新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化について
2020年3月16日
日本銀行
- 新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響により、世界経済の不透明感が高まり、内外金融資本市場では不安定な動きが続いている。こうしたもとで、わが国の景気は、このところ弱い動きとなっている(別紙)。また、金融環境も中小企業の資金繰りなど企業金融の一部で緩和度合いが低下している。
- こうした情勢を踏まえ、日本銀行は、企業金融の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持し、企業や家計のコンフィデンス悪化を防止する観点から、(1)国債買入れやドルオペを含む一層潤沢な資金供給の実施、(2)新たなオペレーションの導入を含めた企業金融支援のための措置、(3)ETF・J-REITの積極的な買入れ、により金融緩和を強化することが適当と判断した。
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このため、本日の政策委員会・金融政策決定会合では、以下の決定等を行った。
- (1)一層潤沢な資金供給の実施
積極的な国債買入れなどのほか、(2)、(3)の手段も活用しつつ、当面、円資金の一層潤沢な供給に努める。
米ドル資金については、本日、日本銀行は、カナダ銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行、米国連邦準備制度およびスイス国民銀行と協調して、資金供給オペについて、貸付金利を0.25%引き下げるとともに、これまでの1週間物に加え、3か月物を週次で実施することを公表した。これにより、米ドル資金の流動性供給にも万全を期す方針である1。
- (2)企業金融支援のための措置
- [1]新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの導入(全員一致)
民間企業債務を担保(約8兆円<2020年2月末>)に、最長1年の資金を金利ゼロ%で供給する新たなオペレーション(残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算)を導入する。同措置は、2020年9月末まで実施する。 - [2]CP・社債等買入れの増額(全員一致)
CP・社債等の追加買入枠を合計2兆円設け、CP等は約3.2兆円、社債等は約4.2兆円の残高を上限に買入れを実施する2。増額買入れは、2020年9月末まで継続する。
- [1]新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの導入(全員一致)
- (3)ETF・J-REITの積極的な買入れ(全員一致)
ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う3。
- (1)一層潤沢な資金供給の実施
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次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針については、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)のもとで、これまでの方針を維持する(賛成7反対2)(注1)。
- 短期金利:
- 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
- 長期金利:
- 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし4、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
- 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる(注2)。
- 日本銀行は、本日の金融緩和措置が、新型感染症拡大への政府の各種対策や各国の政府・中央銀行による様々な対応と相俟って、金融経済活動の下支えに貢献するものと考えている。
以上
- (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:原田委員、片岡委員。原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。片岡委員は、短期政策金利を引き下げることで金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
- (注2)片岡委員は、2%の物価目標の早期達成のためには、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と具体的に関連付けた強力なものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る
- 「グローバルな米ドル流動性供給を拡充するための中央銀行の協調行動」(2020年3月15日)。 本文に戻る
- 追加買入れ枠以外の既存のCP等、社債等については、引き続き、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。 本文に戻る
- ETFおよびJ-REITの原則的な買入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。 本文に戻る
- 金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。 本文に戻る
(別紙)
経済・物価の現状と見通し
- わが国の景気は、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響により、このところ弱い動きとなっている。すなわち、昨年来の海外経済の減速に加え、中国を中心とする外需の減少や生産停止に伴う国際的なサプライチェーンへの影響により、わが国の輸出・生産も減少している。また、インバウンド観光客の減少に加え、国内におけるイベントや外出自粛の動きが、関連業種の業績悪化をもたらしている。わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にあるが、中小企業の資金繰りなど企業金融の一部で緩和度合いが低下している。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば横ばい圏内で推移しているが、このところ弱めの指標もみられている。
- 先行きのわが国経済は、当面、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響から弱い動きが続くとみられる。その後は、各国の対応などにより感染症拡大の影響が和らいでいけば、所得から支出への前向きの循環メカニズムに支えられて、緩やかな拡大基調に復していくと考えられる。消費者物価の前年比は、当面、原油価格の下落の影響もあって弱含むとみられる。その後は、経済が緩やかな拡大基調に復していけば、そのもとで徐々に上昇率を高めていくと考えられる。
- リスク要因としては、まず、新型コロナウイルス感染症拡大の帰趨や、それが内外経済へ与える影響の大きさや期間については、不確実性が大きい。また、保護主義的な動きとその影響、地政学的リスクなども残存している。さらに、最近の原油価格の動向が、経済・物価に及ぼす影響にも注意が必要である。こうした下振れリスクは高まっているとみられ、内外金融市場の動向やわが国の企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある。
以上
(参考)
- 開催時間
- 3月16日(月) 12:00~13:59
- 出席委員
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議長 黒田 東彦(総裁)
雨宮 正佳(副総裁)
若田部昌澄( 副総裁 )
原田 泰 (審議委員)
布野 幸利( 審議委員 )
櫻井 眞 ( 審議委員 )
政井 貴子( 審議委員 )
鈴木 人司( 審議委員 )
片岡 剛士( 審議委員 )
上記のほか、
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財務省 神田 眞人 大臣官房総括審議官(12:00~13:41、13:49~13:59)
内閣府 西村 康稔 経済財政政策担当大臣(12:00~13:41、13:49~13:59)
が出席。
- 公表日時
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新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化について――3月16日(月)14:06
主な意見――3月25日(水)8:50予定
議事要旨――5月7日(木)8:50予定
以上