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金融政策決定会合議事要旨

(2001年 6月28日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2001年8月13、14日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2001年 8月17日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年 6月28日 ( 9:02~12:43)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(副総裁)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(審議委員)
 4.政府からの出席者
  • 財務省 村上誠一郎 財務副大臣
  • 内閣府 竹中 平蔵 経済財政政策担当大臣

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役和田哲郎(9:02~9:15)
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役村山俊晴
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室企画第2課長梅森 徹(9:02~9:15)
  • 企画室調査役清水誠一
  • 企画室調査役長井滋人

I.「補完貸付制度基本要領」の一部改正の決定

1.執行部からの提案内容

 金融調節の一層の円滑化を図る観点から、補完貸付制度に基づく貸付の方法を手形貸付から電子貸付に変更し、その担保を手形買入の担保等と共通して利用できる根担保とするために、「補完貸付制度基本要領」(平成13年2月28日決定)を一部改正したい。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表されることとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(6月14、15日)で決定された金融市場調節方針1にしたがって、日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるような調節を行った。こうした調節のもとで、6月下旬入り後、月末要因や国債発行日要因に加えて、オープン市場の短期国債レートが若干強含んだこと等を映じて、幾分市場にタイト感がみられたが、無担保コールレート(オーバーナイト物)は、0.01~0.03%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 短期金利については、ターム物も含めてゼロ金利政策時を下回る超低金利の状態が続いている。その中で、一時は0.01%を割り込む水準にまで低下していた短国レートがそれまでの反動で幾分強含んだほか、月末越えのターム物も僅かに上昇した。

 長期金利は、政府による「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以下「基本方針」)の決定を受けて、国債の需給懸念が後退したことなどを映じて幾分低下した。残存期間別には、5年物の国債金利が既往ボトムを更新したほか、2~5年のゾーン間スプレッドの水準がゼロ金利政策時に比べても縮小していることから、特に5年までの期間で時間軸効果が強力に効いていることがみてとれる。

 株価は、6月中旬まで軟調に推移した後、「基本方針」の内容を好感して幾分持ち直している。業種別には、輸送機器(円安)、銀行(不良債権処理積極化期待)の上昇が寄与している。もっとも、銀行株については、値動きが銘柄によって2極分化しているほか、先行きに慎重な見方をする先も多い。

(2)為替市場

 円の対ドル相場は、わが国の景気下振れ、米国政府が円安を容認するとの思惑などを背景に124円台まで下落した。当面は、市場センチメントを示す指標からも、方向感が見出し難い状況になっている。

3.海外金融経済情勢

 前回会合以降、全体の判断を変えるような新しい材料はみられない。

 米国の実体経済をみると、企業部門において生産・雇用の調整が続いている一方、自動車販売やコンフィデンス指標等で家計部門の需要の底固さが確認された。企業部門では、5月の鉱工業生産が8か月連続で前月比減少したほか、製造業稼働率も83年8月以来の低水準にまで低下しており、特にIT関連業種の落ち込みが目立っている。対外収支面では、輸出・輸入ともに減少傾向が続いているが、内訳をみると製造業における調整進行を映じて輸出入の双方で資本財の減少が目立っている。

 こうした状況下、米国連銀は、6月27日の連邦公開市場委員会(FOMC)において、FFレートの誘導目標水準を、それまでの4.0%から3.75%へと引き下げた。

 株価は、IT関連企業の業績悪化予想を背景に6月中旬にかけて低下したが、その後は利下げ期待もあってやや値を戻した。長期金利は、6月中旬以降、市場予想を下回る経済指標を受けた追加的な利下げ期待を背景に緩やかに低下したが、実際の利下げ幅が0.25%に止まったことから、短めのゾーンを中心に幾分上昇した。

 ユーロエリアでは、4月の鉱工業生産が2か月連続で減少したほか、製造業の設備投資にも減速感が窺われ、企業の景況感も悪化傾向が続くなど、域内主要国に景気の減速傾向が徐々に広がりつつある。この間、物価については、家畜伝染病の影響による食品価格上昇やエネルギー価格上昇の影響から、5月の消費者物価前年比は+3.4%と引続き高めの水準にある。

 NIEs、ASEAN諸国では、IT関連財を中心に米国、日本向け輸出の減少が続いていることを背景に、生産が減少基調にあり、製造業のコンフィデンスも悪化が続くなど、景気の減速が続いている。国別にみると、IT依存度の高い台湾で景況感が厳しさを増している一方で、リストラ問題の落ち着きやオールド・エコノミーの輸出増加を背景に韓国で幾分改善の兆しが窺われる。

 この間、エマージング市場の動向をみると、アルゼンチン、ブラジル、トルコなどで対米国債スプレッドの拡大が目立っている。特に、アルゼンチンでは、国内の貿易業者に対する特別為替相場の適用措置(実質的に二重為替相場制と同様の経済効果)が、先行きの全面的な通貨切り下げに繋がり得るものと市場で受け止められたことが、同スプレッドの急拡大をもたらした。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

前回会合以降に公表された経済指標は多くなく、「輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まりつつある」との景気判断を変えるような材料はみられなかった。  前回会合以降に公表された経済指標は多くなく、「輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まりつつある」との景気判断を変えるような材料はみられなかった。

 まず本日公表された5月の鉱工業生産は、前月比−1.2%となり、この結果、第2四半期も本年第1四半期とほぼ等速の減少となる見込みであるが、全体として在庫・出荷のバランスに大きな変化はみられない。一方、非製造業の動向を表わす第3次産業活動指数(4月)は、振れの大きい通信(移動通信業)の低下などを背景に比較的大きな低下となった。

 実質輸出入をみると、輸出は情報関連やアジア向け中間財などを中心に大幅な減少を続けている一方、輸入は前期に大幅に減少した後、横這い圏内の動きとなっている。

 設備投資関連では、中小企業製造業に関する中小公庫のアンケート調査が、前年度比2桁の減少と、ほぼ3月短観並みの出だしとなり、例年の傾向からみて今後計画が上方修正されるのは確実としても、同部門の投資が最終的に2000年度の水準を上回るかは微妙なところである。

 個人消費関連では、5月の家電販売が1~3月の家電リサイクル法関連の駆け込みの反動で伸びを低下させているが、百貨店、チェーンストア、コンビニエンス・ストアなどの売り上げには基調的な変化はみられない。夏季賞与については、大企業を中心とするアンケート調査では前年度の増益を映じてプラスになっているが、中小企業も含めた最終的な仕上がりがプラスとなるかどうかは判断が難しい。

 5月の企業向けサービス価格指数は、「マイライン」導入に伴う通信料金引き下げなどから、前年比マイナス幅を拡大した。

(2)金融環境

 前回の会合以降、新たに公表された指標はない。

 6月のマネタリーベースは、月末にかけて郵便局が定額貯金の集中満期に備えて手許現金を大きく積み増すとみられることから、前月(+5.1%)に比べて一段と前年比伸び率を高める見通しである。

 企業倒産は横這い圏内の動きが続いており、大きな変化はみられていない。この間、一部アンケート調査等では、中小企業の資金繰り等について幾分悪化を示すものがみられ始めており、次回の短観の結果なども含め、注視していく必要がある。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状

 会合では、前回会合(6月14、15日)以降に明らかになった経済指標等が多くないこともあり、前回会合時点での「景気は、輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まりつつある」という判断を変更する材料はないとの見解が大方の委員に共有された。

 企業部門については、多くの委員が、生産の減少が続いていることに言及した。こうした生産減少の背景としては、輸出の減少、建設需要の落ち込み、在庫調整圧力の増大、海外生産シフトの影響等が指摘された。

 まず、輸出の動向について、ある委員は、IT関連のうち、特に携帯電話関連の世界的な需要落ち込み(年5億台から4億台へ急速に下方修正)が、内蔵部品の殆どが日本製であるという裾野の広さもあって、予想以上のインパクトを与えていることを強調した。また、別の委員は、外需の前期比が4四半期連続でGDPに対してマイナス寄与となる見込みであるとしたうえで、世界貿易の対GDP比が長期的に上昇して貿易への依存度が高まってきた下で、2000年から2001年にかけて世界貿易の伸び率が過去最大の鈍化を示すと予測されるとし、グローバリゼーション時代で最初の世界景気の後退に陥る可能性が高いと述べた。この委員は、その中で、日本経済が特に大きな打撃を受けている背景について、(1)エレクトロニクス、精密機械といった日本の価格競争力の高い分野での世界的な需要の落ち込みが著しいこと、(2)日本の交易条件が悪化していることを挙げた。同じ委員は、輸入が減少しない背景として、低価格志向をうまく活用するような形でのビジネスモデルの存在を指摘した。

 別の委員は、生産減少の背景として、建設需要が、地域間格差の拡大を伴いつつ、大きく落ち込んでいることを指摘した。

 また、ある委員は、在庫調整の動きが長期化する可能性が大きいことを強調した。この委員は、鉄鋼、電気機械、石油化学、紙パ等の業種でこれまでキャッシュ・フロー維持のために大幅減産を回避してきた結果、在庫が高水準となり、物理的に在庫を持てない限界にきていることに言及し、今後、否応無しに減産せざるを得ない局面に入っている、と述べた。

 ひとりの委員は、IT関連を含めた電機、自動車等で、中国を中心に海外生産シフトによる水平分業を一段と進めていることが、消費需要が国内生産に結びつかない背景にあると指摘した。

 このほか、企業部門の動向について、ひとりの委員は、4月の全産業活動指数が、前月比大きく下落していることに懸念を示した。ある委員は、3月短観の「上期減益、下期回復、通期増益」の予測(大企業)が、6月短観で実体経済の悪化分をどの程度織り込んで下方修正してくるかが要注目であると述べた。また、別のある委員は、今後の着目点として中小企業の業況や資金繰りの動向を挙げ、アンケート調査等を見守りたいとした。

 家計部門については、雇用・所得環境について複数の委員が発言し、夏のボーナスは前年業績を背景にまずまずの水準になるとみられるものの、年下期に陰りが生じないかがポイントであるとの見方を示した。ひとりの委員は、個人消費の現状について、消費構造の変化、2極分化が進行しているが、各種指標の振れを均せば「平時」の状態にあると評価した。

 今後の賃金の動きを占う際のひとつの論点として、6月に調査統計局スタッフが公表したレポートが示した分析結果(わが国の労働分配率は、労働生産性の上昇に伴う上昇トレンドを勘案すると、既に中長期均衡値の近傍にまで低下している)のインプリケーションについて議論があった。ひとりの委員は、このことが、今後賃金抑制圧力が弱まることを意味するのか、利潤率自体は国際的にみて低水準にある中で引き続き賃金抑制が続くのか注視したいとコメントした。別の委員は、国際的な利潤率の調整圧力は以前から存在しており、ここにきて強まったとは思えないことから、上記分析結果は、今後労働分配率の低下に歯止めがかかり、企業収益と賃金の連動性が高まることを示唆するのではないかとの見解を示した。

2.景気の先行き

 景気の先行きについては、4月に公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」で示した判断に照らして、標準シナリオで想定したパスを大きく逸脱するものではないものの、ダウンサイド・リスクが強まりつつあるとの見方が大勢を占めた。複数の委員は経済の足取りは標準シナリオを下回りつつあると述べた。ひとりの委員は、7~9月に向け、景気はなお悪化すると述べた。今後のリスク要因としては、米国経済や世界的なIT関連分野の動向と構造改革の影響に議論が集中した。ひとりの委員は、中東情勢も踏まえると、石油情勢も目が離せないと指摘した。

 米国経済の動向については、多くの委員が、不確実性が高いとしつつ、回復のタイミングは後ろにずれ込みつつあるとの見方を示した。複数の委員が、この間の金融緩和によりオールド・エコノミーが持ちこたえる一方で、将来の予想収益に支えられてきたニュー・エコノミーについては、金利低下によるサポートが難しく、何時ボトムを打つかは予想し難いとの判断を示した。

 ひとりの委員は、7月以降の減税効果に期待するとしながらも、エネルギー価格の上昇や雇用調整の影響が懸念されるとした。別のある委員は、米銀の貸出姿勢が厳格化してきている中で、通信業界における倒産増加がそうした傾向に拍車をかけることに懸念を示した。

 一方、株価が下落する一方で家計支出が底固く推移している点についても複数の委員が言及した。ひとりの委員は、所得階層別の純金融資産と貯蓄率の関係を分析した米国連銀のエコノミストによる論文を紹介し、株価上昇とそれに伴なう貯蓄率の低下という形の消費ブームが上位20%の所得階層に集中した動きであったことを指摘した。この委員は、米国経済の今後を占う着目点として9月にかけての株価動向を挙げ、現時点では先行きの方向感が非常に見定め難いが、夏場には、米国経済の先行きがかなり判明してくるのではないかと述べた。

 構造改革については、短期的にデフレ効果を及ぼすリスクについて多くの委員が言及したが、一方で、構造改革が必ずしもデフレ的とはならない可能性がある点についても複数の委員が指摘した。

 まず、財政構造改革については、ひとりの委員が、中期的な目標を定めつつも、マクロ経済情勢に配慮しつつ柔軟に実行していくという「基本方針」の姿勢は適切であると述べた。この委員は、財政再建の具体的な影響は、歳出削減の規模だけでなく、歳出内容の見直しがどのように行われるかによっても異なってくるので、来年度予算の骨格を踏まえて評価する必要があるとした。ただし、別の委員は、公共投資のうち、地方単独事業が減少傾向にあることについて懸念を示した。

 ひとりの委員は、構造改革が景気にプラスに作用しうるルートを次のように整理した。すなわち、規制緩和や社会資本整備によって投資の期待収益率が高まると、投資が増加し、将来の所得増加を織り込んで消費の増大に繋がることも期待できるとした。また、財政再建パスが信頼され、年金制度の持続可能性について家計の懸念が緩和されれば、この面からも、消費にプラスの効果が及ぶ可能性があると述べた。この委員は、一般的にはこうした効果が表われるまでには時間がかかるといわれているが、実際の効果の出方については、構造改革の具体案に即して見極めていく必要があると述べた。

 金融システム問題については、ひとりの委員が、世界的な銀行業界の競争を考えると、銀行経営の面からは、破綻懸念先以外の要注意債権、要管理債権についてもより厳格な姿勢をとらざるを得なくなると述べた。この委員は、その場合は銀行に対する市場の評価が向上する一方で、中堅・中小企業へのデフレ圧力が高まる惧れがあると指摘した。これに対して、別の委員は、不良債権処理のプラスの面として、借手と貸手の双方に新規プロジェクトへの投資促進意欲が高まる効果が期待できるとの見方を示した。

 以上の議論を踏まえて、ある委員は、構造改革の影響を考えていく際には、貯蓄・投資バランスの観点から、財政の削減を他の需要項目でどのように補っていけるかを分析することが重要であり、この点を明確にするべきと指摘した。別のある委員は、構造改革と景気回復のバランスが重要であるとの観点から、構造改革のためにマイナス成長を容認することは適当でないとの見解を述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上のような金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 委員の認識は、(1)「景気は輸出の落ち込みを主因に生産の大幅な減少が続くなど、調整が深まりつつある」という前回会合での判断を変える材料は得られておらず、(2)先行きについては、当面は生産面を中心に調整を続ける可能性が高い、(3)今後、構造改革の進展とその影響、IT分野を中心とする海外経済の動向、金融緩和の浸透状況などをよく見極めていく必要がある、というものであった。このため、すべての委員が、当面の金融政策運営方針としては、現状維持を支持した。

 まず、3月の金融緩和措置の効果について、複数の委員が発言した。ある委員は、中長期金利が一段と低下し、中低位株が資金繰り悪化懸念の後退や流動性相場の思惑から上昇しているほか、社債、CP市場での資金調達活発化の動きがみられるなど、金融資本市場での緩和効果は当初の想定以上の規模と広がりをみせていると述べた。

 別の委員は、こうした金融環境のもとで、かりに経済主体がリスクテイク活動を活発化し始めれば、過剰流動性の効果が顕現化し、投資行動を十分刺激すると述べた。

 この間、金融緩和の効果に関係して、最近の金融市場動向の着目点についていくつかの発言があった。ある委員は、短期市場における一部ターム物金利の強含みの動きについて、新しい金融政策フレームワークの下での均衡レートの模索過程で起きた現象であると評価した。別の委員は、金利のイールドカーブが、非常にフラットな5年までと、それよりはスティープ化した5~10年とに分断されており、5年以降の部分で市場の期待形成に何が起きているのか見極める必要があると述べた。また、この委員は、マネー指標について、92年以降一貫して低下してきた信用乗数が幾分下げ止まり、若干上昇の気配も窺われることを指摘し、これが意味することを今後注意していくべきとした。

 ある委員は、金融緩和が為替レートに与える影響について説明した。この委員は、事実上のゼロ金利が続くという予想が強まり、経済主体がリスクテイクを積極化させる場合には、最も蓋然性が高い投資対象は外貨資産であり、その結果円安が進む可能性が高いとの見方を示した。この委員は、円安が進んだ場合の効果として、(1)物価上昇率の引き上げ、(2)輸出企業の収益下支え、(3)外国企業の進出促進による経営革新、の3点を挙げた。そのうえで、人為的な円安誘導は好ましくないが、自然な円安の流れは受け入れるべきであるとの趣旨を述べた。

 今後の金融政策運営については、多くの委員が、先行きの情勢の展開を見守る姿勢を支持した。ある委員は、秋以降の経済の展開に関する予想が、今後の政策判断のポイントになるとの見方を示した。別の委員は、日銀としては、情勢の変化に応じて機動的に対応するスタンスを保持する必要があると述べた。さらに別の委員は、今後、不良債権処理、構造改革と景気回復を図っていくためには、金融政策面の努力のみならず、民間部門の自助努力、政府による税制等を通じた環境整備との「合わせ技」が必要であると述べた。

 追加緩和策についても議論が行われた。ある委員は、ベースマネーの増加と実体経済活動との関係については、なお十分な説明が得られていないとして、今後の検討の必要性を指摘した。また、ある委員は、今後、インフレーション・ターゲティングで期待インフレ率に働きかけるという政策も必要な事態になりうるとの見方を示した。これに対して、ひとりの委員は、3月の措置にも「CPI上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで」という内容が含まれており、足許の物価からみればある程度の期待インフレ率押し上げ効果があってもよさそうであるが、各種サーベイ調査からはそうした兆候は窺われないとの指摘を行った。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  先般決定した「基本方針」は、内容的には当り前の政策ばかりだが、これまでは、その当り前のことができなかった。そうした内容を初めて閣議決定できたことの意義はたいへん大きい。日本経済にとって、重要なチャンスである。
  •  担当大臣の談話として、調整期間における成長率についての目途を0~1%として示した。その背景には、持続的に国民の生活水準が下がることは回避すべき一方で、高い成長を安易に期待すべきでもないという判断がある。その間はデフレ圧力が少し強く出ると想定しているが、構造改革は間違いなく長期の成長力を高めて、同時に需要も引き出すものである。経済財政諮問会議では、今後、経済や財政の中長期のシナリオをマクロモデルなども踏まえながら検討していくが、その際には、高度のエコノミストのリソースを持つ日本銀行にも独立した立場から参加して頂きたい。
  •  政策決定・執行プロセスそのものが全く新しいものとなりつつある。今後、経済財政諮問会議と各省庁との役割分担についても議論しつつ、来年度予算の基本方針、中期の財政見通し、その背景となるISバランスなどを検討していく方針であり、いわばレールを敷きながら政策を作っていく作業となる。そうした新しいかたちの議論のなかには、金融政策運営も必然的に入ってくることを御理解頂きたい。そのうえで、構造改革の断行にあたっては、短期的にデフレ圧力が高まるものと考えられることから、日本銀行におかれても、機動的な政策運営を行って頂きたい。
  •  なお、金融政策運営に関連した技術的な問題として、実質金利の議論を行って頂きたい。その過程では、既に取り組まれてきている問題ではあろうが、物価動向が適切に把握されているかどうか、という問題にも改めて関心を払って頂きたいと思う。

 財務省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国の経済は雇用情勢が依然として厳しく、個人消費も概ね横這いの状態が続いているものの、足許で弱い動きがみられるほか、輸出・生産が引き続き減少しているなど景気は悪化しつつある。また、設備投資の弱含みの兆しなど、先行き懸念すべき点がみられる。こうした中、物価の下落が実質金利を上昇させ、企業収益の鈍化とあわせて企業の実質債務負担の増大などを通じて経済に与える影響が依然として懸念される。
  •  政府としては、「構造改革なくして景気回復なし」との考え方に立ち、今後の経済財政運営および経済社会の構造改革に関する「基本方針」を閣議決定した。この中で、財政構造改革については、(1)14年度予算について国債発行額を30兆円以下に抑制することを目標とし、歳出全体に聖域なき見直しを図る、(2)その後本格的財政再建に取り組む際の中期目標としてはプライマリー・バランスを黒字にすることを目指し、そのための具体的な道筋や達成時期について年内を目途に具体的な姿を示す、とされている。
  •  こうした構造改革を進めるうえで、景気を下支えするために金融政策の果たす役割は重要である。3月の金融緩和措置後も物価は下落を続けている。今後、デフレ圧力がさらに強まる懸念がある中で、現在の金融緩和措置が物価安定にどの程度の量的効果を及ぼすのか、いつになれば物価下落に反転の兆しがみられるのか明らかになっていない。こうした中、従来の短期資産を中心とするオペの実体経済に与える効果は限定的であり、物価目標を設定して市場や人々の期待に強く働きかけるなど大胆な政策運営が必要なことが内外の有識者から指摘されている。幅広く経済により効果のある資金供給や金融政策運営のご検討を頂きたい。失業率が高水準で推移し、物価の下落が継続する状況においては、構造改革の影響をみながら対応を考えるのでは遅きに失する惧れがあり、先見性を持った予防的な姿勢で機動的な金融政策運営を行って頂きたい。

VI.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、金融市場調節方針を現状維持とするとの考え方が共有され、これをとりまとめるかたちで、議長から、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、中原伸之委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:なし

VII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2001年7月~12月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)

平成13年6月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)

平成13年6月28日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成13年7月~12月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成13年7月~12月
会合開催 金融経済月報公表(注) (議事要旨公表)
13年7月 7月12日(木)・13日(金) 7月16日(月) ( 8月17日(金))
8月 8月13日(月)・14日(火) 8月15日(水) ( 9月25日(火))
9月 9月18日(火)・19日(水) 9月20日(木) (11月1日(木))
10月 10月11日(木)・12日(金)
10月29日(月)
10月15日(月)
−−
(11月21日(水))
(12月 4日(火))
11月 11月15日(木)・16日(金)
11月29日(木)
11月19日(月)
−−
(12月25日(火))
未定
12月 12月18日(火)・19日(水) 12月20日(木) 未定
  • (注)「経済・物価の将来展望とリスク評価(2001年10月)」は、10月29日(月)の金融政策決定会合で審議・決定のうえ、10月30日(火)に公表の予定。

以上