給を受けて、金融市場は総じて安定的に推移した。また、金融取引の面でも、同問題に関連した大きな混乱や障害が発生することは避けられた。

 すなわち、まず、短期金融市場では、オーバーナイト物金利が引き続きゼロ%に近い水準で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。この間、コール市場残高は幾分増加している。

 ターム物金利は、「コンピューター2000年問題」に対する懸念から、年末にかけて再び強含む動きもみられたが、この要因の剥落に伴い、年明け後は低下をみた。この間、ジャパン・プレミアムは、ほぼ解消された状態にある。

 長期国債流通利回りは、11月末以降、年末まで低下傾向を辿った後、幾分反発し、足許では1.7%台後半で推移している。この間、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、低格付のものを中心に、引き続き縮小傾向を辿っている。

 株価は、年初にかけていったん1万9千円台まで上昇した後、米国株価の調整の動きなどを受けて1万8千円台前半まで軟化した。もっとも、その後は米国株価の反発などを受けて持ち直し、足許では再び1万9千円台となっている。

 円の対米ドル相場は、年初にはいったん101円台まで上昇したが、その後は円安方向への動きが進み、最近では概ね105〜106円台で推移している。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、民間銀行自身を巡る資金繰り面や自己資本面からの制約は緩和されており、そうしたもとで、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、徐々に融資を回復させようとする姿勢を強めている。

 しかし、企業の資金需要面をみると、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業はバランスシート調整の一環として、借入金を圧縮していくとのスタンスを維持している。この結果、民間の資金需要は引き続き低迷しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債やCPの発行も、足許では落ち着いた動きとなっている。

 マネーサプライ(M2+CD)は、上述のような民間の資金需要の低迷などを受けて、伸びがやや鈍化している。

 以上のような金融環境のもとで、企業の資金繰り逼迫感は緩和してきているほか、企業からみた金融機関の貸出姿勢も厳しさが後退しつつある。今後とも、こうした企業金融を巡る環境の改善傾向が、実体経済活動にどのような影響を与えていくのか、見守っていくことが必要である。

以上