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金融政策決定会合議事要旨

(1999年 2月25日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年3月25日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年 3月30日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年2月25日(9:02から11:46、12:33から15:28)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)(注)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • (注)藤原委員は、国会出席のため、9:27~11:46の間、会議を欠席した。
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   谷垣禎一 政務次官( 9:02~11:46)
  • 経済企画庁 今井 宏 政務次官( 9:20~10:36)
  • 小峰隆夫  物価局長(10:36~15:28)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巌
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 国際局長村上 堯
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局早川英男
  • 企画室参事
    (企画第1課長)
    山本謙三

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役門間一夫
  • 企画室調査役栗原達司

1.前々回会合の議事要旨の承認

前々回会合(1月19日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、3月2日に公表することとされた。

2.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節については、前回会合(2月12日)で決定された方針(より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート<オーバーナイト物>を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す)にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト・レートは、0.10%前後で推移している。

この間の動きをやや具体的にみると、まず政策変更後の最初の営業日であった2月15日には、オーバーナイト・レートは0.15%で活発に取り引きされた後、日本銀行の積極的な資金供給姿勢を反映してさらに低下し、同日中の加重平均値は0.12%(前営業日は0.28%)となった。次いで、2月16日の記者会見における総裁発言(「ゼロでやっていけるならゼロでもいいと思う」)を受けて、翌2月17日は、オーバーナイト・レートの加重平均値は0.08%と、史上最低水準まで低下した。もっとも、2月18日以降は、日本銀行の積極的な資金供給姿勢にもかかわらず、(1)出し手の一部が金利0.10%の普通預金に資金運用をシフトさせたことや、(2)月末の接近が意識される中で取り手の一部が資金確保姿勢を強めたことなどから、レートは0.11から0.13%程度で下げ渋る展開となっている。

この間、ターム物金利の変化をユーロ円TIBORでみると、政策変更前(2月12日)から昨日(2月24日)までの間に、1か月物は-0.19%、3か月物は-0.21%と、それぞれオーバーナイト・レートを上回る幅で低下した。

以上の市場動向から、今次金融緩和措置が短期金融市場にもたらしたこれまでの変化をまとめると、概ね次の3点になる。第1に、オーバーナイト・レートが、普通預金金利0.10%にブローカー手数料を加えた水準を下回ると、短期資金の出し手は、生損保を中心に、資金をオーバーナイト・コール市場から普通預金にシフトさせる傾向がみられる。このため、普通預金の金利水準が、差し当たってオーバーナイト・レートのアンカーになっているように窺われる。第2に、オーバーナイト・レートが今後ゼロまで低下しうるという予想から、資金の出し手はターム物での運用を増やしており、これらの金利が低下するという形で金融緩和措置の効果が現れている。第3に、金融機関毎の積み進捗率の格差が大きくなってきている。これは、資金の取り手は、普通預金へのシフトの動きなどからオーバーナイト・レートが急速に低下していく状況にはないとみて、0.12から0.13%程度で早めの資金確保に動いているが、一旦取り遅れてしまうと、コール取引の減少等を反映して、午後の市場で調達しにくくなる傾向がみられるためである。

これらの情勢を踏まえると、当面は、金融市場に混乱を生じさせないよう配慮しながら、さらにオーバーナイト・レートを下げていけるかどうかを、確かめていく局面になる。その際、普通預金金利引き下げの動きが出てくるかどうかが、ひとつのポイントになろう。また、オーバーナイト・レートの一段の低下を促していく手段としては、政策変更時の合意にしたがい、レポ・オペを積極的に活用していく考えである。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

円の対米ドル相場をみると、(1)日本銀行による一段の金融緩和措置(2月12日)の実施、(2)わが国長期金利の低下、(3)「政府当局者が円安を容認している」との報道、(4)米国における強めの経済指標、などを背景に、114円台近辺の水準から急速に円安方向の動きが進んだ。G7蔵相・中央銀行総裁会議(2月20日)の後のコミュニケにおいて為替相場に関する特別な言及がなかったことも、それまでのドル高・円安傾向を容認したものと市場に受け止められた。この結果、円は2月22日には122円台半ばと、昨年12月初以来の水準まで下落した。もっとも、その後は利食いの動きや、急速な円安に対する警戒感等から、概ね121円台で横這い・小動きの状況となっている。

ユーロの対米ドル相場も、(1)ユーロエリアと米国の景況感格差に加えて、(2)ユーロ参加国や欧州中央銀行の当局者による「ユーロ安是認」発言が相次いだこともあって、下落傾向が続き、ユーロ誕生以来、1ユーロが1.10米ドルを切る安値となった。もっとも、円の対米ドル相場の動きに比べると、総じて落ち着いた推移を辿っている。

この間、エマージング諸国の為替相場は、(1)アジアにおける旧正月や、(2)中南米におけるカーニバルなどから、取引が閑散となる中、総じて弱含みの展開となった。そうした中で、とりわけブラジル・レアルは、資本流出懸念が根強いことから、カーニバル明け後下落傾向が強まっており、最近は1月の変動相場制移行前に比べて、4割程度下落した水準で推移している。

(2)海外金融経済情勢

米国経済は、物価の落ち着きが維持されるもとで、景気の堅調な拡大が続いている。そうした中で、グリーンスパンFRB議長による半期報告議会証言に注目が集まった。

グリーンスパン議長は、経済のファンダメンタルズは強いとの現状認識を示したが、同時に、8年間の景気拡大によって、米国経済が様々な面において伸び切った状態にあることに伴うリスクを指摘した。具体的には、(1)労働資源が限界まで利用されていること、(2)株価が、過大評価されているとの見方を一概に否定できない水準まで上昇していること、(3)対外収支の赤字と企業や家計の負債が増大していること、といった諸点が指摘され、海外経済の動向等に対して脆弱であるとの認識が示された。

グリーンスパン議長は、上記のように各種のリスクが存在することを示したうえで、金融資本市場が落ち着きを取り戻した現在でも、昨年秋に採った金融緩和をそのまま据え置くことが適切であるかどうか評価し続ける必要があると述べ、当面、金融政策は引き締めないし緩和のいずれの方向にも柔軟に動ける準備がなければならないことを強調した。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

前回会合以降に明らかになったいくつかの経済指標からは、これまでの基調判断を変化させる材料は窺われない。

具体的にみると、公共工事請負金額は、98年度第1次補正予算分の発注が一巡してきたが、ヒアリング等によれば、2月以降は第3次補正予算分(緊急経済対策分)の発注開始等から、増加に転じるものとみられる。実質輸出は、1月はかなりの増加となったが、このところ月々の振れがきわめて大きく、実態としては概ね横這い圏内にあるとみている。

設備投資は、先行指標(機械受注)が引き続き減少傾向にある。また、99年度の投資計画に関する日本経済新聞のアンケート調査によると、現時点では腰だめ的な計数ながら、かなりの減少が計画されている。個人消費は、1月の都内百貨店売上高が、一部店の閉店セールにより大幅に増加したが、基調的には、なお明確な回復が確認されない状態が続いている。この間、住宅投資の関連では、マンションの販売増加・在庫減少の傾向が明確になってきており、先行き分譲住宅の着工減少に歯止めがかかる可能性が出てきている。

(2)金融情勢

金融市況をみると、前回会合での金融緩和措置を受けて、短期金融市場の金利が全般にわたり低下した。具体的にみると、インターバンクのターム物金利は、公的資本の注入予定もあって年度末の資金繰りに関する不安が小さくなるなか、オーバーナイト・レートの低下を反映する形で、0.15から0.20%程度低下した。

一方、長期金利(長期国債の流通利回り)は、金融緩和措置の実施後いったん小幅の上昇を示したが、その後は低下している。もっとも、相場の地合いは、依然として神経質なものとなっている。

1月のマネーサプライ(M2+CD)前年比は、+3.6%と、12月(+3.9%)に比べて低下した。これは、前年(98年1月)が、金融システム不安の広まりをきっかけに、マネー対象外資産(投信、信託、金融債)からマネー対象資産に大幅な資金シフトが生じた時期に当たることから、その「統計上の裏」が出たものである。ただ、ごく最近は、資金調達懸念を背景とした企業の手許資金積み上げの動きが、金融システム不安の後退から収まりつつあり、今後はこの面から伸び率が幾分鈍化する可能性がある。

なお、マネタリーベース(流通現金+準備預金)の前年比は、昨年末にかけて急速に低下した後、1月も幾分低下した。もっとも、その大宗を占める銀行券の伸び率は、2月に入りやや持ち直してきている。

この間、1月の企業倒産件数は、前月に続き前年比大幅減少となり、90年代前半の水準まで低下した。信用保証制度拡充の効果が、企業倒産の減少にかなり強く反映してきているものとみられる。

3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状および先行き

景気の現状については、前回会合以降、目立った変化を示唆する経済指標に乏しいため、「悪化テンポは緩やかになってきているが、民間需要の弱さなどからみて、回復の展望は依然明確になっていない」というこれまでの判断が引き続き適当という点で、委員の意見は概ね一致した。

公共投資の発注が年明け後伸び悩んでいる点については、ある委員から、98年度当初予算・第1次補正予算分の発注が一巡した一方、第3次補正予算分の発注が設計段階のボトルネックも含めた事務工期の長期化から遅れていることを反映したものであり、心配すべき材料ではないとの説明があった。もっとも、その委員からは、工事がずれ込んでいることは、一時的にせよ、資材市況や関連企業の収益にはマイナスとの指摘もあった。

景気の先行きについては、複数の委員から、前回会合で決定した金融緩和措置後の市場動向からみれば、長期金利上昇や円高等による追加的なリスクは、差し当って幾分和らいでいるとみてよいのではないかとの指摘があった。

しかし、企業収益や雇用・所得環境等がもともと厳しい状況にあることに変わりはないことなどから、先行きの景気展開はなお予断を許さないという認識が、概ね共通のものであった。なかでも、とりわけ厳しい見方をとるある委員からは、今回の不況の最大の特徴は、個人消費が不振をきわめている点にあり、雇用・所得環境の厳しさを踏まえると、個人消費はこの先さらに落ち込む可能性があるとの発言があった。さらに、その委員は、(1)住宅投資については多少希望が持てるが、経済全体へのプラスの影響は限られること、(2)輸出は先行き減少に転じるとみられること、(3)公共投資が経済を支えるのは本年半ば過ぎまでであること、(4)地価が再び下落すると見込まれること、などを指摘し、景気は立ち直りかけているようにみえるが再度悪化するとの見通しを示した。

企業収益や雇用・所得環境については、何人かの委員が、改めてその厳しさを指摘した。ある委員は、98年度決算見通しの大幅下方修正が相次いでいることや、赤字転落企業が少なくないことなどを指摘し、こうした企業業績の悪化は、不良債権処理の動きなどと相俟って、供給サイドの構造調整を促す圧力になるとの見方を示した。さらに、同じ委員から、こうした事情を反映して賞与の大幅削減が不可避の情勢にあることや、賃金のベースダウンや雇用削減などの可能性が指摘され、これらを通じて経済がデフレ・スパイラルに陥るリスクは、なお否定できないとの意見が述べられた。

別の委員からは、これまで堅調であった造船業界も、原油安を反映した需要減少や、国際的な受注競争激化を背景に、減産体制を組み込み始めているとの指摘があった。もう一人の委員からは、そうした業種において1割もの賃金カットが検討され、それを労働組合側も雇用確保優先の立場から受け入れざるを得なくなってきている事例などが紹介された。

さらに、別の委員は、3月決算の影響についてとくに強い懸念を示した。すなわち、その委員は、厳しい決算に伴って、業種によっては2から3割存在しているとみられる過剰設備の処理が進められるほか、雇用・賃金面へかなりの影響が出るとの見方を述べた。そうした雇用・賃金面への影響について、同じ委員から、企業内失業者が400万人程度とすると、それをすべて削減すれば企業の総資本利益率(ROE)は8%向上する反面、失業率が10%程度にまで上昇するか、または賃金を1割以上押し下げるような調整圧力が発生するとの試算が示された。

この間、住宅投資については、複数の委員が、最近におけるマンション販売の増加を、プラスの材料として評価した。もっとも、マンションは在庫がいまだ高水準にあることなどから、これらの委員も、最近の販売増加が今後着工の増加に結びついていくかどうかについては、なお慎重にみておく必要があるとの見解であった。

(2)金融面の動き

金融面の動きについては、2月12日の金融緩和措置以降における、各種金利や為替相場の反応を中心に、討議が行われた。

短期金融市場については、オーバーナイト・レートをはじめ、各種ターム物金利が軒並み低下していることが確認された。

こうした市場環境のもとでの預金金利の動きについて、ある委員から言及があった。その委員は、普通預金金利が据え置かれるもとで、通知預金や定期性預金の金利が引き下げられたことに言及し、これら定期性預金から流動性の高い普通預金へのシフトにより金融機関の資金繰りが不安定になるというリスクを指摘した。また、預金金利の低下は、既に防衛的になっている家計の消費マインドを一段と防衛的にさせる惧れがある点に、懸念が示された。

一方、同じ委員から、貸出金利についての発言もあった。具体的には、少なくともこれまでのところ、プライムレートが長期、短期とも据え置かれたままであることが指摘され、今回の金融緩和の効果は企業金融面には及んでいないとの見方が述べられた。もっとも、この点については、別の複数の委員から、今後オーバーナイト・レートの低下をさらに促していけば、普通預金金利にも低下圧力がかかるはずであり、そうなれば短期プライムレート、したがって貸出金利にも、金融緩和の効果が波及していくのではないかとの見解が示された。

長期金利(長期国債の流通利回り)が金融緩和措置以前に比べて幾分低下している点について、これをどう解釈するかを巡って議論があった。

ある委員からは、金融緩和措置に伴うターム物金利の低下が、イールドカーブの中期ゾーンまで及んだ可能性があるとしながらも、実際に長期金利が低下したタイミングからみると、基本的には、金融緩和措置よりも、国債発行のあり方等に関する政府の発表(2月16日)——(1)年限別発行額の振り替え、(2)資金運用部による市中買い入れの再開——の方が、長期金利低下をもたらしたより大きな要因だったのではないかとの見方が示された。

これに対して、別の委員からは、(1)短期金利から中期ゾーンへの波及効果にもう少しウェイトをおいてみてよいのではないかという点と、(2)長期国債の買い切りオペを不変に保つという日本銀行のアナウンスメントが、少なくとも市場に悪い影響はもたらしていないとみられる点が、指摘された。

為替相場については、金融緩和措置以降の円安が、実体経済にどのようなインプリケーションを持つかという論点を中心に、いくつかの意見が出された。

ある委員からは、為替相場が円安に転じたことは、金融緩和措置後における各種市場の動きのうちで、実体経済への影響が最も大きい変化であるとの評価が述べられた。別の委員からも、金融緩和措置前の115円前後を起点にとれば約5%、円高圧力が最も強まっていた時期の110円前後を起点にとれば8から9%程度の円安となっていることが指摘され、こうした相場水準が持続するのであれば、輸出産業にとってかなりのサポートになりうるとの見解が示された。

こうした円安のプラス効果についての認識は、委員の間で概ね共有された。もっとも、ある委員からは、98年度下期について企業が想定していたレートに漸く近づいてきたに過ぎない、との慎重な見方が示された。

また、もう一人の委員からは、日本企業が年度末にかけてポジション確定のためのドル売りを行うことから、円安は120円台前半で止まるのではないかとの相場観が示された。別の委員からは、日米貿易不均衡の拡大を背景として貿易摩擦への懸念が払拭できないことや、99年度の輸出をマイナスと見込む企業が多い中で仮に110円を超えて円高になった場合のダメージが大きいことなどが、指摘された。このように、円相場の今後の展開を巡っては、なおかなりの不透明性があるとの認識が一般的であった。

この間、ある委員から、経済にとって「中立的」な為替相場の水準をどう考えるべきかとの問題が提起された。その委員は、企業経営者の中には、90年代前半に比べて、当時よりも円安の水準を「適正」と感じる向きが多い点に言及したうえで、これは、製造業のコスト構造が90年代前半に比べて改善しているはずであること——すなわち、バブル期の投資が償却されてきていることや、企業向けサービスの内外価格差が是正されてきていることなど——と、矛盾するのではないかとの指摘を行った。この点について、その委員は、国内の売上げが数量、価格両面で低迷している状況を背景に、企業にとって輸出の戦略的重要性が相対的に増している可能性があるとの仮説を述べたうえで、いずれにしても、企業の収益構造やコスト構造と、為替相場水準との関係について、一層の認識を深めておく必要があるとの考えであった。

4.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

まず、オーバーナイト・コールレートが概ね0.10%前後で推移している現状は、前回会合の決定に沿ってオーバナイト・レートを「できるだけ低め」に引き下げていく途中段階にあるという点で、委員の認識は一致していた。長期金利上昇と円高が景気の先行きに及ぼすマイナスの影響については、その後の市場の動きによってやや軽減しているとの指摘があった一方で、いつまたそうしたリスクが再燃するかもしれないという警戒的な見方もあり、いずれにしても暫く注意深くみていくことが必要という点でほぼ共通の認識があった。これらの結果、当面は、現状の金融市場調節方針を継続し、その方針に沿って、市場の動向を慎重にみきわめながら、オーバーナイト・レートを徐々に引き下げていくことが適当という考えで、多くの委員は一致した。

そうした討議の過程で、数名の委員から、現状は普通預金の金利水準(0.10%)の近辺で、オーバーナイト・レートが膠着しつつあるようにみられるため、オーバーナイト・レートの一段の低下を促しても市場の混乱が生じないかどうかを、早めに確かめてみるべきではないかとの意見が述べられた。とくに、そのうち一人は、現状の引き下げテンポでは緩和効果が期待できなくなることに懸念を示し、引き下げの加速を主張した。

もっとも、オーバーナイト・レートを一段と引き下げていく際には、それが普通預金への資金シフトやターム物金利、貸出金利、さらにはリザーブ(=準備預金)などにどのような影響を及ぼすかを含め、市場の状況をよくみきわめながら慎重に進めていくことが重要という点が、改めて数名の委員から指摘された。

別の一人からは、そうした金融市場への影響といった側面とは別の観点から、金利の低下を促すことに否定的な意見が述べられた。すなわち、その委員は、一段とオーバーナイト・レートを低下させていけば、普通預金金利にも低下圧力がかかると考えられるが、そうした預金金利の低下が家計のマインドを一段と防衛的にすることなどを通じて、日本銀行への信頼が損なわれる惧れがあるのではないかとの見解であった。

長期金利については、金融政策で働きかけていく余地をどう考えるかを巡って、活発な議論があった。

ある委員から、国債発行のあり方等に関する政府の発表(2月16日)が、長期金利にある程度好影響を与えたとみられることを踏まえて、いくつかの点が指摘された。第1に、2月初までの長期金利上昇には、長期的な財政赤字拡大懸念だけではなく、より短期的な何らかのリスク・プレミアム要因——市場関係者が「需給要因」と捉えているもの——が作用していた面が否定できないという点であった。2点目は、政府がネットで市中に出る国債の満期構成を変化させたことで、「需給要因」がある程度改善されたのだとすれば、同様に日本銀行がツイストオペを行うことも、財政赤字の額を不変に保つという条件のもとであれば、ある程度有効かもしれないという点であった。しかし3点目として、そうした措置が仮に有効であるとしても、有効なのは一時的なリスク・プレミアムの増大によって長期金利が上昇している場合だけであって、繰り返しそうした措置が使えるか、また持続的な効果を持つかについては疑問があるということも指摘された。最後に、その委員は、以上のような論点を中心に長期金利に対する日本銀行の関わり方を考えていく際には、そもそも長期金利が市場でどのように決定されるのか、もう少し認識を深めておく必要があるのではないかとの問題を提起して、議論を締め括った。

一方、別の委員からは、(1)長期金利の決定要因としては、やはり経済・物価情勢に対する市場の見通しがドミナントであること、(2)ただ、このところは、国債の大量発行に関する展望が明確でないことに基づくリスク・プレミアムも影響しているとみられること、などが指摘されたうえで、当面は両要因が合わさって長期金利がどのような水準に落ち着いていくかを、なお見きわめる必要があるとの見方が示された。そのうえで、その委員は、「需給要因」に日本銀行が働きかけていく余地がありうるのではないかという前述の委員の意見に対しては、懐疑的な見方を述べた。その理由としては、(1)いわゆる「需給要因」はやや長い目でみれば長期金利の決定要因として重要でないと考えられること、(2)仮に時折そうした「需給要因」で長期金利が変動するとしても、「需給要因」とファンダメンタルな要因を正確に見分けて、「需給要因」のみに対して都合よく働きかけていくのは困難であること、といった点であった。さらに、ツイストオペを巡っては、同じ委員から、オーバーナイト・レートがゼロに近づき、資金吸収のオペレーションが不要となってくるような状況においては、短期国債の売りオペが行われないまま長期国債の買いオペのみが残ってしまって、長期国債の買い切りオペ増額と何ら変わらなくなるリスクがある点が、指摘された。

この間、ある委員からは、日本銀行が長期金利を直接コントロールすることはできず、その点をさらに明確にしておく必要があるとの意見が述べられた。別の委員からも、中央銀行が長期金利をコントロールしようとすると、長期金利の変動が映し出す市場からの情報が消えてしまうという問題がありうるとの指摘があった。

今後、量的緩和など、金融政策をさらに緩和していく余地をどのように考えるかという点については、そのタイミングや、日本経済が抱えている問題に対する適切な経済政策のあり方という視点も含めて、いくつかの意見が出された。

ある委員からは、前回会合で決定した金融緩和措置が、貸出金利の低下など企業金融面にほとんど及んでいないことを踏まえると、金融緩和はすでに限界に達しているのではないかとの見解が示された。

別の委員は、日本経済の問題点を、企業部門のバランスシートという観点から捉えて、(1)過剰で収益性の低い資産の残存——毀損されたり含み損を抱えているものを含む——、(2)その裏側にある企業の過大負債すなわち金融機関の不良債権問題、(3)他方で収益性の高い新規資産の積み上げがなかなか進まないこと、の3点を指摘した。そのうえで、その委員は、これまで打たれてきた金融システム対策やマクロ政策が一定の意義を持ったことを評価しつつも、過剰な資産を有益な資産に入れ替えていくという供給サイドの強化が、今なお大きな課題であるとの意見を述べた。これについて、その委員は、企業の自助努力や税制改正等の政策対応により、実体経済それ自体にある程度前向きの動きが出てこない限り、金融面からいくら量的な緩和を施しても有効性は低く、現時点で優先順位の高い政策とは言えないとの見解を述べた。

もう一人の委員からも、財政政策が既に十二分に発動されていることや、金融政策も金利の引き下げが限界に来ていることなどを踏まえると、企業が新製品開発や技術開発等によって需要を掘り起こし、同時に供給サイドの構造調整を進めていくことが不可避との見方が述べられた。その委員は、そうした企業の対応を促進するうえで有効な施策として、失業対策や設備廃棄への政策減税等が検討されることが望ましいとの意見を述べた。

さらに別の委員も、マクロ政策が財政、金融両面において、限界に達しつつあることを指摘した。その委員は、そうした政策環境のもとでは、日本銀行による国債の引き受けや買い切りオペ増額を求める声が、今後も根強く残る可能性が高いとの警戒的な見方を示した。そのうえで、その委員は、財政赤字の膨張には越えてはならない一線が必ずあって、その規律が保たれるかどうかは中央銀行の対応如何にかかっていると述べ、いわゆる量的緩和論など、「非常時だから特別な政策対応を」という類の主張に潜む危険性を指摘した。

他方で、量的緩和論に前向きな姿勢を示す委員もいた。すなわち、ある委員からは、(1)3か月前比年率でみたマネタリーベースがこのところ大きく落ち込んでいること、(2)マネタリーベースの伸び率が低下すると長期金利が上昇するという関係があるようにみえること、(3)金融政策はタイムラグを考慮に入れながら早めに対応すべきこと、などを勘案すると、量的緩和に真剣に取り組んでいくべき時期に来ているとの意見が述べられた。

別の委員からは、短期金利面での対応が限界となってきている一方で、景気は再び厳しい状況に直面する可能性があることを考えると、民間需要の増加につながるような量的緩和策を、現在直ちには必要がないとしても、どのタイミングで、どのように行えばよいかを含めて、検討していく必要があるとの見解が述べられた。

こうした議論との関連で、ある委員からは、金融政策は、最近の若干のデフレ傾向に対して効果が薄い中でどこまで対応していけるかという方向感と、場合によっては将来のインフレを引き起こしかねないリスクをどう防いでいくかという側面とについて、両睨みの非常に狭い範囲でのオプションを模索するきわめて難しい状況に直面しているとの見解が示された。

金融政策で何を行っていくべきかという以上の議論とは別に、ある委員から、オーバーナイト・レートがゼロ近くまで低下したあとの金融市場調節上の操作目標として、現在のオーバーナイト・レートに加えて、何らかの別の指標も用いていくべきではないかとの問題が提起された。その委員は、金利に十分な引き下げ余地が存在するごく一般的な場合を考えてみると、金融不安の高まりによる流動性への需要増加など金融面でのショックが予想される場合には、「金利」を目標とした政策運営の方が望ましいと考えられる一方、デフレ傾向の強まり等実体経済面でのショックが予想される場合には、何らかの「量」を目標に据える政策運営の方が望ましいとの伝統的な議論を紹介した。そのうえで、今後の具体的な操作目標としては、まずコントローラビリティーという点からみて、「金利」の場合はターム物金利等の短期市場金利、「量」の場合にはリザーブないしマネタリーベースなどが、一応の候補として考えうるのではないかとの見解が示された。ただ、いずれにしても、操作目標として何を選択するかは、(1)目標値の設定のしやすさ、(2)場合によっては金融政策の効果自体が異なりうるのか、(3)人々の期待や長期金利への影響、など多岐にわたる論点がありうるので、この点は今後慎重に検討していく必要があるというのが、その委員の考えであった。

操作目標について、今後慎重な検討が必要という点には、別の委員からも同意があった。

さらに別の委員は、操作目標に関する議論は、金利と量のいずれをシグナルとして注目していくかという問題であって、政策自体は将来のインフレ・リスク等を念頭において考えていく以上、どちらを選択しても、金融緩和の余地自体に大きな違いが出てくるわけではないという点を強調した。この点に関連して、その委員からは、「金利を下げ尽くしても、なお量的緩和という別の世界が広がっている」という誤った認識が世間で形成され始めている可能性に懸念が示された。そうした状況に十分注意を払うという観点からは、操作目標を量に切り替えていくよりは、ターム物金利として、これまでとの連続性を強調していく方がよいのではないか、というのがその委員の現時点における暫定的な考えであった。

もう一人の委員も、現在の金融政策スタンスは既に十分緩和的であり、ここでさらに量的な目標値などを早急に掲げてしまうと、金融政策に対する世間の期待が過大なものとなって、余計な混乱を引き起こしかねないとの懸念を示した。さらに、その委員からは、マネーサプライ等の量的指標は、非常に長い期間をとってみれば実体経済との相関が高いが、90年代後半だけをとってみれば両者の関係はほとんどみられず、現状では信頼に足る量的目標値の設定は難しいのではないかという指摘もあった。

以上のように、将来の金融政策のあり方をどのように考えていくかについては、現時点では結論めいた議論には至らなかったが、当面の金融市場調節方針については、既述のとおり、2月12日に決定された方針を引き続き推し進めていくという意味で、現状を維持するべきという意見が大勢を占めた。

こうした多数意見の中にあって、他の委員に比べて景気情勢をとりわけ厳しく捉えているある委員から、金融緩和スタンスを一段と徹底する方向での提案がなされた。その委員からの具体的な提案内容は、(1)金融市場調節方針からオーバーナイト・レートに関する記述を削除すること、(2)超過準備額を当面5千億円程度とし、その後これを増額させることにより、本年10から12月のマネタリーベース前年比を10%程度とするような量的緩和を図ること、(3)中期的に消費者物価指数(生鮮と間接税を除く)の前年比が1%前後となることを企図する旨を明言すること、といったものであった。

提案の理由として、その委員からは、(1)テーラー・ルール——GDPギャップとインフレ率から最適な政策金利の水準を試算する算式——で割り出したオーバーナイト・レートがマイナスになることなどから考えると、それをゼロに低下させるだけでは十分な金融緩和効果は得られず、量的な拡大を促す必要があるとみられること、(2)最近のマネタリーベースが、とりわけ3か月前比年率でみるとかつてない大幅な落ち込みを示している状況に、ひとまずブレーキをかける必要があること、(3)日本銀行として、デフレ阻止に対する決意を明確にしていく必要があること、(4)公的資本注入が見込まれることなどから、銀行部門への流動性の供給が、一頃よりは信用創造につながりやすくなっていくと考えられること、(5)3月決算が判明する4から6月には経済情勢の大きな波乱が生じる可能性もあるため、これまでの緩和策に対して「小さすぎて遅すぎる(too little, too late)」との批判があることも踏まえて、ここで早めに一段の緩和に踏み切る必要があること、といった点が挙げられた。

こうした提案については、多くの委員から様々な疑問が投げかけられた。

ひとつは、前回会合で決定された金融緩和措置を実現していく途上にあるこのタイミングで、次の政策措置を打ち出していくことの妥当性であった。すなわち、ある委員からは、前回の会合においても先行きの経済情勢の厳しさを当然認識したうえで、オーバーナイト・レートの誘導目標を引き下げていくことを決定したのであって、その決定にしたがって最大限の努力をしていくのがまずは先決であるとの主張がなされた。別の委員からも、前回採った措置の効果を確認するところまでいっていない状況のもとで、実体経済に急変がないにもかかわらず新たな政策を打ち出していくことは、前回の措置に対する自己否定になるとの見解が示された。

もうひとつの論点は、量的な目標値を設定することの是非であった。ある委員からは、金融政策運営上の目標値として、金利と量のいずれを重視していくのかについては、生じうるショックの性格をどうみるかなどを含めて慎重に議論すべきであり、金利の次は量だというふうに単純に決めつけるのは適当でないとの意見が述べられた。

また、別の委員は、「マネタリーベースの前年比10%」という具体的な目標値に関する問題を挙げた。すなわち、その委員からは、実体経済と量的金融指標との関係が安定的でないことを踏まえると、計算上の仮定を若干変えるだけで、マネタリーベースの伸びが4から5%でも適正という試算も可能な一方、14から15%程度伸ばさなければ不十分という試算も可能であるとの指摘があった。そのうえで、その委員は、これだけ幅がありうるものについて、十分な検討なしに10%と決めてしまうのは、やや拙速ではないかとの批判を行った。

もう一人の委員からも、実体経済や物価との関係から、どのような量的金融指標にどのような目標値を設定していくことが適当なのかについて、議論が尽くされていないとの指摘があった。同じ委員から、日銀券に対する需要が不確実である状況に鑑みると、超過準備5千億円という操作目標と、マネタリーベースの伸び10%という目標値の整合性について、少なくとも現時点では自信が持てないとの発言もあった。

関連する論点として、ある委員から、マネタリーベースのコントローラビリティーに、強い疑問が投げかけられた。すなわち、その委員は、マネタリーベースの9割程度は日銀券によって占められているので、マネタリーベースのコントロールを目指して、日銀券の変動をちょうど相殺するように準備預金の調節を図ろうとすると、金利がかなりボラタイルになるのではないかとの懸念を示した。

金融機関の仲介機能が一頃よりは改善しつつある分、銀行部門に流動性を供給していくことが、従来よりは意味を持つようになりつつあるのではないかという点については、ある委員から一定の理解が示された。もっとも、別の委員からは、量的な緩和といっても、銀行部門に流動性を供給し、銀行貸出の増加を促していくということを念頭においているのであれば、その過程で金利も低下していくはずであるので、「金利を引き下げる」政策と変わるところはないとの指摘があった。

これらの意見に対して、この提案を行った委員が以下のような再反論を述べた。

  • (前回会合で金融緩和措置を決定したばかりであり、様子をみるべきとの意見に対して)経済情勢は切迫していて時間的余裕がないため、追加的な金融緩和措置を続けて打ち出していく必要がある。
  • (マネタリーベースおよび超過準備額の目標値に関する根拠が不明確との意見に対して)過去10年程度におけるマネタリーベースの平均増加率は6%強であるため、これに、不況時はより高い伸び率を目指すことが適当という要素を加えて10%を目標値とした。また、超過準備額を毎月5千億円程度増やしていけば、年間では6兆円の増加ペースとなり、日銀券を一定とすれば、マネタリーベース(約60兆円)を10%増やす計算になる。
  • (マネタリーベースは日銀券が大宗を占めているためコントロールできないとの意見に対して)マネタリーベースの大宗を銀行券が占めているという事情は米国等でも同じであって、マネタリーベースのコントローラビリティーは高いと考えている。

―もっとも、最後の点については、再度、マネタリーベースのコントローラビリティーを疑問視する委員から、米国でもマネタリーベースの大宗が銀行券という事情があったからこそ、量的な目標値を設定した79から82年の金融政策運営に際して、マネタリーベースではなく非借入準備が用いられたとの指摘があった。

このように、提案を行った委員と他の委員との間で、活発なやり取りがあったが、見解が一致をみるには至らなかった。

なお、一部の委員から、2月12日の政策変更時の対外公表文について、日本銀行の真意が市場等にうまく伝わらなかった可能性があるので、今後はより簡潔で焦点を絞った公表文にすることが望ましいとの意見が述べられた。もっとも、これは委員の共通の認識とはならなかった。

5.政府からの出席者の発言

会合の中で、政府からの出席者も発言した。大蔵省からの出席者は以下のような発言を行った。

  • 景気は、改善を示す動きも幾分みられるが、低迷状態が長引いており、きわめて厳しい状況にある。政府は、こうした情勢に対応し、緊急経済対策をはじめとする諸施策の実施に全力で取り組んでいる。当面の景気回復に向け全力を尽くすとの観点に立って編成した平成11年度予算も、衆議院を通過した。
  • 長期金利の最近の動向等を踏まえて、大蔵省は2月16日、次の措置を決定した。第1に、各月における国債の年限別発行額について、年間の発行額を踏まえつつ、その時々の市場の動向を勘案して適切に設定するとの観点から、3月発行国債の年限別発行額の振り替えを行うこととした。第2に、資金運用部による国債の市中買い入れを実施することとした。これは、最近の市場動向や、資金運用部の状況等を勘案して、資金運用の一環として行うものである。具体的には、2月および3月の各月に2回ずつ、1回あたり1千億円程度の入札を予定している。

経済企画庁からの出席者は以下のような発言を行った。

  • 景気は低迷状態が長引ききわめて厳しい状況にあるが、一層の悪化を示す動きと、幾分かの改善を示す動きが入り交じり、変化の胎動も感じられる。このような厳しい経済状況のもとであるが、平成11年度の予算案は衆議院を通過し、参議院で審議中である。政府としては、緊急経済対策の諸施策を推進することにより、自律的な景気回復を実現するよう全力を尽くしていく。
  • 金融政策においては、前回会合での金融緩和措置は、企業等に対する十分な資金供給を確保するなどの意味で、景気回復に資するものと期待している。引き続き適切な運営をお願いしたい。

6.採決

多くの委員の認識を改めて総括すると、(1)前回会合以降の経済指標からは、「景気の悪化テンポは緩やかになってきているが、民間需要の弱さなどからみて、回復の展望は依然明確になっていない」というこれまでの判断を変える材料に乏しい、(2)長期金利や為替相場の面からの景気に対するマイナスの影響は、前回会合で決定した金融緩和措置がひとつの背景となって、幾分和らいでいる、(3)オーバーナイト・レートの動向からみて、現在はなお、前回会合で決定した金融緩和措置を実現していく途上にある、というものであった。こうした認識を背景に、当面は、前回会合で決定した金融市場調節方針を維持し、市場の混乱が生じないかどうかをみきわめながら、オーバーナイト・レートの一層の低下を促していくのが適当という意見が大勢を占めた。

ただし、景気情勢についてとりわけ厳しい見方をとる委員から、金融政策面で一段の緩和策を早めに進めていく必要があり、その際、オーバーナイト・レート低下の効果には限界があることを勘案して、量的な緩和を図ることが適当との考えが示された。この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的にCPI(除く生鮮、間接税)の前年比が1%程度となること(99年10から12月平均の前年同期比:1±1%、2000年10から12月平均の前年同期比:0.5から2%)を企図して、当面、超過準備額を5,000億円とし、その後、次第にこれを増額させることにより、本年第4四半期(10から12月)のマネタリーベースの前年比(四半期平均対前年同期比)が10%程度に上昇するよう、量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。」との議案が提出された。

採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7、棄権1)。

議長からは、会合における多数意見をとりまとめる形で、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、前回金融政策決定会合(2月12日)時点。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

──中原委員は、(1)前回会合で決定した金融緩和措置については、オーバーナイト・レートの低下幅や低下速度等からみて、効果が十分ではないと懸念される、(2)経済情勢の厳しさからみて、前回措置の効果をみきわめている時間的余裕はなく、早急に一段の緩和を打ち出す必要がある、(3)前回措置をもって金融緩和が打ち止めという印象を与えることには問題があり、金利がゼロになってもその後にまだ色々な金融緩和策がありうることを明らかにしていく必要がある、という理由から、上記採決において反対した。

──篠塚委員は、(1)現在の超低金利を一段と低下させるというような実験が、実体経済にどのような効果を与えていくのかについて不明である、(2)家計マインドが一段と低下している状況では、こうした政策は家計に対するダメージが大きいと危惧される、という理由から、上記採決において反対した。

以上


(別添)
平成11年 2月25日
日本銀行

当面の金融政策運営について

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下の通りである。

より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、前回金融政策決定会合(2月12日)時点。

以上