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金融政策決定会合議事要旨

(1999年11月26日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年1月17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 1月20日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
1999年11月26日(9:00〜12:48)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   林 芳正 政務次官(9:00〜12:34)
  • 経済企画庁 小池百合子 総括政務次官(9:00〜12:48)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役 飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役内田眞一

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(10月27日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、12月1日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(11月12日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、「積み上幅」2を1兆円に維持する調節のもとで、0.03%で安定的に推移した。

 前回会合以降の市場の動きとしては、次の3点が注目される。

 第1に、年末越えのインターバンク・レートは、「コンピューター2000年問題」を背景に上昇基調を辿ってきたが、足許では、(1)日本銀行が積極的に年末越えの資金供給オペを行っていること、(2)11月16日の記者会見における総裁の発言(「有担保貸出について、制限的に対応するとか、まして経営責任を問うなどということは、全く考えていない」)を受けて、年末年始に不測の事態が生じた場合の不安感がやや後退してきていることなどから、上昇に歯止めがかかりつつある。

 第2に、金利先物レートが来年6月限などの期先物を中心に、上昇傾向に転じている。これは、OECDによるわが国経済見通しの上方修正、株価の一段の上昇などから、ゼロ金利政策の早期解除観測が一部に台頭してきたことを映じたものと思われる。

 第3に、短期国債レートは、大手行の年末資金繰り対応が進捗する中で、担保需要が減少していることなどから、上昇している。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」
  2. 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対ドル相場は、前回会合以降、米国において11月12日の第3四半期労働生産性上昇率の発表を受けてインフレ懸念が後退したことなどから、やや円安方向で推移した後、11月下旬に入って、わが国株価の堅調などを背景に円高方向に向かっている。

 この間、ユーロは、対ドル・対円ともに、急落し、既往最安値圏で推移している。この背景としては、(1)米国経済の力強さや日本経済の回復期待に市場の注目が集まっていること、(2)ECBの利上げ後にユーロエリアに弱めの実体経済指標が出たこと、(3)ドイツ政府の大手企業破綻に対する救済姿勢が、構造改革を遅らせる動きと受け止められたことなどが挙げられる。

(2)海外金融経済情勢

 米国では、FRBが、11月16日のFOMCにおいて、「インフレ的な不均衡を抑え、景気拡大を持続するため」、0.25%のFFレートの引き上げを実施した。利上げ後の金利動向をみると、長期金利が上昇に転じ、FF先物金利も上昇している。こうした金利上昇にもかかわらず、株価は、ハイテク株を中心に上昇傾向を辿っている。

 東アジア経済は、回復傾向が一段と明確になっている。前回会合以降に公表された各国の第3四半期のGDPをみても、韓国、マレーシアが一段と伸びを高めたほか、シンガポールが高成長を持続し、また、台湾でも地震の影響にもかかわらず5%台の成長を記録している。この間、インドネシアでは、アチェ特別州等一部地域で独立運動が激化しており、政治・社会情勢の不安定化懸念が底流している。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降発表された経済指標からは、前回の基調判断(「景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じつつある。しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」) を変えるような材料は窺われない。

 まず、実質輸出は、7〜9月期にかなり高い伸びとなった後、10月は一服した形となった。内訳をみると、米国向けが自動車輸出の減少を主因に大きく減少したほか、中国向けも資本財・中間財の減少により大きく落ち込み、ASEAN向けも情報関連を中心に減少に転じている。ただ、自動車や情報関連の落ち込みは一時的なものと思われることなどから、輸出に関する基調判断を変えるものではないと考えられる。一方、実質輸入も10月は減少となった。先行き10〜12月期については、生産が7〜9月期に比べれば鈍化するとみられることから、輸入も緩やかな伸びに止まるものと予想される。

 次に、個人消費関連の指標をみると、百貨店売上高・小売業販売額などは、9月に弱めの指標が出た後、10月はやや強めの数字となっており、全体としては一進一退の動きを続けている。

(2)金融情勢

 前回会合以降、マネーサプライ統計および企業倒産件数の最新値が公表されている。

 10月のマネーサプライ(M2+CD)は、9月の前年比+3.3%から+3.5%と、やや伸び率が持ち直した。これは民間金融機関借入のマイナス寄与がやや縮小したことによるものであるが、基調的には大きな変化はないとみられる。10月の企業倒産件数は、特別保証制度適用先の倒産の増加により微増となった。

 株価は、このところ米国株価と連動する傾向が強まっているが、米国株価が上昇する中、電機・通信などハイテク関連がリードする形で、上昇した。また、円相場、長期金利も幾分強含んでいる。市場の関心を窺うと、国債の需給や米国のインフレ懸念といったこれまでの材料をほぼ消化し、再び日本経済のファンダメンタルズに移っているものとみられる。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状と先行き

 会合では、前回会合(11月12日)以降に明らかになった経済指標等の評価を中心に議論が交わされた。その結果、前回の基調判断を変更するようなものは特にみられなかったという点で、委員の見解は概ね一致した。

 まず、輸出について、複数の委員が、10月は輸出入とも減少したが、世界景気の同時拡大傾向が時間を追ってはっきりしてきており、輸出の増加トレンドは今後も続くのではないかとの評価を示した。このうちひとりの委員は、7月以降の急速な円高の影響も、こうした輸出市場の拡大で相当程度オフセットされつつあると述べた。これに関連して、ある委員は、円高がアジア経済の回復に寄与している面もあると指摘した。一方、別の委員は、本年上半期の円相場の平均値が117円台であったことを踏まえると、現在の円相場の水準が続けば、今後、かなりの輸出の減少要因となると述べた。

 また、公共投資については、多くの委員が、第2次補正予算の政府案が固まったことにより、来年前半にかけて財政面からの下支え効果が継続することが確認できたという認識を示した。ただ、このうちひとりの委員は、地方公共団体が地方単独事業を圧縮している点には留意する必要があると付け加えた。

 企業収益について、ある委員は、これまでに判明している上場企業の中間決算をみると、売上高が予想通りの減収となっている中で、経常利益は上方修正されており、リストラの効果が予想を上回るペースで進んでいるのではないかと述べた。そのうえで、この委員は、現在の為替水準を織り込んでも企業収益の回復が本格化しているとの前向きの見方を明らかにした。これに対して、別の委員は、企業は、リストラによるコストダウン効果に支えられてようやく収益を出したのであり、収益の本格的な回復のためには、民間需要の自律的な回復を待たなければならないと述べた。

 以上のような情勢を踏まえて、足許の景気は、輸出や生産を中心に持ち直しに転じつつあり、企業収益や雇用面でも明るい動きがみられ始めているという点で、委員の認識は概ね一致した。ひとりの委員は、今後、このような動きが、企業や家計の支出行動に結びついて、生産・所得の増加をさらに強固なものとしていくかどうか、確認していく必要があると述べた。

 一方、個人消費については、前回会合以降の新たな指標をみても、一進一退の状況を脱していないという点で、委員の見方は概ね一致した。ある委員は、自動車メーカーが生産計画を上方修正している例を挙げて、国内の自動車販売にやや持ち直しの動きがみられると述べた。ただ、この委員も、全体としては個人消費は「踊り場」状態にあるとの評価を示した。この間、先行きの消費動向について、ひとりの委員は、消費のバックボーンとなる雇用・所得環境の改善の方向がはっきりとみえてくるかどうか注目していく必要があるとの見解を示した。その中で、別の委員は、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」をみると、消費者マインドが急ピッチで改善していることは注目すべきであると指摘した。

 また、設備投資について、ある委員は、製造業にみられる下げ止まりの動きが広がり始めるかどうかという点に注目していきたいと述べた。これに対して、別の委員は、投資目的別の動向の分析を示し、維持補修投資の上積みは期待できるが、既に相当の水準にある省力化・合理化投資のさらなる伸びは期待しにくいほか、能力増強投資は減少傾向が続くとみられるので、全体としては、まだ回復は期待しづらいとの見方を示した。また、別の委員は、企業はなお過剰設備を抱えており、一部業種を除いて、その解消には相当の期間が必要なのではないかと述べた。この委員は、過剰雇用や過剰債務の調整は、過剰設備の調整が終了してからさらに相当の時間がかかるので、これらの調整が終了するのはかなり先になると付け加えた。

 これらの議論を踏まえ、多くの委員は、企業収益の改善が設備投資にどのような前向きの影響を与えていくか、今後公表される設備投資計画に関する各種の調査や先行指標、さらにはミクロの情報等を見ながら、判断していく必要があると指摘した。

 なお、これに関連して、複数の委員が、情報関連等の好調な分野とそれ以外に「二極分化」する傾向が強まっている中で、設備投資の波及効果や景気循環の表れ方も、従来とはやや異なる動きとなる可能性もあるとコメントした。このうちひとりの委員は、こうしたことも踏まえて、マクロの経済指標のみならず、ミクロの情報も注意深くみていくことが重要であると述べた。

 また、ひとりの委員は、最近、原子力産業、航空宇宙産業等で起きた事故や問題等の例を引きながら、構造調整リストラの中で企業の基礎技術・品質管理が疎かになる可能性があり、貿易・技術立国であるわが国の国際競争力の土台を揺るがしかねないとの懸念を示した。

 こうした状況を踏まえ、「民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という認識が概ね共有された。

 物価については、当面横這いで推移するとみられるが、以上のような実体経済の情勢判断を踏まえれば、物価に対する潜在的な低下圧力は引き続き残存するという点で、委員の認識は概ね一致した。ある委員は、企業のリストラに伴う原材料や部品の購入価格の引き下げが企業物価に波及的に影響が及んでいかないかについても、注視していく必要があるとコメントした。これに対して、ひとりの委員は、これまで下落を続けてきた企業向けサービス価格指数(CSPI)が、単月の動きとはいえ、前年比マイナス幅を縮小させたことを指摘し、物価の下落懸念が薄れてきているように窺われると、やや前向きの認識を示した。

 この間、ひとりの委員は、(1)土地取引件数に下げ止まり感が窺えることや、(2)大都市圏の優良賃貸ビルは投資利回りが上昇しているため、今後、不動産投信や海外資本を含め、不動産の新規取得に向けた資金の流れが拡大する素地ができつつあることなどを指摘して、資産価格を巡る情勢が大きく変わる可能性があると述べた。さらに、この委員は、ゼロ金利のもとで、高額マンションが売れているといった「ミニバブル」的な動きもみられると述べた。ただ、この点については、(1)地価は平均的にみれば、なお下落傾向が続いているのではないか、(2)マンションの販売好調も値下がりによる部分が大きく、「ミニバブル」というほどの動きには至っていないのではないか、といった意見が出された。また、複数の委員が、資産価格に関連して、金融政策の目標はあくまで物価の安定であるが、一方で株価、地価等への目配りも必要であると述べた。

 なお、ひとりの委員は、経済の先行きについてのリスク・ファクターとして、原油価格の動向を挙げた。この委員は、米国の石油在庫が減少している中で、OPECの原油生産量の約1割を占めるイラクの石油輸出停止が長引くようなことになれば、冬場にかけての原油価格に対する大きな波乱要因になると述べた。

(2)金融面の動き

 金融面では、主として、長期金利、株価および円相場の動向を巡って議論がなされた。

 まず、長期金利の動向については、何人かの委員が、景気の持ち直し傾向の中にあっては、長期金利がある程度上昇することは、自然体で受け止めるべきではないかと述べた。このうちひとりの委員は、現状株価が堅調に推移していることなどを踏まえると、長期金利が強含んでいるのは、景況感の改善を反映したものと解釈して良いのではないかとの評価を示した。この委員は、こういった長期金利の上昇は決して景気の回復を阻害するものではないことについて、広く理解を求めていく必要があると述べた。ただ、別の委員は、景気回復を反映した金利上昇であれば良いが、思惑からくる金利上昇や欧米の長期金利の上昇に引きずられる形での金利上昇には注意する必要があると述べた。これに関連して、ある委員は、日米独の長期金利は、90年代を通して下落を続けてきたが、昨年末から本年初にかけて、長期のトレンドとして、上昇に転じたのではないかとコメントした。

 また、為替相場の動向について、ある委員は、米国のインフレ懸念がやや後退して、市場も小康状態にあるが、米国経済は減速の兆しをみせておらず、為替市場が不安定化するリスクは引き続き残っていると述べた。また、別の委員は、「コンピューター2000年問題」の影響で市場の出来高が薄くなっている中で、それを狙った投機的な動きなどから、相場が大きく変動するおそれがあると指摘した。

 株式市場が堅調に推移している背景については、景況感が改善していることや米国株価の下落懸念が後退したことなどが指摘された。また、ある委員は、情報関連等一部の高成長業種が相場をリードしており、経済を牽引していく成長産業の新旧交代が起き始めているのではないかと指摘した。ただ、この委員は同時に、特定銘柄の株価ばかりが上昇する場合は、期待形成に行き過ぎが生じているケースがありえるので、注意深く点検していく必要があると述べた。これに関連して、別の委員は、株高が企業や家計のマインドにプラスの効果を及ぼすことは間違いないが、このように二極分化が激しい中では、その恩恵もあまねく行き渡らないという面がある点には留意する必要があると述べた。

 この間、複数の委員が、年末越え金利の上昇にはようやく歯止めがかかりつつあるように窺われるが、引き続き積極的な年末越え資金の供給を続けて、市場の無用な不安感を払拭していくよう努めていくことが必要であるとの見解を示した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢に関する判断を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 前述のとおり、委員の金融経済情勢に関する見方は、前回会合時の情勢判断を大きく変える必要はない、という点で概ね一致した。

 ただし、先行きの金融政策運営の考え方について、ひとりの委員が、実体経済に明るさがみえてきつつある中で、こうした実体経済とゼロ金利政策というぎりぎりの政策が整合的かどうか、という観点からも情勢を点検していく必要があると指摘した。また、複数の委員が、足許のインフレ率が上がり始めてから政策を変更するのでは遅く、forward-lookingな政策運営の必要性を述べた。ただし、こうした意見を述べた委員も含め、多くの委員が、先行きの民需の自律的回復が展望できるような情勢になるかどうか、もう少し材料を待ちながら点検していって良い状況であると述べた。

 こうした議論の結果、当面の金融政策運営方針としては、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで、現在の思い切った金融緩和基調を続ける」という考え方に沿って、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、会合における大勢意見となった。

 この間、ゼロ金利政策の継続という大勢意見に反対する、2つの主張がみられた。

 まず、一人の委員は、金融政策運営を2月の緩和措置前の状態に戻す──オーバーナイト金利を0.25%に引き上げる──ことを提案した。

 この委員は、金融政策の運営はforward-lookingに行う必要があり、民需の回復が経済指標等ではっきりと確認できるようになった段階では、政策対応としては後手になると述べた。

 この問題提起を受けて、ある委員は、forward-lookingな政策対応の必要性は認めつつ、将来のインフレ率を見通す際にも、現在得られる情報をきちんと把握していくことが重要である、との整理を示した。この委員は、現在の情勢をみると、近い将来インフレになるリスクが懸念される情勢ではなく、むしろ金利を上げてしまって状況を悪くしてしまうリスクの方が大きいのではないか、と述べた。

 なお、ある委員は、2月の金融緩和措置前の水準に金利を戻すことと「コンピューター2000年問題」との関係をどう考えるか、と質問した。これに対し、ゼロ金利解除を主張した委員は、(1)日本銀行が既に2000年問題に対応する各種施策を打ち出し、その効果が浸透しつつあること、(2)同じく2000年問題に直面している欧米諸国ではインフレ懸念から金融引き締めに動いていること、などから、2000年問題が特に大きな障害にはならない、との見解を示した。

 別の一人の委員は、インフレ率目標付きのマネタリーベース・ターゲティングを採用すべきであると主張した。

 この委員は、CPIターゲティングを採用すべき理由として、(1)金融政策にディシプリンを与え、政治的な介入を防ぐメリットがあること、(2)日本銀行は物価の安定に責任を有しているので、その数値目標を国民に示すことで、結果責任をより明確に果たすべきであること、(3)物価や経済のパスについて予測しながら政策運営することで、よりforward-lookingpreemptiveな金融政策を行えること、を挙げた。さらに、仮に今すぐCPIターゲティングに移行しないとしても、せめて米国FRB並みにCPI、GDP成長率の見通しを示すべきであると主張した。また、他の委員からの問に答える形で、今後、追加的な政策を発動しなければ、2年後のCPI上昇率(前年比)はゼロ近傍に止まるとの見通しを示した。また、質問をした委員に対し、1年後のCPI上昇率について問い、その委員の示したものに比べて自分の見通しの方がより慎重なものであるとコメントした。そのうえで、CPIの上方バイアスを踏まえれば前年比0.5%から2.0%という目標はモデレートなものであり、この程度の目標すら達成できないということであれば日本銀行は使命を果たしているとはいえないと述べた。

 なお、マネタリーベース・ターゲットの対象期間については、超過準備を毎積み期間5,000億円程度増額させることで達成できるよう2〜3四半期後とし、CPIターゲットの対象期間については、金融政策が波及するまでのラグを考慮して、2年程度後の10〜12月期としていると補足した。また、量的目標とインフレ率の目標の関係については、新たな量的スキームに移行したうえで、状況に応じて必要があれば、マネタリーベースのターゲットを引き上げる等の対応を採れば良いと述べた。

 これに対して、ひとりの委員は、(1)現在、マネタリーベースの伸びと中長期的なインフレ率の関係は、非常に不安定な状況にあること、(2)ゼロ金利のもとでは、マネタリーベースの増加による緩和効果は非常に限定的であることを指摘した。そのうえで、この委員は、この案を実施しても緩和効果は極めて限定的であり、2年後のインフレ率目標を達成できるかどうかには非常に大きな不確実性が残ると述べ、達成できない場合には日本銀行のクレディビリティが失われるリスクもあるとしてこの案に反対した。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、政府からの出席者も発言した。まず、大蔵省からの出席者は、以下のような趣旨の発言を行った。

  • わが国経済は、各種の政策効果浸透に加えて、アジア経済の回復等の影響もあって、緩やかな改善が続いており、景気は最悪期を脱したと考えている。もっとも、自律的な回復の鍵を握る民需は、依然として弱い状況にある。こうした状況を踏まえ、政府は、11月11日に経済新生対策を決定し、またこれを受けて、昨日(11月25日)平成11年度の第2次補正予算を閣議決定したところである。この結果、平成11年度一般会計第2次補正後予算の総額は、第1次補正後予算比6兆7,890億円増の89兆189億円となった。政府としては、経済新生対策の着実な実施により、公需から民需への円滑なバトンタッチが行われ、わが国経済が民需中心の本格的な回復軌道に乗り、その長期的な発展基盤が確立されるものと考えている。
  • 日本銀行におかれても、政府による諸施策の実施と合わせて、経済の回復を確実なものとするため、金融・為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的な金融政策を運営して頂きたい。

 経済企画庁からの出席者は、以下のような趣旨の発言を行った。

  • わが国の景気は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種の政策効果の浸透に加え、アジア経済の回復などの影響もあり、緩やかな改善が続いている。こうした状況を踏まえ、政府は、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、21世紀の新たな発展基盤を築くために、経済新生対策を決定したところであり、その強力な推進を図ることとしたい。
  • 日本銀行におかれては、経済の回復を確実なものとするため、金融・為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)足許の景気は下げ止まりから持ち直しに転じつつある、(2)金融緩和は浸透している、(3)ただ、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(4)こうした基本的な情勢は、前回会合から大きな変化はなく、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、というものであった。

 こうした認識を背景に、当面は、ゼロ金利政策を継続し、金融緩和効果の浸透を図っていくことが適当である、という意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員から、オーバーナイト金利を引き上げることが適当との考えが示された。また、別の委員からは、CPIの上昇率に目標を設定したうえで、本格的な量的ターゲティングに踏み切ることが適当である、との考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(11月16日〜12月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る(注3)。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

──篠塚委員は、(1)景気の先行きについてプラスの材料が目立ち、世界景気も全般的にデフレ懸念からインフレ懸念の方に方向が転換しつつあるのではないかと思われること、(2)現在の長期金利の上昇は、景気回復期待を反映したものであり、2月のゼロ金利政策導入前にみられた上昇の要因とは大きく異なること、(3)経済指標にはっきりとした動きが表れてから利上げをしたのでは後手に回ること、(4)市場でもゼロ金利解除に向けての認識が高まりつつあること、といった点を挙げて、上記採決において反対した。

──中原委員は、(1)景気回復の量感は極めて弱いこと、(2)積極的な金融緩和策が、国際的にも、また、政府の経済新生対策とシンクロナイズするという観点からも、求められていること、(3)今後さらに円高が進み、1ドル100円をトライする可能性もあり、輸出数量面への悪影響が懸念されること、(4)マネーサプライやマネタリーベースが低下してきていること、(5)オーバーナイト金利を操作目標とする現在の枠組みでは、外的なショックがあった場合に対応余地がないこと、(6)抽象的な表現ではなく、具体的な数値で、政策を表現すべきであること、といった点を挙げて、上記採決において反対した。

  1. 3「マネタリーベースについて2000年7〜9月期平残で前年同期比10%程度の伸びを実現するためには、現状程度の銀行券の伸び(前年同月比6%程度)が続くことを前提とすると、来年9月までに買いオペ等の拡大により現状比3兆円程度準備預金の残高を増額させる必要がある。」

以上


(別添)
平成11年11月26日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上