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金融政策決定会合議事要旨

(2003年 1月21、22日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2003年2月13、14日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2003年 2月19日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年 1月21日(14:00〜15:46)
1月22日( 8:59〜12:25)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(21日)
    谷口 隆義 財務副大臣(22日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(12月16、17日)で決定された方針1に従って、日銀当座預金残高が目標レンジのできるだけ高い水準、すなわち20兆円程度となるよう運営した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、引き続き0.001〜0.002%で推移した。短期金融市場の資金余剰感は極めて強く、年度末前に期日が到来するCP買現先オペでは「札割れ」が生じている。

 1月15日時点で、年度末越えの資金供給オペ残高(短期国債買入オペを含むベース)は約25兆円に達しており、前年(同時期で約16兆円)を上回る過去最速ペースで、期末越え資金の供給を行っている。適格担保の受け入れ残高も、前回会合で決定した証書貸付債権の担保掛け目細分化の効果もあって、12月末時点で約70兆円と、11月末対比で約3兆円増加している。

  1. 「日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行の潤沢な資金供給や、昨年の流動性預金の大量流入や貸出の減少を背景に、大手銀行の市場性資金の要調達額が大きく減少していることなどから、これまでのところ年度末越え資金を取り急ぐ動きはみられておらず、ターム物金利は年度末越えのものも含め、全体として低水準で推移している。

 債券市場では、景気の先行き不透明感や資金余剰感の高まり、さらには最近のドル安・円高などを背景とする機関投資家や銀行の根強い国債投資姿勢もあって、長期国債流通利回り(10年物)は0.8%前半まで低下している。さらに最近では、超長期債の利回りの低下が顕著であり、20年債の利回りも1.28%まで低下している。

 株価は、景気の先行き不透明感などを背景に、8千円台半ばでの低調な動きが続いている。

 為替市場では、中東情勢をはじめとする地政学的リスクが一段と強く意識され、ドルは12月以降、他通貨全般に対して軟化傾向を辿っている。こうした中、円の対ドル相場は117〜118円台まで強含んでいる。一方、対ユーロでは、北朝鮮問題などが円安要因として意識され、円はむしろ軟調に推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国では、金利感応的な住宅投資や耐久財消費の堅調が、需要面から景気の緩やかな回復基調を支えている。一方、生産、雇用面での循環的な拡大のモメンタムは、弱まる方向の動きが続いている。

 最終需要の動向をみると、個人消費は自動車販売の伸びなどに支えられ、緩やかな増勢を維持している。クリスマス商戦は好調な滑り出しの後、盛り上がりを欠く展開となったが、積極的な値引き販売の効果などから、総じてみれば緩やかな伸びとなった模様である。設備投資はほぼ下げ止まりつつあるが、未だ回復には至っていない。

 なお、ブッシュ大統領は1月7日、個人消費の刺激策や投資促進策を柱とする新経済対策案を発表した。

 米国金融市場では、先行きの景気回復について、引き続き慎重な見方が一般的であり、地政学的なリスクに対する懸念も根強い。こうした状況のもとで、12月末にかけて長期金利は低下、株価は下落した。1月入り後は、長期金利、株価とも一時上昇したが、その後は再び軟化している。

 ユーロエリアをみると、内需が低調に推移するもとで、輸出の伸びも鈍化しており、景気が再び減速する惧れが強まっている。欧州金融市場では、株価は弱めの推移を辿っており、長期金利も軟化傾向にある。ユーロ先物金利の動きから市場の先行きの金利観をみると、年央にかけての利下げ観測が高まっている様子が窺われる。

 アジア諸国の経済は、前月以降大きな変化はない。すなわち、(1)中国は内外需とも好調、(2)韓国、ASEAN諸国は内需を中心に堅調、(3)輸出依存度の高い台湾、香港、シンガポ−ルは生産頭打ち、という姿となっている。

 エマージング金融市場では、先進国からの資金流入が続くもとで、総じて安定的に推移している。ただし、ベネズエラでは、ゼネストが長期化するもとで、通貨ボリバール急落や対米国債スプレッドの大幅な拡大がみられている。また、トルコでも、地政学的リスクの高まりが意識され、通貨、株、債券の「トリプル安」となっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 外需の動向をみると、輸出は11月には米国向けを中心にかなりの増加となったが、これには米国西海岸の港湾スト解除や、12月からの通関検査の強化を睨んだ前倒し輸出などの特殊要因が寄与しているとみられ、ヒアリング情報などをあわせてみると、実勢としては横這い圏内で推移していると判断される。

 内需面では、前月以降、大きな変化はみられていない。

 まず、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。

 設備投資は、企業収益が改善しているもとで、ほぼ下げ止まっている。ただし、先行き不透明感が強い中、企業の投資スタンスが積極化する展望までは拓けていない。

 個人消費をみると、雇用・所得環境が引き続き厳しい中、12月の販売指標は総じてやや不芳であった。ただし、これには、昨秋の販売指標が所得対比でみてやや強めであったことの反動もあるとみられ、個人消費は総じて弱めの動きが続いていると判断される。

 生産については、2002年10〜12月は、12月が予測指数通りと仮定すれば、7〜9月対比で−0.8%と若干のマイナスとなる見通し。ただし、11月の減少には船舶や鉄道車両といった大型案件の一巡も寄与しているとみられる。

 なお、従来であれば、現在のように在庫調整が進み、在庫水準が低くなった局面では、在庫積み増しの力が働き、生産が出荷よりも強めとなるのが普通であるが、今次局面では逆に、出荷が微増を続ける中でも、企業は景気の先行き不透明感から慎重な生産姿勢を維持し、在庫圧縮を続けていることが特徴的である。

 このような企業行動は設備投資の面でも共通してみられる(企業収益の増加にもかかわらず、企業は設備投資に慎重な姿勢を続けている)。このことは、資本・在庫ストック面から景気に下押し圧力がかかるリスクを軽減している一方、前向きの循環の力がなかなか強まらない原因ともなっている。

 物価面をみると、原油価格は11月にいったん軟化したが、12月以降は、イラク問題やベネズエラのゼネスト等を受け上昇傾向を辿っている。こうしたもとで、輸入物価は引き続き上昇している。

 国内商品市況は、アジア諸国の需要堅調や在庫調整の進捗を反映し、総じてみれば、昨年以降上昇傾向を辿っている。こうしたもとで、国内企業物価は機械類を中心に下落を続けているが、その下落幅は縮小傾向にある。一方、消費者物価は引き続き緩やかな下落傾向にある。

(2)金融環境

 クレジット関連の指標をみると、12月の銀行貸出は−2.3%と、11月と同様の前年比マイナス幅となった。この間、民間部門総資金調達は、資本市場調達の伸び率の鈍化を反映し、前年比マイナス幅が徐々に拡大する動きが続いている。

 量的金融指標をみると、12月のマネタリーベースは+19.5%と、11月対比では伸びが幾分鈍化した。これは、マネタリーベースの大半を占める銀行券の伸び鈍化が続いていることに加え、2001年12月に日銀当座預金の目標値引き上げが行われたことが、前年比伸び率を引き下げる方向に寄与したためである。

 マネーサプライは、12月には前年比2%台前半に伸び率が低下した。これは、2001年12月にエンロンの破綻を受けて投資信託から預金に大規模な資金シフトが生じたことの影響が大きい。この間、広義流動性は前年比1%台前半と、11月同様の伸び率となっている。

 企業金融の動向をみると、企業が増加した収益を借入金の圧縮に充てる財務リストラの動きを続ける中で、設備投資が低調に推移していることから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。一方、資金供給面をみると、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては、利鞘の設定を厳格化させるなど貸出姿勢を慎重化させており、融資先に対する選別姿勢を続けている。

 以上のように、前回会合以降、企業金融を巡る環境には大きな変化はみられていない。今後とも不良債権処理加速の影響なども含め、金融機関行動や企業金融の状況を十分注意してみていく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について委員は、(1)景気は全体として下げ止まっている、(2)しかし、海外経済の動向や不良債権処理の影響など、回復へ向けての不透明感が強い状態が続いている、との見方を共有し、前月の景気判断を維持することで一致した。

 何人かの委員は、輸出・生産が減速する中、景気の足踏み感が強まっていると述べた。このうちひとりの委員は、消費・設備投資といった内需が急に弱まる兆しはないが、自律的な回復も直ちには期待しにくく、方向感の定まらない状況だ、と述べた。

 景気の先行きについて、多くの委員は、海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、いずれ底固さを増していくという基本的なシナリオは崩れていない、との見解を示した。

 同時にこれらの委員は、そうしたシナリオを巡る不確実性やリスクが引き続き大きいことも指摘した。すなわち、(1)欧米景気が力強さを欠き、さらに、イラク情勢といった不確実要因を抱えていること、(2)国内でも、株価が低迷を続ける中、不良債権処理の動向が企業金融環境などに影響を及ぼす可能性も残っていること、が指摘された。

 加えて、何人かの委員は、(3)輸出環境が厳しさを増す中、所得対比では堅調な動きを続けている個人消費がどの程度持ちこたえるのか、(4)地政学的リスクを抱える中、ドル安がさらに進行するリスクはないか、といった点も注目を要すると述べた。

 そのうえで、多くの委員は、これらのリスク要因について、引き続き注意深く点検していく必要があるとの認識を示した。

 次に、米国など海外経済の動向について、議論が行われた。

 何人かの委員は、米国経済について、個人消費を中心に緩やかな回復基調を維持している模様であり、クリスマス商戦も、盛り上がりを欠いたとはいえ、一部で懸念されていたほどの落ち込みにはならなかったことを指摘した。

 ただし、ひとりの委員は、米国の成長見通しが下方修正されているわけではないが、(1)足許では生産、雇用、消費者コンフィデンス等で弱めの指標がみられている、(2)いわゆる「双子の赤字」が話題に上ることが増えている、といった懸念材料を挙げた。

 関連して、別のひとりの委員は、2001年頃までの米国の経常赤字は、高い期待収益率に支えられた投資主導の色彩が強かったのに対し、現在は再び消費・財政要因主導の経常赤字という色彩が強まっているようにみられる、と述べた。そのうえで、後者の色彩がさらに強まりながらドル安が進むことがないかどうか、注意してみていく必要があると述べた。

 さらに別のひとりの委員は、米国では労働生産性の高い伸びが経済の「強み」として強調されることが多いが、現実の雇用者所得および企業所得の伸びは労働生産性の伸びを下回っており、これには株価バブルの崩壊などが寄与している可能性があると指摘した。そのうえで、供給力の増加が十分な需要を伴わない可能性も踏まえながら、米国経済の先行きを注意深くみていく必要があると述べた。

 この間、欧州・アジア経済について、ひとりの委員は、輸出の伸びが鈍化傾向にあり、民間の経済見通しも下方修正の方向にある、と述べた。

 いわゆる「地政学的リスク」についても多くの委員が言及した。

 ある委員は、現在先進各国で、(1)経済全体としては横這いないし若干のプラス成長、(2)しかし、先行き不透明感から企業の投資意欲がなかなか高まらず、(3)景気回復の展望もなかなかはっきりしない、という動きが共通してみられている、と指摘した。そのうえで、この委員を含めた多くの委員は、不透明感の大きな背景には、いわゆる「地政学的リスク」があることを指摘した。

 そのうえで、何人かの委員は、こうした地政学的リスクは、とりわけ予測が難しいうえ、その帰趨によっては、日本経済のみならず世界経済全体がアップサイド・ダウンサイドいずれの方向にも大きく動く要因となる、との認識を示した。

 複数の委員は、ひとたびこのリスクが現実化すれば、経済に対し、やはりダウンサイドに働く可能性が高いし、米国でもそうした見方が多いと発言した。別のひとりの委員は、現在、米国政府首脳が対イラク強硬発言を行っていることも、米国企業経営者が設備投資を先送りする誘因となっているように思われる、とコメントした。

 次に、日本の各需要項目等についても、意見が交わされた。

 輸出について、多くの委員は、11月の急増には一時的な要因が寄与しており、実勢としては横這いとみるべきであろうと述べた。

 先行きについて、ひとりの委員は、(1)ドル安、(2)海外経済の減速リスク、(3)地政学的リスクなどを踏まえれば、輸出環境は厳しくなる方向にあると述べた。そのうえで、輸出が再び増加に転じる時期は今春よりも後ずれする可能性が高い、との見方を示した。

 生産について、ひとりの委員は、(1)10−11月の生産は、出荷が微増の中でマイナスとなっていること、(2)業種毎にみても、出荷が伸びなかった電気機械等で在庫がなお減少していることからも、企業の生産スタンスがきわめて慎重であることが見てとれると述べた。

 別のひとりの委員は、このような在庫管理が可能となった背景として、サプライチェーン・マネジメント等IT技術の応用を挙げた。そのうえで、在庫水準が低位であることは、慎重かつ機動的に在庫管理を行っている表れであり、先行き出荷が伸びれば生産の伸びにつながりやすい環境にあるとみることもできる、と述べた。

 この間、また別のひとりの委員は、鉄鋼・化学の生産の減少は、アジア向け輸出の減少と軌を一にしており、輸出環境の悪化が生産面に及んでいる一例とみることができる、との見解を示した。

 設備投資について、多くの委員は、先行指標や関連指標(契約電力等)からみて、設備投資はなお下げ止まりの段階に止まっており、企業の設備投資姿勢はなお慎重であるとの認識を述べた。

 別のひとりの委員は、企業の慎重な投資スタンスの背景をみると、必ずしも先行き悲観論ばかりではなく、(1)高炉や非鉄・紙パ等の業種で、企業再編や供給能力の整理が国内商品市況の下支えなどに寄与していることや、(2)企業家の間に、現在の物価下落はグローバルな構造的圧力を反映している面が大きいとの認識が浸透しつつあり、グローバル・デフレに対応した損益分岐点の低い供給構造の構築に向けての企業戦略も寄与している、と指摘した。

 この間、ひとりの委員は、個別にみると、デジタルカメラや液晶関連で能力増強投資に踏み切る例もある、と紹介した。

 先行きについて、何人かの委員は、収益環境や資本ストックの面からみて設備投資が下方に振れるリスクは小さく、稼働率も設備投資を促す水準に近づいているものの、企業の先行き不透明感が強いもとで、設備投資が増加に転じる時期も見定めがたい、と述べた。

 個人消費について、多くの委員は、雇用・所得環境が引き続き厳しい中、所得対比では堅調さを維持している、との認識を示した。

 同時に、これらの委員は、所得環境の好転が当面は見込みにくいもとで、こうした状況が先行きも継続するかどうかが一つのリスク要因となる、と指摘した。このうちひとりの委員は、雇用環境の厳しさや、来年度の社会保障関連の家計負担増などを踏まえると、先行き消費マインドが慎重化するリスクには十分注意していく必要がある、と述べた。

 物価について、ひとりの委員は、(1)需給ギャップが大きく拡大しているもとでも、CPIのマイナス幅はゼロ近傍で比較的安定してきたこと、(2)こうした中で、今後、原油価格上昇や医療制度改革、間接税引上げの影響が想定されることから、先行き、CPIのマイナス幅は若干縮小することが予想される、と述べた。

2.金融面の動向

 金融市場動向について、多くの委員が、年度末を控える中でも、日本銀行の潤沢な流動性供給のもと、市場における流動性懸念はほぼ払拭された状態が続いている、との見解を示した。

 また、低下傾向が顕著となっている長期金利について、何人かの委員が発言した。

 ひとりの委員は、長期金利低下の背景として、(1)世界的な景気の先行き不透明感、(2)グローバルな物価低下圧力への認識の強まり、(3)日本銀行の金融緩和継続の「コミットメント」が、国債価格変動のリスク・プレミアムを低下させている可能性、を指摘した。

 そのうえでこの委員は、長期金利は直近1年間で0.5〜0.7%ポイント低下しており、仮に米国のように家計支出が金利感応的であればかなりの景気刺激効果を持ったかもしれないが、日本では家計支出は金利感応的とはいえないため、ここに働きかける効果も限られているようだ、と述べた。

 株式市場に関し、ひとりの委員は、大手行の資本充実策が市場で前向きに評価され、これが足許の銀行株価の持ち直しに寄与している、との見解を述べた。

 一方、別のひとりの委員は、金融庁の特別検査などを控え、銀行株価の動向は引き続き注意が怠れない、と述べた。さらに、(1)企業収益の改善、(2)バリュエーション面での割安感、(3)証券税制の見直し、(4)補正予算や15年度当初予算への市場の評価、などが株価に及ぼす影響を見守っていく必要がある、と付け加えた。

 企業金融面について、ひとりの委員は、年度末にかけて金融市場・金融システム面から企業金融を通じて実体経済面に下押し圧力が及ぶリスクは、このところやや薄らいでいる、との見方を示し、その背景として、金融機関の流動性ポジションの余裕を指摘した。

 別のひとりの委員は、日本銀行による予防的な金融政策対応、それに伴う前倒しでの流動性供給が、市場関係者に安心感を与え、市場の安定に寄与している面が大きく、市場との対話がうまくいっているとの見方を述べた。また、大手行の自助努力による自己資本増強策が、銀行株価の反発も手伝って、不安感の除去に役立っていると付言した。さらに別の複数の委員は、不良債権処理について、当面、ハード・ランディングを避ける方向での対応が指向されているように窺われ、これが短期的にはクレジット・クランチのリスクを減らす方向に働いている、との見方を述べた。

 ただし、何人かの委員は、(1)金融システムが依然問題を抱える中、流動性需要が振れやすい状況は続くとみられるほか、(2)金融機関の不良債権処理の取り組みが、短期的には企業金融の厳しさを増すリスクも残っている、との見解を示した。さらに複数の委員は、銀行の資本増強や資産圧縮、企業再編の動き、さらには株価の動向が、企業金融面にどのような影響を及ぼすかも注目されると述べた。

 これに関連して複数の委員は、大手行が資本の増強と併せ、今後いかなるビジネス・モデルを構築し、収益力を高めていけるかが金融システム再生の大きな鍵である、との見解を示した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、経済金融情勢に大きな変化がなく、金融市場も全体として落ち着いていることを踏まえ、金融調節方針を現状維持とすることが適当であるとの見解を示した。

 そのうえで、何人かの委員は、仮に流動性需要が増大する場合には、調節方針の「なお書き」を適切に発動し、市場の安定に万全を期する必要がある、と付け加えた。

 さらに、今後の金融政策運営に関連する論点について、議論が行われた。

 まず、追加的な政策の選択肢について、意見が交わされた。

 ひとりの委員は、世界的な物価下落傾向への関心が高まる中、最近、主要な海外中央銀行当局者が講演の中で、短期金利をゼロに引き下げた後に取り得る政策手段に言及していることを紹介した。そのうえで、日本銀行は、例示されている政策オプションのうち、政府の所管にある財政・為替政策を除く殆どの手段(金融緩和継続の宣言を通じた長めの金利への働きかけ、国債買い入れの増額、民間債務の適格担保拡大と民間銀行への低利融資等)を既に実施していることになる、と指摘した。そのうえで、更に日本銀行が単独で採り得る有効な方策があるのかは悩ましい問題だと述べた。

 別のひとりの委員も、短期金利がゼロに達したもとで追加的に考え得る手段は、その殆どが、(1)効果について不確実性が高いか、(2)実質的に財政政策の色彩を帯び、また、副作用やリスクも大きいものとならざるを得ない、と発言した。

 この委員は、日本銀行がETFを購入してはどうかとの議論に関して、(1)資金供給手段と位置付けるのであれば、現在オペ手段が足りないわけではないし、(2)株価への影響を狙うのであれば「株価PKO」となり、躊躇せざるを得ない、と発言した。

 この間、ひとりの委員は、先行き長期国債の買い入れを増やす必要が生じる可能性に備え、現在の銀行券による「歯止め」を見直す選択肢について、検討しておく必要があるのではないか、と述べた。

 これに関連して、別のひとりの委員は、(1)中央銀行のバランスシートが悪化すれば最終的には国民の負担となることも念頭に置きつつ、5年後、10年後のバランスシートの状況、特に国債残高とその価格変動リスクの影響を慎重に判断することが望ましい、(2)金融も財政も共に規律を堅持し、市場機能を生かすことが中長期的に必要、(3)プルーデンス政策の観点から、日本銀行は、国債価格変動リスクを含めた金融機関のリスクマネジメント体制の動向を注意深くモニタリングする必要がある、と述べた。

 インフレ・ターゲティングの問題についても、議論が行われた。

 ひとりの委員は、ニュージーランドやスウェーデンも含め、海外でデフレ対策としてインフレ・ターゲティングが導入された例はないことを指摘した。別のひとりの委員は、インフレ・ターゲティングを採用している先進国は、達観すれば0〜3%程度の間にインフレ率の目標を置き、中長期的・平均的に実現することを目指しており、「達成期限をピンポイントで示す」といった例はないことを指摘した。

 そのうえで、ひとりの委員は、(1)通常の緩和手段を使い切った中で、かつ(2)特定の期限付きで目標を示す、という考え方は、海外諸国で現実に行われているインフレ・ターゲティングとは、実は相当異なるものだ、と指摘した。別のひとりの委員も、「インフレ・ターゲティングをやる、やらない」といった議論はミスリーディングである、と述べた。

 さらに、何人かの委員は、「インフレ率が安定的にゼロ以上となるまで量的緩和の枠組みを続ける」という日本銀行のコミットメントは、インフレ率の「予測値」でなく「実績値」に言及していることに伴うタイムラグの問題を踏まえれば、実際には若干プラスのインフレ率を狙っていることになり、インフレ・ターゲティングが狙う効果の多くを、実質的には既に採り入れている、と述べた。

 多くの委員は、(1)大きな需給ギャップや金融システム問題を抱える中、(2)短期金利はゼロに達し、(3)財政再建や構造改革も進行中、(4)グローバルな物価低下圧力も強い、という現状においてインフレ・ターゲティングの問題を考える場合、「どのように目標を実現するのか」という「手段」の問題こそが議論の核心である、と強調した。

 何人かの委員は、現状、短期間にインフレ率をプラスにする手段としては、大幅な財政出動か為替誘導を考えざるを得ない、と述べた。これらの委員は、(1)財政・為替政策は財務省の所管であり、日本銀行が単独で物価目標を定めてもクレディブルとなり得ない、(2)仮に国全体の政策として、特定期間内のインフレ率のプラス転化を優先するのであれば、そのために政府がどのように財政・為替政策を運営するのかが示されることが重要となる、と指摘した。

 この間、ひとりの委員は、仮に政府が「財政・為替政策も日本銀行に委ねる」、「日本銀行のリスク資産購入によって生じる損失は政府が補填する」とした場合に、インフレ・ターゲティングの是非をどう考えるか、という論点を提起した。この委員は、こうした問題を考えることは、海外の学界等からなおインフレ・ターゲティング採用論が聞かれることに対し、我々としてどのような情報発信を行うべきかを考える上で有益であろう、と述べた。

 この委員を含めた複数の委員は、(1)中央銀行がインフレ目標を宣言しさえすれば期待が変わるといった見解は、海外でも少なくなっている、(2)日本銀行が単独で採り得る手段には効果が不確実なものしか残されていないという点も、ほぼ理解されているように思われる、(3)一方、個別の手段についてのリスクや副作用は十分に意識されているとはいえず、「効果が不確かでも副作用が小さいなら試みてはどうか」といった見解は根強い、と指摘した。

 これに関連してある委員は、国債や外債、さらには株式や土地などのリスク資産を証券化した金融商品を物価が上昇するまで無制限に購入すべし、といった極論も聞かれるが、その場合、物価が上昇する前に財政規律の喪失や中銀資産の劣化、長期金利上昇等多くの副作用が生じ、経済にとってマイナスとなりかねない、と述べた。

 こうした議論を踏まえ、複数の委員は、個々の手段が孕むリスクや副作用について極力具体的な説明を行っていくことが、更なる理解を得る上で重要となろう、と述べた。

 そのうえで、インフレ・ターゲティングの期待形成への影響についても、意見が交わされた。

 ある委員は、共通の政策目標に向けて政府と日本銀行が取り組む姿勢を示すことは、何がしかの心理的効果を持ち得るのではないか、と述べた。

 一方、何人かの委員は、通常の緩和手段を使い果たし、構造調整や財政再建を進めている下でのインフレ・ターゲティングの採用が、経済を不安定化させるリスクを指摘した。

 ひとりの委員は、インフレ・ターゲティングは本来「期待の安定化」を狙うものであることを指摘した。そのうえで、現在のインフレ・ターゲティング採用論が想定するインフレ予想上昇のメカニズムは、(1)多くの国民がデフレ克服には時間がかかると考える中、(2)政策当局への信認を失わせるような極端な手段が採られるかもしれないとの予想が一部に生まれるといった「期待の不安定化」を伴う可能性が高く、これが長期金利や経済を不安定化させるリスクが大きい、と述べた。

 別のひとりの委員は、(1)現在の長期金利の低水準には、金融緩和の「時間軸効果」によるリスク・プレミアムの低下も寄与している、(2)20年先まで1%以上のインフレリスクを殆ど読み込んでいない現在の債券相場はやや加熱気味の感がある、(3)最近でも、様々なイベント発生時には、長期金利はかなり急激な上昇をみている、と指摘した。そのうえで、「インフレ予想が仮に高まっても、長期金利の上昇幅は相対的に小さめとなる」といった見解も聞かれるが、現在の市場の地合いを踏まえると、いったん期待が反転すれば、長期金利はむしろかなり上昇するリスクを見込むべきであろう、と述べた。

 経済の再生とデフレ克服の道筋についても、議論が行われた。

 ひとりの委員は、デフレ克服に求められるのは、インフレを起こす手段ではなく、健全な経済発展を実現する手段であると述べた。

 この委員は、中国などとの間に大きな人件費や地価の格差がある中、仮に日本経済の先行きを市場が悲観的にみているならば、既に円安が進んでいてもおかしくない、と指摘した。そのうえで、(1)物価は経済の「体温」である以上、物価の下落は、何らかの日本経済の調整の必要性を促すものと受け止めるべきであること、(2)市場はなお円や国債への信認を持ち続けているようにみえること、を踏まえ、どういった調整を進めることが真に日本経済の将来に寄与することになるのか、真摯に考える必要がある、と述べた。

 別のひとりの委員も、デフレ克服は、日本経済の持続的な成長の実現を通じてはじめて展望できる、と述べた。そのうえで、政策当局に現在求められていることは、現象としての「物価下落」の背景にある「需要不足」や「成長の低下」という問題にどのように対処すべきかという観点から、国民の信頼が得られる形で政策のあり方を提示していくことではないか、と述べた。

 この委員は、日本経済の成長率の低下には、(1)需要の弱さと、(2)構造問題の克服の遅れ(すなわち、生産資源が非効率分野に固定化されているという経済の硬直性)の両方が寄与している、と整理した。そのうえで、不良債権処理や雇用対策のための財政支出は経済の硬直性を取り除くためのものであるのに対し、旧来型の公共投資は資源の再配分をむしろ遅らせる可能性があると述べた。この委員は、日本経済の再生にとって財政政策の果たし得る余地はなお大きいし、これがどのように運営されるかによって、経済への影響も大きく異なる、と付言した。

 別のひとりの委員は、経済政策運営は民間の成長期待を高めることに軸足を据え、規制緩和と歳出構造の見直しを進めることが重要だ、と述べた。この間、さらに別のひとりの委員は、需給ギャップを埋めるための財政出動や減税が適切なやり方で実施されるとともに、これを金融面から支援することは、政策オプションの一つとして考え得る、と発言した。

 また、ひとりの委員は、「デフレ脱却のためマネーサプライを増やす必要がある」との見解が聞かれることに関連して発言した。

 この委員は、構造改革の過程での不良債権処理や有利子負債の圧縮、自社株購入、さらには家計の株式や国債保有を促す方向での制度・税制改革は、いずれもマネーサプライを減少させる要因として働くものだ、と指摘した。また、金融不安から流動性需要が高まったり、預金への資金シフトが起こる場合には、マネーサプライは増えるが、これは経済活動の活発化にはつながらない、と述べた。

 さらに、マネーサプライが経済活動の活発化を伴う形で増えるとすれば、企業や家計の支出姿勢が上向き、資金調達行動が活発化する場合であると述べたうえで、このような形でのマネーサプライの伸びを実現するためにも、「インフレ予想」ではなく「成長期待」を高める政策を徹底して進めることが必要だ、と指摘した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  政府は、平成15年度予算に先立って、平成14年度補正予算を提出しており、両者を一体として切れ目なく運用し、構造改革をさらに加速することにより、民需主導の持続的な経済成長の実現を目指すこととしている。
     また、デフレ克服は引き続き経済運営における最重要課題であることから、現在、経済財政諮問会議で議論されている「改革と展望−2002年度改定」においても、政府・日本銀行が一体となってデフレ克服を目指し、できる限り早期のプラスの物価上昇率の実現に向けて取り組む旨盛り込まれている。
  •  現在、日本銀行は金融機関に対し潤沢な流動性供給を行っているが、物価は依然として下落し、金融機関の貸出も減少しているなど、実体経済の回復に結びついていない。日本銀行におかれては、デフレ克服に向けた強い政策態度を示すためにも、流動性供給の質量両面において更なる工夫を講じるなど、実効性のある金融緩和措置を是非検討・実施して頂きたい。
  •  なお、前回会合で申し上げたように、個人的には、長期国債の買い切りオペを月2兆円に増額してはどうか、そのために銀行券残高の歯止めを、例えば平成15年度末まで停止し、その時点で改めて長期国債買い入れのあり方について検討を行ってはどうかと考えている。平成15年度末までという趣旨は、買い入れが青天井となる期間が相当期間続くことを防ぐ歯止めである。
  •  加えて、個人的には、前回会合で申し上げたことも含め、中小企業の資金繰りに関しても対応をお願いしたいと考えている。また、産業再生機構への日本銀行による資金供与を期待する声もある。

 内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の基調判断については1月17日の月例経済報告において、「景気は引き続き一部に持ち直しの動きが見られるものの、このところ弱含んでいる」と、前月より若干下方修正して報告した。先行きも、世界経済の先行き懸念やわが国の株価の低迷などにより最終需要が引き続き下押しされる懸念が存在しており、今後の金融経済情勢についてはより一層注視する必要がある。
  •  政府は、「改革加速プログラム」に基づいて編成した平成14年度補正予算および15年度一般会計予算を一体として切れ目なく運用し、構造改革をさらに加速することにより民需主導の持続的な経済成長の実現を目指す。15年度の政府経済見通しにおいては、こうした政策効果の発現や世界経済の回復により、わが国経済は民需中心の緩やかな回復へと次第に向かっていくことを期待されることから、実質GDP成長率は0.6%程度の増加、消費者物価は0.4%程度の下落率としている。
  •  さらに1月20日の経済財政諮問会議で答申がなされた「改革と展望−2002年度改定」では、2004年度までの集中調整期間における最重要課題であるデフレの克服のためには、金融面など総合的な対応が重要であり、政府、日本銀行が果たすべき役割は大きいとしている。日本銀行におかれてもこうした認識を踏まえ、できる限り早期にプラスの物価上昇率が実現されるよう、さらに実効性ある金融政策を行って頂きたい。

V.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針を現状維持とすべきであるとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は1月23日に公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前回会合(12月16、17日)の議事要旨が全員一致で承認され、1月27日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成15年1月22日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上