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金融政策決定会合議事要旨

(2000年 7月17日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2000年9月14日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2000年 9月20日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年7月17日(9:00〜12:31、13:13〜16:01)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省 村田吉隆 総括政務次官(9:00〜16:01)
  • 経済企画庁 河出英治 調整局長(9:00〜16:01)

(執行部からの報告者)

  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 国際局長平野英治
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 調査統計局企画役吉田知生

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役栗原達司
  • 企画室調査役内田眞一

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(6月12日)の議事要旨が全員一致で承認され、7月21日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回の会合(6月28日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、0.02〜0.03%で落ち着いた展開を辿った。

 この間、市場では、今回会合でのゼロ金利解除を見越してゼロ金利の間に準備預金の積みを進捗させる動きが台頭したため、先週末には、オーバーナイト金利に上昇圧力がかかった。もっとも、日本銀行が大量の資金供給を行ったこともあって、結果としては加重平均レートは0.03%となった。

  1. 「豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 短期金融市場では、今回決定会合での0.25%の利上げをほぼ完全に織り込む動きとなった後、12日夕に発表された「そごう」の民事再生法適用申請により、解除観測は大きく後退した。ただ、金利の低下幅は、長めのタームほど小さく、仮に今回見送られても、8月ないし9月の会合で解除される可能性が大きい、という市場の見方を反映する形となっている。

 長期金利(10年債流通利回り)も、このような金融政策を巡る思惑を反映して概ね同様の動きを示した。もっとも、当面は、ゼロ金利解除の有無にかかわらず、1.6%から1.9%のレンジ内の動きにとどまるとの見方がコンセンサスとなっているように窺われる。

 株式市場では、長短金利の上昇にもかかわらず、米国株価の堅調を背景に、強含みで推移したのち、「そごう」の民事再生法適用申請を受けて17,000円ぎりぎりまで水準を切り下げた。この間、NASDAQの急落以降続いていた外国人投資家による日本株の売却は、一服してきている。

(2)為替市場

 円の対ドル相場は、ゼロ金利政策解除観測が強まっているにもかかわらず、むしろ円安方向の動きとなっている。これは、(1)米国株価が堅調に推移していること、(2)一部格付機関による日本国債格下げや「そごう問題」など日本サイドの悪材料が続いたこと、などによるものである。市場の一部には、この段階でのゼロ金利政策解除は、日本経済にマイナスとの見方から円安要因になるとみる向きもある。

3.海外金融経済情勢

 米国では、内需主導の力強い拡大が続いているが、最近の経済指標には景気減速を示唆するものが多い。これに伴い、次回FOMC(8月22日)での利上げ観測は後退しており、長短金利は低下している。FRBでは、こうした景気減速が持続的なものかどうか、見極める姿勢を示している。

 ユーロエリアでは、輸出の好調に加え、内需が拡大を続ける下で、生産は増加基調にあり、製造業のコンフィデンスは既往ピークを更新した。雇用面でも失業率が低水準で推移している。こうした状況下、欧州中銀は、7月6日の定例理事会で、政策金利の据え置きを決定した。その際の記者会見でドイセンベルク総裁は、「今後数か月を展望すると、輸入物価上昇がラグをもって消費者物価上昇率に影響を及ぼすであろう」と述べ、インフレリスクを念頭に置いた政策スタンスを示唆した。

 NIEs、ASEAN諸国では、米国、日本等への情報関連財輸出が好調を持続していることや、既往の景気浮揚策の効果浸透等から、個人消費に加え、設備投資でも持ち直しの動きが続いている。この間、インドネシア、フィリピン、タイでは、構造改革の遅れなどを背景に、自国通貨の軟化や国債の対米国債スプレッドの拡大などがみられている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要をみると、外生需要面では、純輸出が、緩やかな増加傾向を辿っているほか、公共投資も増加しているとみられる。国内民間需要面では、設備投資が増加を続けている。個人消費については、一部指標にやや明るさが窺われるものの、全体としてはなお回復感に乏しい状態が続いている。住宅投資は横這い圏内で推移している。

 こうした最終需要動向の下で、生産は増加を続けており、企業の収益や業況感も改善を続けている。特に製造業においては、情報通信関連分野を中心に、内外需要の増加が設備投資を誘発する構図が中小企業にも拡がるなど、前向きの循環メカニズムが強く働いている。家計の所得環境は、引き続き厳しい状況にあるが、所定外給与や新規求人数が増加するなど、企業活動回復の好影響が家計部門にも一部及びつつあり、雇用者数や賃金の減少傾向には歯止めが掛かりつつある。

 以上のように、わが国の景気は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している。今回は、6月短観において、(1)製造業を中心に輸出、生産、収益、設備投資の間で好循環が生じていること、(2)中小企業の設備投資の上方修正が続いていること、の2点が確認されたことから、景気の現状判断を前進させた。

 物価面をみると、国内卸売物価は、横這いの推移となっている。一方、消費者物価は、輸入品・同競合商品の値下がりが続いており、総じて幾分弱含みで推移している。この間、企業向けサービス価格は通信料引き下げなどを反映して下落幅が一時的に拡大した。

 先行き、景気回復の持続性を考えるうえでの焦点は、公共投資が今後減少に転じていくとみられる下で、他の需要がそれを克服できるかどうかにあるが、次のような点を踏まえると、緩やかな景気回復が持続する可能性が高いと考えられる。第1に、輸出は、好調な情報関連財需要と堅調な世界景気を原動力に増加を続ける可能性が高い。第2に、設備投資についても、情報関連分野が引き続き増加傾向を辿るほか、中小企業も、過去の収益と設備投資の関係からみて2000年度の設備投資は上方修正されると考えられる。第3に、個人消費については、消費者コンフィデンスが雇用不安から下振れするリスクは小さくなっているだけに、雇用者所得の増加が明確になれば、緩やかな増加に転じることが展望できる。雇用者所得については、当面賞与の増加に大きな期待が持てないとしても、生産活動に見合う形で、今後、所定内・所定外給与を中心に極めて緩やかに増加していく蓋然性が高い。第4に、在庫については、現在、需要好調な電気機械の分野では出荷増に見合った在庫の積み増しが行われているが、公共投資関連財については、メーカーが慎重な生産スタンスを維持しており、公共投資の減少が大幅な在庫調整の引き金となる可能性は低い。

 この間、留意点としては、輸出、生産、収益、設備投資の連鎖を牽引している情報関連分野で、わが国のみならず、海外でも活発な設備増強が行なわれている点が挙げられる。このため、万一供給能力が需要の伸びを上回り、価格が急落するような事態となれば、同じルートで負の連鎖が働き、景気にもかなりのダメージが生じ得る。もっとも、現在の需要の強さからみて、当面、そうしたリスクは小さいと思われる。また、「そごう」の民事再生法適用申請の影響については、失業・連鎖倒産の面で大きな問題を生じさせる可能性は小さい。懸念すべき点があるとすれば、こうしたことを契機に予想外に消費者心理の冷え込みや企業マインドの下振れが起こるといったケースであろう。この点は、引続き状況をフォローしていきたい。

 物価の先行きを規定する要因についてみると、まず国内の需給バランスについては改善傾向が今後も持続すると予想される。こうした展望の下で、経済全体として需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している。もっとも、技術進歩が一定の幅で影響するほか、流通合理化や規制緩和の影響も低下方向に働くとみられる。こうした状況の下で、物価指数は、全体としてみれば、横這いないしやや弱含みで推移すると予想される。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、基本的に慎重な融資スタンスにあるが、ヒアリングや各種D.I.からは、大手行などで貸出を増加させる姿勢が強まっていることが窺われる。また、社債、CPなどの資本市場でも好環境が維持されているが、金利上昇予測やクレジットリスクに対する意識といった面で、変化の兆しも若干見られ始めている。例えば、CP市場では、金利上昇を見込んだ駆け込み発行がみられた。また、社債市場では、これまで縮小を続けてきた信用スプレッドが若干拡大した。これらは、まだ大きな動きとはなっていないが、今後、資本市場を見ていくうえで重要なポイントとなるものと考えている。

 他方、民間の資金需要は依然低迷している。このため、民間銀行貸出は、基調としては弱い動きが続いており、社債、CPの発行も、落ち着いた状態が続いている。

 この結果、マネーサプライの伸び率は、2%前後の伸びが続いている。先行き7〜9月期は、4〜6月期に比べ、伸び率が幾分鈍化する見通しにある。

 以上を背景に、企業からみた金融機関の貸出態度は厳しさが後退しており、企業金融には緩和感が広がりつつある。国民生活金融公庫の調査によれば、これまで遅れていた小企業についても、資金繰りや貸出態度判断に改善の動きがみられている。

 この間、企業倒産件数は、このところ概ね月間1,500件台の動きとなっているが、その中で、建設業のウエイトが上昇している点が特徴である。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状と先行き

 会合では、前回会合以降に公表された各種の経済指標や6月短観の結果などに基づいて、景気の現状と先行きに関して、議論が行われた。

 まず、公共投資について、ある委員は、補正予算の執行に伴い幾分増加しているが、今後緩やかに減少することが見込まれると述べた。また、この委員は、住宅投資は、昨年比微減程度で推移しており、景気の大きな抑制要因とはなっていないとの見方を示した。さらに、輸出については、輸出入それぞれの前年比の動きを比較すると、純輸出の増加傾向が続いていると述べた。

 企業部門については、ほとんどの委員が、6月短観の結果などを踏まえ、回復傾向がはっきりしてきており、企業規模・業種にも広がりがみられてきているとの見解を述べた。

 まず、生産について、ある委員は、輸出に加えてやっと設備投資の増加というプラス要因も出てきており、明確に回復軌道に乗ったとの判断を示した。こうしたもとで、企業収益についても、複数の委員が、増収増益のパターンが定着しつつあると述べた。

 また、多くの委員が、設備投資の増加傾向とその広がりに言及した。何人かの委員は、6月短観では、前回短観に比べかなり広い範囲で増額修正が行われており、現在の生産・収益の状況を踏まえれば、今後もかなりの増額修正が期待できるとの見方を示した。このうち一人の委員は、こうした見方は、機械受注など先行指標の動きとも整合的であると述べた。また、別の委員は、機械受注の先行きについて、日本機械工業連合会の受注見通しなどから判断して、7〜9月期も強めの数字が期待できるとの見方を示した。さらに、一人の委員は、IT関連の設備投資が素材産業や中小企業にも波及しており、これらの先での設備投資を誘発していると述べた。

 こうした議論を踏まえて、企業部門の回復のモメンタムは一段と強まっているという認識が、概ね共有された。

 これに対して、一人の委員は、(1)企業がROAを気にするようになると設備投資の伸びはそれほど高くならない、(2)日本の場合、IT関連産業が鉱工業生産に占めるウエイトは15%程度にすぎず、IT投資が経済を引っ張っていく程度は、米国に比べて小さい、と述べ、他の委員に比べ慎重な見方を示した。

 家計部門の動向についても、多くの委員は、最近では企業部門の改善が徐々に波及し、雇用・所得環境にも改善の方向が見えつつあるという見方を示した。ただ、念のため、夏季賞与の動向が表われる6月の関連指標もみたうえで、全体の雇用・所得環境を最終的に確認したいという意見もあった。

 まず、雇用環境について、複数の委員は、リストラ圧力は続いているものの、先行き期待が持てる状況にあるとの認識を示した。このうち一人の委員は、最近の各種指標について、常用労働者数が前年比若干のマイナスとなっている以外は、失業率、有効求人倍率、新規求人倍率、求人数など、いずれも雇用情勢の改善を示していると指摘した。また、別の委員は、製造業・卸小売業・サービス業など、常用労働者数が減少している業種でも、新規求人数が増加していると指摘し、雇用の減少傾向には歯止めがかかってくることが期待できると述べた。さらにもう一人の委員は、失業率については、需要不足よりも、このところ就職率のみならず充足率も低下しているところから、ミスマッチによる部分が大きい、との見方を示した。これに対して、別の委員は、労働参加率が低下していること(15歳以上の人で就職活動をしていない人の割合が増えていること)を指摘し、失業率が低下しているといっても、実態は失業率の数字よりもかなり悪い可能性があると示唆した。この間、一人の委員は、企業部門にリストラ圧力が残存していることを理由に先行きの雇用のダウンサイド・リスクは残るとして、引き続き雇用に対して慎重な見方を示した。

 所得環境については、何人かの委員が、一人当たり名目賃金は緩やかに持ち直してきているとの認識を示した。まず、所定内・所定外賃金については、(1)生産の増加を反映して残業代が増加を続ける中、(2)所定内給与も本年入り後は1%前後の伸びとなっており、伸びはさほど大きくないものの安定してきているという認識が概ね共有された。次に、特別給与については、各種の調査結果を踏まえると、夏季賞与は概ね前年並みで着地する可能性が高い、との指摘が何人かの委員からあった。これに対して、別の複数の委員は、今月末にかけて公表される6月の指標もみたうえで、全体の状況を最終的に確認したいと述べた。

 この間、一人の委員は、「人件費の伸びをマイナスにしないと労働分配率は下がらない」といった見方があるが、これは誤りであるとの見解を示した。すなわち、いくつかのシュミレーションによれば、短観で想定されている程度の売り上げの伸びを前提とした場合、人件費の伸びをある程度抑制すれば、労働分配率は2年程度でバブル期以前の水準に戻るとみられると述べた。

 次に、消費性向について、ある委員は、概ね70%から72%台をキープしており「身の丈に合わせた」スタンスが維持されているとコメントし、消費は平時に入ってきていると述べた。また、別の一人の委員も、5月の消費水準指数(全世帯)は前月に続いて強めの数字となったと指摘し、消費性向は今年に入ってから緩やかに回復基調になってきているとの見方を示した。ただ、この委員は、消費者センチメントの指標の中には、最近の株価動向や、雇用・所得情勢の改善が極めて緩やかなことを反映して、改善の一服を示すものもある、と付け加えた。

 こうした情勢の下で、多くの委員が、個人消費について、現状、回復感には乏しいが、先行き若干の好転が望める状況になってきているとの見方を示した。ある委員は、雇用者所得が、昨年までの減少から今年は小幅ながら増加に向きが転じつつあり、その傾向がここ数か月続いていることから、仮に消費性向を横這いとしても、個人消費が成長率にプラスに働く見通しになってきたとの見方を示した。また、別の委員も、(1)個人消費は、循環要因だけでなく、構造要因が大きく作用している、(2)構造調整を抱える中で雇用・所得が伸びるには時間がかかると考えられるが、企業収益の回復、現金給与総額の増加傾向、完全失業率の低下、消費者物価の安定など個人消費を押し上げる環境は整ってきた、と指摘し、個人消費が大きく減少するリスクはほぼ解消したと述べた。

 これに対して、景気に慎重な見方をしている一人の委員は、(1)日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、「支出を減らしている」と回答している家計の割合は98年以降ほとんど変わっておらず、消費者マインドは改善していない、(2)民事再生法の施行や政府税調の増税路線が消費者マインドにマイナス方向に働いている、(3)中小企業就業者や自営業者の世帯の消費は、倒産動向との相関が強いが、最近の倒産増加の最大の原因は「売り上げ不振」であり、これは名目GDPが伸びていないことと関係している、とコメントした。

 以上の議論を踏まえて、景気の現状判断について、「企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している」との判断が委員の間で概ね共有され、前回会合時と比較して、判断を前進させることとなった。

 一人の委員は、景気は、民間需要の自律的回復による持続的成長が確たるものになる途上であるが、その道筋はみえてきており、回復軌道に乗った、との評価を付け加えた。

 また、会合では、こうした設備投資を中心とする景気回復の持続性について様々な角度から議論が展開された。

 ある委員は、景気循環面から現在の景気の持続性についてコメントした。すなわち、(1)過去の景気拡大局面の長さは平均34か月である、(2)2年そこそこで拡大局面が終わってしまったケースもあるが、これは、オイルショックのような強い外的ショックにさらされた場合か、設備投資に点火しなかった場合のどちらかである、(3)現在設備投資は明確に増加に転じているが、資本ストックの伸びはなお低く、旺盛な技術革新を考えると、近い将来にストック調整圧力が高まるとは考えにくい、との見方を示した。また、他のひとりの委員とともに、在庫循環もまだ若く、近々調整局面に入るという見方は悲観的すぎる、と述べた。

 別の委員は、今後、大きな外的ショックが起こらなければ、設備投資を中心とする景気の好循環が維持される可能性が高いとの見方を述べた。この委員は、97年と現在の局面の比較を示し、97年当時は、(1)金融システム問題、(2)アジア金融危機、(3)財政政策の転換などによって景気後退がもたらされたが、現在は、当時とは状況が異なると述べた。すなわち、金融システムの状況は、万全とはいえないにしても97〜98年の状況からは大きく改善していると指摘した。また、財政政策との関係では、仮に今年度の補正がなくても、現在の設備投資の源泉が、政府関係支出とは別のIT関連などの分野で起こっており、設備投資を中心とした経済の好循環は持続していく可能性が高いとの見方を示した。さらに、輸出に関しては、米国経済のスローダウンの程度は明確ではないが、海外経済全体としては成長率の上方修正が続いており、大きなネガティブショックは当面想定しなくてよいのではないか、とコメントした。

 さらに、会合では、「そごう」の民事再生法適用申請の影響について、多くの議論が行われた。

 まず、「そごう」の破綻それ自体としては、(1)金融機関は債権放棄の枠組みの中で既に引き当てを積んでいること、(2)少額債権の保護などもあり、納入業者の連鎖倒産の影響も小さいと考えられることなどから、悪影響は限定的なものに止まる、という点で委員の見方は概ね一致した。

 ただ、処理の枠組みが突然変更されたことに伴う影響については、様々な議論が行われた。ある委員は、この問題の本質は既に生じてしまった損失の分担の問題であり、債権放棄か民事再生手続きかという処理方法の違いによって経済に与える影響が異なるとは考えられないと述べた。また、別の複数の委員も、この問題をきっかけに金融システム不安やクレジット・クランチが発生し、マクロ的な影響が生じるリスクは小さいとの見方を述べた。このうち一人の委員は、金融機関は、問題企業の状況をかなり正確に把握した上で、経営方針・融資方針を決めているはずなので、金融機関の信用供与の面で大きな影響が起こる可能性は小さいとの評価を示した。

 こうした中で、多くの委員が、心理面の影響に言及した。一人の委員は、「特定セクター」のストック問題に対する警戒的な見方が一般的に根強いことを指摘し、他の何人かの委員とともに、今回処理方法が突然変更されたことが、市場や企業心理にどういう影響を与えるかもう少し確認したほうが良い、との見方を示した。

 これに対して、一人の委員は、(1)「そごう問題」によって、構造改革の本格化に引き金が引かれ、94〜95年、97年に続き、金融危機の第3幕が開くかもしれない、(2)現状、株価が低水準の企業が大きな借入金を抱えており懸念される、と述べた。

 このような議論の結果、景気の先行きについては、「海外経済等の外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い」というのが概ね共通の認識となった。

 物価については、上記のような情勢を踏まえ、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している、といった見解が概ね共有された。

 多くの委員は、本年度の成長率がある程度高いものになるという見通しが立ってくる中で、当面は需給ギャップが縮小に向かうことは確実になってきたとの認識を示した。ただ、そのうち一人の委員は、生産関数に基づいて推計した需給ギャップは依然として大きく、物価下落圧力は、弱まったとしても引き続き存在する可能性も否定できない、と付け加えた。これに対して、別の委員は、(1)景気が底を打って回復に向かう段階では、需給ギャップは常に大きいものだが、景気はそうした状況から立ち上がってくるものである、(2)こうした経験則を踏まえると、需給ギャップが大きいことは事実としても、物価の先行きを判断するうえでは、むしろ現在の設備投資を中心とした回復のモメンタムに着目することがより重要なのではないか、とコメントした。

 また、多くの委員は、現実の物価の動きの中から需要不足による下落圧力が残っているかチェックしていくというアプローチに立って、それぞれの物価指数の動きの背景について分析を示した。

 まず、国内卸売物価が前年比でプラスになっていることについて、ある委員は、原油価格上昇の影響を除いても、下げ止まり感が強まってきたと指摘した。また、別の委員は、国内卸売物価が前年比で強含んでいるというのは、バブル崩壊以降初めてのことであって、それだけ、企業活動が活発化しているということではないかとの見方を示した。さらに別の委員は、国内卸売物価を見る限り、需要不足による下落圧力はほとんどみられないとの見方を示した。

 消費者物価が前年比で小幅の減少を続けていることについて、ある委員は、日本の物価は国際的にみてなお高すぎることも踏まえれば、IT革命や流通合理化によるいわば価格破壊的な動きを反映したもので、需要の弱さによる物価下落とは峻別して考えるべきであると述べた。また、もう一人の委員は、最近の消費者物価の下落は、主として、供給サイドでユニット・レーバー・コスト(一人当たり賃金/生産性)が下がっていることや流通革新の動きによるものであるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、消費者物価が若干弱含むという傾向はしばらく続くと思われるが、今のところ、企業収益の増加と両立していることから、デフレ的とみなすには当たらないと述べた。さらに、別の委員は、短観の製品需給判断が緩やかに改善している一方で、製品価格判断が足踏みを続けている点に言及した。この委員は、その背景としては、(1)内外価格差の是正、(2)技術革新、(3)流通革命などの動きがある、と指摘した。そのうえで、企業収益が増加し、雇用者所得も減少していないという状況を踏まえれば、消費者物価が軟化したとしてもデフレ・リスクは伴っていない、との見方を示した。また、もう一人の委員は、ユニット・レーバー・コストの低下には、生産性の上昇による部分と賃金の下落による部分があるが、このうち、賃金の下落は需給ギャップを反映しているとも言えるので、慎重を期するということであれば、夏季賞与を見たうえで全体の賃金が下げ止まったことを確認すればよいのではないか、と述べた。また、別の委員も、消費者物価の低下の背景については、さらに検討する必要がある、とコメントした。

 この間、ある委員は、企業向けサービス価格の一部、例えば、不動産・一般サービス価格の下落にはデフレ的な圧力が残っていると指摘し、その背景として、1980年代後半からの投資ブームで作り出された商業用不動産関連の過剰設備の影響が、商業用不動産の賃料や地価等に集中的に影響を及ぼしているという面があるのではないか、と述べた。もっとも、この委員は、一部の業種の構造的なデフレ圧力が問題ということではなく、あくまで全体としての物価水準を検証することが重要である、と付け加えた。

 地価について、ある委員は、東京を中心に空室率が低下していることや、一部調査によれば、東京・名古屋などの住宅地では底入れ傾向が明確化してきたことなど、景気と連動した前向きの動きもみられている、とコメントした。

 もっとも、一人の委員は、(1)景気は回復してきており、CI(コンポジット・インデックス)一致指数は97年3月のピークに近づきつつあるものの、力強さが感じられない、(2)一致指数と遅行指数の比率や交易条件の悪化などから判断して、本年10〜12月頃に景気が下降局面に入る可能性がある、などとして、慎重な景気認識を述べた。また、同じ委員は、(1)足許原油価格が下落しているが、産油国がさらに増産して在庫が十分補填されない限り、秋口から冬にかけて強含む惧れがある、(2)米国では原油価格の上昇によるコスト・プッシュ・インフレの惧れがあり、FRBもそうした問題意識を持っているのではないか、とコメントした。

(2)金融面の動き

 金融面では、「そごう問題」の株式市場等への影響、金融環境の評価などの点について議論があった。

 まず、「そごう問題」の金融資本市場への影響については、複数の委員が、株式市場は「そごう問題」公表の翌日は下落したが、その後は上昇していると指摘した。また、別の委員は、もしこの程度のショックで金融資本市場が著しく不安定になっていくのであれば、構造問題が市場の動きを経由して景気循環に悪影響を与えるというように認識を改めないといけないが、様々な市場動向を幅広く観察すると今のところそこまで心配する必要はなさそうであると述べた。ただ、市場の動きに細心の注意を払うという意味で、現在のような市場の動きが今後も定着していくかどうかもう少し見極めたほうが良い、と付け加えた。さらに別の委員も、投資家の一部には、今回の動きを構造改革の流れの一環として前向きに受け止める見方もあるが、他方、短期的にはある種の不安心理が芽生えていることも事実であると述べた。こうした議論を踏まえて、委員の認識は、この問題の影響が収束し、金融資本市場全般が安定する方向性を、もう少し見極めることが適当という点で、概ね一致した。

 金融環境について、ある委員は、企業の資金繰り判断、貸出態度判断などから、着実に改善していると述べ、現在の企業の資金需要、銀行の貸出スタンスなどから判断して、仮にゼロ金利政策を解除したとしても、企業金融の良好な環境は維持される、との見方を示した。また、別の委員も、設備投資が全体としてキャッシュ・フローの範囲内に止まっている中、外部資金調達が必要となるにはしばらく時間がかかると見込まれると指摘し、逆に言えば、資金調達コストが幾分上昇しても、強いマイナス・インパクトを与えることはない、との見通しを述べた。

 なお、一人の委員は、一部海外格付機関による日本国債の格下げに触れ、その背景として、名目成長率が国債の利子率を下回っていると国債残高が発散する惧れがあるが、そうした中で財政拡大が続いていることへの懸念があるのではないか、とコメントした。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)景気の現状は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している、(2)引き続き良好な金融環境が維持されている、(3)先行き、海外経済等の外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い、(4)需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している、といったものであった。

 以上の認識を踏まえ、わが国経済は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつあるとの認識が概ね共有された。

 すなわち、多くの委員から、「民間需要の自律的回復に向けた道筋が見えてきた状態に該当するといって良い」、「デフレ懸念の払拭という基準から見てゼロ金利解除の条件は満たされた」、「ゼロ金利を解除しても良いところに入ってきた」などの発言が相次いだ。

 ただ、多くの委員から、ゼロ金利政策解除のタイミングについては、いわゆる「そごう問題」が市場心理などに与える影響について、もう少し見極めてから判断しても良いのではないかという意見が出された。また、このうち何人かの委員からは、この問題の市場心理への影響とあわせて、企業マインドや消費者センチメントへの悪影響の可能性も指摘された。ある委員は、個別企業の問題が重要ということではないが、この問題が象徴している「特定セクター」の構造問題が世間で強く意識されている現状では、本日ゼロ金利を解除した場合に、企業家心理にマイナスのインパクトを与えてしまう惧れもないわけではないと述べ、今日のところは、解除を見合わせるのが適当である、との意見を示した。別の委員も、取り巻く経済諸情勢、とりわけ、いわゆる「そごう問題」の経済界、金融界に対する心理的な影響を考えると、判断のタイミングとしては決めがたい、と述べた。

 また、会合では、ゼロ金利政策の解除は金融引締めの第1歩ではないが、10年ぶりの金利引き上げであることも事実であり、情勢判断の最終的なつめに誤りなきを期したいとの意見も示された。具体的には、何人かの委員から、雇用・所得環境について、夏季賞与を含めた賃金全体の姿を念のため確認したいという意見があった。また、一人の委員は、これに加えて、消費者物価の動きについてもう少し見てみたいと述べるとともに、前回会合で言及した「テイラー・ルール」に基づく適正金利に関する分析結果について再度注意を喚起した。すなわち、(1)需要の弱さから物価の下落が加速していくリスクは極めて小さくなってきている、(2)ただ、「テイラー・ルール」に基づいて計算した適正金利は──こうした試算は大きな幅を持ってみる必要があるが──、ようやくゼロ近傍になったところである、(3)こうした中で、適正レートがもう少しはっきりとプラスになるまで待つという選択肢もありうる、と述べた。

 このような議論の結果、今回は、ゼロ金利政策の継続が適当との意見が大勢となった。

 これに対して、一人の委員から、民間需要の自律的な回復の展望は拓けており、今回ゼロ金利政策を解除すべきである、との意見が表明された。この委員は、経済の先行きに不確実性があるなかで、デフレ懸念が100%払拭されるか、あるいはそのかなり近くまで待つということになると、ゼロ金利政策が長期化し、その結果、(1)外的ショックが起こった場合などに国債引き受けなどの異常な政策に追い込まれるとか、(2)解除の際市場が過度に反応する、といったリスクが生まれる、と指摘した。そのうえで、金融政策は、データを分析し先行きを見通しながら、景気の情勢に応じて微調整していくことを基本とすべきであり、そうしたトラックレコードを積み重ねていくことが、日本銀行の信認を高めていくことにつながるはず、と述べた。

 この間、複数の委員が、仮にゼロ金利政策を解除したとしても、財政政策と方向が異なるわけではないとの見方を示した。このうち一人の委員は、ゼロ金利政策を解除したとしても超低金利の範囲内であり、政府の景気対策と整合的な金融緩和を実施しているということを、対外的に丁寧に説明していく必要があると述べた。この委員は、公共投資の成長率に対する寄与度は、昨年第3四半期から3期連続で前期比マイナスになっていると指摘した。また、もう一人の委員は、わが国の内需拡大に大きな関心を寄せている米国に対しても、ゼロ金利を解除したとしても、民間需要の回復が確たるものになるまで、超金融緩和状態を続けることに変わりはない、という点で理解を得られるはずであり、問題はない、と付け加えた。

 以上の議論とは別に、一人の委員は、CPI上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことを主張した。

 その理由として、この委員は、(1)現在の景気持ち直しは、財政・輸出等外生需要に支えられた面が大きく、先行きかなりの補正予算編成がなければ秋口以降財政政策の効果が剥落することを考えると、ここで一段の緩和を行い、潜在成長率まで成長を加速させるべきである、(2)中小・零細企業にまで景気回復が十分広がっていない、(3)「そごう問題」を受けて、ゼネコン・不動産・流通などの業界に対する影響や消費者・企業マインドの悪化などが懸念される、(4)地価の下落が加速し、マネーサプライが失速している、といったことを挙げた。また、この委員は、ゼロ金利政策の解除は、時間軸効果の消滅と実質的な量的緩和の終焉を意味する、と述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 景気は緩やかな改善が続いているが、雇用情勢は依然として厳しく、個人消費も概ね横這い状態となっている。設備投資は足許持ち直しの動きが明確になっているが、その持続性や広がりについてなお見極めが必要である。企業収益の大幅な改善が、雇用・所得環境の改善や個人消費の増加に繋がっていくのかどうか、まだ確信を持てる状況にはない。またこのような状況のもと、最近の大型企業倒産が雇用等様々な面において経済に及ぼす影響についても十分に注視する必要がある。物価面でもGDPデフレーター・消費者物価指数が前年比マイナスが続いている。このように、わが国経済がデフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になり、民需中心の本格的な景気回復を実現するかについては、なお見極めが必要な段階にあると考えられる。
  • 政府としては、引き続き景気の下支えに万全を期すため、速やかに公共事業等予備費を使用することとしたところであるが、今後とも平成12年度予算の円滑かつ着実な執行などを通じて、公需から民需への円滑なバトンタッチを図り、景気を民需中心の本格的な回復軌道に乗せていくよう全力を尽くして参りたい。わが国経済の先行きについては、なお見極めが必要と考えられることから、今後の財政運営のあり方については、4〜6月期のQEの結果などをよく見たうえで、さらに判断を行なうことが適切と考えている。
  • このような政府の経済運営の基本的考え方については、先般のサミット蔵相会合において各国に説明し、理解が得られたものと考えており、引き続き適切な経済運営に努めて参りたい。
  • 日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施と合わせ、経済の回復を確実なものとするため、金融為替市場の動向も注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を行なうなど、引き続き適切かつ機動的な金融政策を運営して頂きたい。

 経済企画庁からの出席者より、以下のような趣旨の発言があった。

  • 景気は、各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加えて、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きも徐々に強まっており、緩やかな改善が続いていると認識している。しかしながら、雇用状況は依然厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いている。企業倒産もこのところ増加をしており、金利の動向が及ぼす心理面を含めた影響には留意が必要と考えている。
  • こうした中で、今後のわが国経済を取り巻く環境を見ると、米国など世界経済の動向とその内外通貨や株式市場への影響、長期金利や円高の問題、設備投資の持続性と波及性、企業リストラの加速、金融再編・不良債権処理の企業活動に対する影響、地方の社会資本整備費の削減など、様々な不確定要因があると考えている。
  • 政府としては、経済を持続可能な持続的な回復軌道に乗せることを目指し、21世紀の新たな発展基盤となる経済社会の構築を図る観点から、日本新生プランの具体化のための新たな経済政策を取りまとめることとした。
  • 日本銀行におかれては、金融為替市場の動向も注意しつつ豊富でかつ状況に応じて弾力的な資金供給を行なうなど引き続き景気回復に寄与するような金融政策を運営して頂きたい。

VI.採決

 多くの委員の認識をあらためて総括すると、(1)景気の現状は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している、(2)引き続き良好な金融環境が維持されている、(3)先行き、海外経済等の外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い、(4)需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している、(5)以上を踏まえると、日本経済は、ゼロ金利政策解除の条件としてきた「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつある、といったものであった。しかし、最終的にゼロ金利政策を解除するためには、雇用・所得環境を含め、情勢判断の最終的なつめに誤りなきを期したいとの意見があった。また、最近のいわゆる「そごう問題」については、市場心理などに与える影響をもう少し見極める必要性があることが、留意点として指摘された。

 こうした認識を踏まえ、会合では、ゼロ金利政策を続けていくことが適当であるという意見が大勢を占めた。

 ただし、一人の委員からは、金融市場調節方針を、ゼロ金利政策を採用した昨年2月12日以前の方針に戻すことが適当であるとの考えが示された。一方、別の委員からは、CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定して、量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の3つの議案が採決に付されることとなった。

 篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2002年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2001年1〜3月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で15%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員、篠塚委員

篠塚委員は、(1)デフレスパイラルを懸念して導入した極端な緩和政策を、経済が改善する中でも続けていくと、将来の経済変動を過度に大きくするリスクが増大する、(2)持続的な景気拡大のためには経済情勢の変化に対応して金融緩和の程度を調整していくことが望ましい、(3)「そごう問題」のような先行きの経済情勢に対する不確実性は今後も前提として考えていかざるを得ないが、景気回復の蓋然性が高ければ、ゼロ金利解除に動くべきである、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

中原委員は、(1)需給ギャップは確かに縮小しているが、なお依然として大きい、(2)消費者物価やGDPデフレーターはマイナス幅を拡大している、(3)CPIの目標や成長率の見通しが不明確なもとでは、フォワード・ルッキングで、プリエンプティブな政策は採りがたい、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を7月19日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)需給ギャップは依然として大きく、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力が「大きく」後退したとはいえない、(2)消費者物価・GDPデフレーターなどの動きを踏まえれば、物価低下圧力の後退を過度に強調すべきではない、(3)いわゆる良い物価下落と悪い物価下落を厳密に区別することは困難であり、その計算方法も明らかになっていない、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

VIII.「本日の金融政策決定について」の検討

 会合では、今回の会合は市場の注目度が高く、一度は市場がゼロ金利政策の解除をほぼ織り込んだという経緯も踏まえれば、本日の決定についての考え方をとりまとめて、対外的に説明することが適当であるという意見が多く出された。これを受けて、別添2の対外公表文が賛成多数で決定され、同日公表されることとなった。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)本日は政策変更があったわけではない、(2)本日の公表文は抽象的表現が多く、ゼロ金利解除のための具体的な検討項目や数値が入っていない、(3)日銀は「市場との対話」を標榜して市場にゼロ金利解除の期待を充満させてきたが、この公表文では、本日の現状維持決定に至る経緯について市場などの理解を得られるか疑問がある、といったことを理由に挙げて、上記採決において反対した。

以上


(別添1)
平成12年7月17日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について、「ゼロ金利政策」を継続することにより、金融緩和効果の浸透に努めていくことを決定した(賛成多数)。

 すなわち、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりである。

 豊富で弾力的な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す。

以上


(別添2)
平成12年7月17日
日本銀行

本日の金融政策決定について

  1. (1)日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、いわゆる「ゼロ金利政策」を継続することを決定した。
  2. (2)委員会では、景気の現状について、「わが国の景気は、企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している」と評価した。また、先行きについては、「海外経済等の外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い」と判断した。
  3. (3)物価面では、こうした緩やかな景気回復が展望されるもとで、「需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している」と判断した。
  4. (4)以上を踏まえると、日本経済は、ゼロ金利政策解除の条件としてきた「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつあるというのが委員会の大勢の判断であった。
  5. (5)しかし、最終的にゼロ金利政策を解除するためには、雇用・所得環境を含め、情勢判断の最終的なつめに誤りなきを期したいとの意見があった。また、最近のいわゆる「そごう問題」については、市場心理などに与える影響をもう少しみきわめる必要性があることが、留意点として指摘された。
  6. (6)こうした点を総合的に検討した結果、上記方針が賛成多数で決定された。

以上