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金融政策決定会合議事要旨

(1999年11月12日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、99年12月17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1999年12月22日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
99年11月12日(9:00〜12:18、13:01〜14:47)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   原口恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜14:47)
  • 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:00〜14:47)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役 飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(10月13日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、11月17日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(10月27日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。

 短期金融市場は、きわめて落ち着いた推移を続け、積み上幅2を1兆円とする金融調節のもと、オーバーナイト金利は、0.02〜0.03%で安定して推移した。市場では緩和感が一段と浸透しており、金融機関は、超過準備は極力保有しないとの姿勢をさらに強めている。このため、超過準備は減少傾向にあり、日本銀行が供給した資金が短資会社などの預金として積み上がる傾向が一段と強まっている。

 この間、年末越えの資金については、これまで20営業日連続でのオペを通じて、既に18.2兆円の資金供給を行った。これは、前年同時期のほぼ倍のペースである。

 しかし、こうした大量の資金供給にもかかわらず、市場では、出し手が年末越え資金の放出を手控えていることなどを受け、年末越えの銀行間のターム物金利は上昇傾向を辿った。

 こうした中で、市場では次のような動きもみられている。

 第1に、生保などの機関投資家が、短資会社経由で、手持ちの国債で本行オペに応じることにより低利の資金を調達し、これを銀行のCDや大口定期で運用するといった金利裁定行動がみられる。

 第2に、CP発行レートの低下傾向を眺め、優良企業がCP発行により低利の資金を調達し、これを、同じく銀行のCDや大口定期で運用するという金利裁定行動がみられる。

 こうしたことからみても、企業金融の面では、年末越えの資金繰りに特に逼迫感が目立っているわけではない。

  1. 「「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」
  2. 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対ドル相場は、方向感の定まらない展開が続く中、概ね104〜106円台での推移を続けた。市場では引き続き、米国の金融市場や実体経済の動向に関心が集まっている。

 この間、これまで対ドルで上昇傾向を辿ってきたユーロは、最近では反落している。この背景としては、11月4日の欧州中央銀行(ECB)の利上げを受けて、市場では、当面の利上げに打ち止め感が出ていることが挙げられる。

(2)海外金融経済情勢

 各国の金融市場では、このところ、株価の上昇傾向が目立っている。

 米国では、特に店頭市場のNASDAQが、ハイテク株の堅調を受けて、既往ピークの更新を続けている。

 また欧州では、前述のECBの利上げが、先行きのインフレ懸念を未然に防ぐものと市場に評価され、長期金利は低下傾向を辿った。これを受けて、株価は総じて上昇しており、例えばフランス株価(CAC40)は既往ピークを更新している。

 さらにエマージング諸国でも、米国株価の堅調が好感されたことや、韓国、マレーシア等でのソブリン債の格付け引き上げの動きなどを受けて、株価は上昇傾向にある。

 各国の実体経済をみると、まず米国経済は、内需中心の拡大を続けている。この間、賃金は上昇傾向が目立っているが、生産者物価や消費者物価は比較的安定して推移している。市場では、労働需給の引き締まりによるインフレ圧力は、生産性の上昇によってかなり吸収されているとの見方が、やや強まっている模様である。

 ユーロエリアでも、輸出の増加が生産の増加につながるという前向きの循環が働いており、景気回復のテンポが緩やかに高まりつつある。こうしたもとで、前述の通りECBは、11月4日に、政策金利の引上げを実施した。

 NIEs、ASEAN諸国でも、景気回復傾向が一段と明確になっている。これらの国では、総じて情報・通信関連分野を中心とする輸出の増加が生産の増加に結びつき、これが所得環境の改善などを通じて、個人消費などにも徐々に前向きの影響を与えつつある。この間、特に韓国では内需の強さが目立っている。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要をみると、設備投資は減少テンポを緩めつつあるが、基調としてはなお減少を続けている。個人消費も一進一退の状況が続いている。住宅投資はこのところ頭打ちとなっており、公共投資の増加もほぼ一服したものとみられる。一方、純輸出は、輸出の大幅増加を主因に増加している。

 こうした最終需要の動向や在庫調整の進捗を反映して、生産は増加を続けており、10〜12月の生産も、7〜9月に続いて増加となる可能性が高まっている。生産活動の好転などを背景に、雇用指標の一部には、雇用情勢の悪化に歯止めがかかりつつあることを示唆するものもみられる。ただ、企業の人件費抑制スタンスには変化が窺われず、雇用・所得環境は全体としてなお厳しい。

 このように、わが国の景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じつつある。しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 物価面をみると、国内卸売物価は、原油等輸入物価のこれまでの上昇の影響に加え、在庫調整の進捗もあって横這いとなっているほか、消費者物価も、前年並みの水準で推移している。

 先行きについては、輸出は、円高の影響を考慮しても、東アジアを初めとする世界経済の回復傾向が一段と明確化する中で、なおしばらくは増勢を維持する可能性が高い。また設備投資についても、製造業では下げ止まりつつあることから、全体の減少テンポはさらに緩やかになると考えられる。公共投資は、来年初には工事量の減少がいったん明確化する可能性が高いものの、経済新生対策が実施に移されていけば、年度末までには工事の発注が再び増加に転じてくると考えられる。こうした状況からみて、米国経済の変調等の大きなショックがない限り、当面、最終需要の大きな落ち込みは回避できる公算が大きい。

 ただ、企業収益は改善傾向が続いているとはいえ、財務リストラを経営上の優先課題とする企業がなお多い中で、設備投資が今後どの時点で明確な増加に転じるかは見通し難いなど、民需が自律的回復に転じていく明確な展望は、まだ拓けるには至っていない。また、為替相場の変動が企業収益などに及ぼす影響についても、引き続き注視していく必要がある。

 物価は、当面、原油価格の上昇や、在庫調整の進捗を反映した国内商品市況の下げ止まりを背景に、概ね横這いで推移すると予想される。しかし、民間需要に自律的回復の展望が拓けていない現状では、物価が先行き再び軟化するリスクは残っていると考えられる。

(2)金融情勢

 短期金融市場では、オーバーナイト金利が引き続きゼロ%近傍で推移している。ターム物金利は、期間の短いものは既往ボトム圏内で推移しているが、年末越えとなるものは、「コンピューター2000年問題」の影響から上昇している。

 長期国債流通利回りは、補正予算への思惑を受けた国債の需給悪化懸念などを背景に、10月下旬には一時1.9%前後まで上昇したが、その後は、投資家の買い意欲が根強いとの見方が市場に広がったことなどを受けて低下し、足許では再び1.7%台となっている。日経平均株価は、10月中は米国株価の軟調を受けてやや下落したが、その後は米国株価の反発を背景に上昇に転じ、11月10日には年初来最高値を更新した(18,567円)。ただ、業種別にみると、通信、電気機械、金融が上昇している一方、建設・不動産は下落するなど、ばらつきが目立っている。

 ジャパン・プレミアムは、期間の短いものについてはほぼゼロの状態が続いている。また、国債と社債の流通利回りスプレッドは、最近では再び縮小傾向が目立っており、市場参加者のリスク・テイク姿勢は一段と前向きになっているように窺われる。同時に、こうしたスプレッドの縮小には、景気動向や企業リストラの動きなどを背景とする、企業の信用リスク自体の低下が寄与している可能性もある。

 金融の量的側面をみると、民間銀行は、基本的には慎重な融資スタンスを維持している。ただ、銀行自身の資金繰りや自己資本面での制約が緩和していることや、経営健全化計画への対応もあって、上期に比べ、下期入り後の融資スタンスは前傾化している模様である。

 しかし、資金需要の面では、実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業が手許資金を取り崩して借入金を圧縮する動きも続いている。これらの結果、民間の資金需要は低迷しており、民間銀行貸出は基調としては弱めの動きを続けている。この間、CPの発行は、年末を控えて増加してきている。

 マネーサプライ(M2+CD)の前年比は、資金需要の低迷を反映し、伸び率がやや鈍化している。この間、マネタリーベースの前年比は、5%台後半〜6%台で推移している。

 このところ、設備投資が基調としては減少を続ける中で生産は増加しており、企業にとっては「支出抑制の中でのキャッシュフローの改善」という形で、バランスシート調整を進めやすい状況となっている。これが、足許、景気は持ち直しに転じる中、金融面ではむしろ資金需要やマネーサプライの伸び悩みといった現象が生じている背景と考えられる。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状については、多くの委員が、輸出の増加や情報通信関連部門の好調が生産の増加につながり、これが最近では、企業収益の改善や雇用・所得環境の下げ止まりにも結び付いてきている、との見方を共有した。何人かの委員は、景気の現状は、前月に比べ前進している、と述べた。このうち一人の委員は、景気は「依然明暗入り交じった足踏み状態であるが、ひとつひとつの材料は、徐々によい方向に動いている」と表現した。

 ただ、個人消費や設備投資といった民間需要には、——少しずつ明るい材料も出ているものの——回復の明確な動きは、依然としてみられていない、との見方も多く示された。このため、景気の現状についての多くの委員の認識は、「輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じつつある。しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という評価に、ほぼ集約された。

 まず、公共投資や住宅投資について、何人かの委員が、基本的には頭打ちとなっているが、需要の下支え効果は続いている、と述べた。

 次に、輸出については、大方の委員が、アジアなど海外経済の回復を受け、増加傾向が一段と明確になっている、との見方を共有した。

 何人かの委員は、これまでのところ、海外経済の拡大によるプラス効果が、円高によるマイナス効果を上回っている、と指摘した。このうち一人の委員は、6、7月頃から直近時点までの間、円高が進んだ一方で、諸機関による世界成長率見通しも、かなりの程度上方修正されており、世界経済の同時回復というパイの拡大によって、円高の影響がオフセットされている姿が示されている、と解説した。また、別の一人の委員は、97年の日本経済の減速にアジア経済の混乱がかなり影響したのであれば、逆に、アジア経済の回復が、今度は日本経済にかなりのプラス効果を及ぼすことは不思議ではない、と述べた。

 また、多くの委員は、こうした輸出の増加や情報・通信関連分野の好調、在庫調整の進捗などに支えられ、生産がかなり明確に増加していることを指摘した。これらの委員は、生産の増加の影響が、企業収益や雇用・所得面にも徐々に及びつつある、との認識を概ね共有した。ただ同時に、こうした企業・家計の所得環境の改善が、設備投資や個人消費のしっかりした増加につながり、民間需要の自律的回復を確認できる段階にまでは、まだ至っていない、という点でも、概ね意見の一致をみた。

 まず設備投資について、何人かの委員は、(1)生産の増加や企業リストラの動きを受け、企業収益が改善しているほか、(2)設備投資関連の指標などからみて、製造業の設備投資は下げ止まってきている、といった、明るい動きを指摘した。ただ、同時に多くの委員は、設備投資は、減少テンポを緩めつつも、なお全体としては減少基調を続けている、との見方を示した。

 次に、個人消費に関しては、まず、多くの委員が、足許の生産の増加は、時間外給与の増加などを通じて、家計の所得環境を改善させる方向に働いている、と指摘した。さらに、このうち一人の委員は、労働需給の面でも、(1)雇用者数に下げ止まりの動きがみられる、(2)有効求人倍率が上向きに転じており、新規求人倍率も、サービス業を中心に改善している、(3)失業率も2か月連続で低下している、などの前向きの動きを指摘した。別の一人の委員も、こうした雇用・所得環境の改善が続けば、個人消費の回復に向けた重要な条件が整うことになる、と述べた。

 ただ、多くの委員は、個人消費関連の指標などからみて、個人消費は全体としては一進一退の動きを脱していない、という見解を示した。何人かの委員は、本年前半の個人消費関連の指標は、所得環境が厳しい中で比較的健闘していた感があるが、7〜9月の指標はむしろやや不冴えなものもあった、と指摘した。こうした状況を捉え、ある委員は、個人消費は「踊り場」の状況といえる、と述べた。

 この間、ある委員は、景気動向指数からみた景気動向に言及した。この委員は、景気動向指数のD.I.(ディフュージョン・インデックス)やC.I.(コンポジット・インデックス)をみる限り、景気は4〜5月に底入れし、その後も回復してきている可能性が高い、との認識を示した。ただ、回復の量感は非常に乏しく、景気は来年前半までは弱いながらも回復を続けるとみられるが、その後については不透明感が強い、とも述べた。

 物価動向については、大方の委員が、全体として横這い圏内で、比較的安定して推移している、との認識を示した。

 ある委員は、需給ギャップの水準が依然として大きい中で物価が横這いで推移していることをどう考えるべきか、との問題を提起した。

 これに対し、一人の委員は、需給ギャップの水準と物価上昇率の関係は、あくまで大まかなものと捉えるべきであろう、との趣旨を述べた。そのうえでこの委員は、全体としての需給ギャップはなお大きいとはいえ、輸出の増加などを反映して、限界的に需給が改善していることが、足許の物価安定に寄与していると指摘した。

 さらに別の一人の委員は、物価が横這いで推移している背景を、企業の視点から解説した。この委員は、在庫調整の完了や輸出の増加を受け、短期的な需給バランスの悪化による価格の下落傾向は止まっているが、国内民需が依然力強さを欠いているため、企業が価格を引き上げることは難しい、と述べた。

 一方、ある委員は物価に関連して原油価格に触れ、イラクの原油輸出禁止等を背景に、現在原油在庫が急減中で、99年第4四半期には適正在庫比大幅に不足となる見込みであり、こうした事情を背景に原油価格がさらに上昇する可能性が大きく、これが世界経済の撹乱要因となる可能性もある、と指摘した。

(2)金融面の動き

 金融面については、多くの委員が、(1)前回会合以降、市場は総じて落ち着いて推移している、(2)金融環境は引き続き改善している、との見方を示した。その事例として、何人かの委員は、長期金利や為替相場が比較的落ち着いている中で、株価が堅調に推移していることや、クレジット・スプレッド(民間債利回り−国債利回り)が縮小傾向にあること、などを挙げた。このうち一人の委員は、金融環境は全般として、緩やかな景気回復をサポートするものになっている、と述べた。

 何人かの委員は、最近、株式市場においてみられる特徴的な動きとして、(1)日本の株価が米国株価に敏感な状況が続いていること、(2)業種間の格差が目立っていること、を指摘した。このうち一人の委員は、情報通信革命の世界的な流れの中で、投資家は、こうした流れに乗ったグローバル企業を、日米欧の市場を問わず買うという傾向が強まっており、これが「各国株価の連動と業種間格差の拡大」という現象の背景となっているのではないか、と述べた。

 一方、別のある委員は、最近約1ヶ月間の日経平均株価の上昇の約半分がニュー・エコノミーを代表する情報・通信関連の1銘柄によるもので、むしろ銘柄数的には上昇している株より下落している株の方がはるかに多いと指摘し、二極化が進む中での陰の部分を強調した。

 この間、長期金利について、何人かの委員が言及した。

 何人かの委員は、現在、長期金利は比較的落ち着いて推移しているが、今後、市場参加者が景気回復に手応えを感じ始めれば、長期金利にも上昇圧力がかかってくることが考えられる、と指摘した。

 この点に関し、別の一人の委員は、経済のファンダメンタルズの改善に沿った長期金利の上昇は、景気回復にとってリスクとなるものではない、と述べた。ただし、ファンダメンタルズから乖離して急激に長期金利が上昇する場合には、景気回復の足を引っ張りかねず問題であり、金融政策の立場からは、オーバーナイト金利のアンカー効果を期待して、機動的、弾力的な資金供給によって対応を図るべきである、とも発言した。

 これに対し、別の複数の委員は、中央銀行が長期金利を直接コントロールしようとすることは適当でないし、市場の安定や市場機能の健全な発揮という観点からは、市場参加者に対して安易な長期金利のマニピュレーション(操作)の期待を与えることは危険である、と述べた。これらの委員は、(1)景気回復に伴う長期金利の上昇は、相場につきものである多少の振れも含めて、基本的に受け入れていくべきものである、(2)長期金利のオーバーシュートといった事態を回避するためにも、長期金利の動きの背景にある経済情勢を丹念に分析し説明していくことにより、市場の期待を安定化させ、金利が実体経済に沿って形成されるような環境を整えていくことが重要である、との見解を示した。

 また、円相場の動向について、一人の委員は、最近、米国におけるインフレ懸念の後退につれて、円ドル相場が安定を取り戻す傾向がみられると指摘し、こうした動きは、最近の円高がかなりの程度「ドル安」の動きであったことを示しているように窺われる、と述べた。

 また、何人かの委員は、過去の円高局面と比較して、企業の対応は総じて平静である、と指摘した。このうち一人の委員は、現在の105円前後の為替水準のもとで株価は堅調に推移しており、市場も、現在の相場水準であれば、景気回復の動きを大きく阻害するものとはみていないように窺われる、と述べた。もっとも、別の一人の委員は、企業が許容範囲と考える為替相場のレベルは、1ドル110円を中心とする105円〜115円のレンジであると考えられ、今後、ここから更なる円高が急激に進むことがあれば、景気回復にとってのリスクとなる、と述べた。さらに、こうした円高が生じることがあれば、市場介入で前向きに対処すべきである、と付け加えた。さらに別の委員は、1ドル120円のレベルと108円を超えるレベルでは、企業に与える影響が全く異なる、と述べた。

 こうした議論を踏まえ、委員は、為替相場の動向やその経済への影響については、引き続き注視していく必要があるとの見解を共有した。

 企業金融面について、ある委員は、ゼロ金利政策のもとで、企業の資金繰り懸念は大きく後退している、と述べた。加えて、この委員は、(1)銀行の融資スタンスは、スプレッド重視から貸出ボリュームの拡大を重視する姿勢へと徐々に変わりつつある、(2)企業の起債環境も良好である、と指摘し、実体経済に必要な資金は十分に供給されている、との見方を示した。さらに、(3)低金利は企業の支払金利コストの低減を通じて、企業収益にプラスに作用している、とも述べた。

 同時にこの委員は、企業のリストラや資本効率重視の経営などの影響もあって、依然として資金需要は低迷が続いている、との認識を示した。ただ、ごく最近では、生産の増加などを受け、設備補修などの資金需要はようやく出てきている、とも指摘した。

(3)景気の先行き

 景気の先行きに関し、多くの委員は、足許の景気の改善は、先行きの経済にも少しずつ前向きの影響を及ぼしていくと考えられる、との認識を示しつつも、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていないとの見解を、概ね共有した。

 この間、景気の先行きに影響を及ぼし得るいくつかのファクターについて、議論が行われた。

 まず、今般策定された経済新生対策について、何人かの委員は、これにより、公共投資による需要下支えが来年前半まで切れ目なく続いていく目途が立ってきており、これまで懸念されていた「来年入り後に公共需要が減速するリスク(大きなフィスカル・ドラッグのリスク)」はかなり遠のいた、との見解を示した。

 次に、先行きの輸出動向などに影響を与え得るとみられる海外景気の動向、特に、米国経済の先行きについて、多くの委員が発言した。

 何人かの委員は、最近米国では、生産性の向上によってインフレ圧力がかなり吸収されており、当面、インフレなき景気拡大を続けていく可能性が高いとの見方が強まっている、と述べた。このうち一人の委員は、最近、米国の企業経営者などと面談した印象でも、「情報・通信技術の発達や規制撤廃、企業リストラ等により、生産性が向上している」といった、いわゆる「ニュー・エコノミー論」的な見方が、再び増えている、と述べた。こうした議論を踏まえ、多くの委員は、海外経済は当面、回復基調を維持していくとみられ、日本の輸出も増勢を維持する可能性が高い、との見方を示した。

 この間、ある委員は、失業率が歴史的にみてほぼ最低水準となっているにもかかわらず、物価が上昇していないことの背景として、(1)フィリップス・カーブの視点からは、製造業の稼働率が過去の平均より2%ポイントほど低いこと、(2)高水準のプロフィット・マージンが賃金上昇をうまく吸収しているとみられること、を指摘した。

 同時に何人かの委員は、米国の対外赤字が拡大傾向にあることや、家計貯蓄率が低水準にあることなどを指摘した。このうち複数の委員は、こうした米国経済のインバランスが表面化する可能性について、金融政策を考えるうえでの標準的なシナリオに織り込むことは難しいが、リスクの一つとして念頭に置いておく必要がある、と述べた。

 次に、足許の景気持ち直しが、先行きにどのような影響を与えていくのか、議論が行われた。

 複数の委員は、足許の生産の増加が、企業や家計の所得環境にプラスの力を及ぼし始めるなど、前向きの循環が始まりつつあり、先行きを展望するうえでも、プラス材料が見え始めている、と述べた。ただ同時に、これらの委員は、構造問題や企業リストラのために、前向きの循環の力があまり大きなものにならないリスクがあり、先行きの民需についての判断を前進させるには至っていない、との見解を示した。

 こうした議論を踏まえ、多くの委員は、足許の景気は持ち直しに転じつつあるとはいえ、先行きについては、民需の速やかな自律的回復を展望できるには至っていない、との見方をとった。

 この間、個人消費や設備投資の先行きの展望について、それぞれ、やや踏み込んで検討が行われた。

 個人消費については、多くの委員が、雇用・所得環境の下げ止まりは、少なくとも、先行き個人消費が減少に向かうリスクを後退させている、との見解を示した。ただ、同時に、何人かの委員は、(1)企業のリストラは続いており、実際に冬季賞与は前年比マイナスが見込まれているなど、先行きの所得環境が明確に改善していくのかどうか、なお不確定要素が大きいことに加え、(2)本年前半の個人消費を支えてきたような消費性向の上昇は、今後も続くとは考えにくい、と指摘した。そのうえで、個人消費の明確な回復の展望は、現時点ではなお見通し難い、と述べた。

 一方、別の委員は、(1)家計調査をみると、本年前半の消費を支えてきたとみられる自営業者層の消費意欲に、減速の兆しがみられる、(2)日本において、情報関連消費(電話通信料+通信機器+パソコン+ワープロ)が消費全体に占めるシェアは米国の半分程度に過ぎない、といったことを挙げ、消費の回復力について、より慎重な見方を示した。

 また、複数の委員は、個人消費回復のための環境整備として、いくつかの制度面の課題についてもコメントした。

 ある委員は、企業は、パートタイム比率の引き上げなどにより賃金調整を進め、労働分配率の引下げを図っている、と述べた。そのうえで、(1)職業教育や年金のポータブル化等などを通じた労働市場の流動化、(2)パートタイマーの雇用環境の整備などが、今後の消費回復の環境整備にとっても重要だ、と指摘した。別の一人の委員は、年金制度や社会保障に関する制度改革を通じて、消費者の先行き不安感を取り除いていく必要性を指摘した。

 また、設備投資に関し、多くの委員は、(1)企業収益の改善傾向は、先行きの設備投資にとって明るい材料である、(2)先行指標をみても、設備投資の減少テンポは緩やかになっており、特に製造業では下げ止まりつつある、との見解を示した。

 このうち一人の委員は、(1)GDPに占める設備投資のシェアなどからみて、設備投資は既にかなり絞り込まれている、(2)各種アンケート調査などからみた企業の設備過剰感も徐々に後退しつつある、(3)企業の景況感なども改善の方向にある、といったことを指摘し、先行きの設備投資回復への展望は拓けつつあるのではないか、として、やや前向きの見解を示した。

 ただ、こうした見解に対し、多くの委員は、(1)過剰設備や過剰債務の圧縮に向けた、企業のバランスシート調整の動きが続いていること、(2)地価の下落傾向が続いていること、(3)民間の資金需要が依然として低迷していること、などを踏まえると、現時点では、設備投資が自律的に回復していく展望までは持ち得ていない、との見解を示した。

 この間、設備投資の先行きについて、より慎重な見方を付け加える委員もみられた。この委員は、(1)情報関連投資が設備投資全体に占めるシェアはせいぜい1割程度しかなく、その寄与は米国ほど大きくないこと、(2)原油価格の上昇が先行きの企業収益にとってリスクとなり得ること、といった点を挙げ、設備投資の底入れはせいぜい来年度下期ではないか、との見方を示した。

 こうした議論を踏まえ、多くの委員は、設備投資の回復の展望を判断するに当たっては、なお、今後の企業の投資スタンスや関連指標の変化などを注意深くみていく必要があるとの見解を共有した。

 次に、物価の先行きについて議論が行われた。

 ある委員は、物価が概ね横這いで推移しているもとで、足許の景気が持ち直しに転じつつあることからみて、もはや「デフレ懸念の払拭が展望できない」とはいえないのではないか、との見解を述べた。

 これに対し、別の一人の委員は、来年度の成長率も若干のプラスとなる可能性が高くなったが、それでも、先行きの需給ギャップが明確に縮小していく展望は持ちにくく、来年のインフレ率がマイナスとなる確率はある程度残っている、と述べた。こうした見方に立って、この委員は、デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢にはまだ至っていない、と述べた。さらにこの委員は、現段階では、日本経済が潜在成長率を上回って拡大していく展望は持ちにくく、インフレが加速していくリスクも小さいと考えられるので、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」を判断するためには、もう少し先の経済指標をみていくことでよいのではないか、と述べた。

 また別の一人の委員も、こうした見方に基本的に賛意を示した。そのうえで、この委員は、(1)足許の景気の改善傾向は、限界的な需給の改善を通じて、先行きの物価低下圧力を緩和する方向に作用すると考えられる、(2)しかし、民需回復の展望がはっきりしないもとでは、こうした限界的な需給の改善が続いていくとも言い切れない、(3)一方で、企業のリストラの動きにより、平均的な労働コストには低下圧力がかかり続けている、と述べ、やはりデフレ懸念は残っている、との考えを述べた。

 このような議論を受けて、先ほど「デフレ懸念の払拭が展望できない」との判断に疑義を唱えた委員は、ゼロ金利政策解除の条件となっている「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」の判断について、(1)物価面に力点を置いて判断するのか、(2)潜在成長率との対比でみた現実の成長率や、需給ギャップなどにより焦点を当てるのか、といった点につき、あらためて問題提起を行った。これに対して、別の複数の委員は、基本的には物価をみていくことになるが、先行きの物価を判断するに当たっては、その背後にある需給バランスや賃金下落圧力といった要因を総合的に点検していく必要がある、と述べた。また、別の委員は、そうした観点から、現段階では、民需の自律的回復の展望について注意深くみていく必要があろう、と述べた。

 こうした議論を踏まえ、多くの委員の見解は、(1)足許の景気の改善に伴い、物価も底固さを増している、(2)ただ、民需の自律的回復が展望できる状況には至っておらず、また、(3)円高の影響も見きわめる必要があることも踏まえれば、なお「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていない、という点で、概ね一致をみた。ただ、同時に何人かの委員は、足許の景気の改善が、物価動向にも影響を与えていくことは確かであり、先行きのデフレ懸念を巡る判断は、これまでに比べ難しさを増しつつある、との見解を述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)足許の景気は、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じつつある、(2)金融環境は改善している、(3)しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(4)物価は当面、概ね横這いで推移していくとみられるが、潜在的な低下圧力は引き続き残存している、といったものであった。

 こうした認識を踏まえ、多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、との判断を共有した。この結果、当面の金融政策運営方針としては、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

 この間、「ゼロ金利政策の維持」とは立場を異にする、2つの主張もみられた。

 まず、一人の委員は、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を決定した2月12日以前の状態に戻すこと──すなわち、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げること──、を主張した。

 この委員は、まず、(1)景気は持ち直しに転じつつある、(2)生産の増加が企業収益や所得にも前向きの影響を与えており、そのプラス効果は、設備投資や個人消費の面にもいずれ表れてくる、(3)公共需要の息切れリスクは後退した、(4)物価も横這い圏内で推移しておりデフレからはほど遠い状況である、といった見解を示し、日本経済は、ゼロ金利政策導入時の「緊急事態」からは脱している、と述べた。

 さらにこの委員は、ゼロ金利政策のマイナス面が、時間の経過とともに目立ってきている、とも主張した。すなわち、(1)こうした極端な金融緩和が長期化するほど、所得移転の歪みの問題が深刻になる、(2)ゼロ金利政策の長期化を前提とした市場参加者の行動が目立っており、こうしたことが続けば、ゼロ金利政策の解除に伴うショックがより大きくなる、(3)構造改革のインセンティブを弱めている、といった点を指摘した。さらに、経済が改善している現段階で、なお、「一段の金融緩和」や「調整インフレ」といった極端な主張まで世間でみられていることは、政策が後々もたらすコストの問題に社会が鈍感になってきていることを示唆しており、こうした議論が登場する背景には、ゼロ金利を維持していることがある、と付け加えた。

 また、この委員は、過去4回の会合では、2000年問題の存在なども懸念して議案は提出しなかったが、既に2000年問題に対応した金融市場調節方針および貸出運営方針を日本銀行が公表し、そのうえで年末越えの資金供給も積極化していることなどを踏まえると、現時点では、2000年問題が基本的な金融政策判断に大きな影響をもたらすものにならないと考えられるため、今回は議案を提出したい、と述べた。

 この委員の主張に対し、何人かの委員が発言した。

 まず、ある委員は、景気が「緊急事態」を脱したとの見方には賛同するが、ゼロ金利政策を解除すべきか否かは、やはり、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」になったかどうかで判断したい、と述べた。その上で、先行きのインフレ率がマイナスとなる可能性がある程度残っている現段階では、やはり、ゼロ金利政策を解除することは適当ではない、との見解を示した。

 別の一人の委員は、金融緩和が、短期的には非効率セクターの温存につながる面があることは確かだが、低い資本コストは、非効率セクターと成長セクターに等しくプラスに作用するはずであり、競争的な環境さえ維持されていれば、非効率セクターはいずれ淘汰されるとみるべきではないか、と述べた。そのうえでこの委員は、景気の現状はまだ「小じっかり」程度であり、この時点で現在の政策の枠組みを外すことは適当ではない、との見解を示した。

 さらに別の一人の委員は、ゼロ金利は、安定的な経済成長との整合性という観点からは異常な金利体系であり、経済が成長パスに戻った段階では当然修正されなければならない、と述べた。ただ、同時にこの委員は、更なる急激な円高が起こったり、ファンダメンタルズから乖離した長期金利の上昇が起これば、景気回復に向けた企業行動にとってリスクとなる、と強調した。そのうえでこの委員は、現在のゼロ金利政策は、これらのリスクに対し流動性の面から最大限対処し得るものであり、現時点ではこの政策を維持していくことが妥当である、と述べた。

 別の一人の委員は、CPI上昇率に目標値を設けた上で、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために超過準備額を増やすことを主張した。

 その理由として、この委員は、(1)米国やアジアの景気が上向いているうちに、日本経済の足取りを確かなものとする必要があること、(2)円高圧力を少しでも緩和する必要があること、(3)経済新生対策とシンクロナイズさせて、何らかの金融緩和策を打ち出すべきであること、(4)今後、日本銀行に対し、長期国債の買い切りオペ増額などの圧力が強まることが考えられるので、そうした圧力をかわすためにも、CPIおよびマネタリーベースの上昇率に目標値を設けることが有効であること、(5)日本銀行には、日銀法により明記された「物価の安定」という目的を、自ら具体的数値で示す責務があると思われること、(6)インフレ・ターゲティングを採用すれば、物価だけでなく、その背後にあるGDP、失業率、マネーサプライ等のパスを予測しながら金融政策を運営することになるので、金融政策が今以上にフォワード・ルッキングかつプリエンプティブ(予防的)になること、などを挙げた。加えてこの委員は、日本銀行はせめて米国連銀並みに、マネーサプライ、GDP、失業率、物価等の予測値を公表していくべきであると主張した。

 この委員の主張に対しても、何人かの委員が発言した。

 ある委員は、経済の予測値は、様々な仮定に基づくものであり、これを公表する場合、微妙な問題を避けては通れない、と述べた。さらに、インフレ・ターゲティングは、あくまで先行きのインフレ率目標を数値化するものであり、現実のインフレ率に対して機械的に政策を発動するものではない以上、金融政策の判断は、やはり、ある種の総合判断にならざるを得ない、との見解を示した。別の委員は、米国連銀が出している実体経済や物価の見通しは、連銀としての予測値ではなく、理事会の各メンバーなどがそれぞれ持っている見通しを、その平均値などの形で示しているものである、と指摘した。

 また、複数の委員は、同案が示す、中間目標としてのマネタリーベースの伸び率と、最終目標であるCPI上昇率との関係——具体的には、両者の伸び率の関係やタイムラグの根拠——について、疑問を呈した。

 このうち一人の委員は、日本銀行が豊富な資金を供給しても超過準備はむしろ減少しているのが実情であり、「超過準備を増やす」操作に、そもそもフィージビリティがないのではないか、と付け加えた。

 これに対し、同案を主張した委員は、(1)数値目標が達成できなければ、それを説明するという形でアカウンタビリティを高めていけば良い、(2)超過準備を増やす方法については、積み上幅を3〜4兆円位に拡大させれば、実現できると考えている、と反論した。

 なお、一人の委員からは、金融政策運営を議論するに際し、(1)金融政策の目的は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことであるが、「物価の安定」とはそもそも何をもって言うのか、改めて原点にかえって議論する必要がある、(2)アカウンタビリティ充実の観点から、金融政策の操作目標、中間目標、最終目標について具体的な数値——目標値、参考値、見通し等——にできるのか、またそれが質的に意味のある数値かどうか、再度議論を深める必要がある、との問題提起がなされた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済は各種の政策効果の浸透等により緩やかな改善が続いているが、経済の自律的回復の決め手となるべき民需の回復力は依然として弱い状況にある。
  • このような状況の下、政府は景気の本格的回復と新たな発展基盤の確立を目指すため、昨日、経済新生対策を取り纏めた。これは、(1)中小企業・ベンチャー企業の振興や技術開発の推進、成長分野における規制緩和・制度改革、雇用対策等、日本経済のダイナミズム発揮のための政策、(2)生活基盤やネットワーク・インフラの整備等、21世紀の新たな発展基盤の整備、(3)金融市場の活性化や不動産の証券化、住宅金融対策等、という3つの柱からなっている。総事業規模は17兆円程度、さらに介護対策を含めれば18兆円程度となる。
    今後、予算措置が必要となるものについては、今月末に国会に提出する予定の第二次補正予算の編成に際し、適切に対処して参りたい。経済新生対策の着実な実施により、公需から民需への円滑なバトンタッチが行われ、わが国経済が民需中心の本格的な回復軌道に乗り、その長期的な発展基盤が確立されるものと考えている。
  • 本対策に盛り込まれた諸施策を政府が実施することとあわせて、日本銀行におかれても、経済新生対策の中で要望されている通り、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

 また、経済企画庁からの出席者からも、以下のような趣旨の発言があった。

  • 経済情勢および経済新生対策の内容については、只今大蔵省からの出席者から説明があった通りである。なお、同対策の策定にあわせ、現在の経済状況を考慮し、対策の効果も織り込んで、昨年末に作成した99年度政府経済見通しを上方修正(実質成長率:+0.5%→+0.6%)した。
  • 日本銀行の金融政策についての要望は、只今大蔵省からの出席者が発言した通りである。よろしくお願い申し上げる。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)足許の景気は、輸出や生産を中心に、持ち直しに転じつつある、(2)金融環境は改善している、(3)しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(4)物価は当面、概ね横這いで推移していくとみられるが、潜在的な低下圧力は引き続き残存している、(5)したがって、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には、なお至っていない、というものであった。

 こうした認識を踏まえ、会合では、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、一人の委員からは、経済環境の改善を踏まえ、金融市場調節方針を、現在のゼロ金利政策を採用した2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、もう一人の委員からは、CPI(消費者物価指数)の上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定するという量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(11月16日〜12月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注3)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

──中原委員は、(1)マネーサプライやマネタリーベースの伸び率が低下しており、円高プレッシャーなどの悪影響につながりかねないこと、(2)現行のオーバーナイト金利をターゲットとする方法では、これ以上の緩和の余地がなく、レジームを変える必要があること、(3)現在の政策の枠組みは抽象的な文言が多く、政策の枠組みを具体的数値によって示さなければアカウンタビリティを果たしているとはいえないこと、といった理由を挙げて、上記採決において反対した。

──篠塚委員は、(1)足許の景気は持ち直しに転じており、これにより、民需の自律的回復の展望も拓けつつあると考えられること、(2)一方で、ゼロ金利政策の副作用が、時間の経過とともに大きくなっていること、(3)ゼロ金利政策は、デフレ局面入りのリスクという「緊急事態」への対応であり、経済がこうした事態から脱した現在では、速やかに正常な金利の姿に戻すことが望ましく、また、それでも思い切った金融緩和状態が続くことに変わりはないこと、という理由を挙げて、上記採決において反対した。

  1. 3「マネタリーベースについて2000年7〜9月期平残で前年同期比10%程度の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年9月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増額させる必要がある。」

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を11月16日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成11年11月12日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上