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金融政策決定会合議事要旨

(1999年 8月13日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年 9月21日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年 9月27日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年 8月13日(9:00〜12:23、13:16〜15:51)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   原口恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜15:51)
  • 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:00〜15:51)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巌
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(6月28日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、8月18日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(7月16日)で決定された金融市場調節方針1 にしたがって運営した。この間、積み上幅2を1兆円とする調節を実施し、オーバーナイト・レートは連日0.03%と安定して推移した。なお、大手都市銀行などでは、貸出の伸び悩みなどを反映してコール資金の要調達額自体が減少していることなどから、最近では0.02%での出会いもみられるようになってきている。

 前回会合以降の市場の動きとしては、次の3点が注目される。

 第1に、6月中旬以降強含んでいたタ−ム物金利が、最近では再び弱含んでいる。例えば、短期のCDレートなどは、オーバーナイト・レートと同じ0.03%、ないしはそれを下回る水準まで低下してきている。

 期間別にみると、9月末越えの金利の上昇の程度は、昨年の同時期と比べてもかなり小さく、中間期末越えのリスクはあまり意識されていないように窺われる。一方で、年末越えとなる6か月以上のターム物金利が高止まっており、この背景には、「コンピューター2000年問題」への懸念やゼロ金利政策解除の思惑があるものと考えられる。

 第2に、6月の鉱工業生産など強めの経済指標の公表を受け、金先レートが、最近では再び緩やかに上昇している。この結果、現在の金先レートには、「利上げがあるとすれば来年初以降、幅は0.25%」といった予想が織り込まれているように窺われる。

 第3が、「コンピューター2000年問題」を巡る市場の動向である。ユーロ円金利先物における「2000年プレミアム3」はこのところほぼ横這いであり、資金面では、2000年問題のリスクを巡る市場の見方に殆ど変化はみられない。一方、国債に関しては、ごく最近、特定銘柄の国債の貸借料が大きくはね上がる現象がみられた。これは、市場の一部に、大口投資家が年末越えの国債の貸借取引などを控えるのではないかといった懸念が出ているためと考えられる。

  1. 「より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注:2月12日の金融政策決定会合時点)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。」
  2. 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。
  3. 99年12月限(金利ベース)が、前後の99年9月限と2000年3月限の平均に比べて割高となっている度合い。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 前回会合以降の為替相場の動きをみると、7月中旬から8月初にかけて、円とユーロはともに対米ドルで上昇しており、ドル全面安の展開となっている。

 これは、グリーンスパンFRB議長がハンフリー・ホーキンス法に基づく議会報告でインフレを警戒する内容の証言を行ったこと、その後公表された経済指標がいずれも予想比強めであり、証言の内容を裏付けるかたちとなったことなどを反映したものである。

 その後、ごく最近では、円の対米ドルでの上昇は一服している。この原因としては、介入警戒感に加え、アジア情勢に関連し、中国・台湾間の緊張の高まりや中国人民元の切り下げ思惑といった不安材料があることが挙げられる。

 もっとも、底流としては、円高ドル安センチメントが続いているように窺われる。これは、東アジア経済の回復などに伴い、これまでの「米国経済の好調、その他地域の不振」という形から、「米国経済の先行き不透明感、その他地域の回復傾向」へと大きな世界景気の構図が変わりつつあるのではないか、さらに日本の構造改革も漸く始まりつつあるのではないかといった見方が出ているためである。

(2)海外金融経済情勢

 米国では、実体経済は引き続き堅調に拡大している一方で、インフレ懸念を背景に、金融市場ではドル安、株安、債券安といった状況となるなど、金融面で変化が生じている。雇用コスト指数や時間当り賃金など、インフレ圧力の強まりを窺わせる指標の公表を受け、長期金利は97年10月以来の水準にまで上昇しているほか、株価もピーク比で4%程度下落している。

 一方、欧州では、個人消費の堅調などを受け、景気拡大のテンポが緩やかながらも高まる方向にある。

 また、NIEsやASEAN諸国では、景気の回復傾向が一段と明確になっている。この一方で、これらアジア諸国の株価は7月中旬から軟化傾向にあり、直近のピーク時から総じて1〜2割程度下落している。この背景としては、米国経済の先行き不透明感や、中国・台湾情勢の緊張といったこともあるが、基本的には、年初来急激な上昇を続けてきた株価が、調整局面を迎えているものとみられる。

 なお、最近の国際的な資金フローをみると、ドル資産から円資産への資金シフトという傾向がみられる。円資産の流入先としては、株式だけでなく、中長期債券や短期国債などに幅広く流入している模様である。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要をみると、設備投資が減少を続けているほか、純輸出は輸入の増加から足許やや弱含んでいる。一方、公共投資は、本年2〜3月の大量発注を受けて工事量が増加しているほか、住宅投資も持ち直している。また、個人消費は、夏季賞与の減少等、雇用・所得環境が厳しさを増す中にあって、消費者心理の好転に支えられて一進一退で推移している。こうした最終需要の動向や在庫調整の進捗を背景に、生産は、振れを伴いつつも基調としては下げ止まっている。

 このように、足許の景気は下げ止まっている。企業の業況感も、一頃に比べ幾分改善をみている。

 先行きについては、公共工事の進捗が、従来のパターンと比べ遅れ気味となっていることから、公共工事関連財の出荷は、これから秋口にかけて増加していくと考えられ、10〜12月も大きな落ち込みは避けられる見通しである。また、住宅投資の持ち直しが続くほか、アジアを中心とする海外景気の回復を反映して、輸出が今後強含んでいく可能性が高い。こうした状況を反映して、4〜6月に微減となった生産は、7〜9月には増加に転じると見込まれる。このように、景気はしばらく小康状態が続く可能性が高い。

 ただ、企業がリストラに伴い設備投資を抑制するスタンスに変わりはなく、設備投資の年間の姿については慎重にみておく必要がある。また、輸出がこの先幾分回復するとしても、その持続性については不確実性がある。さらに、夏季賞与は昨年をかなり下回る見込みにあり、これがマインド面や所得面から個人消費に水を差す可能性も残っている。したがって、民間需要が速やかに自律的回復に向かう蓋然性は、なお高くないと考えられる。なお、最近の円高の影響については、現在の円相場が6月短観における製造業大企業の想定レート(116〜117円程度)から大きく乖離していないことなどからみて、これが企業収益などに大きな影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。

 物価面をみると、企業向けサービス価格は下落を続けているが、国内卸売物価は、原油等の輸入物価の上昇に加え、在庫調整の進捗もあって、足許では横這いとなっているほか、消費者物価も、ほぼ前年並みの水準で推移している。先行きについても、国内卸売物価は当面は概ね横這いで推移するほか、消費者物価もしばらくは下がりにくい状況が続くと予想される。しかし、やや中期的にみると、民間需要が自律回復することによって大幅な需給ギャップが縮小に転じる展望が開けない状況のもとでは、物価全体に対する潜在的な低下圧力は残存するものと考えられる。

(2)金融情勢

 短期金融市場では、オーバーナイト金利がゼロ%近傍での推移を続けており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。また、ターム物金利は6月中旬以降いったんやや上昇したが、その後再び低下し、最近では落ち着いて推移している。ただし、年末越えのターム物金利は、「コンピューター2000年問題」の影響もあって、やや高めとなっている。

 長期国債流通利回りは7月中旬に一時1.6%程度まで低下したが、その後は景況感の強まりなどを材料に幾分上昇し、最近では1.8%台で推移している。株価は、概ね1万8千円台での動きを続けていたが、最近では1万7千円台前半で推移している。

 この間、ジャパン・プレミアムは、3月以降ほぼ解消された状態が続いている。また、国債と民間債(金融債、社債)の流通利回りスプレッドも、低めの格付けの社債を中心に一段と縮小しており、信用リスクに対する市場参加者のリスクテイク姿勢は、徐々に前向きになってきている。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は基本的には慎重な融資スタンスを維持している。ただ、銀行自身の資金調達面や自己資本面からの制約は緩和されてきており、大手行などでは、融資先の信用力などを見きわめつつ、徐々に融資を回復させようとする姿勢にある。

 しかし、資金需要面では、設備投資などの実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業の手許資金積み上げの動きも収まっている。この結果、民間の資金需要は引き続き減退しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債、CP等の発行も緩やかな減速傾向が続いている。

 この間、マネーサプライ(M2+CD)は、金融緩和の浸透や、財政資金の支払いなどを背景に、前年比4%強の伸びを続けている。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状については、「足許の景気は下げ止まっており、企業の業況感も一頃に比べ幾分改善をみているが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という見方で、委員の判断は概ね一致した。こうした景気の現状を、ある委員は、「引き続き明暗入り交じった斑模様」と表現した。

 「景気の下げ止まり」との判断の背景として、多くの委員が、(1)公共投資について、高水準で工事が進捗しているほか、(2)住宅投資も持ち直し傾向が続いており、(3)こうした需要動向のもとで、生産が下げ止まっていること、を指摘した。

 これに加えて、ある委員は、法人企業動向調査などからみて、企業のセンチメントの改善は続いているとした。また、別の複数の委員は、消費、投資、輸出などさまざまな面で、情報通信関連の需要が堅調であることを指摘した。このうちひとりの委員は、通信機器の受注が好調であることや、家電販売の堅調、さらには家計支出のうち通信費が伸びていることなどを指摘し、いわゆる「デジタル」、「モバイル」といった言葉を軸にした分野は堅調が目立っていると述べた。さらに別の委員も、明るい材料の一つとして、日本でも都心部にベンチャー企業の集積地が誕生しつつあるといった事例を紹介した。

 ただ、現状では「回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という点でも、各委員の見解はほぼ一致した。こうした判断の理由として多くの委員は、(1)現在の景気は、依然として公共投資や住宅投資といった政策関連需要に支えられている面が強いこと、(2)民間需要の柱となる個人消費や設備投資については、一部に好調な指標もみられるとはいえ、全体としては明確な回復の証左は得られていないこと、を指摘した。ある委員は、景気動向指数の各コンポーネントの内容を仔細に分析しても、景気が反転したとは判断できないとコメントした。別のある委員は、景気が微妙な時期にあり、またマクロの統計が必ずしも新しい産業分野の動きを十分に反映していない可能性を踏まえると、マクロの統計とともに、ミクロの産業の動きにも十分に目を配る必要があると発言した。

 まず個人消費については、多くの委員が、パソコンやエアコン販売、都内百貨店売上高など一部に明るい指標がみられるとしながらも、一方で、(1)7月の自動車販売など、やや不振な指標もあること、(2)都内百貨店売上高やエアコン販売については、一部店舗の閉店セールや猛暑といった一時的・天候要因が作用している可能性が高いこと、を指摘し、やはり消費全体としては一進一退の域を出ないとの見方を共有した。

 また設備投資について、ある委員は、機械受注統計で、7〜9月の受注見通し(民需<除く船舶・電力>)が前期比増加となったことを一つの明るい材料として指摘した。もっとも、別の委員からは、内訳をみると半導体製造装置の増加寄与が大きく、この間、中小企業の発注動向を示すとみられる代理店分が前期比でかなりの減少となっていることなどを踏まえると、全体としては受注の実勢は強くないのではないか、との見解が示された。結局、これらの委員を含め、大方の委員は、(1)短観やその後のアンケート調査でも本年度の設備投資はマイナスの計画となっていること、(2)銀行貸出や資本市場調達からみて、企業の資金需要は依然低迷していること、などからみて、現時点では設備投資に前向きの動きがみられているとはいえない、との認識を共有した。

 生産の動向については、ある委員から、アジアの景気回復を受けたアジア向け輸出の好調に支えられ、企業の生産・収益計画はやや好転する兆しが濃厚になってきたとの見方が示された。この間、別のある委員は、7〜9月の生産計画がプラスとなっていることは一つの明るい材料であるが、企業の在庫積み増しに対する姿勢は、依然として非常に慎重であるとコメントした。

(2)金融情勢

 金融面では、金融緩和の効果が一段と浸透し、流動性に関する懸念はさらに後退しているとの認識で、委員の見解は概ね一致した。こうしたもとで、(1)最近、円が対米ドルで上昇する一方、長期金利は1.8%台まで上昇し、株価は若干下落するなど、金融市況の面で、これまでの「円安、長期金利安、株高」という組み合わせに幾分変化が生じていること、(2)マネーサプライがまずまずの伸びを示す一方で銀行貸出が伸び悩んでいること、などに委員の関心が集まった。

 まず、金融市況の動向について、委員の間で議論が交わされた。

 最近の円高傾向については、多くの委員が、(1)足許の円高は、昨年秋以降の円高とは異なり、日本経済に対する見方の改善を背景としていること、(2)円高の程度もこれまでのところは限定的であり、企業の経営計画を大きく狂わせるものではないこと、を指摘し、経済に大きな影響を及ぼす可能性は低いとの見方を示した。さらに、足許の株価の下落や長期金利の上昇についても、現時点では、これらが経済活動を下押しするリスクは小さいとの認識であった。

 ある委員は、こうした見方を理論的に整理した。すなわち、(1)金融緩和が行われると、まず円安、長期金利の低下、株高という現象が起こり、(2)その後、これを受けて景況感が改善すると、今度は円高や長期金利の上昇が起こる、(3)この間、株価については収益増加期待と円高、金利上昇との綱引きで、いろいろなケースがある、と述べた。そのうえで、これまでの金融市況は、かなりの程度、金融緩和の当初の効果と、その後の景気回復期待の台頭による変化というパターンで説明できる、とコメントした。別の委員も、これまでの株価上昇の一因となってきた外国人投資家の動きをみると、ここにきて売り浴びせているというわけではなく、様子見の姿勢をとっている模様であり、株価がこの程度の調整局面を迎えること自体は、特段懸念することではないとの見方を述べた。

 ただ、別の複数の委員は、仮に円高がさらに一段とかつ急激に進行することがあれば、その企業収益への影響はやはり無視できないと発言した。そのうちの一人は、景気回復が輸出に支えられているという現状では、過度の急激な円高は景気の足を引っ張ると発言した。これに関連して、さらに別の一人の委員は、為替変動の企業経営への影響を軽減していく上では、取引に占める円建てのウエイトを増やしていくことなども有効な手段であり、こうした面での一段の企業努力が望まれる、とコメントした。

 加えて、複数の委員は、円高ドル安の背景には米国経済の先行き不透明感があり、米国経済の帰趨自体が先行きの重要なリスクの一つであろうと指摘した。また、このうちのひとりの委員は、世界経済についての市場の認識が広範に変わりつつあるとすれば、為替相場の動きに予期せぬモメンタムがついてしまう可能性も全くないわけではないとコメントした。いずれにせよ、円相場の動向とその経済への影響については、引き続き注意深くみていく必要があるという点で、委員の認識は一致した。

 また、金融の量的側面に関し、マネーサプライがまずまずの伸びを示す一方で、銀行貸出が伸び悩んでいることについても、議論が行われた。

 ある委員は、民間銀行のリスクテイクの姿勢は徐々に前向きに変化しつつあるとはいえ、まだ信用仲介機能は十分に回復しているとはいえないとコメントした。ただ、この委員も含めた大方の委員は、銀行の資金調達面や自己資本面からの制約は緩和されていることや、各種アンケート調査などからみて、ここにきて銀行側の融資姿勢が厳しくなっているとは考えにくく、貸出の伸び悩みは、基本的には民間の資金需要が依然低迷していることを反映している、との判断を示した。

 ある委員は、景気回復の姿としては、通常、中小企業の設備投資が先行する形が想定されるが、足許の貸出の低迷は、少なくともこうしたルートからの景気回復のメカニズムがきわめて弱いことを示しているのではないか、と述べた。

 別の委員は、「マネーサプライが伸びる一方で貸出が低迷している」現象を整理した。すなわち、(1)政府部門が国債を発行するとともに財政資金を支払う、(2)財政資金の支払いを受けた企業は、これを法人預金などの形で金融機関に積み上げる、(3)金融機関はこの資金で国債を購入する、という現象が起こっているはずだと述べた。そのうえでこの委員は、今後景気が回復し、投資が増えていくとしても、それが内部留保の取り崩しによってファイナンスされる場合には、マネーサプライや貸出といった量的金融指標はなかなか伸びていかない事態も考えられる、との問題提起を行った。

 さらに別の委員は、貸出の伸び悩みの要因として、(1)金融緩和が浸透し、流動性確保への安心感が広がっているため、手元資金への需要がむしろ減少していること、(2)企業のキャッシュ・フローの改善が、バランスシートの改善——すなわち、借入金の返済——に向けられていること、を指摘した。そのうえでこの委員も、今後、「企業のキャッシュ・フローは改善するが、設備投資が回復するには至らない」といった景気回復の途上段階では、貸出やマネーサプライがなかなか伸びていかないといった状況も生じ得る、との見方を示した。

 こうした議論を踏まえ、多くの委員の見方は、足許の貸出の動きには、バブル期に生じた過剰債務を圧縮する動きや流動性不安の後退などさまざまな要因が影響しているという点で、概ね一致した。また、こうした見方をもとに、複数の委員は、実体経済と量的金融指標との関係は従来に増して不安定となることが予想され、今後、金融緩和が浸透しているもとでも、量的指標が伸び悩むといったケースも考えられるとの見方を示した。

(3)景気の先行き

 景気の先行きについては、公共工事の進捗の遅れもあって、しばらくは小康状態を続ける可能性が高く、少なくとも年内に景気が再び落ち込むリスクは減少しているとの見方が大勢を占めた。ただ、民間需要の回復の展望は依然として不明確であり、公共投資の減衰が見込まれる来年初以降、景気が再び下降するリスクは残っているという点でも、委員の見解は概ね一致した。

 このなかで、多くの委員が、公共工事の進捗が遅れ気味であり、当初年内とみられていた公共投資の息切れの時期が、年明け後にずれ込む可能性が高いことに言及した。これらの委員は、これにより年内に景気が再び落ち込むリスクはやや減少し、景気の小康状態の時期がしばらく伸びる可能性が高まったとの見方を共有した。このうちの複数の委員は、公共工事の進捗の遅れは、政策関連需要が民間需要にバトンタッチされるまでの時間的猶予を幾許か延長したという意味で、結果的にはプラス面が大きいのではないかとコメントした。

 この間、別のある委員は、公共工事の進捗が遅れ気味であったにもかかわらず、景気は小康状態を保ってきたということは、この間、民需が予想外に健闘していたということではないか、という見解を述べた。

 次に、民間需要の先行きについて、委員の間で議論が行われた。

 まず輸出面では、多くの委員が、東アジア経済の回復の動きが一段と明確になってきていることなどを受けて、先行き、輸出が増勢を辿る見通しであることを、明るい材料の一つとして指摘した。ただ、そのうちひとりの委員は、現状、日本がかなりの水準の経常黒字を続けているもとで、これがさらに大きく増えていくことまでは考えにくいともコメントした。

 次に個人消費については、多くの委員の見解は、足許の雇用・所得環境の厳しさを踏まえれば、現状では消費性向の上昇がこれに打ち勝って個人消費が増加していくことまでは見込み難いという点で、概ね一致した。

 まず、複数の委員が、足許の雇用・所得環境の厳しさに言及した。

 ある委員は、足許の雇用者所得の減少には、(1)マイナスの循環圧力に加え、(2)企業のリストラの影響が、雇用の削減が容易ではないこともあって、賃金の面に強く反映されていることが寄与しているのではないか、と述べた。別の委員も、失業率統計をみると、失業期間の長期化が進んでいることや、求職活動自体を断念した人がかなりいることが窺われ、雇用環境は見かけの失業率以上に厳しい、とコメントした。

 こうしたもとで、ある委員は、これまで雇用者所得が減少するなかで、消費性向の上昇により、個人消費は一進一退を維持してきたが、こうした消費性向の上昇が今後も続いていくことまでは期待し難いと述べた。こうした見方は、他の委員にも概ね共有された。

 なお、個人消費に関連し、ひとりの委員は、米国のjobless recoveryの過程では、高所得者層の教育や住宅、レジャー関連といった選択的支出が景気を下支えしたとの認識を示した。そのうえでこの委員は、家計調査の「世帯主の勤め先企業規模別」に、実質消費支出について3か月移動平均の前年同期比をとって分析してみると、日本では大企業の被雇用者ほど選択的消費のマインドが萎縮しているように窺われ、こうした点は米国の回復パターンとはやや異なっているとの見解を示した。

 これに対し、別のある委員は、同じ家計調査を用いて別の解釈を示した。すなわち、この委員は、「年間収入五分位階級別」の名目消費支出を均してみると、むしろ、消費支出が大きく下押しされているのは、年収600〜800万円の中所得者層であるように窺われる、と述べた。この委員は、中所得者層は住宅ローンなどの負担が重い中で、所得環境の悪化の影響を他の層より強く受けているのではないか、との見解を示した。

 これらの見方に対し、別の委員は、家計調査はサンプル替え等に伴う影響も大きいため、分析の結果については幅を持ってみる必要があるのではないか、とコメントした。

 次に、設備投資の先行きに関しても、多くの委員は、循環的なマイナス要因に加え、構造調整圧力やリストラの動きなどを踏まえると、その本格的な回復には、まだしばらく時間を要するのではないかとの見方を共有した。

 まず、ある委員は、(1)大企業は今年度の投資計画をかなり固めているとみられること、(2)リストラの動きが投資を抑制する方向に働くこと、(3)中小企業には構造調整圧力が特に強く働いているとみられること、などから、設備投資が回復する展望はなかなか持ちにくい、との見解を示した。

 また、別の複数の委員も、企業がバランスシートの調整を進めているもとでは、キャッシュ・フローが改善しても、これがまず借り入れの返済に振り向けられる結果、設備投資の回復に結びつくまでには、これまでの景気回復局面以上に時間がかかるのではないかと述べた。ただ、このうちひとりの委員は、企業によるバランスシート調整自体がさらにマイナスの連鎖反応を生み、経済が内側から崩れていくリスクは、現在かなり減少しているとし、さらに、バランスシートの調整は、前向きの力を貯えている過程と捉えることもできる、との認識を示した。

 この間、ひとりの委員は、景気の先行きに関し、他の委員に比べて一段と慎重な見方をとった。

 この委員は、足許の株安の影響が懸念されるほか、アジア経済回復の輸出面への好影響も、最近の円高によって大きく減殺されるのではないかと述べた。加えて、雇用リストラの受け皿となる新しい産業がみえてこないもとでは、今後失業率がさらに上昇することは避けられないとした。また、原油価格についても、指標銘柄であるWTIの価格は、年末までに23〜25ドル/バレルまで上昇するのではないか、との見通しを示した。

 さらにこの委員は、海外経済についても、アジア諸国については最近の株価下落の影響が懸念されるほか、不良債権処理や政治面でのリスクも残っていると指摘した。また、米国経済についても、供給面でのボトル・ネックが明らかになってきており、今後については不透明感が強いとコメントした。

 先行きの物価動向については、物価は当面横這いで推移する可能性が高いが、民間需要の自律的回復の展望が依然はっきりしないもとでは、潜在的な物価下落圧力は残存しており、したがってデフレ懸念は引き続き払拭できていないとの見方が、委員の大勢であった。

 まず、複数の委員が、最近の物価の下げ止まりは、原油価格上昇などの供給面の要因も寄与しており、足許、素原材料や中間財の価格が強含んでいる一方で、消費財などの価格はむしろ弱含みとなっていることを指摘した。そのうえで、原油価格上昇のような供給面からの物価上昇圧力は、デフレ的な期待を後退させるというプラス面がある一方で、企業収益などにマイナスのインパクトを及ぼす可能性もあると言及した。

 なお、別のある委員は、素材産業などで価格回復期待が高まっている一方で、流通業などが新たな国際競争圧力に晒されていることを考えれば、消費者物価には、この面からも低下圧力がかかり続けるのではないかとコメントした。

 こうしたなかで、ある委員は、足許の物価の下げ止まり自体が、民間のデフレ的な期待形成を後退させることを通じて、先行きの物価動向に何らかの影響を及ぼすことはないかといった点も、注意してみていく必要があると発言した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 金融経済情勢に関する委員の大勢認識をあらためて整理すると、(1)公共投資や住宅投資に支えられ、足許の景気は下げ止まっている、(2)金融面では、日本銀行の金融緩和は金融資本市場に一段と浸透しており、市場参加者のリスクテイク姿勢にも前向きの変化がみられる、(3)こうしたもとで、最近では個人消費や設備投資、輸出環境などにも、一部に明るい材料がみられている、(4)しかし、景気が自律的に回復していくとの展望は、依然として不明確である、(5)したがって、公共投資の息切れが予想される来年初以降、景気が再び悪化するリスクも否定できず、デフレ懸念は払拭されていない、といったものであった。

 このような情勢判断のもとでは、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで現在の政策を継続する」という考え方にしたがって、現在の思い切った金融緩和スタンスを続けるべきであるという意見が、委員の大勢を占めた。

 なお、この考え方に関連してある委員は、(1)物価指標にもいろいろあり、物価変動の要因も技術革新、需要動向、供給ショック等さまざまなものがあるため、中央銀行が追求すべき物価の安定は一つの指標で把握し切れるものではないこと、(2)経済主体にとって重要なのは、現在の物価水準というよりも、むしろ先行きの物価動向であることを、外部に対しても十分説明していく必要があろうと発言した。

 一方、ゼロ金利政策の副作用についても、委員の間で議論が行われた。

 複数の委員は、ゼロ金利政策の副作用として、(1)金利を通じた所得分配上の問題、(2)低金利が衰退産業の市場退出や過剰設備の廃棄を遅らせ、結果として構造改革を遅らせてしまう可能性、(3)市場参加者のリスク意識の低下、(4)市場機能の低下、などの問題点を挙げた。このうちのひとりの委員は、CPや社債の発行市場において、格付による発行レートの差が非常に小さくなっていることに加え、最近では貸出の面でも、銀行の中にはハイリスク先に割安なスプレッドを提示してボリュームの拡大を図る先がみられており、市場参加者のリスクに対する意識が、一段と希薄になってきていると指摘した。しかしながら、多くの委員は、経済の現状や先行きのリスクを踏まえると、現時点でゼロ金利政策を変更することは適当でないとの見解であった。

 さらに、また別の委員は、ゼロ金利政策を評価する場合、マイナス面だけを単独に取り上げてみることは適当でないと強調した。例えば、ゼロ金利政策により経済主体のリスクテイク活動が積極化していることを「効果」とみるのか、それとも「リスク感覚の低下」という副作用とみるのかは、あくまで経済状況との関連で考えられるべき問題であるとした。さらにこの委員は、低金利は確かに衰退セクターにプラスに働くが、同様に成長セクターにもプラスに働くと述べたうえで、構造調整のためには、先に衰退セクターの淘汰ありきではなく、次世代を担う成長セクターが立ち上がってくることが重要であり、低金利はこの面ではプラスに作用するはずだ、との見解を示した。

 一方、ある委員は、低金利政策の長期化に伴い、その副作用も徐々に大きくなってきており、特に最近では、家計部門の内部で、高所得者層と中・低所得者層の二極分化の傾向もみられると発言した。そのうえで、こうした点を踏まえれば、これ以上ゼロ金利政策を続けていくことは適当でないとの見解を述べた。

 次に、金融調節の技術的側面について、このところ1兆円の積み上幅が続いていることに関しても議論が行われた。

 まず、一人の委員が、(1)金融緩和が浸透し、超過準備への需要が一段と減少しているとみられること(この結果として準備預金制度非適用先の当座預金の積み上がりが増大していること)、(2)積み上幅は、そもそも日本銀行の金融政策運営スタンスを示すものではないこと、を踏まえ、1兆円の積み上幅が続いていることをどう評価すべきか、との問題提起を行った。

 一方、別の委員は、「積み上幅1兆円」が調節上の「擬似ターゲット」のように市場から受け止められており、金融政策の透明性という観点からは、積み上幅についても金融市場調節方針の中に明記するべきではないかとの見解を示した。また、この委員は、ゼロ金利政策のスタート後、積み上幅の見込みと実績との間に大きな乖離が生じており、こうした状況が続けば中央銀行のクレディビリティにも影響を与えかねないと発言した。さらにこの委員は、その原因として、資金需給の予想の中に準備預金制度非適用先(短資会社等)への漏出分が含まれているなど、現在の金融調節・金融環境にそぐわない枠組みとなっており、積み上幅や資金需給予想のあり方も含めて全般的に見直しを行うべきと主張した。

 こうした問題意識に答えるかたちで、さらに別の委員の求めに応じ、執行部から以下のような補足的な説明が行われた。

 すなわち、執行部としては、1兆円といった積み上の水準自体を調節上の目標としているわけではなく、あくまで、オーバーナイト金利をできるだけ低く推移するよう促すという方針を実現する上で、必要と考えられる資金供給を行った結果であるとした。

 また、(1)朝方の積み上幅の見込みは、その時点での所要準備対比での資金供給額を示すものであり、実際にその通りの資金供給をおこなっていること、(2)積み上幅の見込みと実績の乖離については、日本銀行の潤沢な資金供給の多くが、結果的に短資会社などの準備預金制度非適用先の当座預金として積み上がる傾向が続いていることが主因であること、を説明した。その上で、本年4月以降、日次ベースで準備預金制度非適用先の当座預金残高を公表し、この面でもアカウンタビリティの向上に努めており、今後とも、適宜こうした面での努力を続けていきたいと述べた。

 こうした執行部の説明を受けて、多くの委員が、現在の金利をターゲットとする手法を変える必要はないとの意見を示した。すなわち、ある委員は、金融市場調節方針として金利の誘導目標を示している以上、これに積み上幅の目標を追加的に書き込む必要はない、との見解を示した。さらに別の委員も、金利と量という2つの目標を金融市場調節方針に書き込んでも、両方を同時に実現することはできないとし、こうした見解に賛意を示した。

 さらに最近、「円売り介入を不胎化せずに行ってはどうか」といった見解が外部で聞かれていることについても、議論が行われた。

 まず、ある委員は、「円売り介入を不胎化しない」ということは、すなわち、介入のあった時だけ、介入の金額分積み上幅が大きくなるということであるが、こうした手法が何らかの意味を持つとは考えにくいとした。加えて、過去の実証分析によれば、為替介入の効果を左右するのは、政策当局の意思やその後の政策変更に関するシグナルが明確かどうかであり、介入の不胎化の有無によっては効果はあまり変わらないという結果が多いとも付け加えた。

 さらにこの委員は、不胎化しない円売り介入が何らかの効果を有するとすれば、それは、介入に合わせて金利も引き下げられる場合であろうが、現在、金利に低下余地がない中では、介入を不胎化しないことで、為替相場に追加的な効果を与えられるわけではない、との見解を示した。こうした見解に、複数の委員が賛意を示した。

 一方、別のある委員は、金融政策を為替レートに割り当てるものではないが、市場が本当に「中央銀行が介入を不胎化しないことに何らかの効果がある」と考えているのであれば、こうした見方を利用するような対応を考えてもよいのではないか、との問題提起を行った。その上でこの委員は、為替相場には日米のマネタリーベースの絶対額の比率がある程度影響しているように思われるが、介入を不胎化しないことはマネタリーベースを増加させる一つの考え方であるし、また、マネタリーベースの増加は、日本経済にもプラスになるのではないかと述べた。

 これに対し、先ほど「介入を不胎化しないこと」の効果に否定的な見解を述べた委員は、最近、日米のマネタリーベースの伸び率の格差が円ドル相場と相関があるのではないかといった見方もあるようだが、長い期間をとると両者の相関は弱く、こうした関係が安定的とはいえないとコメントした。また、この委員を含めた複数の委員は、「介入を不胎化しないこと」について日本銀行自身が理論的に意味があると考えていないまま、市場のパーセプションに乗るような対応はとるべきでないし、仮に一時的に効果が出たとしても長続きはしないだろうと述べた。

 さらに別の複数の委員は、これらの議論を総括するかたちで、ゼロ金利政策のもとで、日本銀行はすでに日々の調節を通じて、「不胎化しない円売り介入」が想定するレベルを上回る資金供給を行っていると述べた。

 以上の討議の結果、当面の金融政策運営方針については、現在の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

 もっとも、ある委員は、景気が先行き再減速するリスクが減少している一方で、ゼロ金利政策の継続に伴い、その副作用も大きくなってきていることを踏まえれば、このタイミングで、政策スタンスを2月12日の金融緩和措置以前—— オーバーナイト金利を平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す——に戻すべきとの立場をとった。さらに、仮にこのような措置をとったとしても、依然として超低金利であることに変わりはなく、その枠組みの中で、肌理細かい政策運営を行っていくべきであると主張した。

 一方、別の委員は、ここで思い切って量的な緩和策をとるべきとの意見を表明した。理由として、この委員は、(1)最近の円高や株価の低下、長期金利の上昇は、2月の金融緩和措置に伴う金融市場への好影響が出尽くしたことを示しており、現在が景気回復のためにきわめて重要な時期であることを踏まえれば、ここで追加的な緩和策をとる必要があること、(2)民間需要の自律的な回復力は十分でなく、本年度下期に景気が失速するおそれがある点には変わりがないこと、(3)物価目標つきのマネタリーベース・ターゲッティングを導入することで、金融政策の透明性を一段と高めることができ、また、日本銀行としての決意を示すことができること、(4)名目金利の引き下げが限界に突き当たっているもと、積み上幅に目標を設けることで、政策の自由度を高めることができること、を主張した。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中で、政府からの出席者も発言した。大蔵省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、民間需要の回復力は弱く、厳しい状況が続いているが、一方で各種の政策効果の浸透などで、このところやや改善している。
  • このような状況の下、政府はこの6月、緊急雇用対策及び産業競争力強化対策を決定し、また、先般7月21日には、平成11年度補正予算も成立した。また、この8月6日には産業活力再生特別措置法、およびそれに対応した租税特別措置法の一部を改正する法案が成立をみた。
    当面の財政運営に当たっては、今後のわが国経済の動向等を十分踏まえ、必要があれば、公共事業等予備費の活用、15か月予算という考え方に立った平成11年度第2次補正予算の編成も含め、機動的・弾力的な対応を行う所存である。こうした政府の経済・財政運営の考え方等について、ご理解を賜るようお願いする。

 経済企画庁からの出席者からは、次のような趣旨の発言があった。

  • 経済の現状については、大蔵省からの出席者が発言された通りである。経済政策の面では、緊急経済対策や緊急雇用対策に加え、新たに成立した産業活力再生特別措置法の枠組みも活用し、これらの政策を今後強力に推進していく所存である。
  • 日本銀行におかれては、自律的な経済回復が明らかになるまで、適切な金融調節の手法により潤沢な資金供給を行い、引き続き日本経済の回復に貢献する金融政策を行って頂きたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)前回会合以降の経済指標を踏まえると、「足許の景気は下げ止まっており、企業の業況感も一頃に比べ幾分改善をみているが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」と判断される、(2)したがって、先行きのデフレ懸念の払拭が展望できるような情勢には至っていない、(3)金融資本市場においては、金融緩和の効果は一段と浸透しており、市場参加者のリスクテイク姿勢などには前向きの変化がみられる、(4)ゼロ金利政策の継続のもとで、一部に行き過ぎが生じている可能性もあるが、現在の経済情勢を踏まえると、やはり、金融面から経済活動を最大限下支えしていくことが必要である、というものであった。

 こうした認識を背景に、これまでの金融市場調節方針を継続することが適当であるとの意見が、委員の大勢を占めた。

 ただし、ある委員からは、金利を引き上げることが適当との考えが示された。もうひとりの委員からは、本格的な量的緩和に踏み切るとともに、インフレ率にも目標値を設けることが適当との考えが示された。

 この結果、以下の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、2月12日の金融緩和措置以前に戻すこと、すなわち、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(8月16日〜9月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注4)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

  1. 4「マネタリーベースについて2000年1〜3月期平残で前年同期比10%の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年3月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増額させる必要がある。」

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:篠塚委員、中原委員

 篠塚委員は、(1)先行き、景気が下振れるリスクは減少していること、(2)(イ)所得分配面における家計部門へのマイナスの影響、(ロ)構造調整を先送りするリスク、(ハ)金融市場におけるモラル・ハザードの発生、といった、ゼロ金利政策の副作用が出ていること、(3)こうした副作用は、ゼロ金利政策が長期化するほど大きくなっていくと考えられること、を理由に、上記採決において反対した。

 中原委員は、(1)現在のゼロ金利政策は、積み上幅の見込みと実績に大きな乖離が出ているなど、金融調節のスタイルに矛盾が生じており、現行政策の継続は矛盾を拡大させることにつながること、(2)円高や株価の反落など、ゼロ金利政策が及ぼしてきた好影響が剥落しつつあり、この中で、民間需要の自律的回復の展望が開けていないのであるから、現状の金融緩和では十分でないこと、(3)現在の金融政策の枠組みでは、「デフレ懸念の払拭」や「潤沢な資金供給」等、抽象的な言い回しが多く、政策の透明性をより高める必要があること、といった理由を挙げて、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を8月17日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成11年 8月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下の通りである。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

以上