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金融政策決定会合議事要旨

(2000年 3月24日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年4月27日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 5月 2日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年3月24日(9:00〜13:13)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省 林 芳正 政務次官(10:45〜13:13)
    原口 恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜10:45)
  • 経済企画庁 小峰 隆夫 調査局長(9:00〜13:13)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 企画室企画第2課長田中洋樹(9:00〜9:35)
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役山岡浩巳

1.前々回会合の議事要旨の承認

前々回会合(2月24日)の議事要旨が全員一致で承認され、3月29日に公表することとされた。

2.「当座預金取引の相手方である証券会社および証券金融会社が発行するCPの買入対象としての取扱」に関する決定

1.執行部からの提案内容

昨年9月21日の金融政策決定会合において、従来日本銀行が適格担保・オペ対象としてきた「当座預金取引の相手方である証券会社および証券金融会社が発行するコマーシャル・ペーパー(CP)」について、適格担保・オペ対象としない扱いとすることを決定した。ただし、当時のCPオペにおける買入状況等を踏まえ、2000年3月末までに買い入れたものについては、引き続き適格とする経過措置を設けていたところである。

今般、この経過期間が満了することに伴い、所要の手続きを整備する必要がある。具体的には、前述のCPについて、買入日が4月3日以降となるCPオペから、買入対象としない扱いとしたい。

2.委員による検討・採決

以上の執行部提案について採決を行った結果、全員一致で決定、即日公表されることとなった。

3.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節については、前回会合(3月8日)で決定された金融市場調節方針1に沿って運営し、オーバーナイト金利は概ね0.02%での推移を続けた。

前回会合以降の特徴的な動きとしては、以下の2点が挙げられる。

まず、3月16日以降、日本銀行は、いわゆる「積み上幅」の公表を取り止めた。その後しばらくの間、市場では「積み上幅」を独自に計算し、これが従来同様1兆円となっているかどうかに注目する向きが多かった。しかし最近では、「積み上幅に注目してもあまり意味がない」といった認識が、徐々に広がりつつあるように窺われる。

次に、期末越えのターム物金利が上昇しており、これにつれて、オーバーナイト金利にも上昇圧力がかかりやすい状況となっている。こうしたもとで日本銀行は、年度末越えの資金を積極的に供給するなど、市場の安定に努めている。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

円の対ドル相場は、3月半ばにかけて、日本の景気回復期待の高まりなどを受けて、一時104円台まで上昇した。もっとも、その後は、米国の良好な経済指標の公表や、これに伴う米国株価の持ち直しなどを受けて円安気味の展開となり、最近では107円台と、前回会合時とほぼ同様の水準で推移している。

(2)海外金融経済情勢

前回会合以降、ECB(欧州中央銀行)が3月16日に、米国FRBが同21日に、それぞれ政策金利の引き上げを行った。これらの措置は、概ね市場の予想通りであった。市場では、米国の政策金利であるFFレートは2000年中に6.5%程度まで引き上げられるとの見方が多い。

米国では、2月の消費者物価や生産者物価が比較的落ち着いた動きとなったことなどを受けて、長期金利は緩やかに軟化している。株価をみると、NYダウは反発し、NASDAQ指数も振れを伴いつつ既往最高値圏内で推移している。この間、株価指数の中で最もカバレッジの大きい「ウィルシャー5000指数」は既往ピークを更新するなど、株価は総じて堅調に推移している。実体経済をみると、個人消費や設備投資の高い伸びを背景に、生産は引き続き増加傾向にあり、経済にスローダウンの兆候はみられない。

ユーロエリアでも、輸出の好調に加え、個人消費など内需も増加基調を辿っており、景気は拡大傾向にある。こうした中で、2月の消費者物価(HICP総合ベース)前年比は、ECBが「物価安定」の目処としているレンジの上限(+2.0%)まで上昇している。

東アジアでも、景気回復の動きが続いている。各国とも総じて、99年第3四半期に比べ、第4四半期の成長率は一段と加速しており、タイとインドネシア以外の国々では、経済活動の水準が97年の危機以前のレベルを既に超えたか、もしくは本年中に超える情勢にある。こうした中で、香港とインドネシアを除く国々では、輸出に加え内需も改善しつつあり、特に韓国ではそうした傾向が目立っている。この間、中国でも、最近では内需が持ち直しつつあり、景気は底入れしたように窺われる。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

前回会合以降に公表された経済指標をみると、まず、2月の公共工事請負金額は第二次補正予算分の工事発注の本格化に伴い、比較的大幅な増加となった。こうしたことからみて、先行き、公共投資は再び増加していくことが予想される。一方、住宅金融公庫の申込件数は減少しており、住宅需要の基調的な弱さを示す内容となっている。

次に輸出面であるが、2月の通関統計をみると、輸出は再び、かなりの増加を示している。昨年末にかけての輸出の伸び悩みはY2K要因などを反映した一時的なものであったことがほぼ確認され、海外景気が全体として拡大する中、輸出は増勢を続けている。

個人消費関連では、2月の小売販売統計は、春物衣料などを中心に総じて底固い動きとなっており、3月入り後も、ヒアリング等から窺う限り、底固い推移を続けている模様である。1月の旅行取扱額も増加しており、ゴールデン・ウイーク中の旅行予約状況もまずまずとなっている。消費者コンフィデンスも改善しており、この面から個人消費が下押しされるリスクは後退しているとみられる。

企業部門の動向をみると、売り上げの増加やリストラ効果を受け、収益やキャッシュフローの増加傾向が一段と明確になっている。この間、第3次産業活動指数も、昨年後半以降、緩やかな上昇傾向が続いている。こうした中で、昨年10〜12月の法人季報やGDP速報において、設備投資が既に増加となっているほか、機械受注も12月の大幅増加に続いて1月も増加するなど、設備投資の関連指標はこれまでみていたよりも総じて強めであり、設備投資は下げ止まりから緩やかな増加に転じたものと判断される。ただ、個人消費を含めた民間需要全体の立ち直りには、なおしばらくの時間を要するとみられる。

このように、景気は、これまでの外生需要に依存した持ち直し局面から、民間需要を軸とした自律回復局面への入り口にさしかかりつつあり、企業収益の好転など民間需要を巡る環境の改善が続いている点からみて、この先民間需要へのバトンタッチがスムーズに運ぶ可能性も高まってきている。今後、短観や家計所得の動向などを、さらに点検していく必要がある。

(2)金融情勢

短期金利の動向については、先ほどの金融市場調節に関する執行部説明のとおりである。

長期金利は、最近の好調な経済指標の公表などを受けて幾分水準を切り上げ、最近では再び1.8%台半ばとなっている。株価は、一時1万9千円前後まで軟化したが、その後は再び持ち直し、現在は1万9千円台後半で推移している。今後、3月末から4月初にかけて公表される各種の経済指標に長期金利や株価がどのように反応するかが、一つの注目点であると思われる。

金融の量的側面をみると、2月のマネーサプライ(M2+CD)前年比は+2.1%と、1月(同+2.6%)から伸び率が低下した。この背景としては、まず、多くの企業が既にキャッシュフローを下回る水準まで設備投資を圧縮している中、キャッシュフロー自体が増加傾向にあるため、外部資金への需要が出にくく、また、企業が債務圧縮を進めていることが挙げられる。こうした中で、特に2月については、投信への資金シフトがM2+CDの伸び率を押し下げる要因として働いており、1月から2月にかけての伸び率の低下分(−0.5%ポイント)のうち−0.4%ポイント程度が、この資金シフト要因によるものとみられる。3月入り後は投信への資金シフトの動きは一段落している模様であるが、一方で4月には郵貯が大量満期を迎えるという要因もあり、そのマネーサプライへの影響には注意が必要であろう。

4.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状と先行き

会合では、前回会合(3月8日)以降に明らかになった経済指標等の評価を中心に議論が交わされた。

多くの委員は、前回会合以降、設備投資関連などで好調な指標が目立っており、企業部門を中心にプラスの材料が増えてきていることを指摘した。ただ、現時点では、前回会合における基調判断(「景気は、このところ、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復など、民間需要を巡る環境は改善を続けている。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。」)を大きく変えるかどうかについては、今後公表される3月短観の調査結果などを待ちたい、という点でも、委員の見解は概ね一致した。

まず、公共投資について、何人かの委員は、2月の公共工事請負金額がかなりの増加となったことに言及した。これらの委員は、第二次補正予算分の工事発注の本格化が指標面にも表れており、先行き、公共投資は再び増加していく可能性が高い、との見方を示した。

この間、ある委員は、地方財政の減少がはっきりしてきており、地公体の地方単独事業費は自治省が当初想定していたレベルに比べ1.6兆円程度下振れし、前年度当初予算12〜13%の大幅減となろう、との見通しを述べ、公共事業の先行きについてやや慎重な見方を示した。

次に輸出について、多くの委員は、(1)米国や欧州、アジアなど世界経済が総じて回復・拡大し、日本経済の改善をサポートする状況が続いていること、(2)こうした中で、統計上も年明け後の輸出が再び明確に増加する姿が確認されていること、を指摘した。そのうえで、輸出は増勢を続けている、との見方を共有した。

次に、企業部門の動向について、議論が行われた。

まず企業収益について、多くの委員は、(1)生産・販売数量の増加やリストラ効果などにより、収益の改善傾向が一段と明確になってきており、また、(2)産業別・企業規模別にみても増益となるセクターが増えているなど、収益改善の裾野も広がってきている、との見解を示した。このうち一人の委員は、企業収益の改善は、景気回復メカニズムの重要な一段階であるが、最近の動きは、こうしたメカニズムがはっきりと作動しつつあることを示している、とコメントした。

ただ、ある委員は、産業界の視点からみると、99年度中の企業収益の回復は、(1)輸出の増加、(2)リストラ効果、(3)ゼロ金利による金利負担の軽減、等に支えられたもので、収益基盤はなお脆弱であり、また、内需の増加による収益回復に自信を感じている産業は、一部IT関連産業などに限られている、とコメントした。

一方、別の複数の委員は、前向きの材料として、民間諸機関の企業収益に関する調査結果を紹介した。すなわち、殆どの調査は、(1)99年度はリストラに支えられた減収・増益の姿を示しているが、(2)2000年度については、幅広い業種で増収・増益の見通しとなっている、と指摘した。なお、このうち一人の委員は、最近、企業が退職給付債務の積立不足を前倒し処理する動きが目立っており、これが数字上は99年度の当期利益を下押しする可能性がある、と指摘した。ただ、企業がこうした対応がとれるだけの体力をつけてきたという意味では、こうした動きはむしろ前向きに評価できる、とコメントした。

さらに設備投資について、大方の委員は、前回会合以降、総じて好調な指標が目立ったことを指摘した。すなわち、(1)昨年10〜12月期の法人季報やGDP速報において、既に設備投資が増加していること、(2)1月の機械受注が増加し、これにより、建築着工床面積や建設受注なども含め、各種先行指標が軒並み増加する姿となったこと、(3)諸機関の2000年度設備投資アンケート調査をみると、日本政策投資銀行の調査では製造業、非製造業ともに前年比プラスとなったほか、日本経済新聞社の調査でも製造業は前年比プラスの計画となっていること、などが示された。

そのうえで、多くの委員は、設備投資は底を打ち、緩やかな増加に転じているとみられる、との判断を示した。このうち一人の委員は、生産の増加や企業収益の回復といった投資環境の改善が、ようやく支出活動につながり始めたようにみられる、とコメントした。

もっとも、ある委員は、設備投資は循環的にみれば底を打ったが、業種別に内容をみると、精密・輸送・電気機械や食品といった、有利子負債対売上高比率が低いごく一部の業種が投資を行った結果に過ぎず、力強さに欠けていると述べた。

続いて、設備投資の先行きについて、議論が行われた。

何人かの委員は、設備投資の先行きについて、いくつかの前向きの材料を挙げた。すなわち、(1)日本政策投資銀行の調査によれば、2000年度の設備投資をはっきり減らすと計画している先も、鉄鋼や建設、不動産など一部の業種に限られてきていること、(2)通産省の「鉱工業生産活動分析」によれば、日本のIT関連投資の設備投資全体に占めるシェアは近年急速に拡大し、今や米国並みに近づいており、IT関連の動きが幅広い業種に波及しやすくなっているとみられること、(3)第3次産業活動指数の増加や広告取扱高の好調、さらには、建築着工や建設受注の伸びが示すような建設投資の増加など、企業セクターの前向きの動きが、製造業やIT関連産業から非製造業にも広がる兆しが窺われること、(4)大蔵省の景気予測調査(2月)によれば、製造業・中小企業の2000年度設備投資計画が——この時期の調査としては珍しく——既に前年比プラスとなるなど、中小企業の設備投資にも動意がみられること、などが指摘された。

さらに、一人の委員は、設備投資は今後、ある程度の持続性と広がりをもって増加していくと予想され、こうしたことを踏まえると、既に「民間需要の自律的回復」が展望できる情勢に至っているといえるのではないか、と述べた。

すなわち、この委員は、95〜96年の一部業種(移動体通信等)の設備投資は、十分な広がりを持つには至らなかったが、今回の局面では、設備投資の増加の動きは、ある程度の広がりや持続性を持っていく可能性が高い、と述べた。その理由としてこの委員は、(1)95〜96年当時と比べれば、——損益分岐点の低下などが示すように——企業はリストラを通じて収益体質を改善させていること、(2)過去、稼働率指数が98程度になると設備投資が活発化する傾向がみられるが、昨年末以降、稼働率指数は既にこの水準に達していること、(3)ここ数年の投資抑制により、既存設備の老朽化やストック調整が進んでいること、を挙げた。

しかしながら、多くの委員は、先行き、設備投資がある程度の持続性と広がりをもって回復していくのかどうか、現時点ではなおみきわめ難く、3月短観の調査結果などを踏まえて判断していく必要がある、との立場をとった。

このうち一人の委員は、先行指標の動きからみて、今後2、3四半期の間、設備投資は増加する可能性が高い、との見方を示した。ただ、この委員を含めた複数の委員は、日本政策投資銀行の調査では、——この時期の調査は低めに出るのが通例とはいえ——現段階ではゼロに近いわずかな増加が見通されているに過ぎず、まだ「下げ止まり」の範囲内とも考えられる、と指摘した。

また別の一人の委員は、機械受注が足許増加しているのは、海外投資のウエイトが高まっていることによる面もあり、機械受注の増加が国内設備投資の増加を通じて生産・雇用の増加につながる面は、かつてよりかなり小さい、との見方を述べた。

さらに別の一人の委員は、企業部門の中で二極化が進み、「まだら模様」の様相が顕著となっているが、金融政策の観点からは、これらの総体としてのマクロ経済全体の姿を正確に捉えていくことが重要だ、と述べた。ただ、そうはいっても、(1)前向きの投資の動きが、現状ではIT関連分野に偏っていることは否めず、さらに、(2)多くの企業が過剰設備を抱え、バランスシート調整を進めていること、などを踏まえれば、設備投資回復の持続性や広がりについては、なお不確定要素が大きい、と指摘した。

個人消費について、何人かの委員は、年明け後の販売統計が総じて持ち直しており、コンフィデンス関連の指標も改善していることを指摘した。ただ、前回会合以降新たに入手できた情報が限られていることもあり、これまでの判断を変えるほどの材料はない、という点でも、委員の見解は概ね一致した。

なお、このうち一人の委員は、(1)生産が増加しているもとで、(2)労働分配率は低下していること、を考え併せれば、企業部門の改善が家計部門の改善に先行することは、ごく自然な成り行きであろう、と述べた。そのうえで、景気回復に向けた動きが着実に進んでいることと、現時点での個人消費が一進一退の動きに止まっていることとは、それ自体矛盾するものではない、とコメントした。

次に、個人消費の先行きについて、議論が行われた。

一人の委員は、消費者コンフィデンスの面からのダウンサイド・リスクが後退している中、今後の個人消費を展望するに当たっては、雇用・所得環境が鍵となる、と述べた。さらに、流通の構造変化等が生じているもとで、既存の販売統計から消費動向を把握していくにはおのずと限界があると考えられ、その意味でも、個人消費の動向を判断するためには、所得の動きをみていくことが重要だ、と付け加えた。

そのうえで、この委員を含めた何人かの委員は、企業のリストラの動きなどを踏まえると、企業収益の回復が雇用・所得環境にどの程度前向きの影響を及ぼしていくのか、注意深くみていく必要がある、との見解を示した。

別の一人の委員は、(1)経済全体として、GDPがせいぜいプラス1%前後といった低成長となっている中で、所得の改善はなかなか見込めず、消費レベルの回復には時間がかかること、(2)金融不安の後退などを受けて、所得が伸びない中での身の丈にあった消費ということで、消費性向はすでにかなりの水準まで回復していること、などを踏まえれば、現在の個人消費の姿は、「平時に復した」と捉えるべきではないか、と述べた。

一方、また別の一人の委員は、現在、生産の増加傾向が続いているもとで、雇用・所得環境も安定した動きになってきており、今後もこうした経済の改善傾向が続いていくならば、これに合わせて所得も緩やかに増加していくことが見込めるのではないか、との見解をとった。

この間、さらに別の一人の委員は、今年の春闘の争点は「ベア」よりも「雇用の確保」にある模様であり、実際に、高齢者の再雇用制度の拡充などの動きもみられる、と述べた。そのうえで、仮にベア率が低水準にとどまったとしても、企業部門の改善が雇用確保の面で何らかの具体的な動きにつながれば、将来不安の後退といったコンフィデンスの面から、個人消費にプラスの影響を及ぼすこともあり得るのではないか、とコメントした。

この間、ある委員は、景気動向指数などについての解釈を述べた。

すなわち、この委員は、DI(ディフュージョン・インデックス)、CI(コンポジット・インデックス)のいずれをみても、景気は昨年の4〜6月に底を打って反転し、ここへきて量感的にも過去の回復局面の平均的な水準に追いついてきており、また、本年9〜11月頃までは景気の回復が続く、との見方を示した。ただ、(1)昨年10〜12月のGDP速報をみると、家計と企業の2極分化が進み、公的資本形成もモメンタムを失ってきている、(2)日本企業のROAは低く、リストラが不徹底である、(3)こうした中で、割引キャッシュフロー法等を通じた収益計算をしっかり行わずに設備投資を実施する企業が多い可能性が高く、先行きのさらなるROAの低下につながるおそれが強い、と述べた。さらに、個人消費に関し、年明け後のスーパーやコンビニ等の販売状況は総じて悪い、との解釈を示し、実体経済全般について、他の委員よりもかなり慎重な見方を示した。

さらにこの委員は、先行きのリスクとして、原油価格の動向と、米国株価の動向を挙げた。すなわち、(1)産油業者に売りつなぎの動きが出ているといった原油先物市場の状況の中で、3月27日のOPEC総会の結果次第では本年の原油価格は乱高下する可能性が高いと述べた。また、(2)米国の株、債券、モーゲージ等の市場はFRBの利上げを無視して上昇が進む状態であり、特に株価については3月21日に5回目の利上げをしたにもかかわらずその翌日にS&P500が最高値を付けるなど、バブルの最終局面を迎えている、と主張した。

物価動向について、多くの委員は、物価は当面横這い圏内で推移するとみられるが、先行き、需要の弱さに起因する物価低下圧力には引き続き注意していく必要がある、との見解を概ね共有した。

ただ、一人の委員は、原油価格など国際商品市況の上昇には、OPECの減産などに加え、海外景気全体の拡大・回復も寄与している、と指摘した。そのうえで、世界的に物価上昇圧力が高まっている中で、日本だけがこうした圧力と無縁とは言い難いのではないか、とコメントした。

次に、物価を巡る構造的な問題などについて、議論が行われた。

一人の委員は、経済の改善傾向などを反映して、国内卸売物価の前年比マイナス幅が縮小している一方で、消費者物価がやや弱めの動きとなっていることをどう考えるか、との問題提起を行った。この委員は、構造変化や統計上のサンプル替えといった要因が消費者物価に影響を与え続けていくとすれば、今後、景気が改善を続ける中で消費者物価は若干のマイナスを続ける可能性も考えられる、と指摘した。

別の一人の委員も、消費者物価については、規制緩和や流通システム効率化による低下余地がなお大きい、との見方を示し、消費者物価に構造的な低下圧力がかかり続ける可能性を指摘した。ただ、(1)こうした物価低下圧力は「デフレ的」とはいえず、むしろ、(2)規制緩和による物価低下の実現は、経済厚生を増加させるという意味では、財政赤字を拡大しないある種の景気対策とみることもできるのではないか、とも付け加えた。

一方で、複数の委員は、技術革新や流通革命、さらには統計上のサンプル替え等による物価下落と、「需要の弱さを反映した、デフレ的な物価下落」とを識別することは、現実にはそう簡単ではない、との指摘を行った。

このうち一人の委員は、これらを識別する判断基準を敢えて挙げるとすれば、企業収益の動向ではないか、との見解を示した。すなわち、企業収益全体が——販売価格の引き下げが販売数量の増加によって補われる形で——改善を続けるならば、こうした中での物価の下落は「デフレ的」とは言いにくい、と述べた。そのうえで、昨年末にかけて消費者物価が弱含む中で、企業収益の回復が法人季報などから確認されたことは、一つの重要な情報と考えられる、とコメントした。

この間、別の一人の委員は、技術革新や流通革命による物価の下落を、政策の観点からどう考えるかということ自体、複雑な論点を含む事柄であり、今後日本銀行が「物価の安定」について総括的に検討していく中では、この問題も取り上げていく必要がある、と指摘した。

(2)金融面の動き

金融面については、大方の委員が、景気回復をサポートする良好な環境が維持されている、との見方を示した。

ある委員は、このところ比較的好調な経済指標が目立っている中で、長期金利がきわめて低い水準での推移を続けていることに言及した。この委員は、(1)債券市場は、経済指標そのものよりも、これを受けた日本銀行の政策運営スタンスに注目する傾向が強いのではないか、(2)こうした中で、市場が「日本銀行は当分ゼロ金利政策を解除しない」と思い込んでいることが、相場形成を歪めているおそれはないか、と述べた。

これに対し、別の一人の委員は、金利のイールドカーブや先物金利などをみても、市場金利は、経済指標や、これらから推察される将来の政策金利変更の可能性など、さまざまな要因を反映して形成されているようにみられる、と述べた。そのうえで、長期金利が低位にとどまっている背景としては、市場参加者の景気・物価の先行きに対する見通しが、依然として慎重であることが挙げられるのではないか、との見解を示した。

金融の量的側面について、ある委員は、銀行の貸出姿勢が徐々に前向きになっている中で、最近では、中小企業のうちの「勝ち組」企業から、資金需要が少しずつ出てきている模様である、と述べた。ただ、(1)ITのハードウエア関連企業は減価償却の水準が大きいため、この分野で投資が増加しても、なかなか外部資金への需要に結び付きにくいこと、(2)有望なベンチャー企業は資本市場での調達に依存する傾向が強いこと、なども踏まえれば、先行き、銀行貸出はなかなか伸びにくい状況が続くのではないか、との見方を示した。

この間、別の一人の委員は、2月にみられたようなM2+CDから投信への資金シフトは、一頃のような大きな金融システム不安が後退していることの一つの表れともみられる、とコメントした。

5.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

前述のとおり、金融経済情勢に関し、多くの委員は、前回会合以降、比較的良好な経済指標が目立っていることを指摘し、設備投資は下げ止まりから緩やかな増加に転じている可能性が高い、との見方を述べた。

ただ、同時に多くの委員は、現時点ではまだ、民間需要の自律的回復の展望がはっきりと得られたとまではいえない、との見解をとった。そのうえで、こうした状況のもとでは、需要の弱さに起因する先行きの物価低下圧力には、引き続き注意していく必要があり、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったとまではいえない、との見解を、概ね共有した。

このため、当面の金融政策運営方針としては、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

この間、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」や、「民間需要の自律的回復の展望」の判断基準について、議論が行われた。

一人の委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」の判断については、これまでの決定会合における議論を通じて、(1)民間需要の自律的回復力に焦点を当てる、(2)その際、設備投資を起点として個人消費につながっていくメカニズムを重視する、といった考え方が、概ね確立されてきているのではないか、と述べた。そのうえで、最近の設備投資関連の指標は、民間需要の自律的回復の動きを窺わせる重要な材料ではある、との見解を示し、今後、(1)設備投資回復の持続性や広がり、(2)雇用・所得面の底固さ——すなわち、雇用・所得環境がこれ以上悪化しないかどうかといった点——について点検を続けていくことが適当である、と述べた。

こうした見解に対し、別の一人の委員は反論を提起した。すなわち、この委員は、(1)日本経済全体が低成長に移行しているもとでは、設備投資や個人消費などあらゆる需要項目が指標上も明確に増加していくといったことは、現実には展望し難いのではないか、(2)こうしたもとで、——例えば3月短観も含め、この時期の設備投資調査はあまり高い数字とならないのが通例であることなどを踏まえれば——結局、ゼロ金利政策はなかなか解除できないということにならないか、(3)こうした中でゼロ金利政策を続けていくと、日本経済が真に必要としている構造改革の動きを阻害し、中長期的には経済にマイナスの影響を及ぼしてしまうのではないか、と述べた。

この点に関し、また別の一人の委員は、「民間需要の自律的回復」の判断基準について、次のような3通りの考え方への整理を試みた。すなわち、(1)設備投資の回復さえ確認できれば、——いずれ雇用・所得環境の改善を通じて個人消費にも波及すると予想されるため——民間需要の自律的回復の条件は一応整ったとの考え方、(2)設備投資の回復に加え、雇用・所得環境の底固さをもう少し確認していく必要があるという考え方、および、(3)設備投資に加え、個人消費についても計数的に明確に立ち上がるのを待つという考え方、があり得ると述べた。そのうえでこの委員は、現在の状況のもとでは、自分としては(2)に近い立場をとりたい、と発言した。

さらに別の一人の委員は、現在の個人消費の状況は「平時」と捉えるべきであり、個人消費の点だけでいえば、「これ以上さらに個人消費が伸びないとゼロ金利政策を脱却できない」とは考えていない、と述べた。ただ、この委員も、現時点では、企業部門の回復の持続性や広がりが十分確認されていないため、ゼロ金利政策の維持が妥当だと考えている、と発言した。

この間、ある委員からは、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」の判断には、イングランド銀行の例などを参考に、マクロモデルのシミュレーション結果を一つの有力な材料としていけばよいのではないか、との意見が示された。

次に、日本銀行の政策スタンスと金融市場との関係について、議論が行われた。

ある委員は、これまでの決定会合において、「ゼロ金利政策を円滑に解除する上でも、市場が先行きの政策をある程度織り込める環境を作っていくことが重要」といった見解が示されており、そうした考え方に異論はない、と述べた。そのうえで、長期金利の動向などからみて、市場参加者は、日本銀行自身が考えている以上に、ゼロ金利政策解除の可能性を過小評価している可能性もあるのではないか、との問題を提起した。

さらにこの委員は、日本銀行として、市場の反応を受け身で待つのではなく、政策運営についての考え方を積極的に市場に伝えていく努力を続けていくべきであり、それが、ゼロ金利政策解除のショックを和らげるうえでも有効であろう、と主張した。さらに、その点では、金融経済月報の基本的見解の表現などにも工夫の余地があるのではないか、と述べた。

これに対し、別の複数の委員は、市場は、——公表される経済指標など——日本銀行がみているものとほぼ同様の情報をもとに、景気・物価の先行きや、将来の政策金利変更の可能性などについての期待を形成しているはずであり、日本銀行の見方と市場の見方との間にズレがあるのか、また、それがどちらの方向のズレかは、先験的にはわからないのではないか、との見解を示した。ただ、そのうえで、日本銀行の考え方を正しく市場に伝えていくことが重要だという結論については異論はない、と述べ、さらに、月報の基本的見解については、我々が判断した経済の姿を正確に書いていくということに尽きる、と付け加えた。

こうした議論を踏まえ、さらに別の一人の委員は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」を判断するうえで、このところ前向きの材料が増えていることは確かであるので、次回の会合では——3月短観の結果も明らかになっていることでもあり——、景気の基調判断をどの程度進めることができるか、また、それをどのように市場に伝えていくか等について、しっかり議論したい、と締めくくった。

なお、「ゼロ金利政策の維持」とは立場を異にする、2つの主張もみられた。

まず、一人の委員は、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を決定した昨年2月12日以前の状態に戻すこと──すなわち、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げること──、を主張した。

その理由として、この委員は、(1)最近の指標などからみて、設備投資は既に増加に転じるなど、民間需要の自律的な回復の展望が開けつつあり、経済の状況は、デフレ・スパイラル入りのリスクもあった昨年2月当時の「緊急事態」といった状況から、明らかに好転していること、(2)こうした状況のもとでゼロ金利政策を続けていくと、日本経済が真に必要とする構造調整を阻害し、中長期的には経済にマイナスの影響を及ぼしかねないこと、(3)市場が金利上昇リスクに鈍感になるなど、ゼロ金利政策が長期化するほど、その副作用が増大しているように窺われること、を挙げた。

別の一人の委員は、CPI(消費者物価指数)上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

その理由として、この委員は、(1)最近、CPIが前年比マイナスとなっている中で、個人消費は脆弱であり、先行き、CPIはさらに下がる可能性があること、(2)昨年10〜12月のGDP速報が前期比マイナスとなり、GDPデフレーターのマイナス幅も拡大していること、(3)地価の下落が続いており、不良資産が増加するおそれがあること、(4)生産数量は伸びても販売価格は伸びておらず、景気は「数量景気」にとどまっていること、(5)財政の下支えによるsustainableな回復ではなく、民間の借入需要がみずから増えていくようなself-sustainingな景気回復を実現する必要があること、を挙げた。

6.政府からの出席者の発言

会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、全体として需要の回復が弱く、厳しい状況をなお脱していない。しかし、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響から、景気は、緩やかな改善が続いている。企業の活動に積極性もみられるようになるなど、自律的回復に向けた動きが徐々に現れている。政府としては、財政面からの下支えの手を緩めることなく、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、民需中心の本格的な景気回復の実現に努めなければならないと認識している。
  • 3月17日に平成12年度予算が成立し、政府としては、この円滑かつ着実な執行に努めていく所存である。具体的には、公共事業等について、年度開始後直ちに着手できるよう、いわゆる「箇所付け」の協議・承認を速やかに行ってまいりたい。
    なお、財政構造改革についても、今後、国と地方との関係や医療年金福祉等の社会保障分野も含め、幅広い視野から検討していく必要があると考えているが、現在のところは、景気回復に最善を尽くすことが、引き続き大事であると認識している。
  • 日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施とあわせて、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

経済企画庁からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 最近の経済動向をみると、全体として需要の回復が弱く、厳しい状況をなお脱していない。しかし、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響から、景気は緩やかな改善が続いている。企業の活動に積極性もみられるようになるなど、自律的回復に向けた動きが徐々に現れている。なお、昨年10〜12月のGDP速報は前期比−1.4%となったが、これは、公共事業の執行が端境期となるなど一時的な要因による面が大きいと考えている。本年入り後は、消費、生産、企業収益などで明るい動きがみられており、経済は、概ね政府経済見通しで描いた回復への過程を辿っていると考えている。政府としては、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、揺るぎない構造改革を推進するため、経済新生対策を初めとする諸施策を引き続き推進していく所存である。
  • なお、2月の月例経済報告の際、総理大臣より、消費や投資の実態の早期かつ的確な把握につき、さらに改善を図ることを検討するようにとの発言があった。これを受けて、特に個人消費の統計についてどのような改善が可能か、経済企画庁と総務庁が共同で研究を行うことになった。今後、有識者の意見も聞きながら、できるだけ早期に改善の方向を出してまいりたい。
  • 日本銀行におかれては、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富でかつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

7.採決

多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気は、足許、持ち直しに転じている、(2)こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は徐々に改善しつつあり、設備投資は下げ止まりから緩やかな増加に転じているとみられる、(3)金融面の良好な環境も維持されている、(4)ただ、現時点で民間需要の自律的回復の展望が得られたとまではいえず、設備投資回復の持続性や広がり、さらには、先行きの雇用・所得環境について、なお注意深く情勢の展開をみきわめる段階にある、(5)したがって、物価は当面概ね横這いで推移していくとみられるが、需要の弱さに起因する潜在的な低下圧力については引き続き留意する必要があり、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったとまではいえない、というものであった。

こうした認識を踏まえ、会合では、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

ただし、一人の委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別の委員からは、CPIの上昇率に目標値を設定したうえで、本格的な量的ターゲットに踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引き上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

中原委員は、(1)消費者物価が下落気味となっていること、(2)インフレ・リスクはなく、ここで1.5〜2.0%の経済成長に向けたactiveな政策をとるべきであること、(3)ゼロ金利政策の導入以降1年以上が経過し、その効果が減衰しているとみられること、(4)ゼロ金利政策は抽象的な表現が多いため、先行きの物価やGDPについての予測値を示し、アカウンタビリティを果たすべきであること、を理由に、上記採決において反対した。

篠塚委員は、(1)実体経済は、デフレ・スパイラル入りのリスクもあったゼロ金利政策導入時の緊急事態を脱し、明らかに改善していること、(2)こうした中で、最近では設備投資関連を中心に好調な経済指標が目立っているなど、民間需要の自律的回復が展望できる情勢になっているとみられること、(3)ゼロ金利政策が長期化するほど、構造改革の阻害や、市場参加者のリスクテイク行動の助長といった副作用が増大すると考えられること、(4)ゼロ金利政策を解除しても、なお、思い切った金融緩和が続くことに変わりはないこと、を理由に、上記採決において反対した。

8.2000年4月〜9月における金融政策決定会合の日程の承認

最後に、2000年4月〜9月における金融政策決定会合の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
平成12年 3月24日
日本銀行

当面の金融政策運営について

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上


(別添2)
平成12年 3月24日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成12年4月〜9月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成12年4月〜9月)
会合開催 (参考)金融経済月報公表 (議事要旨公表)
12年4月 4月10日(月)
4月27日(木)
4月12日(水)
−−
(5月22日(月))
(6月15日(木))
5月  5月17日(水)  5月19日(金) ( 7月 3日(月))
6月  6月12日(月)
 6月28日(水)
 6月14月(水)
−−
( 7月21日(金))
( 8月16日(水))
7月 7月17日(月) 7月19日(水) (9月20日(水))
8月 8月11日(金) 8月15日(火) 未定
9月 9月14日(木) 9月19日(火) 未定

以上