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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 3月19日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年4月25日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 5月 1日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年3月19日 (9:01~12:12、13:01~17:27)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 武富 将(審議委員)
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • (注)藤原委員は、国会出席のため、9:27~10:55の間、会議を欠席した。
4.政府からの出席者
  • 財務省 村上誠一郎財務副大臣(9:01~17:27)
  • 内閣府 岩田一政内閣府政策統括官(経済財政−景気判断・政策分析担当)(9:01~12:12)
    坂井隆憲 内閣府副大臣(13:01~17:27)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室企画第1課長雨宮正佳
  • 企画室企画第2課長梅森徹(9:01~9:18)
  • 金融市場局長山下 泉
  • 金融市場局調査役栗原達司 (9:01~9:39)
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役長井滋人

1. 議事要旨の承認

前々回会合(2月9日)の議事要旨が、全員一致で承認され、3月23日に公表されることとされた。

2.「『手形買入における買入対象先選定基本要領』の一部改正等」に関する決定

1.執行部からの提案内容

「手形買入および手形売出の見直しに関する基本方針」(平成12年4月27日決定)ならびに「流動性供給方法の改善策および公定歩合の引き下げについて」(平成13年2月9日決定)において対外的に示した方針に基づき、手形買入(全店買入)および手形買入(本店買入)の対象先選定を実施するために、「手形買入における買入対象先選定基本要領」(平成12年4月27日決定)に所要の改正を行うこと等を提案したい。

2.委員による検討・採決

採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表されることとされた。

3.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(2月28日)で決定された金融市場調節方針 1にしたがって運営した。この結果、オーバーナイト金利は、概ね0.15%程度で安定的に推移した。この間、年度末越えの資金繰りについては、日本銀行による潤沢な資金供給に加えて、補完貸付制度の導入を始めとする一連の流動性供給策の実施により、市場に安心感が拡がっている。

  1. 「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.15%前後で推移するよう促す。」

2.金融・為替市場動向

株価は、IT関連企業の相次ぐ業績見通し下方修正を受けてNASDAQが大きく下落する中で、これにつられる格好で大幅に低下し、日経平均は12,000円台割れ、TOPIXは1,200ポイント割れを記録した。また、銀行株も銀行保有株の含み損の拡大が改めて認識される中で、一段と下落した。先行きについては、決算対策や持合い解消の売り等の年度末特有の需給悪化要因が一巡してきている一方で、(1)米国株価が不安定な動きを強めていること、(2)国内企業の業績下方修正がかなりのテンポで進んでいることなどから、当面は一段下押しのリスクが大きいとの見方が多い。

長短金利をみると、短期金融市場では、前回決定会合の利下げ措置の決定に加え、一段の緩和措置実施への期待の高まりもあって、ターム物のレートが大きく低下した。これを受けた債券市場では、資金運用難を背景とした投資家のデュレーション長期化の動き等も加わって、長期金利が大きく低下し、イールドカーブは心持ちフラット化した。

この間、信用リスクの指標をみると、社債スプレッド等は概ね横這い圏内の動きを続け、ジャパン・プレミアムもほぼゼロ水準での推移となっているが、一部邦銀の海外優先証券(海外子会社に発行させた優先的に配当を行う証券)の対国債スプレッドが拡大している。

為替市場では、株価の大幅下落、長短金利の一段の低下を受けて、ほぼ一貫して円安化が進展した。先行きについては、決算を睨んだ益出しのための外貨資産処分の動きが峠を越しつつあるほか、わが国政府関係者の円安容認を示唆する発言もあって、当面、一段の円安を予想する向きが増えている。

3.海外金融経済情勢

米国の実体経済は引続き減速傾向を辿っている。すなわち、最終需要の伸びが鈍化する中で、企業は在庫調整を進めており、生産は減少傾向を辿っている。また、設備投資の先行指標である資本財受注も減少傾向にあり、IT関連財受注も増勢が鈍化している。一方、家計部門では、消費者コンフィデンスが低迷する中、小売売り上げは振れの大きい動きを示しつつも減速基調にある。

こうした中、民間調査機関等による米国の経済見通しは下方修正が続いているが、引続き大部分が本年後半には潜在成長率近くまで盛り返すと想定している。ただし、こうした想定は、(1)在庫調整は年前半に終了、(2)設備資本ストックの調整の程度は大きくない、(3)消費は底固く、貯蓄率がマイナス領域で推移、といった、やや楽観的な前提に立っているものが多い。

米国金融・資本市場では、ハイテク主導で、大きな振れを伴いつつ株安が進行している。その中で、2月中旬以降は、それまで比較的堅調であった金融株も大きく下げているのが特徴的である。このように、株価のボラティリティが高まる中で、CPや社債のスプレッドが再び拡大に転じるなど、信用リスクへの警戒感が高まっている。

ユーロエリアでは、生産や輸出の面からは減速の兆しが見られるものの、個人消費を中心に、底固い景気展開が続いている。先行きについては、低い外需依存度に加えて、減税や失業率低下による消費者コンフィデンスの下支えが期待出来ることから、マイルドな減速に止まるとの見方が多いものの、ドイツ景気の不冴えや株安の連鎖等の懸念材料にも留意すべきである。

東アジア諸国では、米国景気の予想以上の減速により、特にIT関連財輸出のウエイトが高いNIEsを中心に大幅な成長鈍化が予想されている。一方、中国では、輸出の伸びは鈍化しつつも、財政支出や直接投資流入を背景とした好調な内需に支えられて高成長を維持している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、輸出の減少を背景に、このところ足踏み状態になっていると判断される。

最終需要面をみると、設備投資は増加を続けている。個人消費は、全体としてみれば回復感に乏しいものの、一部には明るい指標もみられている。住宅投資は概ね横這いで推移している。また、公共投資は下げ止まりつつある。一方、純輸出は米国、東アジア経済の急激な減速を受けて、はっきりと減少に転じている。

こうした最終需要動向の下、生産は、輸出の減速を主因に減少に転じており、電子部品や一部素材などでは在庫の過剰感が高まっている。企業収益は改善を続けつつも、そのテンポは製造業を中心にかなり鈍化している可能性が高い。家計の所得は、底固さを維持しているが、新規求人や所定外労働時間などの限界的部分には、生産減少の影響が現れ始めている。

景気の先行きについては、ここ暫くの間、停滞色の強い展開を続けるものと予想される。すなわち、当面は、補正予算執行本格化による下支えや既発注の設備投資案件の進捗が期待できるものの、生産は、(1)海外景気の調整がなお暫く続くとみられること、(2)程度は大きくないとはいえ在庫調整を要する局面に入ってきていることから、年央にかけて減少傾向が続くと考えられる。また、設備投資の先行指標である機械受注は既に頭打ちになっている。こうした傾向が長引けば、企業収益ばかりでなく家計所得が伸び悩み、つれて、もともと力強さに欠ける国内民間需要は徐々に頭打ちになっていく可能性が高い。このように、これまでの「企業部門を起点とした所得創出メカニズム」が働き続けることは、期待しにくい情勢になってきている。先行きについては、海外景気、特に米国経済について、本年後半以降に緩やかに回復するという標準的な見方が実現するかに大きく左右されるが、そうした見方には楽観的な面があることも否定できない。また、株価が一段と低迷する中で、企業や家計の心理が冷え込むことがあれば、それ自体が景気に対する負のショックとなり、景気調整を大きくするリスクも否定できない。

物価の先行きについてみると、各種物価指数は、当面、総じてやや弱含みで推移する可能性が高いと予想される。すなわち、最近の円安は物価を押し上げる方向に作用するとみられるものの、景気が足踏み状態となったことに加え、一部とはいえ在庫の過剰感が高まっていることもあって、国内需給バランス面からは、当面物価に対して低下圧力が働く可能性が大きい。このほか、技術進歩や規制緩和(通信料金)が一定の幅で影響するほか、衣料品を始めとする流通合理化の影響も、徐々に弱まりつつも、ある程度尾を引くとみられる。また、景気に対するダウンサイド・リスクが顕現化する場合には、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まることとなる点には、十分に留意が必要である。

(2)金融環境

最近の金融環境を整理すると、(1)各種金利の低下に伴って企業の調達コストが一段と低下しているほか、(2)社債、CP市場での発行も引続き活発であり、(3)金融機関の貸出姿勢も優良企業向けを中心に貸出を増加させようとする姿勢が続いていることから、引続き緩和された状態が続いているとみられる。

もっとも、株価の低迷によって、エクイティ・ファイナンスの面で新規公開の動きがやや低調に推移している等の懸念材料もあることから、今後の動きに留意が必要である。また、資金需要の中に、輸出減少に伴う在庫ファイナンス等の後ろ向きのものが含まれ始めたほか、「中小企業金融の資金繰り」判断の悪化を示す調査もみられていることにも注意していく必要がある。

2月のマネタリーベースは、「コンピューター2000年問題」への対応で前年水準が大幅増加となった反動から12月、1月と前年割れが続いた後、そうした要因の剥落から3か月振りに前年比プラスに転じた(+3.4%)。マネーサプライ(M2+CD)は、郵便貯金からの資金シフトを主因に昨年夏頃から徐々に伸びを高める傾向が続いている。

企業の倒産件数は、このところ、ほぼ前年並みの水準で推移しており、変調はないが、今後は、中小企業の資金繰りの状況や、3月末の特別保証制度終了の影響などを注意してみていく必要がある。

4.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

会合では、前回会合以降に得られた金融経済指標や関連情報などをもとに、(1)「企業部門を起点とする緩やかな景気回復」という標準シナリオが維持されているか、(2)企業や金融機関の不良債権処理などの構造調整圧力をどう評価するか、といった問題を中心に議論が行われた。

景気の現状については、予想を上回る米国経済の急減速を背景とした輸出・生産の減少を主因に、「足踏み状態となっている」との意見が多く示された。さらに、一人の委員は、景気動向指数や各種景況感指標の動き等を示したうえで、米国株価急落という外部環境の下、危惧したリスクが顕現化する形で、標準シナリオは既に崩れてしまっており、現在は景気後退局面にあるとの一段と厳しい認識を示した。また、別のある委員は、踊り場から後戻りの懸念が顕現化しつつあり、既に緩やかな回復が見通せない事態にある、とした。

個別の需要項目については、個人消費は引き続き一進一退の動きながら、このところ堅調さを示す指標もみられることが複数の委員から指摘された。もっとも、ある委員からは、足許の一部販売統計の改善は、家電リサイクル法施行前の駆け込み需要や乗用車のニューモデル投入等、一時的要因による面が大きい、との指摘があった。こうした中、一人の委員は、消費財供給数量が緩やかな伸びを続け、家計が所得に見合った支出を行っていることを踏まえると、消費は不況状態ではなく、平時に復していると解釈すべき、と述べた。設備投資については、これまでのところは、既発注案件の進捗により増加傾向を維持しているとの認識が共有された。

しかし、輸出・生産の動向については、大方の委員が厳しい評価を述べた。多くの委員が、最近の輸出の減少は予想以上であり、現時点で輸出環境の改善の見通しは立っていないとの認識で一致した。一人の委員は、わが国が景気後退局面に入っているという認識の下で、貿易黒字がピークアウトしていることに強い懸念を表明した。

生産については、第1四半期に続いて、第2四半期も減少傾向が続く可能性が高いとの見方で委員の認識が概ね一致した。また、複数の委員が、在庫調整の動きが一部産業で見られ、生産に影響を与えていることを指摘した。ある委員は、鉄鋼、石油化学、紙パ、半導体において今後在庫調整が避けられず、ITを使った在庫管理技術の進展の結果、調整期間は短く、かつてより成長へ与える影響は少なくなりつつあるものの、当面は生産調整が続かざるを得ない、との見方を示した。

次いで、景気の先行きについても、厳しい見方が示された。多くの委員が、これまでの「企業部門を起点とする緩やかな景気回復メカニズム」が期待できない状況になってきており、標準シナリオを想定し続けることは難しくなった、という認識を述べた。

まず、標準シナリオの重要な前提となる米国経済の先行きに関して議論が行われた。多くの委員が、下期回復シナリオの前提にはやや楽観的なものも含まれており、低迷が長引くリスクにも留意すべきである、との厳しい見方を示した。ある委員は、進行しつつある米国金融経済の変調が、景気循環的な側面を越えて、いわゆるニューエコノミー論に基づいた成長パラダイムを揺るがせていると指摘し、その心理的影響に懸念を表明した。別の委員は、「繁栄が永久に続くという期待の行き過ぎが、企業や家計の過剰な借入れに繋がるという連鎖」の揺り戻しが足許の急激な変化をもたらしており、米国にはコンフィデンス・クライシスの兆しが見え始めている、とした。また、別の委員は、株価、ミシガン大消費者コンフィデンス指数、一人当たり求人広告費についての長期的な動向を分析し、米国経済において大規模なバブルの発生と崩壊が生じたとの分析を示した。同じ委員は、米国株価が1929年以来約70年振りに大天井を打ち急落しているとの長期的分析の下に、当面の動きとしては、株価の一段安後の目先底入れを予想し、政策次第では年央にかけて多少の反発局面が期待できる、との見方を示した。一方で、別の委員は、米国株価の水準は、伝統的な尺度では依然として割高で、さらなる調整もあり得る、とした。また、ある委員は、米国の景気低迷が長引いた場合、巨額の経常赤字や低貯蓄率といった構造的な問題もあって、ドル安方向に転じる可能性もあり、その場合は日本の輸出へ与える影響も懸念されることを指摘した。

なお、ある委員は、原油価格(WTI)について、当面25-30ドルのレンジを下に切る可能性はなく、多少反発するだろうとの見方を示した。

標準シナリオにおける回復の起点である企業収益に関しては、今後の悪化を予測する向きが大勢であった。幾つかの民間研究・調査機関による来年度の見通しが現時点で増益となっていることについて、複数の委員が、米国経済の回復を前提としたものであり、その実現可能性については厳しくみておく必要がある、との評価を示した。また、別の委員は、「量横這い」の中の「価格下落」で企業収益は明らかに悪化し始めており、今年度決算は年度前半の収益好調で増益になるとはいえ、リストラ(人件費中心)と輸出増加による固定費の薄め効果に支えられた脆弱な収益基盤に今後は価格下落という逆風が加わる、と分析した。

こうした中、設備投資については、多くの委員が、各種先行指標の動きなどからみて、先行きの頭打ち感が出てきており、今後収益環境の悪化に伴い鈍化していく、との見方を示した。ある委員は、特に1月の機械受注統計における電気機器分野での弱さを指摘した。また、ある委員は、半導体市況の低下を眺めてITメーカーの設備投資意欲が急速に減退していることに加え、景気の先行き不透明感が高まる中で、ITユーザーの投資意欲もここに来て落ちてきている、と評価した。

雇用・所得情勢については、何人かの委員が、生産減少の影響と考えられる新規求人や所定外給与の伸び鈍化の動きを、限界的ながらも留意すべき点として指摘した。このうち複数の委員は、企業収益から雇用者所得への波及効果が逆の方向に働き始めている、との懸念を示した。また、ある委員は、今年度の企業の経常利益(連結ベース)が30%以上の伸びとなる一方で、賃金の伸びが非常に低いものに止まったことを考えると、今後賃金が持続的に伸びることを期待するのは難しくなってきた、との認識を示した。

物価について、足許までの下落については、供給サイドの要因(流通合理化、規制緩和、技術革新、内外価格差の是正等)と需要サイドの要因が混在しているとの見方が大勢ながら、それぞれの影響に関する評価で若干の差異が見られた。しかし、先行きについては、需要サイドの要因による下落圧力が強くなるという懸念が共有された。その中で、ある委員は、足許で価格下落の動きが加速している訳ではないとしたうえで、今後、為替相場の下落が価格下落をどの程度緩和するかに注目する旨発言した。また、一人の委員は、アジアにおけるIT関連製品の構造的な供給過剰を背景とする輸出ドライブが、わが国における製品価格の下落に繋がる可能性が高いと指摘した。また、一人の委員は、「負け組企業」が延命目的に稼働率を上げ、コスト無視の安値提示をしているための価格下落がみられ、「勝ち組企業」も巻き込んだ消耗戦を招いている点を懸念した。こうした中、ある委員は、名目GDPについて、来年度、マイナスに陥る可能性が高いと指摘した。

以上の議論を踏まえて、複数の委員は、昨年から今後にかけての景気・物価の動きを次のようなかたちで総括した。(1)昨年の実質経済成長率は1.7%となった。潜在成長率が1%台半ば程度であるとすると、昨年中は、需給ギャップの拡大に歯止めがかかったか、若干縮小したものと評価できる。(2)しかし、先行きの実質成長率は、潜在成長率を下回る可能性が高くなっており、昨年のように、緩やかであれ、需給ギャップの縮小を展望することは難しくなっている。(3)そうだとすると、今後、需要の弱さに起因する物価低下圧力が強まり、経済がデフレ・スパイラルに陥る懸念が強まっているとみざるを得ない。

以上のほか、景気の先行き不透明感を高めている要因として、多くの委員が、構造調整圧力の重さを指摘した。一人の委員は、現在の日本経済は、米国経済減速を契機とする短期循環と構造調整によるデフレ圧力という二重の重荷を背負っており、ふたつを噛み合わせた時に生じる最悪のケースを想定したうえで、政策面での対応を検討することが重要である、との認識を示した。

まず、金融システム問題については、多くの委員が、株価下落による金融機関の含み益減少や、景気鈍化を通じたシステム不安の再燃を懸念材料として指摘し、このことが景気の先行き不透明感を強めているとした。ある委員は、ある格付会社による邦銀19行への格下げ検討の動きが、わが国だけでなく、米国の株価にも影響を与えた事例を捉えて、いわゆる「イベント・リスク」への懸念を示した。また、一人の委員は、日本国債のクレジット・デフォルト・スワップレートの上昇傾向を説明したうえで、不良債権問題が解決方向に向かわなければ、わが国信用力のもう一段の低下を招きかねない、との懸念を述べた。別の委員は、最近の金融システム不安の背景は、潜在的な資本不足問題への懸念が中心であり、流動性危機には発展していないという評価を示し、日本銀行による最近の機動的な対応が下支え効果を果たしている、と述べた。そうした中で、複数の委員は、主要銀行が、合併・統合の動きのなかで、不良資産の処理を加速させていることを歓迎し、そうした動きが一段と拡がることを期待する旨を発言した。

また、多くの委員が、金融機関の信用創造機能が十分働いていないことが、金融政策の有効性を低下させていると指摘した。このため、金融政策の有効性を高め、経済が持続的な成長軌道へ復帰するためには、企業や金融機関の不良債権の抜本的な処理が不可欠であるが、その過程で生じる景気下押し圧力には注意が必要であるとした。その一方で、一人の委員は、不良債権の処理の加速は、金融システムの将来展望に繋がるようなやり方で行えば、金融・資本市場における好ましい反応を通じて、経済にプラスの影響をもたらす可能性もある、との見方を示した。別の委員は、ベースマネーとマネーサプライとの連動関係が不安定化していると問題点を指摘した上で、貸す側、借りる側双方の対応が不可欠であるとして、金融機関側においては、2次ロス不安を消すための不良債権のオフバランス化と必要な先への公的資本の再投入による体力回復が、また企業側においては、設備・雇用・債務の過剰問題を解決し、生産性を高め国際競争力を取り戻すことが重要である、と述べた。

金融システム問題以外の構造問題の解決の重要性についても何人かの委員が指摘した。ある委員は、財政運営について、規模は増やさずに支出構成を変更することで見直しが可能であるとして、例として、生産性の高い分野への財政支出の傾斜配分、構造調整に対応したセーフティ・ネットの拡充(失業保険給付等)、規制緩和の一段の加速、税制による個人株式投資の促進等を挙げた。別の委員は、構造問題には民間努力・財政運営・金融政策の三者合わせ技で対応することが重要で、企業・銀行の自助努力を基本としたうえで、政府は、市場原理を尊重し、税制サポート、規制緩和、雇用流動化、新産業育成などの環境整備を図ると共に、企業・家計の先行き不安を解消するために財政赤字、社会保障等の問題について先行きのスケッチを明示することが重要である、とした。この委員は、金融政策面からは、銀行が信用創造機能をフルに発揮し、企業が資金の量を確保できるように、日本銀行として流動性の供給を十分に確保する必要がある、とした。一人の委員は、法人季報のデータを引用し、企業の人件費と人員は平成12年第2四半期をボトムに上昇してきており、リストラの進展が不十分であることを示している、と分析した。

5.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

続いて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

1.基本的な認識

多くの委員の金融経済情勢に関する認識は、(1)わが国の景気は、輸出・生産の減少により、足踏み状態となっている、(2)先行き、「企業を起点とする緩やかな回復」という標準シナリオを維持することが困難になっている、(3)海外経済がさらに下振れする可能性や内外資本市場の動きなど、一段の景気下押し要因に留意すべきである、(4)物価面では、需要サイドの要因による下落圧力が強まり、デフレ・スパイラルに陥るリスクが高まっている、といったものであった。

こうした情勢判断を踏まえ、委員の大勢は、今後予想される構造改革がデフレ圧力をもたらす可能性も考慮すると、金融政策面において、残っている政策手段の中で、なるべく思い切った政策に踏み出すべき段階にきている、という認識で一致した。同時に、金融政策単独では、景気回復を確実なものとすることはできず、金融システム面をはじめ経済・産業面での構造改革を断固たる決意で進めることが重要であることを明確にすべき、という点でも認識が一致した。

複数の委員が、いわゆる量的緩和といった通常は行われないような政策について、これまでの決定会合における議論を踏まえ、次のように整理した。(1)こうした政策については、その効果が不確実であるほか、副作用も懸念される、(2)そこまで踏み込むべきかどうかは、つまるところ情勢判断の問題に帰着する、(3)この2年間は景気が緩やかに回復していた以上、そうした手段に踏み込むことは適当ではなかったが、現段階では、思い切った手段を講ずることが必要な局面となった。

このうち一人の委員は、冒頭、今回採りうる政策の選択肢に関して、(1)金利の一段の引き下げか量的緩和か、(2)時間軸効果を発揮させるにはどうすればよいか、(3)長期国債買い切りオペの増額をどう考えるか、という問題提起を行った。その後の議論も、この問題提起を軸に行われた。

2.金融市場調節の操作目標を巡る議論

まず、金融市場調節の操作目標について、従来の金利から新たに当座預金残高などの量的指標に変更すべきか、或いは、引続き金利ターゲティングの枠内で最大限の効果を求める(ゼロ金利政策に復帰する)べきかについて、様々な観点から議論が行われた。

複数の委員は、量的指標として当座預金残高を操作目標とし、その量を十分に増やせば、(1)オーバーナイト金利は事実上ゼロ%近辺になって、ゼロ金利政策と同様の効果を期待できることに加え、(2)不確実な面が残るにしても、量自体による追加的緩和効果も期待できるという意見を述べた。当座預金増額そのものの持つ経済効果については、不確かな面はある一方で否定もできないことは事実であり、現下の情勢を考えると、著しい弊害がない限りにおいて試みるべき、との意見が複数の委員から出された。また、複数の委員が、量を操作目標として金利形成を市場に委ねることで、市場メカニズムを活かして自然に市場金利の低下を促していくことができることを評価した。このうち、一人の委員は、金利をゼロに無理矢理張り付かせるのではなく、ある程度自由に動かすことで、言わば「日本銀行とマーケットのフェアなやりとり」が実現することが重要である、と述べた。

この中で、一人の委員は、マネタリーベースの拡大が日本の株価、設備投資、生産にプラスの効果を持つとのVARモデル等を使った実証分析を示したうえで、マネタリーベースを操作目標とすべきとの意見を述べた。

また、一人の委員は、こうした異例の政策から将来どのように抜け出るか(いわゆるexit policy)という観点からは、当座預金といった量をターゲットにして金利を自由にしておいた方が、景気回復に伴って自然に金利が上がることが期待できるため、抜け出易い、との点を指摘した。

これに対して、複数の委員が、思い切った緩和策としては、金利ターゲティングの枠内でオーバーナイト金利をゼロ%にしたうえで時間軸効果を導入することの方が素直な方法で、理論的にも分かり易いとの認識を示した。ある委員は、ゼロ金利政策と比べて、当座預金残高を操作目標として実質的にゼロ金利を実現することで追加的に得られる効果は、(1)量自体が追加的緩和効果をもたらすという不確かなルートと、(2)長期国債買い切りオペが直接需給に影響して何らかの影響を持つというルートしかない、という見解を述べた。この委員は、量自体が何らかの好ましい効果を持つか否かについては、理論的には効果がほとんど無いというのが標準的な見方であるとしたうえで、実証分析では、やり方次第で、いずれの結論も出せるとの見方を示した。そのうえで、量で約束しても必ずしも金利はゼロにならない可能性があるので、ゼロ金利で約束した方がコミットメント効果は強い、との評価を述べた。

別の一人の委員は、量自体の持つ追加的緩和効果については、期待への影響といった効果は否定できないものの、その効果が明らかでない中で、対外的に更なる緩和の余地があるといったイリュージョンを与えることは望ましくなく、金融政策には限界があることを明確にすべき、との意見を述べた。

こうした操作目標としての量と金利を巡る長所、短所を議論する中で、当座預金残高を操作目標としたうえで、そのレベルを実質的にゼロ金利を実現出来る程度(ゼロ金利政策の経験からみて5兆円程度)まで増額すれば、市場メカニズムをある程度活かしつつゼロ金利政策の持つ効果が実現できる、という形で合意の余地があるのではないか、という理解が次第に共有されていった。ただし、当座預金残高という量そのものの持つ効果や、今後の当座預金残高の増額による追加緩和の可能性については、今後とも検討を続けていくこと、とされた。

この間、一人の委員からは、量によって期待インフレ率に働きかける効果が実現してしまうと長期金利は上昇してしまい、そういう意味からは金利政策と量的緩和はモメンタムの方向性が違っており、論理矛盾の面があるとの意見も出された。これに対しては、コールレートの実質ゼロ金利を実現する程度の量的緩和であれば、そうした矛盾は問題にならないかもしれない、との見方が示された。

これに対して、別の一人の委員は、(1)前回のゼロ金利政策の評価も十分に行われていない中で、ゼロ金利政策、或いは実質ゼロ金利を実現する当座預金ターゲティングに移行するのは適当ではない、(2)もっとも、一段の金融緩和期待が既に市場金利に織り込まれている中にあって、将来のゼロ金利政策への復帰を完全に排除すると、金融資本市場の動揺を招く惧れがある、(3)また、実体経済に与える効果としては、現在の0.15%と実質ゼロ%との間に大きな違いはないと考えられる、(4)そこで、金融調節方針としては、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を平均的にみて0.15%以下で推移するように促す」とすることが適当である、(5)むしろ、金融緩和の効果を高めるためには、その委員が前回提案したとおり、政策の継続期間を適切にコミットすることが極めて重要である、と主張した。

当座預金残高を操作目標とする時に、市場の状況によって一時的に金利が上昇してしまうことをどこまで容認すべきかも議論された。一人の委員は、補完貸付制度はあくまでも有担保であることから金利の跳ね上がり抑制に限界がある、との意見を述べた。複数の委員は、現在の調節方針がオーバーナイト金利0.15%を目標にしている以上、さらなる緩和措置導入の結果、それより高い金利が出てくる事態は避けるべきであると述べた。このため、「但し書き条項」により、市場環境によっては弾力的な資金供給を行う裁量の余地を執行部に認めるべきである、とした。金融市場調節にかかるディレクティブへの書き込み方については、複数の委員から「0.15%以下」といった金利水準の目途も記してこそ対外的に理解しやすく、対内的にも指示が明確になるとの意見が出る一方、別の複数の委員からは、量と金利の2つのターゲットを書き込むことは論理的に難しいとの意見が出され、議論の結果、別途議決する公表文の中にその趣旨は織り込まれるので、ディレクティブに金利のターゲットを明記せずとも足りる、との結論に達した。

3.時間軸を巡る議論

どのような緩和政策を打ち出すにせよ、(1)その継続期間に関するコミットメントを明確に行うことで、いわゆる「時間軸効果」を狙うことが必要である点、および(2)ゼロ金利政策下において採用された「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢となるまで」という表現よりも明確なコミットメントが望ましい点、において、概ね認識が一致した。

また、既に前回の会合で、ある委員から、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率を用いてコミットメントを示す提案が提出されていたことから、この方法を巡って議論が行われた。

基準となる消費者物価指数の具体的なレベルの示し方については、いくつかの意見が見られた。複数の委員は、日本銀行として望ましい中長期的インフレ率についての合意がない一方で、「インフレでもデフレでもない状態」が望ましいことについては合意が出来ていることを踏まえ、「ゼロ%に戻る」ことを条件にコミットメントを示すのが適当との意見を述べた。これに対して、何人かの委員は、ゼロ%というピン・ポイントの表現は、現状では物価の安定の定義を特定の数値で示すのは困難という見解と整合的でないと述べた。ある委員は、どの程度のプラスが望ましいかについては引き続き検討課題であるとしても、「安定的にゼロ%以上となる」といった表現で若干のプラス(small but positive)というニュアンスを出すのが適当との意見を述べた。なお、別の一人の委員は、消費者物価指数の上方バイアスが0.9%もある中では、ゼロ%は適当なレベルではなく、より高めのレンジで示すことが望ましい、と述べた。

この間、ある委員は、消費者物価指数の具体的なレベルを考える際には、将来の政策解除のタイミングが早すぎたり、逆に遅すぎたりしないか、という観点が重要であると述べた。この委員は、テイラー・ルールの考え方を援用し、今後景気が回復した場合には、インフレ率がゼロ%を少し上回るところで解除すれば早すぎることにはならないとの結果が得られるが、逆にインフレ率がゼロ%に戻らずに解除出来なくなるリスクは心配する必要がある、とした。後者については、ほかの複数の委員も、構造的な要因もあって消費者物価指数上昇率がゼロ%以上に戻るまでに相当の時間がかかることに懸念を示した。これに対して、一人の委員は、そうした情勢だからこそ、日本銀行として物価上昇率がマイナスを続けることは望ましくないという判断を明確に出し、人々の期待に働きかけて物価上昇率を引き上げる効果を狙うべき、との意見を述べた。

なお、多くの委員が、こうしたコミットメントは、「中長期的に望ましいインフレ率を目標として定め、それと先行きのインフレ率の乖離が生じると予想される時に政策変更を行うという意味でのインフレーション・ターゲティングとは異なる」という点で認識が一致した。

こうした議論を経て、時間軸のコミットメントの表現方法については、若干のプラスの具体的な水準については引き続き検討課題としたうえで、デフレ・スパイラルに陥ることを防ぐという断固たる決意を示すという観点から、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで」という表現でコンセンサスが得られていった。

4.長期国債買い切りオペを巡る議論

ある委員は、これ以上の金利の低下自体に大きな効果は期待できない中で、金利誘導水準に関する時間軸のコミットメントを補強して、人々の期待により強く働きかけるためには、長期国債買い切りオペの増額を行うことが有効ではないか、との提案を行った。

これに対して、複数の委員の間で、長期国債買い切りオペの増額は、やり方次第では大きな副作用を伴うものであり、そうした増額が国債の買い支えや財政ファイナンスを目的とするものではないことについて、誤解をされないことが重要である、との認識が共有された。こうした中で、当座預金残高を操作目標とする場合、札割れというかたちで円滑な資金供給に限界が生じる可能性があることから、あくまでも、そうした事態への対策として長期国債買い切りオペの増額を位置付けるべきとの意見が出され、多くの委員がこれを支持した。

この場合でも、景気低迷が長引いた場合に、長期国債買い切りオペの増額を求める声が強くなるリスクがあることを複数の委員が指摘した。こうした事態に備える意味で、長期国債買い切りオペで成長通貨を供給するという従来からの方針を維持したうえで、これまでの銀行券のフローではなく、発行残高を上限とする歯止めを設けるべきとの方針で、概ね認識が一致した。

6.政府からの出席者の発言

会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這い状態が続いているほか、企業部門についても輸出の減少を背景に生産が弱含んでいるなど、景気の改善に足踏みが見られている。また、米国経済の急速な減速など先行き懸念すべき点が見られる。こうした中、物価は原油価格の高騰にもかかわらず、消費者物価指数、GDPデフレーターの前年比マイナスが続いており、物価の下落が、実質金利の上昇、実質債務負担の増大などを通じて、経済に与える影響について懸念が増大している。
  • 現在、短期の名目金利は低い水準にあるが、物価の下落により実体経済に影響を及ぼす実質金利は下がっていない。こうした中では、一層の金融緩和措置が必要である。そのためには、(1)ゼロ金利政策を再実施し、金融緩和状態を一定期間続ける旨を明確にする、(2)物価安定の目標を明らかにする、(3)オペの対象拡大等により豊富な資金供給を行う、といった政策手段やこれらの組み合わせが考えられる。日本銀行におかれては、これらの政策手段につきご検討のうえ、早急に一層の金融緩和に向けての措置を決定して頂きたい。
  • 政府としても、金融政策だけで我が国経済の抱えている問題が解決されると思っている訳ではなく、不良債権問題を含め経済・財政の構造改革に向けた諸課題に真剣に取組んでいく所存である。

内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 3月16日の月例経済報告において、景気の現状については、景気の回復に足踏みが見られるという判断に下方修正した。先行きについては、アメリカ経済の減速や設備投資の鈍化の兆しなど懸念すべき点が見られる。また、デフレを持続的な物価下落と定義すると、我が国経済は現在緩やかなデフレにあると考えられるが、こうした状況は国際的にも歴史的にも極めて例外的なことである。
  • このような状況を踏まえ、政府としては、引続き平成12年度補正予算等の着実な実施を図るとともに、平成13年度予算の早期成立に努め、新年度における適切な執行を図ることが重要と考えている。また、経済構造改革を推進するために、総合規制改革会議を4月に立ち上げるほか、第5回の経済財政諮問会議では不良債権処理への取組みについて景気の認識と併せて議論を行った。さらに、最近の厳しい経済情勢を踏まえて、政府・与党緊急経済対策本部を発足させ、第1回会合が開催されたが、先に提示された与党三党による緊急経済対策をしっかりと受け止め、株式市場の活性化策、不良債権の的確な処理などについて具体的な施策を早急に検討することが重要であると考えている。
  • 金融政策については、予防的観点を含めた適切かつ機動的な運営が重要と考えており、景気の現状を踏まえると、日本銀行におかれては、物価の安定の実現を目指して一層の金融緩和を実施して頂きたいと考えている。

7.採決

以上のような議論を踏まえ、会合では、(1)金融市場調節方式を変更して、日本銀行当座預金残高を主たる操作目標とする、(2)そうした方式を消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることをコミットする、(3)所要資金を供給するために必要な場合には、長期国債の買い切りオペを増額する、(4)ただし、長期国債の保有額について銀行券発行残高という明確な上限を設ける、(5)当面の当座預金残高の目標は5兆円程度とする、という方針が適当である、との考え方が大勢となった。

ただし、このほか、(1)オーバーナイト金利の誘導目標を0.15%以下にするとともに、CPI上昇率が安定的にゼロ%以上となるまでの間、長期国債買い切りオペの金額を増額することが適当である、(2)CPI上昇率およびマネタリーベースの伸び率に目標値を設定し、マネタリーベースの拡大を図ることが適当である、という2つの考え方が示された。後者の考え方を示した委員は、その理由として、前回決定会合で決めた利下げだけではtoo little, too lateであること、現時点ではゼロ金利政策より強力な緩和策が必要であること、等を説明した。

この結果、以下の議案が採決に付されることとなった。

篠塚委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について「無担保コールレート(オーバーナイト物)を平均的にみて0.15%以下で推移するように促す」と共に、この措置を「消費者物価指数(除く生鮮)の前年同期比が安定的にゼロ%以上になるまでの間継続」し、その際に「金融市場調節の一層の機動性を確保する観点から、長期国債の買入れ金額を現在の月4千億円程度から、当面は月8千億円程度とする」との議案が提出された。

採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「中期的な物価安定目標として2002年10~12月期平均のCPI(除く生鮮)の前年同期比が0.5~2.0%となることを企図して、次回決定会合までの当座預金残高を平残ベースで7兆円程度にまで引上げ、その後も継続的に増額していくことにより、2001年7~9月期のマネタリーベース(平残)が前年同期比で15%程度に上昇するよう量的緩和(マネタリーベースの拡大)を図る。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記マネタリーベースの目標等にかかわらず、それに対応して十分な資金供給を行う」との議案が提出された。

採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の2つの議案が提出された。

金融市場調節方式の変更に関する議案(議長案)

  1. 金融市場調節の主たる操作目標を、日本銀行当座預金残高とすること。
  2. 上記1.の金融市場調節方式を、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続すること。
  3. 上記1.の金融市場調節方式のもとで、日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、長期国債の買入れを増額すること。ただし、日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)は、銀行券発行残高を上限とすること。
  4. 対外公表文は別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:篠塚委員

金融市場調節方針の決定に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

  1. 対外公表文は別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:篠塚委員

篠塚委員は、これまで日本銀行では量的指標と実体経済の関係が安定的でないとして量的ターゲットの政策には一貫して反対であった中で、今回の政策の変更について十分議論が尽くされていないことを理由に、上記二つの採決において反対した。

8.対外公表文の検討

本日の決定を踏まえて、執行部が作成した対外公表文の原案をもとに、委員の間で議論が行われ、「金融市場調節方式の変更と一段の金融緩和措置について」(別添1)が採決に付された。採決の結果、賛成多数で決定され、同日公表されることとなった。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員、田谷委員
  • 棄権:篠塚委員

9.金融経済月報「基本的見解」の検討

当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を3月21日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員、田谷委員
  • 反対:中原委員

 中原委員は、(1)景気は「足踏み状態」ではなく、「後退局面に入りつつある」と認識していること、(2)家計の所得環境は「底固さを維持」との評価は、各種労働統計でマイナスの動きが目立つ中で不正確であること、(3)海外景気は下期緩やかな回復傾向を辿るとの見方は疑問であること、(4)景気後退局面にあることから、物価低下圧力が更に加わりつつあると考えられること、を理由に上記採決において反対した。

X.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

最後に、平成13年4月~9月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)

2001年3月19日
日本銀行

金融市場調節方式の変更と一段の金融緩和措置について

  1. 日本経済の状況をみると、昨年末以降、海外経済の急激な減速の影響などから景気回復テンポが鈍化し、このところ足踏み状態となっている。物価は弱含みの動きを続けており、今後、需要の弱さを反映した物価低下圧力が強まる懸念がある。
  2. 顧みると、わが国では、過去10年間にわたり、金融・財政の両面から大規模な政策対応が採られてきた。財政面からは、度重なる景気支援策が講じられた一方、日本銀行は、内外の中央銀行の歴史に例のない低金利政策を継続し、潤沢な資金供給を行ってきた。それにもかかわらず、日本経済は持続的な成長軌道に復するに至らず、ここにきて、再び経済情勢の悪化に見舞われるという困難な局面に立ち至った。
  3. こうした状況に鑑み、日本銀行は、通常では行われないような、思いきった金融緩和に踏み切ることが必要と判断し、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下の措置を講ずることを決定した。

(1)金融市場調節の操作目標の変更

金融市場調節に当たり、主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)の変動は、日本銀行による潤沢な資金供給と補完貸付制度による金利上限のもとで、市場に委ねられることになる。

(2)実施期間の目処として消費者物価を採用

新しい金融市場調節方式は、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続することとする。

(3)日本銀行当座預金残高の増額と市場金利の一段の低下

当面、日本銀行当座預金残高を、5兆円程度に増額する(最近の残高4兆円強から1兆円程度積み増し<別添>)。この結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、これまでの誘導目標である0.15%からさらに大きく低下し、通常はゼロ%近辺で推移するものと予想される。

(4)長期国債の買い入れ増額

日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、現在、月4千億円ペースで行っている長期国債の買い入れを増額する。ただし、日本銀行が保有する長期国債の残高(支配玉<現先売買を調整した実質保有分>ベース)は、銀行券発行残高を上限とする。

  1. 上記措置は、日本銀行として、物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備する観点から、断固たる決意をもって実施に踏み切るものである。
  2. 今回の措置が持つ金融緩和効果が十分に発揮され、そのことを通じて日本経済の持続的な成長軌道への復帰が実現されるためには、不良債権問題の解決を始め、金融システム面や経済・産業面での構造改革の進展が不可欠の条件である。もとより、構造改革は痛みの伴うプロセスであるが、そうした痛みを乗り越えて改革を進めない限り、生産性の向上と持続的な経済成長の確保は期し難い。日本銀行としては、構造改革に向けた国民の明確な意思と政府の強力なリーダーシップの下で、各方面における抜本的な取り組みが速やかに進展することを強く期待している。

以上


(別添)

平成13年3月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)

平成13年3月19日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成13年4月~9月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成13年4月~9月)
会合開催 金融経済月報公表 (議事要旨公表)
13年4月 4月13日(金)
4月25日(水)
4月16日(月)
−−
(5月23日(水))
(6月20日(水))
5月 5月18日(金) 5月21日(月) (6月20日(水))
6月 6月15日(金)
6月28日(木)
6月18日(月)
−−
(7月19日(木))
(8月20日(月))
7月 7月16日(月) 7月17日(火) (8月20日(月))
8月 8月15日(水) 8月16日(木) (9月21日(金))
9月 9月18日(火) 9月19日(水) 未定

(注)上記日程については、その後、金融政策決定会合の運営方法の見直しが公表された際(平成13年4月3日)に会合開催日等が変更されている。

以上