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金融政策決定会合議事要旨

(1999年 9月 9日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年10月13日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年10月18日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年9月9日(9:02〜12:22、13:17〜15:14)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   谷垣禎一  政務次官(10:55〜12:22)
    原口恒和  大臣官房総務審議官(13:17〜15:14)
  • 経済企画庁 小峰隆夫  調査局長( 9:02〜10:40、13:17〜15:14)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之(9:02〜12:22)
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(7月16日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、9月14日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(8月13日)で決定された金融市場調節方針 1にしたがって運営した。

 この結果、オーバーナイト金利は、基本的に、0.03%で安定した推移を続けた。また、市場の緩和感は全体として強まっており、ユーロ円3か月物などのターム物金利は、さらに軟化している。

 最近の短期金融市場の特徴点としては、次の3点を指摘できる。

 第1に、短資会社各社は、8月半ばから9月初めにかけて、取引高の回復を狙い、無担保コール仲介手数料を引き下げた。目下のところ、取引高の回復には結びついていないが、その一方、今後、約定金利を0.02%とする取引が増える公算が高い。第2に、都銀等では貸出低迷等により、資金ポジションが好転しているため、準備預金を積むテンポを遅らせており、この結果、準備預金制度非適用先などへの資金滞留は、さらに顕著になっている。第3に、資金供給オペでは、これまでの手形買入に加え、今月初めにはCP買現先でも札割れが発生した。

 なお、昨日(9月8日)は、オーバーナイト金利が0.06%に上昇した。これは、本日(9月9日)が、「コンピューター2000年問題」と同様にコンピューターの誤作動等が発生しうる、と危惧された特異日であるため、地銀や投信などが、漠たる不安感を抱いて資金放出を見合わせたことなどに端を発している。このため、調節面では、弾力的に大量の資金供給を行い(積み上幅 2は昨日が1兆3千億円、本日は2兆1千億円に拡大)、市場地合いの安定に努めている。

  1. 「より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注:2月12日の金融政策決定会合時点)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。」
  2. 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対ドル相場は、前回会合時には115円前後の水準にあったが、8月中旬より日本経済の回復期待などを背景とする円買いドル売りが強まり、9月初めには、一時108円台まで上昇した。その後はいったん111円台まで軟化したが、今朝発表されたGDPの第2四半期速報が市場予想よりもやや強め(前期比0.2%増加)であったため、再び109円台前半まで上昇している。また、円の対ユーロ相場も、前回会合時には122円台であったが、同様に上昇し、一時は114円台をつけた。

(2)海外金融経済情勢

 米国の金融資本市場は、前回会合時に比べれば、小康を取り戻している。具体的には、(1)生産者物価指数、消費者物価指数、雇用統計などのインフレ関連指標が落ち着いていることや、(2)8月24日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、6月に続いて0.25%の利上げが実施され、金利先高感が後退したこと、などを背景に、長期金利が幾分低下しており、株価も高値圏での推移を続けている。ただ、社債市場では、金利先高感を抱いたり、「コンピューター2000年問題」を意識したりした企業による前倒しの起債が相次いだため、社債金利は上昇し、国債とのスプレッドが拡大している。

 米国景気は、住宅投資や一部の耐久消費財の動きに鈍化の兆しが窺われるが、全体として力強い拡大を続けている。

 ユーロエリアでは、個人消費が底固く、輸出も増加基調を辿るなど、景気回復傾向が続いている。出遅れていたドイツでも、生産の回復が明確化している。また、イギリスでは、家計支出の強さや労働市場のタイト化などを背景に、昨日(9月8日)、政策金利が0.25%引き上げられた。

 NIEs、ASEAN諸国では、米国、日本向けの情報関連財の輸出が好調であることや、既往の景気浮揚策の効果浸透などから、景気回復傾向が一段と明確になっている。

 一方、中国では、輸出がやや持ち直しているが、国有企業改革等の施策を背景に、家計の所得不安が高まり、個人消費の減速が明確になっている。このため、政府は、補正予算を策定し、消費の刺激などに努めている。

 最近の国際資金フローの特徴をみると、(1)国際的な投資資金は、債券よりも株式を選好する傾向があること、(2)海外投資家の対日証券投資でも、株式の購入が目立っていること、(3)日本から海外への資本の流れは、生保の外債購入の慎重化や邦銀海外店における融資抑制などを背景に、このところ減少していること、などの点を挙げることができる。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要をみると、設備投資は減少を続けており、住宅投資には頭打ち感が窺われる。個人消費は、消費者心理の好転に支えられて一進一退で推移しているが、夏期賞与の減少等により雇用・所得環境が厳しさを増しているため、回復感には乏しい。一方、公共投資については、春先の大量発注を受けて工事量が増加している。また、ここにきて、特にアジア向け輸出の回復を受けて、純輸出が増加に転じている。

 こうした最終需要の動向と在庫調整の進捗を反映して、生産は増加に転じつつある。

 物価面では、国内卸売物価は、原油等輸入物価の上昇に加え、在庫調整の進捗もあって、足許では横這いとなっているほか、消費者物価も、ほぼ前年並みの水準で推移している。また、企業向けサービス価格は、下落を続けているが、そのテンポは鈍化している。

 このように、足許の景気は、下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等一部に明るい動きがみられる。

 先行きについては、住宅投資が、秋以降緩やかな減少に転じるとみられる。しかし、公共投資は、工事の進捗がこれまで遅れ気味となっており、この分が今後出てくるとみられるため、年内に大きく落ち込むことは避けられる可能性が高い。輸出も、アジアを中心とする海外景気の回復を反映して増勢を維持すると見込まれる。このため、生産は、7〜9月に増加した後、10〜12月も横這い圏内で推移する可能性が高まっている。

 景気が自律的回復軌道に乗るためには、公共投資や輸出の効果が続いている間に、個人消費や設備投資といった民間需要が持ち直すかどうかがポイントとなる。この点、個人消費については、企業のリストラの影響から、雇用・所得環境の厳しい状況が続くとみられ、景気の牽引役となることは期待し難い。設備投資も、減少テンポは鈍化しつつあるとみられるが、増加に転じる目途は立っていない。また、円高傾向が今後も続けば、輸出や企業収益に及ぼす影響が懸念される点にも注意する必要がある。

 こうした状況からみて、民間需要が速やかに自律的回復に向かう蓋然性は、引き続き高くないと判断される。

 物価は、一部に弱含んでいるものもあるが、全体としては、概ね横這いの範囲内で推移すると予想される。しかし、やや中期的にみると、景気が自律回復に転じず、再び在庫調整を余儀なくされるような場合には、物価が需給ギャップの拡大につれて再び軟化するリスクに引き続き注意を払う必要がある。

(2)金融情勢

 金融市場では、オーバーナイト金利が引き続きゼロ%近傍で推移しており、オーバーナイト資金の確保に対する懸念は払拭された状況が続いている。また、ターム物金利はさらに弱含んでいるが、年末越えのものは、「コンピュータ2000年問題」の影響もあって、引き続き幾分高めで推移している。

 長期国債流通利回りは、景況感の改善や補正予算に対する思惑などを背景に一時2.0%まで上昇したが、その後は反落し、最近では再び1.8%台で推移している。株価も、一時1万8千円台を回復したあと、円高の進行や米国株価の調整などを受けて幾分軟化し、最近では概ね1万7千円台後半での動きとなっている。

 この間、ジャパン・プレミアムの動向をみると、年末越え取引には若干のプレミアムが観察されるが、それ以外についてはほぼゼロの状態が続いている。また、国債と民間債の流通利回りスプレッドの縮小傾向はここにきて一服している。しかし、スプレッドの水準は一頃に比べればかなり低下しており、信用リスクに対する市場参加者のリスクテイク姿勢は前向きとなった状態が維持されているように窺われる。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的には慎重な融資スタンスを維持している。ただ、銀行自身の資金繰りや自己資本面での制約が緩和してきていることや、経営健全化計画に示された貸出計画への対応もあって、大手行を中心に、融資先の信用力などを見極めつつ、徐々に融資を回復させようとする姿勢にある。

 しかし、資金需要面では、設備投資などの実体経済活動に伴う需要が低迷を続けているほか、最近では、資金繰り懸念の後退を背景に、企業がこれまで積み上げていた手許資金を取り崩して借入金を返済する動きもみられている。このように、民間の資金需要は引き続き減退しており、民間銀行貸出は一段と弱含んでいる。社債、CP等の発行も緩やかな減速傾向が続いている。

 以上のような金融環境のもとで、企業金融を巡る逼迫感は和らいできている。今後、投資家のリスクテイク姿勢や民間銀行の融資態度の変化がどのように進み、実体経済活動にどのような影響を与えていくか、十分注目していく必要がある。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状については、多くの委員が、下げ止まりの中で、明るい動きが少しずつみられるようになってきている、との見方を示した。ただ、民間需要に手応えが十分感じられないことも、あわせて指摘された。このため、会合における景気認識は、「下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等一部に明るい動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という評価にほぼ集約された。このうちのひとりの委員は、こうした状況を「依然明暗入り交じった足踏み状態であるが、ひとつひとつの材料は——明暗いずれの部分も——徐々によい方向に動いている」と表現した。

 まず、公共投資については、ある委員より、公共投資関連財の出荷の動きを踏まえると、高水準の工事の進捗が窺われる、との見方が示された。また、別の複数の委員は、年内は現在の高水準が維持される、との見通しを述べた。

 次に、輸出については、多くの委員より、アジア向けや米国向けを中心として増加傾向が明確になってきたとの見解が示され、このうちの何人かは、輸出の強さは予想以上であるとの判断を述べた。また、このなかのひとりの委員は、とりわけアジア諸国と日本の取引は、拡大均衡に向かっているとの評価を付け加えた。

 以上の見方を踏まえて、複数の委員から、公共投資と輸出を合わせた外生需要は、これまで描いていた予想を上回る展開となっているとの見解が示された。

 一方、民間需要については、プラス方向の材料も指摘されたが、慎重な見方が依然として多かった。

 まず、設備投資については、何人かの委員が、企業収益の減少テンポが幾分和らいでいるように窺われることを指摘した。また、別の委員は、首都圏の大型プロジェクトが予定通り着工される動きにあることを紹介した。しかし、それらの委員も含めたほとんどの委員の認識は、設備投資の減少傾向はなお続いているというものであった。具体的には、企業は構造調整圧力のもとで財務リストラに注力しているため、収益環境の好転、企業金融の一段の緩和、さらには企業マインドの改善などが、本格的な実物支出にはまだ結びついていないことが指摘された。

 なお、これらとは異なるひとりの委員は、設備投資を巡る環境はすでに改善傾向にあり、これは、今後、情報通信や環境問題対応などの技術革新の波につながっていくのではないか、との期待感を表明した。

 個人消費については、雇用・所得環境が厳しいもとでも持ちこたえているなどと、一定の評価を示す委員が少なくなかった。この背景として、(1)金融システム不安の鎮静化や株価の上昇などが、家計のコンフィデンスの改善をもたらしていること、(2)生産が増加に転じるにつれて、所定外給与も増え始めていること、などが指摘された。ある委員は、貯蓄広報中央委員会の「貯蓄と消費に関する世論調査(平成11年)」(調査時期6月25日〜7月5日)を引用し、今後の金融情勢に関し「さらに混乱する」とみる家計が減少したことや、家計の貯蓄構成の中で株式のウェイトが上昇していることなどを挙げて、家計のコンフィデンスが改善していることを指摘した。しかし、総括的な判断としては、(1)失業率が上昇していることや、職探しをあきらめて労働市場から退出する人が増えていること——すなわち、非労働力人口が増加していること——などにみられるように、雇用・所得の減少という大きな流れには変化がないこと、(2)消費性向も、金融システム不安を受けて落ち込んだ分はすでに取り戻し、足許はかなりの高水準にあること、などを踏まえると、個人消費に今後の景気回復を主導するほどの力は感じられない、との見方が多かった。

 こうした最終需要の動向や、在庫調整の進捗を受けて、7〜9月の生産が増加に転じつつあることが、委員の間で注目を集めた。ひとりの委員は、鉄鋼メーカーは、輸出の増加を主因に、現在稼動可能な設備をフル生産状態にしていることや、自動車メーカーでは、生産台数が昨年並みの水準を回復しつつあり、一部には期間工の採用に踏み切る動きがあることなどを紹介した。

 また、GDPの本年4〜6月速報が2四半期連続のプラス成長となったことについて、ほとんどの委員は、実体経済が下げ止まり、明るい動きもみられるようになってきている流れを裏付けるものであるとの認識を示した。このうちのひとりの委員は、景気は最悪期を脱したと判断できるのではないか、と発言した。

 物価動向については、経済全体の需給ギャップは依然として大きく、物価に対する潜在的な低下圧力は残っているが、これまでのところは全体として横這い圏内にあるとの認識が多く示された。このうちのひとりの委員は、実体経済の一部に明るい動きがみられていることの反映として、物価も、これまでの予想に比べややしっかりした推移となっているとの見解を付け加えた。

 こうした中で、別のひとりの委員は、景気動向指数の一部長期先行指標には5月底入れを示唆するようなシグナルもあるが、D.I.(ディフュージョン・インデックス)やC.I.(コンポジット・インデックス)からは、景気底入れは確認できないとして、他の委員と比べ厳しめの景気認識を示した。具体的には、(1)設備投資は、産業空洞化の流れのもとでは早期の回復を期待できない、(2)個人消費は、消費性向に若干上昇余地があるが、雇用リストラが始まっており、今後、信用保証付貸出の返済が本格化して企業倒産が増加すれば悪影響を受ける、(3)海外環境では、堅調な米国経済において、ユニット・レーバー・コストの上昇が目立ち、先行きの失速懸念が強まっているほか、アジア経済の今後の展開も株価動向を含めて不透明要因が少なくない、(4)世界的な石油の需給は引き締まっており、原油価格は年末にかけて25ドル程度まで上昇する可能性があるが、その場合、わが国の交易条件の悪化や企業収益の悪化を通じて、株価にも悪影響を及ぼす可能性がある、(5)地価の下落が、企業や地方公共団体の保有土地にかかる含み損を膨らませている、といった点を列挙した。

(2)金融面の動き

 金融面については、前回会合までの「金融環境は改善している」という基本的な判断が踏襲された。そうしたもとで、委員の関心は、最近の円高の進行をどのように評価するか、という点に集まった。

 多くの委員は、円相場の動向を評価する際には、相場水準を単独にみるのではなく、実体経済や金融資本市場全体の動きのなかで評価する必要があるとしたうえで、各々の判断を明らかにした。

 ひとりの委員は、金融緩和の効果が浸透し、景況感が改善すれば、相場が上昇すること自体は自然なことであるとしたうえで、現在は、輸出が海外景気に支えられており、株価や長期金利の動きも安定的であるため、円高のマイナス・インパクトを強く懸念するような状況にはまだ至っていない、との判断を述べた。同じ考えを示した別の委員は、日本経済は過去の円高局面のもとで、構造的に円高抵抗力を強めている可能性がある、との認識を付け加えた。

 ほかの複数の委員も、最近の円高は、(1)日本経済に対する回復期待と、(2)米国経済の先行きに対する不安感、の2つの要因が入り交じっている、との見方を述べた。そのうえで、後者の米国要因がより強い場合は、日本経済にとってのリスクが大きいが、これまでのところは、前者の日本経済の回復期待が円買いを支える主たる要因であるため、その限りでは、景気に深刻な悪影響を及ぼす可能性は大きくない、という考えであった。

 もうひとりの委員は、円高が日本経済に強いマイナス・インパクトを及ぼすことになれば、企業収益の減少見込みなどを織り込んで株価が下落し、円相場も軟化する、といった自動安定化メカニズムが働くはずであるとの認識を述べた。そのうえでその委員は、これまでの金融資本市場全体の動きをみる限りは、市場の受け止め方も冷静である、との判断を明らかにした。

 これに対して、円高の進行が企業収益等に及ぼす悪影響を懸念する意見も少なからず示された。

 ひとりの委員は、ここにきて輸出の増加やそれに伴う生産の増加によって、景気に漸く明るい動きが出てきたが、1ドル110円前後の円相場水準は企業にとっては踏み止まってほしいレベルであるだけに、今後、円高がさらに急激に進行すれば、産業界への影響は大きくなり、民間需要の自律的回復が遠のく惧れがある、との考え方を強調した。

 さらに、別のひとりの委員は、チャート分析によれば、円相場は現在の水準を突き抜けると一気に上昇する可能性があるとの見方を示した。もしそうなれば、(1)産業界に加えて、機関投資家も外貨建て資産の評価損の増大というかたちで悪影響を受ける、(2)アジア等からの輸入ペネトレーションが増加する、といった問題点が表面化する、と指摘した。また、その委員は、何人かの委員が円相場を評価する際に株価の堅調な推移に言及したことに触れて、(1)そもそも日本の株価は、米国株価にひきずられている面が強い、(2)その米国株価は、6月、8月のFOMCによる2度の利上げにもかかわらず依然高値圏にあるが、いずれ調整局面に入る可能性が高い、(3)それにつられて日本の株価が軟化すれば、最近の円高が実はファンダメンタルズから乖離していたという姿がクローズアップされる、との警戒的な見方を強調した。

 会合では、何人かの委員が、長期金利についても発言した。それらの委員は、現在の長期金利の動きは安定的であるとの認識であった。しかし、今後、第2次補正予算の議論の本格化や郵貯集中満期到来問題を背景として、国債の需給悪化懸念が再燃したり、あるいは、実体経済の足取りがしっかりしてくるような場合には、長期金利の推移や、その動きの背景などを十分に見定めていく必要があるとの考え方も併せて付け加えられた。

 このうちのひとりの委員は、民間部門に潤沢な資金が余っている現状では、債券需給の悪化が長期金利の上昇にそのまま結びつくとは考え難いとの見解を述べた。そのうえで、ほかの委員とともに、より重要なことは、(1)効率的な財政運営に努め、将来の財政の姿を示すことによって、(2)市場の信認を確保し、長期金利にかかるリスクプレミアムの拡大を抑制することである、との認識を強調した。

 こうした見方に対し、別のひとりの委員は、すでに国債発行残高が累増しているだけに、追加的な国債増発が加われば、長期金利が上昇するリスクはきわめて高い、との懸念を表明した。

 金融の量的側面についての検討も行われた。複数の委員は、企業金融の緩和が進みつつあるもとで民間銀行貸出の減少が続いている背景として、(1)企業が、設備投資を減価償却の範囲内に抑制し、キャッシュフローの改善分は既往債務の返済に充てていることや、(2)資金調達の安心感が定着するにつれて手許流動性を減らしていること、などを指摘した。それらの委員は、その結果として、金融緩和の浸透につれて、かえって銀行貸出やマネーサプライなどの量的指標が伸び悩むという現象が起きており、経済活動と金融の量的指標との関係を従来のようにはとらえられなくなっている——すなわち、景気が緩やかに改善していくもとで、量的指標の伸びが低下することが生じ得る——、との見解を述べた。

 このうちのひとりの委員は、銀行の融資姿勢についても言及した。その委員は、融資スタンスが前向きになりつつある点は評価できるとしながらも、その一方で、(1)経営健全化計画を達成するために、業況が良くなくても、既往取引先であるという理由だけで、信用状態を適正に反映しないような低めの金利設定を行い、融資の拡大を図る動きが出ていること、(2)その一方で、将来性はあるが、信用力がまだ備わっていないような企業には、十分な資金が行き渡らないケースもみられることなど、信用仲介機能が健全なかたちで機能するような状況にはまだ至っていない、といった問題点を指摘して、今後の展開をよくみていく必要があるとの立場をとった。

(3)景気の先行き

 景気の先行きに関する多くの委員の認識は、先行きのダウンサイド・リスクは根強く残っており、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていないというものであった。しかし、何人かの委員からは、足許の景気情勢の一部に明るい動きがみられていることを踏まえると、先行きのダウンサイド・リスクは幾分は薄れてきているのではないか、との見方も示された。

 まず、ひとりの委員が、景気の先行きを展望する際には、現在、各所で少しずつみられ始めている明るい動きが、民間需要の自律的回復に結実していくかどうかがポイントであるとの論点を提示した。

 それを受けて、何人かの委員が、個人消費は、何とか持ちこたえていく見通しであるが、設備投資については、年度内の下げ止まりは期待できない、との見方を述べた。

 具体的には、ある委員から、堅調な株価の推移が消費者マインドを下支えしており、生産の持ち直しによって所定外給与の増加もある程度見込まれるため、個人消費は当面底固く推移するのではないか、との見方が示された。もっとも、その委員は、その一方で、企業のリストラに伴う雇用・所得の減少基調が続いていることを踏まえると、個人消費が足許の一進一退の展開から抜け出すことも、そう簡単ではない、との判断を併せて付け加えた。

 また、設備投資については、(1)各種の先行指標や、民間銀行貸出の弱さを踏まえると、年度内は下げ止まらない、(2)企業の支出活動が本格化するためには、中期的な構造調整圧力を乗り越える必要があるが、目下のところその目途は立っていない、との認識が大勢であった。ただし、複数の委員は、(1)物価が概ね横這い圏内を辿るもとで、賃金が比較的速やかに低下していること、(2)リストラによる増益効果がみられ始めていること、を挙げて、収益面からは、設備投資回復に向けた基盤整備が始まっていると評価できる、との見解を示した。

 一方、公共投資と輸出を合わせた外生需要については、足許、予想以上に堅調な動きを示しており、先行きも、これまでの見通しよりも高目の水準で推移するのではないか、との見方が示された。

 複数の委員からは、今年度から来年度にかけての公共投資がかなり落ち込むとみられ、これを和らげるためにも、第2次補正予算の策定が必要であるとの趣旨の発言があった。また、別のひとりの委員は、今年度の公共工事の進捗が遅れ気味であるため、暫くはその進捗による下支え効果が見込めるほか、輸出も、アジア向け、米国向けが上振れているため、外生需要や生産は今年から来年初めまでは持ちこたえる可能性が高まっていると指摘した。その委員は、そのうえで、今年度の第2次補正予算がある程度の規模で策定されれば、外生需要の下支えがさらに来年度も持続していくことが展望できる、との認識を述べた。

 以上を踏まえて、ひとりの委員は、民間需要と外生需要を合わせた総需要の先行き見通しについては、今年度下半期から来年度上半期にかけて、これまでよりも幾分上振れしている可能性がある、との見解を示した。もっとも、その委員からは、そうした動きは、あくまでも外生需要の下支えによってダウンサイド・リスクが薄らいだことを意味しているだけであり、経済の前向きの循環メカニズムが本格的に動き出すには至っていない、との見方も付け加えられた。

 また、別の委員は、景気は来年一杯は下支えされ、底割れが回避される可能性が出てきているとの見通しを明らかにした。そのうえで、その委員は、かりに経済がそうした展開を辿った場合には、民間部門への波及効果もある程度は見込むことができる、と述べた。

 このように、景気の先行きに関する大方の委員の認識は、民間需要の自律的回復までは展望できないにしても、外生需要を中心に来年にかけて持ちこたえていく姿が明らかになってきている、といったものであった。

 一方で、そうした先行き見通しと合わせて、それに対するリスクに言及する委員も少なくなかった。まず、企業のリストラの本格化は、企業収益をサポートする反面、家計所得への圧迫を通じて、個人消費を下押しすることを見逃すべきではない、との趣旨の発言があった。また、海外要因としては、(1)米国経済が失速したり、米国株価が反落する可能性があること、(2)現在のアジア向け輸出の増加には、現地のランニング在庫の積み増し分も含まれているため、年明け以降の輸出からはこの分が剥落する見込みであること、などを指摘する委員もいた。さらに、株価、長期金利、円相場といった資産価格が、経済の回復期待を強く織り込みすぎて、オーバーシュートする可能性があることを懸念する委員もみられた。

 物価動向については、多くの委員の間で、民間需要の自律的回復の展望が描けていない以上、ダウンサイドのリスクを重視していくとの認識が共有された。また、最近の円高や原油価格の上昇が企業収益を圧迫し、この面から物価にデフレ的な圧力が及ぶ点を指摘する委員もみられた。

 ただし、(1)先行きの経済が、何とか持ちこたえていくのであれば、物価も現状程度の横這い推移を続ける可能性が高い、(2)物価が取りあえず下げ止まっていること自体が、人々のデフレ懸念を和らげる面がある、といった指摘もみられた。これらの指摘を踏まえて、ひとりの委員は、物価を巡る環境も少しずつではあるが改善している、との評価が可能なのではないか、と述べた。

 なお、これらとは別のひとりの委員は、需給ギャップをもとにした物価見通しには技術的な問題点がある、との指摘を行った。また、足許の物価情勢の落ち着きについては、一過性のものではなく、景気の底固さが顕著になったことを反映したものであるとしたうえで、「デフレ懸念は払拭されつつあるのではないか」との見解を明らかにした。そうした判断の背景として、その委員は、(1)企業の在庫水準はすでに低下しており、需要の回復が生産の増加に結びつきやすい環境になってきている、(2)第2次補正予算が策定されれば、自律的回復に向けた展望が一段と拓けてくる、といったことを指摘したうえで、こうしたことが物価情勢の落ち着きに寄与している、との考え方を付け加えた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、前回会合までの判断が基本的には維持された。具体的には、(1)足許の景気は、下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等一部に明るい動きがみられるが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(2)金融環境は改善している、(3)物価は、それを巡る環境が少しずつ改善しており、当面横這いで推移していくものとみられるが、物価に対する潜在的な低下圧力は依然として残っている、といったものであった。

 なお、そうした判断に立つ複数の委員からは、景気の先行きに向けてのダウンサイド・リスクが幾分低下していることと、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢には至っていない」こととの関係を、どのように整理すればよいか、といった問題提起があった。

 ひとりの委員は、来年にかけて経済が何とか下支えされる可能性が出てきているとはいえ、民間需要の回復の展望が明確ではないため、実体経済および物価のいずれにおいても、ダウンサイドのリスクを重視する姿勢を崩すことはできない、との考え方を明らかにした。また、何人かの委員は、「デフレ懸念の払拭」の意味合いは、景気回復や需給ギャップの縮小を完全に確認できないまでも、少なくとも、需給ギャップが拡大するリスクは十分小さくなったとか、アップサイドのリスクがダウンサイドのリスクを上回った、という判断が必要となる、との考え方を示した。さらに、もうひとりの別の委員は、景気の先行き見通しをリスクの所在という観点から整理すると、現在は、(1)アップサイド・リスクが殆ど出てきていない、(2)ダウンサイド・リスクはやや縮小しているとはいえ、なお残存している、といった構図である、との認識を示した。

 このような議論を踏まえて、会合では、現在は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、との従来の判断が維持されることとなった。

 以上のような判断を前提として、ゼロ金利政策と、市場参加者の期待形成との関係について、いくつかの発言があった。

 ひとりの委員は、現在の政策は、ゼロ金利を当分の間続けるということを市場に対して明確にコミットしていることに意味がある、との見解を述べた。その委員は、(1)市場参加者が将来の不確実性を懸念すると、中長期の市場金利が上昇してゼロ金利政策の効果が減殺され、結果的にその解除も先延ばしになる、(2)このため、当面は、人々の期待を安定化させるコミットメントを継続することによって、不確実性の高まりに伴う金利上昇を極力抑えていくことが必要である、という考え方を確認した。

 これを受けて、別の委員は、現在の金融資本市場においては、ゼロ金利政策が継続されることを前提に期待が形成されており、これが実体経済にも好影響をもたらしている以上、ゼロ金利政策を簡単に解除すべきではない、との趣旨を強調した。

 また、ほかのひとりの委員も、(1)ゼロ金利政策は、正常な経済成長のもとでは考えられない異常な金利水準であり、その効果が浸透して環境が整えば早期に解除すべきであるが、(2)最近の円高の影響なども踏まえた実体経済や物価の先行き見通しを前提にすると、ゼロ金利解除の環境は整っていない、(3)したがって、期待や思惑が先行してしばしばオーバーシュートする市場動向を勘案すると、現在はゼロ金利政策を「動かさないこと」が大切である、とした。

 以上の討議の結果、当面の金融政策運営方針については、現状の金融市場調節方針を維持することが適当であるとの見解が、会合における大勢意見となった。

 また、何人かの委員から、「コンピューター2000年問題」が懸念されている年末、年始に向けて、モラルハザードを惹起しないように配意しつつ、適切に対応していく必要がある、との認識が表明された。このうちのひとりの委員は、日本銀行としての流動性供与の考え方を、遅くとも10月には公表すべきではないか、との意見を述べた。

 なお、こうした意見とは異なる2つの主張がみられた。

 まず、ひとりの委員は、当面の金融政策運営については、第1に、2月の緩和措置前の状態に戻すこと──すなわち、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げること──、第2に「コンピューター2000年問題」などを契機に市場が混乱した場合には、潤沢な資金を供給すること、を主張した。この背景として、その委員は、まず景気情勢について、(1)民間需要の自律的回復はなお確認できないが、経済活動は着実に底固くなってきている、(2)今年度第2次補正予算の追加を加味すれば、自律回復に向けた展望が一段と拓けてくる、といった認識を示した。また、ゼロ金利政策を巡る効果と副作用については、かねてより副作用を懸念してきたが、底固さを増している景気情勢をみると、ゼロ金利政策を継続する妥当性はますます低下している、との見解を述べた。さらにその委員は、最近の資金供給オペにおいて応札額が未達となるケースが増えていることは、金融緩和効果が十分に浸透したことを示している、との見方も合わせて明らかにした。

 なお、その委員は、2月の金融緩和措置前の水準に金利を戻すことの主張は、後退していないとしつつも、(1)毎回の会合では、政策運営について自らの考えを十分に主張する時間がある、(2)会合進行の基本的なスタイルは、議長が多数意見を取りまとめるかたちで議長案を提出し、それに賛否を示せば十分であり、あえて反対議案を提出する必然性は乏しい、といった趣旨を述べた。そのうえで、会合全体の議論の効率性を確保する観点から、議案提出を行わない、との発言を付け加えた。

 もうひとつは、わが国経済には自律的回復力が備わっておらず、一連の景気対策の効果が剥落していく来年にはダウンサイド・リスクが顕在化する、との認識に基づいた、一段の金融緩和の主張であった。具体的には、物価目標付きのマネタリーベース・ターゲッティングであり、これを主張した委員は、その考え方として、(1)今後、第2次補正予算の編成を巡る議論の中で、国債の買いオペ増額などが論点になる可能性が高いが、こうしたもとで、日本銀行としての独立性を確保し、自由度の高い金融政策運営を維持するためには、物価目標付きのマネタリーベース・ターゲッティングが最良の枠組みである、(2)目指すべき物価目標を、人々にわかりやすいかたちで明示できれば、人々の期待を安定させることが可能となる、(3)円高の進行に対処して景気の悪化を未然に防ぎ、景気回復に向けた足場を固めるためにも、早期に量的拡大による金融緩和が必要である、といったことを挙げた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • 本日(9月9日)の本年第2四半期のGDP速報の発表を踏まえ、総理と大蔵大臣が今後の経済財政運営について協議した。その結果、2期連続のプラス成長にはなったが、なお民間需要の回復力は弱く、雇用情勢が厳しい状況にあることも踏まえれば、景気回復に万全を期すためにも、速やかに公共事業等予備費を使用するよう、総理の判断が示されたと聞いている。また、総理は、自民党総裁選挙後、引き続き内閣の運営を行うこととなった際には、平成11年度第2次補正予算の編成へ向け、新内閣のもとで、具体的に検討したい意向にあると聞いている。

 また、経済企画庁からの出席者からも、以下のような趣旨の発言があった。

  • 経済動向は、民間需要の回復力は弱いものの、各種の政策効果の浸透などで、このところやや改善しているという判断をしている。したがって、今後は、公的需要から民間需要に円滑にバトンタッチが行われて、景気の腰折れを避けることが大切であり、政府としては、そのためにも切れ目のない政策運営に努める所存である。日本銀行においても、自律的な経済回復が明らかになるまで、適切な金融調節の手法により、潤沢な資金供給を行い、引き続き日本経済の回復に貢献するような金融政策運営を行っていただきたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)足許の景気は、下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等一部に明るい動きがみられるが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(2)金融環境は改善している、(3)物価は、それを巡る環境が少しずつ改善しており、当面横這いで推移していくものとみられるが、物価に対する潜在的な低下圧力は依然として残っている、(4)したがって、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、というものであった。

 こうした認識を踏まえ、会合では、引き続き市場機能の維持に配意しながら、これまでの金融市場調節方針を維持することが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、CPI(消費者物価指数)の上昇率に目標を設定したうえで、本格的な量的ターゲットに踏み切り、一段の金融緩和を実施することが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(9月16日〜10月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注3)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

──中原委員は、(1)現状のゼロ金利政策は、先行きのダウンサイド・リスクを払拭できない景気情勢に十分な対処ができない、(2)日本銀行は、現在、目標と手段の選択を自由に行えるが、物価目標付きのマネタリーベース・ターゲッティングという政策運営上のフレームワークを設定しておけば、今後予想される補正予算と日銀の国債買いオペ増額の論議のもとでも、金融政策の独立性を十分に確保できるし、情勢の変化に合わせて適時適切な対応が可能となる、(3)最近、マネタリーベースが伸び悩んでおり、今後は徐々に低下する可能性があるが、長期金利、株価、さらには、円相場に及ぶ悪影響を勘案すると、何としても、それを避ける必要がある、として、上記採決において反対した。

──篠塚委員は、現在のゼロ金利政策は、その功罪両面を比較したうえで採られているものと理解しているが、ここにきて、(1)所得分配上の歪み、(2)信用リスクに対する意識の希薄化、(3)構造調整の先送り、さらに、(4)それが長期化するにつれて一段と高まっている解除時の混乱の可能性、といった副作用をいよいよ無視できなくなっている、との認識を述べた。また、景気情勢は徐々に底固さを増しており、これらを合わせて考えると、ゼロ金利政策を継続する妥当性は一段と低下しているとして、上記採決において反対した。

  1. 3「マネタリーベースについて2000年1〜3月期平残で前年同期比10%程度の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年3月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増加させる必要がある。」

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を9月13日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成11年9月9日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下の通りである。

 より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

 その際、短期金融市場に混乱の生じないよう、その機能の維持に十分配意しつつ、当初(注)0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。

  • (注)「当初」とは、2月12日金融政策決定会合時点。

以上