金融政策決定会合議事要旨
(2000年 2月10日開催分)*
- 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年 3月 8日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。
2000年 3月13日
日本銀行
(開催要領)
- 1.開催日時
- 2000年 2月10日(9:00〜12:37、13:30〜16:01)
- 2.場所
- 日本銀行本店
- 3.出席委員
-
- 議長 速水 優(総裁)
- 藤原作弥(副総裁)
- 山口 泰( 副総裁 )
- 武富 将(審議委員)
- 三木利夫( 審議委員 )
- 中原伸之( 審議委員 )
- 篠塚英子( 審議委員 )
- 植田和男( 審議委員 )
- 田谷禎三( 審議委員 )
- 4.政府からの出席者
-
- 大蔵省 大野功統 総括政務次官(9:00〜12:37)
原口恒和 大臣官房総務審議官(13:30〜16:01) - 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:00〜16:01)
(執行部からの報告者)
- 理事黒田 巖
- 理事松島正之
- 理事永田俊一
- 金融市場局長山下 泉
- 調査統計局長村山昇作
- 国際局長平野英治
- 企画室参事稲葉延雄
- 企画室企画第1課長雨宮正佳
- 調査統計局吉田知生
(事務局)
- 政策委員会室長小池光一
- 政策委員会室審議役村山俊晴
- 政策委員会室調査役飛田正太郎
- 企画室調査役栗原達司
- 企画室調査役内田眞一
- 大蔵省 大野功統 総括政務次官(9:00〜12:37)
1.前々回会合の議事要旨の承認
前々回会合(12月17日)の議事要旨が全員一致で承認され、2月16日に公表することとされた。
2.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要
1.最近の金融市場調節の運営実績
金融市場調節については、前回の会合(1月17日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、積み上幅2を概ね1兆円とする調節のもとで、0.02%で安定的に推移した。
前回決定会合以降の市場の動きとしては、次の4点が注目される。
第1に、「コンピューター2000年問題」の剥落に伴い、足許の資金余剰感が再び強まり、大手行が積み進捗を遅らせる動きや、準備預金制度非適用先の当座預金残高の増加などがみられている。
第2に、1月22日のG7共同声明を受けて、市場では、ゼロ金利政策の早期解除観測が後退し、ターム物金利や短期国債金利が低下している。短期国債金利でみると、概ね6月頃までフラットとなっており、少なくともこの頃まではゼロ金利が継続するとの市場の見方を示唆する形となっている。
第3に、こうした足許の資金余剰感の強まりやゼロ金利政策の早期解除観測の後退を受けて、金融機関の資金調達面の不安が大きく後退しており、このところ、日本銀行の資金供給オペの未達(札割れ)が発生している。大幅な資金不足が予想される3月初を控え、期末越えオペの実施など工夫に努めているところである。
第4に、2月29日のコンピューター誤作動懸念に関するいわゆる「229問題」については、同日越えの金利が、一部金融機関が資金調達を積極化したことから、若干強含みで推移している。もっとも、金利の上昇幅はわずかであり、市場はこの問題に大きな懸念を有しているわけではないように窺われる。
なお、これまでの決定会合における議論も踏まえ、金融市場調節に関するアカウンタビリティーの一層の向上を図る観点から、「資金需給表」の公表方式等について見直しを実施することとした。具体的には、ゼロ金利政策のもとで、資金過不足額の予測と実績との大幅な乖離が生じていることなどに鑑み、(1)資金需給表の形式を、準備預金をベースとするものから、日銀当座預金をベースとするものに改訂するとともに、(2)積み上(下)幅見込み額の公表を取りやめ、当日の金融市場調節と当座預金残高の前日比増減額見込みを公表することとする。こうした措置は、積み上幅が金融政策のシグナルであるという誤解を解くうえでも意味があると考えている。本件は、2月14日に対外公表し、3月16日から実施する予定である。
- 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」
- 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。
2.為替市場、海外金融経済情勢
(1)為替市場
円の対ドル相場は、1月末から2月初にかけて円安方向に振れ、足許107円〜109円台で推移している。この背景としては、(1)米国経済が市場の予想以上に好調であること、(2)わが国の昨年第4四半期の実質GDP成長率がマイナスとなるとの予想や財政事情の悪化に対する懸念等から、わが国経済の回復期待が後退したこと、(3)FOMCの利上げ(2月2日)を受けて日米金利差に注目が集まったこと、などが指摘されている。この間、対内外証券投資は、1月も流入超となっており、今回の円安を招いたのは、本邦機関投資家の外債投資のヘッジはずしや先物市場での円ショート・ポジション造成といった相場観に基づく動きとみられる。こうした動きは、相場観が変われば容易に逆に動くものである点は留意する必要がある。
また、ユーロの対ドル相場も、1月下旬に急落し、既往最安値を更新した後、やや反発している。ユーロ安の背景として、市場では、米国経済の好調のほか、(1)ユーロ発足時の過大評価の修正や、(2)ユーロエリアにおける構造調整の遅れが嫌気されたことなどが挙げられている。
(2)海外金融経済情勢
海外経済情勢については、世界経済の同時回復という動きに変化は窺われない。米国では、昨年第4四半期の実質GDP成長率(事前推計値)が前期比年率+5.8%となるなど、力強い景気拡大が続いている。また、ユーロエリアの景気も、輸出の好調に加え、個人消費の堅調度合いが増していることから、拡大基調を辿っている。東アジアでも、輸出が好調を持続しているほか、既往の景気浮揚策の効果浸透などから、個人消費に加え、設備投資にも持ち直しの動きが広がりつつある。
米欧の利上げ後の金融市場の動向をみると、まず米国では、インフレ懸念の後退を好感して長期金利が低下し、株価も全般に堅調に推移している。また、欧州でも、長期金利はほぼ横這いとなる中、株価はドイツ・フランスなどで最高値を更新するなど上昇している。
3.国内金融経済情勢
(1)実体経済
景気の現状についてみると、公共投資と住宅投資はともに緩やかな減少に転じている。また、個人消費については、年末にかけて家計調査やチェーンストア等の統計は弱いものとなった。この点各種統計を突き合わせたうえで、企業からのヒアリング情報を加味して判断すると、消費は全般的にやや弱めであったものの、こうした統計が示唆するほどには落ち込んでいないとみられる。したがって、「回復感に乏しい状態」というこれまでの判断を変更する必要はないものと考えられる。
一方、設備投資は、先行指標が引き続きプラスの方向を示していることや、このところ、大手電機メーカーが相次いで来年度の電子デバイス関連投資の増額を発表していることなどを踏まえ、「下げ止まりつつある」と判断して良いと考えられる。また、純輸出は、足許輸入増から一時的に減少したが、基調としては引き続き増加方向にある。
こうした最終需要動向のもとで、生産は増加を続けており、企業収益の改善も明確化するなど、企業部門においては前向きの所得形成メカニズムが着実に作動している。ただ、多くの企業では、収益の改善は、これまでのところ設備投資に対する積極姿勢を誘発するには至っていない。
このように、わが国の景気は、足許、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は徐々に改善しつつある。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは依然みられていない。
物価面をみると、国内卸売物価は、ほぼ横這いの推移が続いており、消費者物価指数も横這いとなっている。一方、企業向けサービス価格指数は小幅の下落を続けている。
先行きについては、公共事業は当面緩やかな減少が続くが、補正予算の執行によって春以降には持ち直すと見込まれる。また、純輸出も増勢を維持するとみられる。
設備投資は、企業収益の改善が続く中で、いずれは緩やかな増加に転じていく姿が一応想定できる。ただ、企業が売上げの増加に対して慎重な見方を変えていないことから、設備投資が明確な増加に転じるタイミングについては現時点ではなお見定め難い。この間、個人消費は、(1)昨冬賞与が減少した際にも「ラチェット効果」(予想外の所得減少に対して消費性向が一時的に上昇する効果)は働かず、その反動を想定する必要はないことや、(2)消費者マインドの改善も小幅なものにとどまっていることからみて、今後は、概ね所得に見合った形で推移する可能性が高いと考えられる。
こうした景気展開のもと、物価の先行きを展望すると、国内卸売物価については、年央近くまで概ね横這いで推移する可能性が高まっている。消費者物価は概ね横這い、企業向けサービス価格については小幅の下落が続くと予想される。全体としてみれば、物価は当面概ね横這いの範囲で推移するものと予想される。ただし、物価が再び軟化するリスクに引き続き留意しておく必要がある。
(2)金融情勢
長期金利は、G7共同声明を受けてゼロ金利政策の早期解除観測が後退したことから、1月下旬にかけて1.6%台前半まで軟化したが、その後、為替円安や株高の動きを受けて反発し、足許では1.8%台半ばで推移している。
また、日経平均株価は、堅調を続けており、足許1万9千円台後半となっている。年明け以降の株価上昇局面の特徴としては、これまで相場をリードしてきた電気機器・通信で一服感がある一方で、その他の業種で上昇が目立つことである。ただし、その背景には、投資信託の大量設定などもあるとみられるところから、収益回復期待による株価上昇が他の業種に広がってきたと判断するのはやや早計である。
この間、民間の資金需要は引き続き低迷しており、民間銀行貸出は弱含みで推移している。社債やCPの発行も低調な動きとなっている。また、民間資金需要の低迷を反映して、マネーサプライ(M2+CD)も、伸び率の鈍化が続いている。こうした状況は、今回の景気持ち直しが、企業部門の建て直しを中心に進んでいることのひとつの表われと考えることができる。
3.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要
(1)景気の現状
景気の現状については、多くの委員の認識は、「景気は、足許、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という評価に集約された。
まず、公共投資について、何人かの委員が、緩やかに減少しており、端境期ないしは小休止の段階にあるとの評価を示した。また、ある委員は、住宅投資は、減税効果の一巡もあって減少していると述べた。
輸出については、何人かの委員が、10〜12月の統計ではやや弱い動きとなっているが、(1)「コンピューター2000年問題」を控えた電子部品の国内在庫積み増しの影響などによる一時的な現象という面があること、(2)世界経済の回復傾向が続いていること、などを指摘し、基調としては増勢を維持している、との判断を示した。
また、多くの委員が、生産は年明け後も増勢を維持しているとの認識を示した。もっとも、ひとりの委員は、生産の増加は、情報関連・輸出関連など一部の業種を中心としたものであり、これまでの景気回復局面に比べると品目の広がりも乏しいと述べた。また、別の委員は、生産を支えているのは、これまでのところ、公共投資や輸出といった外生需要であり、国内民間需要は全体として力強さに欠けると指摘した。
設備投資については、先行指標などから判断して、下げ止まりつつあるが、明確に反転・上昇が始まったとはいえないとの認識が概ね共有された。この間、多くの委員が、大手電機メーカーの半導体関連投資の増額計画発表など、限界的ではあるが、明るい動きも出てきていると指摘した。このうちひとりの委員は、情報・通信関係の需要は、インターネットへ接続する機器が、第1フェーズのパソコンのほか、第2フェーズでは携帯電話が加わり、さらには情報家電、デジタルテレビなどに広がる可能性が生まれていく過程で生じており、半導体や半導体製造装置メーカーも一過性のものではないとみて、昨年夏場あたりから前向きの姿勢に転じ始めていると付け加えた。また、別の委員は、首都圏でいくつかの大型再開発案件が着工に入りつつあり、その下支え効果も期待できると述べた。
個人消費に関しては、多くの委員が、小売関連の指標は弱めであり、特に冬季賞与の減少の影響で勤労者世帯の消費が弱いと述べた。複数の委員は、家計は、所得環境が厳しい中で、安値指向、生活防衛型の消費行動を強めていると述べた。ただ、このうちひとりの委員は、その背景には、消費の飽和感などの構造変化が起こっていることもあり、消費はいわば「好況でも不況でもない普通の状態」と判断した方が良いのではないかとコメントした。また、何人かの委員が、(1)衣料品販売などの分野における旧来のチェーンストアから新興量販店へのシフト、(2)家計調査のサンプルバイアスなどを指摘し、各種統計が消費動向を捉えきれていない可能性があると述べた。さらに、別の委員は、消費財の輸入が増加するなど明るい兆候もみられると指摘した。こうした点も踏まえ、大方の委員の認識は、個人消費は、各種統計指標が示すほど弱くはないものの、引き続き回復感に乏しい状況が続いているとの評価に集約された。
一方、景気をやや慎重にみる委員からは、昨年12月の家計調査の消費水準指数(季節調整済)は、90年代最低にまで落ち込んでおり、消費について深刻な状況を示す指標もみられるとの指摘があった。
物価動向については、横這い圏内にある、との認識がほぼ共有された。ある委員は、卸売物価指数は、前年比でマイナスを続けているが、これは、技術進歩により長期的に下落トレンドにある機械類の価格低下によるものであり、景気循環とは独立した傾向であると指摘した。ただし、別の委員は、(1)消費者物価指数が、上方バイアスがあるにもかかわらず、なお前年比でマイナスとなっていることや、(2)GDPデフレーターが前年比マイナスで推移していることなども考慮すると、物価が全般に下げ止まったと判断するのは、少し早いのではないかとコメントした。
この間、何人かの委員が、各種の統計指標から判断して、昨年第4四半期の実質GDP成長率(前期比)は、第3四半期に続いて2期連続のマイナスとなる可能性があるが、仮にそうなった場合、「持ち直しに転じている」という景気の現状評価との整合性をどう考えるかという問題を提起した。
この点、委員の質問に答える形で、執行部からは次のような説明がなされた。
第1に、今回想定される景気回復のシナリオは、(1)公共投資・輸出といった外生需要と企業リストラが支える形で、企業収益が好転し、(2)これが企業の支出行動につながって設備投資中心に民需の回復が始まり、(3)さらに雇用・所得環境の改善から個人消費に波及していく、というものである。この過程において、GDPの大きな部分を占める個人消費が弱めに出やすいことは、ある程度予想の範囲内である。もちろん、行き過ぎた個人消費の減退は、生産の減少を通じて、こうしたシナリオを崩してしまう危険があるが、今のところそうした動きはみられていない。
第2に、統計には限界があり、この点についての理解を得ていくことも必要である。過去の景気回復局面でも、実質GDP成長率が2期連続マイナスとなったことはある。
これに対して、多くの委員が同様の認識を示した。ある委員は、(1)生産の回復傾向、(2)卸売物価の安定、(3)円安傾向などを踏まえれば、収益の改善を通じた企業部門の立ち直りは続いていると考えられ、景気回復のシナリオは崩れていないとの認識を示した。また、別の委員は、(1)昨年後半のGDPの落ち込みは、公共投資の落ち込みによる部分が大きいが、この点は、今年前半か来年度前半にはプラスに転じると考えられること、(2)個人消費の弱さもリストラによる所得の落ち込みを反映したもので、消費性向は下がっていないことなどを指摘し、マイナス成長が続くとは考えにくいと述べた。
また、何人かの委員が、統計面の限界に言及した。複数の委員は、家計調査が消費を過小評価している可能性を指摘し、GDP統計をみるうえでもこの点に留意する必要があると述べた。また、別の委員は、昨年前半の経験からみても、GDP統計はかなり均してみるべきだとコメントした。この間ひとりの委員は、昨年後半、生産面の統計が改善した一方で、GDP統計が弱めであったとみられることについて分析し、(1)昨年後半は輸出が増加したが、輸出は公共投資に比べて生産誘発効果が大きいことや、(2)昨年前半に発注された公共投資の生産面への波及効果が後半にもずれ込んだとみられること、といった要因が考えられると指摘した。ただ、この委員は、両者のギャップは、これらの要因だけでは説明しきれないので、さらに検討していく必要があると付け加えた。
さらに、多くの委員が、GDP統計と景気実感との乖離にも言及した。ひとりの委員は、現在は、政策関連需要が小休止し、民間経済活動に生まれ始めている良い流れはまだ明確にはマクロの需要統計に表れてきていないので、マクロの統計とミクロの実感にすれ違いが起こりやすい局面にあると述べた。こうしたことも踏まえて、複数の委員が、ミクロ情報や業界統計などをも含めた景気判断が重要であるとコメントした。ある委員は、そうしたレベルでの明るい動きとして、(1)道路交通量や物流業界の統計などから判断して、昨年秋口以降荷動きが活発となっていること、(2)広告費が金額ベースでも増加し始めていること、(3)経営コンサルティング会社に対する相談案件が、後ろ向きのリストラから前向きな事業展開に関するものに変わってきていること、などを紹介した。
これに対して、景気の現状について他の委員より慎重な見方をしている委員は、昨年第4四半期のGDPが、市場予想のとおり1.2%程度のマイナスになるとすると、98年第4四半期とほぼ同じレベルまで下がってしまうこととなり、統計面の問題を割り引いたとしても、景気は出発点に戻ってしまうとの評価を示した。
(2)金融面の動き
金融面では、株式市場の堅調、長期金利の低位安定、為替相場の円安方向での小康など、全体として、景気改善を支える良好な環境が維持されているとの認識が共有された。
まず、多くの委員が、為替相場が景気にマイナスに作用するリスクは一頃に比べれば後退しているとの評価を示した。また、複数の委員が、その背景にある米国経済の不透明感の後退も、世界経済にとってプラスの材料であると指摘した。
株価が2万円前後まで回復していることについては、複数の委員が、最近の経済改善の動きを反映しているとの評価を示した。ある委員は、これまでは、企業が、株価や格付けに対する配慮から多少無理をしてもリストラ計画を発表してきた面があるが、このところ、地に足のついた計画が出始めており、投資家も収益改善の実現可能性が高まっているとみているということではないかと指摘した。これに対して、ひとりの委員は、株価は、(1)銘柄全体の嵩上げができていないことや、(2)チャート分析の結果からみて、今以上には上昇しない可能性が高いと述べた。また、同時に、店頭市場などにはバブル的な動きもみられるのではないかとコメントした。なお、この委員は、米国の株価動向にも触れ、米国株価がFOMCの利上げ後過去のピークを更新していないことについて、今回の利上げ局面で4回目にして利上げが効き始めたと解釈していると発言した。
また、長期金利が低位安定している背景について、複数の委員が、株価がミクロの企業動向を反映しているのに対して、債券市場はマクロ指標中心に動いている面もあるとコメントし、また、別の委員は、実物投資の面からの民間資金需要が乏しい中にあって、金融機関の国債購入が積極化していることを指摘した。これに関連してある委員は、(1)長期金利が上昇に転じた場合には、多大な評価損の発生を通じた金融システム不安の再燃に留意する必要があること、(2)金融政策判断の重要な材料のひとつとして「悪い長期金利の上昇」の問題について依然として注意しておくべきであることを述べた。この間、ひとりの委員は、為替市場において、わが国の財政悪化懸念をひとつの材料として円安が進行したことに関連して、仮に、長期債市場において、将来の財政運営に対する懸念を背景にリスクプレミアムが生じることになれば、金融政策面で対応することは困難であり、憂慮されると述べた。
マネーサプライや貸出などの量的金融指標が弱めの動きとなっていることに関しても、何人かの委員が発言した。ある委員は、こうした指標の弱さは、資金繰り懸念の後退に伴い貨幣の予備的需要が減少していることも加味して、割り引いてみる必要があると指摘した。この委員は、こうした認識に基づき、マネーサプライのより的確な評価のため、金融システム不安に伴う予備的な需要の振れを調整したマネーサプライ指標を推計することができないかと問題提起した。また、別の委員も、こうした低迷の背景について整理し、(1)各種のアンケート調査などからみて企業金融面の緩和は浸透している、(2)にもかかわらず、こうした現象が起こっているのは、企業が、資金繰り懸念の後退やキャッシュフローの増加といった好条件の中で、一段と過剰債務の圧縮を進めていることが大きいものとみられる、(3)また、多くの企業は、設備投資をキャッシュフローを下回る水準にまで減らしてきているため、今後設備投資が多少増加する程度では借入れには結びつかない可能性がある、(4)したがって、今後も貸出やマネーの伸び悩みが続くかもしれないが、こうした動きは、景気の改善や設備投資の下げ止まりの動きと整合的でないとはいえない、と述べた。もっとも、この委員を含めた複数の委員が、GDPやマネーなどで弱い指標が出ると、海外勢を中心に、市場の日本経済への見方が弱気化する可能性があり、対外的には、十分注意深い説明が必要であろうと指摘した。
(3)景気の先行き
景気の先行きに関し、多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていないとの見解を、概ね共有した。
まず輸出に関し、何人かの委員が、10〜12月期は一時的に伸び悩んだが、世界経済の回復傾向は続いているので、今後は増加傾向に戻るとの見通しを示した。ある委員は、かねてからリスクファクターとして指摘されている米国経済の動向について、景気のスローダウン、株式市場におけるリスクプレミアムの急激な上昇といった兆候はみられず、暫く高成長が続くのではないかとの見通しを述べた。公共投資については、何人かの委員が、当面緩やかな減少が続くが、補正予算の執行により、春以降は持ち直すとの見通しを述べた。また、住宅投資について、ある委員は、住宅減税の期限延長を眺めた一時的な持ち直しはあったとしても、基調としては緩やかに減少していく可能性が高いと述べた。
設備投資の先行きについては、多くの委員が、企業収益の改善がいずれは設備投資の増加につながっていくとみられるが、そのタイミングや規模は、なお見極めにくいとの見方を示した。まず、何人かの委員は、電気機器等の分野での積極的な動きなどに注目して、IT(Information Technology)に関連する分野を中心に設備投資の増加が期待できると述べた。このうちひとりの委員は、(1)長期債務残高の対キャッシュフロー比率をみると、過剰債務の調整には業種間などで大きな格差がある、(2)したがって、財務面の負担が比較的軽く、また技術革新のテンポが速い業種や企業が主導する形で、設備投資が増加に転じると思われるし、実際そのような動きが出てきている、とコメントした。一方、別の複数の委員は、そうした成長分野のウエイトはなお大きくなく、他の分野での削減も予想されることから、マクロ的な広がりを持った回復を展望できるかどうかは、現時点では判断できないとの見方を示した。こうした議論を経て、今後発表される各種アンケート調査などから、もう少しはっきりとした来年度の設備投資計画を確認していく必要があるという点で、委員の認識は概ね一致した。
この間、設備投資の先行きに慎重な見方を示すひとりの委員は、設備投資の対名目GDP比でみると、高度成長期には14〜15%が下限であったが、旧来型産業の構造的な問題等を考えると、今後は、そうした水準が上限になるのではないかとの見方を示した。
個人消費の先行きについては、多くの委員が、リストラが続く中で、当面回復感に乏しい状況が続くとの見方を示した。ある委員は、株価の上昇によるマインド面への好影響は何がしかは期待できると述べた。しかしながら、この委員を含めて何人かの委員が、個人消費の本格的な回復には雇用・所得環境の改善が重要との認識に立って、今後の雇用・賃金情勢に注目していく必要があると述べた。このうちひとりの委員は、リストラに取り組んでいる企業が、収益が改善する中で、賃金についてどのような態度を示すのか見極めていきたいとコメントした。
物価の先行きについて、ある委員は、世界経済の回復などを背景に、原油を含めた国際商品市況の上昇傾向が一段とはっきりしてきていることや、為替相場の円安化など、物価を巡る外部環境も変化しつつあり、「デフレ懸念」を巡る判断は、春先にかけて大事なポイントになると指摘した。また、別の委員は、原油価格の動向について、OECD加盟国の在庫が減少していることなどから、3月下旬のOPEC総会で減産の継続が決定されれば、原油価格の一段上昇が予想されると指摘した。なお、この委員は、この点に関連して、米国のガソリン価格は、(1)在庫水準が低いこと、(2)精製能力の拡大が環境問題等で困難になっていることなどから、夏場にかけて1ガロン2ドル程度まで上昇する惧れがあるとの見方を示した。
一方、流通構造の変化などに伴ういわゆる「価格破壊」や技術革新による価格下落がみられる中で、物価動向についてどのように判断すべきかについても議論された。ある委員は、IT投資が伸び、生産性が向上するような局面が広範化すれば、良い意味のサプライ・ショックが続いていく可能性もあると指摘した。また、別の委員も、企業が、リストラの過程で、国際競争力コストに見合ったコストダウンを行うために、原材料調達費の一段の引き下げを要請していく動きが広がる結果、卸売物価が下落する可能性があるとコメントした。さらに、複数の委員が、わが国の流通業界にはなお合理化の余地があり、衣料品量販店などの新興勢力の参入やこうした勢力を含めた競争の激化により、消費者物価が下落することは、悪い物価下落とはいえないと述べた。この点に関連してある委員は、今回の景気回復のシナリオとの関係でみても、消費者の利便性を高める企業努力などを通じて、消費者物価がゼロ%をやや下回る水準で推移していくことは、消費数量を若干なりとも増加させ、生産など企業部門の前向きな動きを後押しする面もあるとコメントした。こうした点を踏まえ、多くの委員が、構造調整を伴う景気回復過程では、統計上の物価の下落と景気の回復が両立する可能性もあり、さらに検討を深めていく必要があるとの認識を示した。
ある委員は、以上のような点を整理して、物価の先行きについては、(1)円安や商品市況など海外からの押し上げ要因がある一方、(2)価格破壊などに伴う下落要因があるが、(3)民需についての不確実性が非常に大きい状況では需給面からのデフレ圧力は払拭できていない、と述べた。こうした議論を経て、大方の委員は、物価は、当面概ね横這いで推移していくものとみられるが、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きがみられていないため、物価に対する潜在的な低下圧力に対しては引き続き留意する必要がある、という認識を共有した。
4.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。
多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)足許の景気は持ち直しに転じている、(2)企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある、(3)金融環境も緩和感が浸透している、(4)しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(5)物価は、当面概ね横這いで推移していくとみられるが、潜在的な低下圧力には引き続き留意していく必要がある、といったものであった。
こうした認識を踏まえ、多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、との判断を共有した。この結果、当面の金融政策運営方針としては、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、大勢意見となった。
ある委員は、ゼロ金利政策を始めて1年になるが、その間物価の下落幅は小さくなっており、デフレ期待も大幅に緩和されているので、同じゼロ金利政策といっても、経済に対する刺激効果は現在の方が強まっている可能性があると指摘した。しかし、この委員を含めて多くの委員は、民需について、明るい材料が出始めているとはいえ、まだ不確実性が残っており、その自律的回復に向けた動きをもう少し時間をかけて見極めていくべきタイミングであるとの見解を示した。
この間、ひとりの委員が、いわゆる「積み上幅」について、結果として1兆円とするということを長く続けてきたが、もともとゼロ金利を実現するために必要な額を供給するという以上の意味はないのであるから、オペ未達や準備預金非適用先の当座預金増加などを踏まえれば、下に振らしてみることも検討して良いのではないか、という問題提起を行った。ただ、これに対しては、複数の委員から、(1)市場の一部になお「積み上幅」に政策的な意味合いがあるという誤解がある状況のもとでは、金利形成に何がしかの影響が出ないとも限らない、(2)「積み上幅」の公表を取り止めるのと同時にそうしたことをすると、見直しの趣旨が誤解されるのではないか、といった慎重な意見が出された。こうした議論を経て、問題提起を行った委員も、市場の一部が「積み上幅」を政策シグナルとみている限り、タイミングとしてまだ早いとの判断に至り、そうした問題意識も踏まえて、執行部において日々の金融調節を実施して欲しいと述べた。
なお、ひとりの委員は、日本銀行の資金需給に関する公表内容が丁寧すぎることが、市場関係者に一種のモラルハザードを起こしている面があるとコメントした。
さらに、インフレ・ターゲティングについても、議論が行われた。
まず、複数の委員が、これまで当委員会でも議論してきたが、多くの委員のコンセンサスは、(1)インフレ・ターゲティングに名を借りた「調整インフレ論」には反対であり、そうした政策を採るつもりはない、(2)物価安定に向けて強い決意を示し、金融政策運営の透明性を高めるために行うということであれば、技術的な困難はあるが、考え方については検討に値する、ということではないか、と述べ、他の委員も賛意を示した。
そのうえで、多くの委員の意見は、(1)後者の意味のインフレ・ターゲティングについては、これまでの政策委員会での議論を通じて様々な論点が明らかにされているので、そうした論点をもう少し掘り下げて検討してみることが必要である、(2)検討に当たっては、ターゲット・ポリシーの可否という問題に限定せず、物価の安定とは何か、物価や経済に関する見通しを公表できるかといった点を含め、幅広く「透明性の向上」のための工夫について検討していくことが重要である、という2点に集約された。
この間、ある委員は、(1)インフレによる債務負担軽減への期待が根強い中、いずれインフレ・ターゲティングが調整インフレへの足がかりになる可能性があること、(2)物価指標にバイアスが存在し、構造改革が進行する中でそのバイアス自体も変化していることなどを考えると、インフレ・ターゲティングの採用にはやや慎重な立場を採りたい、と主張した。この委員は、むしろ、経済見通しの公表によって透明性を高め、市場との建設的な対話を行っていくことが良いように思うが、その場合、1つの指標に過度に注目が集まらないように複数の見通しを公表するといったことも検討すべきである、とコメントした。これに対して、別の委員は、見通しを公表するといっても、(1)経済予測に伴う不確実性についてどう考えるか、(2)公表するにしてもどのような指標を公表するのか、など様々な問題があり、具体的なたたき台をもとに議論した方が建設的ではないか、と指摘した。
また、ある委員は、ゼロ金利政策解除の条件である「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」という表現について、総合判断というだけでなく、アカウンタビリティーの観点から、何らかの数値化が可能か、数値化できないにしても判断基準をより具体的に示すなど定性的な表現方法について考えられないか、といった点を検討すべきではないかと述べた。この委員は、そうした点を踏まえ、(1)広い意味を含むこのフレーズの中で物価に力点を置くというスタンスを明確にすること、(2)そして物価の裏にある実体経済に視点を据えて、それを構成する各項目の動きについての考え方の理解を求めること、が第1歩ではないか、と付け加えた。
これに対して、別の委員は、数値化の問題について、金融政策が波及するまでのラグを考えれば、足許の経済変数と解除の条件が直結するわけではなく、どうしても「総合判断」的な部分が残ると指摘し、この点を対外的にきちんと説明していかないとかえって誤解を受けるおそれもあるとコメントした。また、もうひとりの委員も、将来の経済についての不確実性がある以上、ゼロ金利政策の解除に限らず、政策変更の条件を、「物価上昇率あるいは成長率が何%になったら」といった形で、あらかじめ具体的な数値で示すことは不可能であり、市場がそうしたものを期待しているとしても、それにストレートに応えていくことはできないと述べた。そのうえで、この委員は、検討に当たっては、やはり金融政策の透明性向上という点に主眼を置くべきであると主張した。
また、別の複数の委員も、こうした議論は、どうしても、ターゲティングを採用するかしないか、とか、ゼロ金利政策の解除の条件は何か、といった点に注目が集まりがちであるが、透明性の向上という観点から、幅広く「物価の安定」の内容について、検討を行うことが肝要であると述べた。
こうした議論を受けて議長から、「金融政策の一段の透明性の向上」ということを課題に、日本銀行としてさらに検討を深めることとしてはどうか、との提案があり、委員の賛同を得た。また、具体的な取り進め方については、議長が検討することとなった。
この間、「ゼロ金利政策の継続」とは立場を異にする、2つの主張もみられた。
まず、ひとりの委員は、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を決定した昨年2月12日以前の状態に戻すこと──すなわち、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げること──を主張した。
その理由として、この委員は、(1)経済が、デフレ・スパイラル瀬戸際といった状況に戻るリスクは既になくなっている中、(2)ゼロ金利政策の副作用は時間の経過とともに高まってきていると述べた。また、この委員は、最近の国内出張でも、地方の経済界からは、「これからは民間の経営努力こそが必要な局面である」、「カンフル剤も長く射ち過ぎると企業の経営体質がかえって弱まる」といった声が聞かれたと紹介した。さらに、提案の位置付けについて、ゼロ金利という極めて異常な状況から脱却し、政策運営に機動性を持たせることが狙いであり、引き締め策の第1歩ということではないと述べた。そのうえで、そうした点をきちんと説明し、市場にショックを与えないようにすることが重要であると付け加えた。
別のひとりの委員は、CPI上昇率に目標値を設けた上で、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために超過準備額を増やすことを主張した。
その理由として、この委員は、(1)経済回復の量感が鈍く、GDPのレベルでみると、一昨年末頃の状況に戻ってしまったこと、(2)旧来型産業(「オールド・ジャパン」)は、過剰設備・過剰債務・過剰雇用を抱え、なお苦吟していること、(3)物価も下落懸念の方が大きいこと、(4)わが国の潜在成長率は1.5%〜2.0%と考えており、これに乗せるため、追加的な緩和が必要であること、(5)外国中央銀行が採用し、国際的な学界も支持しているインフレ・ターゲティングを採用することで、日本銀行が物価の安定に責任を負っていることをはっきりと示すべきであること、(6)数値目標を示して説明責任、結果責任を果たしていかないと一般の理解を得ることはできないこと、(7)CPI目標を示すことで、その背後にあるGDP成長率や経済のパスについても予測を示すこととなり、forward-lookingかつpreemptive(予防的)な金融政策を行うことができること、を挙げた。
5.政府からの出席者の発言
会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。
- わが国経済は、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響で緩やかな改善が続いている。しかし、民需は依然として弱い状況であり、現段階では財政面からの下支えの手を緩めることなく公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、民需中心の本格的な景気回復の実現に努めなければならないと考えている。このような認識のもと、政府は、平成11年度第2次補正予算の迅速な執行に努めるとともに、平成12年度予算を編成し、現在、国会審議をお願いしているところである。
- 平成12年度予算における公債依存度が38.4%となるなど、わが国の財政が危機的な状況であることを踏まえれば、経済が本格的な景気回復軌道に乗った段階において、財政構造改革について21世紀のわが国の経済社会のあるべき姿を展望し、根本的な視点に立って必要な措置を講じていかなければならないと考えているが、わが国経済は依然として厳しい状況を脱していないことから、政府としては引き続き景気回復に万全を期することとしている。
- このような政府の経済運営の基本的な考え方については、去る1月22日のG7においても、各国に説明したところである。
- 日本銀行におかれても、政府による諸施策の実施とあわせて、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。
経済企画庁からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。
- 政府の今年の政策目標は、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、来年度後半には民需中心の本格的な回復軌道に乗せていくということである。そのためには、現在の景気動向が極めて重要であり、昨年11月に決定した経済新生対策の実施に全力を挙げているところである。さらに、今年度予算の迅速な執行に精力的に取組んでいくとともに、来年度予算の早期成立を図ることが肝要と考えている。
- 日本銀行におかれても、経済の回復を確実なものとするために、金融為替市場の動向も注視しながら、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的な金融政策運営をお願いしたい。
6.採決
多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)足許の景気は持ち直しに転じている、(2)企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある、(3)金融環境も緩和感が浸透している、(4)しかしながら、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(5)物価は、当面概ね横這いで推移していくとみられるが、潜在的な低下圧力には引き続き留意していく必要があり、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、といったものであった。
こうした認識を踏まえ、会合では、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。
ただし、ひとりの委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別のひとりの委員からは、CPIの上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定するという量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。
この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。
篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。
採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。
中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、今積み期間(2月16日〜3月15日)の超過準備額を前積み期間対比で平残ベース5,000億円程度増額し、その後も継続的に超過準備額を増加させることにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、無担保コールレート(オーバーナイト物)が大幅に上昇する等金融市場が不安定化した場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、一層の量的拡大を図る。」との議案が提出された。
採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対7、棄権1)。
議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。
議案(議長案)
次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。
記
豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。
採決の結果
- 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
- 反対:中原委員、篠塚委員
篠塚委員は、(1)経済は持ち直しており、ゼロ金利を解除しても良い状況となっていること、(2)ゼロ金利政策が長期化すれば構造改革を阻害するおそれがあること、(3)ゼロ金利政策の長期化を前提とした市場行動が目立ってきているなど副作用が時間の経過とともに大きくなってきていることなどを挙げて、上記採決において反対した。
中原委員は、(1)ゼロ金利政策は、経済の回復促進に十分ではなかったと考えられること、(2)日銀はウエイト・アンド・シーのスタンスで臨むのではなく、財政政策とのシンクロナイゼーションを図る必要があること、(3)ゼロ金利政策は、解除か継続かのどちらかしか選択肢のない政策であり、より自由度の高い量的ターゲットにレジームを変えるべきであること、(4)「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢となるまで」というコミットメントについては、これほど長期間にわたって将来の金利水準にコミットするのはこれまで世界に例がないとみられること、といった理由を挙げて、上記採決において反対した。
7.金融経済月報「基本的見解」の検討
当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を2月15日に公表することとされた。
以上
(別添)
平成12年 2月10日
日本銀行
当面の金融政策運営について
日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。
すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。
豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。
以上