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金融政策決定会合議事要旨

(2001年12月18、19日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年1月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 1月21日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2001年12月18日(14:00~15:21)
2001年12月19日( 9:01~14:54)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(副総裁)
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(審議委員)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(18日)
    村上誠一郎 財務副大臣(19日)
  • 内閣府 岩田 一政 政策統括官(経済財政—景気判断・政策分析担当)(18日)
    竹中 平蔵 経済財政政策担当大臣(19日<9:01~11:20>)
    小林 勇造 政策統括官(経済財政—運営担当)(19日<11:22~>)

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役和田哲郎
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(11月29日)で決定された方針1にしたがって、日銀当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な流動性の供給を行った。

 すなわち、11月30日には、月末要因および海外大手企業(米国エンロン)の経営破綻の影響から金利が強含む中、日銀当座預金残高を14兆円程度まで拡大させた。その後12月入り後は、市場が徐々に落ち着きを取り戻したことに伴い、日銀当座預金残高を8~9兆円程度とする調節を行った。こうした調節のもと、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は0.001~0.003%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が6兆円を上回ることを目標として、潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 前回会合以降の特徴点としては、一部企業の経営破綻などを受け、国内市場参加者のクレジット・リスクへの懸念が一段と高まっていることが挙げられる。

 まず、株式市場では、銀行株や建設・不動産株、その他低位株が一段と売り込まれ、これらの株価が大きく下落する展開となっている。一方で、IT関連の電機株等は、米国景気の回復期待やNASDAQの上昇、円安の進行などを受け、総じて堅調に推移している。

 社債市場では、クレジット・スプレッド(社債流通利回りと国債流通利回りの格差)の拡大傾向が、これまでのトリプルB格債から、最近では一部シングルA格債まで広がってきている。ただし、スプレッドの水準自体は、企業金融全般が逼迫した97~98年頃の水準に比べれば小幅に止まっている。この間、長期金利は、最近では1.3%台半ばと、前回会合時対比で横這い圏内で推移している。

 ターム物金利は、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、引き続き、きわめて低い水準で推移している。ただし、足許では、エンロンの経営破綻を受け、一部投信がMMF解約に備えて手持ちのTB等の換金売りを行ったことから、TB金利等が若干強含む動きもみられている。

(2)為替市場

 円の対米ドル相場は、本邦一部企業の経営破綻や日本国債の格下げに加え、本邦通貨当局者の発言が円安容認スタンスを示すものと市場に受け止められたこと等から、足許では128円台まで下落している。

3.海外金融経済情勢

 前回会合以降の海外金融経済情勢をみると、足許では各国で実体経済の悪化傾向が続いている。その一方で、金融市場では、先行きの景気回復期待を背景に、株価や長期金利の上昇がみられている。

 まず、米国経済の動向をみると、生産や設備投資の減少など、企業部門の調整が続くもとで、雇用情勢の悪化が急速に進むなど、景気は後退局面にある。一方で、減産の効果から、在庫調整はかなりの程度進捗している。また、個人消費の面では、自動車販売が各社の販売促進策(ゼロ金利キャンペーン)の効果から堅調を維持しているほか、クリスマス商戦も、これまでのところまずまずの売上げを確保している。こうした消費の動きが、景気後退の深化に歯止めをかけている面がある。

 FRBは12月11日に、政策金利の引き下げ(FFレート誘導水準:2.0%→1.75%)を実施した。なお、FF先物金利は、2002年2月までに0.25%程度の追加利下げを若干織り込む水準となっているが、その一方で、3月限以降は限月を追うにつれて上昇しており、2002年央以降の景気回復を見込む姿となっている。

 長期金利や株価は、先行きの景気回復期待の高まりから、テロ事件前の水準を超えて上昇しており、とりわけ、ハイテク株のウエイトの高いNASDAQの上昇が目立っている。また、テロ事件後一時厳しさを増していた投資家のリスク認識も徐々に緩和している。

 欧州では、輸出の伸びの鈍化や設備投資の減速などから、景気の減速が続いており、ドイツは既に景気後退局面入りしている。インフレ率も低下傾向を辿っている。一方で金融市場では、先行きの景気回復予想から、長期金利、株価とも上昇基調を辿っている。

 NIEs、ASEAN諸国でも、総じて景気の減速が続いている。すなわち、輸出や設備投資が引き続き減少しており、個人消費も、韓国を除けば総じて鈍化傾向にある。特に、台湾、シンガポール、マレーシアなど、IT関連への依存度の高い経済では、マイナス成長が続いている。

 ただし、世界的なIT関連の在庫調整の進捗を受け、NIEs諸国のIT関連輸出のマイナス幅は徐々に縮小している。こうした中で、NIEs諸国の株価もこのところ上昇が目立っている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気の現状をみると、輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している。

 需要項目別にみると、輸出は減少傾向を続けているが、当初懸念されたテロ事件の影響による一段の落ち込みは、今のところみられていない。

 一方、国内需要をみると、設備投資は減少している。住宅投資は低調に推移し、公共投資も減少傾向にある。また、乗用車販売や旅行、チェーンストア販売など、個人消費関連指標の弱さもはっきりしてきている。

 このような最終需要の動向を受けて、生産は大幅な減少を続けている。この間、電子部品分野の在庫調整はかなり進捗し、素材分野の在庫調整も進み始めているが、全体として、なお在庫調整圧力は強い。生産の減少を受け、企業収益も大幅に減少し、業況感も引き続き悪化している。12月短観をみると、売上げや企業収益は、製造業、非製造業ともに下方修正され、設備投資計画も、製造業大企業を中心に下方修正されている。業況判断も総じて悪化を続けている。

 こうした中で、家計の雇用・所得環境も厳しさを増している。

 景気の先行きを展望すると、輸出は当面は減少傾向が続くと考えられる。内需面でも、設備投資は減少を続け、公共投資も減少傾向を辿ると見込まれる。個人消費もさらに弱まっていくとみられる。こうした最終需要の動向に加え、在庫調整圧力も根強いことから、生産は少なくとも本年度中は明確な減少を続けるとみられる。

 この間、情報関連財の在庫調整は国内外で進捗しており、業界では、2002年春辺りまでには在庫調整が概ね一巡するとの見方が強まっている。このような見通しは、同分野の輸出や生産が遠からず下げ止まる展望を与えるものといえる。

 ただし、こうしたシナリオは、引き続き、米国をはじめとする海外経済の回復に大きく依存している。また、ネットワーク関連投資を中心とする最終需要はなお低迷しており、在庫調整が一巡しても、その後、情報関連財の生産が直ちに大きく回復することは現段階では期待し難い。

 物価面をみると、国内卸売物価は、(1)技術進歩要因に加え、(2)需給緩和を背景とする電子部品や紙パルプの軟調、(3)国際市況を反映した石油製品の大幅下落などから、マイナス幅が拡大している。消費者物価は、輸入品・輸入競合品の価格下落を主因に、弱含みで推移している。

 先行き、国内需給バランス面からの物価低下圧力は徐々に強まっていくと考えられる。さらに、技術進歩や規制緩和、流通合理化といった物価低下要因も働き続けるほか、原油価格などの下落も、当面、物価を押し下げる方向に作用するとみられる。したがって、当面、各種物価指数のマイナス幅は、横這いないし幾分拡大するとみられる。

(2)金融環境

 量的金融指標の動きをみると、マネタリーベースは、11月も前年比15.5%と高い伸びとなった。また、M2+CDの伸び率も、MMFからの資金シフトを主因に、11月は前年比3.2%と、前月(同3.0%)に比べて伸びを高めた。一方で、民間銀行貸出は低迷が続いている。

 直接金融市場の動向をみると、社債市場では、低格付け社債については殆ど発行がみられない状況が続いており、社債発行残高の伸びは鈍化傾向にある。CP市場をみても、発行残高自体は既往ピークの水準にあるものの、低格付けCPの発行環境が幾分悪化していることを背景に、発行残高の前年比伸び率は低下している。

 企業金融環境は、全体としては、依然として緩和感の強い状況となっている。しかしながら、企業のキャッシュ・フローが減少するもとで、民間銀行も、信用力の低い先に対しては貸出姿勢を慎重化させるなど、融資先に対する選別姿勢を強めている。12月短観をみると、中小企業の資金繰り判断DIや、中小企業からみた銀行の貸出態度判断DIは、引き続き、やや厳しめの方向に振れている。ただし、企業金融が広範な引き締まりをみた97~98年当時との比較では、DIの水準自体はかなり高めであり、悪化の度合いも小さい。

 企業倒産件数は、10月に引き続き11月も1,800件台となり、9月以前と比べ、水準を切り上げている。

 以上をまとめると、金融環境は、金利水準などからみれば、きわめて緩和的な状況が続いている。しかし、企業破綻の増加などを背景に、民間銀行や投資家のリスクテイク姿勢はさらに慎重化しており、一部の企業では資金調達環境が厳しくなる方向にある。このため、今後の金融機関行動や企業金融の動向には、十分注意していく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状と先行き

 景気の現状については、大方の委員が、輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している、との認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、(1)今後、内外の在庫調整が進捗し、生産の下押し圧力が減少するもとで、外需の回復に牽引され、日本経済も回復に向かっていくのか、(2)それとも、そうした前向きの力が働く前に、内需や金融システム面から一段と下押し圧力がかかり、スパイラル的な悪化につながっていくのか、きわめて重要な局面を迎えている、との見方を示した。

 まず、海外経済情勢について、議論が行われた。

 多くの委員は、(1)足許では、海外経済は米国、欧州、アジアとも一段と減速している一方、(2)株価や長期金利は、先行きの景気回復期待からむしろ上昇していることを指摘した。

 何人かの委員は、米国経済に関し、先行きの回復をサポートする好材料として、(1)原油価格の低下、(2)IT関連分野の調整進捗、(3)財政面での支援、(4)金融緩和、を挙げた。このため、米国経済の先行きについては、株価など資産価格が大きく崩れない限り、2002年半ば頃には回復に転じていくとのシナリオが最も蓋然性が高い、との見方を述べた。

 同時に、これらの委員は、(1)足許までの米国の販売統計の堅調は、自動車メーカーの「ゼロ金利キャンペーン」等、積極的な販売促進策により嵩上げされている部分もある、(2)こうしたことも含め、米国の設備投資や個人消費の調整のマグニチュードについては、依然として不確実性が高い、と指摘した。

 こうした議論を経て、多くの委員は、(1)米国経済が2002年央に回復に転じるシナリオは維持されているが、先行きについてはなお不確実性が高く、クリスマス商戦の帰趨など今後の展開を注意深く見守っていく必要がある、(2)したがって、海外景気が金融・資本市場の期待通りの回復パスを辿るかどうかについても、なお慎重にみておくべきである、との認識を概ね共有した。

 この間、別のひとりの委員は、米国の消費を中心に世界の景気が急激に後退していることは、消費財輸出のウエイトの高い中国に大きな影響を与えかねない、と述べた。

 次に、日本経済の現状と先行きについて、討議が行われた。

 多くの委員は、上述のように、回復に向けた前向きの動きも見え始めている海外経済との対比でみて、構造問題や金融システム面での問題を抱える日本経済の厳しさが目立っている、との認識を示した。

 企業部門の動向に関し、大方の委員は、調整の動きが広範な業種に広がっていると指摘した。

 12月短観の結果について、複数の委員は、業況判断DIや企業収益が広範な業種で悪化・下方修正をみるなど、企業部門が厳しい調整局面にあることを示している、との判断を述べた。同時に、複数の委員は、(1)各種DIや収益等の悪化テンポが、ここにきて加速しているわけではない、(2)IT関連の在庫調整が徐々に進みつつあるといった前向きの材料もみられている、とも指摘した。

 一方、別のひとりの委員は、(1)価格判断DIが一段と弱くなっている、(2)下期の収益予想はなお楽観的であり、今後下方修正される、(3)リストラが叫ばれているにもかかわらず、雇用者数が殆ど減少していない、(4)今後、前回のボトムを割り込む指標が増加するとみられる、として、他の委員よりも一段と厳しい見方を示した。

 この間、ひとりの委員は、自動車生産の減少が実体経済に与える影響の強まりに、懸念を示した。すなわち、(1)国内自動車販売が3か月連続の前年比マイナスであること、(2)米国自動車販売は、先行き、「ゼロ金利キャンペーン」による嵩上げの反動減が見込まれること、(3)現地生産化の本格化で、先行き、米国向け輸出の減少が不可避であることから、わが国の国内自動車生産は、本年度の950~960万台に対し、来年度は920~930万台に落ち込む可能性が高い、と述べた。また、この委員は、非居住用の建築着工床面積はやっと下げ止まり、横這いとなり始めたものの、マンション販売が息切れしてきた点が問題であるとの懸念を示した。

 次に、家計部門の動向について、多くの委員は、(1)雇用・所得面で、かなり急速な調整の動きがみられていること、(2)こうした中で、個人消費の面で、弱めの指標が目立ち始めていることを指摘した。

 ひとりの委員は、今回の局面において、企業部門の調整が家計部門の雇用・賃金の調整に波及するスピードが、過去の局面に比べて速まっているようにみられる、と指摘し、その理由として、労働市場の変化の中で、パートタイマーなど限界的な労働力への依存度が高まっていることを挙げた。そのうえでこの委員は、雇用・所得の調整スピードの速まりは、企業部門の景気変動への抵抗力が増すことを意味するが、一方で、こうした調整スピードの速まりが経済全体の早期回復に結びついていくためには、(1)優良企業や新興企業が経済活動を活発化していくこと、(2)一部門で余剰となった資本・労働などの生産資源が円滑に他部門に再配分されること、が必要となると指摘した。

 こうした雇用・賃金の調整を背景に、個人消費に関しても、多くの委員は、秋頃から明確に弱まってきているとの認識を共有した。

 このうちひとりの委員は、自動車や家電等、耐久消費財の販売減少が目立っている一方で、一部のブランド商品や、価格低下を実現した商品・サービスが堅調な売れ行きを維持しており、また外食、レジャー、旅行はほぼ満員状態であるなど、これらが消費を下支えしているとして、痛んでいるのは国と企業である、と述べた。そのうえで、こうした現象を捉えると、今はなお家計には余裕があり、個人消費はかろうじて「平時」を保っているといえるが、今後はこれが維持できなくなるリスクも高まっている、との認識を述べた。

 物価動向に関し、ひとりの委員は、足許、若干のマイナス成長のもとで需給ギャップも拡大しており、需給バランスの面から、物価に下方圧力がかかり続けていると指摘したうえで、最近の卸売物価のマイナス幅の拡大傾向は、こうした需給の悪化を素直に表している、との見方を示した。この見方に、他の複数の委員も同意した。

 別のひとりの委員は、最終需要財や原材料の在庫率、日経商品指数等の動きからみて、先行き、卸売物価の下落幅は拡大するとの見方を示した。

 さらに別のひとりの委員は、CPIについても、特に財の部分には、需給の悪化傾向が表れているとの見方を示した。

 また、別のひとりの委員は、構造調整に本格的に取り組まなければならない集中調整期間においては、物価と需要とのスパイラル的な悪化を回避することに主眼を置くべきである、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、日本経済は既にデフレ・スパイラルの初期の段階に入っている、との認識を示した。

 この委員は、(1)日本経済は先送りした諸問題の総決算を迫られ、先行き、株価は底割れするおそれがある、(2)景気動向指数の悪化が目立っている、(3)機械受注の落ち込みがIT関連以外にも広がっている、(4)企業倒産が増加している、と主張した。とりわけ企業倒産に関し、この委員は、倒産予備軍は100万件程度あるとみられ、近い将来、年間10万件程度の倒産が生じるおそれがある、と述べた。さらに、海外のIT関連株価の反騰についても、潤沢な流動性供給に伴うミニバブルの面が強い、との見方を述べた。

2.金融面の動向

 多くの委員は、当面、最も注目すべきダウンサイド・リスクは、主としてわが国の金融面にある、との認識を示した。

 多くの委員は、まず、金融システムを巡るリスクを指摘した。これらの委員は、(1)このところ銀行株の下落が目立っていること、(2)銀行発行債の対国債スプレッドが拡大していること、(3)クレジット・デフォルト・スワップ・レートが一段と上昇していること、などを指摘し、銀行経営に対する市場の見方はかなり厳しくなっている、と述べた。このうちひとりの委員は、地価が下げ止まっていないうえ、生保の経営状況も悪化している、と述べた。

 次に、企業金融を巡るリスクについても議論が行われた。

 多くの委員は、企業のキャッシュ・フローが減少している中で、株式含み損の拡大から銀行の実質自己資本が目減りしていることや、内外の大手企業の破綻が続いたことなどを受け、銀行や投資家のリスクテイク姿勢も一段と慎重化している、と述べた。具体的には、(1)CP・社債の金利について、信用度の違いを反映した格差が広がっていること、(2)低位株が大幅に下落するに伴い、株価のばらつきも大きくなっていること、(3)各種調査による企業からみた銀行の融資姿勢も徐々に厳しさを増していること、などが指摘された。

 一方で、これらの委員は、資金繰りや銀行の融資姿勢に関する各種DIの水準やクレジット・スプレッドの大きさなどからみて、これまでのところ、97~98年にかけてみられたような、大規模な企業金融の引き締まりが生じているわけではない、との認識を述べた。複数の委員は、(1)98年秋頃の企業金融の引き締まりは、金融市場全般に広がり、広範な企業に影響を及ぼすものであったのに対し、(2)現在の動きは、特定の先に対する市場参加者の見方が、選別的・集中的に厳しくなっている状況といえる、との整理を示した。

 このうち何人かの委員は、銀行や投資家の融資先・投資先の選別やスプレッド確保の動きは、構造改革や金融システム健全化の途上で避けられない痛みという面が大きいと述べた。そのうえで、こうした動きは、基本的には不良債権問題や過剰債務問題に根ざすものであり、金融政策によってこれを止めることは難しいし、健全化の流れを止めようとすることは望ましくない、と指摘した。

 ただし、多くの委員は、年末・期末やペイオフ解禁を控える中、こうした動きが行き過ぎて、健全な企業も含め企業金融環境が全般に不安定化し、実体経済活動に悪影響が及ぶリスクには、十分注意する必要がある、と述べた。このうちひとりの委員は、先行き一段の株安が、マインド面だけでなく、将来的に減損会計を通じて企業収益や、ひいては実体経済に悪影響を及ぼすリスクを指摘した。

 これに関連して別のひとりの委員は、日本銀行には、金融庁とタイアップして金融システムの安定に向けて機動的に手を打つことが求められており、これが日本銀行にとって今の最大の課題であると述べた。

 この間、ひとりの委員は、最近の銀行株価の下落は、一部には投機的な動きもあろうが、結局は不良債権処理が不十分との市場の見方を背景とするものであり、市場が理解しやすい抜本的な処理策を採らない限り、解決は難しい、と述べた。そのうえで、具体的な方策としては不良債権のオフバランス化や経営体力の強化が重要だが、必要となれば公的資本注入もためらうべきではない、との考え方を述べた。また別のひとりの委員も、(1)年度末までに極力スピーディに不良債権処理の具体策を進展させるとともに、(2)そのことを市場に認識させるような方策が重要である、と指摘した。

 さらに別のひとりの委員は、証券行政に関連し、(1)空売り価格は直近価格を下回ってはならないという、所謂アップティック・ルールの徹底、(2)アップティック・ルールに関連する省令中の信用取引・制度貸借を利用した取引等を例外とする条項の撤廃、(3)逆日歩銘柄が多すぎるため、制度貸借の対象銘柄を上場株式2千万株以上から浮動株式2千万株以上へと変更する、(4)一般貸借の拡充、等を求める主張を行った。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営について、検討が行われた。

 大方の委員は、足許の景気について、雇用・所得環境の悪化傾向が明確化している中で、個人消費の弱さもはっきりしてくるなど、広範に悪化している、との見解を共有した。さらに、当面は、わが国の金融面に端を発するダウンサイド・リスクにとりわけ注意が必要であるとの見方でほぼ一致した。

 こうした認識のもとで、すべての委員が、経済活動を下支えするとともに、金融面から実体経済活動に悪影響が及ぶリスクを減少させる観点から、金融政策面での対応を図ることが適当である、との見解を共有した。

 具体的な対応策については、日銀当座預金残高目標の変更、企業金融円滑化のための金融調節手段の拡充策などを中心に議論が行われた。

(1)当座預金残高目標の設定方法と増額

 多くの委員は、本年3月に決定した金融緩和の枠組みに基づき、日銀当座預金残高を引き上げる対応が基本となる、との見解を示した。

 まず、当座預金残高目標値の設定方法について検討が行われた。複数の委員は、(1)現在の上限を定めないターゲットは、あくまでテロ事件以降の緊急時対応と捉えるべきである、(2)市場の安定感を醸成するためにも、特定の水準をターゲットとする手法に復帰することが望ましい、(3)ただし、ターゲットをピンポイントで示すかレンジで示すかについては、なお議論を重ねたい、との大枠の考え方を述べ、大方の賛同を得た。

 具体的な目標値については、(1)日銀当座預金残高の増額によるポートフォリオ・リバランス効果はこれまでのところ限られたものと言わざるを得ない、(2)そのうえで、市場等の期待形成に働きかける効果を狙うとすれば、かなり思いきった増額が必要となる、(3)直近のピーク残高の14兆円をカバーできる金額とすべきである、といった意見が出された。こうした議論の中で、多くの委員は、ピンポイントあるいはレンジの上限として、15兆円という残高の目途に言及した。

 同時に、日銀当座預金増額のフィージビリティについても、議論が行われた。

 複数の委員は、(1)日銀当座預金の残高は、需要を超えていくらでも増やせるわけではないし、(2)また、残高の多寡が、必ずしも市場の緩和度合いに結びつくわけではない、との留意点を述べた。このため、何らかの理由で流動性需要が減少する場合、高水準の日銀当座預金の供給を続けていけるのかどうか、との問題を提起した。ある委員は、いったん高めの目標を設定した後でこれを引き下げることは、「引き締め」との誤解を招き望ましくないと述べた。

 ある委員は、この問題に関して理論的な整理を行った。

 すなわち、日銀当座預金についても、最終的には需要イコール供給となるが、その調整は、(1)日本銀行が、その時々の需要を上回る資金供給を試み、(2)その結果金利というプライスが低下し、(3)これを受けて需要が増加し、結果的に需要と供給が一致する、といったメカニズムを通じて行われる、と解説した。そのうえで、金利がほぼゼロに達した中で、なお供給に需要が追いつくメカニズムが働き得るのかどうかは、理論的にも実際にも不確実であると述べた。

 この間、議長からの求めに応じ、執行部から、日銀当座預金増額のフィージビリティに関して説明が行われた。

 執行部はまず、(1)9月以降多額の資金供給が可能となっている背景としては、テロ事件以降の流動性需要の高まりに加え、9月に市場金利の刻み幅が100分の1%から1000分の1%に変更され、市場金利に限界的な低下余地が生じたことが寄与している、と述べた。そのうえで、(2)さらなる短期金利の低下余地がなくなった現状では、きわめて高水準の当座預金供給をコンスタントに継続していこうとすると、資金需要の動向次第では再び「札割れ」が頻発する可能性は否定できない、と述べた。

 こうした議論を経て、多くの委員の見解は、(1)日銀当座預金の増額に、市場参加者の期待に働きかけるといった何らかの効果を狙うのであれば、最近の実績を大幅に上回る目標値とする必要があること、(2)一方、日銀当座預金への需要がなお安定したとは言えず、資金需要が減少するような場合にも対処できるようにする必要があること、の双方を踏まえ、「10~15兆円程度」というレンジによる目標設定が適当である、との考え方に収斂していった。

 このうち複数の委員は、そうした考え方に賛成したうえで、実際の当座預金残高が上記レンジの下限にはり付くような事態を回避する努力が必要であると述べた。

 そのうえで、さらに流動性需要が大きく高まる場合には、「なお書き」で対応することが望ましいとの見解も概ね共有された。

 また、何人かの委員は、資金の円滑な供給を図るため、3月に決定した金融緩和の枠組みに沿って、長期国債の買入れを増額することが適当であるとの意見を述べた。増額幅についてはいくつかの意見がみられたが、最終的には、議長が月1回2千億円の増額を図るとの判断を示した。

 この間、ひとりの委員は、今後の金融政策運営を考えるうえでの視点として、(1)日本銀行の外債購入について、法律上の可否を明確にすることに加え、(2)金融政策の裁量を狭めないため、財政規律に関し、政府が市場からの信認を得る必要がある、と主張した。

(2)金融市場調節手段の拡充

 前述の金融面でのリスクを踏まえ、金融市場の安定的な機能を確保するとともに、緩和効果を補強する観点から、金融市場調節手段の拡充についても議論が行われた。

 多くの委員は、(1)融資先・投資先の選別姿勢の厳格化等の動きを、金融政策によって完全に止めることはできないし、また適当でもないが、(2)そうした動きが企業金融全般の引き締まりへと波及し、日本経済に悪影響を及ぼすリスクを減少させるための対応を採ることが適当である、との見解を共有した。このうちひとりの委員は、日銀と民間銀行との間で流動性が空回りするという状態から抜け出し、金融システムの外側に資金が流れるような工夫をすべきであると述べた。

 具体的な方策として、多くの委員は、CP現先オペの積極的な活用のほか、今後成長が見込まれる資産担保証券(ABS、ABCP)を、日本銀行のオペや担保の対象として広範に利用していくことはできないか、との問題意識を述べた。

 何人かの委員は、資産担保証券の発行規模は現段階では限られているが、今後は成長が見込まれる、と指摘した。そのうえで、不良債権問題を抱える間接金融の機能回復に時間がかかることが予想される中、市場を通じた資金仲介ルートを育成していく観点からも、資産担保証券を幅広く現先オペや日本銀行の信用供与に際しての担保の対象としていくことが有益である、と述べた。

 このうちひとりの委員は、資産担保証券市場の発達は、(1)企業の資金調達コストの引き下げやROAの向上に資する、(2)銀行が、証券化することを前提に、貸出に取り組むことができる、(3)仮に住宅ローン債権を適格対象ABSの裏付資産として認めれば、銀行が保有する住宅ローン債権の流動化を促すだけではなく、政府の特殊法人改革をサポートすることにも資するなどのメリットを指摘した。そのうえで、資産担保証券の現先オペ・担保への取り込みは、現在の量的緩和を強化することに加え、資金供給チャネルの拡充という、いわば「質的緩和」を通じて、金融面から構造調整をサポートする力を一段と強めることが期待される、と述べた。

 一方で、何人かの委員は、中央銀行がCPや社債を買い切ることは望ましくない、あるいは現段階ではその必要はないと述べた。その理由として、(1)CPや社債の買い切りは「中央銀行による企業への無担保信用」であり、中央銀行資産の健全性や中立性といった観点から問題が多いこと、(2)資金需要が乏しい中で、日本銀行がこれらの手段により企業に資金を供給しても、民間銀行からの借り入れの返済に充当され、全体としての信用創造の拡大にはつながらないこと、などが指摘された。

 こうした議論を経て、多くの委員が、そのほかの金融調節運営面での改善の余地も含め、金融市場調節手段の拡充に関する具体案について執行部からの報告を求めた。これを受けて、執行部から以下の趣旨の報告が行われた。

(1) 金融市場調節に当たり、CPや資産担保証券(ABS、ABCP)の一層の活用を図る方法としては、以下が挙げられる。

  1. イ.まず、当面、CP現先オペの積極的な活用を図ることが考えられる。この方法は、98年秋の企業金融の逼迫に際し、一定の効果を挙げた。これは執行部の判断により直ちに実施が可能である。
  2. ロ.次に、資産担保CP(ABCP)をCP現先オペの対象および適格担保に加えるための実務的検討を早急に進め、準備が整い次第実施に移すことが考えられる。これは金融政策決定会合での決定が必要である。
  3. ハ.さらに、住宅ローン債権や不動産を裏付け資産とするABSを適格担保に加えるための実務的検討を早急に進め、準備が整い次第実施に移すことが考えられる。これも、一部は金融政策決定会合での決定が必要である。
    なお従来は、リース料債権、クレジット債権、社債、企業向け貸出債権を裏付け資産とするABSを適格担保の対象としていた。これに上記の2種類を加えると、わが国で発行されているABSのほとんどすべてが対象となる。

(2) 金融市場調節の運営面での改善については、当面、以下の方策が考えられる。これらは執行部の判断により実施可能である。

  1. イ.全店買い入れ方式の手形オペのオファー頻度(現状月3回)を引き上げる。
  2. ロ.国債買い入れオペ、国債借り入れ(レポ)オペ、CP現先オペ、手形売出において輪番オファーを廃止し、今後、全オペ先に毎回オファーを行う。

 以上のような執行部の報告に対し、大方の委員は、いずれも適切な措置であり、金融市場調節方針の変更とともに、本日公表することが適当であるとの見解を共有した。

 この間、別のひとりの委員は、(1)物価水準ターゲットを導入するとともに、(2)資金供給の円滑な実施のため外債買入れを開始すること、(3)国債買切りオペを月2~4千億円増額することなどにより、日銀当座預金残高目標を15兆円程度とすることを提案したいと述べた。同時にこの委員は、CPや社債の買切りは望ましくないうえ、CP現先オペの増額や担保範囲の拡大についても、きわめて慎重に考えるべきである、と主張した。その理由としてこの委員は、(1)中央銀行として、徒に企業金融の分野に踏み込むことや、あるいは、踏み込んだとの印象を外部に与えることは望ましくなく、また、(2)いったんこうした分野に踏み出せば、今後、よりリスクの高いオペレーションへの要求にエスカレートしていく可能性がある、と主張した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、内閣府からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • 12月7日公表のGDP統計が示すように、経済はデフレ・スパイラルに入っているわけではないが、そのリスクは感じており、だからこそ12月14日に緊急対応プログラムを取りまとめた訳である。これは現在の財政状況の中ではかなりの判断であったと考えている。このように需要管理はしっかりやっていくと同時に、中期的には財政の規律を確保しながら、市場の期待に適切に働きかけていきたい。
  • 銀行株や一部の過剰債務を抱える企業の株価の動きなどは、たいへん厳しい状況にある。日本銀行も、そうした認識を共有のうえ、適切な金融政策をお採り頂きたい。緊急対応という観点から、一歩踏み込んだ議論を期待している。

 財務省からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • デフレ・スパイラル回避のため、政府・日銀が一体となって政策運営を行っていくということが共通認識になっており、この時期にできる限りの政策手段を集中投下することが必要である。このような観点から政府は先般、平成13年度第二次補正予算の編成を行うこととした。
  • 日本銀行におかれては、前回決定会合(11月29日)以降、概ね8兆円を上回る潤沢な資金供給を行っている。当座預金残高を増やすことは、市場に安心感を与えるという心理的な経済下支え効果があると考えられる。年末を控え、流動性懸念が生じるのではないかとの声も一部に聞かれることから、今後とも経済・市場動向を十分注視しつつ、引き続き潤沢な資金供給を行って頂きたい。
  • 消費者物価指数をみると、物価の下落が依然として続いている。日本銀行におかれては、デフレ・スパイラルに陥らないための政策論議を深め、機動的に金融政策を運営して頂きたい。その際、短期金利がほぼゼロという状況下では、従来の短期国債を中心とするオペが実体経済に与える効果は限定的である中で、本日は、デフレ・スパイラルに陥ることを防ぐよう、金融調節に当たり新たな工夫を講じる等の政策を、幅広くご検討頂いたことに感謝している。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、当面の金融市場調節方針としては、「10~15兆円程度」を目標とするとともに、このレンジを超えて資金需要が大幅に高まる事態に備えて、「なお書き」を復活させることが適当である、との考え方が大勢となった。

 ただし、ひとりの委員は、(1)物価水準ターゲットを導入し、(2)資金供給の円滑な実施のため外債買い入れを開始するとともに、(3)日銀当座預金残高目標を15兆円程度とすること、を提案したいと述べた。

 この委員はその理由として、(1)物価を現状以下には引き下げないという日銀の強い姿勢を示すとともに、政策評価をしやすくすること、(2)外債買い入れは、当面は必要ないとしても、資金供給手段の多様化および供給力の向上に資すると考えられること、(3)日銀当座預金の目標については、景気後退を踏まえ、これをピンポイントの目標値に戻すとともに、引き上げを図るべきであること、を挙げた。特に外債購入について、(1)日銀法第40条1項で外国為替の売買について明定している以上、同条2項との併存は明らかである、(2)外為市場の安定目的とは、短期的には乱高下の抑制、中期的には特定方向に動く際のスピードコントロールを意図して随時外国為替を購入することを意味している、との解釈を示し、日本銀行による定時定額の外債購入は、法律上も問題ないと主張した。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 中原伸之委員からは、金融市場調節方式について、「2001年7~9月期平均の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)のレベル(99.2)を基準として、2003年7~9月期平均の同指数について、その基準レベル(99.2)を維持ないしはそれ以上に引き上げることを目的として、金融市場調節を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 次いで同委員から、同じく金融市場調節方式について、「日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、実務体制等の準備が整い次第、外債の買入れを開始する」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 さらに同委員から、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針の決定に関する議案(議長案)

1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

 日本銀行当座預金残高が10~15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

2.対外公表文は別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

中原伸之委員は、(1)10~15兆円というレンジでは、執行部に裁量の余地を与えすぎである、(2)市場が10兆円の方にウエイトをかけて理解し、踏み込んだ政策でないと受け止める可能性がある、(3)デフレ・スパイラル初期の状態に入っている現段階では、幅のある曖昧な目標値では不十分と受け止められる、(4)多少の不確実性はあっても、敢えてピンポイントの目標を示すことが妥当である、と述べ、上記採決において反対した。

 次いで、本日検討された金融調節手段の拡充策のうち、今回の会合で議決に付すべき事項について、議長が議案を提示し、採決に付された。なお、対外公表文は、長期国債買い入れの増額、CPオペの積極活用、金融調節運営面の改善措置など執行部に授権されている事項も含めて作成することとされた。

金融市場調節手段の拡充に関する議案(議長案)

 金融市場調節手段の拡充を図る観点から、下記の諸措置を講ずること。

 対外公表文は別途決定すること。

1.ABCPをCP買現先オペの対象および適格担保とするため、実務的検討を早急に進めること。

2.適格担保となるABSの範囲を拡大するため、実務的検討を早急に進めること。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

中原伸之委員は、(1)従来から主張してきたとおり、中央銀行が軽々に企業金融の分野に踏み込むことは適当ではなく、金融緩和は正統的な手段で行うべきである、(2)ABS等の市場規模は小さく、限界的な効果しか持たない、と述べ、上記採決において反対した。

VI.対外公表文の検討

 以上の決定事項及び執行部実施事項について、執行部が作成した対外公表文の原案について、委員の間で議論が行われ、採決に付された。採決の結果、対外公表文(「金融市場調節方針の変更等について」)が賛成多数で決定され、別添1のとおり、同日公表されることとなった。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

中原伸之委員は、前述の金融市場調節方針および金融市場調節手段に関し反対の立場をとっていることから、上記対外公表文についても反対した。

 なお、政策変更時の恒例に従い、同日、議長が記者会見を行うこととなった。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を12月20日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

中原伸之委員は、(1)今次局面の特色である調整のスピードの速さについて言及すべきである、(2)倒産、失業率等に言及すべきである、(3)経済は既にデフレ・スパイラルの初期段階に入っていると考えており、この点、見解を異にしている、(4)公共投資の激しい落ち込みが地方経済に大きな影響を及ぼしていることを記述すべきである、(5)先行きの物価の下落について、「緩やか」との表現は適当でない、と述べ、上記採決において反対した。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(11月15、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、12月25日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、平成14年1月~6月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)

2001年12月19日
日本銀行

金融市場調節方針の変更等について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、主たる操作目標である日本銀行当座預金残高を増額するとともに、金融市場調節手段を拡充する措置を講ずることとした(別紙)。
  2. わが国の景気は広範に悪化しており、先行きについても、当面、厳しい調整が続くものとみられる。こうしたなかで、金融市場では、株価やCP、社債の発行金利について信用度の違いを反映した格差が拡がるなど、金融機関や投資家の姿勢が慎重化している。
  3. このような動きは、経済・産業面での構造改革や金融システム健全化の途上で避けられない面がある。しかし、そうした動きが行き過ぎ、健全な企業の資金調達環境が厳しくなると、実体経済や物価をさらに下押しすることが懸念される。
  4. 本日の措置は、こうした点を念頭において、金融市場の安定的な機能を確保し、金融面から景気回復を支援する効果を確実なものとするために講じたものである。
  5. 日本銀行は、物価の継続的な下落を防止するとともに、日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するため、今後とも実体経済面の動向や金融市場の状況を注視しつつ、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく方針である。

以上


(別紙)

  1. 金融市場調節方針の変更(別添)
    日本銀行当座預金残高が10~15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
    なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。
  2. 長期国債買い入れの増額
    これまで月6千億円(年7.2兆円)ペースで行ってきた長期国債の買い入れを月8千億円(年9.6兆円)ペースに増額する。
  3. 金融市場調節手段の拡充
    1. (1)コマーシャルペーパー(CP)、資産担保債券(ABS)の一層の活用
      1. (a)当面、CP現先オペの積極的活用を図る。
      2. (b)資産担保CP(ABCP)をCP現先オペの対象および適格担保に加えるための実務的検討を早急に進め、準備が整い次第、決定会合の議を経て、実施に移す。
      3. (c)住宅ローン債権、不動産を裏付け資産とするABSを適格担保に加えるための実務的検討を早急に進め、準備が整い次第、決定会合の議を経て、実施に移す。なお、従来は、リース料債権、クレジット債権、社債、企業向け貸出債権を裏付け資産とするABSを適格担保の対象としていた。
    2. (2)金融市場調節の運営面の改善
      1. (a)手形オペ(全店買い入れ)のオファー頻度を引き上げる。
      2. (b)国債買い入れオペ、国債借り入れ(レポ)オペ、CP現先オペ、手形売出において輪番オファーを廃止し、今後、全先に毎回オファーを行う。

以上


(別添)

平成13年12月19日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

 日本銀行当座預金残高が10~15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)

平成13年12月19日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成14年1月~6月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成14年1月~6月)
  会合開催 金融経済月報公表(注) (議事要旨公表)
14年 1月 1月15日(火)・16日(水) 1月17日(木) (3月 5日(火))
2月 2月 7日(木)・ 8日(金)
2月28日(木)
2月12日(火)
−−
(3月26日(火))
(4月16日(火))
3月 3月19日(火)・20日(水) 3月22日(金) (5月 7日(火))
4月 4月10日(水)・11日(木)
4月30日(火)
4月12日(金)
−−
(5月24日(金))
(6月17日(月))
5月 5月20日(月)・21日(火) 5月22日(水) (7月 1日(月))
6月 6月11日(火)・12日(水)
6月26日(水)
6月13日(木)
−−
未定
未定
  • (注)「経済・物価の将来展望とリスク評価(2002年4月)」は、4月30日(火)に公表の予定。

以上