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金融経済月報(基本的見解1)(2002年12月)2

  1. 本「基本的見解」は、12月16日、17日に開催された政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである。
  2. 本稿は、12月16日、17日に開催された政策委員会・金融政策決定会合の時点で利用可能であった情報をもとに記述されている。

2002年12月18日
日本銀行

日本銀行から

 以下には、基本的見解の部分を掲載しています。図表を含む全文は、こちら(gp0212.pdf 780KB)から入手できます。


 わが国の経済情勢をみると、全体として下げ止まっているが、回復へ向けての不透明感が強い状態が続いている。

 最終需要面をみると、設備投資はほぼ下げ止まっているものの、個人消費は弱めの動きを続けている。また、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。このように国内需要に依然として回復の動きがみられない中で、輸出は横這い圏内の動きとなっている。

 鉱工業生産は、在庫調整の一巡に伴う押し上げ効果がなお働いているものの、輸出の動向を反映して、増勢は一服してきている。こうしたもとで、企業収益は改善を続けているが、そのテンポは緩やかになりつつある。企業の業況感についても、緩やかな改善が続いているものの、先行きに関しては慎重な見方となっている。雇用面では、所定外労働時間や新規求人が緩やかに増加しているほか、臨時雇用等を広く含む雇用者数は下げ止まり傾向にあるとみられる。しかし、企業の人件費削減姿勢が根強い中で、賃金が引き続き低下するなど、雇用者所得は明確な減少を続けており、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 今後の経済情勢を考えると、まず海外経済については、来年までを展望すれば緩やかな回復を辿るとの見方が一般的である。しかし、このところ米国をはじめ、経済指標が総じて弱めであることを踏まえると、少なくとも当面、海外経済の回復力はかなり弱いものとなる可能性が高い。そのもとで、当面、輸出は横這い圏内の動きにとどまり、鉱工業生産も、横這い圏内で推移するものと考えられる。

 一方、国内需要については、公共投資が減少傾向を辿ると見込まれるほか、個人消費も、厳しい雇用・所得環境のもとで、当面、弱めの動きを続ける可能性が高い。設備投資は、これまでの企業収益の改善が下支えに作用するとみられるが、海外経済を巡る不透明感が強いことなどから、当面、はっきりした回復に転じる可能性は低いと考えられる。

 以上を総合すると、今後わが国の景気は、来年の海外経済について緩やかな回復を前提とすれば、いずれは輸出、生産が再び増加に向かうことを通じて、底固さを増していくものと考えられる。ただし、過剰雇用や過剰債務の調整圧力が根強い中で、輸出や生産が当面横這い圏内で推移するとみられることなどを念頭に置くと、景気回復への動きがはっきりとしない状態がしばらく続く可能性が高い。また、米国をはじめとする海外経済の先行きについては、国際政治情勢やその影響を含めて、下振れのリスクには引き続き注意を要する。国内面でも、株価が不安定な動きを続けているだけに、金融機関の不良債権処理がどのように進められ、それが株価や企業金融、ひいては実体経済にどのような影響を及ぼすかについて、注視していく必要がある。

 物価面をみると、輸入物価は、夏から秋にかけての原油価格の上昇や円安などを反映して、上昇している。国内卸売物価は、機械類の価格や電力料金が低下しているものの、輸入物価の上昇や素材業種における需給改善を受けて、強含んでいる。しかしながら、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にあり、企業向けサービス価格も下落が続いている。

 物価を取り巻く環境をみると、輸入物価は、原油価格上昇や円安の影響が残ることなどから、当面、強含みで推移すると予想される。一方、需給バランスの面では、在庫調整の一巡や稼働率の上昇がある程度下支え要因として働くものの、国内需要の弱さが当面続く中で、物価に対する低下圧力はなお掛かり続けていくとみられる。また、機械類における趨勢的な技術進歩や、規制緩和、流通合理化といった要因も引き続き物価を押し下げる方向に作用するとみられる。こうした中で、12月分から国内卸売物価に替えて公表される国内企業物価は、当面、横這い圏内で推移する可能性が高い。消費者物価については、消費財輸入の増勢一服が、価格低下圧力をなにがしか緩和する要因として働くとみられる反面、賃金の低下幅の拡大傾向は、サービス価格を中心に価格低下を促す可能性もあり、当面、現状程度の緩やかな下落傾向を辿るものと考えられる。

 金融面をみると、日本銀行が一層潤沢な資金供給を行うもとで、日本銀行当座預金残高は20兆円程度で推移している。

 こうしたもとで、短期金融市場では、オーバーナイト物金利が、引き続きゼロ%近傍で推移している。また、短期国債金利等のターム物金利は、銀行株価の低迷を背景に神経質な地合いが続いたものの、全体として低水準が維持されている。

 長期国債流通利回りは、1.0%を挟んで上下する動きが続いた。また、民間債(銀行債、事業債)と国債との流通利回りスプレッドは、概ね横這い圏内で推移している。

 株価は、11月下旬には持ち直したが、12月入り後は欧米株価の反落につれるかたちで再び軟化し、最近は8千円台半ばでの動きとなっている。

 円の対米ドル相場は12月初にかけて、米国景気指標の一部改善などを受けて125円台まで下落した。もっとも、その後は、国際政治情勢などを背景に米ドルが全般的な軟化傾向に転じたことから、円相場は反発し、最近では120~121円台で推移している。

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては、貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては、貸出姿勢を慎重化させている。企業からみた金融機関の貸出態度も幾分厳しさを増している。社債、CPなど市場を通じた企業の資金調達環境も、高格付け企業は緩和的であるが、低格付け企業では厳しい状況にある。

 資金需要面では、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、設備投資が低調に推移していることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 こうした中で、民間銀行貸出は前年比2%台の減少が続いている。CP・社債の発行残高をみると、伸び率の低下傾向が続いている。

 この間、企業の資金繰り判断は、中小企業を中心に厳しい状況が続いている。

 マネタリーベースは、前年比2割程度の高めの伸びとなっている。マネーサプライも、前年比3%台前半の伸びが続いている。

 企業の資金調達コストは、全体としてきわめて低い水準で推移している。

 以上を踏まえて、金融面の動きを総合的に判断すると、金融市場では、全体としてみればきわめて緩和的な状況が維持されている。長期金利は低水準で推移しているほか、マネーサプライやマネタリーベースも、経済活動との対比でみれば、高めの伸びを維持している。もっとも、株価は依然として不安定な地合いにある。企業金融面でも、信用力の高い企業は総じて緩和的な調達環境にあるが、信用力の低い企業については投資家の姿勢が厳しく、民間銀行も貸出姿勢を慎重化させている。このため、不良債権処理の加速、産業・企業再生等に向けた政府の対応の影響も含め、金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、引き続き十分注意してみていく必要がある。

以上