金融政策決定会合議事要旨
(1999年 7月16日開催分)*
- 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年9月9日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
1999年 9月14日
日本銀行
開催要領
- 1.開催日時
- 99年 7月16日(9:00から10:54、12:30から16:22)
- 2.場所
- 日本銀行本店
- 3.出席委員
-
- 議長 速水 優(総裁)(注)
- 藤原作弥(副総裁)
- 山口 泰( 副総裁 )
- 後藤康夫(審議委員)
- 武富 将( 審議委員 )
- 三木利夫( 審議委員 )
- 中原伸之( 審議委員 )
- 篠塚英子( 審議委員 )
- 植田和男( 審議委員 )
- (注)速水委員は国会出席のため、9:42〜10:54の間、会議を欠席した。この間、藤原委員が、日本銀行法第16条第5項の規定に基づき、議長の職務を代理した。
- 4.政府からの出席者
-
- 大蔵省 原口恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜16:22)
- 経済企画庁 小峰隆夫 物価局長(9:00〜16:22)
(執行部からの報告者)
- 理事黒田 巌
- 理事松島正之
- 理事永田俊一
- 金融市場局長山下 泉
- 調査統計局長村山昇作
- 国際局長平野英治
- 企画室企画第1課長雨宮正佳
- 調査統計局吉田知生
(事務局)
- 政策委員会室長小池光一
- 政策委員会室調査役飛田正太郎
- 企画室調査役栗原達司
- 企画室調査役山岡浩巳
1.前々回会合の議事要旨の承認
前々回会合(6月14日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、7月22日に公表することとされた。
2.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節については、前回会合(6月28日)で決定された金融市場調節方針 1にしたがって運営した。
この結果、短期金融市場では、オーバーナイトレートが連日0.03%での安定した推移となった。ターム物金利は、6月末にかけて、ゼロ金利の早期解除についての思惑が台頭したため、いったん強含んだ。しかし、(1)政策委員会メンバーの何人かが国会答弁や講演で、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、ゼロ金利政策を続ける」との考え方をあらためて発言したことや、(2)6月短観が市場予想の範囲内に止まったことなどから、ここにきてそうした思惑が鎮静化し、ユーロ円金利などは幾分軟化している。
このような状況のもとで、最近では、以下のような点を市場動向の特徴点として挙げることができる。
第1に、ゼロ金利早期解除に関する見方が落ち着いたことに伴って、9月期末越えなどのターム物資金の放出が再び増えている。この結果、コール市場におけるオーバーナイト取引が再び減少し、コール市場残高(無担保、有担保コール合計)は20兆円程度になっている。ただし、これまでのところ市場機能に支障は発生していない。
第2に、「コンピューター2000年問題」の影響もみられ始めている。例えば、ジャパン・プレミアムはこれまでほぼゼロ近傍にあったが、一部行が年末越え外貨資金調達を開始したことを受けて、6か月物のドル資金調達にかかるジャパン・プレミアムが0.15から0.25%程度となっている。また、ユーロ円金利先物における、いわゆる「2000年プレミアム 2」も強含んでいる。
- 1「より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注:2月12日の金融政策決定会合時点)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。」
- 299年12月限(金利ベース)が、前後の99年9月限と2000年3月限の平均に比べて割高となっている度合い。
2.為替市場、海外金融経済情勢
(1)為替市場
前回会合以降の円の対ドル相場は、120から122円台のきわめて狭いレンジ内での取引に終始した。市場のセンチメントとしては、本邦輸出筋と海外資本筋を中心に円買いドル売りの圧力が強いが、それを介入警戒感が抑え込んでいるという構図である。とくに海外勢の日本株買いは、3月以降かなりのペースで続いており、7月入り後も高水準である。
ユーロの対ドル相場は、一時1ドル1.01台と、ユーロ導入以来の最安値を更新する軟調な展開が続いた。これは、(1)米国経済や株価が堅調の一方で、欧州の経済指標は、5月のドイツの鉱工業生産など弱めのものが少なくなく、米欧間の実体経済面での格差が目立ってきたこと、(2)欧州の政策当局者が、ユーロ安を容認したり、ユーロ参加国の財政節度維持に疑念を呈するような発言を行ったこと、などが背景となっている。
(2)海外金融経済情勢
米国経済は、個人消費を中心とする内需の好調に、輸出環境の改善も加わって、力強い拡大を続けている。こうした中で、6月30日のFOMCでは、FFレートの誘導水準を0.25%引き上げて、5%とすることが決定された。労働市場は、賃金上昇圧力がじわじわと高まるなどタイト化の方向にあるが、金融資本市場では、(1)今回の利上げが小幅に止まったことや、(2)5月、6月の消費者物価指数が横這いとなって次回FOMC(8月24日)での追加引き締め観測が後退したことを受けて、長期金利がこのところ低下気味となっている。株価は、こうした長期金利の動きや、4から6月の企業業績が好調であったことを背景に、引き続き既往最高値圏にある。ただ、直近では上値が重くなっている。
NIEs、ASEAN諸国の景気は、これまでの金融、財政面での政策による浮揚効果や、米国、日本等への情報関連財の輸出好調を背景に、回復を続けている。韓国では成長率見通しが上方修正され、タイ、フィリピンでも底入れの動きが広がっている。一方、中国では、国営企業改革に伴うレイオフの増加などを背景に不安感が広がっており、スローダウン傾向が顕著になっている。
中南米諸国のうち、アルゼンチンでは、10月の大統領選挙を前に政情が不安定化しており、また、候補者は経済政策面で踏み込んだ発言を繰り返している。現在はブラジルの経済が持ち直しており、ヘッジファンドの撹乱的な動きもないため、アルゼンチンの混乱が他国に波及するリスクは低いが、今後の動向には注目する必要がある。
3.国内金融経済情勢
(1)実体経済
最終需要をみると、設備投資が減少基調を続けているほか、純輸出は輸入の増加から足許やや減少している。個人消費は、一進一退の動きとなっている。一方、公共投資が増加を続けているほか、住宅投資も持ち直している。こうした最終需要の動向や在庫調整の進捗を背景に、生産は振れを伴いつつも基調としては下げ止まっている。また、企業の業況感は、このところ持ち直している。
このように、足許の景気は下げ止まっている。
企業の業況感の過去半年間における改善テンポは、過去の景気回復局面と比べて遜色はない。しかしその動きは、株価持ち直しに歩調を合わせている面がある一方、生産指数などの実体経済指標との関係が薄い。このため、企業の業況感には、金融システムに対する安堵感や、政府の景気対策継続に対する期待感が強めに反映されているようにみられる。
先行きについては、99年1から3月のプラス成長分の乗数効果に加え、公共投資の工事進捗や住宅投資の持ち直しが続くため、景気は小康状態を保つ可能性が高い。ただ、今後わが国経済が自律的回復軌道に戻るためには、雇用者所得が減少傾向を辿るもとにあっても、消費者マインドの改善によって個人消費が持ちこたえ、その間に、企業収益が回復して、設備投資が増加に転じるかどうかがポイントである。この点、これまでのところ、個人消費は一進一退で推移しているが、企業の今年度の設備投資計画は極めて抑制的なものとなっている。したがって、現時点では、民間需要が速やかに自律的回復に向かう蓋然性は依然として高くないと考えられる。
物価面では、企業向けサービス価格が下落を続けているが、国内卸売物価は原油等輸入物価の上昇に加え、在庫調整の進捗もあって足許では横這いとなっている。また、消費者物価は、ほぼ前年並みの水準にある。当面、物価は概ね横這いで推移する見込みであるが、やや先を展望すると、景気の自律的回復が遅れ、再度の在庫調整を余儀なくされるような場合は、需給ギャップの拡大につれて、物価が再び軟化するリスクに引き続き注意を払う必要がある。
(2)金融情勢
金融市場では、オーバーナイト金利が引き続きゼロ%近傍での推移を続けており、金融機関の多くには流動性確保に対する安心感が浸透している。ターム物金利は、一部にゼロ金利政策解除に関する思惑が出たことや、「コンピューター2000年問題」をにらんだ年末越え資金調達の動きなどを背景に、若干上昇した。
長期国債流通利回りも、ゼロ金利政策の早期解除の思惑などから一時1.8%台まで上昇したが、その後は反落した。株価は、景気の先行きに対する慎重な見方が後退してきたことや、米国株価の堅調を背景に、ここ1か月で2千円程度上昇し、最近では1万8千円前後での展開となっている。
この間、ジャパン・プレミアムは、一部の年末越え取引がやや強含んでいるほかは、ほぼ解消された状態にある。また、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドも引き続き縮小傾向を辿っており、信用リスクに対する市場参加者のリスクテイク姿勢は、徐々に前向きになってきている。
金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資姿勢を維持している。ただ、銀行自身の資金調達面や自己資本面での制約は緩和されており、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、徐々に融資を回復させる姿勢に変わってきている。こうしたことは、6月短観でも確認されている。
しかし、企業の側では、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、手許資金積み上げの動きも収まっている。この結果、民間の資金需要は一段と低調になっている。
このため、民間銀行貸出は弱含みで推移しており、5、6月は再び前年比マイナス幅をやや拡大した。また、社債、CP等の発行も、総じてみれば緩やかな減速傾向を辿っている。
このように、民間部門の資金調達は全体に減少気味である。その一方、マネーサプライ(M2+CD)の前年比伸び率は、財政資金の支払いなどを受けて、緩やかに上昇している。
以上のように、金融環境は全体として引き続き改善しており、企業金融を巡る逼迫感も和らいできている。今後、こうした金融環境の改善が企業の投資意欲など実体経済活動にどのような影響を与えていくか、十分注目していく必要がある。
3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
(1)景気の現状
景気の現状については、「足許の景気は下げ止まっており、企業の業況感も幾分改善しているが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という見方で、委員の判断は概ね一致した。このうちのひとりの委員は、こうした状況を「明暗入り交じった底這い状況」と表現した。
まず、「足許下げ止まっている」との判断の背景として、各委員は、前回会合に続き、公共投資が工事進捗ベースで高水準を維持し、住宅投資も堅調であることを、一様に指摘した。また、こうした政策関連需要の下支えに加え、アジア向け輸出が回復傾向にあることを反映して、企業の在庫調整が進捗し、生産が下げ止まっていることに言及する委員もみられた。
これに加えて、多くの委員が、6月短観において、企業の業況感、製品需給判断、および資金繰り判断が改善していることは、景気の下げ止まりを確認させる材料であるとの見方を示した。
次に、個人消費については、何人かの委員から、厳しい雇用・所得環境のもとでよく持ちこたえており、足許の景気の下げ止まりにも寄与しているとの評価が示された。ただその一方で、その動きは一進一退の域を出ず、経済全体の回復をリードするような力は備わっていないとの認識も多く述べられた。
具体的には、複数の委員が、夏季賞与が前年割れとなっているもとでも、ボーナス商戦が前年並みの水準を維持していることや、足許の個人消費関連指標にも改善の気配があることを指摘した。こうしたことの背景として、株価の上昇に伴う消費者マインドの改善、所得税減税の効果、および物価の安定を挙げる委員が多かった。また、ある委員は、世帯主の減収を配偶者のパート収入が補う傾向が続いていることも、最近の消費動向を支えているとの認識を明らかにした。
しかし、ほとんどの委員からは、雇用・賃金が、企業のリストラの影響もあって基本的には減少傾向にあるため、個人消費の回復にも限りがあるとの認識が示された。このうちのある委員は、(1)消費者は将来の社会保障や年金に根強い不安感をもっており、支出パターンが全体として防衛型となっていること、(2)そうしたもとで、消費自体が一段と選別的となるなど、構造変化を起こしていること、を指摘したうえで、現在は、消費者ニーズの掘り起こしに成功した業種や商品だけが生き残る局面であるとの見解を述べた。
設備投資については、企業マインドの改善にもかかわらず、実際の支出活動には結びついていないとする慎重な見方が相次いだ。このうちの複数の委員は、(1)6月短観において、設備の過剰感にほとんど改善がみられず、今年度の設備投資計画も依然慎重であることが判明したこと、(2)機械受注や建築着工床面積などの先行指標にも回復の動きはみられないこと、を踏まえると、設備投資の1〜3月の増加は一時的であり、その基調は依然として弱いとの認識を述べた。また、ほかの委員も、企業経営の重点が目下のところ財務面の立て直しにあり、設備の過剰感も残存するもとでは、設備投資の回復の目途は立っていないとの趣旨の発言を行った。
この間、物価動向については、多くの委員が、経済全体の需給ギャップは依然として大きく、物価に対する潜在的な低下圧力は残っているが、国際商品市況の持ち直しや国内の在庫調整の進捗などを背景に、これまでのところは全体として横這い圏内にあるとの認識を共有した。このうちのひとりの委員は、デフレ・スパイラルはとりあえず回避された、との見方を付け加えた。
なお、ある委員からは、景気の現状が明暗入り交じった二極分化の様相を強めているだけに、景気全体の方向感を判断する際には、マクロの経済指標だけをみていると見誤る惧れがあり、実体経済のミクロレベルの動きにも十分な注意を払っていく必要がある、との認識が示された。
こうした中で、別のひとりの委員は、他の委員と比べて幾分厳しめの景気認識を示した。その根拠として、その委員は、(1)景気一致指数は、D.I.(デフュージョン・インデックス)が2か月連続して50を割り込んでおり、景気の量感を示すC.I.(コンポジット・インデックス)からは景気底入れのシグナルが消えたこと、(2)6月短観は、雇用リストラの先送りと企業の楽観的な収益見通しを示しており、わが国経済の前向きの徴候は読み取れないこと、(3)他機関が公表している中小企業の業況感が芳しくないこと、(4)公共投資は、GDPベースで2四半期連続の前期比2桁増加という過去に例のない伸びを示したため、さすがに今後は息切れするとみられること、などの諸点を挙げた。
(2)金融面の動き
金融面については、多くの委員が「金融環境は改善している」との認識を共有した。また、このうちの何人かの委員からは、ゼロ金利や公的資本注入などの政策の効果はタイムラグを伴うものだけに、今後もその効果が継続して現れることが期待できる、といった見方が示された。
まず、株価については、多くの委員より、このところの上昇は、企業や消費者のコンフィデンスの改善をもたらしている、との指摘があった。このうちのひとりの委員は、堅調な株価の動きが実体経済活動にプラスの効果をもたらすルートについての整理を行った。その委員は、株価が上昇すると、企業や金融機関については、バランスシートの改善によってそれらの支出活動や融資スタンスが前向きになることが期待できるとした。また、家計については、こうした企業活動などが活発化することの効果に加えて、資産効果が働くことを指摘し、現在の株価は昨年秋のボトムから約4割、2月の金融緩和措置の前からで約3割上昇していることと、家計の保有株式総額が60兆円であることを前提に単純計算をすると、この間のキャピタル・ゲインは約20兆円となり、これをそのまま所得にカウントすれば、雇用・賃金の減少を埋め合わせて余りあるものになるとの見方を述べた。
長期金利については、複数の委員より、多少不安定な側面はあるが、このところは均してみれば小康を保っており、金融環境の好転に貢献しているとの見方が示された。これに対して、ほかのひとりの委員からは、国債の需給悪化を背景として、秋頃にかけて、長期金利が一段と上昇する惧れがあるとの懸念が表明された。
また、何人かの委員は、短期金融市場には潤沢な流動性があるが、市場が「コンピューター2000年問題」についての関心を高めているだけに、今後は、年末越え金利の動きなどに注意を払う必要があるとの考えを示した。
金融環境が改善しているもとでの金融機関の融資スタンスに関する発言もあった。複数の委員は、過去の金融緩和局面では、まず金利感応度の高い中小企業向け貸出が伸びることが通例であったが、現在は、金融機関が不良債権処理の途上にあり、健全性・収益性の改善を図る動きも続いているため、こうした動きがあらわれにくい、との趣旨の発言を行った。また、このうちのひとりの委員は、90年代初めに米国経済がいわゆるバランスシート問題を克服して回復を始めた際にも、銀行貸出が伸びず、資本市場の機能がこれを補完した例を紹介した。一方、別の委員は、企業が有利子負債の圧縮に追われて資金需要が出てこないことが、貸出低迷の最大の要因であるとした。
(3)景気の先行き
景気の先行きについては、当面は小康状態を辿るとみられるが、今年度下期以降のダウンサイド・リスクが根強く残っており、したがって、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていないというのが、多くの委員の間での共通した認識であった。
会合では、そうしたダウンサイド・リスクのもとで、民間需要の自律的回復はどのようなメカニズムで実現するのか、という点が議論のポイントとなった。具体的には、企業のリストラが進み、家計の雇用・所得環境が厳しい状況が続くとみられるもとで、最終的に、個人消費や設備投資の回復がどのように実現していくのか、という観点から議論が進められた。
まず企業のリストラの効果については、複数の委員より、それによって企業収益の回復に対する期待が高まれば、株価の上昇と、家計のコンフィデンス改善がもたらされるが、その動きは一部に窺われ始めているとの見方が示された。このうちのひとりの委員からは、リストラとは、単なる設備や雇用の削減ではなく、資本や人材の有効活用を意味するものとしたうえで、例えば、(1)雇用・賃金の削減の結果として企業収益の増加と株価の上昇が実現し、そのキャピタル・ゲインが家計に帰属すれば、雇用者所得のマイナス分をある程度打ち消す効果がある、(2)一方、企業活動は収益改善を梃子に徐々に前向きになると期待される、との整理を示し、必要以上にリストラに伴うデフレ効果のみを強調すべきではない、との認識を明らかにした。
もっとも、企業収益については、実際に回復する動きはまだ確認できないとの趣旨の発言が多く聞かれた。会合では、(1)6月短観において、今年度の売り上げ計画が前年並みの一方、収益は改善見込みとなっていることは、リストラに取り組む企業の決意の現われである、(2)企業の生産活動は、アジア向け輸出の回復や在庫調整の完了などから、7から9月にかけて上向き、これに伴って収益の回復が見込まれる、といった見方も少なからず示された。しかし、何人かの委員からは、(1)6月短観において、収益が下期に急速に回復する見通しとなっているのは、単に上期の未達分を下期に計上した結果であること、(2)この結果、下期の売上高経常利益率見込みはかなり高いレベルとなっており、その実現可能性には疑問があること、などを理由に挙げたうえで、今後の帰趨を注意深く見守る必要があるとの認識が示された。
個人消費が、厳しい雇用・所得環境の中で今後も持ちこたえることができるかどうかは、消費者コンフィデンスが維持されるかどうかにかかっている、というのが委員の間での共通認識であった。ひとりの委員は、個人消費の動きを規定するのは、基本的には雇用・所得環境であるが、今後は、金融資産を豊富に保有する層が、将来の金利や資産価格の見通しなどを踏まえてその豊富な貯蓄の一部を取り崩して、消費に回していくようなメカニズムにも注目したいとの趣旨の発言を行った。
同様の観点から、設備投資についての検討も行われた。名目GDPに占める設備投資の割合が過去最低の水準近くにまで落ち込んでいることや、企業金融を巡る環境や企業マインドの改善を踏まえて、最悪期を脱したとする委員もいたが、大方の委員は、設備の過剰感の根強さや収益改善もまだ実現していないことなどを理由に挙げて、慎重な先行き見通しを崩さなかった。
なお、今後の設備投資回復の姿について、複数の委員は、金融環境が全般に改善しているもとで、金融機関の融資姿勢も徐々に前向きとなってくれば、いずれは金利感応度の高い中小企業の設備投資が増加に転じるのではないか、との立場をとった。これに対して、別の委員は、中小企業の資金調達環境が万全とはいえないことや、大企業では98年度にすでに大幅な設備投資の圧縮を行ったことを踏まえると、むしろ、ストック調整と財務リストラを完了させた大企業のほうから、設備投資が立ち上がってくるのではないか、との考えを述べた。
さらに、経済主体のコンフィデンスという観点から、最近の株価動向に関して活発な意見交換が行われた。
複数の委員からは、株価上昇の背後には、企業収益の改善見通しがあり、それを素直に読み取るべきである、との指摘があった。このうちのひとりの委員は、長期金利との関係を示すイールド・スプレッドをみても、現在の株価水準が高すぎるとは必ずしも言えない、との見解を付け加えた。
これに対しては、最近の株価の上昇や、企業の業況感の改善には「期待先行」となっている面がある、といった慎重な見方がいくつか示された。具体的には、(1)ごく足許の実体経済の動きは、市場が期待しているほど強いものではない、(2)企業収益も、実際に改善する動きは確認できていない、(3)海外の投資家の中には、日本経済を再評価する動きがみられ始めているが、これは他地域との相対比較の結果であり、手放しで楽観視することはできない、などの指摘があった。そのうえで、それらの委員は、いずれかのタイミングでこうした点が再認識された場合には、株価が反落するリスクは否定できないとの立場をとった。このほか、別のひとりの委員からは、株価は目先の最高値圏にあるとみられ、ここからさらに上値を追っていく可能性は殆どないとする、より慎重な見通しが述べられた。
こうした議論とは別に、景気回復に向けたメカニズムとして、輸出動向の役割に注目した委員もいた。その委員は、(1)米国向けの情報通信関連製品の輸出は、米国経済が好調であるため今後とも期待できる、(2)アジア経済の回復を受けて、アジアと日本との間での貿易取引が拡大均衡に向かうことが見込まれる、(3)輸出採算も現状程度の為替相場であれば概ね確保されていると判断できる、といったことを理由に挙げて、政策関連需要と民間需要の橋渡しの役目を、輸出が担うのではないか、との期待感を明らかにした。
これに対して、別のある委員は、輸出はそうした役割を担えないと反論した。その委員は、日本経済にとっての海外面の具体的なリスク・ファクターとして、(1)米国株価には相当の過熱感があるため、米国経済の先行きは楽観できない、(2)アジア経済の構造問題も解決されておらず、秋以降失速する可能性がある、(3)特に中国については、現在の人民元相場や従来の改革路線が、今後も維持されるかどうかを注目していく必要がある、(4)IEA(国際エネルギー機関)によれば、本年第3四半期に世界の石油在庫が減少する見込みであることなどを踏まえると、今後、原油価格が20ドルを越えて上昇する可能性がある、といった諸点を挙げた。
この反論に関連して、ほかのひとりの委員は、海外情勢にあるリスクをどう認識するか、という点について発言した。その委員は、こうしたリスクを一様に論ずることは適当でなく、例えば、中国経済のスローダウンのように実際の経済動向として現実のデータに反映されているものと、米国株価の下落リスクなど実際に起こるかどうかわからないものとは、区別して考えていく必要がある、と指摘した。
今後の物価見通しや「デフレ懸念の払拭」に関する発言もみられた。多くの委員は、今年度下期以降のダウンサイド・リスクが根強いことや、賃金も依然低下傾向にあることを踏まえると、物価に対する潜在的な低下圧力は引き続き残っていると判断せざるを得ないとの立場であった。
しかし、何人かの委員は、大幅なデフレギャップが存在しているにもかかわらず、このところ物価が下がりにくくなっていることをどう考えるべきか、という観点から発言した。具体的には、在庫調整の進捗や原油価格の上昇といった要因に加えて、マネーサプライの伸びが名目GDPの伸びと比べて高いこと(=マーシャルのKが上昇していること)をどのように評価するか、との問題提起が行われた。このうちのひとりの委員は、資金が潤沢に行き渡っていることは、保有在庫の投げ売りを抑制するといったかたちで、需給を下支えするような効果があるとした。ただし、こうした委員も含め、何人かの委員が、従来から言われているマネーサプライと物価との間の関係を、今回、そのまま当てはめてよいかどうか、よくみていく必要があるとの認識を共有した。
なお、これらとは別のひとりの委員は、デフレギャップには計測上の問題があることを指摘したうえで、足許の物価情勢の落ち着きを踏まえ、「デフレ懸念は払拭されつつあるのではないか」として、大勢意見とは異なる趣旨の発言を行った。その委員は、このほか、(1)企業の業況感や消費マインドが改善している、(2)対内証券投資や資本提携のかたちでの海外資本の流入が続いており、これは海外勢が日本経済にポジティブな面があるとみている証左である、といったことを指摘したうえで、景気の自律的回復に向けた動きが少しずつ出てきており、これらが物価情勢の落ち着きに寄与している、との判断を示した。
4.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。
多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、前回会合までの判断と基本的には同様のものであった。具体的には、(1)足許の景気は下げ止まっており、企業の業況感や消費者マインドが幾分改善しているが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは依然みられない、(2)物価は、このところ横這いの動きとなっているが、物価に対する潜在的な低下圧力は依然として残っている、(3)金融環境の改善は、実体経済に一定の好影響を及ぼしているし、今後もそれが継続することが期待される、といった判断に総括された。
以上のような認識を踏まえて、それらの委員は、今年度後半以降のわが国経済にはダウンサイド・リスクが根強く存在し、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていない、との判断を示した。
したがって、当面の金融政策運営方針としては、そうしたリスクに焦点をあてた政策を行うことが必要であり、具体的には、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、現在の政策運営を継続する」という考え方に則って、現状の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの見解が、会合における大勢意見となった。
しかし、以上のような大勢意見とは異なる2つの主張がみられた。
まず、ひとりの委員は、「デフレ懸念」は完全には払拭されてはいないが、先行きのダウンサイド・リスクは小さくなっているとして、金融政策運営を2月の緩和措置前の状態に戻す──オーバーナイト金利を0.25%に引き上げる──ことを主張した。具体的には、その委員は、(1)昨年後半以降の金融システム建て直しに向けた施策やゼロ金利政策などを背景に、株価が上昇し、企業金融の逼迫感が後退するなど、金融環境が全般に改善しているが、これによって実体経済の前向きの動きが引き出されることを期待できること、(2)最近の物価指標からみると、物価低下圧力は和らいでいると判断できること、(3)ゼロ金利政策の長期化に伴って、その副作用(家計の利子所得への悪影響、構造調整の先送り、モラルハザードの発生、および金利機能の低下など)も大きくなるが、現在の金融経済情勢を踏まえると、これらの副作用を甘受してまでもゼロ金利政策を採り続ける妥当性が低下しているとみられること、および、(4)金利を引き上げたとしても、水準は0.25%であり、依然として超低金利であること、といった諸点を判断の根拠に挙げた。
この主張に対してある委員からは、今の市場環境はゼロ金利政策の効果もあって改善しており、ここで金利を引き上げると、良好な市場環境が崩れてしまう懸念があるのではないか、との疑問が呈された。また、別の委員は、ゼロ金利政策の副作用について、(1)所得分配上の問題や構造調整を遅らせるといった面があるのは事実だが、現在は、低金利によって経済活動を支えることが必要との判断からゼロ金利政策を採っており、その効果は着実に上がっている、(2)市場の信用リスクや流動性リスクに対するプレミアムの低下は、それこそがゼロ金利政策が狙っている金融仲介活動活性化の効果であり、単純に副作用とは決めつけられない、といった整理を示した。
こうした指摘について、利上げを主張する委員は、(1)利上げが市場に対して何のインパクトも及ぼさないとは言えないが、今の時点であれば、さほど大きな影響が出ないとみられる、(2)この機会を逃すと、ゼロ金利政策が長期化せざるをえず、その副作用が強まっていくリスクがある、といった点を挙げたうえで、景気が小康状態であるこの局面を捉えて小幅の利上げを実施することが適当である、との判断を念押しした。
もうひとつの主張は、わが国経済の先行きは依然としてデフレに陥るリスクが高く、しかも今後の長期金利の上昇圧力にも対応する必要があるとの認識に基づいた、一段の金融緩和の主張であった。これを主張した委員は、具体的には、物価目標付きのマネタリーベース・ターゲッティングを提唱した。この背景として、その委員は、(1)日本銀行が金融政策運営上の目標と手段を明示的に示していくことが、中長期的にみて日銀の独立性を守るための最善の手段であること、(2)今秋以降の自律的回復のシナリオが描けず、デフレに陥るリスクが高い経済情勢を踏まえると、ここで金利ターゲットから量的ターゲットにレジームを転換する必要があること、(3)そうすれば、金融政策運営の自由度が高まり、「積み上1兆円」の自縄自縛に陥っている金融調節の現状を打破できること、(4)一般政府債務残高の対名目GDP比率がイタリアを上回りかねないほど深刻な状況にあるため、債券市場では需給要因から長期金利に上昇圧力がかかる可能性が高いが、この政策によって、長期金利が上昇することや円高が進行することを阻止できること、さらに、(5)長期的な期待インフレ率が上昇すれば、経済にも好影響が及ぶこと、などを列挙した。
この主張を受けて、いくつかの議論が交わされた。
まず第1に、複数の委員より、一段の金融緩和を主張する委員は、その政策には長期金利の上昇を抑制する機能があるとする一方、その政策によって期待インフレ率が上昇する(その結果、名目金利も上昇する)とも発言しており、主張に矛盾があるのではないか、との指摘がなされた。これに対して、一段の金融緩和を主張する委員は、短期的にはマネタリーベース・ターゲッティングによる強力な金融緩和政策を受けて、長期金利の上昇は抑制され、その後、時間をかけて期待インフレ率が上昇していく、との考え方を説明した。
次に、財政赤字と長期金利の関係についても指摘があった。ある委員は、財政赤字が大幅だから長期金利が上昇し、それを抑制するためには流動性を供給すればよいというのは、議論を単純化しすぎているのではないかと発言した。その委員は、長期金利の帰趨は、(1)景気と物価に関する先行き見通しに加えて、(2)将来的に財政赤字が収束する見込みがあるかどうか、(3)マクロ的な貯蓄投資バランスの中で、資金余剰主体の貯蓄が政府部門に円滑に流れるのかどうか、といった点にかかっているとの理解を示した。これに対して、一段の金融緩和を主張する委員は、事後的なバランスはともかくとして、実際の金利形成に際しては、財政赤字の規模や債券需給の悪化懸念によって、長期金利が上昇する面は無視できない、との立場を繰り返した。
第3に、マネタリーベース・ターゲッティングによって政策の自由度が高まるとされた点については、何人かの委員から、経済的に意味のある自由度ということであれば、金利ターゲッティングとマネタリーベース・ターゲッティングとの間に違いはないとの反論があった。また、このうちのひとりの委員は、短期の資金供給オペが札割れになるほどまでに潤沢な流動性があるもとで、さらに市場の流動性を増やすことにすると、その方策は、国債買い切りオペの増額しかないとの議論につながりかねない、との懸念を表明した。この点について、一段の金融緩和を主張する委員からは、(1)オーバーナイト金利が実質的にゼロ%のもとでは、金利と量の間に「コインの表裏」の関係が成立しないため、金融緩和の度合いは、積み上額やマネタリーベースで示す必要がある、(2)そうした資金の供給は、短期金融資産によるオペ余力が20兆円程度あるとみられるため十分対応可能である、といった説明があった。
なお、6月末以降、市場の関心が高まったゼロ金利政策の解除の時期に関連して、多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、ゼロ金利政策を続ける」という考え方を堅持する方針を再確認した。
具体的には、複数の委員が、市場の期待が不安定化した直後であるからこそ、その政策が揺らぎないものであることを表明することが大切であるとの趣旨の発言を行った。このうちのひとりの委員は、持続的な景気拡大見通しが正しければ、それに伴う長期金利の上昇は放置すべきだが、片言隻句をとらえた誤解や経済指標の一時的な好転によって長期金利が上昇する場合には、(1)日本銀行としての判断を、短期金融市場でのオペレーションによってきちんと市場に伝えていくことが、市場安定化のための近道である、(2)とくに、マスコミや市場が金融政策運営について明らかな誤解をしている場合には、適度の説明を加えて理解を進めることも必要である、との整理を示した。さらに、これらとは別のひとりの委員は、金融政策はその判断のタイミングが肝腎であり、今は「動かさない」ことが重要である、との認識を強調した。
そして、これらを総括して、もうひとりのほかの委員からは、オーバーナイトとは言え、多額の資金が無担保で貸し付けられる際の金利がゼロ%というのは、普通の状態でないことは明らかであるが、その一方で、(1)ゼロ金利政策の効果は、企業金融の緩和などに確実に現れてきているし、今後もそれが浸透することが見込まれる、(2)目下のところは、デフレ懸念はなお払拭できていない、(3)一方、大きな副作用もまだない、といった認識をもとに、ゼロ金利政策を当分の間維持することが適当である、との判断が述べられた。
5.政府からの出席者の発言
会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。
- 日本経済の現状は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況にあるが、平成10年度補正予算等の効果の本格化、信用保証制度の拡充、さらには金融システム安定化策の進展など、各種政策の効果が浸透して、このところやや改善している。また、今後は平成11年度予算の効果も本格的に現れてくることが期待される。
- 政府では6月11日に緊急雇用対策および産業競争力強化対策を決定し、このうち雇用対策については、5,000億円を超える規模の補正予算を編成して、現在国会審議中である。また今後は、産業競争力強化対策についての法案を提出し、それに関わる税制についても必要な措置を講ずることとしている。
また、経済企画庁からの出席者からも、以下のような趣旨の発言があった。
- 景気の現状認識は、民間需要の回復力が著しく弱く、厳しい状況にあるが、各種の政策効果が浸透し、このところやや改善している。言い換えれば、政策効果によって、景気は辛うじて改善しているという意味でもあるので、経済は自律的な成長軌道に乗ったという判断までは至っていない。
- したがって、政府としても、緊急経済対策をはじめとする諸施策を引き続き強力に推進していくことが求められており、先般、緊急雇用対策と産業競争力強化対策を決定したところである。日本銀行においても、自律的な経済回復が明らかになるまで、適切な金融調節の手法により、潤沢な資金供給を行い、引き続き日本経済の回復に貢献するような金融政策運営をお願いしたい。
6.採決
多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)足許の景気は下げ止まっており、企業の業況感や消費者マインドが幾分改善している、(2)金融環境の改善は、実体経済に一定の好影響を及ぼしているし、今後もそれが継続することが期待される、(3)しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは依然みられない、(4)物価は、このところ横這いの動きとなっているが、物価に対する潜在的な低下圧力はなお残っている、(5)したがって、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていない、というものであった。
こうした認識を背景に、当面は、引き続き市場機能の維持に配意しながら、これまでの金融市場調節方針を維持することが適当であるという意見が大勢を占めた。
ただし、ひとりの委員からは、オーバーナイト金利を引き上げることが適当であるとの考えが示された。一方、別の委員からは、CPI上昇率に目標を設定したうえで、本格的な量的ターゲットに踏み切り、一段の金融緩和を実施することが適当であるとの考えが示された。
この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。
篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。
採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。
中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5から2.0%となることを企図して、今積み期間(7月16日から8月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注 3)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。
- 3「マネタリーベースについて2000年1から3月期平残で前年同期比10%程度の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年3月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増加させる必要がある。」
採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。
議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。
議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。
記
より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。
その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
- (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。
採決の結果
- 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、植田委員
- 反対:篠塚委員、中原委員
──篠塚委員は、(1)金融システム建て直しに向けた取り組みやゼロ金利政策の効果が浸透して、企業金融の逼迫感が薄れ、株価も堅調に推移している、(2)これを受けて、企業や家計のコンフィデンスが改善している、(3)物価指数の動きが落ち着いてきている、(4)長期にわたるゼロ金利政策によって、その副作用が顕現化しており、そうしたもとでゼロ金利政策を継続することは疑問である、(5)市場金利にもゼロ金利の修正予想を織り込むような動きがある、といったことを挙げたうえで、デフレ懸念は完全には払拭されていないが、ダウンサイド・リスクは小さくなったとして、上記採決において反対した。
──中原委員は(1)このところ「積み上1兆円」の固定的な金融調節を余儀なくされており、追加的なシグナルを市場に送れなくなってきている、(2)現状のゼロ金利政策に固執しすぎると、解除する際の市場に及ぼすマイナスインパクトが大きくなる惧れがある、(3)秋口以降、実体経済がさらに悪化した場合に、どのような対応で臨むのかという点で展望が得られない、といった点を挙げたうえで、物価目標付きのマネタリーベース・ターゲッティングによる一段の金融緩和を実施することが適当であるとの立場を採って、上記採決において反対した。
7.金融経済月報「基本的見解」の検討
当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を7月21日に公表することとされた。
以上
(別添)
平成11年 7月16日
日本銀行
当面の金融政策運営について
日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。
すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下の通りである。
より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。
その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
- (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。
以上