このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(1999年10月27日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年11月26日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年12月 1日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年10月27日(9:00〜12:42)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   原口恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜12:42)
  • 経済企画庁 小峰隆夫 調査局長(9:00〜12:42)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖(11:00〜12:42)
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生(9:45〜12:42)

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役 飛田正太郎
  • 金融市場局参事平岩孝一郎(9:00〜9:38)
  • 企画室企画第2課長 田中洋樹(9:00〜9:45)
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役内田眞一

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(9月21日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、11月1日に公表することとされた。

II.「短期国債売買基本要領」の制定等、適格資産担保債券の担保取扱いおよび米国国債の担保取扱いについての検討・決定

1.「短期国債売買基本要領」の制定等

(1)執行部からの提案内容

 執行部から、前回会合で導入することが決定された短期国債アウトライト・オペについて、次のような説明および提案があった。

 現在、短期国債の現先オペおよび長期国債のレポ・オペは、短期の流動性の調節手段として利用し、また、長期国債のアウトライト・オペについては、長い目でみて銀行券の増加額に見合った買い入れを行っている。今回導入する短期国債のアウトライト・オペについては、短期国債の現先オペおよび長期国債のレポ・オペと同様に、短期の流動性を調節する手段と位置付けることが適当であると考えられる。また、こうした位置付けを踏まえて、実務的には、(1)実施の規模については、あらかじめ特定することなく、その時々の金融情勢に応じて随時、売買を行うこととし、調節したい流動性の期間等に応じて、オペのつど、買入対象銘柄を指定すること、(2)買い入れた短期国債は、原則として現金償還を受けること、(3)市場に資金余剰が生じた場合には、アウトライトでの売却も行いうることとしたい。

 このような考え方に立って、「短期国債売買基本要領」を概要以下のとおり定めるとともに、「日本銀行業務方法書」等に所要の変更を行いたい。

  • オペ実施店は、本店(業務局)とする。
  • 対象先は、短期国債現先オペの対象先と共通とする。
  • 売買対象は、割引短期国債および政府短期証券とする。
  • 売買日、売買金額等は、金融市場の情勢等を勘案して売買のつど決定する。
  • 入札(利回較差入札)で決まった利回りによって売買を行う。

(2)委員による検討・採決

 以上の執行部提案に対して、ある委員から、オペ実施額に上限を設けるべきではないかという意見についてどのように考えるべきか、という問題提起があったが、短期の流動性を調節する手段であるという位置付けを明確にしておけば量的な上限を設ける必要はないという理解が共有された。その後、採決の結果、全員一致で決定、即日公表されることとなった。

2.適格資産担保債券の担保取扱い

(1)執行部からの提案内容

 執行部から、前々回会合で適格担保化についての基本的考え方が決定された資産担保債券(特定の資産から生ずる金銭等を裏付けとしてその元利金の支払いが行われる債券、以下「ABS」という。)について、「資産担保債券の適格基準」を概要以下のとおり定めるとともに、当分の間、社債等を担保とする手形買入における担保としてのみ受け入れることとし、「社債等を担保とする手形買入基本要領」および「日本銀行業務方法書」に所要の変更を加える旨の提案があった。また、当面、審査対象とするABSの種類としては、リース料債権・クレジット債権を特定資産とするABS、CBO(社債を特定資産とするABS)、CLO(貸出を特定資産とするABS)の4種類としていく方針であるとの説明があった。

  • ABSの本行与信の担保としての適格基準は、次のとおり。
  1. (1)元利金支払いの確実性(特定資産から生ずる金銭等が、特定資産の信用度等に照らし、元利金支払に十分であると認められるとともに、ABSの仕組みが、真正売買性<特定資産の譲渡が有効かつ確実なものであり、原保有者について倒産手続きが開始されたときでも当該ABSの元利金支払いに支障がないと認められること>、倒産隔離性<発行会社に倒産または解散のおそれがないと認められること>、金銭取立業務の代替措置等に照らして適当と認められること)。
  2. (2)市場性(国内において公募発行されたものであること)。
  3. (3)取引先金融機関等による信用補完がないこと。
  4. (4)その他(円建てであること、準拠法が日本法であること、その他日本銀行の権利行使に支障がないと認められること)。

(2)委員による検討・採決

 以上の執行部提案に対して、採決の結果、賛成多数で決定、即日公表されることとなった。なお、ある委員は、提案のあった適格基準は、今後ABSの裏付資産が多様化していった場合にも柔軟な対応が可能な作りとなっているが、執行部から説明のあった4種類以外に新たな種類のABSを適格審査の対象とする場合には、事前に政策委員会に報告するように、と付言した。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員
  • 反対:中原委員

──中原委員は、(1)日本銀行は、軽々に企業金融の分野に踏み込むべきではないこと、(2)ABSは銘柄数が多く1件あたりの規模が小さいこと、(3)将来的にはCPオペ等も減少ないしは廃止の方向を展望すべきであること、といった点を挙げて、上記採決において反対した。

3.米国国債の担保取扱い

(1)執行部からの提案内容

 執行部から、コンピューター2000年問題に備えるために、日本銀行の金融機関等に対する資金供給に必要な適格担保の拡充を図り、金融市場の安定性を確保する等の観点から、臨時措置として、以下の要領で、米国国債を日本銀行の手形貸付担保として認めることとするとともに、本件については別添1のとおり対外公表したい旨の提案があった。

  • 期間は、平成11年12月1日から平成12年1月31日とする。
  • 適格とする米国国債の種類は、財務省短期証券(Treasury Bills)、財務省中期証券(Treasury Notes)、財務省長期証券(Treasury Bonds)とする。
  • 担保価格は、米国市場における相場を邦貨換算した時価の85%以内とする。
  • 基準貸付利率の適用に当たっては、「特に指定する債券」として取り扱う(貸付利率は現在年0.5%)。

(2)委員による検討・採決

 以上の執行部提案に対して、採決の結果、全員一致で決定された。

III.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(10月13日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、「積み上幅」を1兆円に維持する調節のもとで、0.02%〜0.03%で安定的に推移した。なお、10月21日以降、加重平均レートが0.03%となっているが、これは、(1)小数点第3桁目の四捨五入の結果で、実質的な変化はほとんどないほか、(2)むしろ主要行の資金調達地合いが引き緩んでいる中で、相対的に信用力の劣る金融機関の取引のウエイトが高まった結果という面があり、市場でもゼロ金利の範囲内の動きと受け止められている。

 この間、ターム物金利は、全体としては引き続き持ち合い圏内の動きとなった。そうした中、特徴的な動きとして、以下の2点が指摘できる。

 第1に、公募入札による発行額が増えてきたこと等から一時強含んでいた短期国債レートは、その影響が徐々に市場で消化されてきたことや、日本銀行の年末越えの短期国債買い現先オペが実施されたことなどにより、再び低下してきている。なお、年初に償還を迎える銘柄のレート低下には、本日基本要領を決定した短期国債アウトライト・オペの導入への期待感も影響している。

 第2に、3か月物レートは、コンピューター2000年問題が意識され、出し手が慎重な資金放出スタンスをとる中、取り手が調達スタンスをやや積極化させていることから、幾分強含みで推移した。

 こうした状況に鑑み、前回決定会合で決定された「コンピューター2000年問題を踏まえた金融市場調節面の対応」2にしたがって、10月14日以降、年末越えの資金供給オペを開始し、昨日(26日)まで9営業日連続で、合計6.3兆円の資金供給を実施した。これは、昨年を上回るペースであり、民間債務を対象とするオペを含めてオペ手段をフル活用して対応している。オペに対する応札状況は、短期国債市場規模の急ピッチの拡大により応札能力が高まっていること等に加え、先般の措置(レポ・オペ対象国債に2年債を追加したことやオファー先数を拡大したこと)の効果もあって、概ね順調である。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」
  2. 「金融市場調節を行うに当たっては、年末越え資金を豊富に供給するなど、コンピューター2000年問題に伴う資金需要の変動に十分配慮し、弾力的な対応を行う。」

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 前回会合以降10月下旬にかけて、円の対米ドル相場は、強弱材料が交錯する中、方向感の定まらない展開となっている。市場の目先の関心は、日本銀行の金融政策から、補正予算とそれに絡む景気動向や、欧米の金融資本市場の動向に移ってきているように窺われる。

 この間、東アジア諸国の通貨は総じて比較的落ち着いた展開となる中、インドネシア・ルピアについては、国民協議会によるワヒド大統領・メガワティ副大統領の選出が、政治・経済改革を促進するものとして好感され、大幅に上昇した。

(2)海外金融経済情勢

 米国では、10月入り後、市場予想比強めの経済指標の公表などを背景に、長期金利が上昇した。市場では、労働需給の状況に関心が集まっており、今後の展開をみるうえでは、生産性の上昇と賃金の上昇のバランスが焦点になるものと考えられる。また、株価は、長期金利の上昇に加え、14日のグリーンスパンFRB議長の講演が株高を警戒するものと受け止められたことなどを受けて、一時下落したが、その後好調な企業業績の発表が相次いだことなどから反発し、ほぼ9月下旬並みの水準となっている。

 欧州の長期金利は、景気回復期待とそれに伴うインフレ懸念、さらには当局の利上げ観測を材料に、上昇傾向を辿っている。このうち、英国では、景気拡大のテンポがほぼ潜在成長率に近づきつつあるほか、労働市場のタイト感も高まっているため、インフレ懸念が強まっている。ユーロエリアでも、個人消費が底固く推移していることに加え、輸出が増加傾向に転じるなど、景気拡大テンポは緩やかに高まりつつある。このため、足許のインフレ率は低位安定しているものの、欧州中央銀行は、夏場以降、物価上昇に対してより警戒的なスタンスに転じている。この間、欧州株価は、こうした長期金利の上昇を嫌気するかたちで軟調に推移している。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降発表された経済指標からは、前回の基調判断(「景気は下げ止まっており、足許、輸出や生産面には持ち直しの動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」) を変えるような材料は窺われない。

 まず、9月の鉱工業生産指数は、前月比(季節調整済み)−0.8%と、予測指数(−1.3%)から上振れ、この結果、7〜9月期は、前期比(季節調整済み)+3.8%と高い伸びとなった。また、10〜12月期についても、電気・一般機械を中心に高い伸びが予測されており、前期に続きプラスとなる可能性が高まったと判断している。

 次に、9月の実質輸出も、前月比(季節調整済み)+3.7%と予想を上回る伸びをみせ、この結果、7〜9月期では前期比(季節調整済み)+7.9%とかなり高い伸びとなった。地域別にみると、米国向けが伸びを高め、東アジア向けも引き続き高い伸びを示しているほか、2四半期連続マイナスとなっていたEU向けも持ち直している。一方、実質輸入も、7〜9月で前期比(季節調整済み)+3.9%と、高水準で推移している。これを財別にみると、わが国生産の増加を反映した中間財の増加や、情報関連財の増加が目立っている。

 個人消費関連の指標をみると、全体としては、一進一退の範囲内の動きとなっている。まず9月の家電販売は、エアコンを主因に盛り返している。また、全国チェーンストア売上高も2か月連続のマイナスのあと、盛り返したかたちとなっているが、基調としてはそれほど改善していない。一方、百貨店売上高は、都内、全国とも弱めの推移となっており、10月入り後も、気温の低下に伴い秋物衣料品の販売が増加しているものの、全体としては大きな変化はないとの感触である。この間、9月の消費者態度指数は、前回(6月)調査時点から若干改善しており、他の指標などもあわせてみると、消費者コンフィデンスの持ち直し傾向が続いていると判断している。

(2)金融情勢

 前回会合以降、民間銀行貸出およびマネーサプライ統計が公表されている。

 9月の民間銀行貸出(5業態計<特殊要因調整後>)は、前年比−1.6%と、前月(−1.8%)に比べ若干マイナス幅が縮小した。ただ、これは前年の落ち込みが大きかったことによるものであり、マイナス傾向の持続という大きな基調に変化はないものと考えられる。これを受けて、マネーサプライ(M2+CD)も、前年比+3.3%と、3か月連続で伸び率が低下した。やや長期にマネーサプライの伸びを振り返ると、97年末から98年初にかけて(北海道拓殖銀行・山一證券の破綻)と、98年の秋から末にかけて(国際金融市場の動揺を受けた金融市場の流動性危機)が山となっており、本年央以降は、金融不安の鎮静化とともにマネーサプライの伸びも縮小している。

 この間、長期金利は、10月入り後、主として、補正予算や国債の需給を巡る思惑を材料に、幾分強含んでいる。一方、株価は、このところ米国株価の動向およびその背景にある米国のインフレ懸念を巡って神経質な展開となっており、10月上・中旬にかけて下落したのち足許やや反発している。

IV.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状と先行き

 会合では、前回会合(10月13日)以降に明らかになった経済指標の評価を中心に議論が交わされた。その結果、これまでの経済情勢に関する基調判断を変更するようなものは特にみられなかったという点で、委員の見解は概ね一致した。

 まず、多くの委員が、輸出が予想以上の増加をみせており、これをひとつの大きな要因として、生産も持ち直しているという評価を示した。これに関連して、ある委員は、道路交通量等からみて、荷動きが活発になっているように窺われると述べた。また、複数の委員から、こうした傾向がはっきりとしてくれば、企業収益の回復や賃金の改善などを通じて、設備投資や個人消費にも相応の波及効果が期待できるとの指摘があった。

 一方、個人消費については、前回会合以降の新たな指標をみても、一進一退の状況を脱していないという点で、委員の見方は概ね一致した。ある委員は、自動車メーカーの需要喚起努力にもかかわらず国内販売が低迷していることなどの具体的事例を挙げて、「個人消費は踊り場にさしかかっている」と述べた。また、消費者マインドについて、一人の委員は、家計の「節約指向」は引き続き強いとの認識を示し、また別の委員は、このところ上昇を続けてきた消費性向が今後どのような動きとなるか慎重に見極めていく必要があると指摘した。

 こうした状況を踏まえ、「民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という認識が委員の間で共有された。これに関連して、ある委員は、民間需要中心の自律的回復につなげていくためには、(1)切れ目のない公共投資による下支えと住宅減税等政策減税の継続、(2)輸出による下支えが必要であると述べた。この委員は、そうした観点から、東アジアおよび中国経済の動向に注目する必要があると述べた。

 この間、議論の過程において、多くの委員が、最近の円高の影響に言及した。ある委員は、これまでの円高を企業が比較的冷静に受け止めているのは、海外需要が強く比較優位のある製品で価格転嫁が進んでいるためではないかと発言した。また、別の委員は、円高を受けて企業が収益見通しや支出計画を大幅に下方修正するといった声はあまり聞かれていないと指摘したうえで、輸出はアジア経済の回復等を背景に増加基調にあり、企業収益もリストラ努力や生産の持ち直しから全体として改善方向にあると判断できるとの見解を述べた。

 一方、さらなる急激な円高の進行に対しては、多くの委員が懸念を表明した。一人の委員は、企業の採算レート等から考えて、これ以上の円高は問題であると述べた。また、別の委員は、輸出主導による景気回復は円高圧力も伴うものである点に留意する必要があると指摘したうえで、景気の回復と整合的な円高であれば良いが、米国経済の不透明感の高まりといった円高要因もあるので、今後とも市場が不安定になるリスクやその経済に与えるマイナスのインパクトには十分注意していく必要があるとの見解を示した。なお、ある委員は、経済のファンダメンタルズを反映しない行き過ぎた円高に対しては、短期的には為替市場への介入が有効ではないか、と発言した。

 この間、一人の委員は、景気の見通しについて、他の委員よりもやや慎重な見方を示した。

 まずこの委員は、雇用情勢について、今次局面は、従来の雇用調整局面とは異なり、(1)常用雇用者数や労働時間のみならず時間当たり賃金の減少を伴っていること、(2)従来大企業から流出した人材の受け皿となってきた中小企業でも雇用者数の減少がみられることなどから、非常に厳しい情勢にあり、失業率は本年度下期には5%を上回るのではないかとの見通しを述べた。また、こうした雇用情勢を踏まえれば、個人消費には楽観は許されない、との見解を示した。さらに、原油価格が、冬場の需要期を迎え、一段と上昇する可能性があり、これが世界景気にとってのリスクとなりうる、と指摘した。また、航空会社等一部需要家が先物取引の2割に相当するコール・オプションを積み上げており、大方の期日の来る来年にかけて、原油価格の大きな波乱要因になる可能性があると述べた。

 これに対して、別のある委員は、執行部から報告のあった輸出・生産の指標に加え、8月の景気動向指数が、一致指数、先行指数とも上方修正されたことや、読売新聞が10月上旬に行ったアンケートでもほとんどの企業が景気は底を打ったと評価していることなどを挙げて、月を追うごとに景気は底固くなってきているとの見解を示した。また、企業の資金繰り判断や貸出態度判断が、中堅・中小企業では、なお「苦しい」超ないし「厳しい」超であることは、逆に言えば、なお需資掘り起こしの余地がかなりあるということでもあると指摘し、こうした状況で、金融機関の貸出姿勢が徐々に積極化してきているように窺えることは、期待できる材料であると述べた。さらに、雇用情勢が厳しいことについても、企業のリストラを契機に労働分配率が若干低下し始めていること自体は、景気回復の条件を整える面があると述べた。

(2)金融面の動き

 金融面では、主として、わが国の長期金利の動向や、円相場の動向を巡って議論がなされた。

 まず、多くの委員が、長期金利の動向について、その実体経済への影響を含め注意深くみていく必要があると指摘した。ある委員は、長期金利が単に国債需給悪化懸念という要因だけで上昇しているのか、あるいは、その背後で、日本経済に対する見通しの改善という要因が働いているのか、よく見極めていく必要があると指摘した。この点、一人の委員は、経済が改善し、物価も横這い傾向が一段と明確になれば、長期金利もある程度上昇すると考えるのが自然であるとの見解を示した。また、別の委員も、株価がしっかりしていることなどからみて、これまでのところは、いわゆる「悪い金利上昇」には至っていないとの評価を述べた。ただ、その委員を含め何人かの委員は、このところたとえば介護保険を巡る政治的な動きを材料に長期金利が上昇するなど、やや不安定な動きもみられる点には、注意が必要であると述べた。

 また、多くの委員が、為替相場の動向をみる場合に、わが国経済の見通しばかりでなく、米国の経済および株価の先行きに関するリスクを十分念頭に置く必要があると指摘した。ある委員は、市場では、米国経済がインフレなき拡大を続けていけるかどうか、増大する経常赤字をファイナンスしていけるかどうか、一段と神経質になっているとコメントした。この点に関連して、別の委員は、米国経済について、民間セクターの債務が非常に早いスピードで増加しており、貯蓄不足を海外からの資金還流等でどうにかファイナンスしているという不安定な状況となっているので、株価動向等には一層注意が必要であると述べた。

 この間、わが国の株価が米国の動きにより敏感に反応するようになってきていることも、複数の委員が留意点として挙げた。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢に関する判断を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 前述のとおり、委員の金融経済情勢に関する見方は、前回会合時の情勢判断を大きく変える必要はない、という点で概ね一致した。

 そのうえで、当面の金融政策運営方針としては、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、現在の思い切った金融緩和基調を続ける」という考え方に沿って、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、会合における大勢意見となった。

 なお、何人かの委員から、日本銀行がゼロ金利政策を継続し、その金融緩和効果を一段と浸透させる姿勢をとっていることは、長期金利の上昇や円高圧力を抑える方向で寄与しており、引き続きこうした努力が重要であるとの見解が表明された。この点に関連して、一人の委員は、日本銀行の効率的、弾力的なオペの重要性を指摘し、必要であればオペを行う市場やオペ手段についてさらに前向きに考える姿勢を持つ必要があると述べた。

 その過程で、「インフレ・ターゲティング」についても議論がなされた。

 まず何人かの委員が、中長期的な政策運営に対するコミットメントを示すというインフレ・ターゲティングの考え方を評価したうえで、日本銀行は、すでに「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、ゼロ金利政策を継続する」というアナウンスメントにより、こうしたインフレ・ターゲティングのメリットを最大限取り込んでいる、と述べた。

 そのうえで、一人の委員は、(1)コミットメントを具体的なCPIの上昇率で示すことに問題はないか、(2)それで本当に政策運営がわかりやすくなるのか、(3)すでに物価が安定している現在の日本の状況で、意味のある物価上昇率目標を設定できるのか、といった点を検討する必要があると指摘した。また、別の委員は、インフレ・ターゲティングを採用している国でもターゲットだけに依拠して機械的に政策を運営しているわけではなく、将来の物価動向に関する様々なリスクを総合的に判断して政策運営を行っていると指摘した。そのうえで、単に「数字を示せば透明性が高まる」といった理解ではなく、その基本的な性質を踏まえて、その得失と実現可能性に関する冷静な議論が必要であると述べた。

 この間、一人の委員は、インフレ・ターゲティングには、(1)各国で実施されているスキームのように、中期的なインフレ率の目標を掲げることによって期待形成の安定化を図りつつ、しかし他方で短期的には裁量的な政策を許す方法と、(2)「調整インフレ論」に代表されるように、インフレ率を唯一の目標として、その達成のためにはあらゆる手段を用いるべきとの主張の2種類がある、との整理を示した。そのうえで、前者については、技術的困難はあるものの検討に値するが、後者については、(1)インフレを数量的にも時間的にも正確に起こすことは困難であること、(2)インフレがオーバーシュートする惧れがあること、(3)結局、経済変数の変動を過度に増幅させ経済全体の厚生にマイナスになること、という非常に大きな問題をはらんでいると指摘した。この委員は、長引く低金利政策で生活設計が難しくなっている年金生活者等にとって、インフレによるさらなる資産価値の劣化は到底耐えられるものではなく、こうした選択肢はとり得ないと述べた。

 この間、ある委員は、国際コンファランスに出席した機会に、「金利がゼロとなった後にどのような金融政策運営が考えられるか」という観点から海外の政策当局者や経済学者と行った議論の内容を紹介した。

 それによると、まず、以下の点については、概ね理解が共有されたとのことであった。

  1. (1)1年までの短期金利がゼロにまで低下すると、ベースマネーと短期金融資産とがほぼ完全な代替財となる。こうした状況下では、短期資産を購入してベースマネーを供給する通常の量的緩和の効果は乏しい(同種の資産同士の交換に過ぎない)。
  2. (2)「目標インフレ率をアナウンスすることによって、人々のインフレ期待を変え、そのことが人々の財・サービスに対する需要を刺激する」という議論があるが、単にアナウンスメントを行うだけで期待形成に効果を与えるとは考えられない。
  3. (3)現在の日本銀行のスタンスのように、ゼロ金利政策とともに、その継続性に関するコミットメントを行う「合わせ技」には、一定の効果が期待できる。

 また、この委員によれば、そのコンファランスでは、追加的な緩和手段として、通常中央銀行が行わないようなオペレーション(長期国債の購入積極化、外国為替・株式の購入等)の効果についても、議論が行われた。この点については、これらの資産がベースマネーと完全に代替的でない限り、何らかの効果をもつ可能性があるが、システマティックな効果を挙げられるかどうかは非常に不確実であるという意見が出され、また、そのコストについても十分な検討が必要との見方もあった、とのことであった。

 さらに、この委員は、海外の一部には「日本が深刻なデフレの真っ只中にある」という誤解があり、そうした誤解が、非常に極端な手段でも採用すべきという主張につながっているとコメントした。また、こうした認識の問題に関連し、別の委員も、長期国債買い切りオペを増額すべきという主張の中には、日本銀行が買い切りオペを一定のルールのもとで続けており、すでにかなりの長期国債を保有しているという事実を認識していないものも含まれているのではないか、と指摘した。

 この間、ゼロ金利政策の継続に反対する、2つの主張がみられた。

 まず、一人の委員は、景気は最悪期を脱し、月を追うごとに底固くなってきているという現状認識のもとで、ゼロ金利政策は長引けば長引くほど解除に伴うショックが大きくなるので、できる限り早期に解除の時期を探るべきであると主張した。もっとも、コンピューター2000年問題を目前に控え、利上げを提案する時期ではないとして、今回は議案の提出を行わない、と述べた。

 別の一人の委員は、インフレ率目標付きのマネタリーベース・ターゲティングを採用すべきであると主張した。この委員は、その理由として、(1)景気は本年4〜5月頃に底を打った可能性が高いが、回復の量感は極めて弱いこと、(2)円高の影響について、120円と100円台半ばとでは、産業界にとっての意味合いが全く異なること、(3)ゼロ金利の効果が出尽くしていること、(4)政府の総合的な経済対策との調和が必要であること、(5)ポジティブな金融政策を発動して成長率を高めることが国際的にも強く期待されていること、(6)政治サイドからの量的緩和、長期国債買い切りオペの増額といった要請がみられる中で、自由度の高い柔軟な金融政策の枠組みを維持していく必要があること、(7)CPIターゲティングについて議論が深まってきている状況を踏まえると、日本銀行として早急にターゲットを設定すべきであること、などを挙げた。

VI.政府からの出席者の発言

 会合の中では、政府からの出席者も発言した。まず、大蔵省からの出席者は、以下のような趣旨の発言を行った。

  • わが国経済は、各種の政策効果の浸透などにより、緩やかな改善が続いているが、なお民間需要の回復力は弱く、景気は厳しい状況を脱していないという認識に変わりはない。このような状況の下で、10月8日の閣議において、景気の本格的回復と新たな発展基盤の確立を目指すための平成11年度第二次補正予算について、早急に準備をするようにという総理指示があったところである。10月末日までに各省庁から要望の提出を受け、その後全力を挙げて編成作業を進めていく所存である。また、同じく総理より、第二次補正予算を含めた総合的な経済対策を、11月上・中旬を目途に策定する旨の指示があった。大蔵省としても、取り纏めに当たる経済企画庁と協力をしつつ、現在、具体的内容等について、検討を進めているところである。
  • 日本銀行におかれても、前回の金融政策決定会合において、ゼロ金利政策の継続に当たり、短期国債を対象としたアウトライト・オペの導入等、金融市場調節手段の機能強化を進めることなどが決定されたところであり、また本日の会合において短期国債アウトライト・オペの基本要領の制定等が行われたところであるが、今後とも、金融政策運営に当たり、わが国経済および市場の動向にも十分配慮頂き、適切な対応をとるようお願いしたい。

 経済企画庁からの出席者は、以下のような趣旨の発言を行った。

  • 経済の現状について、10月の月例経済報告では、「景気は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種の政策効果の浸透などにより、緩やかな改善が続いている」という判断をしている。こうした判断に基づいて、政府としては、公需から民需へ円滑にバトンタッチが行われ、景気の腰折れを招くことなく、本格的な回復軌道に繋げていくため、中小・ベンチャー企業対策やミレニアム・プロジェクトなどの政策を含め、今後のわが国の経済運営の指針となる総合的な経済対策を策定し、平成11年度第二次補正予算を編成することとしている。今回の経済対策は、現在の経済情勢に鑑みて、理念のある対策とすべきという考え方に立って、「新規性」、「期待性」、「訴求性」という3つの理念を掲げている。このため、対策の取り纏めに当たっては、従来の概念や計画、省庁の枠組みにとらわれない新たな計画構想の策定等に最大限配慮すべきものと考えている。また、対策の成果や効果が国民の目にはっきり見えるよう、政策の目標、全体像、目標年次を可能な限り明示することが重要であると考えている。
  • 日本銀行におかれては、金融調節手段の機能強化を進めているが、自律的な経済回復が明らかになるまで、為替変動の影響も配慮しつつ、金融経済情勢に応じて、潤沢でより効果的な資金供給を行って頂きたい。

VII.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気は下げ止まっており、足許、輸出や生産面には持ち直しの動きがみられる、(2)金融緩和は浸透している、(3)ただ、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(4)こうした基本的な情勢は、前回会合から大きな変化はなく、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、というものであった。

 こうした認識を背景に、当面は、ゼロ金利政策を継続し、金融緩和効果の浸透を図っていくことが適当である、という意見が大勢を占めた。

 ただし、一人の委員からは、CPIの上昇率に目標を設定したうえで、本格的な量的ターゲットに踏み切ることが適当である、との考えが示された。

 この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(10月16日〜11月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注3)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添2のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

──篠塚委員は、(1)景気は最悪期を脱しており、できるだけ早期に金融政策を正常なかたち、すなわち、緩和も引き締めも可能な状態、に戻す必要があること、(2)ゼロ金利政策は長引けば長引くほど解除に伴うショックが大きくなること、といった理由を挙げて、上記採決において反対した。

──中原委員は、(1)為替市場・日米株式市場には不安定な要因が強く、追加的な金融緩和が必要であること、(2)マネーサプライやマネタリーベースが低下してきていること、(3)短期国債アウトライト・オペといったテクニカルな手段のみでは、一段の金融緩和効果が発現するとは思われず、積み上額を3〜4兆円増やさない限り緩和効果は期待できないこと、(4)目標も手段もフリーな状況は、民主主義国家の中ではそう長く続けられないこと、(5)具体的な数値を示さない限り、説明責任だけで、結果責任を果たしたとは言えないこと、(6)ゼロ金利政策の下では、市場参加者とのダイアローグがうまく機能していない状況となっており、より柔軟性の高い量的緩和策を採用すべきであること、といった点を挙げて、上記採決において反対した。

  1. 3「マネタリーベースについて2000年1〜3月期平残で前年同期比10%の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年3月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増額させる必要がある。」

以上


(別添1)
平成11年10月27日
日本銀行

米国国債の担保としての取扱について

 日本銀行は、本日開催された政策委員会・金融政策決定会合において、コンピューター2000年問題に対応するための臨時措置として、平成11年12月1日から平成12年1月31日までの間、米国国債(財務省短期証券(Treasury Bills)、財務省中期証券(Treasury Notes)および財務省長期証券(Treasury Bonds))を本行の手形貸付担保として認めることとしました。

 なお、本件に関する実務上の取扱については、改めて関係金融機関等に対して通知します。

以上


(別添2)
平成11年10月27日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上