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金融政策決定会合議事要旨

(2003年 2月13、14日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2003年3月4、5日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2003年 3月10日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年 2月13日(14:00〜16:17)
2月14日( 9:00〜13:14)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥 (副総裁)
  • 山口 泰 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(13日)
    谷口 隆義 財務副大臣(14日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役和田哲郎(14日 9:00〜 9:14)
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長山本謙三
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長橋本泰久
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(14日 9:00〜 9:14)
  • 金融市場局金融市場課長大澤 真(  審議委員  )
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役衛藤公洋
  • 企画室調査役廣島鉄也

I.流動性預金金利の上限規制の件

1.執行部からの報告内容

 昨年12月の預金保険法等の改正によって、流動性預金の全額保護措置が2005年3月末まで2年間延長されたことに伴い、モラル・ハザード防止の観点から設けられている同預金金利の上限規制を2年間延長することが必要となった。このため、2月3日、金融庁長官および財務大臣から、臨時金利調整法に基づき、日本銀行政策委員会に対して流動性預金金利の上限の定めを変更するよう発議がなされた。

 これを受けて、政策委員会は、同法に基づいて金融審議会への諮問を行い、2月7日、金融審議会より流動性預金金利の上限規制の延長を内容とする答申を受けた。

2.委員による採決

 金融審議会の答申通り、流動性預金に関する金利の上限規制を延長し、その旨金融庁長官および財務大臣に報告することが、全員一致で決定された。また、本件については、決定会合終了後、適宜の方法で公表することとされた。

II.短期社債等の適格担保化について

1.執行部からの提案内容

 本年3月末に予定されている証券保管振替機構による短期社債等(いわゆる電子CP)の振替業務の開始に対応するため、「適格担保取扱基本要領」、「資産担保コマーシャル・ペーパーの適格性判定に関する特則」および「日本銀行業務方法書」の一部改正を行って頂きたい。電子CPは、基本的には現行のCP等と同一の経済的機能を果たすものであり、金融市場調節の円滑化を図る観点から、これを適格担保化することが適当である。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(1月21、22日)で決定された方針1に従って、日銀当座預金残高を20兆円程度に維持するよう運営した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、引き続き0.001〜0.002%で推移した。

 資金供給オペでは、都銀等が年度末越え調達を進めるためコンスタントに応札していること等から、CP買現先オペを除き札割れは生じていない。もっとも、後述の通り、金融機関に取り急ぎの動きはみられておらず、オペ落札金利も総じて落ち着いている。こうした下で、足許の資金余剰感は強まっており、期間1〜2週間の資金吸収オペも0.001〜0.002%の低水準となっている。

  1. 「日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、短国レートなどターム物金利が一段と低下している。年度末越え資金を巡る取引も、取引量は少ないが、これまでのところ落ち着いた地合いにある。都銀等では、(1)預貸尻の改善から市場性資金の要調達額が減少していること、(2)日本銀行が早い段階から年度末越えの資金供給オペを本格化させてきたこと等から、市場で資金を取り急ぐ動きはみられない。もっとも、邦銀の信用力に対する市場の見方は引き続き厳しく、外銀の円転コストはマイナスとなっている。これを背景に、一部外銀ではマイナス金利でのコール資金放出を行う動きもみられている。

 国内資本市場では、中東情勢が一段と緊迫化するなかで、国内景気の先行き不透明感が強く意識される展開となり、株価は8千円台半ばで低調に推移した。市場では、厚生年金基金の代行返上に伴う換金売りや持合い株式の売却など、需給面の悪さに関心が集まっているが、ごく足許は個人や外人の値頃感からの買いもみられている。

 債券市場でも、景気の先行き不透明感の高まりや海外金利の低下等を背景に、年金や銀行等が保有債券の長期化を図ったことなどから、長期国債流通利回り(10年物)は一時0.8%を割り込んで既往最低水準を更新した。もっとも、その後利回りは高値警戒感から幾分反発し、最近では0.8%台半ばで推移している。この間、社債流通利回りの対国債スプレッドは概ね横這い圏内にあるが、長期金利の一段の低下に伴って高利回り社債を物色する動きもみられ、トリプルB格以下のスプレッドが僅かに縮小した。

 為替市場では、中東情勢を中心とする地政学的リスクが強く意識され、ドルの軟調な展開が続いた。こうした中、ユーロの対ドル相場は、最近は1.08ドル/ユーロ近辺まで上伸している。一方、円の対ドル相場はわが国当局による介入警戒感もあって、117〜119円/ドル台でもみ合った後、最近は119〜121円/ドル台まで弱含んでいる。

3.海外金融経済情勢

 米国は、引き続き緩やかな回復基調にあるが、生産、雇用、所得の改善テンポは鈍化している。

 最終需要の動向をみると、個人消費は企業の積極的な値引き販売等に支えられて緩やかな増勢を維持しているが、雇用環境の悪化や消費者マインドの低迷が懸念される。住宅投資はモーゲージ金利低下を背景に引き続き底固いが、住宅価格の上昇テンポは鈍化傾向にある。設備投資はほぼ下げ止まったとみられるが、先行指標である非国防資本財受注が弱めの動きとなるなど、企業収益を巡る先行き不透明感が根強いもとで、未だ回復基調は確認されていない。こうした中、生産の回復が足踏み状態となっており、企業は雇用に慎重な姿勢を続けている。

 なお、昨年10〜12月の実質GDPは、前期比年率+0.7%と前期の+4.0%を大きく下回ったが、これは前期に大幅増となった自動車販売の反動減が主因である。

 米国金融市場では、地政学的リスクが高まるなかで、先行きの景気回復に引き続き慎重な見方が一般的である。こうした下で、株価は一部企業の低調な業績見通しの発表もあって軟調に推移している。一方、長期金利は景気の先行き不透明感と財政悪化懸念がほぼ相殺し合うかたちで、横這い圏内の推移となっている。

 ユーロエリアは、内需が低調に推移する下で、輸出の伸びも鈍化しており、景気が再び減速する惧れが強まっている。欧州金融市場では、景気の先行きについて慎重な見方が一段と強まっており、長期金利は1月下旬にかけて低下したあと横這い圏内、株価も軟調な推移を辿っている。ユーロ先物金利などからみると、市場では年央にかけての利下げ観測が一段と高まっている。

 NIEs、ASEAN諸国では、一部IT関連を中心に輸出の増勢がやや鈍化する動きもみられるが、個人消費や設備投資など内需は底固く推移しており、景気は引き続き回復基調にある。中国も、財政支出の増大や高水準の対内直接投資等に伴う内需好調に加えて、輸出も増加基調にあり、引き続き高い成長率を維持している。

 エマージング金融市場は、一時不安定な動きがみられたトルコやベネズエラの情勢も落ち着きを取り戻すなど、総じて安定的に推移している。ただ、韓国、香港、シンガポールなど東アジア諸国では、原油価格の上昇やIT関連を中心とする企業収益の悪化懸念等から、株価が総じて下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出入はともにごく緩やかな増加基調にあり、純輸出は横這い圏内にある。輸出は7〜9月に減速したあと10〜12月は増加したが、振れを均してみればごく緩やかに増加している。これは、(1)日本の国際競争力が強い高付加価値映像家電の世界的な需要拡大、(2)日本企業の現地生産拡大等に伴う対中国貿易での輸出入双方向の増加などを反映したものとみられる。しかし、海外経済の回復力の弱さからみて、先行きも輸出は当面緩やかな増加に止まるとみられる。国際政治情勢を巡る不確実性が高く、企業の見方も慎重である。

 内需面をみると、まず、住宅投資は低調に推移しており、公共投資も減少している。設備投資は、企業収益の改善等を背景にほぼ下げ止まっている。しかし、海外経済の先行き不透明感が強いこともあって、企業が投資姿勢を積極化させる兆しは依然みられない。

 個人消費をみると、各種販売統計は12月には多くの指標で落ち込んだが、1月は乗用車販売が幾分持ち直したほか、百貨店販売等も回復した模様である。このような月々の振れを均してみれば、個人消費は弱めの動きを続けているとみられるが、雇用・所得環境の厳しさに比べると底固い。ただ、消費者心理はやや弱めの動きとなっており、今後の消費動向は注視していく必要がある。

 この間、14日公表の昨年10〜12月の実質GDP成長率は、市場の平均的な予想(前期比−0.4%程度)を上回る前期比+0.5%となった。需要項目別の寄与度をみると、純輸出が+0.3%と前期減少の反動から高めのプラス寄与となったほか、設備投資が+0.2%となった。個人消費は+0.1%と前期(+0.4%)から鈍化した。なお、過去のデータも修正されており、企業物価指数の改訂の影響から設備投資デフレータを中心にデフレータが総じて下方修正された結果、実質成長率は上方修正となっている。

 生産は、昨年7〜9月に前期比+2.2%となったあと10〜12月は−0.9%となった。減少の過半は船舶などでの一時的要因とみられるほか、このところ好調な高付加価値映像家電が生産統計に含まれていないといった点も考慮すると、生産は概ね横這い圏内と考えられる。

 雇用・所得環境をみると、新規求人が緩やかな増加基調にあるほか、臨時雇用などを幅広くカバーする労働力調査では雇用者数が下げ止まり傾向にある。しかし、常用雇用者数の減少が続いているほか、賃金も冬季賞与は昨年夏ほどではないがかなりの減少となった。このため、全体としてみれば厳しい状況が続いているとみられる。

 物価動向をみると、輸入物価は、原油など国際商品市況の動向を反映して、基調としては上昇傾向にある。国内企業物価は緩やかに下落している。消費者物価も引き続き緩やかに下落しているが、先行きは、石油製品が前年比でプラスに転じるとみられることや、医療費自己負担率の引き上げの影響などから、前年比のマイナス幅は幾分縮小するとみられる。

(2)金融環境

 クレジット関連指標をみると、1月の銀行貸出は前年比−2.3%となった。CP・社債による資金調達残高は、概ね前年並みの水準が続いている。これらも含めた民間部門総資金調達は、月々の振れを均してみれば、前年比2%台後半の減少傾向にある。

 マネー関連指標をみると、マネタリーベースは、銀行券、日銀当座預金とも前年に大きく伸びた反動から、1月の前年比は鈍化した。マネーサプライの前年比は、12月に大きく低下したあと、1月はほぼ前月並みとなった。広義流動性は、月々の振れはあるが、均してみれば1%前後の伸びとなっている。

 企業金融の動向をみると、民間の資金需要は、低調な設備投資や企業の債務圧縮姿勢のもとで、引き続き減少傾向を辿っている。

 一方、資金供給面では、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持している。もっとも、足許は、公的資本注入行などが、業務改善命令等を意識しつつ中小企業向け貸出を幾分前傾化する動きもみられている。「主要銀行貸出動向アンケート調査」(ローン・サーベイ)によれば、中小企業向けの貸出姿勢がやや積極化しており、貸出条件面でも、担保設定姿勢が緩和したり、これまで厳格化を続けていた利鞘設定姿勢が一服する動きがみられる。企業からみた金融機関の貸出態度も1月の中小企業金融公庫の調査では、幾分厳しさが緩む動きもみられている。

 CP市場でも、短期金融市場における資金余剰感が投資家の積極的な購入姿勢に繋がっている模様であり、年度末越えの発行が増加しつつあるなかで信用スプレッドは落ち着いている。

 以上、金融環境は全体として大きな変化はみられないが、不良債権処理加速方針等を受けて、銀行経営や企業金融を巡る不透明感が強まっていた昨年10〜12月頃に比べると、その後、大手銀行が不良債権処理の上積みや増資計画の公表など相応の対応を講じてきたこともあって、過度の警戒感はやや後退してきている。また、こうした状況が、金融市場の落ち着きや企業金融関係の各種DIにも微妙に反映されているように窺われる。しかし、金融再生プログラムの具体化や特別検査の影響など、多くの不確実性が残っている状況は変わっておらず、年度末に向けての金融環境は、引き続き注視していく必要がある。

IV.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 景気の現状について、委員は、先行き不透明感が強いなかで横這いの動きを続けているとして、前月の基本的判断を維持することが適当との見方で一致した。ただ、多くの委員は、生産や個人消費などに一部弱めの指標がみられることから、今後の動きは注視していく必要があるとの見方を示した。

 景気の先行きについては、大方の委員が、海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、輸出・生産が増加し、前向きの循環が働き始めるとの基本シナリオは崩れていないとの認識であった。しかし、同時にこれらの委員は、(1)欧米経済に幾分弱めの指標が目立つこと、(2)イラク情勢の緊迫化など地政学的リスクが大きいことなどを挙げ、海外経済を巡る先行き不透明感が依然として強い点を指摘した。他方、不良債権処理の加速等により、金融面から景気に下押し圧力がかかる可能性については、引き続きリスク要因ではあるものの、昨年10〜12月頃に比べれば幾分後退してきているとの見方が、多くの委員から示された。

 当面のリスク要因として、大方の委員は、欧米など海外経済の動向とそのわが国輸出への影響を挙げた。

 米国経済については、足許緩やかな回復基調にあり、年後半にかけて回復力を高めていく姿が一応展望できるものの、地政学的リスクに伴う不確実性が極めて大きいという認識が概ね共有された。ひとりの委員は、このところ市場の経済予測の下方修正が続いている点を指摘したほか、別の委員は大幅減税など経済対策に市場があまり反応していない点を懸念材料に挙げた。また、複数の委員が、欧州経済の回復力の弱さ、とりわけ金融セクターの問題も含めたドイツ経済の弱さに言及した。

 こうした中で、多くの委員が、アジア経済の自律的回復の堅調さを指摘し、その持続性がわが国の輸出動向にとって重要な鍵になるとの認識を示した。また、アジア諸国との国際分業体制の深化が、輸出入双方向での貿易拡大を通じてわが国の経済活動を下支えしている点も意識された。こうした中で、何人かの委員は、先行きの懸念材料として、韓国等における企業業績の悪化懸念や株価の下落、原油価格上昇の影響や北朝鮮情勢などを挙げた。

 国内民間需要については、前回会合から大きく判断を変える材料に乏しく、(1)設備投資は、下げ止まっているものの回復の兆しがみられない、(2)個人消費は、雇用・所得環境の厳しさに比べれば底固いものの、総じて弱めの動きを続けているとの認識が概ね共有された。

 こうした中で、多くの委員が、個人消費の「所得対比でみれば底固い」という状況が今後も維持されるかどうかを注視すべきと指摘した。この点に関し、複数の委員は、このところ販売統計でやや弱めの指標がみられることに着目した。また、別の複数の委員は、消費者態度指数などが足許悪化している点を指摘したうえで、ベアや定期昇給など賃金体系見直しの動きの広がりや、その消費者心理への影響を懸念材料として挙げた。

 この間、物価動向に関して、多くの委員が、足許消費者物価の前年比マイナス幅がやや縮小してきており、先行きも、原油価格上昇の影響や4月以降の医療費負担の上昇等を考慮すると、若干の縮小が見込まれる状況になっている点に注目した。

 足許のマイナス幅縮小を巡る背景について、複数の委員は、今般公表された昨年10〜12月期までの実質成長率の推移等からみて足許需給ギャップの拡大傾向に歯止めがかかってきていることや、アジア経済の堅調などを映じた素材価格の上昇、企業の低価格戦略の一服、消費者の高付加価値指向などを指摘した。他方、複数の委員は、(1)原油価格上昇など一時的な要因による面も大きい、(2)需給ギャップは水準としては依然大きい、(3)今後もアジアなど海外の供給力拡大の影響を強く受けざるを得ない、といった点を挙げて、物価の緩やかな下落という基調は、大きくは変わらないとの見方を示した。

 ひとりの委員は、足許の物価動向と景気の関係に触れ、(1)今回遡及改訂されたGDP統計も含め、マクロの景気・物価指標をみる限り、いわゆる「デフレ・スパイラル」とは状況が異なっている、(2)企業の価格設定行動、消費者の高付加価値指向等もそれを裏付けているのではないかと指摘した。

2.金融面の動向

 金融環境全般に関しては、大方の委員が、(1)金融市場がきわめて落ち着いており、株価も低調ながらほぼ横這い圏内の動きに止まっていること、(2)企業金融面でも銀行の貸出姿勢に幾分ながら緩和方向の動きが窺われることなどを踏まえ、昨年10〜12月頃に比べると、金融面のリスクはやや後退してきているとの見方を示した。もっとも、年度末に向けて、地政学的リスクやその金融資本市場等への影響など、予期し難いリスク要因が残されているとの認識も概ね共有された。

 金融市場動向について、委員は、銀行株価が低迷し、年度末を控えているにもかかわらず、足許、資金余剰感の強い状況が続いているとの認識であった。その背景としては、(1)日本銀行による早いタイミングでの期末越え資金供給に加えて、(2)ペイオフ全面解禁の延期に伴う安心感の広がり、(3)銀行経営に対する過度の警戒感の後退などが指摘された。(3)については、複数の委員が、大手行で不良債権処理の上積みや増資計画など金融再生プログラムを意識した動きが相応にみられ、今年度末の自己資本比率等を巡る不確実性が薄らいできていることをその要因として指摘した。

 また、複数の委員がコール市場でのマイナス金利取引に言及した。ある委員は、長期国債の買い入れ増額や銀行保有株式の買い入れで日本銀行の健全性に対して市場が厳しい目を向けている表われと受け止め、絶えず健全性に意を払う必要があるのではないかと述べた。他方、別の委員は、今後の動向には注意を要するが、今のところは一時的で特異な現象とみておいても良いのではないかと述べた。

 企業金融面でも、多くの委員は、中小企業等で引き続き厳しいという状況は変わっていないものの、10〜12月期のローン・サーベイの結果や1月の中小企業金融公庫の貸出態度判断DIなどに表われているように、金融機関の貸出姿勢が幾分ながら緩和している可能性がある点に言及した。複数の委員は、公的資本注入行が業務改善命令の発動等を意識して、利鞘改善の手を多少緩めてでも中小企業向け貸出を増やそうとしているとの見方を示した。

 もっとも、多くの委員は、株価など資本市場の動向も含め、金融環境は全体として小康状態にあるものの、地政学的リスクの市場への影響、不良債権処理加速策の具体化や特別検査の結果など、不確実性は依然として大きいとの認識を示した。ある委員は、金融面のリスクが後退した訳ではなく、ペイオフ全面解禁の延期など政策対応によってリスクが抑え込まれているに過ぎないと分析した。他の何人かの委員も、銀行経営に対する市場の厳しい評価は基本的には変わっておらず、金融システムには依然大きな問題が残されていると指摘した。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、(1)金融経済に関する基本的な認識に大きな変化がないこと、(2)金融市場でもきわめて緩和的な状況が維持されていることを踏まえ、現状の運営スタンスを維持することが適当であるとの見解で一致した。

 同時に、国際政治情勢など予期し難い不確実要因を抱えていることや、株価動向、特別検査の帰趨、銀行の増資の進捗状況など年度末に向けて金融面の脆弱性が増すリスクが残っていることを踏まえ、全ての委員が、万一金融市場が不安定化する惧れがある場合には、機動的かつ柔軟に資金供給していく必要がある旨を強調した。こうした中で、何人かの委員から、年度末に向けて金融市場の安定確保に万全を期すため、必要に応じて一層潤沢な資金供給を行う用意がある旨を対外的に明示しておくことが望ましいとの意見が出され、調節方針の「なお書き」において、その旨を明記することが合意された。

 さらに、今後の金融政策運営を巡って色々な場で指摘されている論点について、多くの委員がコメントした。

 まず、引き続き「日本銀行はマネーサプライを増やすべき」との見解が聞かれることを踏まえて、複数の委員が発言した。ある委員は、(1)マネーの大宗を占める預金は金融機関の負債であり、これが伸びるためには、金融機関の資産である貸出等が増える必要がある、(2)現状、企業が過剰債務の返済を進めており、それが必要な調整プロセスである以上、貸出が直ちに増加することは期待しにくい、(3)政策当局にとって重要な課題は、金融機関の信用仲介活動を如何に活発化させるか、また金融機関以外の資金仲介ルートを如何に強化していくかであると述べた。これに関連して、別の委員も、日本銀行の金融緩和によって、マネタリーベースは名目GDPなどとの対比でみれば十分供給されており、経済活動が活性化すればマネーサプライが増加していく素地は整っていると述べた。

 多くの委員は、追加緩和の選択肢としてしばしば指摘される長期国債の買い入れ増額や非伝統的な資産の買い入れについて発言した。

 ある委員は、議論の前提として、これらをあくまでも当座預金残高を増やす手段と位置づけるのか、資産価格への直接的な影響についても関心を持つのかという論点があると述べた。前者に関しては、この委員も含め、複数の委員が、純粋に当座預金の量の増加自体が持つ効果はこれまでのところ明確ではない点をどう評価するかがポイントになると指摘した。一方、資産価格への働きかけを意識するということは、最終的に価格支持政策にまで繋がっていく考え方であるとの指摘がなされた。複数の委員は、資産価格に働きかけることのフィージビリティや副作用の問題を指摘し、現状そうした政策に踏み込むことは適当ではないとの考えを示した。

 ある委員は、量と対象資産の両面で思いきった資産買い入れに踏み込むことで、人々の期待を変える可能性もあるのではないかと述べたが、別の委員は、仮にインフレ期待が高まるとすれば、中央銀行が物価のコントローラビリティを失うとの予想が高まる場合であると述べた。さらにこの委員は、物価下落は確かに望ましくないが、現状程度のマイルドな物価下落のコストと、それを金融政策だけで性急に解決しようとするために生じるコストは、十分比較考量しなければならないと指摘した。

 長期国債の買い入れ増額に関しては、複数の委員が、現状歴史的な低水準にある長期金利のボラティリティを逆に高める可能性があることについてどう考えるかを論点に挙げた。

 追加緩和の選択肢に関連して、金融システム問題が金融政策運営に及ぼす影響について何人かの委員が言及した。まず、複数の委員は、金融システム不安が存在するために、金融市場の安定確保という観点からは量的緩和が必要かつ有効であるとの見解を示した。ただ、このうちのひとりの委員は、不良債権処理が、信用創造機能の回復に不可欠な調整であるにも拘らず、短期的にはこれが不採算貸出の圧縮や利鞘引上げ等のかたちで信用収縮方向に働くと述べ、金融システム問題が量的緩和の効果を制約している側面がある点も併せて指摘した。そのうえでこの委員は、(1)これまで量的緩和を進めてきたが、金融環境を規定している支配的ファクターは金融システム問題である、(2)様々な緩和の選択肢を検討する際にも、この問題を踏まえたうえでどんな効果や意味を持つのかという視点が必要である、(3)世界的なディスインフレ傾向の下で、海外当局者や学界において金利がゼロに達した後の緩和策が論じられているが、金融システム面に大きな問題を抱えたわが国の場合、諸外国と同じ処方箋が有効とは限らない、と述べた。これに関連して、ひとりの委員は、わが国経済にとって不良債権問題の解決は不可欠であるが、短期での解決が難しいとすれば、その間、量的緩和を通じて金融市場の安定を確保していくことは重要であるとの見解を示した。

VI.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  政府は、平成14年度補正予算の成立に続き、15年度予算の早期成立に向け努力を傾注するとともに、両者を一体として切れ目なく運用し、構造改革をさらに加速することにより、民需主導の持続的な経済成長の実現を目指すこととしている。
     デフレ克服は引き続き経済運営における最重要課題であることから、できる限り早期のプラスの物価上昇率実現に向け、政府は日本銀行と一体となって強力かつ総合的な取り組みを実施していく必要があると考えている。
  •  日本銀行は昨年10月末に一段の金融緩和を実施したが、その後も物価下落に反転の動きはみられず、金融機関貸出やマネーサプライの伸びも低下するなど、デフレが継続するなかで実体経済の回復に結びついていない。
  •  日本銀行は、現在金融機関に対し潤沢な流動性供給を行っているが、それが実体経済における資金循環の活性化に繋がるよう、家計、企業などミクロ経済の動きも視野に入れつつ、流動性供給の質量両面において更なる工夫を講じるなど、実効性のある金融緩和措置を是非検討・実施して頂きたい。
  •  なお、従来から申し上げているように、個人的には、ポートフォリオ・リバランスを起こしていく観点から、長期国債の買い切りオペを例えば月2兆円に増額するとともに、銀行券発行残高の歯止めを例えば平成15年度末まで停止し、その時点で改めて長期国債買い入れのあり方について検討を行ってはどうかと考えている。
  •  加えて、個人的には、中小企業金融円滑化の観点から、資産担保証券や資産担保コマーシャル・ペーパーの市場を育成していくための努力をさらに進めて頂きたい。日本銀行は、これまでもこれらの適格担保化などを行ってきているが、これを超えた措置ができないか是非検討して頂きたい。同様の観点から、政府系金融機関の発行する財投機関債の引受けについてもご検討願いたい。

 内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は引き続き一部に持ち直しの動きがみられるものの、このところ弱含んでいる。14日公表の10〜12月GDP速報では、主に外需の寄与が大きかったことにより、前期比+0.5%と4四半期連続のプラスとなったが、個人消費はほぼ横這いの弱い動きとなっている。GDPデフレータも前年比−2.2%と引き続きデフレ傾向が確認されている。世界経済の先行き懸念やわが国における消費者マインドの弱含み等を踏まえると、今後の金融経済情勢を注視していく必要がある。
  •  政府は「改革加速プログラム」及びこれに基づく平成14年度補正予算の着実な実施に努めるとともに、15年度一般会計予算および税制改革の早期成立・執行を図ることが重要と考えており、これにより民需主導の持続的な経済成長の実現を目指す。
  •  「改革と展望−2002年度改定」にも示されているように、2004年度までの集中調整期間における最重要課題であるデフレ克服のためには金融面など総合的な対応が重要であり、政府、日本銀行が果たすべき役割は大きい。こうした認識を踏まえ、さらに最近の金融機関貸出やマネーサプライの動向に十分鑑み、日本銀行におかれても、できる限り早期にプラスの物価上昇率が実現されるよう、従来の政策の枠組みに止まらず幅広い選択肢の中から更に実効性ある金融政策を検討・実施して頂きたい。

VII.採決

 以上の議論を踏まえ、当面の当座預金残高目標を現状維持としたうえで、いわゆる「なお書き」において、年度末に向けて必要に応じ一層潤沢な資金供給を行う旨を明示するとの考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、当面、年度末に向けて金融市場の安定確保に万全を期すため、必要に応じ、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VIII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は2月17日に公表することとされた。

IX.議事要旨の承認

 前回会合(1月21、22日)の議事要旨が全員一致で承認され、2月19日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成15年2月14日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が15〜20兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、当面、年度末に向けて金融市場の安定確保に万全を期すため、必要に応じ、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上