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金融政策決定会合議事要旨

(1998年 3月26日開催分)*

  • 本議事要旨は1998年 4月24日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年 4月30日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年3月26日(8:30〜10:15)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 濃野 滋(任命委員)
  • 後藤康夫(  任命委員  )
  • 武富 将(  任命委員  )
  • 中川隆進(大蔵省代表)
  • 藤島安之(経済企画庁代表)

(執行部からの報告者)

  • 副総裁藤原作弥
  • 理事永島 旭
  • 理事米澤潤一
  • 理事山口 泰
  • 企画局長川瀬隆弘
  • 営業局長竹島邦彦
  • 営業局審議役川原義仁
  • 国際局長杉田正博
  • 調査統計局長松島正之

(事務局)

  • 政策委員会室長三谷隆博
  • 政策委員会室参事補渡部 訓
  • 企画局企画課長山本謙三
  • 企画局参事補雨宮正佳

I. 前々回会合の議事要旨の承認

 執行部からの報告に先立ち、前々回会合(2月26日)の議事要旨が承認され、3月31日に公表することとされた。

II.執行部からの報告の概要

1.前回会合以降の金融調節の運営実績

 前回会合(3月13日)以降の金融調節の運営実績をみると、前回会合で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す)のもと、期末を控えていることも念頭に置き、各種の調節手段を活用しつつ、市場に対する潤沢な資金供給に努めた。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は落ち着いて推移した。

 この間、ターム物金利については、日本銀行による潤沢な期越え資金の供給等を反映して、総じて低下傾向が続いた。こうした状況下、期越え資金供給残高が累増していることに鑑み、ターム物金利の動向に細心の注意を払いつつ、期越えの手形売却オペレーション(売手オペ)を実施している。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対米ドル相場は、前回会合以降、追加景気対策への思惑等を材料とする小浮動が続いているが、総じてみると、米国において経済の好調や株高が続いていることなどから、やや軟調に推移した。この間、円は対アジア通貨でもやや円安化したこともあって、名目実効レートでみても、緩やかな円安方向への動きとなった。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済の動向をみると、輸出にやや減速感がみられるが、家計支出等を中心に堅調な拡大を続けており、労働需給の逼迫は広範化している。ただ、物価は、引き続き落ち着いた動きとなっている。金融面をみると、長期金利は、一方で景気の堅調持続や労働需給の逼迫、他方で生産性向上やドル高・国際商品市況安と、物価に対する強弱両要因が交錯したことから、一進一退で推移した。株式市況は、米国経済の堅調持続を主因に引き続き上昇しており、最高値圏で推移している。最近の地区連銀報告では、不動産市場でやや投機的な動きが出ているとの指摘もある。この間、マネーサプライは、不動産関連の銀行貸出増などを背景に、やや伸びを高めている。

 欧州については、ドイツでは、輸出が若干鈍化しており、内需も力強さに欠けているが、フランスは、個人消費を中心に内需が底固さを増している。英国では、内需にも減速の兆しがみられるが、賃金、物価の上昇懸念は払拭されていない。

 東アジアをみると、韓国、タイでは、為替・株式市場には信認が戻りつつあるが、これらの国でも内需の減速がさらに鮮明化している。インドネシアでは、物価の高騰と経済活動の停滞がみられており、社会不安も高まっている。中国では、物価が引き続き低下しており、金融緩和措置が採られている。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降に発表された経済指標をみると、輸出が、アジア向けの一段の減少から、増勢鈍化傾向が明確化している。個人消費は低迷基調が続いており、これまでのところは、特別減税の効果は明確には現れていない。企業の98年度設備投資計画は、最近新たに判明したアンケート調査結果をみると、企業収益の下振れ等を反映して、最近3年間の同時期調査における翌年度計画を下回っている。また、雇用者所得については、冬のボーナスが低調であったほか、今春の賃上げ率も抑制される見通しにある。このように、前回会合以降に発表された国内経済指標等の動きは、前回会合での評価を、概ね再確認する内容となっている。

(2)金融情勢

 金融面をみると、短期金融市場のターム物金利は、3月入り後低下を続けているが、昨年秋以前に比べればなお高い水準にある。年度末の流動性リスクに対する懸念はかなり和らぎつつあるが、市場の信用リスクに対する意識には引き続き根強いものがあるとみられる。この間、株価は一進一退の動きが続いているほか、長期国債利回りも弱含みとなっており、両市場とも、景況感に改善がみられない中で、追加景気対策への思惑により振れやすい状況にある。

 量的金融指標では、2月のマネーサプライが判明し、M2+CDの前年比は伸びを一段と高めている。ただ、広義流動性の伸びが横這い圏内にあることなどに鑑みると、M2+CDの高い伸びは、主に、投信等からの流入といった金融資産間のシフトを反映したものと考えられる。この間、金融機関貸出については、公的資金投入等の金融システム安定化策などもあって、自己資本面からの制約は幾分和らいだとみられるが、企業によっては厳しい資金繰り環境が続いており、期明け後の4月以降も注意深く観察していく必要がある。

III. 金融経済情勢および当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 前回会合(3月13日)以降の追加的な材料を踏まえ、前回会合における判断を修正すべき部分があるかどうか、また次回会合(4月9日)までにどのような点に注目していくべきか、という観点から、討議が行われた。

 景気の現状については、前回会合における判断(「わが国の景気は停滞を続けており、下押し圧力が強まりつつある。」)を変更すべき材料は得られていないという見方で、委員の意見の一致をみた。

 先行きの景気動向との関連で、当面留意すべき事項としては、4月初に判明する短観(企業短期経済観測調査)の結果が注目されるとの見解が多く示されたほか、以下のような意見交換が行われた。

 輸出面では、アジアの経済情勢の影響を含め、今後十分注目していく必要があるとの意見が多く示された。また、先行きの輸出動向との関連で、当面堅調を続けるとみられる米国の経済についても、株価、労働市場、貿易赤字などの面で調整圧力が蓄積されてきている可能性も否定できず、引き続き注意深く見守っていく必要があるとの指摘がなされた。

 今後の家計部門の動向については、昨年来の消費性向の低下により貯蓄、言い換えれば潜在的な購買意欲が蓄積されており、それが今後、実物資産(消費)に向かうのか、外為法の改正等をきっかけに新たな金融資産の購入に向かうのか、実体経済、金融の両面から丹念にみていく必要があるとの指摘があった。
 すなわち、まず、実体経済面では、金融市場の落ち着きなどをきっかけに家計の不安心理が後退し、潜在的な購買意欲が消費活動に結びついていくことも考え得るのではないかとの意見が示された。ただし、そうした委員も含め、消費者マインドの動向については、今後の所得動向の影響等も含め、慎重にみておく必要があるとの見方が多かった。
 金融面では、この間増加した家計貯蓄が、資金循環全体や金利形成に、どのような影響を与えていくのかといった視点も示された。この関連で、4月の外為法改正などにより金融商品が次第に多様化するなかで、ストックベースの家計貯蓄の中身にどのような影響が及んでいくかも興味深い、との意見があった。

 地価を巡っては、前日公表された公示地価の下落率が縮小してきていることや、外人投資家が不動産担保債権の購入を積極化させていることなどが指摘された。そのうえで、そうした動きが、経済の重石となってきた不良債権問題を、今後緩和する方向で作用していくことを期待したいとの見方が示された。

 金融市場の動向については、金融機関の3月期末に向けた流動性手当には、概ね目処がつきつつあるとの意見が多かった。ただ、5月に決算が判明することなどを踏まえると、信用リスクに対する市場の意識は根強く残る可能性が高く、4月入り後も、金利や株価の動向には十分に注意を払っていく必要があるとの見方で、委員の意見の一致をみた。また、企業金融面についても、このところ大型倒産は一服しているが、4月以降の動向についても、引き続き注視していくべきであるとの意見が示された。

 この間、大蔵省代表委員から、特別減税を含む9年度補正予算の執行、金融システム安定化のための措置などが着実に講じられ、追加景気対策についても与党において様々な議論がなされていることなどの説明がなされた。そのうえで、当面、10年度予算の早期成立とその切れ目ない執行が最も重要な施策と考えているとの見解が述べられた。さらに、累積した期越えオペの国債を4月以降市場へ還流させるに際して、それが現物債の需給バランスへ与える影響についても、注意して運営する必要があるとの意見が述べられた。

 また、経済企画庁代表委員からは、ターム物金利の低下など金融面で好ましい動きも出てきているが、企業金融面ではなお厳しい状況が続いているとみられ、政府としても様々な対応措置を講じているとの説明があった。

IV.採決

 以上の検討を踏まえ、当面の金融政策運営については、前回会合で決定された方針を変更する必要はなく、現状の金融緩和姿勢を維持し、4月入り後の金融市場の動向や、4月初に判明する短観の結果等を含め、情勢の展開を注意深く見守っていくことが適当であるという点で、概ね共通の見解に達した。

 これを受けて、議長が以下の議案をとりまとめ、採決が行われた。

議案

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、濃野委員、後藤委員、武富委員
  • 反対:なし

 最後に、4〜9月における金融政策決定会合の日程が別添2のとおり承認された。

以上


(別添1)
平成10年 3月26日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(全員一致)。

以上


(別添2)
平成10年 3月26日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成10年4〜9月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成10年4〜9月)
  会合開催 (参考)金融経済月報公表 (議事要旨公表)
4月 4月 9日(木)
4月24日(金)
4月13日(月)
−−
(5月22日(金))
(6月17日(水))
5月 5月19日(火) 5月21日(木) (6月30日(火))
6月 6月12日(金)
6月25日(木)
6月16日(火)
−−
(7月22日(水))
(7月31日(金))
7月 7月16日(木)
7月28日(火)
7月21日(火)
−−
(8月14日(金))
(9月14日(月))
8月 8月11日(火) 8月13日(木) (9月29日(火))
9月 9月 9日(水)
9月24日(木)
9月11日(金)
−−
未定
未定

以上