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金融政策決定会合議事要旨

(2000年 6月12日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年7月17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 7月21日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年6月12日(9:00〜12:30、13:21〜15:48)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省 林 芳正 政務次官(9:00〜15:48)
  • 経済企画庁 小峰隆夫 調査局長(9:00〜15:48)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局企画役吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役内田眞一

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(4月27日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月15日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回の会合(5月17日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、概ね0.02%で落ち着いた展開を辿り、日銀当座預金残高は、5兆円前後での推移となった。

 この間、無担保コール市場残高が、1988年以来の7兆円台まで低下した。都銀等の資金ポジションが貸出低迷により一層好転していることや、市場参加者がRTGS(資金取引の即時決済)の開始を控えてDD取引(短資会社を介さない取引)を増やしていることが、こうした傾向をもたらしている。ただし、これまでのところ、市場機能自体が目立って低下しているわけではない。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 国内金融資本市場では、全体として、米国株価動向に振られやすい展開を続けている。5月後半までは、米国株価の大幅下落を受けて、株価が軟調に推移し、長短金利は、ゼロ金利政策解除の観測が後退したこともあって弱含んだ。6月上旬にかけては、雇用統計の発表などに伴う米国のインフレ懸念後退を受けて、内外の株価は持ち直した。

 各市場の特徴をみると、まず、株式市場では、時価総額ウェイトの大きい情報通信関連の株価が引き続き米国NASDAQの動きを反映して推移したため、全体としてもNASDAQとの連動関係が目立つ展開となった。また、春先まで日本株を買い越してきた外人勢は、5月には大幅な売り越しに転じた。市場では、株価の先行きについて、国内景気の持ち直しや企業収益の回復基調を買い材料とみる一方、売り材料としては、不安定な米国株価、総選挙を控えた国内政治情勢、持ち合い解消などが挙げられている。

 債券市場では、内外株価の軟調と、これを受けたゼロ金利政策の解除予想の後退を背景に、長期国債流通利回りが一時1.6%台半ばまで低下した。その後は、本行幹部の発言や1〜3月期のGDP統計などの各種経済指標の発表を受けて、1.7%を挟んだ推移となっている。この間、社債流通利回りの対国債スプレッドは横這い圏内にある。

 短期金融市場でも、5月後半に、ゼロ金利政策の解除観測がいったん後退したが、ここにきて再び強まっている。市場が予測するゼロ金利政策解除の時期は、9月頃との見方が多いが、7月との見方も出ている。

(2)為替市場

 円の対ドル相場は、106〜108円を中心とする方向感の欠ける展開が続いている。

 6月入り後、ユーロ高ドル安と1〜3月期の法人季報が強めの結果であったことなどを背景に、いったん105円程度まで強含んだが、1〜3月期のGDP統計が発表されたあとは、再び106円台に戻している。この間、外人勢は、日本株を売り越す一方、中長期債を大量に買い入れており、その動きの円相場への影響はニュートラルとみられる。

3.海外金融経済情勢

 米国では、内需主導の力強い拡大が続いている。ただし、住宅投資や耐久消費財支出の一部では、勢いが幾分鈍っている。物価面では、4月の消費者物価の上昇率がやや低下した。失業率は、依然低水準ながらも幾分上昇し、時間当たり賃金の伸び率もやや鈍化した。米国経済には、全体として、景気減速の兆しが出始めているように窺われる。

 ユーロエリアでは、輸出の好調と内需の拡大、雇用環境の改善が続いている。物価は、4月の消費者物価が前年比+1.9%と、ECBの物価安定の定義の範囲内(前年比+2%以内)に収まったが、コア・ベースの上昇率は幾分高まった。マネーの伸びは+6%台と、ECBの参照値(+4.5%)を大きく上回っている。こうした情勢を踏まえ、ECBは6月8日に0.5%の利上げに踏み切った。

 NIEs、ASEAN諸国では、総じて高目の成長が維持されている。輸出が好調であり、既往の景気浮揚策の効果も浸透している。物価上昇率は依然低いが、需給の引き締まりや原油高、さらには一部国の通貨安もあって、緩やかに高まりつつある国が多い。

 米国金融市場では、インフレ懸念の後退から、国債利回りやFF先物金利が明確に低下しており、次回6月末のFOMCにおける利上げ観測は大きく後退している。株価は、5月下旬にかけて軟調に推移したあと、6月上旬には、インフレ懸念の後退等を好感して反発した。

 欧州の長期金利は、米国長期金利の低下とユーロ相場の反発を背景に、低下傾向を辿った。各国の株価は、基本的に米国株価につられる展開になった。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要については、純輸出が増加傾向を辿っているほか、公共投資も補正予算の執行に伴い増加している。一方、民間需要では、住宅投資が緩やかに減少しており、個人消費もなお回復感に乏しい状態が続いている。しかし、設備投資は増加を続けている。

 こうしたもとで、生産は増加を続けており、企業収益の改善も明確化するなど、企業部門は予想以上の回復となっている。家計部門では、雇用者数、賃金の両面で減少傾向に歯止めが掛かりつつあるが、企業の人件費抑制スタンスに目立った変化がない中で、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。

 物価の現状には、大きな変化はない。

 以上のように、わが国の景気は持ち直しの動きが明確化しており、企業の業況感や収益の改善を背景に、設備投資の増加が続いている。民間需要は、設備投資を起点とした自律回復過程に入りつつあるが、個人消費の増加を伴う本格的な立ち上がりまでには、なお時間を要する可能性が高い。

 先行きについては、外生需要面では、純輸出が情報関連財の好調に支えられて増加傾向を辿るとみられる。公共投資は、夏場までは緩やかな増加を続けるが、その後、徐々に減少に転じていくとみられる。

 民間需要のうち設備投資は、情報関連を中心に、当面緩やかな増加が続くと考えられる。一方、個人消費を支える家計の所得環境については、今後、所定内・所定外給与が、生産活動や企業収益の回復傾向の続くもとで、緩やかに増加する蓋然性が高い。反面、賞与の支給動向には、リストラや規制緩和への対応等も作用するとみられる。このため、賞与を含めた所得環境は、全体として改善に向かうとしても緩やかなものになると考えられ、今後の情勢をもう少しみきわめる必要がある。

 物価の先行きについては、国内需給バランスの緩やかな改善や、これまでの原油価格上昇の影響が、物価に対して上昇方向に作用するとみられる。一方、技術進歩や、流通合理化・規制緩和の影響は、低下方向に作用するものと考えられる。なお、これまでの円高の影響は徐々に薄れていくと見込まれる。こうした状況のもとで、物価は全体として、当面は横這い圏内で推移すると予想される。需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力については、民間需要の一部に回復の動きが出てきていることから、一頃に比べて後退しているものの、引き続き留意していく必要がある。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資スタンスにあるが、ヒアリングや各種D.I.からは、大手行などで貸出を増加させる姿勢が強まっていることが窺われる。また、社債、CPなどの直接金融市場では、クレジット・スプレッドが縮小したままの状態にあり、好環境は維持されている。

 企業の資金需要面では、キャッシュ・フローの増加などを背景に、実体経済活動の改善が外部からの資金に対する需要には結びつきにくい状況が続いている。また、企業サイドでは借入金圧縮スタンスを維持しており、この結果、民間の資金需要は依然低迷している。

 こうしたことを背景に、民間銀行貸出は、前年比マイナス幅が3、4月と2か月連続で縮小したあと、5月は再びマイナス幅を拡大した。この動きには、経営健全化計画の達成のために、一部の銀行が3月末に貸出を増加させ、その後反動減となったことが関係しているものとみられる。社債、CPの発行は、落ち着いた状態が続いている。

 この結果、5月のマネーサプライ伸び率は再び低下した。また、企業の資金調達コストは、依然低水準で推移している。

 以上のように、企業金融には緩和感が広がっているが、資金需要面での動意はなお出てきていない。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状について、大方の委員は、持ち直しの動きが続いているとしたうえで、ここにきて、企業部門の回復傾向が明確になってきていることに注目した。

 企業部門については、ほとんどの委員が、1〜3月期法人季報などを材料に、回復傾向がはっきりしてきているとの見解を述べた。

 まず、多くの委員が、企業収益では、増収増益のパターンが定着しつつあるなど、改善傾向が一段と明確になってきたとの見方を示した。このうちのひとりの委員は、人件費の低下などを反映して、損益分岐点比率の低下が鮮明になってきたことも指摘した。また、別の委員は、2000年3月期の増益が、輸出による生産の増加、リストラの効果、さらには金融収支の改善に支えられた減収増益型であるのに対し、2001年3月期決算見通しは増収増益型に切り替わっていることに着目した。ただ、この委員は、このような見通しは不透明感の残る2000年度下期の回復を前提としたものであるとして、やや慎重な見方もあわせて示した。

 続いて、上記の企業収益などの改善を背景に、設備投資の回復傾向が一層明確になってきたとの見方が示された。多くの委員は、2000年1〜3月期の法人季報によって、大企業ばかりでなく、中小企業の設備投資の増加も確認できたと指摘し、それを踏まえて、業種、企業規模による格差はあるにせよ、設備投資にも裾野の広がりがみられるようになってきたとの認識が共有された。このうちのひとりの委員からは、設備投資は、公共投資の減少分を穴埋めしながら生産を支える力を持ち始めているとの判断が示された。もっとも、何人かの委員は、設備投資の先行指標である機械受注が4か月連続で減少していることを指摘し、留意する必要があるとの考えを付け加えた。

 これに対して別のひとりの委員は、(1)法人季報は、首都圏再開発案件や大規模小売店舗立地法関係の駆け込み発注によって計数が膨んだ面が大きい、(2)名目設備投資の対名目GDP比率は、足許上昇過程に入ったが、その実勢は必ずしも強くない、として設備投資について厳しい認識を示した。

 家計部門の動向については、全体として回復感には乏しいが、雇用・所得関連指標では、徐々にしっかりとした材料が出始めているという見方が、大勢の評価であった。

 複数の委員は、個人消費の関連指標は強弱区々との見解を示した。このうちのひとりの委員は、百貨店やコンビニエンス・ストアの売上高、あるいは家電販売額といった各種販売統計はやや弱めであったが、消費者コンフィデンス指数は改善を続けており、直近4月の家計調査は統計の振れを考慮に入れたとしてもかなり強い、といった見方を述べた。

 雇用・所得環境のうち、まず雇用面については、複数の委員が、雇用者数の減少傾向が完全に止まったとは言い切れず、構造調整のもとでダウンサイドのリスクはなお残っているとの見方を述べた。しかし、これらの委員を含む多くの委員は、有効求人倍率や新規求人数が徐々に改善していることも指摘した。このうちのひとりの委員は、雇用関連統計は振れが大きいが、過去の経験では有効求人倍率の確度が最も高く、その改善傾向を踏まえると、雇用情勢は、徐々に改善の方向に向かい始めたと判断できる、との見解を明らかにした。また、その委員は、5月時点の労働経済動向調査(労働省)によれば、雇用調整を実施している企業の割合が低下し、来年度の新卒採用計画が大幅に改善していることも、前向きの材料として付け加えた。

 次に所得面では、何人かの委員が、経済活動全体の持ち直しを反映して、所定内給与と所定外給与がしっかりとした改善傾向を辿っていることを指摘した。また、夏季賞与に関しては、これまでの労使交渉の妥結状況を踏まえると、前年を幾分下回るかたちとなっているが、98年、99年のような大幅なマイナスは回避できるとの見方が多かった。

 以上の議論を踏まえ、大方の委員の認識は、家計の雇用・所得環境の悪化傾向はほぼ止まったという線に集約された。

 これに対してひとりの委員は、日本生活協同組合のアンケート調査では、家計が依然として消費を切り詰めている結果が出ており、また労働力調査によれば、適当な職が見つからないために求職活動をしていない人が445万人にのぼっていることを挙げて、個人消費を巡る環境はきわめて深刻である旨を強調した。

 物価動向については、何人かの委員が、国内卸売物価が前年比で小幅のプラスを続けている一方で、消費者物価や企業向けサービス価格が弱含みになっていることに言及した。それらの委員は、(1)国内卸売物価では、国内需給バランスの改善や原油価格上昇の影響が物価上昇の方向に作用している、(2)企業向けサービス価格では、通信分野などでの競争激化に伴う値下げは続いているが、オフィス賃料などの低下圧力がここにきて特に強まっている訳ではない、(3)消費者物価の弱含み傾向は、基本的には、これまでの円高の影響や一部外食産業の値下げ競争を反映したものである、といったことを指摘した。全体としては、需要の弱さに起因する物価低下圧力は徐々に後退している、との評価が多かった。

 会合では、何人かの委員が、1〜3月期のGDP速報についての評価を述べた。それらの委員は、直前の市場予想に比べれば低めの数字となったが、公共投資が3四半期連続の大幅減少となるもとで、民間需要が成長を牽引しているバランスのとれた姿となっており、自律的回復に向けた動きが確認できる材料である、との認識を示した。

 また、複数の委員は、GDPデフレータが前年比で大幅マイナスになったことについても言及した。これらの委員は、政府最終消費支出のデフレータが大きくマイナスになっている一方で、民間需要デフレータはほぼ横這いに転じており、GDPデフレータの動きをもってデフレ圧力が強いとみる必要はない、との趣旨の見解を述べた。

 以上の議論を踏まえて、景気の現状判断については、「持ち直しの動きが明確化している。民間需要面でも、設備投資の増加が続くなど、一部に回復の動きがみられる」との判断が委員の間で共有され、前回会合時と比較して、判断を幾分前進させることとなった。

 もっとも、ひとりの委員からは、企業部門の回復傾向がはっきりしてきていることや、雇用・所得関連でも徐々にしっかりとした指標が出ていることを踏まえると、景気の現状判断をさらに一段と前進させる余地があるのではないか、との意見が出された。

 逆に、別の委員は、(1)1〜3月期のGDPは閏年要因で嵩上げされている、(2)4月の景気先行指数が50を割り込んだことや、企業の出荷と在庫のバランスなどを総合すると、景気の山が接近しており、秋口に在庫調整に入る可能性がある、(3)日経景気インデックスでみても、これまでの回復は、97年3月の山から99年4月の谷まで下落した分の半分も取り戻していない、(4)過去の平均的な景気拡大局面が2年強とすると、すでに半分以上が経過している、(5)企業収益は、なお多額の特別損失を計上しており、依然厳しい状況にある、(6)原油価格は需要の強まりを背景に上昇する惧れがあり、今後の米国消費者物価の動きには注意を要する、などとして、慎重な景気認識を述べた。

 なお、この委員が景気循環の観点からいくつか発言したことについて、ほかのひとりの委員からは、現在の日本経済は、グローバル化の中で通用するような生産性や競争力を向上するために、構造調整に取り組んでいるところであり、その動きはこのような短期の循環論では捉えられないものであるとの趣旨の発言があった。これに対して、この委員は、(1)景気動向指数などは、在庫循環のような短期サイクルに着目した指標ではなく、景気全体を判断できる有力な指標であり、それらによれば景気回復はピークにかなり近づいている、(2)複数のサイクルとして、設備投資循環と建設投資循環を合成してみると、次の景気の大きなピークは、これらのヤマが重なる2010年頃とかなり先であり、それまでは景気に力強さが感じられないことになろう、との見方を示した。

(2)金融面の動き

 金融面では、最近の株価や金利の動きと実体経済の関係について、いくつか発言があった。

 まず、株価動向については、最近の不安定な動きには、米国経済・株価の先行き不透明感が主に影響しているとの見方が多かった。また、ひとりの委員は、こうした株価の動きが、今年後半の景気や企業収益の不透明感を示している可能性も否定はできないので、この動向については、為替市場の動きと合わせて注意深くみていく必要がある、との見解を述べた。

 もっとも、別の委員は、(1)株価が、景気持ち直しの明確化や、企業リストラの着実な進捗などを反映して形成されているという基調的な流れに変化は生じていない、(2)金融資本市場全体でflight to quality(質への逃避)が起きている訳ではない、(3)したがって、米国市場が落ち着けば、国内株式市場も安定するのではないか、との認識を明らかにした。また、ほかの委員からは、現状程度の株価下落であれば、実体経済に対して大きなマイナスの影響を及ぼすことはない、との考えが示された。

 これらとは別のひとりの委員は、日本の株価について、(1)市場の地合いは弱く、夏から秋にかけて98年10月の安値に接近する惧れがある、(2)海外投資家は、最近の日本株がNASDAQとの連動関係を強めたため、国際分散投資の観点でのヘッジ機能は低下した可能性があるとみており、これが海外勢の日本株売りにつながっている、と指摘した。また、その委員は、米国では、株価の高PER(株価収益率)や銀行貸出の伸びなど過熱感は根強く、これの修正過程でのマイナスインパクトが懸念されるほか、これまでの利上げによって、ラテンアメリカ諸国がかなりの影響を受けていることにも警戒感を表明した。

 市場の金利感に関して、複数の委員は、ユーロ円金利先物の動きなどをみると、市場参加者は、景気持ち直しの流れを踏まえ、年内のゼロ金利解除を既に織り込んでいるように窺われる、と指摘した。

(3)景気の先行き

 景気の先行きについては、企業部門の回復傾向が一段と明確になる一方で、家計部門では一進一退の動きが続いていることを踏まえ、民間需要の自律的回復の展望について、さまざまな議論が行われた。

 多くの委員は、「企業先行・家計遅行」の回復パターンはある程度予想されていたとは言え、企業サイドの回復がこれだけ明確になっているにもかかわらず、家計サイドがなかなか立ち上がってこないことをどのように整理すればよいか、という問題意識のもとで発言した。

 まず、何人かの委員が、(1)企業が感じているグローバル化や金融資本市場からのプレッシャーは非常に厳しく、資本収益率向上に対する意識はきわめて強い、(2)したがって、バランスシートの改善が引き続き最優先課題となっている、などの事情を挙げた。このため、かりに収益環境が改善してきたとしても、家計サイドにそれがすぐには伝わりにくくなっている、といった見方が示された。

 また、このうちのひとりの委員は、現段階の設備投資の回復力について、(1)IT投資は、依然としてITメーカー自体の投資が主流であり、ITユーザーの投資への広がりは限定的である、(2)IT以外の投資も優良企業を中心に着実に増加しているが、中堅中小企業まで括ると増加の動きはまだ少数である、などとして、今後の設備投資の広がりにはなお注目すべき点が少なくない、といった考えを示した。

 同時に、家計サイドの動きをどのように評価するか、ということについても議論があった。

 ひとりの委員から、家計部門の立ち直りが鈍いことについては、これまでの高すぎた労働分配率が調整されている過程にあることを踏まえてみていく必要があるとの趣旨の発言があった。

 また、別の委員は、最近の労働市場では、非自発的離職者が漸く減少に転じたが、長期間失業している人や摩擦的な失業者が増えるなど、ミスマッチが強まっており、家計部門の回復のためにはこうした構造的な課題の克服も必要であるとした。そのうえで、その委員は、5月央に政府が決定した緊急雇用対策は、労働需給のミスマッチ解消を重点としたもので時宜に適っている、との見解を付け加えた。

 さらにほかの委員は、(1)経済成長率が1%前後のもとで、所得面の目立った伸びを期待することには無理がある、(2)企業がリストラを続けているため、雇用面の悪化リスクはなお残るし、雇用の回復にも時間がかかる、(3)したがって、雇用・所得を合わせてみて、悪化が止まり、先行きの悪化リスクがほぼなくなることで、まずは良いのではないか、(4)また、消費支出も、所得の低迷、消費の構造変化、将来の社会保障など、先行きの不安があるもとでは、そう簡単には増加しない、(5)技術革新や流通革命を受けて価格は低下しているが、量は増えており、家計の実質支出額はそれなりに増加している、などと述べ、現状の家計の動きは「平時の状態」に向かいつつあるとの認識を強調した。

 以上のような企業と家計の状況を踏まえ、会合では、民間需要の自律的回復に向けて重要なことは、景気回復のエンジンである企業部門の回復が十分に強くなり、それが家計部門へ波及していく道筋が確保されているかどうかということである、との認識が大方の委員の間で共有された。

 そのうえで、それらの委員は、(1)企業サイドでは収益水準の上昇を背景に、設備投資や賃金などの支出余力は確実に高まっている、(2)これはいずれかのタイミングで家計部門に波及すると考えられる、との判断を共有した。また、こうした状況を「ダムの水位は上昇しているが、放水量がまだ増えていない」と表現する委員もいた。

 企業部門の回復の家計部門への波及をどう把握するかという点については、ひとりの委員が、所得がマイナスになるとか、消費者コンフィデンスが落ち込むといったことがなければ、そうした波及が進んでいる、と判断することが可能であり、すでにそうしたプロセスは始まっているとの考えを述べた。また、別の委員も、有効求人倍率の上昇や、所定内、所定外給与の増加は、こうした動きの始まりとしてとらえることが可能である、との見方であった。

 一方、何人かの委員は、構造調整などの影響もあって雇用・賃金面ではっきりとした動きが把握できないとしても、企業部門サイドで前向きの循環メカニズムがさらに強まっていれば、その効果はいずれ家計部門にも滲み出るはずであるとの展望を述べた。したがって、家計部門だけをフォローするのではなく、設備投資とあわせた民間需要全体の動きをみていくことによって、民間需要の自律回復力を判定していけばよい、との考え方を明らかにした。

 以上のようなやり取りを受けて、ひとりの委員が、景気の先行きについて総括的な見方を述べた。その委員は、まず、2000年度前半は、昨年度分の公共投資のキャリーオーバー(繰り越し)、輸出の大幅増加、設備投資の増勢持続などを背景に、生産は増加を続け、総需要全体としてプラス成長のモメンタムが維持されるとの見解を示した。また、年度後半以降については、財政面からの下支えが弱まる分を、民間需要がカバーできるかどうかがポイントであり、(1)家計部門は、急速には好転しないにしても、ゆっくりと持ち直すことが展望できる、(2)企業部門の前向きの循環メカニズムがさらに強まり、設備投資に弾みがつくかどうかは、次の短観で点検する必要がある、との考えであった。

 別の委員からも、民間需要の自律的回復の条件は少しずつ整ってきているが、今後は、短観などで企業部門の力強さを確認するとともに、雇用・所得関連指標の下げ止まり傾向がもう少しはっきりする必要がある、との認識が示された。

 このように、景気の先行きについて、委員の間では、民間需要の自律的回復に向けた道筋が見え始めているが、なお点検すべき点が残っている、というのが概ね共通の認識となった。

 物価の先行きについては、上記のような景気の先行き見通しを踏まえ、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は後退している、といった見解が示された。

 このうちのひとりの委員は、国内卸売物価で、これまで物価低下方向に作用していた機械類の価格低下の寄与が和らいでおり、こうした面にも需給バランスの改善の動きが浸透しているとの見方を述べた。また、別の委員は、消費者物価の低下について、これまでの円高の影響なども作用しているほか、企業収益の回復が明確になっていることも合わせて考えると、少なくともこの動きをもって、経済の中でデフレ的な動きが進んでいることにはならない、との判断を明らかにした。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)景気の現状は、持ち直しの動きが明確化している、(2)民間需要面では、設備投資の増加が続くなど、一部に回復の動きがみられる、(3)金融資本市場では、株価がやや不安定な動きとなっているが、総じてみれば、景気持ち直しと整合的な展開となっている、(4)先行き、民間需要の自律的回復に向けた道筋が見え始めているが、なお点検すべき点が残っている、(5)需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は後退しているが、引き続き留意する必要がある、といったものであった。

 以上の認識を踏まえ、多くの委員は、わが国経済は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に近づいてきているとの見解を共有した。

 具体的には、それらの委員から、「日本経済はデフレ懸念という状態からは離脱しつつある」、「ゼロ金利政策の解除基準に近い景気情勢になっている」、「ゼロ金利政策解除の機は熟してきている」などの発言が相次いだ。また、判断を一段と進めている別の委員は、「日本経済は、民間需要が主導する自律回復局面に入っている」として、コールレートの誘導目標水準を0.25%とすることが適当であると主張した。

 もっとも、民間需要の回復力について、なお詰めるべき点が残っているとの見方もほぼ共有され、当面の金融政策運営方針としては、現在のゼロ金利政策を継続することが適当である、との見解が大勢意見となった。

 会合では、ゼロ金利政策の解除について、様々な角度から議論が行われた。

 第1に、ゼロ金利政策の解除を主張した委員は、(1)民間需要の自律的回復を判断する際には、様々なリスクを点検することが必要だが、各々のリスクを完全にみきわめることは不可能であり、政策判断は、そうした不確実性のもとで下さなければならない、(2)そうして決定した結果、万が一経済が再度失速したらゼロ金利政策に戻ることもありうるという弾力性も必要である、との考え方を明らかにした。

 このうち、前者(1)については、ひとりの委員が、基本的には共感を示したうえで、これまで、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」という条件を示してきた以上、ある程度自信を持ってその基準が満たされたことを確かめる必要があると述べた。別の複数の委員からも、全てのリスク・ファクターをみきわめるというより、GDPギャップの縮小がある程度の期間にわたってみえてくるとか、民間需要の自律的回復が無理なく説明できるようなエビデンスが整うことが、ゼロ金利政策解除の条件であるとの発言があった。

 また、後者(2)についても、複数の委員より発言があり、政策運営の弾力性を否定するものではないが、日本経済が、過去2年近くの間非常に厳しい情勢にあったのも事実であり、そうした事態に陥るリスクは十分小さくなった、という見通しをしっかりと持ちたい、との見解が示された。

 これらとは別のひとりの委員は、政策運営の信頼性を維持する観点から、上記の2点について、(1)ゼロ金利解除のためには経済成長率がどの程度まで上昇すればよいかとか、(2)ゼロ金利解除後の金利水準を、最低どの程度の期間キープする必要があるか、といったこと等について、より具体的な条件を示していく必要があると指摘した。

 第2に、今後の情勢判断における家計部門の位置付けについて、議論が行われた。

 ゼロ金利政策の解除を主張した委員は、ゼロ金利政策解除の決断に向けて残された要件として各委員が想定しているのは、家計部門の改善なのか、それとも、内需全体の改善の動きなのか、という疑問をあらためて投げかけた。

 これについてひとりの委員は、家計部門の改善を期待しながらみることも必要だが、それとともに、家計回り以外のところで、これまで見ていたよりもさらに明確な改善の動きが出てくれば、それも経済全体の判断を一歩進める材料になりうる、との理解を説明した。そのうえで、その委員は、他の委員とともに、個人消費や雇用・所得環境だけではなく、設備投資も含めた民間需要全体を総合的に点検することが必要である、と見解を明らかにした。

 第3に、インフレリスクが顕在化していない段階での利上げをどのように整理するか、ということについて、何人かの委員が発言した。

 複数の委員は、ゼロ金利政策は、昨年2月に日本経済がデフレスパイラルの瀬戸際に陥ったことに対応して採った「極端な金融緩和政策」であり、経済の改善傾向が強まればその効果は一層強力になるとの認識を述べた。そのうえで、それらの委員は、このような極端な金融緩和政策を長い間続けていると、いずれは、経済の変動を大きくしたり、急激な金利上昇が発生するリスクが増大するなど、むしろ、経済の持続的な成長を損なう可能性が高まることになる、と指摘した。

 こうした認識を踏まえて、ひとりの委員は、デフレ懸念という状態から離脱しつつあるという状況を踏まえると、経済の回復力への配慮に万全を期しつつ、「極端な金融緩和政策」を微調整する局面になりつつあるとの趣旨の意見を述べた。また、何人かの委員からも、中長期的にみて、経済・物価の安定を確保するためには、経済の改善傾向に応じて金融緩和の度合いを微調整することが適当であるとの判断が示された。さらに「デフレ懸念の払拭」というゼロ金利政策解除の基準には、まさにこの考え方が盛り込まれているとの見解を付け加える委員もいた。

 また、以上のやり取りを受けて、ゼロ金利政策の解除は金融引き締めへの転換ではない、との認識が多く示された。

 第4に、財政政策運営とゼロ金利政策の解除との関係についても、言及があった。

 何人かの委員は、日本の財政事情を踏まえると、中長期的に財政再建が必要であり、財政面からの経済へのサポートが低下することは避けられないとした。ただし、このうちのひとりの委員は、本年度下期から来年度にかけての短期的な見通しということになると、不確実性がきわめて高いとの認識を示した。そのうえで、その委員は、かりに今年度下期に本格的な補正措置が採られなくても、民需の回復が大きくは阻害されないと言えるのであれば、それはゼロ金利政策解除の有力な材料となりうる、との見方を述べた。

 別の委員は、(1)過去3四半期にわたって、成長率に対する公共投資の寄与度がマイナスであったにもかかわらず、民間需要の自律的回復が徐々に見え始めている、(2)今年度当初予算が、国、地方で予定通り執行されれば、大きな成長抑制要因にはならない、(3)したがって、財政の先行きが見えないことを理由に、金融政策のアクションを控える必要はない、との見解を明らかにした。また、ほかの委員も、ゼロ金利政策を解除しても超低金利政策が続くことに変わりはなく、こうした金融政策運営は財政再建の方向性と十分に両立しうる、との考え方であった。

 各委員は、ゼロ金利政策の解除が市場や国民にどの程度理解されているか、ということについても、意見交換を行った。各委員の共通した認識は、(1)市場とのギャップは、なお埋め切れてはいないが、(2)それは着実に縮小してきている、というものであった。

 ひとりの委員は、市場はゼロ金利政策の解除をまだ十分には織り込んでいないとし、別の委員は、産業界の中で過剰債務・設備の処理を続けている先は、ゼロ金利政策解除に関する心理的な抵抗感がきわめて強いことを指摘した。

 しかし、別の委員は、経済指標の好転や、様々なルートを使った情報発信の積み重ねの結果、市場とのギャップは着実に縮小していると発言した。また、ほかの委員も、(1)主要な市場参加者は、様々なヘッジ手段を駆使したり、保有国債の短期化を図るなど、着々と金利上昇に備えており、これが市場の価格形成にも少しずつ反映されている、(2)金利先物からみたゼロ金利解除の予測分布は、9月以前のタイミングもかなり視野に入りつつあるようにみられる、(3)内外でゼロ金利解除を巡る賛否両論の議論が活発化しており、これ自体、市場の予想の強まりを示している、といったことを指摘した。そのうえで、この委員は、現状、すでにゼロ金利政策の解除が市場にとって全くの予想外ということではなくなっており、市場とのコミュニケーションはこれでほぼ十分と判断すべきである、との見解を明らかにした。

 さらにもうひとりの委員は、デフレ懸念の払拭は、物価と実体経済の動きをみきわめた総合判断であるが、それに加えて、経済情勢と金融市場の動向を勘案した「判断のタイミング」が重要であるとの考えをあらためて付け加えた。

 以上の議論とは別に、ひとりの委員は、CPI上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

 その理由としてこの委員は、(1)景気の先行きには警戒信号が出ており、物価もGDPデフレーター、消費者物価ともにマイナス基調である、(2)中小公庫、地銀協、商工会議所の調査では、中小企業の最近の業況感に明確な改善がみられない、(3)これまでの財政政策の効果が残っているうちに、これとシンクロナイズするかたちで量的緩和を行い、物価上昇率を引き上げるべきである、(4)何らかの政策運営ルールを明示し、市場との対話に役立てる必要がある、(5)日銀は物価の安定に責任を持っている以上、その目標数値を示して、説明責任、結果責任を明らかにすべきである、といったことを挙げた。

 なお、この委員は、(1)総選挙後の政権が今年度の補正予算をどう判断するかが全く不透明な段階でゼロ金利政策を解除するのは、日銀法第4条にある政府の経済政策との整合性が確保できていない、(2)ここで景気の見通しを誤ってゼロ金利を解除すると、今後、日銀の独立性が大きく損なわれることになる、といった見解も付け加えた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加え、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きも徐々に表れており、景気は緩やかな改善が続いている。しかし、足許の雇用情勢は依然として厳しく、個人消費も概ね横這いであるほか、米国経済にも不透明感がみられる。
    政府としては、これまで財政面からの下支えの手を緩めることなく、景気を本格的な回復軌道に繋げていくために万全の体制を採ってきたが、引き続き、平成12年度予算の円滑かつ着実な執行を通じて、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、民需中心の本格的な景気回復を実現するよう全力を尽くして参りたい。
  • 平成12年度予算における公債依存度が38.4%となるなど、わが国の財政が危機的な状況にあることを踏まえると、経済が本格的な回復軌道に乗った段階においては、財政構造改革について、必要な措置を講じていかなくてはならないと考えている。しかし、現状は、景気のみきわめが必要な段階にあるので、政府としては、引き続き景気回復に万全を期す考えである。わが国経済は、2四半期連続マイナス成長のあと、本年1〜3月はプラスに転じはしたが、今後の財政運営については、9月に公表される4〜6月期のGDPの結果を踏まえて、さらに判断を行うことが適切であると考えている。
  • 日本銀行におかれても、政府による諸施策の実施とあわせて、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的な金融政策を運営していただきたい。

 経済企画庁からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • 去る9日に公表したGDP速報によれば、本年1〜3月期の実質GDPは季節調整済前期比で2.4%の増加となった。この結果、平成11年度の実質成長率は0.5%と3年ぶりにプラスとなり、はっきりとしたプラス成長に転換するという政府の目標を達成した。
    景気は緩やかな改善が続いている。しかし、雇用情勢が依然厳しく、企業のリストラが続いていることなどから、夏のボーナスを含め、今後の所得や物価の状況などには注視していく必要がある。設備投資が持ち直していることは事実だが、実体経済にはかなりのGDPギャップが存在しており、回復の持続性と広がりはまだ明確にはなっていないと判断している。米国経済の先行きには不透明感もみられる。
  • 今月中旬以降に、2回目の景気動向指数研究会を開催し、景気の谷の暫定設定を行う予定である。これは、統計学術的観点から事後的に認定するものであり、現時点の景気判断に影響するとか、ましてや景気回復宣言になるということではない。
  • 日本銀行におかれては、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富でかつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切かつ機動的に金融政策を運営していただきたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気の現状は、持ち直しの動きが明確化している、(2)民間需要面では、設備投資の増加が続くなど、一部に回復の動きがみられる、(3)金融資本市場では、株価がやや不安定な動きとなっているが、総じてみれば、景気持ち直しと整合的な展開となっている、(4)先行き、民間需要の自律的回復に向けた道筋が見え始めているが、なお点検すべき点が残っている、(5)需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は後退しているが、引き続き留意する必要がある、といったものであった。

 こうした認識を踏まえ、会合では、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別の委員からは、CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定して、量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。」との議案が提出された。

 同委員は、前回会合まで、「なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」という文言を付した議案を提出していたが、今回はそれを削除した。この点について、同委員は、(1)なお書きは、99年2月以前に金融システムの動向が特に強く懸念されていたことを反映していたものである、(2)現在はデフレ懸念の払拭が展望できる情勢と判断しているため、このなお書きを付す必要はない、(3)もちろん不測の事態が生じた際に、必要な政策対応を講じることを否定するものではない、と説明した。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2002年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2001年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で15%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

篠塚委員は、(1)景気は民需主導の自律的回復局面に入っており、経済が再びデフレ・スパイラルの瀬戸際に陥るリスクは大幅に後退している、(2)景気が持ち直す中でゼロ金利政策を長期にわたって継続すると、その効果が行き過ぎてかえってマイナス面の影響が強まると思われる、(3)ゼロ金利政策を解除してもなお超低金利の状態であり、景気回復を支えていくことができる、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

中原委員は、(1)今年度後半には、景気が減速する可能性が高まっているので、金融面からさらに景気を刺激する必要がある、(2)地価の下落が続いており、不良資産の拡大や金融機関の貸し渋りを通じて、中小企業などの業況がさらに悪化する可能性がある、(3)市場との対話は、テーラールールやマッカラムルールなどの何らかの具体的な政策ルールを示すことで行う必要がある、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を6月14日に公表することとされた。

以上


(別添)
平成12年 6月12日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上