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金融政策決定会合議事要旨

(2000年 3月 8日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年4月10日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 4月13日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年3月8日(9:01〜12:30、13:20〜15:37)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省 大野功統 総括政務次官(9:01〜12:30)
    原口恒和 大臣官房総務審議官(13:20〜15:37)
  • 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:01〜15:37)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役山岡浩巳

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(2月10日)の議事要旨が全員一致で承認され、3月13日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回の会合(2月24日)で決定された金融市場調節方1にしたがって運営した。

 この間、「2月29日問題」に伴うコンピューターの誤作動懸念を背景に、オーバーナイト金利は2月28、29日に一時的に強含んだ。これは、邦銀が翌日物での調達・運用を控える一方で、問題発生を想定せずに自然体で資金繰りを行っていた外銀のうち、ユーロ市場での調達が困難化した先が、コール市場における調達レートを引き上げたことによるものである。

 こうした金利上昇圧力に対して、日本銀行は2月25日以降、積み上幅2を拡大させ、きわめて豊富な資金供給を行った。3月入り後のオーバーナイト金利は再び0.02%と安定を取り戻している。

 この間の特徴的な動きとしては、次の2点が挙げられる。

 第一に、日本銀行の資金供給オペは、コール市場等の流動性が低下する中で、レートの鎮静化に大きな効果を発揮した。すなわち、2月29日朝も、オーバーナイト金利には上昇圧力がかかったが、これに対応した日本銀行の追加オペにより市場に安心感が広がり、オーバーナイト金利は速やかに低下した。

 第二に、「2月29日問題」による金利上昇がみられたのは、先進国の中で日本だけであった。これは、ゼロ金利政策のもとで、流動性保有のコストがきわめて低くなっているため、本邦金融機関は、資金繰り面でのリスクを少しでも感じると、直ちに流動性保有を増加させようとする傾向が強くなっているためと考えられる。

 こうした状況を踏まえると、期末にかけても同様のことが生じる可能性がある。実際に、3月31日を期日とする資金供給オペが大幅な札割れとなるなど、本邦金融機関はこの時期の取引を回避する傾向が強い。3月末にかけての市場の動きを注視し、適切な調節に努めていく方針である。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」
  2. 翌営業日から積み期間の最終日まで積み続ければ所要準備をちょうど満たすことになる金額に対して、当日為決時点(通常17時、準備預金制度上の計算時点)の準備預金額がいくら上回ると見込まれるかを示す金額であり、日本銀行が朝方の調節時点で予想したもの。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対ドル相場は2月下旬まで円安方向の動きが進んだが、2月末以降は、対ユーロでの円買いの動きなどを受けて、円高が進んでいる。この間、実効ベースのドル・レートは、各国通貨に対して比較的堅調に推移している。

 ここにきてユーロ安が進んでいることの背景としては、まず、欧州の政策当局者のさまざまな発言が、ユーロ相場に対するスタンスの混乱を示していると市場に受け止められていることが挙げられる。また、(1)本邦機関投資家が決算対策として、ユーロ建債券などの海外資産を売却するのではないかとの思惑や、(2)欧州投資家による日本株買い、さらには(3)欧州企業の日本企業への資本参加の動きなども、ユーロ安に寄与している。ただし、本邦機関投資家による海外資産売却の動きは、実際にはあまり目立っておらず、一部の機関投資家の動きが過大に伝えられている模様である。

(2)海外金融経済情勢

 米国金融市場では、FRBによる先行きの利上げがかなりの程度織り込まれている模様である。この間、債券市場では、最近では10年物をピークとする逆イールド現象もみられているが、長期金利の上昇傾向が止まったとは即断し難い状況である。

 各国の株価動向をみると、NYダウの下落とNASDAQの上伸にみられるように、世界各国でIT関連企業の株に買いが集まる展開となっている。こうした企業の株価上昇テンポは、足許ではかなり急なものとなっている。

 実体経済の面では、前回会合以降、目立った変化はない。米国では、住宅投資や新車販売などが好調を維持しており、消費者コンフィデンスも引き続きピーク圏内で推移するなど、実体経済は過熱気味の展開が続いており、これまでの長期金利上昇の影響は特にはみられていない。欧州でも堅調な景気回復が続いており、物価は徐々に上昇傾向を辿っている。アジア経済も引き続き回復基調にある。中国経済も最近では底入れし、最悪期を脱したようにみられる。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降の実体経済動向を巡る特徴は、以下の2点である。

 第一に、最近公表された経済指標をみると、設備投資関連や住宅着工、雇用・消費関連など、強めの指標が目立っている。ただ、これらの一部には、統計の一時的な振れが影響している可能性もある。

 第二に、消費者物価が、このところやや弱めの動きとなっている。これは、昨年夏以降の円高の影響が、衣料品など輸入競合品の値下げなどを通じて、ラグを伴って表れたことが主因とみられる。

 最終需要をみると、公共投資は緩やかに減少している。住宅投資をみると、1月の住宅着工は増加したが、これは、住宅金融公庫の昨年第2回、第3回の融資申し込み分の着工が集中したことが主因とみられ、基調としては緩やかに減少している。個人消費は、年明け後は幾分持ち直すなど、一進一退の動きを続けている。設備投資は概ね下げ止まったものとみられる。純輸出は増加基調を続けている。

 こうした需要動向のもとで、生産は昨夏以降増加を続けており、企業収益の改善も明確化するなど、企業部門での前向きの所得形成メカニズムは着実に働いている。ただ、これまでのところ、企業の積極的な設備投資スタンスが誘発されるまでには至っていない。また、雇用情勢の悪化には歯止めがかかりつつあるが、企業は人件費を抑制するスタンスを維持しており、家計の所得環境は引き続き厳しい。

 以上のように、景気は、このところ、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。

 国内卸売物価は、ほぼ横這いの推移が続いている。消費者物価は、幾分弱含んでいる。

 先行きについては、公共事業は、補正予算の執行を受け、春以降は持ち直すと見込まれる。純輸出も増勢を維持するとみられる。

 設備投資は、企業収益の回復が続いていることに加え、先行指標の動きなどからみても、増加に転じる可能性が高くなっている。ただ、現時点では、投資の実施主体や内容が情報通信関連に偏っている感は否めず、その裾野の広がりや持続性について、今後の各種アンケート調査などを踏まえて確認していく必要がある。個人消費は、夏季賞与の動向がはっきりしてくるまでの間は、一進一退で推移する可能性が高い。

 国内卸売物価は、当面、横這いないし若干の強含みで推移する可能性が高い。これは、電気機器等の趨勢的な価格低下が続く一方で、国内需給バランスの改善や、原油など国際商品市況の上昇の影響が予想されるためである。消費者物価は、輸入品価格の低下がしばらく続くことからみて、弱含みで推移するとみられる。このように、各種物価指数の動きは、対象となる財・サービスの違いを反映して微妙に異なるものの、全体としてみれば、当面は概ね横這いで推移すると予想される。

 当面、国内需給バランスが大きく崩れるリスクは小さい。また、その間に設備投資が増加に転じる可能性も徐々に高まってきている。しかし、現時点では、外生需要から民間需要へのバトンタッチがスムーズに進むかどうか、なお不確定な要素が多い。したがって、来年度下期以降、外生需要が減少に転じた場合に、物価が再び軟化するリスクには、引き続き留意しておく必要がある。

(2)金融情勢

 前回会合以降、金融市場は落ち着いた推移を辿っており、市場金利や株価は総じて小動きとなっている。

 オーバーナイト金利は、「2月29日問題」を背景に一時的に強含んだ局面を除けば、0.02%と実質ゼロで推移している。ターム物金利も、きわめて低い水準で安定的に推移している。

 長期国債流通利回りは、2月末以降は為替円高などを背景に若干軟化し、最近では1.7%台となっている。このように、良好な経済指標が目立つ中で長期金利の低位安定が続いている背景を探ると、(1)市場ではマクロ経済の先行きに関し、依然として慎重な見方が強いこと、(2)このため、ゼロ金利政策も早々には解除されまいとの見方が根強いこと、(3)民間資金需要が引き続き低迷し、有利な運用先が見出せないために、国債の購入ニーズが堅調であること、などが挙げられる。

 この間、株価は、一部IT関連企業等の成長性が高く評価されていること等から、比較的堅調に推移している。

 金融の量的側面をみると、銀行は、基本的には慎重な融資スタンスを維持している。ただ、経営健全化計画に示された貸出計画への対応もあって、大手行を中心に、融資先の信用力などを見極めつつ、貸出を増加させようとする姿勢を強めている。

 しかし、実体経済活動に伴う資金需要が低迷を続けているほか、企業は引き続き借入金の圧縮に注力している。このため、民間の資金需要は低迷しており、各行とも新規案件の掘り起こしには苦戦しているようである。このため、銀行貸出やマネーサプライも弱含みで推移している。こうした中で各行は、大企業の関連企業である中小企業などへの貸出姿勢を一段と積極化させており、企業金融は、引き続き緩和基調を続けている。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状については、大方の委員が、年明け後の経済指標をみると、設備投資、販売、雇用・所得関連などを中心に良好なものが目立ったことを指摘した。

 これを踏まえて、多くの委員は、景気は、(1)外需や公共需要の増加を受けた生産の増加、(2)これを受けた企業収益の増加、(3)その支出行動へのプラスの影響、といった、ほぼ想定されたとおりの改善のパスを辿っている、との見方を示した。

 このうち一人の委員は、最近の指標を素直にみれば、設備投資など民間需要の自律的回復の動きがすでに確認されていると解釈すべきではないか、との見方を述べた。

 これに対し、多くの委員は、(1)最近の指標には、統計の一時的な振れが影響しているとみられるものもあり、また、(2)バランスシート問題や構造調整圧力を踏まえれば、経済の改善の持続性や裾野の広がりについては、従来の景気回復局面よりも慎重にみていく必要がある、との見解を示した。そのうえで、現時点では、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きを確認できるまでには至っていない、との見方をとった。

 こうした議論を経て、多くの委員の認識は、「景気は、このところ、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」という評価に、概ね集約された。

 なお、複数の委員より、昨年10〜12月のGDP速報は2四半期連続の前期比マイナスになるとの予想が広がっているが、(1)年明け後の各指標の改善、(2)生産の増加傾向の持続、(3)企業収益の回復明確化、などを踏まえると、仮にそうした計数が公表されたとしても、景気は改善を続けているとの判断を変更する必要はない、といった見方が示された。

 このうち一人の委員は、GDP速報は、最近の個人消費のリード役である単身者世帯の消費を捉えていないなど、経済実体を十分に反映していない可能性があるのではないか、とコメントした。

 個々の需要項目に関しては、まず住宅投資について、1月の住宅着工がかなりの増加となったことについて、何人かの委員が言及した。

 複数の委員は、1月の動きは単月の振れである可能性が高いとの見方を示し、その根拠として、(1)1月はもともと着工のレベルが低い中で、(2)昨年中の第2回、第3回の住宅金融公庫融資申し込み分の着工が集中したことや、(3)住宅ローン減税の延長措置が影響していること、を説明した。また、ある委員も、上記第2回、第3回申し込み件数を足し合わせると前年比で減少していることを指摘するなど、住宅投資は基調としては緩やかに減少しているとの見方が多く示された。

 輸出について、多くの委員は、(1)海外経済が堅調を続けていること、(2)年明け後の統計では純輸出は再び増加しており、昨年末にかけての純輸出の伸び悩みは、Y2K問題などによる一時的な振れとみられること、(3)通関統計の年間補正により、昨年末の輸出も上方修正されたことなどを指摘し、輸出は増勢を維持しているとの見方を共有した。

 個人消費について、多くの委員は、百貨店販売や新車登録台数など、多くの販売指標が年明け後持ち直していることを指摘した。そのうえで、現段階で個人消費が明確に回復に転じているとまでは言えないが、昨年末にかけての消費の停滞が、「一進一退」の中での一時的な振れであったことは確認できた、との見解を示した。

 この間、ある委員は、1月の消費水準指数の増加には、教育費の増加という特殊要因が寄与している、と指摘したうえで、1〜3月の消費は横這いか減少となる見込みであり、消費は依然として不振である、と主張し、他の委員よりも慎重な見方を示した。

 次に、多くの委員は、生産が年明け後も増加傾向を維持しており、この中で、需給バランスの改善やリストラ効果も相まって、企業収益の改善が一段と明確になっていることを指摘し、景気回復にとって重要な前提がより確かなものになりつつある、といった見方を示した。

 一人の委員は、企業収益の回復は、現段階では、リストラ効果や、ゼロ金利政策のもとでの金利負担の低下に支えられている面が大きく、収益基盤はなお脆弱ではないか、と述べた。

 これに対し、別の複数の委員は、日本経済新聞社の調査によれば、今年度は減収増益、来年度は増収増益の見通しであることを紹介し、来年度はリストラ効果だけでなく売り上げ増加も収益に寄与していくのではないか、との見方を述べた。

 設備投資について、多くの委員は、企業収益の回復など、投資を巡る環境が改善する中で、1月の資本財出荷や建築着工床面積がかなりの伸びを示すなど、指標面でも明るい動きが目立っていることを指摘し、設備投資は「概ね下げ止まった」との見方を共有した。

 最近の物価動向について、多くの委員は、国内卸売物価の前年比マイナス幅が急速に縮小している一方で、消費者物価は若干弱含んでおり、やや区々の動きとなっていることを指摘した。

 一人の委員は、国内卸売物価の内訳をみると、最近では、技術革新の影響から機械類が低下を続けているだけで、その他の品目の下落はほぼ止まっており、需要の弱さによる物価の下落傾向は、卸売物価の段階では終わりつつある、と述べた。

 別の一人の委員は、卸売物価の動きを産業界の視点からみると、(1)新製品の投入や新技術による実質的な価格低下や、リストラによる原材料価格の引き下げ要請は続いているが、一方で、(2)需給悪化による素材市況の下落は止まり、値上げ環境も整ってきている、という状況を反映している、と指摘した。

 消費者物価の弱含みについて、多くの委員は、昨年夏以降の円高の影響が、輸入競合品の値下げなどを通じて、タイムラグを伴って表れていることが主因であろう、と述べた。さらに、流通効率化に伴う「価格破壊」の動きの強まりや、消費者物価のサンプル替えなどに伴う統計の振れの可能性も指摘した。そのうえで、これらはデフレ的な現象とは性格が異なる、とも述べた。

 一人の委員は、物価を左右する要因として、(1)技術革新や流通革新、(2)国内需給、(3)為替レート、(4)原油など国際商品市況、の4つを挙げた。そのうえで、卸売物価については、(2)、(3)による下押し圧力は弱まる一方で、(4)が物価を押し上げる方向に働いている、と整理した。一方、消費者物価が弱含んでいる原因として、(3)の要因が卸売物価よりもやや長めのタイムラグを持って表れていることや、(4)による押し上げ効果が卸売物価に比べ相対的に小さいこと、などを指摘した。

 この間、別の一人の委員は、消費者物価には、非貿易財を中心に内外価格差が残っているものが多いため、この面からの価格低下圧力が強めにかかり続けている、との見方を述べた。

(2)金融面の動き

 何人かの委員は、良好な経済指標が目立っている中で、長期金利が低位で安定していることに言及した。

 一人の委員は、(1)ゼロ金利政策の長期化予想が影響している可能性や、(2)ゼロ金利政策による過剰な流動性の供給が、市場参加者をIT関連株や債券への投資に向かわせている可能性を指摘し、ゼロ金利政策は相場の歪みを蓄積しているのではないか、との懸念を示した。

 これに対し、別のある委員は、ゼロ金利政策が流動性懸念の払拭を政策の一つの狙いとしている以上、そうした面が多少出てくることは、政策効果の一要素として受け止めていかざるを得ない、との見解を述べた。

 さらに別の何人かの委員は、現在の長期金利の動きが持続的なものかどうか、注意深くみていく必要があること、また、中央銀行として市場との対話に心がけていくことの重要性を強調した。

 この間、円相場・株価に関して、ある委員は、(1)円相場は、チャート分析すると、大局的には依然として円高局面の中にある、(2)日経平均が堅調であるのは、中期的な波動のなかで、上昇相場の延長が続いているものと理解される、(3)この間、米国株価では、株式投信への流入額が1月には既往最高となったうえ、NASDAQの時価の50%が上位14銘柄で占められていること等から考えると、すでに天井圏相場となっており、先行きかなりの調整が生じる可能性が高い、と発言した。

 金融の量的側面について、ある委員は、多くの企業がキャッシュフロー以下の水準まで設備投資を抑えているうえ、企業収益も回復しているため、今後設備投資が増えるとしても、資金需要は出にくい状況が続く、との見方を示した。さらに、金融不安が鎮静化し、流動性に対する予備的需要も減少しているため、貸出やマネーの残高は今後も伸び悩む可能性が高い、と述べた。ただ、現在の状況の下では、こうした量的金融指標の動きは設備投資の回復と矛盾するものではなく、金融環境は前向きの投資を十分にサポートするものとなっている、と指摘した。

(3)景気の先行き

 景気の先行きに関し、多くの委員は、実体経済からの内生的なダウンサイド・リスクは後退しており、今後、民需の回復が次第にはっきりしていく可能性が徐々に増している、といった見解を示した。

 このうち一人の委員は、すでに「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至っている、と述べた。その理由として、この委員は、(1)生産は、予測指数やミクロ情報等からみて1〜3月、4〜6月とも増加するとみられること、(2)広告取扱量が大きく増加するなど、サービス産業等にも前向きの動きがみられ始めていること、(3)労働省の「労働経済動向調査」では、建設業を除く広範な業種で、雇用過剰感の縮小や不足感の拡大がみられること、などを挙げた。このため、企業収益の増加は、すでに雇用・所得面にも前向きの影響を及ぼし始めている、と述べた。

 しかし、多くの委員は、現時点では民間需要の自律的回復が確認されたわけではなく、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったとまではいえない、との見方をとった。

 まず公共投資に関し、何人かの委員は、公共工事の請負金額は補正予算の執行に伴って増加に転じており、今後は進捗ベースでも増加していく、との見方を述べた。ただし、一人の委員は、地方財政事情の悪化を、先行きのダウンサイド・リスクとして指摘した。

 輸出については、多くの委員は、世界経済の回復傾向が続いていることなどから、今後も増勢を維持していく、との見方を共有した。

 こうした議論を踏まえ、多くの委員は、外生需要は当面、景気の下支えを続けていく、との見解を示した。このうち一人の委員は、先行き半年程度の展望では、景気が需給面から崩れるリスクはかなり後退している、と述べた。

 個人消費の先行きについて、多くの委員は、(1)1月の有効求人倍率や所定内給与など、雇用・所得関連の指標が改善していること、(2)消費者コンフィデンスも改善を続けていること、(3)年明け後の販売指標が持ち直していること、といったプラス材料を指摘した。

 一人の委員は、最近のゲーム機の販売形態においてインターネット直販が大きなシェアを占めていることを例にとって、個人消費の動向については、既存の販売統計などから把握することはますます難しくなっており、今後は、家計所得の動きを合わせて点検していくことが重要になっている、との見解を述べた。

 そのうえで、多くの委員は、先行きの個人消費について、所得面からのダウンサイド・リスクは徐々に後退しているものの、なお慎重に見極める必要がある、との見解を示した。

 複数の委員は、今後、個人消費が明確に増加していくとすれば、企業収益の増加を受けて今夏の賞与が増加するルートが考えられる、と述べた。ただ、企業が人件費を抑制するスタンスを続けているもとでは、企業収益の改善が家計所得にどの程度プラスに作用していくかは見通し難く、今春の雇用情勢や今夏賞与の動向をよくみていく必要がある、との見解を示した。さらに、別の複数の委員は、財政赤字の拡大や企業年金の財政悪化の中で、家計が将来に対する不安を抱いていることを、先行きのリスク要因として指摘した。

 この間、一人の委員は、経済全体がせいぜい1%前後の成長といった中で、個人消費が顕著に増加することは望みにくく、また、可処分所得が減少する中で身の丈に合わせた消費を行っている結果として、消費性向がまずまずの水準を維持していることも踏まえれば、現在の消費動向を「平時」と捉えるべきではないか、とコメントした。

 なお、ある委員は、99年11月以降、建設業の就業者が急減しているほか、大卒の就職未定者も増えてきていることから、いずれ失業率は上昇してくることが見込まれる、と述べ、雇用情勢に関し、他の委員よりも慎重な見方を示した。さらに、特別信用保証制度利用先の倒産が増加していることも指摘した。

 これに対して、別の一人の委員は、ここ数年、従来型産業の就業者数が減少する一方で、医療・福祉サービスや情報・財務・法務など企業向けサービス部門の就業者が増加していることを指摘し、中期的に日本の失業率が上昇してきた背景には、労働市場の流動化という構造変化要因も影響している、との見解を示した。そのうえで、こうした流動化の進展自体は、構造調整という観点からは前向きの動きと捉えることもできる、と述べた。

 設備投資の先行きについて、多くの委員は、企業収益の回復など、投資環境が改善しつつある中で、各種の先行指標が増加していることを指摘し、先行き、設備投資が回復に転じる可能性は高まっている、との見方を示した。

 ただ、これらの委員を含めた多くの委員は、企業のバランスシート調整の動きや構造問題なども踏まえると、設備投資の回復の展望がすでに明確になったとは言えない、との見解を示した。

 そのうえで、これらの委員は、現在みられている前向きの動きが、先行き、どの程度の持続性や広がりを持っていくのか、今後公表される各種の設備投資アンケート調査の結果なども踏まえて、見極めていく必要がある、と述べた。

 このうち一人の委員は、設備投資に持続性や広がりが伴っていく過程において、留意すべきポイントとして、(1)今後、倒産件数の増加が予想されるが、これがどの程度に止まるか、(2)企業のリストラの中には、これから表面化するものもあると考えられるが、これが経済全体にショックを及ぼすことがないか、(3)今後、良好な経済指標が続いた場合、金融市場がどのように反応するか、といった点を挙げた。

 この間、実体経済や株価などにみられる「二極化」の動きについて、何人かの委員が発言した。

 ある委員は、二極化の事例として、(1)家計セクターが不調である一方で、生産、機械受注等にみられるように企業セクターは改善していること、(2)比較的好調な生産の内訳をみると、生産財が順伸している一方、最終需要財はなお98年頃の水準にあること、を挙げた。

 別の何人かの委員は、日本経済の本格回復にとって構造改革が不可欠である以上、「全ての産業分野が上向く」といった形での回復は望みにくい、と述べた。このうち一人の委員は、今後、IT分野などの成長セクターが、どの程度経済全体を引っ張っていく力を持っていくのかが一つの注目点となる、と述べた。

 また、複数の委員は、二極化のもとでは「良い分野」と「悪い分野」が出てくるが、マクロ政策の観点からは、どちらか一方に焦点を当てて偏った判断をすることなく、経済全体の姿を慎重に把握することが重要だ、と述べた。さらに、別の一人の委員は、二極化現象のもとでは、経済全体やその平均値についての判断に対し、両方から違和感を持つ企業・産業が出てくる可能性があるとコメントした。

 この間、一人の委員は、先行きのリスク要因として、原油価格の上昇を挙げた。この委員は、今後OPECが多少の増産に踏み切ったとしても、米国のガソリン需給がタイトであることに引っ張られ、原油価格は今年中は高止まりする可能性が高い、との予想を述べた。

 次に、物価の先行きと、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」の判断について、議論が行われた。

 多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」の内容について、需給要因、つまり需要の弱さに起因する物価低下圧力に注目すべきであり、こうした観点から、物価指数の動きの背後にある需給バランスや民間需要の動向をみていくことが大切だ、と述べた。

 複数の委員は、「デフレ懸念払拭」の判断に際し、設備投資など民間需要の回復力に焦点を当てるという日本銀行の考え方は、市場などにも理解されつつあるのではないか、と述べた。

 こうした考え方に立って、多くの委員は、物価は当面、概ね横這いで推移するとみられるが、民間需要の回復力を十分に確認できているとはいえず、先行き、外生需要が減少した場合に物価に下方圧力がかかる可能性には、なお注意しておく必要がある、との見解を示した。こうした議論を経て、多くの委員は、前向きの材料が増えつつあるものの、現段階では「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には至っていないとの見方を共有した。

 このうち一人の委員は、(1)原油価格や商品市況の上昇などを受けて、卸売物価は今後前年比プラスとなることも予想されることや、(2)民間需要に明るい兆しもみられていることを踏まえると、「デフレ懸念の払拭」を巡る判断は、今後一段と難しい局面を迎える可能性がある、と述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)景気は、このところ、持ち直しに転じている、(2)企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている、(3)金融環境も緩和感が浸透している、(4)もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(5)物価は当面、概ね横這いで推移していくとみられるが、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力に対しては、引き続き留意する必要がある、といったものであった。

 こうした認識を踏まえ、多くの委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」にはなお至っていない、との判断を共有した。この結果、当面の金融政策運営方針としては、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

 この間、前回(2月24日)および前々回(同10日)の金融政策決定会合に引き続き、金融政策の目標である「物価の安定」をどう考えるべきか、について、さまざまな観点から意見が出された。

 まず、技術革新や流通効率化による物価下落圧力について、何人かの委員が発言した。

 複数の委員は、技術革新や流通革命がもたらす物価の下落は、経済厚生の向上につながる「良い物価下落」であり、デフレ的とは言えない、と述べた。そのうえで、何人かの委員は、こうした構造的な物価低下圧力が働き続けている中で、健全な経済の状態と整合的なインフレ率がはたしてどの程度なのかといった判断は、以前にも増して難しくなっている、とコメントした。

 このうち一人の委員は、構造的な物価低下圧力のマグニチュードについて、分析・検討を進めていく必要がある、と述べた。

 また、ある委員からは、物価と需給ギャップとの関係について言及があった。

 この委員は、推計される需給ギャップが依然として大きいにもかかわらず、卸売物価のマイナス幅は急速に縮小しており、両者の関係は明らかに不安定化している、と述べた。さらに、その原因として、急速な技術進歩の下で、「会計上は減耗していないが現実には陳腐化して使えない」資本ストックが増えている結果、ギャップが過大推計されているのではないか、との意見を述べ、需給ギャップと物価との関係についても再検討を行っていく必要性を指摘した。

 さらに、複数の委員は、中央銀行として望ましいと考える中長期的なインフレ率をどの程度とみるのか、また、供給面からの物価変動圧力にどう対処すべきかといった点について、できるだけコンセンサスを形成していくことが望ましい、との見解を述べた。

 これに関連して、別の一人の委員は、中長期的に目指すべきインフレ率として、学界等には大別して、「ゼロ近辺」という見解と「ゼロより若干高め」との見解がある、と述べた。そのうえで、後者の主張は、(1)物価指数のバイアスへの考慮、(2)名目金利のゼロ制約を回避するための「のりしろ」の確保、(3)賃金や物価の下方硬直性、などを理由に挙げており、それぞれの主張についてよく検討していく必要がある、と述べた。なお、その委員は、3番目の点について、日本の場合は、諸外国に比べて賃金や物価の下方硬直性が強くない、つまり、賃金や物価には下がりやすい面があることに留意する必要がある、との見方を付け加えた。

 また、ほかの一人の委員は、日本経済はバブル期に非常に高い成長を続け、資産価格などに大きな歪みを生じた後、消費者物価上昇率はようやく3%程度に達したことを指摘した。そのうえで、こうした経験を踏まえると、日本の場合、健全な経済の状態と整合的な、中長期的に望ましいインフレ率は、欧米よりも低めである可能性が高く、欧米の例を日本に安易に当てはめるといったことは危険である、と述べた。

 また、物価見通しなどの公表に伴う問題についても、何人かの委員が言及した。

 ある委員は、すでに政策金利はゼロに行き着き、流動性も市場に行き渡っているもとで、物価に「目標」を設定することについては、現在、それを実現するためのオーソドックスな政策手段をほぼ使い尽くしていることから、結果的に政策のクレディビリティを損なう危険性が高く、適当でない、との見解を示した。

 その一方で、この委員は、何らかの数値を「見通し」として示すことは検討に値するのではないか、とも述べた。さらにこの委員は、国民経済の健全な発展という観点からはインフレが最も問題であることから、「『インフレ』ターゲット」、「『インフレ』見通し」といった用語自体が適当とは思われない、として、その場合には「物価見通し」とすることが適切である、と述べた。そのうえで、中長期的に望ましい物価変化率については、ゼロを基本に考えていくべきではないか、と述べた。

 これに対し、別の一人の委員は、過去20年間、各種調査機関のインフレ率の見通しと実績は、平均して1%程度乖離しており、物価見通しに誤差が伴うことは避けられない、と述べた。そのうえでこの委員は、最近の技術革新などの動きは、こうした誤差を一段と大きくする方向で作用しているため、中央銀行が物価の「見通し」を積極的に公表していくことについては、慎重に考えるべきである、との見解を示した。

 こうした議論を踏まえ、何人かの委員は、「物価の安定」とは何かという問題について、中長期的視点から、日本銀行として総括的な検討を行っていくべきである、と主張した。

 これらの発言を受け、議長は、次のような見解を示した。

 前々回(2月10日)の金融政策決定会合において、金融政策運営の透明性向上という幅広い観点から、「物価の安定」の考え方について検討を深めることにつき、委員から賛同を得た。新日銀法が施行されてから約2年を経過し、「物価の安定」という中央銀行にとっての基本的な問題を総合的に検討する良い機会でもある。そこで、今後、この問題については、以下のような方法で検討を深めていってはどうか。

  1. (1)「物価の安定」の考え方について、すでに決定会合で出されている様々な論点を踏まえ、まず執行部で検討を行う。その際の具体的な検討課題としては、
    1. (a)「物価の安定」の基本的な考え方
    2. (b)物価指数を巡る諸問題
    3. (c)日本の物価動向
    4. (d)「物価の安定」に関する数値化(目標、見通し等)を巡る諸問題、
    などが考えられる。
  2. (2)政策委員会では、執行部の報告も踏まえて検討を深め、最終的には、日本銀行として「物価の安定」の考え方に関する総括的な取りまとめを行う。
  3. (3)この過程で執行部が作成した資料で公表可能なものは、適宜、個別に公表していくことも考えられる。
  4. (4)一応の取りまとめの目処は、とりあえず、夏頃までとする。

 さらに議長は、以上の方針につき、2日後(3月10日)の総裁記者会見で言及してはどうか、と述べた。

 こうした議長の方針に対し、何人かの委員が、若干の留意点を指摘した。まず、複数の委員は、こうした検討を開始することが、例えばゼロ金利政策解除時期などとの関係で無用の憶測を招かないよう、あくまで中長期的な課題であることを丁寧に説明する必要があると指摘した。また、別の一人の委員は、「物価の安定」はきわめて奥深い問題であり、こうした検討を行っても、それで「全てがわかった」ということにはならないことには留意する必要がある、と述べた。さらにもう一人のほかの委員は、検討の進め方には論点に応じていろいろな方法があり得るので、適宜フレキシブルに考えていくのがよいだろう、と述べた。

 ただ、これらの委員を含めた全ての委員が、議長の方針に賛意を示した。これを受けて議長は、この方針に沿って検討を進めるよう、執行部に指示した。

 以上の議論とは別に、一人の委員が、新日銀法施行後2年間の経験を踏まえ、この際、金融政策決定会合の運営方法──例えば議事要旨等の公表スケジュールや開催の頻度など──についても、透明性の一段の向上という観点からあらためて検討してはどうか、と提言した。別の一人の委員も、総括的な見直しを行うべきであり、それは大変有益である、と述べた。これを受け、全ての委員が、この提案に対しても賛意を示した。

 こうしたやり取りを踏まえて、議長は、この問題についても論点を整理するよう、執行部に指示した。

 この間、「ゼロ金利政策の維持」とは立場を異にする、2つの主張もみられた。

 まず、一人の委員は、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を決定した昨年2月12日以前の状態に戻すこと──すなわち、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げること──を主張した。

 その理由として、この委員は、(1)最近の経済指標などからみて、実体経済は、デフレ・スパイラル入りのリスクもあったゼロ金利政策導入時の状況から明らかに改善し、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」になっていると判断されること、(2)ゼロ金利政策の長期化は、民間部門が資本の生産性を高めようとするインセンティブを弱め、今後の日本経済の発展にとって必要不可欠な構造改革を遅延させるおそれがあること、(3)ゼロ金利政策の長期化は、経済主体のリスク感覚を弛緩させ、過度のリスクテイクを助長しかねないこと、を挙げた。

 別の一人の委員は、CPI上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

 その理由としてこの委員は、(1)昨年10〜12月GDPのマイナス予想が強いが、これは一過性のものではなく日本経済の実力を示すものであり、できるだけ早く潜在成長率と考えられる1.5〜2.0%程度まで景気を加速するため、量的緩和に踏み切るべきであること、(2)なるべく円高に振れないよう、pre-emptiveに量的緩和を図るべきであること、(3)日本銀行の主たる責任が物価の安定である以上、「自己査定」のためにも物価目標を具体的数値で示すべきであること、(4)日本銀行の「コーポレート・ガバナンス」が外部から見にくく、こちらから早くアクションを採らないと、外部から目標を与えられるおそれがあること、を主張した。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • 最近の経済動向をみると、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加え、企業行動に前向きの動きもみられ、緩やかな改善が続いている。しかしながら、個人消費や設備投資といった、自律的回復の鍵を握る民需の動向は依然として弱い状況であり、現時点では財政面からの下支えの手を緩めることなく、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、民需中心の本格的な景気回復の実現に努めなければならないと考えている。
  • こうした認識の下、政府は昨年11月に決定した経済新生対策に盛り込まれた諸施策を着実に実施すべく、平成11年度第二次補正予算の迅速な執行に努めるとともに、経済運営に万全を期すとの観点から平成12年度予算を編成した。この予算は2月29日に衆議院を通過し、現在参議院で審議中である。
    平成12年度予算における公債依存度が38.4%となるなど、わが国財政が危機的な状況にあることを踏まえれば、経済が本格的な回復軌道に乗った段階において、財政構造改革について21世紀のわが国の経済・社会のあるべき姿を展望し、根本的な視点に立って必要な措置を講じていかなければならないと考えているが、経済が厳しい状況を脱していないことから、政府としては引き続き景気回復に万全を期すこととしている。
  • 日本銀行におかれても、政府による諸施策の実施とあわせて、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

 経済企画庁からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 経済動向は、大蔵省からの出席者が発言したとおりである。
  • 昨年10〜12月期の動向を所得・供給・需要の各面からみると、供給(生産)や企業所得(収益)は拡大している一方で、需要面の指標には減少したものが多かった。これは、冬季賞与の減少やコンピューター2000年問題の影響、さらには、公共投資の端境期による減少といった一時的な要因が大きいとみている。
    本年入り後は、供給や所得の拡大が続いていることに加え、需要面でも、消費の増加や1月住宅着工の増加、公共工事着工件数の回復等がみられており、わが国の経済は、概ね政府が経済見通しで描いていたような回復過程を辿っていると考えている。こうした中で、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、景気を回復軌道に乗せていくとともに、構造改革を強力に進めるため、経済新生対策をはじめとする政策の推進に全力を尽くしているところである。
  • 日本銀行におかれては、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で、かつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気は、このところ、持ち直しに転じている、(2)企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている、(3)金融環境も緩和感が浸透している、(4)もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない、(5)物価は当面、概ね横這いで推移していくとみられるが、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力に対しては、引き続き留意する必要がある、といったものであった。

 こうした認識を踏まえ、会合では、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、一人の委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別の一人の委員からは、CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定するという量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

中原委員は、(1)昨年10〜12月のGDPがマイナスとなると、マインドが後退するおそれがあるため、現在の政策のような受動的な現状維持的スタンスは採るべきではなく、より積極的なものに変更すべきであること、(2)財政・金融政策を総合調整する指令塔が不在である中、金融政策は財政政策の効果が残っているうちにこれとシンクロナイズさせることが必要であり、一段の量的緩和を図るべきであること、(3)現在の政策は、そのもとで採り得る選択肢が継続か解除しかありえない不連続な政策であり、段階的な緩和ができないこと、という理由を挙げて、上記採決において反対した。

篠塚委員は、(1)最近の経済指標等から判断しても、経済情勢は着実に改善しており、ゼロ金利政策を解除できる状況となっていると判断されること、(2)ゼロ金利政策が長びくほど、経済の本格回復に不可欠な構造改革の動き自体を阻害するおそれがあること、(3)ゼロ金利政策の長期化を前提とした市場行動が目立ってきているなど、副作用が時間の経過とともに大きくなっていること、を理由として、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を3月10日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成12年 3月 8日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上