金融経済月報(基本的見解1)(2001年 3月)2
- 本「基本的見解」は、3月19日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
- 本稿は、3月19日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。
2001年 3月21日
日本銀行
日本銀行から
以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0103.pdf 636KB)から入手できます。
わが国の景気は、輸出の減少を背景に、このところ足踏み状態となっている。
国内需要をみると、設備投資は増加を続けている。個人消費は、全体としては回復感に乏しい状態が続いているが、一部指標にはやや明るさが窺われる。住宅投資は概ね横這いの動きとなっている。公共投資は下げ止まりつつある。
このように国内需要が底固く推移する一方で、米国、東アジアなど海外経済の急減速を背景に、純輸出(実質輸出−実質輸入)は大幅に減少している。その影響を主因に、鉱工業生産は減少に転じており、在庫についても、素材や電子部品の一部で過剰感が高まっている。企業収益は改善を続けているが、最近の輸出・生産の減少に伴い、そのテンポは製造業を中心にかなり鈍化していると考えられる。家計の所得環境は底固さを維持しているが、新規求人や所定外労働時間などには、生産減少の影響が現われ始めている。
今後の経済情勢についてみると、公共投資は、2000年度補正予算の執行本格化に伴い増加に向かうと予想される。しかし、純輸出は、海外景気の調整が暫く続くことを背景に、当面、減少を続ける可能性が高い。設備投資については、暫くの間、既発注案件の進捗が続くとみられるが、先行指標の動きを踏まえると、次第に頭打ちに向かう公算が大きい。また、程度は大きくないとはいえ、在庫面での調整圧力も、一部に高まりがみられる。このため、鉱工業生産は減少傾向が続くと見込まれる。こうした中で、企業収益は伸び悩み、家計の所得・消費の改善も滞りがちになっていくとみられる。
以上を全体としてみれば、当面、わが国の景気は停滞色の強い展開が続く可能性が高いと考えられる。一方で、海外景気は米国を中心に本年後半以降は緩やかな回復傾向を辿るとの見方が一般的である。その場合は、円安の効果もあって、輸出が再び景気の下支え要因として作用すると考えられる。しかし、海外経済の減速が長引く可能性や、内外資本市場の動きが企業や家計の心理面などを通じて実体経済に悪影響を及ぼすリスクには、引き続き留意が必要である。
物価面をみると、輸入物価は、為替円安の影響を主因に上昇している。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いていることから、やや弱含んでいる。消費者物価は、輸入製品やその競合品の価格が低下しているため、幾分弱含みで推移している。企業向けサービス価格は、小幅の下落が続いている。
物価を巡る環境をみると、最近の円安は物価を押し上げる方向に作用している。しかし、景気が足踏み状態となったことに加え、一部とはいえ在庫の過剰感が高まっていることもあって、国内需給バランス面からは、当面物価に対して低下圧力が働く可能性が高い。このほか、技術進歩を背景とする機械類の趨勢的な下落や、流通合理化に伴う消費財価格の低下に加え、規制緩和を背景とする通信料金の引き下げが引き続き下落方向に作用するとみられる。これらを総じてみれば、当面、物価はやや弱含みで推移するものと考えられる。また、今後の景気動向には不透明な要素が多いだけに、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まる可能性にも留意が必要である。
金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、2月中は概ね0.25%前後の水準で推移したが、2月28日の金融政策決定会合で金融市場調節方針が変更されたこと3を受けて、3月以降は、0.15%前後で推移している。
- 3無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.15%前後で推移するよう促す。
ターム物金利は、日本銀行による流動性供給方法の改善策の公表及び金融緩和の実施等を受けて、大幅に低下している。ジャパン・プレミアムは、ほぼ解消された状態が続いている。
長期国債流通利回りは、景気の先行きに対する市場の見方が一段と慎重化する中で、1.1%台まで低下している。国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、概ね横這いないしやや拡大している。
株価は、米国株価の下落や企業の業績下方修正等を受けて、大幅に下落している。
円の対米ドル相場は、2月末以降、再び円安傾向となり、最近では概ね122〜123円台で推移している。
資金仲介活動をみると、民間銀行は、融資先の信用力を慎重に見きわめつつ、優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢を続けている。社債、CP市場など、市場を通じた企業の資金調達環境にも大きな変化はみられていない。
資金需要面では、高水準のキャッシュ・フローを背景に企業の外部資金調達ニーズは乏しく、資金需要が増加しにくい状況が続いている。また、企業はバランスシート調整の一環として、借入金を圧縮していくスタンスを維持している。これらの結果、民間の資金需要は引き続き低迷している。
こうした中で、民間銀行貸出は、1、2月と前年比マイナス幅が幾分縮小しているものの、基調としては弱めの動きが続いている。この間、社債の発行残高は、前年を若干上回る水準での推移を続けているほか、CPの発行残高も高水準を維持している。
マネーサプライ(M2+CD)は、郵便貯金からの資金シフトの動き等を受けて、このところ、伸びを高めている。
企業の資金調達コストをみると、短期、長期とも市場金利の低下を受けて低下している。
以上のような環境のもとで、金融機関の貸出姿勢や企業金融はこれまでの緩和された状態が継続している。ただ、株価の下落が、金融機関行動や企業の資金調達環境にどのような影響を与えるか、引き続き注視していく必要がある。
以上