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当面の金融政策運営に関する考え方

1999年 9月21日
日本銀行

  1. (1) 日本銀行は、本日開催された政策委員会・金融政策決定会合において、これまでの思い切った金融緩和政策、いわゆるゼロ金利政策を継続することを決定しました。
  2. (2) 金融政策決定会合の討議内容は、会合の約1か月後に「議事要旨」として公表する仕組みとなっています。しかし、為替相場の急激な変動等を背景に、金融政策運営に対する内外の関心が高まっているため、討議の背景となった考え方のうち主要な論点について、直ちに対外的に説明することが適当と考えました。このため、政策委員会で討議のうえ、本ペーパーを公表することとしたものです。

(ゼロ金利政策と量的緩和)

  1. (3) 日本銀行は、本年2月のゼロ金利政策採用以来、金融市場に大量の資金を供給し、誘導目標であるコールレートが事実上ゼロ%で推移するよう促しています。この結果、金融市場では、以下のように、資金は十分潤沢な状態となっています。
    • 日本銀行は、金利ゼロという状態が安定的に推移するよう、金融機関に保有が義務づけられている支払準備(1日平均約4兆円)を1兆円ほども上回る資金供給を続けています。そうした中で、金融機関サイドでは、ゼロ金利政策により「殆どコストのかからない資金をいつでも調達できる」という安心感が定着しているため、資金を保有する動機が低下しています。この結果、日本銀行が供給した余剰資金の7~8割は、資金仲介を行っている短資会社等に積み上がっているのが実情です。
    •  日本銀行がマーケット・オペレーションを通じ、ほぼゼロの金利で資金を供給しようとしても、金融機関がそれに応じてこないような場合も起きています(いわゆるオペの札割れ現象)。

(追加的資金供給の効果)

  1. (4) 最近、為替相場の安定等を図るため、日本銀行がより大量の資金供給を行うべきとの議論が聞かれます。しかし、上記のような金融市場の状態のもとでは、日本銀行がゼロ金利を維持するために必要な量を上回って資金供給を増やしても、資金がまさに「余剰」のままで短資会社等に積み上がるだけです。金利はもちろん、金融機関や企業行動、あるいは為替相場などの資産価格に目に見える効果を与えるとは考えられません。
  2. (5) 実体的な効果がなくとも、市場が「追加的資金供給」に何らかの期待を持っていれば、それを利用してみてはどうかとの考え方もあります。しかし、そうした方法の効果は、あったとしても一回限りで、永続きしませんし、中央銀行として、目的と政策効果についてきちんと説明できない政策をとることはできません。

(為替市場と金融政策)

  1. (6) 日本銀行は、為替相場については、経済のファンダメンタルズに応じて安定的に推移することが望ましく、相場変動が行き過ぎれば、景気や物価に悪影響を与える可能性が大きいと考えています。また、最近の円高の進行は急激であり、その企業収益等に与える影響が懸念されます。こうした為替相場に関する基本認識や最近の円高進行に対する評価は、政府とも共有されていると考えています。
  2. (7) ただし、日本銀行は、為替相場そのものを金融政策の目的とはしていません。金融政策運営を為替相場のコントロールということに直接結び付けると、誤った政策判断につながるリスクが高いことは、バブル期の政策運営から得られる貴重な教訓になっています。ただ、このことは、金融政策運営において為替相場の動向をみないでよいということではありません。日本銀行は、あくまでも、為替変動が景気や物価の先行きにどのような影響を及ぼすかという観点から、その動向を注意深くみていくべきものと位置づけています。
  3. (8) 最近の円相場の動きは急激なものとなっているので、企業収益や輸出等を通じて景気の先行きに与えるマイナスの効果については、十分慎重にみていく必要があります。ただ、同時に、現在の日本経済には、様々な政策効果の発現やアジア経済の回復など、プラス面の力も働き始めています。現在は、これらの様々な要因が、全体として経済にどのように影響を与えていくのか、注意深く見極めていくべき段階であると考えています。
  4. (9) 為替政策との関係で、介入資金を放置してはどうか(いわゆる非不胎化)という議論があります。しかし、金融市場には、介入資金だけでなく、財政収支や銀行券需要など様々な要因を反映した資金の流れが存在しています。中央銀行は、そうした資金の流れを利用しつつ、オペレーションにより市場全体の資金量を調節しています。これは先進国の中央銀行で、ほぼ共通の枠組みです。したがって重要なことは、すべての資金の流れを勘案したうえで、金融市場に全体としてどれだけ潤沢な資金が供給されているか、ということです。この点で、日本銀行は、上述したとおり、豊富で弾力的な資金供給を行っています。こうした資金供給姿勢は、現在の政府の為替政策とも整合的なものと考えています。

(当面の金融政策運営について)

  1. (10) 日本銀行は、歴史的にも世界的にも類例のない思い切った金融緩和政策を講ずるとともに、この政策を「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで」続けることを明らかにしています。現在、日本銀行は、景気の現状について、「足許は下げ止まり、一部に明るい動きも見られるが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは依然みられていない」と判断しています。ゼロ金利政策については、その副作用についても注意深く点検していく必要がありますが、当面は、こうした思い切った金融緩和措置を継続することによって、経済の回復をサポートしていくことが大事であると判断しています。
  2. (11) なお、ここ数日、金融政策運営を巡る思惑により、市場が大きく変動しましたが、金融政策運営は、定期的に開催される政策委員会・金融政策決定会合の場で討議の上、多数決で決定されるものです。事前に一定の方針が固められたり、外部との間で協議が行われるといったことは、ありえません。この点をあらためて確認するとともに、日本銀行としては、今後とも、新日銀法下での政策決定の仕組みや時々の政策運営の考え方について、正しい理解が得られるよう努めていく方針です。

以上