日本銀行本店

金融政策決定会合の運営

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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 8月 8、 9日開催分) *

*本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年9月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 9月24日
日本銀行





(開催要領)

 1.開催日時:2002年8月8日(13:59〜15:53)
           8月9日( 9:00〜12:40)

 2.場  所:日本銀行本店

 3.出席委員:
    議長  速水 優 (総  裁)
        藤原作弥 (副 総 裁)
        山口 泰 ( 〃  )
        植田和男 (審議委員)
        田谷禎三 ( 〃  )
        須田美矢子( 〃  )
        中原 眞 ( 〃  )
        春 英彦 ( 〃  )
        福間年勝 ( 〃  )


 4.政府からの出席者:
    財務省  藤井 秀人 大臣官房総括審議官(8日)
         谷口 隆義 財務副大臣(9日)
    内閣府  小林 勇造 内閣府審議官

       (執行部からの報告者)
          理事            永田俊一
          理事            平野英治
          理事            白川方明
          企画室審議役        山口廣秀
          企画室企画第1課長     櫛田誠希
          金融市場局長        山本謙三
          調査統計局長        早川英男
          調査統計局企画役      門間一夫
          国際局長          堀井昭成

       (事務局)
          政策委員会室長       橋本泰久
          政策委員会室審議役     中山泰男
          政策委員会室調査役     斧渕裕史
          企画室調査役        衛藤公洋
          企画室調査役        清水誠一




I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(7月15、16日)で決定された方針1にしたがって運営し、当座預金残高を15兆円程度に維持する調節を行った。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移した。

1 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、資金余剰感が一段と強まっており、短期国債レートは1年物に至るまで全てのタームで弱含む展開となっているほか、ユーロ円金利(3か月物)も低水準で安定的に推移している。金融機関は、9月末越えのみならず、年末越えの資金調達についても安心感を徐々に強めており、昨年より1か月以上早く実施した年末越えの資金供給オペも、きわめて低い落札金利となった。

 国内資本市場、為替市場では、欧米株価や海外投資家の動向を巡って神経質な展開が続いている。株価は、欧米株価が大幅下落を続けるもとで、7月中旬まで小幅軟化に止まっていたが、下旬以降は海外投資家のリパトリエーション(日本株売却による資金還収)の動きから下げ足を速め、足許は9千円台後半で推移している。こうした動きを背景に、円の対ドル相場も120円台にまで軟化している。長期金利は、株価下落が金融政策の時間軸効果を強めるとの見方がある一方、銀行や投資家の利益確定売りへの警戒感も根強いことから、1.3%を挟んでフレの大きい展開となっている。

 この間、社債や銀行発行債のクレジット・スプレッドは、株価の下落にもかかわらず、概ね横這い圏内で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は引き続き回復基調にあるが、弱さを示す指標が増えている。まず個人消費については、6月までの各種販売統計をみる限り、基本的に底固さを維持しているとみられる。ただ、株価下落の影響から、7月の消費者コンフィデンス指標は悪化している。企業部門では、生産が拡大傾向にあるほか、収益も増益基調にあるとみられるが、7月のISM指数が製造業・非製造業とも低下するなど、企業マインドの後退が窺われる。雇用面でも、7月の民間非農業部門雇用者数は小幅増加に止まった。なお、先般公表された第2四半期の実質GDP成長率は、市場予想(年率+2.3%)を下回り、年率+1.1%と前期(同+5.0%)に比べ大幅な減速となった。

 米国の金融資本市場では、景気回復テンポに対する見方が一段と慎重化しており、株価が引き続き軟調に推移したほか、長期金利も低下基調にある。こうしたなかで、FF先物金利などには、年末にかけての利下げの可能性が織り込まれている。また、市場ではリスク回避指向の強まりがみられており、信用スプレッドが拡大するもとで、企業の不正経理問題の影響もあって、7月の社債発行額は大幅に減少した。

 ユーロエリアをみると、輸出増に伴って生産が回復傾向にあり、景気は総じて底入れしているが、個人消費、設備投資など内需は引き続き弱めに推移している。ドイツのIFO景況感指数は、現状・先行きとも、ここにきて弱気化している。こうしたなかで、ユーロ先物金利の動きをみると、利上げ観測が大幅に後退しており、来年まで金融政策据え置きとの見方が中心となっている。

 NIEs、ASEAN諸国では、輸出の増加が続くもとで、個人消費や設備投資も持ち直すなど、景気は引き続き回復基調にある。もっとも、IT関連の世界的な在庫復元の動きが一段落しつつあることから、輸出の増加テンポが鈍化する兆しがみられており、台湾、シンガポールでは生産水準の低下も窺われる。この間中国は、財政支出の増大や内需の好調に加えて、輸出も増加基調にあることから、高い成長率を維持している。

 エマージング金融市場では、欧米株価の下落等を背景に海外投資家のリスク回避指向が強まるなかで、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイなどで金融面の不安定性が増大する動きがみられた。もっとも、ごく直近は、ウルグアイとブラジルに対する国際支援の動きなどを受けて、両国を中心に幾分落ち着きを取り戻してきている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 公共投資は、減少している。4〜6月の公共工事請負金額は、前期比0.6%の減少となった。昨年度第2次補正予算の影響は、地方発注分も含めてほぼ一巡したものとみられる。

 輸出は、1〜3月に前期比+4.7%となったあと、4〜6月は、財別にみればIT関連財、地域別にみれば東アジア向けを中心に、同+7.8%と伸びを高めた。東アジア向けは、IT関連財に加えて、中国、韓国等における堅調な内需を背景に、中間財や資本財・部品が順調に伸びている。一方、4〜6月に急増したIT関連財輸出は、7〜9月も増加を維持する可能性が高いが、パソコンや携帯電話の最終需要に対する慎重な見方も増えており、秋以降の輸出への不透明感が徐々に強まっている。

 設備投資は、引き続き減少しているが、減少テンポは緩やかになっており、製造業の機械受注など一部の先行指標は下げ止まりつつある。この間、企業収益について7月時点の各種調査をみると、大企業では増益見通しが維持されており、中小企業でも下げ止まりが明確化しつつある。

 個人消費は、全体として弱めの動きが続いている。6月までの販売統計合成指数は、前年比でごく小幅のプラスに止まっている。乗用車販売は、4〜6月に持ち直したあと7月は減少した。消費者心理関連の指数は引き続き低水準であるが、雇用環境の限界的な改善等を背景に、方向としては改善傾向にある。

 こうした需要動向を背景に、鉱工業生産は、1〜3月に前期比+0.7%と5四半期振りに増加に転じたあと、4〜6月は+3.6%と高めの伸びとなった。7、8月の生産予測指数は、比較的高めの伸びを示しているが、ヒアリング情報によれば、企業は先行きをもう少し慎重にみている模様である。

 雇用・所得環境については、製造業を中心に、所定外労働時間やパートの新規求人など限界的な部分での改善が続いている。しかし、雇用者所得の明確な減少が続いており、雇用・所得環境は全体として、依然厳しい状況にある。夏季賞与も、6月支給分をみる限り、昨年冬季賞与並みの大幅な減少が見込まれる。

 物価面をみると、7月の輸入物価は、非鉄などの国際商品市況や、4月以降のドル安・円高を反映して、前年比、3か月前対比とも大幅な下落となった。こうしたもとで、7月の国内卸売物価(夏季電力料金調整ベース)は、鉄鋼など需給要因から上昇した品目もみられたが、春先までの原油価格上昇の影響一服や為替要因もあって、全体では前月比−0.2%となった。消費者物価は、前年比1%弱の下落が続いている。

(2)金融環境

 資金仲介活動をみると、民間銀行は、優良企業に対しては積極的な貸出姿勢を続ける一方で、信用力の低い企業に対しては慎重な姿勢を維持している。ただ、7月公表の主要銀行アンケート調査によれば、利鞘の引き上げ姿勢は堅持されているものの、信用枠や信用リスク評価といった利鞘以外の与信条件は、これまでの厳格化傾向には幾分歯止めがかかっているように窺われる。CP・社債の発行環境は、新年度に入って改善傾向が続いてきたが、7月は低格付け銘柄を中心に、これまでの改善傾向がやや一服している。

 資金需要は、企業が債務圧縮姿勢を維持するなかで、設備投資が減少しているため、引き続き減少傾向を辿っている。こうしたなか、各種信用量の動向をみると、銀行貸出は前年比2%台の減少が続いており、社債やCPの発行残高も、伸び率が鈍化している。この間、企業の資金繰り判断は、水準としては引き続き厳しいが、業況の改善などを背景に、悪化傾向には歯止めがかかっている。

 7月のマネタリーベースは、前年同月に、郵貯大量満期に備えた銀行券需要が高まったことの影響から伸び率が鈍化したものの、引き続き前年比2割台の伸びとなっている。

 マネーサプライは、前年比で3%台半ば、広義流動性は同1%台半ばの伸びを続けている。広義流動性の伸び率の内訳をみると、本年3月までは、ペイオフの部分解禁を控えていたこともあって、預金通貨(流動性預金)の伸び率上昇が目立ったが、新年度入り後はこれが概ね一巡し、その他の安全資産、すなわち国債・FBや郵便貯金のプラス寄与が幾分高まってきている。



II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢の現状について、委員は、国内需要が依然弱く、世界経済を巡る不透明感は増しているものの、輸出や生産は増加を続けており、全体としてほぼ下げ止まっている、との見方を共有し、前月の判断を据え置くことで一致した。

 一方、先行きについては、輸出・生産の増加が企業収益の回復を通じて民間需要を下支えし、景気の下げ止まりが明確になっていくというシナリオ自体は変わっていないとの見方が共有されたものの、米国をはじめとする海外経済の動向や、わが国株価の神経質な動きなどを踏まえると、不透明感が幾分高まってきているという点が意識された。

 まず、企業部門の動向について、多くの委員が、足許の輸出と生産が、前月までに想定していたよりもさらに強めに推移しているとの認識を共有した。複数の委員は、先行きも輸出・生産の増加基調は続くとの見方を示した。もっとも、これらの委員は、IT関連を中心とした在庫復元の効果一巡や海外経済の減速傾向を踏まえると、生産の伸び率は今後鈍化していく可能性が高いという点も指摘した。この間、ある委員は、素材や自動車などにみられるように、輸出主導の生産持ち直しという構図に変化は窺われないと述べた。さらに、ある委員は、上述のような先行き不透明感の強まりから、企業マインドが慎重化する動きもみられると指摘した。

 輸出・生産が増加基調を続けるもとで、企業収益については、多くの委員が、大企業を中心に足許増益基調を維持しているとの認識を示した。もっとも、複数の委員は、期初段階の予想を下方修正する動きが早くもみられつつある点や円高がさらに進んだ場合の影響などを指摘し、先行きの企業収益に慎重な見方を示した。設備投資については、製造業の機械受注等に下げ止まりが窺われるなど、一部先行指標に明るい材料が窺われるものの、なお減少基調を脱するには至っていないという認識が概ね共有された。

 家計部門については、複数の委員が、輸出・生産の増加を背景に、所定外労働時間や新規求人など、限界的な部分で労働需給の改善の動きがみられる点を指摘した。もっとも、大方の委員は、常用労働者数の減少幅拡大、夏季賞与の大幅な減少など、雇用・所得環境全体としては、厳しい情勢が続いているとの認識を共有した。こうしたなかで、大方の委員は、個人消費は、所得の厳しさに比べれば健闘しているものの、各種販売統計を総合すると、全体としてやや弱めの動きを続けているとの見方で一致した。

 物価に関しては、全体として大きな変化はみられないなかで、複数の委員が、年初から横這いの動きを続けてきた国内卸売物価が、夏季電力料金を調整したベースでみると再び弱含みに転じた点に着目した。ある委員は、春先には値上げに意欲的であった素材メーカーでも、思いの外値上げが浸透していないようだと述べた。消費者物価については、前年比1%弱の緩やかな下落傾向が続いているとの認識が共有された。この点に関連して、ある委員は、人事院勧告が初の公務員給与削減となったことに触れ、各方面への影響を注視したいと述べた。また、別のひとりの委員は、外食やパソコンなどで、従来一服傾向にあるとみていた低価格戦略への逆戻りの動きがみられる点を指摘した。この委員は、こうした動きは個人消費の弱さを表わしている可能性があると付け加えた。

 以上の議論を総合して、委員の間では、経済・物価情勢は、引き続き4月の「展望レポート」における「標準シナリオ」の範囲内での動きが続いている、との見方が共有されたが、同時に、先行きの不透明感が幾分高まっている点も意識された。その要因としては、全ての委員が、わが国景気が輸出主導の構図から脱し切れないなかで、株価など国際資本市場が不安定な動きを続けており、米国を始めとする海外経済の回復力に不確実性が増している点を指摘した。加えて、多くの委員は、バブル後最安値に接近したわが国株価の動向と金融環境面への影響にも言及した。

 まず、米国経済について、大方の委員は、景気を牽引してきた個人消費が足許なお底固さを維持していることから、「緩やかな回復基調」というシナリオ自体は崩れていない、との認識を示した。もっとも、景気の回復力は、従来考えられていたよりも弱い可能性があるという点についても概ね認識が共有された。同時に、複数の委員は、弱さの程度はまだ明確になっていないとも述べ、徒らに悲観論に傾く必要はないとの見方を示した。

 米国景気に対する弱気の見方の背景について、多くの委員は、(1)株価が不安定な動きを続けるもとで、(2)4〜6月期のGDP成長率や7月の雇用統計・企業コンフィデンス指標など、予想比弱めの指標が相次いでいることを挙げた。複数の委員は、市場でも「二番底」懸念を含めて弱気の見方が増えており、FRBによる年内利下げ観測が高まっていることを指摘した。また、足許底固さを維持している個人消費の先行きについても慎重な見方が多く示された。何人かの委員は、株価下落に伴う逆資産効果や消費者コンフィデンスの悪化を指摘したほか、別の複数の委員は、長らく住宅価格の堅調や家計の債務拡大に下支えされてきた消費の持続性に慎重な見解を示した。さらに、複数の委員は、信用スプレッドの拡大など市場のリスク回避指向が強まっている点を挙げ、金融面から景気が下押しされる可能性にも留意する必要があると述べた。

 この間、何人かの委員は、現時点では判断が難しいが、最近の米国株価下落の背景やそのマクロ経済的な含意をどう理解するかによって、米国経済の展望も大きく異なり得る点を指摘した。このうちのある委員は、(1)米国株価の下落は中長期の行き過ぎた成長期待の修正である、(2)今般のGDP統計の遡及改訂で、過去何年かにわたって成長率や企業収益、労働生産性が下方修正されたこともそうした見方を裏付けている、(3)その場合、米国経済がさらなる調整を余儀なくされる可能性も否定できない、との見方を示した。ただ、この委員は同時に、労働コストの着実な低下や企業収益の改善を踏まえると、企業部門における前向きのメカニズムは機能しているほか、長短金利にも低下余地があるため、回復力は弱いとしても、景気が二番底に向かう可能性は低いとの見解を示した。別のある委員は、会計不信の是正に向けて米国政府がかなり思いきった対応を採っていることから、予断は許さないが、米国経済に対する早期の信頼回復も期待できるのではないかと述べた。

 なお、前回会合以降、主要通貨に対してドルが一方的に安くなる傾向が一服している点が意識されたが、複数の委員は、以上のような米国経済を巡る先行き不透明感を踏まえると、再びそうした傾向が強まる可能性も排除はできないと指摘した。

 欧州経済についても、複数の委員が、輸出・生産の伸び鈍化や消費者コンフィデンスの悪化など、不透明感が増している点を指摘した。このうち何人かの委員は、独仏株価の年初来の下落率が3割前後と米国NASDAQに匹敵している点を指摘し、その金融・経済面への影響に警戒感を示した。アジア経済に関しては、複数の委員が、中国や韓国、台湾を中心に内需が堅調であり、わが国の輸出環境という意味では、欧米の減速をある程度補完し得るのではないかと述べた。もっとも、これらの委員も含め、多くの委員は、欧米が減速傾向を強めた場合、どこまで独立的に内需の堅調さを維持できるかはなお不透明であり、先行きについては慎重に見守っていく必要があるとの認識を共有した。また、複数の委員は、アルゼンチン、ブラジル、トルコなどのエマージング諸国を巡る金融市場の動きを引き続き懸念材料として指摘した。

2.金融面の動向

 米国など海外の株価が下落傾向を辿るなかで、本年2月のバブル後最安値近辺まで下落しているわが国株価動向や、その金融環境面への影響が景気の先行き不透明感を高める要因として意識され、この点を中心に議論が行われた。

 まず、金融環境全般について、大方の委員は、(1)金融市場ではきわめて緩和的な環境が維持されている、(2)一方企業金融面では、限界的に改善の動きがみられるが、中小企業を中心に総じて厳しい状況にあり、金融市場における緩和感が十分波及していない、という基本的な認識に変わりがないことを確認した。(1)に関しては、複数の委員が、短期金利の更なる低下、日銀オペでの落札レート・応札倍率の低下など、ここにきて市場の資金余剰感が一層強まっている点を指摘した。一方、(2)に関しては、ひとりの委員が、銀行が貸出利鞘の改善に努めていることもあって、中小企業の金融環境は厳しさを増しているのではないかと述べた。

 そのうえで、多くの委員が、足許の株価下落が、金融システム不安の高まりや、信用スプレッドの拡大、金融機関の貸出姿勢慎重化など、金融環境に悪影響を及ぼす可能性に言及した。もっとも、これらの委員も、これまでのところはそうした状況に至っておらず、株価下落にも拘らず、3月末にかけてのような危機感の高まりがみられていないとの認識を示した。その背景として、複数の委員は、(1)当時に比べ景気が幾分改善し企業の売上げや業績が持ち直している、(2)前年度末にかけて行われた特別検査の影響が一巡し、市場で大型倒産に対する懸念が幾分後退している、(3)流動性預金への急激な資金シフトの一服等を背景に金融機関の流動性不安が後退している、といった点を指摘した。

 ただ、多くの委員は、金融システムが克服すべき課題を数多く抱えているなかで、株価が更に低迷する場合にも、現在のような落ち着いた環境が維持されるかどうかは判らないと指摘した。このうち複数の委員は、銀行が自己資本比率を意識して予防的なリスクアセット圧縮に動く可能性や、株価下落が生保のリスクテイク力に及ぼす影響を指摘した。このほか、一部の委員は、金融機関の負債サイドで流動性預金のウエイトが高まっていること、一方資産サイドでは、財政規律に対する市場の懸念が根強いなかで、国債投資が増加していることのリスクにも言及した。



III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営については、景気の現状判断は据え置いたものの、先行き不透明感が幾分高まっているとの認識を踏まえ、足許金融市場の緩和感が一層強まっているなかにあっても、現在の思いきった金融緩和を継続し、漸く見え始めた景気回復の動きを下支えしていく必要があるとの判断から、全ての委員が、調節方針を現状維持とすべきであるとの見解を示した。

 そのうえで、多くの委員が金融調節上の留意点に言及した。何人かの委員は、「10〜15兆円程度」という目標の上限を目指す姿勢を継続すべきとの考えを示した。ある委員は、銀行間の資金取引が縮小気味であることを踏まえると、日銀が引き続き潤沢な流動性供給を行っていくことが市場の安定にとって極めて重要であると述べた。また、金融経済情勢において先行き不透明感が幾分高まっていることを踏まえて、複数の委員が、9月末に向けて必要に応じ「なお書き」を活用して弾力的に資金供給を行っていくことの重要性を強調した。このほか、ひとりの委員は、金融機関の流動性不安を僅かなりとも除去し、信用仲介し易い環境を醸成するため、引き続き長めのオペを積極的に活用していくことが望ましいのではないかと述べた。この間、先行きの金融政策運営にも複数の委員が言及し、更なる緩和が必要となった場合の追加策についても検討を進めていく必要があるとの認識を示した。また、ひとりの委員は、今のところ特定のリスクシナリオで先行きの金融調節のあり方を考えるような状況にはないので、内外の情勢をよく見ていくことが重要と指摘した。

 この間、今後の金融経済情勢、さらには金融政策運営にも影響を与え得る要素として、最近明らかになった政府の経済政策についても議論が行われた。まず、「決済機能の安定確保のための方策」の検討開始について、複数の委員が、金融市場面への影響という意味では、今のところ金融機関の資金繰り安心感、市場の資金余剰感を高める方向に作用しているとの見方を示した。もっとも、ある委員は、今回の対応が金融機関の資金調達環境にどのような影響を及ぼすかは制度設計などに大きく左右されるため、今後の議論の帰趨や市場の反応、資金フローへの影響を注視したいと述べた。また、何人かの委員は、今回の対応は金融システムの抱える問題への直接の処方箋ではないため、あくまでも金融機関が不良債権問題など経営課題の克服を通じて内外の信認を高めていくことが重要であると指摘した。

 次に、ある委員は、政府の示した「予算の全体像」や来年度概算要求基準に触れ、厳しい財政事情のなかで、歳出改革の加速や経済活性化に資する減税方針が示されたことに着目した。この委員は、こうした財政運営が民間活力を引き出すものとなれば、金融緩和効果も力強い効果を発揮し得ると述べた。



IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、景気は一部に持ち直しの動きがみられているが、米国経済の減速への懸念、世界的な株安やドル安などのリスク要因から、先行きに不透明感が高まっている。

  •  こうした状況のなか、政府としては、民需主導の自律的な経済成長をより確実なものとしていくため、各種構造改革を着実に推し進めていくこととしている。15年度予算編成においては、財政健全化等の観点から歳出規模の抑制を図るとともに、「新重点4分野」への予算配分の重点化を行うこととしている。また、税制改革については、持続的な経済社会の活性化に資する「あるべき税制」の実現を目指すこととしており、多年度で税制中立を図ることにより財政規律を堅持しつつ、先行減税を含む一体的な税制改革の具体化を検討していくこととしている。

  •  こうした政府の方針に呼応し、日本銀行においても、デフレ克服のため、金融政策運営にも更なる工夫を講じ、思いきった対応がとられるようお願いしたい。景気に一部持ち直しの動きがみられるなかで、依然としてデフレが継続しているが、デフレはそれが緩やかなものであっても、長期化することで経済に様々な悪影響を与えており、わが国経済が民需主導の自律的な成長を実現するうえで、デフレ克服はこの一両年の経済運営における最重要課題であるとの認識を共有し、日本銀行として最大限の努力をして頂きたい。

  •  加えて、現在までのところ、潤沢な資金供給が行われているが、引き続きこれを維持するとともに、今後とも経済・市場動向や金融情勢について十分注視し、資金需要が急激に増大するような場合には、弾力的な対応をお願いする。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気の基調判断は、昨日の月例経済報告のとおりであるが、世界経済の先行き不透明感が一層高まっており、わが国経済を下押しする懸念があるため、今後の景気動向は、これまで以上に注意深く見守っていく必要があると考えている。

  •  政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を早急に具体化することとしており、この方針を踏まえて、経済財政諮問会議では「15年度予算の全体像」を今回初めて取りまとめた。15年度予算編成については、歳出改革を加速すると同時に、経済活性化を目指した本格的かつ一体的な税制改革の具体化を進める。また、デフレ克服に向け、政府・日銀は引き続き一体となって強力かつ総合的な取り組みを行うこととしている。

  •  世界経済の先行き不透明感が一層高まっており、金融市場の不安定な動きについても十分注視する必要がある。こうした点も踏まえ、日本銀行におかれても、デフレ克服に実効性ある金融政策の検討・実施を継続して頂きたい。



V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。


議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。



採決の結果


賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、
   須田委員、中原委員、春委員、福間委員

反対:なし



VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は8月12日に公表することとされた。



採決の結果


賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、
   須田委員、中原委員、春委員、福間委員

反対:なし



VII.議事要旨の承認

 前々回会合(6月26日)および前回会合(7月15、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、8月14日に公表することとされた。

以  上



(別添)

平成14年8月9日
日本銀行

当面の金融政策運営について


 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。


 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以  上

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