このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2000年 4月27日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年6月12日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 6月15日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年 4月27日(9:00〜13:23)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省 原口恒和 大臣官房総務審議官(9:00〜13:23)
  • 経済企画庁 小峰隆夫 調査局長(9:00〜13:23)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巖
  • 理事松島正之
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室審議役稲葉延雄
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局企画役吉田知生(9:37〜13:23)

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 企画室企画第2課長田中洋樹(9:00〜9:27)
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役清水誠一
  • 金融市場局調査役岩崎 淳(9:00〜9:27)

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(3月24日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月2日に公表することとされた。

II.「手形買入および手形売出の見直しについての基本方針等」に関する決定

1.執行部からの提案内容

 手形買入オペに関し、日本銀行当座預金決済の即時グロス決済化(RTGS化)を機に、(1)現在の短資経由買入方式に代えて、金融機関等を直接の買入の相手方とする直接買入方式を採用するとともに、(2)オペ実施店に関しても、本店、大阪支店、名古屋支店となっている現行方式を改めて、本店および全支店で実施していくこととしたい。これは、(1)RTGS化に伴い、日本銀行・短資業者間および短資業者・金融機関間の2つの決済が同一時点で処理されなくなるという状況のもとで、オペの円滑な実施に支障が生じないようにすること、および、(2)支店の取引先もオペ対象先に取り込むことにより、地方を含め、民間企業債務を活用しつつ幅広く資金供給しうる体制を整えること、を狙いとするものである。また、手形売出オペにおいても、短資経由方式を廃止し、直接方式とすることとしたい。

 こうしたRTGS化に伴う手形オペ見直しに関し、基本方針を定めるとともに、その基本方針に基づき、本店をオペ実施店とする直接方式の導入についてはRTGS化に先駆けて実施することとし、そのために必要な基本要領の制定、業務方法書の一部変更を行うこととしたい。

2.委員による検討・採決

 以上の執行部提案について採決を行った結果、全員一致で決定し、適宜の方法で公表することとなった。

III.「国債売買における売買対象先選定基本要領の改正等」に関する決定

1.執行部からの提案内容

 国債売買オペ対象先の第2回選定を機に、国債売買オペおよび国債借入オペの対象先選定要領を改正し、対象先が満たすべき要件として、「国債振替決済制度の参加者(間接参加者を除く。)であること」を加えることとしたい。これは、国債利子課税制度の一部改正に伴い、市中における国債の保有・決済の形態が振決国債に集中する見通しにあること等を踏まえ、金融市場調節の円滑化の観点から、こうした改正を行うことが適当との判断に基づくものである。

2.委員による検討・採決

 以上の執行部提案について採決を行った結果、全員一致で決定し、適宜の方法で公表することとなった。

IV.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(4月10日)で決定された金融市場調節方針1に沿って運営し、オーバーナイト金利は、株価が急落した17日を含め、0.02%で安定して推移した。なお、「積み上」幅の公表を取り止めてから1ヶ月半が経過したが、「積み上」幅に対する市場の関心は次第に薄れてきているように窺われる。

 この間、ターム物金利は、12日の総裁記者会見を受けて、ゼロ金利政策の早期解除観測が強まったことから、一時的にやや強含む局面もみられたが、その後は株価の急落やG7共同声明を契機に、こうした観測が後退したことから、再び弱含んでいる。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対ドル相場は、4月中旬以降、総裁記者会見、G7共同声明、日米両国の株価急落などを背景に神経質な展開となったものの、相場としては小動きであった。一方、ユーロの対ドル相場は、G7共同声明に「ユーロ安懸念」が盛り込まれなかったことや、域内の政局不安などから、月央以降急落し、既往最安値を更新した。

(2)海外金融経済情勢

 米国株価の急落後の米国・ドイツ・韓国の株価の動きをみると、いずれも、ハイテク銘柄を多く含む指標が、年初来のピークに比べ3〜4割方下落したのち、若干回復している。この中で米国株価の回復テンポが最も速く、米国経済のファンダメンタルズの底固さに対する市場の信認が窺える。

 株価急落のきっかけとなった米国の物価動向についてみると、このところ、CPIコア(除く食料、エネルギー)の上昇が目立っている。とりわけ、サービス部門で、燃料価格の上昇の影響による輸送サービス価格の上昇に加えて、医療サービス、家賃、ホテルサービスなどでも、サービス需要の拡大を背景とする価格上昇がみられ始めている。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降、公共工事請負金額、通関統計、百貨店売上高、鉱工業生産指数などが公表されたが、前回会合で決定された景気判断を変えるような材料は特にない。

 まず、3月の公共工事請負金額は第二次補正予算分の工事発注の本格化に伴い、大幅な増加となった。

 次に1〜3月期の実質輸出は、前期比(季節調整済み)+4.9%となり、情報関連財、資本財を中心とする増加傾向を確認する内容となった。また、実質輸入は、「コンピューター2000年問題」に対応した部品在庫積み増しの反動などから、年初いったん減少したものの、その後は、情報関連財・消費財(中国やASEANからの衣料品)等を中心に増加し、1〜3月期は、前期比ほぼ横這いとなった。

 設備投資関連では、法人企業動向調査による2000年度の大企業の設備投資計画は、製造業で前年度比+3.3%、非製造業で−2.3%と、3月短観の内容をほぼ確認するものとなった。

 個人消費関連の指標をみると、昨年末に比べ幾分持ち直しているものの、引き続き回復感に乏しい状況が続いている。3月の小売販売統計は、家電販売が好調な一方で、百貨店やチェーンストアの売上げは、衣料品の不振などから、減少している。これに対して2月の旅行取扱額は、前月比(季節調整済み)+7.0%と増加している。消費者コンフィデンスも、一部指標(消費者態度指数)で引き続き改善の動きがみられる。

 物価面では、3月の企業向けサービス価格指数(CSPI)は、広告出稿料の上昇などから、前月比+0.4%となった。

 最後に、今朝(4月27日)公表された3月の鉱工業生産指数(速報)は、2月の指数がうるう日の影響で高めであったことの反動で、前月比(季節調整済み)−1.0%となった。もっとも、予測指数に比べると、電気機械を中心に、全業種で上振れしている。この結果、1〜3月期の指数は前期比(季節調整済み)+2.8%となった。

(2)金融情勢

 わが国の株価は、米国株価の急落をきっかけに、一時大幅に軟化した。その後、日経平均は、構成銘柄の入れ替えの影響から弱い動きを続けているが、そうした影響を受けにくいTOPIX(東証株価指数)は、米国株価急落の直前の水準を回復している。

 この間、短期金融市場は落ち着いた動きが続いている。ユーロ円金利先物(金利ベース)は、総裁記者会見を受けて強含んだ後、株価の急落やG7共同声明を受けて、軟化した。

 3月の企業倒産件数は、98年6月以来約2年振りに1,700件を上回り、昨年半ば以降の漸増傾向が続いている。この間の特徴は、(1)小規模倒産が目立っていることと、(2)いわゆる不況型倒産(販売不振・赤字累積・売掛金回収困難などを原因とする倒産)の割合が徐々に高まっていることである。ただし、信用調査機関では、不況の深刻化というよりは、大手のリストラや構造改革の進展に伴う整理・淘汰の要因が大きいと見ている。

V.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状と先行き

 会合では、前回会合(4月10日)以降に明らかになった経済指標等の評価を中心に検討が行われた。この結果、前回の基調判断を変える材料はみられなかったという点で、委員の意見は概ね一致した。

 まず、ある委員は、公共投資や純輸出といった外生需要は、これまでの想定どおり経済にプラスに寄与していると述べた。

 また、複数の委員が、3月の鉱工業生産指数等から、生産が引き続き増加傾向にあることを概ね確認できたとの評価を示した。このうちひとりの委員は、生産の増加は、企業収益の増加基調が続くことを支える重要な材料として受け止めていると述べた。

 設備投資については、3月の法人企業動向調査や4月の支店長会議における報告などから、回復傾向がほぼ確認されたという認識が共有された。ひとりの委員は、製造業においては、この3月期は、過剰債務の削減が進捗した模様であり、これが短観の設備投資の動きにも表われていると述べた。なお、この委員は、非製造業の一部には過剰債務を抱え構造調整が遅れている業種もあり、「二極化」の問題は残っていると付け加えた。ただ、この委員を含めて複数の委員が、今回の景気回復は構造調整圧力をこなしながら進んでおり、構造調整をクリアしなければデフレ懸念の払拭が展望できないというものではないとの見方を示した。また、別の委員は、構造問題は構造政策で対応すべきであると述べた。この間、ひとりの委員は、企業収益は、外観は増益ながら中身がなお脆弱であるため、その改善を過度に評価すべきではなく、設備投資への波及は慎重に見極めていく必要があるとコメントした。

 こうした中で、ある委員は、残されたハードルは、企業部門から家計部門への回復傾向の波及という点に絞られてきているとの認識を示し、多くの委員の議論もこの点に集中した。

 まず、個人消費に関する各種の統計は、弱いものと強いものがミックスしており、全体としては一進一退であるという認識でほぼ一致した。もっとも、複数の委員が、民間需要の自律的回復のモメンタムを見極める上では、個々の売上げ統計や消費支出額をみることもさることながら、個人消費の前提である家計所得と消費性向がこれ以上悪化しないことを確認していくことがより重要であると述べた。この点、何人かの委員が、消費者コンフィデンス関連指標は改善を続けており、消費性向は下げ止まってきているとの認識を示した。また家計所得についても、複数の委員が、企業活動の積極化や企業収益の改善を背景に、先行き、徐々に持ち直し傾向が広がってくるのではないかとの期待感を示した。ただ、今回は雇用・所得情勢を巡る新しい材料はなかったため、何人かの委員が、今後、夏季賞与も含め賃金の動向に注目していきたいと述べた。このうちひとりの委員は、公務員賞与が前年比マイナスとなることや民間における一般労働者数が前年比で減少していることなどを考えると、夏季賞与にはあまり期待できないかもしれないとの見方を示した。これに対して別の委員は、所定内給与の下げ止まりや企業収益の改善を踏まえると、夏季賞与について少なくともマイナス幅の縮小は期待でき、それでも、所得環境の下げ止まりは確認できるのではないかと述べた。また、ある委員は、雇用・所得環境、消費性向がまずまずの線を回復している点を総合判断すれば、消費については、先行き、「一進一退」の状態から「一退」の動きが消えて、少なくとも下落リスクがほぼ消える状態を見通したいとコメントした。

 一方、景気の先行きについてやや慎重な見方をとるひとりの委員は、(1)景気動向指数を分析すると、秋以降のリセッションの可能性がある、(2)CI(コンポジット・インデックス)一致指数とGDPの関係等からみて、今次景気回復局面は、生産ばかりが伸び、需要が十分追いついていない、(3)原油価格は、強含み横這いで推移し、秋以降徐々に上昇すると予想されるほか、OPECの生産余力が限られている中で、需要が非常に強くなった場合、それを賄いきれるか疑問がある、(4)米国で干ばつが深刻化する惧れがあり、これがリスクファクターとなりうるので、ここ3ヶ月ほどは注意が必要である、(5)民事再生法の施行に伴い倒産が増加すると予想される、と述べた。

(2)金融面の動き

 金融面では、多くの委員が米国およびわが国の株価動向に言及した。何人かの委員は、わが国の株価は、銘柄変更の影響の大きい日経平均株価を除けば、NY株価急落前の水準を回復しており、欧米に比較しても、底固さを示しているとの見方を示した。このうち、ひとりの委員は、日経平均については、銘柄変更に伴いテクニカルな要因で水準が大幅に下落したため、過去の水準と比較する場合には、今後暫くの間、実際の数字に調整を加えたうえでみていく必要があるとの見方を示した。

 一方、米国株価について、ある委員は、当分の間かなりボラタイルな相場展開が予想されるので、緊張感を持ってみていく必要があると述べた。別の委員は、米国株価の調整はダウンサイドリスクとして言及されることが多いが、それがインフレのない持続可能な安定成長に向けた調整の一過程であるとすれば、望ましいことともいえ、冷静に見るべきであるとの認識を示した。ただ、この委員も、市場の調整はなかなかグラデュアルにいくものではなく、当分不安定な地合いが続く可能性もあると付け加えた。

 また、ひとりの委員は、世界的な株価の調整と為替相場の関係についても言及した。この委員は、米国株価の下落に伴い各国で追随的な株価の調整が起こった場合には、為替相場は大きく動かないと考えられるが、仮に日本の株式市場が相対的に安定を維持したような場合には、なにがしか為替相場の調整が起こるかもしれないと述べた。その上で、グローバルマーケットをみていく場合、株式市場と為替市場をセットでみていくことが重要であると指摘した。

 この間、ひとりの委員は、日米の株価、日本の長期金利および円ドル相場について、チャート分析の観点から、(1)NASDAQは、今後4月14日の終値を割り込めば、大きく下落する可能性が高い、(2)NYダウはかなり強い天井感を示す形となりつつあり、ここ1ヶ月が重要なポイントとなる、(3)日経平均は、市場において当面の底値と見られていた値を割り込んでおり、要注意である、(4)長期金利は中期的に見てレンジが次第に狭まってきており、今後、どちらに離れるか注目する必要がある、(5)円相場は101円から112円のレンジにあるが、どちらかに抜ければその方向に大きく動くおそれがある、と述べた。

VI.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 ひとりの委員は、景気は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至ったとの判断に基づいて、ゼロ金利政策を解除し、オーバーナイト金利を0.25%に引き上げることを主張した。

 これに対して、大方の委員は、わが国経済は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に着実に近づきつつあり、企業部門の回復が家計部門にどのように波及していくか、良く見極めていくべき段階にあるが、前回会合以降そうした点を確認できるだけの新しい材料は出ていない、との判断を共有した。

 このため、当面の金融政策運営方針として、今回は、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるとの見解が、大勢意見となった。

 この間、ゼロ金利政策解除に関する考え方を巡って、多くの議論が行われた。

 まず、ゼロ金利政策解除の位置付けを巡って、いくつかの議論が行われた。まず、ある委員は、世論の一部には、日本経済を潜在成長率を大きく上回る水準までもっていくために、ゼロ金利政策を長期に継続するべきではないかという議論もあるが、むしろ景気の流れを素直に反映する形で政策の微調整をしていく方が、結局は着実な景気回復に資することになるとの見方を示した。その理由としてこの委員は、(1)構造調整圧力がある中で、現実の成長率を一気に潜在成長率を上回る水準に押し上げ、かつ定着させることは実際上かなり困難であること、(2)このためにゼロ金利が長期にわたって継続することになれば、今はそれほど目立たない副作用も徐々に無視できなくなる懸念があること、などを挙げた。

 また、ある委員は、ゼロ金利解除が遅れた場合のリスクを整理して、(1)金融政策上最も重視すべき点としてインフレリスクがあり、(2)やや小さめのリスクとしていわゆる「ゼロ金利の副作用」があると述べた。そのうえで、第1の観点については、他のひとりの委員とともに、インフレリスクと早めの解除によりデフレ懸念が再発するリスクを比較すると、今の時点では、後者の方がまだ大きいとの判断を示した。ただ、インフレ率の予測は分析の前提等によって大きく結論が異なってくる点には留意する必要があると述べた。

 また、この委員は、いわゆる「ゼロ金利の副作用」についても、いくつかの論点を示した。第1に、「ゼロ金利のもとで短期金融市場の規模が縮小したり、機能が低下しているのではないか」という点については、(1)普通預金の一部はコール市場と代替的に利用されており、市場規模が大きく縮小しているというのはあたらない、(2)市場では様々な情報に反応して金利形成がなされており、大幅な機能低下はみられない、と述べた。第2に、「解除時期が遅くなることによって利上げ時の市場の混乱が大きくなるのではないか」という点については、市場は景気動向に敏感に反応しているので、景気が良くなってくれば市場金利は自然に上昇すると考えられ、時間の経過とともに利上げ時の混乱が大きくなるとは考えにくいとの見方を示した。第3に、「ゼロ金利が構造調整を遅らせているのではないか」という点については、ゼロ金利を解除して僅かな幅の利上げをしたとしても、構造調整の進展に大きな違いが出るとは考えにくいと述べた。また、別の委員も、ゼロ金利政策が、所得配分の歪みとか、ある種のモラルハザードを生んでいるというのは事実であるが、解除したとしても超低金利には変りないことを踏まえると、この点をあまり強調することは適当でないとコメントした。

 そのうえで、これらの委員は、結局は、「デフレ懸念の払拭が展望できる情勢となるまでゼロ金利政策を続ける」というコミットメントに沿って、客観的なデータによって、民間需要の回復力を点検していくしかないと述べた。

 また、市場とのコミュニケーションについても、多くの議論がなされた。ある委員は、前回会合に続いて、ゼロ金利を解除する方向で「バイアス」をかけながら金融経済情勢を点検していくとの考えを示した。この委員は、「バイアス」はゼロ金利の解除か継続かという二者択一の間に、その中間を設けることで金融政策の自由度を広げる趣旨もあるとしたうえで、市場との対話の観点から、その内容を敷衍した。この委員は、まず、過去14ヶ月に亘って、日本銀行の政策判断は現状維持を貫いてきたが、景気判断は徐々に上方修正されており、これと整合的にフォワード・ルッキングな姿勢を採るとすれば、政策面でも変更を窺いうる段階に入ったとの認識を示した。そのうえで、ゼロ金利政策解除に否定的な世論も一部に根強いことを勘案すれば、議事要旨等を通じてこうした「バイアス」をかけた議論があることを予め明示的に市場に伝えることによって、先行きありうべき政策変更をある程度織り込ませ、また、当局側からも市場の反応を見極めることができるというメリットを述べた。これに対して、複数の委員が、日本銀行の経済情勢に関する判断は、これまでも金融経済月報や議事要旨で伝えてきており、「バイアス」という道具立てを使わずとも、その考え方は既に活かされているのではないか、との意見を示した。

 これとは別のひとりの委員は、市場と日本銀行の見方にギャップがある場合、市場の見方を我々の見方に鞘寄せさせるということに加え、市場の側に立ってなぜギャップが生じているのか考えてみることも必要ではないかと述べた。この点に関連して、もうひとりの委員は、市場では、金融政策の先行きを予想する上で、経済情勢の判断よりも、政治情勢や国際会議といった外部環境にかなりのウエイトをかけている場合が少なくないように思われると指摘した。そのうえで、今後とも、様々な機会を捉えて、日本銀行の着眼点を明らかにしていくとともに、金融政策はあくまで決定会合における経済物価情勢の判断に基づいて決定されるということについても、改めて理解を求めていく必要があると述べた。

 また、ひとりの委員は、政策変更時のショックを和らげるという意味では、ゼロ金利を解除した際の説明方法、具体的には、(1)「解除したといってもかなりの緩和が継続している」旨をどう説明していくか、(2)解除後の政策運営について何らかの方向性を示すかどうか、といった点が重要ではないかとコメントした。もっとも、別の委員は、後者の点に疑問を呈し、(1)現在「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで」という形で将来の政策に方向性を示しているのは、ゼロ金利政策のもとでの異例のコミットメントである、(2)解除後は、そうしたことをしなくとも、政策の方向性は議事要旨等を通じて十分伝わるはずである、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、CPI上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

 その理由としてこの委員は、(1)IMFによる世界経済の成長率見通し(2000年)が4.2%の中、日本は0.9%と先進国最低であるだけに、インフレ懸念のない状況下、できるだけ成長率を加速させるべきであること、(2)消費者物価指数は前年比でマイナスであり、GDPデフレーターも前年比マイナス幅が拡大気味であること、(3)日本の株価は不安定さを増しているとみられること、(4)ゴールデン・ウィーク明けには円高になる気配が感じられること、(5)物価の数値目標を具体的に示すことで国民に対する中央銀行としての責任を果たすべきであること、といった点を列挙した。また、この委員は、これまで多くの委員が、ゼロ金利政策は、かなり強い政策であり、実質的に量的緩和を伴い、かつ、インフレ・ターゲティングの要素も取り入れたものである、と主張してきているが、解除する場合にはその逆の効果が出る可能性があることも十分勘案しなければならないと述べた。

VII.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国の経済は、各種の政策効果やアジア経済回復の影響から緩やかな改善が続いている。また企業の活動にも積極性がみられるようになるなど、自律的回復に向けた動きが徐々に現われてきている。しかし全体としてまだ需要の回復が弱い中でこれまで財政面からの下支えの手を緩めることなく、景気が本格的な回復軌道に繋げるための万全の体制を採ってきた。今後とも先に成立した平成12年度予算の円滑かつ着実な執行を通じて公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、民需中心の本格的な景気回復を実現するよう全力を尽くして参りたいと考えている。
  • 平成12年度の公債依存度が38.4%となるなど、わが国財政が危機的な状況にあることを踏まえれば、今後経済が本格的な回復軌道に乗った段階で、財政構造改革について21世紀のわが国の経済・社会の姿を展望しながら、根本的な視点に立って、必要な措置を講じていかなければならないと考えている。ただ、わが国経済が依然として厳しい状況を脱していないということから、政府としては引き続き景気回復に万全を期す所存である。
  • 日本銀行におかれても、政府による施策の実施と合わせ、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的な金融政策を運営して頂きたい。

 経済企画庁からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 月例経済報告における政府の判断は、主として3つの内容から成っている。まず、第1に、全体としての需要の回復が弱く、雇用情勢も厳しいことから、景気はまだ厳しい状況を脱していない。しかし、第2に、生産や企業マインド等は引き続き改善しており、景気の緩やかな改善は続いている。第3に、景気の改善は、設備投資の回復など企業部門を中心に表われており、これは自律的回復に向けた動きの始まりと位置付けられる。こうしたわが国経済の状況をみると、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行ない、景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、揺るぎない構造改革を推進するということが最重要課題であると考えている。
  • 日本銀行におかれては、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で、かつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営して頂きたい。

VIII.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、現在のゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別の委員からは、CPIの上昇率に目標値を設定したうえで、本格的な量的ターゲティングに踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2001年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2000年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で10%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

篠塚委員は、(1)実体経済は、デフレ・スパイラル入りのリスクもあったゼロ金利政策導入時の緊急事態を脱し、最近ではデフレ懸念の払拭が展望できる情勢になっていると考えられること、(2)企業のキャッシュフローが積み上がっている中で、ゼロ金利を解除したからといって設備投資に悪影響が出るとは思われないこと、(3)ゼロ金利政策が長期化するほど、解除が一段と困難になるとともに、副作用に対する懸念も高まっていること、を理由に、上記採決において反対した。

中原委員は、(1)景気の現状から見て先行きの政策効果の息切れが懸念されること、(2)これほど長く将来の金利水準にコミットしているというのは世界でもあまり例がなく、そうしたことをやるのであれば、物価や成長率に関する予測を示すべきであること、(3)ゼロ金利政策は、継続か解除かの非連続的な政策であり、実体経済に合わせたファインチューニングができないこと、を理由に、上記採決において反対した。

以上


(別添)
平成12年 4月27日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上