このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(1998年 2月26日開催分)*

  • 本議事要旨は1998年 3月26日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年 3月31日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年 2月26日(9:00〜10:50)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 松下康雄(総裁)
  • 濃野 滋(任命委員)
  • 後藤康夫(  任命委員  )
  • 武富 将(  任命委員  )
  • 中川隆進(大蔵省代表)
  • 藤島安之(経済企画庁代表)

(執行部からの報告者)

  • 副総裁福井俊彦
  • 理事永島 旭
  • 理事米澤潤一
  • 理事山口 泰
  • 企画局長川瀬隆弘
  • 営業局長竹島邦彦
  • 営業局審議役川原義仁
  • 国際局長杉田正博
  • 調査統計局長松島正之

(事務局)

  • 政策委員会室長三谷隆博
  • 政策委員会室参事補渡部 訓
  • 企画局企画課長山本謙三
  • 企画局参事補雨宮正佳

I. 前々回会合の議事要旨の承認

 執行部からの報告に先立ち、前々回会合(1月16日)の議事要旨が承認され、3月3日に公表することとされた。

II.執行部からの報告の概要

1.前回会合以降の金融調節の運営実績

 前回会合(2月13日)以降の金融調節の運営実績をみると、前回会合で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す)のもとで、各種の調節手段を十分活用しつつ、市場に対する潤沢な資金供給に努めた。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は概ね0.4%台前半で推移した。

 ターム物金利については、期越え資金調達が一段と積極化したことから、ジリ高傾向が続いた。これに対しては、調節面で一段と積極的に長目の資金供給を続けた。こうした日本銀行による期越え資金供給の累増や政府による金融システム安定化策の進展などから、ごく最近に至り、ターム物金利にやや低下の兆しがみられ始めている。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対米ドル相場は、前回会合以降、再び円安方向への動きとなり、ごく最近は128円台となった。円の対マルク相場も同様に円安化し、円の名目実効レートも若干円安化した。なお、東アジア諸国の通貨は、インドネシア・ルピア等が依然不安定な状態にあるものの、その他の通貨は総じて持ち直しつつある。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済の動向をみると、景気は家計支出を中心に、本年入り後も堅調を持続している。一方、生産者物価はさらに軟化している。金融面をみると、長期金利は、金融緩和期待が後退したこともあって、やや上昇した。株式市況は、アジアの経済調整が米国企業に与える影響は当初予想比軽微との見方もあって、大きく上昇を続けている。

 欧州については、ドイツでは、景気回復の中心であった輸出にやや力強さが欠けてきている一方、フランスは、輸出に加え個人消費が緩やかな立ち直りをみせており景気回復を続けている。英国では、純輸出の減少等からやや減速感も窺われているが、内需は個人消費中心に総じて堅調な拡大傾向にあり、物価情勢はインフレターゲットとの関係で微妙な状況にある。

 東アジア各国では、一部に経常収支改善の兆しが窺われるが、内需は減退傾向が強まる状況が続いている。なお、株式市況は、総じて持ち直しをみせている。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降に発表された経済指標をみると、輸出について、アジア向けの減少傾向が一段と顕著に現われてきたほか、個人消費に関しても、昨年末にかけて消費性向が大きく低下しており、消費者マインドの萎縮が改めて確認された。一方、企業の98年度設備投資計画は、最近発表されたアンケート調査結果によれば、本年度を若干下回るものとなっている。これらからみる限り、下振れの目立つ先行指標の動き等にみられるほど先行きの投資マインドが弱気化しているようには窺われないが、今後の景気展開如何では、投資計画下振れの懸念は払拭できないとみられる。

(2)金融情勢

 金融面をみると、短期金融市場のターム物金利は、ごく最近、低下の兆しもみられ始めているが、これまでのところは総じて高止まり傾向が続いている。また、社債・金融債利回りも高止まっており、全体として、信用リスク・流動性リスクに対する市場の懸念は依然として強い状況にあるとみられる。この間、株価は一進一退で推移しており、長期国債利回りも1月後半に上昇した後、2月入り後は再び軟化している。このことからみて、追加的な景気対策に対する市場の思惑が、幾分後退していることが窺われる。

 この間、1月のマネーサプライ(M2+CD)が公表され、前年比、3か月前比年率ともに昨年12月に比べ伸びを高めた。これは、企業による手許資金積み上げ姿勢の強まり、企業や家計による金融資産間のシフト、等を反映したものとみられる。

III. 金融経済情勢および当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 始めに、月2回目の金融政策決定会合における検討の進め方について、議長から以下の確認があった。

 月2回目の会合では、通常は、前回会合以降に公表された経済指標や金融市場動向を踏まえ、前回会合における総括的な判断や決定を修正する必要があるか、次回会合までにどのような点に着目していくべきかといった点を中心に、中間的なレビューを行うこととしたい。

 上記について委員の了承が得られた後、委員会における検討が行われた。

 まず、景気の現状については、前回会合以降発表された景気指標は弱めのものが多いが、総じてみれば、前回会合における判断(「家計支出を中心とする内需減速の影響が生産面や雇用・所得面に及んでおり、企業マインドも悪化している。このため、景気は停滞が続いている。」)を裏付ける内容のものが多いとの見方で、委員の意見の一致をみた。

 先行きの景気動向との関連で、当面留意すべき事項としては、以下のような点が検討された。

 まず、今後の設備投資動向については、98年度設備投資計画の減少幅は目下のところ小幅なものにとどまっているが、企業収益の状況等を踏まえると、今後、次第に下方修正されていく公算が大きいのではないかとの意見が示された。ただ、現段階における98年度の設備投資計画はまだ十分固まったものでないほか、企業はそれなりに投資案件を抱えているともみられ、今後の設備投資動向は、企業の景況感に依存する部分が大きいとの指摘もあった。

 輸出面では、アジア向け輸出の動向について意見交換が行われた。12月のアジア向け輸出(特に韓国向け)の落ち込みについては、貿易信用面等における混乱により減少幅が大きめに出ている可能性もあり、これら諸国の内需減速による基調的な影響がどの程度現われ始めているのか、現段階では判断は難しいとの意見が示された。なお、アジア諸国の為替レート下落がわが国経済に与える影響については、マイナス面だけでなく、長期的にはそれを緩和する面もあるとの意見があった。すなわち、こうした為替調整は、短期的にはわが国に対する輸入圧力の増大につながるが、長い目でみれば、これら諸国の輸出の増加に伴い、輸出産業向け部品輸入が増加したり、ひいては各国経済の立ち直りが早まれば、わが国にとっても好ましい影響が期待されるとの見方であった。

 以上のほか、実体経済活動に関する当面の着目点として、現在の景気停滞の動きが雇用面にどの程度の影響を及ぼすか、物価が一段と弱含む可能性をどうみるか、等の点が委員から指摘された。

 金融面では、ごく最近、短期金融市場のターム物金利に低下の兆しが見え始めているが、信用リスク、流動性リスクに対する市場の懸念は依然根強い状況にあるとの見方が多く示された。このため、引き続き、日本銀行による潤沢な資金供給の効果や、政府による金融システム安定化策の具体化の状況、それらを受けた市場心理の動向等を注意深く見守っていく必要があるとの見方で、委員の意見の一致をみた。

 金融機関の融資姿勢については、「金融機関貸出に対する自己資本面からの制約は一頃に比べれば幾分緩和している」との前回の判断に対して、特に追加的な材料は得られていないが、3月期末に向けての金融機関の融資行動およびその企業金融に対する影響については、引き続き注意して観察していく必要があるとの見方が多く示された。

 この間、大蔵省代表委員から、政府としては、特別減税、公共事業の追加、ゼロ国債の確保を含む9年度補正予算の鋭意執行と金融システム安定化2法の実施に努めていること、現在は、平成10年度予算案やその関連法案の早期成立・実施が何よりも重要であること等の見解が述べられた。
 また、経済企画庁代表委員からは、企業サイドからみると金融機関の融資姿勢慎重化の影響は依然厳しく、政府としても、政府系金融機関関連の諸措置等を講じているが、引き続き、実体経済に与える影響を注視していきたいとの考え方が述べられた。

IV.採決

 以上の検討を踏まえ、当面の金融政策運営については、前回会合で決定された方針を変更する必要はなく、現状の金融緩和姿勢を維持し、その効果がターム物金利等に波及していくことを促しつつ、政府による諸施策の具体化やその効果も含め、情勢の展開を注意深く見守っていくことが適当であるという点で、概ね共通の見解に達した。

 これを受けて、議長が以下の議案をとりまとめ、採決が行われた。

議案

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:松下委員、濃野委員、後藤委員、武富委員
  • 反対:なし

以上


(別添)
平成10年 2月26日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(全員一致)。

以上