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金融経済月報(基本的見解1)(2002年 3月)2

  1. 本「基本的見解」は、3月19日、20日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、3月19日、20日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年 3月22日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0203.pdf 730KB)から入手できます。


 わが国の景気をみると、輸出や在庫面からの下押し圧力は弱まりつつあるが、全体としてなお悪化を続けている。

 最終需要面をみると、純輸出(実質輸出−実質輸入)は、輸出環境の改善を背景に、下げ止まりつつある。その一方、設備投資の減少が続いているほか、個人消費も引き続き弱めの動きとなっている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。

 このように最終需要は全体としてなお弱いが、生産への影響が大きい輸出については、このところ下げ止まりつつある。また、在庫面では、これまでの減産継続によって、電子部品をはじめ多くの業種で調整が一段と進んでいる。これらを反映して、鉱工業生産の減少テンポはかなり緩やかになっている。もっとも、雇用過剰感が強いもとで企業は人件費の削減姿勢を堅持しており、失業の増加傾向が続く中で、賃金の低下幅も拡大するなど、家計の雇用・所得環境はむしろ厳しさを増している。

 今後の経済情勢についてみると、まず輸出環境の面では、世界同時的な情報関連財の在庫調整はほぼ一巡している。こうした中で、東アジア諸国の景気には底入れの動きがみられる。また、米国経済についても、依然不確実な要素が残されているとはいえ、家計支出が堅調に推移し、在庫調整もほぼ一巡するなど、景気回復の可能性が高まっている。さらに、為替相場も昨年秋頃に比べて円安の水準にある。こうしたもとで、輸出は、年央にかけて回復に転じていくと予想される。しかし、当面、海外景気の回復は鈍く、情報関連財の最終需要も低調なもとで、輸出の回復テンポは緩やかなものにとどまる公算が大きい。

 一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益の減少が続くもとで、減少傾向を辿るとみられる。個人消費も、雇用・所得環境の悪化等から、弱めの動きが続く可能性が高い。このように、国内民需が全般に弱まっていく中で、政府支出も基調的には減少傾向を続けることが見込まれている。このため、輸出環境の改善や在庫調整の一巡を背景に、鉱工業生産は下げ止まっても、経済全体の活動水準の低下に歯止めが掛かるまでには、かなりの時間を要すると考えられる。

 以上を総合すると、今後わが国の経済は、輸出の回復などに伴い生産が下げ止まるにつれて、景気全体の悪化テンポも次第に和らいでいくと予想される。ただ、景気の脆弱な地合いが続く中で、内外の金融・資本市場の動きが実体経済に悪影響を及ぼすリスクには、引き続き留意が必要である。

 物価面をみると、輸入物価は、国際商品市況の上昇や昨年末頃からの円安を受けて、上昇している。国内卸売物価は、こうした輸入物価の上昇や在庫調整の進捗を背景に、このところ下落幅が幾分縮小している。消費者物価は、輸入製品やその競合品の価格低下が続く中で、昨年後半の原油安の影響も残っており、引き続き下落している。企業向けサービス価格は、下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、昨年末頃からの円安や、国際商品市況の上昇は、当面、物価の下支え要因として働くと考えられる。もっとも、国内需要の弱さが当面続くとみられるため、需給バランスの面からは、物価に対する低下圧力が掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も物価を押し下げる方向に作用するとみられる。加えて、賃金の低下幅の拡大も、その影響を受けやすいサービス価格を中心に、価格低下要因として働く可能性がある。これらを総じてみれば、当面、物価は緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。また、今後の景気動向には不透明な要素が多いだけに、需要の弱さに起因する物価低下圧力がさらに強まる可能性には引き続き留意が必要である。

 金融面をみると、短期金融市場では、オーバーナイト物金利は、日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう、潤沢な資金供給が行なわれたことを受けて、引き続きゼロ%近辺で推移している。

 ターム物金利は、2月半ば以降、年度末越え資金の調達本格化をきっかけに一時強含んだが、2月28日の金融政策決定会合における追加措置を受けて、こうした動きに歯止めが掛かり、引き続き低水準で推移している。

 長期国債流通利回りは、最近では概ね1.4%台で推移している。この間、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、幾分拡大している。

 株価は、株式空売り規制の強化や米国株価の上昇などをきっかけに反発に転じ、その後も内外機関投資家の買戻しもあって上昇した。

 円の対米ドル相場は、本邦株価の反発などを受けて、一旦大幅に上昇した後、最近では再び軟化している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては貸出姿勢を慎重化させる傾向を強めている。企業からみた金融機関の貸出態度も厳しさを増している。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境は、高格付け企業では、概ね良好な地合いにあるが、低格付け企業の発行環境は総じて厳しい状況が続いている。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が減少していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%程度の減少が続いている。一方、社債の発行残高は、前年比2%台の伸びとなっている。CPの発行残高は、前年を大幅に上回っているものの、前年比伸び率は鈍化を続けている。

 マネタリーベースは、伸びをさらに高め、前年比3割弱の大幅増加となっている。マネーサプライ(M2+CD)前年比も、幾分伸びを高めている。

 企業の資金調達コストは、一部の市場調達金利や長期プライムレートが幾分上昇しているが、総じてみれば、きわめて低い水準で推移している。

 以上のように、最近のわが国の金融環境をみると、金融市場の状況を総じてみれば、きわめて緩和的な状況が続いている。しかし、民間銀行や投資家の信用リスク・テイク姿勢は引き続き慎重化しており、信用力の低い企業、とりわけ中小企業では資金調達環境が徐々に厳しさを増している。このため、金融機関行動や企業金融の動向には、引き続き十分注意していく必要がある。

以上