金融経済月報(基本的見解1)(2001年 7月)2
- 本「基本的見解」は、7月12日、13日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
- 本稿は、7月12日、13日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。
2001年 7月16日
日本銀行
日本銀行から
以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0107.pdf 701KB)から入手できます。
わが国の景気をみると、輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まっている。
最終需要面をみると、個人消費は、総じてみれば、横這いで推移している。住宅投資は減少しており、公共投資も、補正予算の執行一巡に伴い減少に向かいつつあるとみられる。純輸出(実質輸出−実質輸入)は海外経済の減速、とりわけ情報関連財の需要低迷を背景に、減少が続いている。また、輸出環境の悪化が続く中で、設備投資も減少に転じている。
こうした最終需要の動向に加え、電子部品や素材の一部で在庫の過剰感がさらに高まっていることもあって、鉱工業生産は大幅な減少が続いている。企業の収益や業況感も製造業を中心に悪化している。家計の所得環境はなお底固さを維持しているが、労働時間などを通じて、生産減少の影響は家計部門にも及び始めている。
今後の経済情勢についてみると、公共投資は今後、減少傾向を辿ると予想される。また、純輸出は、海外景気の減速や世界同時的な情報関連財の在庫調整が続く中で、当面、減少を続ける可能性が高い。設備投資についても、先行指標や企業の投資計画からみて、減少傾向を辿る公算が大きい。加えて、電子部品や素材における在庫調整の動きが当面継続することから、鉱工業生産は減少傾向が続くと見込まれる。こうした中で、当面、企業収益の減少は避けられず、家計の所得形成も徐々に弱まっていくとみられる。
以上を全体としてみれば、わが国の景気は、当面、生産面を中心に調整を続ける可能性が高い。わが国の輸出を左右する要因のうち、情報関連財の在庫調整については、秋口までに完了し、海外景気についても、米国を中心に本年末辺りから緩やかな回復傾向を辿るとの見方が一般的である。その場合は、輸出が再び景気の下支え要因として作用すると考えられる。しかし、海外経済の減速が長引けば、景気調整の動きがさらに拡がるリスクがあるほか、内外資本市場の動きが企業や家計の心理面などを通じて実体経済に悪影響を及ぼすリスクについても、引き続き留意が必要である。
物価面をみると、輸入物価は、概ね横這いとなっている。国内卸売物価は、電気機器等の下落が続いていることから、弱含んでいる。消費者物価は、輸入製品やその競合品の価格が低下しているため、幾分弱含みで推移している。企業向けサービス価格は、下落が続いている。
物価を巡る環境をみると、これまでの円安は物価を押し上げる方向に作用している。しかし、景気の調整が続くもとで、国内需給バランス面からは、物価に対する低下圧力が働きやすい状況にある。このほか、技術進歩を背景とする機械類の趨勢的な下落に加え、規制緩和や流通合理化に伴う財・サービスの価格低下が引き続き下落方向に作用するとみられる。これらを総じてみれば、当面、物価は弱含みで推移するものと考えられる。また、今後の景気動向には不透明な要素が多いだけに、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まる可能性にも留意が必要である。
金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、日本銀行当座預金残高を5兆円程度とする金融市場調節方針のもとで、概ねゼロ近辺で推移している。
ターム物金利は、総じてみれば横這い圏内で推移している。ジャパン・プレミアムは、ほぼ解消された状態が続いている。
長期国債流通利回りは、6月末まで1.1%台後半で推移したあと上昇し、最近は1.3%前後で推移している。国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドは、概ね横這いないしやや縮小している。
株価は、米国株価の下落などを受けて下落している。
円の対米ドル相場は円安傾向にあり、最近では124〜125円台で推移している。
資金仲介活動をみると、民間銀行は、融資先の信用力を慎重に見きわめつつ、優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢を続けている。ただ、中小企業からみた金融機関の貸出態度には幾分慎重化の兆しがみられる。一方、社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、金利の低下や投資家の信用リスク・テイク姿勢の強まりを背景に、改善傾向が続いている。
資金需要面では、設備投資など企業の支出水準が、キャッシュ・フローを下回っていることを背景に、外部資金需要が増加しにくい状況が続いている。また、企業はバランスシート調整の一環として、借入金を圧縮していくスタンスを維持している。これらの結果、民間の資金需要は引き続き低迷している。
こうした中で、民間銀行貸出は、基調としては弱めの動きが続いている。一方で、社債の発行残高は、このところ、伸び率を若干高めている。また、CPの発行残高は、良好な発行環境を反映して、前年を大幅に上回り、既往ピーク水準となっている。
6月のマネーサプライ(M2+CD)は、郵便貯金等からの資金シフトの動きを主因に、前月に比べて伸びを高めた。
企業の資金調達コストをみると、市場金利の動向を背景に、低下傾向を辿っている。
以上のような環境のもとで、金融機関の貸出姿勢や企業金融は、総じてみれば、緩和された状態が継続している。当面、日本銀行による金融緩和措置の波及効果を見守る一方で、株価や企業収益の状況などが、金融機関行動や企業の資金調達環境に与える影響についても、注視していく必要がある。
以上