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金融政策決定会合議事要旨

(2000年12月15日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年1月19日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである

2001年 1月24日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2000年12月15日(9:00〜12:13、13:01〜14:31)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水優(総裁)(注)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口泰(  副総裁  )
  • 武富将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • (注) 速水委員は、月例経済報告等に関する関係閣僚会議に出席のため、9:00〜10:14の間、会議を欠席した。この間、藤原委員が、日本銀行法第16条第5項の規定に基づき、議長の職務を代理した。
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   村上誠一郎 総括政務次官(9:00〜14:31)
  • 経済企画庁 中城吉郎 調整局審議官(9:00〜13:22)
    小峰隆夫 調査局長(13:22〜14:31)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(11月30日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、0.25%前後で安定的に推移した。

 なお、年末越えの資金については、弾力的な供給を続けており、今後も、年末にかけて安定的な市場地合いを確保すべく適切な金融調節に努めていきたい。

  1. 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

 株価は、11月下旬にかけて、年初来の最安値を更新するなど、軟調に推移している。12月入り後は、米国NASDAQ指数が反発したこともあり、本邦株価も一時やや値を戻した。最近の特徴的な動きとして、(1)中低位株の買戻しの動きが目立っていること、(2)PERやイールド・スプレッドからみて日本株の割安感が出ているとの指摘が聞かれること、などが挙げられる。先行きについて、市場では、米国株価の動きや先行きの本邦企業の収益動向が鍵になるとの見方が多い。

 長期金利は、11月からの低下地合いを引き継いで、12月上旬に約1年半振りに1.5%台半ばまで低下した。その後、最近では1.6%台で推移するなど、値動きの荒い展開となっている。市場では、長期金利変動要因として、景気動向に対する注目度が高まっている。この間、民間債のクレジット・スプレッドは、総じて横這いないし縮小気味に推移している。

 短期金融市場では、金融機関の年末越え資金調達が山場を迎えており、ターム物金利が幾分上昇したが、本行の積極的な年末越え資金供給などを背景に、全体として落ち着いた市場地合いが維持されている。

 円の対ドル相場は、わが国の政局や景気回復に対する不透明感等から円安気味で推移し、最近では111円から112円台の動きとなっている。この間、ユーロ相場は、対ドル、対円ともに上昇した。

3.海外金融経済情勢

 米国の実体経済は、経済指標のうえからも、減速傾向が明確になってきている。例えば、実質個人消費が前月比横這いとなったほか、自動車販売、消費者コンフィデンス指数、全米購買者協会(NAPM)指数などが緩やかに低下している。また、クリスマス商戦の動きをみても、事前予想に比べてチェーンストアの売上高の伸びがやや鈍っている模様である。一方、雇用環境は引き続きタイトな状況が続いており、インフレ圧力はなお残存している。もっとも、11月の生産者物価は原油価格の反落の影響もあり、落ち着いた動きを示した。

 米国金融市場では、こうした景気減速を示す経済指標が相次いだことに加えて、グリーンスパンFRB議長発言(12月5日)が先行きの金融緩和を示唆するものと受け止められたことから、全般に金利が低下している。FF先物市場では、1月末のFOMCにおける利下げを予想する向きが多くなっている。また、株式市場では、NASDAQ指数が反発しているほか、株価のボラティリティーが低下するなど、足許、落ち着きを取り戻している。

 他方で、低格付け債のクレジット・スプレッドが引き続き拡大しているほか、金融機関の融資態度のタイト化もみられる。こうした金融環境の引き締まりの動きが設備投資などの実体経済活動に影響を与えることがないか、注意してみていきたい。

 アジア諸国では、なお堅調な成長が続いているが、このところ、輸出の伸びの鈍化が目立っている。韓国では、本年第3四半期まで高い成長率を示したものの、足許では、輸出の鈍化などを背景に、前期比ベースではゼロ成長に止まっている可能性がある。こうしたアジア経済のスローダウンがどのようなテンポで進むか、注意深くみていく必要がある。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気は、緩やかな回復傾向を維持しているとみられる。ただ、アジアにおける鉄鋼や一部の電子部品等の在庫調整の影響などから、純輸出が増加から横這いに転じているほか、公共投資も徐々に減少している。このため、生産の伸びが低下するなど、回復テンポはやや鈍化しているものと判断される。

 先行きについては、製造業を中心とする設備投資の増加が見込まれるほか、補正予算の成立を受けて、公共投資も一時的にせよ増加することから、生産活動の増加基調が崩れることは考えにくい。ただし、米国、アジアにおける景気のスローダウンの度合い次第では、輸出の調整がさらに大きなものとなる可能性があり、この点、米国クリスマス商戦の帰趨やNIEs諸国の景気減速の程度について、注意深くみていく必要がある。

 最終需要の動きをみると、実質輸出は、鉄鋼や化学など一部素材の減少や、情報関連財の増勢一服から、来春頃までは横這い圏内で推移する見通しにある。情報関連財の輸出については、アジア現地在庫の調整が長引いているうえ、欧米におけるパソコン需要の下方修正に伴い関連部品の需要も鈍化していることから、暫く停滞が続く可能性がある。

 設備投資は、製造業と非製造業とで勢いに差がついているものの、全体としては情報関連分野を主体に増加を続けている。先行指標である機械受注も、製造業を中心に引き続き増加している。一方、法人企業統計季報でみた7〜9月期の設備投資は、前期比−1.2%と小幅の減少となった。内容をみると、第1に、製造業・大企業では、12月短観で示された本年度設備投資計画と比べ、投資進捗が遅れ気味となっていることが窺われる。これは、受注好調な半導体製造装置等において一部基幹部品の増産が追いつかず、供給面のボトルネックが生じていることが背景にあると考えられる。したがって、本年度上期に計画された投資の一部が、下期、さらには来年度へ繰り延べられる可能性がある。第2に、法人企業統計季報では、非製造業・中小企業の設備投資が大幅な減少となっている。ただ、12月短観やその他機関による調査では、同セクターの投資計画が上方修正されており、実勢が掴みにくい状況となっている。

 次に、個人消費については、10〜11月の各種販売統計は総じて横這いのものが多く、一進一退の動きが続いている。また、消費財供給指数をみると、輸入品を中心に高目の伸びが続いているが、全体の伸びが高まる状態にはない。なお、輸入品が大量に流入していることに関し、流通在庫が増加しないかどうか、注意を要する。

 以上のような最終需要のもとで、10〜12月期の生産は、素材や電機の輸出一服から、増勢が鈍化する見通しにある。さらに、2001年1〜3月期については、素材や電子部品における生産調整が続くことなどから、増加テンポがさらに鈍化するとの感触である。ただ、生産の増加基調自体は維持されるとみている。この間、製造業の在庫循環をみると、生産財のうち、鉄鋼や化学にすでに調整色が出始めているが、電気機械生産財では、在庫率が低く維持されている。このため、目下のところは、製造業全般にわたる大きな在庫調整に至る可能性は大きくないとみられる。

 雇用・所得環境をみると、常用労働者数が横這い圏内の推移を続けている中、賃金が引き続き前年水準を上回っており、雇用者所得の減少傾向には歯止めが掛かっている。また、今冬季賞与は、民間では前年を僅かに上回る見通しにあるが、減額が予定されている公務員を含めてトータルでみると、ほぼ前年並みとなる可能性が高い。

 物価面をみると、国内卸売物価は、機械類の値下がりや電力料金の値下げ等の影響が石油関連製品の値上がりに勝る形で、やや弱含んでいる。消費者物価は、石油製品が上昇したものの、その他の輸入製品やその競合品の価格が低下しているため、幾分弱含みで推移している。

(2)金融環境

 民間銀行貸出をみると、前年比マイナス幅の拡大傾向には歯止めが掛かっているものの、依然、前年比−2%弱の弱い動きが続いている。資本市場では、CP発行が年末越えを中心に大きく増加し、Y2K問題を背景に著増した昨年に匹敵する水準に達している。一方、社債発行は動意が乏しい状況となっている。

 11月のマネタリーベース前年比は、郵便局による定額郵貯大量満期を控えた銀行券の一段の積み増しを背景に、前月(同+5.3%)に比べて伸び率を高め、+5.7%となった。ただ、12月以降は、前年がY2K問題に伴い大幅に増加したことから、その反動で前年比伸び率が低下する見込みにある。11月のマネーサプライは、前年比+2.1%となり、このところ、前年比2%程度の伸びが続いている。

 企業の資金調達コストは、短期は横這い圏内で推移しているが、長期は市場金利の低下を背景にやや低下している。この間、10月の貸出約定平均金利(新規実行分)は、ゼロ金利政策解除後の短期金利の上昇分を反映する形で、短期を中心に上昇した。

 企業金融面では、企業のキャッシュ・フローが高水準を続けているほか、12月短観でも、企業の資金繰り判断D.I.や企業からみた金融機関の貸出態度判断D.I.は悪化をみていない。このように、金融機関の貸出姿勢や企業金融はこれまでの緩和された状態が継続している。

 11月の企業倒産は、前月に比べて増加した。ただし、倒産件数は、夏場以降を均してみれば概ね横這いで推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状について、大方の委員は、前回会合以降の経済指標などからみて、輸出や生産を中心にやや減速感がみられるとの見方を示した。ただ、同時に、わが国の景気は、引き続き緩やかな回復を続けている、との認識を共有した。

 多くの委員から、公共投資や輸出の減速を背景に生産の増加テンポが幾分鈍化しており、回復の動きが足踏み状態になっている、との指摘が相次いだ。ひとりの委員は、12月短観において、業況判断D.I.が横這いから先行き低下となっていることや、本年度下期の企業収益が下方修正となっていることなどは、景気の足踏み感や先行き不透明感を反映している結果である、との見方を述べた。また、別のある委員は、わが国経済は、需要構造の変化に柔軟に対応した企業の成長やIT関連中心の設備投資活発化にみられるように、様々な構造変化を伴っており、二極分化ないし斑模様の回復にならざるを得ないとの認識を述べたうえで、回復テンポは緩やかなものに止まり、一時的に「踊り場」の状況になることもありうる、と発言した。

 もっとも、これらの委員は、同時に、(1)企業収益は、伸びは幾分鈍化する可能性があるものの、増益基調は維持されている、(2)短観や企業ヒアリングにおいて、IT関連の設備投資意欲が根強いことが確認できるなど、設備投資は増勢を維持している、(3)家計部門の回復には力強さが欠けるが、雇用・所得環境が緩やかに改善の方向に向かっている、といった点を挙げ、企業部門を起点とする景気回復メカニズムは維持されているとの認識を強調した。このうち、ひとりの委員は、製造業の稼働率指数が上昇傾向を続けていることや、短観において、設備過剰感、雇用過剰感が僅かながら改善の方向にあることを指摘して、需給ギャップが再び拡大に転じていることはない、との見方を述べた。

 各需要項目については、以下のような議論があった。

 まず、何人かの委員が、公共投資が前年度補正予算の執行一巡に伴い徐々に減少していることに言及した。このうちひとりの委員は、住宅投資が若干減少していることにも触れた。ただ、これらの委員は、こうした動きは予想の範囲内である、との認識を示した。

 輸出に関しては、多くの委員から、米国経済の減速を背景に、このところ勢いが鈍っている、との見方が示された。このうち何人かの委員は、米国経済の影響を受けて、東アジア経済の拡大テンポが鈍化していることが、わが国の輸出環境の悪化に繋がっている、との認識を述べた。

 設備投資について、何人かの委員が、7〜9月期の法人企業統計季報が設備投資の伸び鈍化を示唆していることに言及した。ひとりの委員は、部品メーカーの海外移転の動きが加速しているほか、設備過剰感が依然として強く、赤字企業がなお多い中小企業の設備投資低迷が全体の足を引っ張っている、との見方を示した。また、別のある委員は、機械受注の見通し達成率が2000年1〜3月期をピークに低下していることが懸念されると述べた。

 もっとも、何人かの委員は、同時に、(1)設備投資の先行指標である機械受注は、中小企業の設備投資動向を示すとされる代理店経由分を含めて、堅調な伸びを続けている、(2)12月短観では本年度の設備投資計画が上方修正されている、(3)大蔵省の景気予測調査や中小企業金融公庫の中小設備投資動向調査など、他のアンケートでは、設備投資の強めの動きが示されている、といった点を挙げて、全体としては設備投資の増加傾向は維持されているとの認識を示した。

 次に、個人消費について、多くの委員が、引き続き回復感の乏しい状態が続いている、との認識を述べた。ある委員は、家計の資産・負債を時価換算して得られるネットワース(純資産)が十分回復しておらず、そうしたストック面の負担から消費が抑制されている面もある、との認識を示した。ただ、ひとりの委員は、消費者ニーズが多様化し、売れる商品と売れない商品の二極分化がみられるなど、消費の構造変化が進行している中でも、消費財供給数量が回復していることを踏まえると、現在、消費は「平時」の状態にあると考えられると述べた。この委員は、技術革新、流通革命や内外価格差の縮小の動きなどを背景に価格が下落傾向にあるところ、名目所得が伸びない中でも、実質ベースの消費の伸びは、プラスを維持しているのではないか、と続けた。また、もうひとりの委員は、企業のリストラ圧力が引き続き根強いことに鑑みると、むしろ現在の消費は比較的健闘していると評価できる、と発言した。

 また、何人かの委員は、12月短観の雇用判断やその他の統計にみられるように、雇用・所得環境が緩やかながらも改善の方向に向かっており、そのことが、消費の回復をサポートするとの見解を示した。ひとりの委員は、名目賃金が引き続き前年を上回って推移しているほか、今冬の賞与も民間では3年振りに前年比プラスとなる見通しにあり、家計の所得環境はごくゆっくりと底固さをを増している、と発言した。ただ、複数の委員は、(1)冬季賞与は前年比プラスとはいえ、その増加幅はかなり限定的である、(2)最近の雇用環境や賃金の改善は、パート労働者によってもたらされている面があると考えられ、一般労働者にまで改善の動きが波及しているわけではない、(3)企業はリストラを継続しており、労働分配率の低下傾向は変わらないとして、雇用・所得環境の改善が個人消費の回復に繋がるにはなお時間を要する、との見方を示した。

 以上のような最終需要の動向のもとで、生産の増加テンポが幾分鈍化していることが、多くの委員から指摘された。また、在庫面について、何人かの委員が、輸出の伸び悩みの影響を背景に、鉄鋼等一部の素材産業において、在庫が積み上がり気味になっている、と述べた。ただ、このうちひとりの委員は、在庫のレベルはなお低い水準に止まっているため、生産の伸びは続き得る、との見方を示した。

 また、企業収益について、何人かの委員が、本年度下期以降、輸出の減速や製品価格軟化を背景に鈍化する可能性があるものの、増益基調は維持されているとの見方を述べた。これらの委員は、企業の売上高経常利益率が改善方向にあり、売上高が大きく下振れなければ、増益は確保できるとの分析を示した。加えて、為替相場が円安気味で推移していることが、輸出採算の改善、さらには企業収益の下支え要因になる、との認識を述べた。

 こうした中、ひとりの委員は、景気は足踏み、踊り場などといったことではなく、「後退」局面に転換する兆しが出てきたとして、他の委員に比べて慎重な景気認識を述べた。この委員は、その根拠として、(1)景気動向指数等の分析によると、2001年2月に景気の山を迎える可能性がある、(2)鉱工業生産指数の水準や機械受注額は2000年8月にピークを付けた可能性がある、(3)海外経済は、米国を中心に減速傾向がはっきりしてきた、(4)内外の株式市場が不安定である、といった諸点を挙げた。そのうえで、この委員は、実質GDPの前期比の動きについては、2000年に関しても、1〜3月期、4〜6月期がプラスで、7〜9月期、10〜12月期がマイナスのパターンを前年に続いて繰り返す可能性があると指摘した。

 物価動向について、多くの委員が、国内卸売物価が弱含み、消費者物価の下落幅が幾分拡大していること等を指摘した。こうした物価の動きについて、ある委員は、目下のところ、国内の需給バランスが崩れ始めているわけではないし、また企業収益や雇用・賃金全体を圧迫して、経済活動の低下をもたらすような事態にはなっていないと評価した。もうひとりの委員は、様々な物価の基礎になる賃金は前年比プラスで推移しているので、経済全体が深刻なデフレ状態にあるということではないと述べた。ただ、この委員は、とくに安値の輸入品流入増は競争力の乏しい中小企業にデフレ的影響を及ぼしうるので注意が必要であると付け加えた。こうした議論を踏まえ、多くの委員は、景気が足踏み状態に入っていく中で、先行きの物価情勢については、一段と注意深くみていく必要があるとの認識を共有した。

(2)金融面の動き

 まず、わが国の株式市場に関して、ひとりの委員は、株価は本年春のピーク比2割以上下落し、過去と比べてもかなり大きな調整を経たと述べたうえで、これは、最近の回復の「踊り場」状況を先取りしていたのではないか、とコメントした。この委員は、株価下落の経済面への影響について、(1)金融不安的な動きはまだみられていない、しかし、(2)企業マインドに対しては、例えば12月短観において電気機械等の業況判断が悪化したなど、若干の影響が生じているのではないか、との見方を示した。さらに、株価下落により株式含み益が減少すると、企業や金融機関のリストラの動きに悪影響が及ぶ惧れがあると続けた。別のある委員は、最近の株式市場は、経済の先行き不安等を背景に、企業収益改善というファンダメンタルズを株価に十分織り込んでいない、との認識を示した。さらに、この委員は、株価下落のインパクトとしては、時価会計による企業決算への影響が大きいとの見方を示したうえで、決算期末である3月末の株価に注目していると述べた。また、もうひとりの委員は、チャート分析を示しつつ、日経平均株価の直近の下値である14千円強のレベルを底として上昇に転ずるきっかけがなかなか掴めず、むしろ同下値を割り込む惧れもある、と発言した。

 米国株式市場についてのコメントもあった。ひとりの委員は、NASDAQ指数は99年10月を起点に上昇し、2000年3月にピークを付けた後、現在では99年10月の水準を割り込み、時価総額が約3兆ドル減少しており、バブルが崩壊したとみることができる、と述べた。この委員は、さらに、米国の景気減速の動きや新政権の経済政策に関する不確実性などを踏まえると、2月にかけて米国株価はさらに大きな調整局面に入る可能性がある、と指摘した。

 企業金融について、ある委員は、12月短観の資金繰り判断D.I.や貸出態度判断D.I.は、これまで同様の緩和的な金融環境が続いていることを示しており、ゼロ金利政策の解除やこの間の株価下落が、金融機関行動や企業の資金調達環境に特段の影響を及ぼしていないと評価できる、と発言した。

(3)経済・物価の先行きの展望とリスク

 大方の委員は、10月31日に公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」で示した標準的なシナリオは維持されており、今後も設備投資を中心とした緩やかな回復基調が続く可能性が高い、との認識を共有した。

 ただ、同時に多くの委員は、米国をはじめとする世界経済の動きを中心に、上記レポートで示したダウンサイド・リスク要因のうちいくつかのものが大きくなっている、との見方を示した。

 まず、米国経済を中心とする世界経済の動向について、議論が行われた。

 多くの委員が、IT関連需要の一部に陰りがみられるなど、米国経済の減速傾向がより明確化している点を指摘した。このうちひとりの委員は、市場では、米国の政策対応力を踏まえ、ソフト・ランディングの予想が依然として支配的であるが、ソフト・ランディングとして念頭におかれている成長率のレベルが徐々に低下している印象がある、との見方を示した。別のある委員は、米国経済の潜在成長率は4%程度とみられるが、実際の成長率が3%を割り込めばソフト・ランディングには該当せず、ハード・ランディングになるとの見解を示した。この委員は、とくに、設備投資の伸び率が6%を下回って減速するかどうかが注目される、と発言した。これらの委員は、同時に、米国経済の減速の動きが、世界経済、とりわけアジア諸国に影響を及ぼしつつあるとの見解を述べた。ある委員は、この秋以降、韓国、台湾といったアジア諸国の輸出の伸びが大きく低下していることを挙げ、これらの国ではGDPに占める輸出のウエイトが高いだけに、アジア地域全体の景気減速に繋がるのではないかと発言した。別のある委員は、韓国のほか、台湾において、ハイテク関連輸出の減少、政治的混乱、銀行セクターにおける不良資産比率の上昇がみられることが懸念される、と指摘した。こうした認識を踏まえ、複数の委員は、世界経済の2001年以降の成長率は、若干下方修正する必要がある、とコメントした。

 米国を中心とする世界経済の減速がわが国経済に与える影響については、何人かの委員が、輸出の減少をもたらし、さらに本年度下期以降の企業収益の伸び鈍化に繋がる惧れに言及した。このうちひとりの委員は、輸出数量の減少のみならず、半導体市況の悪化にみられるように、輸出品目の価格下落を通じて企業収益が悪影響を受ける点も無視できない、と付け加えた。別のある委員は、米国景気の減速に伴うアジア諸国における在庫調整や原材料市況の悪化、あるいは先行き不透明感が、企業マインドや株式市場に影響を与えている面もある、との見方を示した。こうした点を踏まえ、米国経済の動きや米国の政策対応、それが世界経済さらには日本経済に与える影響について、十分慎重に情勢を点検していくべきである、との認識が、多くの委員の一致するところとなった。ひとりの委員は、今後の米国経済をみる際の着目点として、設備投資動向、クリスマス商戦の帰趨、消費者コンフィデンスの動き、株価下落の影響、失業率などを挙げた。

 世界的なIT関連需要の動向についても意見が出された。ある委員は、これまで世界経済を牽引してきたIT関連企業の設備投資が調整を受ける可能性が出てきた、との見方を示した。もっとも、別のある委員は、情報化投資の大きな流れが頓挫していると判断するのは尚早であると述べた。ほかの複数の委員も、(1)半導体のニーズは多様化しており、生産面でも国や企業毎に棲み分けが進んでいる、(2)インターネットの一段の普及や次世代携帯電話等、新規の需要増が期待できる、といった点を挙げて、IT関連分野の調整はマイルドなものになる、との見方に同調した。ただ、別のある委員は、米国金融機関の不良債権がIT関連企業向けを中心に増加傾向にあり、貸出の伸びが低下していることは、IT関連分野をみるうえでも注意を要する、と発言した。

 次に、多くの委員より、内外の金融資本市場に依然として不安定な動きがみられる点が、リスク要因として指摘された。ひとりの委員は、株価の低迷が、企業・家計のマインドや金融機関行動などに与える影響については、十分留意していく必要があるとの認識を述べた。ただ、何人かの委員は、為替相場が円安気味で推移していることが、わが国経済への悪影響に対してクッションになりうる、との見方を示した。これらの委員は、さらに、ユーロ相場が落ち着きを取り戻していることも、世界経済のリスクを低下させている、との認識を述べた。

 複数の委員が、企業や金融機関のバランスシート調整の影響について言及した。ある委員は、地価の下落傾向や企業体力の低下などを背景に、金融機関の不良債権が「逃げ水現象」のようになかなか減少しないことを指摘したうえで、これらの動きは、設備投資や個人消費の伸びを抑制する方向に働くとの見方を述べた。もっとも、もうひとりの委員は、株価下落により、バランスシート調整を巡る環境が予想以上に厳しくなってきているものの、金融機関の融資姿勢や市場におけるクレジット・スプレッドの動きをみると、実体経済活動に対する金融面からの制約が強まっている証拠は見当たらない、との評価を示した。

 また、ある委員は、国民の将来に対する一般的な不安感について触れた。この委員は、消費者コンフィデンスが目立って低下するとか、企業が設備投資計画を下方修正するといった動きは、現在のところ生じていないと述べたうえで、ただリスクとしては幾分重みが増す方向にある、との見解を明らかにした。

 一方、10月31日の「経済・物価の将来展望とリスク評価」に示されたリスク要因のうち、原油価格上昇の動きについては、何人かの委員が、足許小康状態になりつつあると指摘し、リスクとしてのウエイトは後退している、との認識を示した。他方、別のある委員は、最近の原油価格(WTI)の動向について、9月中旬に1バレル当たり約37ドルの高値を付けた後、保ち合い状況を経て12月初めに急激に下落し、現在は同28ドル程度で推移しているが、この水準をさらに割り込むと、中期的な原油相場転換の有力なシグナルになる、と述べた。そのうえで、この委員は、最近の原油価格の落ち着きは、主として米国の石油精製会社が原油の手当てを控えていることが背景にあるとの見方を示し、さらに、(1)米国の原油の在庫は引き続き低水準である、(2)産油国の中に減産に転じる動きがみられる、といった留意点を述べた。加えて、この委員は、天然ガスの価格が急騰していることが米国経済に悪影響を与える可能性がある、と指摘した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)景気は、輸出の減速によりテンポはやや鈍化しているものの、緩やかな回復を続けている、(2)先行きについては、10月に公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」で示した標準シナリオに沿って、今後も設備投資を中心とした緩やかな回復基調が続く可能性が高い、(3)ただし、リスク要因として、海外経済や内外資本市場の動向とその影響を注視する必要がある、(4)物価は、当面、やや弱含みで推移するものと考えられる、(5)金融は緩和された状態が続いている、といったものであった。

 こうした情勢判断を踏まえ、委員の大勢は、(1)当面は現在の金融緩和スタンスを継続して景気回復を支援していくとともに、(2)そうしたもとで世界経済の減速の程度とその日本経済への影響などを慎重に見極めていくべきである、として現在の金融市場調節方針を継続することが適当である、との判断で一致した。

 先行きのリスク評価について、多くの委員は、海外経済要因を中心にこのところダウンサイド・リスクが幾分高まっていることは否定できない、との認識を述べた。ただ、これらの委員を含めた大方の委員は、米国経済の動き自体に依然として不確実性が残っているだけに、追加的情報を待って情勢を慎重に点検していく必要がある、との考えを示した。

 ひとりの委員は、景気情勢の評価は、状況に応じて弾力的に変えていく必要があり、そうすることで市場とのコミュニケーションを図り、より長めの金利が経済実体を反映することを促すことが重要であると述べた。そのうえで、金融市場の動きを引き続き注視していきたい、と付け加えた。また、別のある委員は、かりに、先行きのリスク拡大に対して金融政策面で対応することが必要となるとしても、政策手段の有効性や副作用等、全体的なバランスを勘案して判断するべきである、との考えを示した。

 以上に対して、ひとりの委員は、消費者物価(CPI)上昇率に目標値を設けたうえで、マネタリーベース・ターゲティングに移行し、また、その実現のために日銀当座預金残高を増やすことにより、早期に一段の金融緩和に踏み切る必要がある、と主張した。

 この委員は、理由として、(1)外需の減少に加えて、法人企業統計季報にみられる人件費削減の動き、GDP統計における雇用者報酬の低迷などを踏まえると、景気の失速は明らかであり、2001年2月にも山を迎える見通しにある、(2)10月末の「経済・物価の将来展望とリスク評価」における先行きの標準シナリオが崩れる可能性があり、経済成長を潜在成長率と考えている1.5〜2.0%まで加速させる必要がある、(3)GDPデフレーターの前年比が10四半期連続マイナスとなっていることをはじめ、全ての物価指標が前年比マイナスであるほか、地価も僅かながら下落幅を拡大しており、デフレが深刻である、(4)OECDの対日審査報告書にも記されているように、インフレ目標を簡明な形で示すことが重要であり、そのうえで、政策のフレームワークないし政策ルールを対外的に明示するべきである、といった点を挙げた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、大蔵省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済は企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが継続し、全体としては緩やかな改善が続いている。ただし、雇用情勢は依然として厳しく、個人消費も概ね横這い状態が続いているなど、家計部門の改善が遅れている。こうした中、物価は、原油価格の高騰にもかかわらず、消費者物価指数やgdpデフレーターの前年比マイナスが続いており、物価の下落が経済に与える影響について留意する必要があると考えている。また、軟調な展開が続いている株式市場をはじめ、内外の市場動向や米国経済の減速がもたらす影響についても、これまで以上に注意していく必要がある。
  •  政府としては、新たな内閣のもとにおいても、景気を確実な自律的回復軌道に乗せることを当面の最優先課題としている。このため、補正予算等を速やかに実施するなど、適切な経済運営に努めてまいりたいと考えている。
  •  日本銀行におかれては、政府による諸施策の実施とあわせ、わが国経済を民需中心の本格的な回復軌道に乗せていくよう、経済や市場の動向を注視しつつ、豊富で弾力的な資金供給を機動的に行うなど、適切な金融政策運営を行って頂きたい。

 経済企画庁からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  最近の経済動向をみると、家計部門の改善が遅れるなど厳しい状況をなお脱していないが、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが継続し、全体として緩やかな改善が続いていると判断している。先般発表した7〜9月期のgdp統計では、設備投資について、法人企業動向調査の比較的高い伸びを前提として推計を行ったが、その後に明らかになった法人企業統計季報をベースに推計し直すので、同期のgdpは今後下方改訂される可能性が高い。
     最近の株価の下落など、市場センチメントの弱含みにも注意を払う必要がある。今後の景気への影響を考えるうえでは、堅調に推移する生産や設備投資、改善が続く企業収益に加え、雇用・所得環境の改善が期待されるが、その一方で、高水準な倒産件数、負債金額、引き続き下落している地価、過剰設備、過剰債務、さらに米国経済の動向、原油価格の推移等にも留意する必要がある。
  •  このため、景気を本格的な回復軌道に乗せていくとともに、揺るぎない構造改革を推進するため、「日本新生のための新発展政策」をはじめとする諸施策を引き続き推進してまいりたい。
  •  日本銀行におかれても、今後とも金融・為替市場の動向を注視しつつ、豊富でかつ状況に応じて弾力的な資金供給を行うなど、引き続き景気回復に寄与するような金融政策を運営して頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、現在の金融市場調節方針を継続することが適当である、という意見が大勢を占めた。

 ただし、ひとりの委員からは、CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定して、量的緩和に踏み切ることが適当であるとの考えが示された。

 この結果、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2002年10〜12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5〜2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2001年7〜9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で15%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)長期金利が1.7%を割り込んで低下し、株価が14千円台にまで下落しているなど、市場は経済のファンダメンタルズの悪化を反映しており、このようなときに現状の金融政策では不十分である、(2)景気のピークが近い状況下、フォワード・ルッキングな政策運営を行うべきである、(3)あらゆる物価指数が前年比マイナスとなっており、依然として未曾有の深刻なデフレが続いている、(4)定量的な物価安定目標が示されていないので、政策目標として何を実現しようとしているのか、国民に明確に伝わっておらず、市場との対話もうまくできていない、の4点を理由に、上記採決において反対した。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を12月18日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

中原委員は、(1)「海外経済は(中略)拡大を続けると予想される」と判断されているが、世界経済は先行き後退局面に入る可能性が強い、(2)輸出および生産の先行きに関する記述が楽観的すぎる、(3)「景気は(中略)緩やかな回復基調が続く可能性が高い」とあるが、景気はまもなくピークを打つ見通しにある、(4)物価を巡る環境について、7〜9月期の実質GDP前期比がマイナスに改訂されるとみられることなどから考え、国内の需給バランスが徐々に改善していくと展望することはできない、といった点を挙げて、上記採決において反対した。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(11月17日)の議事要旨が全員一致で承認され、12月20日に公表することとされた。

VIII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2001年1月〜6月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
平成12年12月15日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。

以上


(別添2)

平成12年12月15日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成13年1月〜6月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成13年1月〜6月)
会合開催 金融経済月報公表 (議事要旨公表)
13年1月 1月19日(金) 1月22日(月) (3月5日(月))
2月 2月9日(金)
2月28日(水)
2月13日(火)
−−
(3月23日(金))
(4月18日(水))
3月 3月19日(月) 3月21日(水) (5月1日(火))
4月 4月13日(金)
4月25日(水)
4月16日(月)
−−
(5月23日(水))
(6月20日(水))
5月 5月18日(金)
5月21日(月)
(6月20日(水))
6月 6月15日(金)
6月28日(木)
6月18日(月)
−−
未定
未定

以上