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当面の金融政策運営について

2019年10月31日
日本銀行

  1. 日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にあると判断した1。こうした認識を明確にする観点から、以下のとおり、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した(注1)

    日本銀行は、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

  2. 金融市場調節方針および資産買入れ方針については、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成7反対2)(注2)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      短期金利:
      日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
      長期金利:
      10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし2、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
      2. [2]CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
  3. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる。

以上


  1. (注1)片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と具体的に関連付けた強力なものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る

  1. 本日の政策委員会・金融政策決定会合では、前回会合で示した方針に基づき、経済・物価動向を改めて点検し、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを評価した。その結果は、別紙のとおりである。 本文に戻る
  2. 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る

(別紙)

「物価安定の目標」に向けたモメンタムの評価(注3)

日本銀行では、前回の金融政策決定会合において、このところ、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあると判断した。こうした情勢にあることを念頭に置きながら、今回の金融政策決定会合では、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを評価する際の主な要因である「マクロ的な需給ギャップ」と「中長期的な予想物価上昇率」等に関して、以下のとおり点検を行った。そのうえで、日本銀行では、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にあると判断した。

  1. マクロ的な需給ギャップ

    マクロ的な需給ギャップは、いったん、プラス幅を縮小するとみられる。もっとも、見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くもとで、マクロ的な需給ギャップは、均してみれば現状程度のプラスを維持すると考えられる。

    海外経済については、米中貿易摩擦の拡大・長期化や、中国をはじめとする新興国・資源国経済において減速の動きが続いていることなどから、成長ペースの持ち直し時期がこれまでの想定よりも遅れるとみられる。わが国経済については、そうしたもとで、輸出の弱めの動きが続くことや、消費税率引き上げなどの影響もあることから、いったん、潜在成長率を幾分下回る成長となり、マクロ的な需給ギャップのプラス幅は縮小することが見込まれる。

    もっとも、2021年度までの見通し期間を通じてみると、設備投資は、海外経済の減速の影響から、製造業を中心にいったん増勢が鈍化するものの、都市再開発関連投資、省力化投資、研究開発投資などを中心に、緩やかな増加を続けると予想される。個人消費は、消費税率引き上げの影響が小幅にとどまるもとで、雇用・所得環境の改善が続くことなどから、緩やかな増加傾向をたどるとみられる。このように、国内需要については、海外経済の減速の波及は限定的となり、増加基調をたどると考えている。また、海外経済についても、各国のマクロ経済政策の効果発現やIT関連財のグローバルな調整の進捗などを背景に、先行き、成長率を高めると予想される。そうしたもとで、わが国経済は、見通し期間を通じて、拡大基調が続き、均してみれば、潜在成長率並みの成長を続け、マクロ的な需給ギャップは、現状程度のプラスを維持するとみられる。

  2. 中長期的な予想物価上昇率

    中長期的な予想物価上昇率は、指標ごとに動きが幾分異なるが、総じてみると、横ばい圏内で推移している。先行き、マクロ的な需給ギャップがプラスを維持していくもとで、中長期的な予想物価上昇率は、上昇傾向をたどると考えられる。

    中長期的な予想物価上昇率をみると、一部で弱めの動きがみられる一方で、上昇の動きを示す指標もみられるなど、指標ごとに動きが幾分異なるが、総じてみると、横ばい圏内で推移している。また、家計の値上げ許容度や企業の価格設定スタンスといった、家計や企業の物価に対するスタンスをみると、依然として慎重さは残るものの、積極化の兆しもみられている。

    先行き、景気の拡大基調が続き、マクロ的な需給ギャップがプラスを維持していくもとで、雇用・所得環境の改善が続いていけば、家計の値上げ許容度は徐々に高まり、企業も価格設定スタンスを次第に積極化していくことが見込まれる。家計や企業の物価に対するスタンスが積極化していけば、現実の物価上昇率の伸びを通じて、「適合的な期待形成」の面で、中長期的な予想物価上昇率を押し上げていくと期待される。また、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことが、「フォワードルッキングな期待形成」の面で、中長期的な予想物価上昇率を押し上げていく力になると考えられる。

    こうしたもとで、中長期的な予想物価上昇率は、先行き、上昇傾向をたどり、2%に向けて次第に収斂していくとみられる。

  3. 原油価格や国際金融市場の動向等
    輸入物価を含め価格全般に影響を及ぼす原油価格や国際金融市場の動向を確認すると、原油価格は、今年の春頃に比べると下落した水準にあるが、夏場以降は、振れを伴いつつも、横ばい圏内で推移している。また、国際金融市場は、米中貿易摩擦や世界経済の減速に対する懸念などを背景に、リスク回避的な動きが続いていたが、最近は、ひと頃に比べると、落ち着いて推移している。
  4. 留意点
    物価の動向に関しては、マクロ的な需給ギャップ、中長期的な予想物価上昇率のどちらの面からも不確実性が大きい状況が続いている。特に、海外経済について、下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、成長ペースの持ち直し時期がさらに遅れたり、一段と減速するなど、下振れリスクが顕在化した場合には、マクロ的な需給ギャップなどの経路を通じて、物価にも相応の影響が及ぶ可能性がある点には留意しなければならない。また、今後の原油価格や国際金融市場の展開によっては、物価にも影響が及ぶ可能性があるため、注視する必要がある。

以上


  1. (注3)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:片岡委員。片岡委員は、物価上昇率の実績値、需給ギャップ、予想物価上昇率の動向を踏まえると、「物価安定の目標」に向けたモメンタムはすでに損なわれているとして反対した。 本文に戻る

(参考)

開催時間
10月30日(水) 14:00~15:52
10月31日(木) 9:00~12:25
出席委員
議長 黒田 東彦(総裁)
雨宮 正佳(副総裁)
若田部昌澄( 副総裁 )
原田 泰 (審議委員)
布野 幸利( 審議委員 )
櫻井 眞 ( 審議委員 )
政井 貴子( 審議委員 )
鈴木 人司( 審議委員 )
片岡 剛士( 審議委員 )

上記のほか、

10月30日
財務省  神田 眞人 大臣官房総括審議官(14:00~15:52)
内閣府  田和 宏  内閣府審議官(14:00~15:52)
10月31日
財務省  遠山 清彦 財務副大臣(9:00~11:58、12:07~12:25)
内閣府  宮下 一郎 内閣府副大臣(9:00~11:58、12:07~12:25)

が出席。

公表日時
当面の金融政策運営について――10月31日(木)12:32
経済・物価情勢の展望(基本的見解)――10月31日(木)12:32
経済・物価情勢の展望(背景説明を含む全文)――11月1日(金)14:00予定
主な意見――11月11日(月)8:50予定
議事要旨――12月24日(火)8:50予定

以上