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金融政策決定会合議事要旨

(1998年 4月24日開催分)*

  • 本議事要旨は98年 6月12日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年 6月17日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年 4月24日(9:00〜13:00)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   中村正三郎 政務次官
  • 経済企画庁 新保生二  調査局長

(執行部からの報告者)

  • 理事永島 旭
  • 理事米澤潤一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 国際局長杉田正博
  • 調査統計局長松島正之
  • 企画室企画第1課長山本謙三

(事務局)

  • 政策委員会室長三谷隆博
  • 政策委員会室渡部 訓
  • 企画室調査役門間一夫

I. 前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(3月26日)の議事要旨が、全員一致で承認され、4月30日に公表することとされた。

II. 政府からの出席者の発言

 政府からの出席者として会合に参加した中村正三郎大蔵政務次官より、骨子以下のような発言があった。

  • 大蔵省では、景気の現状について、「停滞しており一層の厳しさを増している」と判断しており、日本銀行の見方と一致している。ただ、企業家のマインドが現在冷え込んでおり、いつ底を打って立ち上がるかという微妙な局面にあるので、大蔵省では「下押し圧力が強い」といったような表現は用いないようにしている。
  • つい先刻(4月24日早朝)、財政構造改革会議は、(1)特例公債発行枠について「経済活動の著しい停滞」等を条件とした弾力化を可能とする措置を講ずること、(2)財政健全化目標(財政赤字の対名目GDP比率3%、特例公債の発行額ゼロ)を2003年度から2005年度に延期すること、(3)社会保障関係費の上限枠を99年度に限って例外扱いとすること、を柱とする「財政構造改革法の弾力化等について」を決定した。
  • 貸し渋りに対しても、政府は様々な措置を講じており、日本銀行においても、円滑かつ的確な資金供給により金融機関の資金繰り不安感の払拭等に努めることが重要である。

 新保生二経済企画庁調査局長からは、当日夕刻に発表が予定されている総合経済対策の基本的な考え方や、最近経済企画庁から公表された経済指標について、骨子以下のような説明があった。

  • 総合経済対策の詳細については現時点でなお検討中であるが、基本的な考え方は、(1)社会資本整備や減税による内需の拡大、(2)経済構造改革の強力な推進、(3)不良債権処理の促進、の3つである。
  • 消費動向調査によれば、家計のマインドを表す消費者態度指数が、雇用に関する見方を中心に12月に大幅に悪化した後、3月は少し回復した。ただ、消費者マインドがはっきりと明るくなり始めたとは言えない。
  • 法人企業動向調査によれば、98年度の設備投資計画は、既に公表されている短観等と同様、製造業を中心に低調な計画となっている。先行きの動きを四半期単位でみると、1〜3月、4〜6月と減少の後、7〜9月は若干プラスの計画となっている。もっとも、銀行の貸出態度は4月以降も厳しい状態が続いており、この影響を注視していく必要がある。

III.執行部からの報告の概要

1.最近の金融調節の運営実績

 金融調節については、前回会合(4月9日)で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す)に沿って運営した。細かくみれば、一部の先で資金繰りが一時的にタイト化し、コールレートに上昇圧力がかかる局面もみられたが、4月15日で終わる積み期間中の平均でみれば、オーバーナイト・レートは0.43%で着地した。当面は、特段大きな資金過不足のない状況が続くが、市場の地合いを確かめながら、CPオペ、レポオペによる資金供給、売出手形オペによる資金吸収を使い分けつつ、弾力的な調節を行っていく方針である。

 この間、ターム物金利は緩やかに低下し、ユーロ円3か月物はこのところ0.7%程度となっている。これは、昨年秋以前に比べれば信用リスクがなお強く意識された水準ではあるが、一頃の混乱状態は終息し市場は正常化してきた。日本銀行の金融調節においても、必要な資金供給は通常の調節手段で十分にまかなえる状況になってきており、昨年11月以降の混乱に対処すべく復活させていた調節貸出(2月下旬ピーク時残高1.5兆円)は、4月22日をもって全額回収した。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 前回会合以降、円の対米ドル相場は、市場介入で一旦127円となったあと、127〜132円の中でどちらかと言えば円安方向で推移したが、ごく最近は、介入警戒感や総合経済対策への期待の高まりなどを反映して、129円台まで戻している。円の対ドイツマルク相場は、通貨統合へ向けた短期金利収斂への思惑からドイツの金利引き上げ観測が台頭していることなどを背景に、総じて軟調に推移した。この間、東アジア諸国の通貨は、前回会合以降、全体として幾分改善し、落ち着きを取り戻しつつある。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済の動向をみると、第1四半期のデータがほぼ出揃ったが、自動車、住宅などの家計支出を中心に、なお力強い拡大が続いていることが窺われる。こうしたもとで、株価は、第1四半期の企業収益が予想に比べて良好であったことや、金融機関の大型合併等が好感されて上昇しており、長期金利も若干ながら上昇している。また、マネーサプライは、銀行貸出が不動産関連を中心に増加していることなどを反映して伸びを高めている。こうした株価、不動産価格やマネーサプライの状況等を受けて、米国外での論調を中心に、米国経済に資産バブルの萌芽がみられるとの見方が出ているが、他方米国内では、生産性上昇に着目したニューエコノミー論も根強い。当面、米国経済については、アップサイド・リスクが勝っているようにみられるが、東アジア経済の影響が今後どの程度顕在化するかが注目される。

 欧州については、ドイツの景気回復が緩やかなものにとどまる一方、フランスの景気回復はより明確化してきている。ただ、両国とも物価は落ち着いている。英国では、景気が堅調を持続するもとで、物価がインフレーション・ターゲットを若干上回っているが、マネーサプライや小売売上高には減速の兆しもみられ始めている。

 東アジア諸国をみると、韓国、タイで、IMFプログラムの着実な実行に対して市場の信認が回復しつつあり、海外資金が戻り始めている。しかし、実体経済面では、内需の減速と輸出の伸び悩みが続いている。中国では、内外需とも増勢鈍化の兆しがみられる。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降に発表された各種経済指標等は、前回会合における「経済活動全般に対する下押し圧力が強い状況にある」との判断を裏付ける内容であった。
 具体的にみると、実質貿易収支が、アジアの経済調整の影響から1〜3月は減少となった。設備投資関連では、企業収益の悪化等を反映して、機械受注が製造業を中心に減少傾向となっているほか、最近の企業アンケート調査によれば、今年度の設備投資計画も、短観等と同様にやや弱いものとなっている。また、別のアンケート調査では、企業の期待成長率が昨年に比べて低下しており、これが設備投資等にどのように影響してくるかについては注意が必要である。他方、家計支出関連では、一部の指標や、4月入り後の業界ヒアリング情報などに、多少明るい材料もないわけではないが、いずれも変化の決め手になるような材料ではなく、現段階では個人消費が底を打ったとは断定できない。
 こうした最終需要のもとで、在庫は引き続き高水準にあり、4〜6月は自動車を中心に一段の減産強化となる見通しである。
 このように、当面、生産・所得・支出を巡る循環は引き続きマイナス方向に働くとみられる。しかし、今夕発表される予定の総合経済対策が、これまでに明らかになっている規模や骨格からみて、夏場以降、経済の「下押し圧力」を押しとどめる方向に働くことが期待される。

(2)金融情勢

 金融面をみると、短期金融市場では、ターム物金利やジャパン・プレミアムは、4月初の海外格付け機関による日本国債の格付け見通し下方修正の報道を受けて一時上昇したが、その後は再び低下傾向を辿り、最近は3月下旬並みの水準で総じて安定的に推移している。ただし、昨年秋以前に比べれば、なお幾分高い水準にあり、信用リスクに関するプレミアムが残存している状況にある。
 長期国債利回りや株価は、政府による総合経済対策の骨格発表後、むしろ軟化している。すなわち、長期国債利回りは過去最低水準で、また日経平均株価は1万5千円台後半で、それぞれ推移しており、これらをみる限り、市場の景況感には目立った改善の動きはみられていない。
 量的金融指標をみると、3月のマネーサプライは、期末にかけて民間金融機関貸出が減少したことや、投信等からの資金シフトが沈静化してきていることなどから、幾分伸び率を低めた。3月の民間金融機関貸出は、期末の自己資本比率を意識した資産圧縮から、上位業態を中心に前年比マイナス幅が拡大した。一方、CPの発行は引き続き増加した。こうした動きを全体としてみると、公的資金の導入を含む金融システム安定化策の具体化等によって、一頃懸念されたほどの大幅な信用収縮は何とか避けられたが、中小企業などを中心に、企業によっては厳しい資金調達環境が続いているとみられる。これらが実体経済に与える影響については、引き続き注意深く点検していく必要がある。

IV. 金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

 まず、金融経済情勢の現状および先行きについて、前回会合(4月9日)以降の追加的な材料を踏まえ、前回会合における判断を修正すべき部分があるかどうかという観点から、討議が行われた。

 輸出については、3月の通関統計などを踏まえ、減少傾向にあるとの認識が確認された。ある委員からは、素材関連のアジア向け輸出が本年入り後急速に減少している事実が指摘されたうえで、アジア経済の調整は数年にわたり長引くのではないかとの懸念が示された。また、別の委員からは、わが国の貿易は輸出だけではなく輸入も減少しており、わが国を含めたアジア全体で、いわば縮小均衡的な動きになっているのではないかとの指摘があった。

 内需については、とくに設備投資が減少傾向に転じていることが、多くの委員から注目された。ある委員からは、設備投資に対する先行指標として、普通トラックの販売がかつてない落ち込みを示していることや、これまで堅調を続けてきた一般機械(とりわけ工作機械)の受注がここへきて減少に転じていることが指摘された。また、別の委員からは、製造業がバブル崩壊後の3〜4年間にリストラおよび投資調整を進め、これが基本的な背景となって95〜97年には設備投資がある程度回復したが、調整の遅れた非製造業(とりわけ金融、不動産、建設)が現在リストラの最盛期を迎えており、これが設備投資全体を再び弱くしている面があるとの認識が示された。さらに同じ委員から、折悪しく表面化したアジア経済の調整深化が、リストラで一旦立ち直った製造業に対しても、もう一段の調整圧力を加えつつあるとの懸念が表明された。

 家計支出については、多くの委員から言及があったが、全体としては、消費者マインドに下げ止まりの兆しがみられるとはいえ、これが明確な底打ちとなるかどうかについては慎重に見極めていくべきとの見解が多かった。具体的には、以下のような発言があった。

  • 12月に大きく落ち込んだ消費者態度指数が、3月は幾分回復したことなどからみて、消費性向の急速な低下には歯止めがかかってきた可能性がある。しかし、現時点ではそれも仄かな明るさ以上のものではなく、総合経済対策に対する消費者の反応等を見極めていく必要がある。
  • 個人消費はここ数か月、主に消費性向の低下によって急速に悪化したが、雇用が減少しそれがさらに個人消費を押し下げるという第2段階の調整が本格化するリスクは、総合経済対策への期待もあって差し当たり回避されているようにみえる。しかし、個人消費が改善に向かうかどうかはまだ不透明である。
  • 家計支出の低迷は、金融システム問題とも関連した雇用不安や、高齢化社会へ向けての老後不安、といった将来への不安による面が大きい。例えば住宅投資の内訳をみると、金融業や証券業に従事する者の住宅購入意欲がとりわけ弱いが、これはこれらの業界で雇用不安が大きいことと関係が深いのではないか。
  • わが国の雇用形態をみると、週当たり労働時間が35時間未満の労働者のウエイトが約2割に達するなど、女性を中心に非正規雇用者の割合がかなり高くなってきている。確かに、正規雇用については急速な調整は起こりにくいかもしれないが、非正規雇用については大幅な調整に晒される可能性があり、その割合が高くなっていることは念頭に置いておく必要がある。

 物価については、ある委員から、現在の国内卸売物価の低下は海外市況の下落に起因する面が大きく、国内物価と企業や家計の支出とが相互に影響し合って弱まるといった内生的な悪循環には、今のところ陥ってはいないとの見解が示された。しかし、その委員も含めた複数の委員から、内需の低迷を背景に物価全般がじわじわ軟化している側面にも、十分な注意を払うべきとの指摘があった。そのうち一名の委員からは、個人消費の低迷を背景にした流通末端段階での販価下落の影響が川上産業へも波及してきており、製造業の収益が大きく圧迫される要因になりかねないとの懸念が強調された。
 また、国内卸売物価は前年比2%程度の下落になっており、これを用いて計算すると、国債の利回りでさえも実質金利は3.5%とかなり高く、これが企業の投資を阻害する要因になっているとの意見もあった。別の委員からは、預金者の立場からみれば、消費者物価上昇率を勘案した実質預金金利はこのところやや上昇しているとの指摘があった。こうした実質預金金利上昇のインプリケーションについて、その委員は、外為法改正による金融ビッグバンの開始とも相俟って、家計が金融資産選好を強める可能性もありうるので、家計支出への影響には注意を要するとの見解を示した。

 以上を総括して、景気の現状については、前回会合以降判明した追加的な材料は、前回会合時の見方を裏付ける内容のものが多く、したがって、「経済活動全般に対する下押し圧力が強い状況にある」という判断を、変更する必要はないとの意見が大勢を占めた。ただ、ある委員からは、97年度補正予算の執行等から地方では公共事業の減少に歯止めがかかってきたところもあるが、製造業の生産・在庫動向全体からみると、状況は前回会合時よりもむしろ悪化しており、経済が4〜6月に後退色を強めることは不可避との見方が示された。

 次に、景気の先行きについては、総合経済対策の効果をどうみるかという点に、議論がかなり集まった(注)。具体的には、以下のような見解が述べられた。

  • (注)本討議は、それまでに報道で伝えられていた総合経済対策の大枠(総額16兆円強、公共投資6兆円、特別減税4兆円<99年分を含む>、政策減税数千億円など)を念頭に置いて進められた。なお政府からは、本決定会合当日の夜に総合経済対策の内容が発表された。
  • 16兆円もの規模の対策を打てば、経済がデフレ・スパイラルに陥ることはくいとめられると思われる。しかし、対策をきっかけに経済全体に好循環が働くところまで行けるかどうかは、単に対策の規模だけでなく、家計や企業が先行きを展望しやすくなるような内容であるかどうかにかかっている。
  • 対策には民間経済の下方圧力を押しとどめる効果は期待できるが、構造調整圧力の強い民間経済を上向かせるだけの力を持つかどうかは慎重に見極める必要がある。
  • 株式・債券市場が経済対策関連の報道に反応薄であることや、先般の短観でも実態的な計数以上に業況判断が悪化していたことを想起すると、市場や家計・企業のマインドにとっては、足許や目先の需要がどうであるかよりも、中長期的な経済見通しが重要である可能性がある。
  • 在庫調整が問題で、製造業はこの4〜6月から思い切った減産に踏み切っているが、これによって夏までにかなり調整が進み、対策関連の需要にうまくつながっていくことを期待している。
  • 90年代前半に打たれた経済対策は、民間経済の強い構造調整圧力やストック調整圧力に吸収され、効果が顕在化しなかった。現在は、民間経済に当時のような大きな調整圧力がかかっているわけではないという意味で、対策の効果を期待できる条件が一応満たされている。ただし、95年の対策が発動された局面との比較でみれば、民間の設備投資が調整局面に入りつつあることや、金融機関の融資姿勢が慎重であることなど、注意すべき点も多い。
  • 米国経済が90年代初のリセッションから回復する過程においては、不動産の流動化がきわめて重要な役割を果たした。わが国においても、今回の対策の中に不動産の流動化の促進につながる諸施策が盛り込まれたことの意義は大きく、その効果が発現することを期待したい。

 経済対策に対する評価を含め、景気の現状や先行きに関する以上の検討を総合すると、(1)実体経済面では前回会合以降目立った変化がなく、マイナス方向へのモメンタムが引き続き働いていること、(2)この間金融システム不安は一頃よりも和らいでいるとはいえ、なお根強く続いているとみられること、(3)そうしたもとで打ち出される総合経済対策は、経済が先行きデフレ・スパイラルに陥るのを押しとどめる効果を持つことが期待できるが、民間経済中心の自律的な景気回復につながるかどうかについては現時点では明確でない、というのが委員の概ね一致した認識であった。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 まず、金利の引き上げについては、総合経済対策によって景気が回復に向かうかどうか見極めがつかない現段階においては、選択肢になり得ないという点で、委員の意見の一致をみた。

 一方、金利の引き下げについては、既に金利が極めて低い水準にあることから、どのような金融経済情勢のもとで一段の金融緩和に踏み切るか、また一段の金融緩和を行った場合の効果をどうみるかなどについて、慎重に検討する必要があるという趣旨の意見が多く出された。ある委員からは、総合経済対策によって今後総需要が増加してくれば、自然体では金利に上昇圧力がかかることになるので、そうした局面に向かって金利を一定に据え置くこと自体が、実質的には金融面からのサポートを強めることになるとの見解が示された。また、別の委員からは、現状程度の金融緩和を維持することが、家計マインドと企業マインドの両方にちょうどバランスのよい支援を提供することになるのではないか、といった見方が述べられた。
 他方、ある委員からは、政府の総合経済対策の効果を金融面からサポートする観点、金融機関の融資対応力を高める観点などを踏まえると、金融面から何らかの対応を考えていくことも検討すべきではないかとの見解が示された。
 こうした金融機関の融資対応力等を巡る問題については、多くの委員から、金融機関の融資姿勢が3月期末を越えた後も慎重であることなどを踏まえ、金融システムの弱さや、その強化の必要性があることを確認する意見が出された。具体的には、次のような指摘があった。

  • 広義流動性の増加率が、昨年の3.5%程度から最近は3%程度まで落ちてきているが、信用乗数(=M2+CDをベースマネーで除した倍率)が低下傾向を辿っていることとも併せ、信用創造力が弱まっている可能性を示唆するものとしてやや気になる動きである。
  • 総合経済対策によって差し当たり景気が下げ止まるとしても、民間需要中心の景気回復へと移行する過程において、金融システムの弱さがその障害となる可能性が懸念される。金融機関にリスクを担う力を回復させることはここ数年来の課題であるが、こうした局面においては特にその重みを増していると言える。
  • 金融機関の融資姿勢が慎重化している点については、個々の金融機関にしてみれば、信用リスクを反映した融資基準を適用するようになってきたという意味で、むしろ正常化の過程にあるという側面も強い。しかし、ミクロ的にはこれが正しい行動であるとしても、マクロ的には望ましくない結果を生むとすれば、これをどう考えるかという問題が残る。

 しかし、これらを指摘した全ての委員から、金融機関の融資姿勢や融資能力の問題自体は、金融政策によって直接解決することは難しく、それ以外の方策でこれに対処すべきであるとの見解が示された。例えば、ある委員からは、不動産や債権の流動化を促進する環境の整備や、直接金融市場の機能充実の重要性が指摘された。また別の委員からは、金融機関の融資姿勢慎重化を受けた企業金融の逼迫はもちろん重要な問題ではあるが、企業毎にかなり差のある現象であるので、社会政策面から必要に応じて対応されるべき問題であるとの意見が示された。さらに別の委員からは、金融システム安定化策の一環として用意された公的資金を、金融機関の機能回復のために如何にうまく使っていくかが、問題解決へ向けての最大のポイントであることが主張された。また、金融システム不安のもとで家計の資金が郵貯に吸収され、それが政府系金融機関へ流れるという形で公的金融シフトが生じている現実を、民間金融機関の融資対応力との関係でどう考えるかも重要なポイントである、との意見を述べる委員もあった。

 こうした議論の一環として、ある委員から、金融機関の融資対応力をサポートすることを視野に入れつつ、預金準備率の引き下げもひとつの選択肢になり得るのではないかとの見方が示された。これに対しては、複数の委員から、そもそも預金準備率を引き下げれば、量的な金融の拡大を通じて金融緩和効果が生まれると考え得るのかどうか、あるいは短期金利の安定的な形成を阻害するなどの弊害がないかどうかなど、もう少し慎重に検討すべき論点があるとの意見が示された。また、数名の委員から、準備預金制度面での工夫をはじめ何かこれまでと異なる方法で金融緩和効果を狙うような場合には、これまでの金融政策との一貫性をどう考えるかという点も重要なポイントではないかとの見解が述べられた。

 以上の検討の結果、最初に金融面から何らかの対応を採るべきと主張した委員を含め、結局委員全員が、当面は総合経済対策の具体的内容やそれに対する市場の反応、さらにはそれが経済にどのような形で効果を及ぼしていくかを見守りながら、これまでの金融緩和スタンスを維持するとの見方で、意見の一致をみた。なお、ある委員から、基本的な金融緩和スタンスを現状維持とすることに異論はないが、4〜6月はかなり厳しい景気情勢になることも踏まえ、現状維持の範囲内でオーバーナイト金利がなるべく低水準で推移するように運営することが望ましいのではないかとの見方が、前回に引き続き述べられた。

VI.採決

 以上の検討の結果、次回金融政策決定会合までの金融政策運営については、現状の金融緩和姿勢を維持し、総合経済対策の具体的内容やその効果を含め、情勢の展開を注意深く見守っていくことが適当であるという点で、概ね共通の見解に達した。

 これを踏まえ、議長が以下の議案をとりまとめ、採決が行われた。

議案

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、中原委員、篠塚委員、植田委員
  • 反対:なし

以上


(別添)
平成10年 4月24日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(全員一致)。

以上