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金融政策決定会合議事要旨

(2003年 6月10、11日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2003年7月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2003年 7月18日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年 6月10日(14:00〜15:56)
6月11日( 9:00〜13:08)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦 (総裁)
  • 武藤敏郎 (副総裁)
  • 岩田一政 (  副総裁  )
  • 植田和男 (審議委員)
  • 田谷禎三 (  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞 (  審議委員  )
  • 春 英彦 (  審議委員  )
  • 福間年勝 (  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(10日)
    谷口 隆義 財務副大臣(11日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室企画第1課長櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局経済調査課長門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室兼経営企画室審議役和田哲郎(11日)
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(11日9:00〜9:45)
  • 金融市場局金融市場課長大澤 真(11日9:00〜9:45)
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役清水誠一
  • 企画室調査役長井滋人

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(5月19、20日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、概ね28〜29兆円台で推移した。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、引き続き0.001〜0.002%で推移したが、6月9日にはマイナス金利の取引が増加したことから、初めて0.000%を記録した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が27〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による一層潤沢な資金供給のもとで、落ち着いた市場地合いが維持された。こうした中で、ユーロ円レート(3か月物)が幾分低下したほか、短期国債レート(3か月物)も、短期国債発行日の直後に一時的に強含んだ後、落ち着きを取り戻した。

 債券市場では、内外経済の不透明感が一層強まるもとで、銀行や機関投資家による中長期債に対する購入姿勢が積極化したことから、同ゾーンのイールドが押し下げられ、10年債や20年債の利回りは既往ボトムを更新した。こうした積極的な購入姿勢の背景としては、株式持ち合いの解消が進みリスク・テイク余力が幾分回復するもとで、収益確保のために消去法的に中長期債を買い増していることが指摘できる。

 株式市場では、欧米株価の堅調な推移や円高一服を背景に、株価が続伸し、日経平均は8千円台後半まで回復している。また、企業収益の上方修正件数が下方修正件数を上回るなど、企業業績の改善傾向が確認されたことも好材料と受け止められている。主体別の売買動向をみると、海外投資家の買い越しが目立っている。

 為替市場では、市場における介入警戒感の高まりや米国の一部景気指標の改善などを背景に円高・ドル安傾向が一服している。ユーロの対ドル相場も、5月下旬にユーロ導入後の高値を更新したが、その後は幾分反落している。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、引き続き緩やかな回復基調にあるが、生産、所得の拡大モメンタムは弱まっている。最終需要の動向をみると、個人消費は、5月の自動車販売が底固い動きとなるなど、緩やかな増勢を維持している。消費者マインドも地政学的リスクの低下から幾分改善している。雇用については、5月の失業率が6.1%と高水準になった一方で、非農業雇用者数は4、5月と弱含み横這いの動きを続けている。こうした中、生産は回復感に乏しい状況が続いているほか、設備投資も、景気の先行きや企業収益に対する不透明感が根強いことから、力強さを欠く動きが続いている。

 米国金融市場では、経済政策への期待などを背景に株価は上昇傾向を辿っている。長期金利については、FRBがインフレ率の低下を懸念して中長期債の購入拡大に踏み切るといった思惑などを背景に一段と低下している。FF先物金利などから市場の先行きの金利観をみると、6月下旬のFOMCにおける25bpの利下げを織り込んでいる。

 ユーロエリアでは、個人消費、設備投資など内需が低調裡に推移するもとで、輸出も弱含んでおり、ドイツを中心に景気は減速している。製造業PMIといった生産の先行指標が低調に推移しているほか、雇用環境も緩やかな悪化傾向が続いており、消費者コンフィデンスも不冴えな状況が続いている。

 こうした中、欧州中央銀行は、6月5日に50bpの金利引き下げを行った。

 NIEs、ASEAN諸国では、輸出の増勢が鈍化しているほか、韓国などでは個人消費や設備投資も幾分減速しているなど、景気の回復テンポが幾分鈍化している。また、香港や台湾、シンガポールなどでは、統計面でははっきりと確認できていないが、新型肺炎(SARS)の感染拡大が個人消費などを押し下げているものとみられる。

 エマージング金融市場は、アルゼンチンとブラジルの通貨、株価が経済政策への信認回復などを背景に上昇するなど、落ち着きを取り戻している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 実質輸出は、1〜3月に小幅ながら5四半期振りに減少した後、4月も1〜3月対比で小幅減少した。地域別には、米国向けが自動車を中心に減少を続けたほか、1〜3月まで高い伸びを示してきた東アジア向けも4月には減少した。東アジア向け輸出の減少については、韓国の内需減速なども何がしか影響しつつあるとみられるほか、5月以降、新型肺炎(SARS)問題の影響が顕れてくる可能性に注意が必要である。

 内需面をみると、住宅投資が低調に推移しているほか、公共投資も減少傾向にある。設備投資は、4月の資本財出荷が単月では減少方向に振れたが、企業ヒアリングなどを踏まえると、緩やかな持ち直し基調が維持されているとみられる。先行きについては、リストラ効果もあって企業収益がすでにある程度改善していることもあり、輸出や生産が増勢を取り戻せば設備投資の回復傾向は明確化していくと考えられる。ただ、様々な構造要因や海外経済の不透明感を踏まえると、その回復力はかなり弱いものにとどまると予想される。

 個人消費をみると、各種販売統計は4月に軒並み減少したが、5月には乗用車販売が回復したほか、都内百貨店の販売額もある程度持ち直しているとみられるなど、「弱目の動き」という基調に大きな変化は生じていない。個人消費は、当面、厳しい雇用・所得環境が続くと予想される中で、消費者心理を示す指標に弱い動きがみられていることなどを踏まえれば、全体として弱めに推移すると考えられる。

 生産は、1〜3月に前期比+0.3%となった後、4月は1〜3月対比で−1.6%と減少したが、出荷が横這いを維持していることや生産予測指数の増加などを踏まえると、引き続き横這い圏内で推移しているとみられる。

 雇用・所得環境をみると、臨時雇用等を広く含む雇用者数は下げ止まり傾向にあるとみられるが、所定外労働時間や新規求人の増加は一服している。また、企業の根強い人件費削減姿勢を反映して、常用雇用者数の減少が続き、賃金も引き続き低下している。このため、雇用者所得は減少を続けるなど、家計の雇用・所得環境は、全体として引き続き厳しい状況にある。

 物価動向をみると、輸入物価や国内企業物価は、春先以降の原油価格反落の影響などから、5月には下落に転じた。4月の企業向けサービス価格は、情報サービスの下落など調査サンプルの振れとみられる動きもあって、前年比下落幅が拡大した。一方、4月の消費者物価は、医療制度改革に伴う診療代の上昇を主因に、前年比下落幅が縮小した。

(2)金融環境

 クレジット関連指標をみると、民間銀行貸出は前年比2%台前半の減少が続いている。CP・社債による資金調達残高は、全体としてみれば前年並みで推移している。これらを含めた民間部門総資金調達は、引き続き減少傾向を辿っている。

 マネー関連指標をみると、5月のマネタリーベースは、日銀当座預金が伸び率を高めたことを主因に、全体でも前年比1割台半ばまで伸びを高めた。5月のマネーサプライは、企業年金の代行返上に伴う株売却代金が流動性預金に流入したことから、前年比1%台半ばまで幾分伸びを高めた。一方、広義流動性は、旧簡易保険福祉事業団が郵政公社に統合されたことに伴い、同事業団の保有金融資産がマネーサプライ統計の集計対象外となったことを映じて、4月、5月と大幅に伸びが低下した。この特殊要因調整後でみると、広義流動性は3月から5月にかけてほぼ横這いで推移している。

 企業金融の動向をみると、民間の資金需要は、低調な設備投資や企業の債務圧縮姿勢のもとで、引き続き減少傾向を辿っている。

 一方、資金供給面では、民間銀行は、優良企業に対しては貸出を増加させようとする姿勢を続ける一方で、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持している。そうした中、このところ、利鞘設定などの面で貸出姿勢を幾分緩和する動きも窺われている。企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰り判断をみると、中小企業等で総じて厳しい状況が続いているという基本的な図式に変わりはないが、その厳しさはこのところ幾分緩んだ状態にある。

 CP・社債の発行環境をみると、資金運用難を背景に投資家の購入姿勢の積極化が続いており、発行金利における信用スプレッドは、相対的に格付けの低い先(CPのa-2格や社債のA格)も含めて、良好な状況にあったエンロン破綻以前の2001年第3四半期の水準に概ね復している。

 以上のように、金融環境面の動きを総合すると、金融市場は落ち着いた動きを続けており、長期金利の一段の低下、株価の持ち直し、CP・社債市場における発行環境の改善傾向の継続といった緩和方向の動きがみられた。ただ、今後も、金融環境については、株価等の市場動向や金融機関における貸出姿勢の変化の持続性や広がりといった点を中心に、引き続き十分注意してみていく必要がある。

II.「コマーシャル・ペーパーの売戻条件付買入基本要領」の一部改正等に関する件

1.執行部からの提案内容

 金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、短期社債等(短期社債および資産担保短期債券をいう。いわゆる電子CP)をCP買現先オペの対象資産とすることとし、「コマーシャル・ペーパーの売戻条件付買入基本要領」、「コマーシャル・ペーパーの売戻条件付買入における買入対象先選定基本要領」および「日本銀行業務方法書」について、所要の改正を行って頂きたい。

 なお、短期社債等については、証券保管振替機構による短期社債等の振替業務開始に対応するため、本年3月末に適格担保化している。

2.委員による検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.資産担保証券の買入れに関する執行部説明

 資産担保証券の買入れに関する具体的なスキームについて、パブリックコメントを踏まえて作成した骨子の案が執行部により説明された。

1.買入対象資産

 買入対象資産については、資産担保債券(公募債のみ)、シンセティック型債券(クレジットリンク債券、公募債のみ)および資産担保CP(電子CP形態のものを含む)とすることが適当と考えている。資産担保債券とシンセティック型債券を公募債のみとするのは、市場における価格形成を歪めないためには、市場価格を前提に買い入れるべきであり、現状においては公募時の募集価格以外に客観的に信頼できる市場価格と考えられるものがないためである。また、日銀法上、買い入れることの出来る資産が手形や債券に限られていることから、シンセティック型債券も、クレジットリンク債券が発行されているものに限られる。

 信託受益権については、民間からの要望はあるものの、私募形式であり、中央銀行として買い入れるには価格の透明性の点で問題があるほか、日銀法上買入対象となっていないため対象とはしない。

 裏付資産については、パブリックコメントも踏まえて、売掛債権および貸付債権に限定せず、中堅・中小企業金融の円滑化に資すると認められるものを幅広く対象とすることが適当であると考えている。具体的な要件としては、(1)裏付資産に占める中堅・中小企業(=資本金10億円未満の会社)関連資産の割合が、金額ベースで5割以上であること、(2)裏付資産が金融機関の貸付債権である場合には、その債務者が金融検査マニュアルに定める「正常先」に分類されているものであること、としたい。

 資産担保債券の信用度に関連しては、BB格以下について殆ど投資家が存在せず、市場育成の観点から日本銀行による買入れが求められるとのパブリックコメント等を踏まえ、(1)複数の格付機関から、最低BB格相当以上の格付けを取得していること、(2)発行から償還までの期間が3年以内であること、(3)シンセティック型債券については、発行代わり金が信用度および市場性に照らして日本銀行が適当と認める資産(例えば国債等)に運用されていること、を要件としたい。

 一方、資産担保CPについては、(1)複数の格付機関から、a-1格相当の格付けを取得していること、(2)発行から償還までの期間が1年以内であること、(3)取引先金融機関のフルサポート型も適格とすること(適格担保における特例措置と同様の扱い)、を要件としたい。

2.買入方式

 買入方式としては、資産担保債券、シンセティック型債券については、募集期間終了後、対象先金融機関からの売却申込みを受けて、公募時の募集価格をベースに、売却希望金額を買い入れる方式としたい。これは、市場価格を歪めないという観点から、現状においては客観的に信頼できる市場価格と考えられるのが、公募時の募集価格以外にないためである。買入対象先は、日本銀行の本店取引先の中から、信用力基準等により選定したい。

 資産担保CPについては、流通市場において相応の取引が存在することから、金利入札によるオペレーション方式としたい。その際の買入対象先は、現行のCP買現先オペの対象先をベースに選定したい。

3.買入限度額等

 全体の買入限度額については、実際にどの程度の発行が見込まれるのか、どの程度の買入れが実行できるのか、まだ見通し難いところはあるが、日本銀行の財務の健全性を維持するという観点に加え、ある程度余裕を持って設定しておくとの判断もあって、当面残高ベースで1兆円とすることが適当と考えている。また、市場価格を歪めないために、資産担保債券、シンセティック型債券については、個別銘柄のトランシェ毎の発行総額の5割を買入れの限度額とすることが適当である。

 なお、本スキームは、中央銀行にとって異例の措置であるため、買入期間は、2005年度末までの時限措置とすることが適当であると考えている。また、買入対象資産、買入方式、買入限度額等については、資産担保証券市場の発展の状況・取引動向や日本銀行の財務の健全性等を勘案しつつ、必要に応じて見直すという構えで臨むべきであると考えている。

IV.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 景気の現状について、委員は、足許、輸出がやや弱い動きとなっているが、こうした動きは、前月に「先行き不透明感の強まり」として想定された動きの一部が顕現化したものであり、景気が全体として横這い圏内の動きを続けているとの基本的な判断を変更する必要はない、との認識で一致した。

 輸出について、殆どの委員は、基調的には横這い圏内の動きに止まっているとみられるが、1〜3月期に続いて4月もやや弱い動きとなったことを踏まえると、今後も注意深く見守っていく必要があるとの認識を示した。

 とくに、これまで高い伸びを示してきた東アジア向け輸出が4月に減少に転じた背景について多くの委員が言及した。ひとりの委員は、NIEs向けの輸出鈍化に米国経済の減速が間接的に影響している可能性を指摘し、米国経済がスローダウンしてもアジア経済の自律的な成長は揺るがないという見方が今後も成り立つかどうか慎重に見守る必要があるとの見方を示した。また、多くの委員が、新型肺炎(SARS)の影響が東アジア経済に徐々に出始めていることが影響している可能性を指摘した。

 また、4月に生産が減少したことについて、多くの委員は、やや懸念される動きとして言及したが、同時に、5、6月の予測指数がプラスであることや企業ヒアリングの結果などを踏まえると、引き続き横這い圏内にあるとの判断が妥当との認識を概ね共有した。

 こうした中、企業収益については、リストラ効果もあって引き続き増益基調にあるとの見方が何人かの委員によって示された。ひとりの委員は、企業業績の改善や損益分岐点の低下といった動きは輸出比率の高い製造業を中心としたもので、非製造業や中小企業ではさほどそうした改善が進んでおらず、2極化が進んでいると指摘した。

 設備投資については、4月に資本財出荷が減少に振れたものの、緩やかな持ち直し傾向は維持されているとの認識が委員の間で概ね共有された。ひとりの委員は、ハイテク組立て型産業で大型投資計画が明らかにされていることや、素材型産業でも、鉄鋼が既に設備増強を行っていることに言及し、他の産業でも稼働率が設備投資を誘発するような高いレベルに達していることに注目した。別の委員は、企業収益の改善が設備投資の増加という好循環に繋がっていくためには、輸出、生産が増勢を取り戻すことが必要であるとの見方を示した。

 一方で、ある委員は、法人企業統計によると、設備投資は期待していたよりも弱い数字となっているとしたうえで、足許弱含みの動きが出ているのではないかとの懸念を示した。

 雇用・所得環境については、厳しい状況が続いているとの認識が共有された。ただ、複数の委員が、企業収益の改善に伴って悪化傾向に歯止めが掛かることが期待できるとの見方を示した。別の委員は、企業収益回復のかなりの部分は、リストラを通じた損益分岐点の引き下げによるものであり、そのことが雇用者所得、消費に広がりが見えないひとつの背景となっていると分析した。

 個人消費については、弱い動きを続けている状況に変化はないとの見方が共有された。ひとりの委員は、消費の指標がやや振れの大きい動きを示している中で、今後、医療費等の負担の増加が国民に実感されるに従って、どのような影響が出てくるかは注意を要すると述べた。

 この間、物価動向については、複数の委員が、4月に消費者物価指数のマイナス幅が縮小したものの、これはあくまでも供給サイドの一時的な要因によるものであり、需給ギャップ、賃金下落がサービス価格へ及ぼす影響、石油を含めた商品市況の下落といった要因を考えると、今後さらにマイナス幅が縮小していくことを期待することは難しいとの認識を示した。

 景気の先行きについては、年後半の海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、輸出・生産が増加し、前向きの循環が働き始めるとの基本シナリオを変更する必要はないという点で委員の認識は一致した。ひとりの委員は、足許の輸出の弱さに伴い、今年度前半は4月の展望レポートで想定したパスよりも少し下振れる可能性が高いと述べた。

 ある委員は、在庫投資、設備投資が先行きの不透明感などから抑制されているため、何らかのショックが発生しても、加速度的に景気を悪化させるモメンタムは働きにくい状況にあると分析した。

 海外経済の先行きに関連し、米国経済に関する明るい材料として株価上昇の動きについて多くの委員が言及した。多くの委員は、米国における株価上昇は金融財政政策の効果に対する期待による面が大きく、そうした期待に実際の景気指標や企業業績が今後ついてくるかどうかを見極める必要があるとの認識を示した。ひとりの委員は、ドルの1割近い減価、減税の効果、長期金利の低下といったことを合わせ考えると、年の後半には3%台の成長軌道に乗る可能性が強まってきているとの見方を示した。

 米国の実体経済指標については、一頃よりは好転しているものの、生産・所得の拡大モメンタムが強まっている証左はみられていないとの認識が多くの委員によって示された。ひとりの委員は、生産・雇用まわりの指標の中に悪化に歯止めがかかる兆しがみられると指摘した。

 ある委員は、米国経済の抱えるリスクは、中東情勢やテロといった偶発的なものから、今後の資本流入の持続可能性、家計の高い債務水準といったファンダメンタルなものに移りつつあるとの見方を示した。

 アジア経済については、新型肺炎(SARS)の新規感染の拡大が一服しつつあるとすれば、長期に亘る悪影響は回避できるものの、当面は多少の影響が顕現化してくることは避けられないとの認識が多くの委員によって共有された。また、ある委員は、米国経済の回復が期待どおり確かなものになってくれば、アジア経済にも好影響が期待できると述べた。

 欧州経済については、何人かの委員が、米国株の上昇や欧州中央銀行の利下げなどもあって株価は上昇しているものの、ユーロ高や様々な構造問題の影響もあって、ドイツを中心に景気減速感が強まっているとの見方を示した。

2.金融面の動向

 金融面については、殆どの委員が、りそなの問題等にもかかわらず、金融市場の安定は確保されているとの認識を示した。ひとりの委員は、日本銀行による機動的な対応は、短期金融市場の不安定化を未然に防いだだけでなく、日本銀行が金融システムに十二分に目を配っているとの安心感を市場に醸成させたと評価した。別の委員は、現状を「セーフティネットと日本銀行による徹底した流動性供給がもたらす安心感」に市場がどっぷり漬かっている状況と描写し、本来市場が持つリスクに対する鋭敏な感覚が忘れられてしまっているとの懸念を示した。

 一方で、何人かの委員が、金融システム問題を起点として金融市場が不安定化するリスクについては、今後も注意を怠れないとの認識を示した。

 別のひとりの委員は、日本銀行の追加的な流動性供給は、為替介入とも相俟って為替レートの安定化に効果があったほか、望ましい名目GDPの伸び(3%)に見合ったマネタリーベースの伸びを実現させたと評価した。

 本邦株価の持ち直しについては、欧米株価の上昇を背景とした海外投資家による買いを中心とした動きであるとの見方が多くの委員によって示された。これに加えて、輸出関連企業を中心とした企業業績の改善傾向や優良企業の国際競争力の強さが確認されたことや円高進行の一服がプラス材料になったことを何人かの委員が指摘した。

 世界的に株価の上昇と長期金利の低下が同時進行していることについて、何人かの委員は、米国のFRBが5月のFOMCにおいてディスインフレ傾向への懸念を明らかにし、時間軸政策の採用ともいうべき内容のステートメントを公表したことが大きく作用しているとの見方を示した。このうち複数の委員は、日本においても量的緩和に期待されるポートフォリオ・リバランス効果が漸く見え始めた可能性もあるのではないかとの認識を示した。

 長期金利が一段と低下し、既往最低水準を更新している状況について、多くの委員が、銀行や機関投資家が他に投資機会がない中で、より長めの金利リスクをとろうとして国債購入を積極化させていることを背景として指摘した。ひとりの委員は、金利のボラティリティ低下が、リスク管理の面からもこうした動きを加速させているとの見方を示した。

 また、何人かの委員が、長期金利低下の背景として、デフレの継続と金融緩和の継続に対する期待があることを指摘した。ひとりの委員は、りそな問題への万全の対応などをみて、日本銀行は国債の暴落も許容できないであろうという期待が市場に発生し、このことが、長期国債買い切りオペの増額をしていないにもかかわらず、長期金利の一段の低下に繋がっている面があるのではないかとの見方を示した。

 一方で、多くの委員が、こうした極端に低い長期金利の持続性については注意深く見守っていく必要があるとの認識で一致した。ある委員は、米国における株高と長期金利低下の同時進行がいつまでも続くことは考えられず、インフレ方向になるかデフレ方向になるかが明らかになった時点で、株価か長期金利のいずれかで調整が発生するとの見方を示した。そのうえで、この委員は、日本の銀行や機関投資家も長期金利の調整が発生するリスクについて、米国からの波及効果を含めて、一段と留意する必要があると述べた。

 この間、ひとりの委員は、社債などの信用スプレッドの縮小が一段と進んでいることに言及し、BB格債も現在の金融緩和効果を享受できる段階にまで企業金融を巡る環境は改善してきていると評価した。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営については、(1)景気は総じて横這い圏内の動きという総括判断を変更する局面ではない、(2)足許で輸出にやや弱い動きがみられるが、前回会合で想定した範囲の動きであり、既に予防的に政策対応を行っている、(3)前回会合以降、短期金融市場も落ち着いて推移している、ことから、現在の「27〜30兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当との認識が共有された。

 ひとりの委員は、依然としてデフレ克服の目途がたたないもとでは、将来のマネーサプライの増加とインフレ期待を起こすためにクレディブルなコミットメントを行う必要があり、その準備作業として、物価の安定目標について基礎的な検討を行う必要があるとの意見を述べた。別の委員は、デフレ克服に強くコミットしている日本銀行として、今後、デフレにどのように対処していくのかについて一層の説明責任を果たしていくという観点から、金融政策運営の透明性向上の議論をさらに深めていく必要があるとの認識を示した。

 続いて、資産担保証券買入れの具体的なスキームについて議論が行われた。委員は、基本的に執行部の報告した骨子の案を支持しつつ、いくつかの論点について意見を述べた。

 まず、資産担保証券買入れの意義・効果については、買入れを通じた資産担保証券市場の整備・育成にスキームの主眼があり、そのことを通じて金融緩和の波及メカニズムの強化を図ることが期待できるとの認識が委員の間で共有された。ひとりの委員は、想定される効果を、(1)貸出に割り当てられている銀行の資本が解放され、新たな貸出に向かう効果と、(2)様々なリスクとリターンの組み合わせの提供が可能になることにより、新たな投資家の市場参入を促し、そのことが企業の資本コスト低下に繋がる効果に整理した。ある委員は、そうした市場の発展は、(1)日本の金融仲介における最大の懸案であるリスクを反映した貸出金利の形成を促すことに繋がるほか、ひいては、(2)間接金融への過度の依存からの脱却にも展望が拓けていく、と評価した。

 ある委員は、中堅・中小企業にとって直接のメリットが大きい売掛債権の流動化が制度的な問題などで早急には難しいとなると、資産担保証券市場発展の効果が短期的には銀行のリスクアセット対策に止まってしまう可能性もあるため、中堅・中小企業金融の円滑化に一層効果的に貢献するような工夫の検討を続けるべきであると述べた。

 買入対象資産の種類については、スキームが十分な効果を持つためには、資産担保証券の裏付資産について中堅・中小企業金融の円滑に資すると認められるものを幅広く対象とすることが必要であるという点で委員の認識が一致した。ひとりの委員は、こうした観点から、最近市場が拡大しているシンセティック型債券を対象とすることが適当であると述べた。

 ある委員は、買入対象が公募債に限定されていることについて、市場価格が存在する債券に限って買い入れることで、市場の歪みを回避し易くなることを評価した。

 資産担保債券のメザニン部分を買い入れることについて、複数の委員は、トランシェによって価格の歪みが出ないように、メザニン部分に止まらず、シニア部分も買い入れることの出来るスキームが望ましいとの意見を述べた。これに対して、複数の委員は、シニア部分を買入対象に含めるとしても、実際の購入は、民間投資家の機会を奪うこととなるので、その点に留意すべきであるとの見解を示した。

 資産担保証券の信用度については、殆どの委員が、BB格の資産担保債券のメザニン部分を買い入れることは、これまでの日本銀行の買入資産に関する基準を大きく超えるものであるとの認識を示した。しかしながら、政策効果を高めるためには投資家の薄いメザニン部分の買入れは必要であるため、あくまでも市場育成という目的のもとで、買入限度額を設定し、適切にリスク管理を行っていくという条件のもとで、例外的な措置と位置付けるならば、これを認めることが適当との認識が委員の間で共有された。ひとりの委員は、BB格のメザニン部分の買入れには慎重なスタンスをとりつつも、市場の整備・育成という姿勢が維持され、買入実績を高めるために買入価格を高めに設定するようなことがなければ、ボリュームが多額に及ぶことはないという判断を示し、市場規模や財務の健全性といった観点から買入対象や限度額を必要に応じて見直していくことを条件に、賛意を表明した。

 何人かの委員は、信用度を判断する基準となる格付けがどの程度正確にリスクを反映しているのか十分に注意する必要があると指摘した。

 また、何人かの委員が、こうしたリスクの相対的に高い資産を買い入れるからには、評価方法や引当ての要否といった会計面での取り扱いについて、しっかりと検討を行うべきであるとの意見を述べた。

 買入価格については、資産担保債券・シンセティック型債券について公募時の募集価格をベースとし、資産担保CPについては、金利入札で価格を決定することについて、多くの委員が、市場を歪めないという意味で望ましいと評価した。ただ、複数の委員は、公募時の募集価格が適正に設定されることを担保することが重要であると指摘し、そのうちのひとりの委員は投資家への売却状況を確認することが必要であると述べた。

 買入限度額については、何人かの委員が、1兆円の厳密な根拠を示すことは困難であり、ある程度の余裕をみた数字との位置付けではあるものの、こうした一定の上限を設定して買入れを開始することが本行の財務の健全性という観点からは重要であると述べた。別のある委員は、メザニン部分の買入れだけでは1兆円の限度額には到底届かないとしたうえで、リスク管理などの観点からは、買入対象資産全体のほか、メザニン部分の買入れにも何らかの目途を設定することを検討すべきとの意見を述べた。

 また、個別銘柄毎の買入限度額が設定されることについて、複数の委員が、価格を歪めるリスクが小さくなると評価した。

 市場育成の進め方について、多くの委員は、あくまでも民間主導で行われ、これを日本銀行が適切にサポートするというかたちが望ましいとの認識を示した。複数の委員は、市場の育成をサポートしていくためには、市場の動向やニーズを踏まえつつ、弾力的に対応していくことが重要であると強調した。ある委員は、買入れスキームが資産担保証券市場の整備・育成の全体的なフレームワークの一部と位置付けられたことを評価したうえで、(1)市場育成を図る観点から、買い入れた証券のデータに関する情報開示を前向きに検討する方針であること、および(2)日本銀行を事務局とする市場関係者等による意見交換の場が設置され、より広い観点から検討が進められることを歓迎した。

 複数の委員が、政府系金融機関が資産担保証券を買い入れるとした場合に、日本銀行との関係をどのようにしていくかを検討していく必要があると指摘した。ひとりの委員は、公的金融機関のプレゼンスの高まりに伴って、信用補完という意味での日本銀行の役割は縮小すべきであるとの見解を示した。

VI.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、デフレ状況の継続など依然厳しい状況が続いている。また、世界的にもディスインフレやデフレに対する懸念が浸透しつつある。こうした状況の中、政府はデフレ克服に向けた取組みとして、規制改革の一層の推進、予算の機動的な執行等を行っているほか、さらに現在、「基本方針2003」の策定作業に取り組んでいる。
  •  今回日本銀行は、市場関係者等の声を踏まえ、中堅・中小企業関連の資産担保証券の買入れについて、具体的な枠組みを取り纏めようとしている。今後、可及的速やかに実務的な論点を詰めたうえで買入れを開始し、企業金融の円滑確保および実体経済における資金循環の活性化に繋がることを期待している。また、本措置は資産流動化市場の育成という点にも着目した試みであることから、今後の市場発展に応じて引き続き制度の見直し努力を行うなど、継続的な取組みをお願いしたい。
  •  さらに日本銀行は、家計や企業など実体経済にいかに資金を流すかとの観点から、質量両面において一段と工夫を講じられないか更なる検討を進め、実効性のある金融緩和措置を実施して頂きたい。
  •  個人的には、中小企業に対する資金の供給という機能を市中金融機関が十分に果たしていないという認識を持っている。日本銀行におかれても、与信権限の支店長への委譲、プロジェクト・ファイナンスの推進といった動きが民間金融機関で広がるような環境整備を行えないか努力をして頂きたい。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  本日内閣府で公表した1〜3月期のGDPの2次速報では、実質成長率は年率0.6%(前期比0.1%)、名目成長率は年率−1.5%(前期比−0.4%)、GDPデフレータは前年同期比で−3.3%に改訂された。このように日本経済はデフレが続いており、また内需主導の自律的回復には至っておらず、構造改革は依然途上にある。
  •  政府と日本銀行が一体となって、出来る限り早期のプラスの物価上昇率の実現に向けて取り組むとともに、民間需要、雇用の拡大を最重視した構造改革を加速し、持続的な経済成長を実現していくことが必要である。このため、政府としては、経済財政諮問会議において、デフレの克服や経済の活性化をはじめとする基本方針第3弾を6月下旬を目途として取り纏めることとしている。
  •  日本銀行におかれては、本年3月から今後の金融政策運営について検討を進められ、今回その一環として資産担保証券の買入スキームに関し具体的な検討をされたところであるが、2005年度のデフレ克服を目指す観点から、金融政策運営の基本的枠組みについての見直しも含め、さらに金融政策手段の検討を深められ、デフレ克服に実効性ある金融政策運営を期待している。

VII.採決

 以上の議論を踏まえ、当面の金融市場調節方針については、現状維持とすることが適当である、との考え方が共有された。

 また、資産担保証券の買入れの実施については、執行部から提案された骨子に示されたかたちで行うことについて、委員の認識が一致した。

 これを受け、議長から以下の2つの議案が提出され、採決に付されることとなった。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別紙1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が27〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

資産担保証券の買入れの実施に関する議案(議長案)

1.「資産担保証券の買入れの検討に関する件」(平成15年4月8日付政委第49号)に基づく検討の結果、日本銀行による資産担保証券の買入れを、別添の骨子(別紙2別添「資産担保証券買入スキームの骨子」参照)により行うこととし、本年7月末までに実施するため具体的準備を進めること。

2.本件に関する対外公表文は、別途決定すること。

3.市場関係者等から受領した意見の概要およびこれに対する日本銀行の考え方について対外的に公表すること。

4.上記3.の内容は総裁が定めること。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VIII.対外公表文の検討

 本日決定した資産担保証券の買入れの実施に関する件にかかる対外公表文について、執行部が作成した原案に基づいて委員の間で議論が行われ、採決に付された。採決の結果、対外公表文(「資産担保証券の買入れとその考え方について」)が全員一致で決定され、別紙2のとおり、同日公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

IX.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。これを掲載した金融経済月報は6月12日に公表することとされた。

X.議事要旨の承認

 前々回会合(4月30日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月16日に公表することとされた。

以上


(別紙1)

2003年 6月11日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が27〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別紙2)

2003年 6月11日
日本銀行

資産担保証券の買入れとその考え方について

  1.  日本銀行は、本年4月7日、8日の政策委員会・金融政策決定会合において、資産担保証券の買入れについて検討を行うことを決定し、その後広く市場関係者の方々の意見を求めつつ、具体的なスキームの検討を行ってきた。本日、金融政策決定会合において、別添のとおり具体的スキームの骨子を取りまとめるとともに、7月末までの実施に向けて所要の準備を進めることを決定した。
  2.  資産担保証券については、信用リスクを全体として削減し、投資家のリスク許容度に応じたリスク移転を図ることを通じて、企業金融の円滑化に貢献する効果が期待される。中央銀行が民間の信用リスクを直接負担することは異例であるが、わが国の金融機関の信用仲介機能が万全とはいえない現状においては、時限的な措置として買入れを行うことを通じて資産担保証券市場の発展を支援し、金融緩和の波及メカニズムを強化することは意義があると判断した。
  3.  具体的スキームの決定に当たっては、市場の価格形成を歪めることなく、市場の健全な発展に寄与することに最大限配慮した。買入資産については、今回の措置の趣旨を踏まえ、相対的に信用リスクの大きい資産担保証券も対象とした。裏付資産としては、貸付債権や売掛債権だけでなく、中堅・中小企業金融の円滑化に資すると認められる幅広い範囲の資産を対象とすることとした。買入金額については、市場の発展を支援する観点と、日本銀行の財務の健全性を確保する観点を考慮し、当面残高ベースで1兆円を限度とすることとした。
  4.  資産担保証券市場の発展のためには、市場のインフラ整備を進めていくことが不可欠である。日本銀行としては、今回頂いたご意見を踏まえ、民間市場関係者と十分協力し、市場のインフラ整備に向けて努力を続けていく方針である。その際、関係当局や政府系金融機関とも適宜連携を図り、民間市場関係者の努力を支援していきたいと考えている。

以上


(別添)

資産担保証券買入スキームの骨子

  1. 買入対象資産

    (1)買入対象資産の種類

    • 資産担保債券(公募債のみ)
    • シンセティック型債券(クレジットリンク債券・公募債のみ)
    • 資産担保CP(電子CP形態のものを含む)

    (2)適格基準

    [1] 発行形態等に関する要件
    • 円建てであること。
    • 国内において発行または振出等が行われたものであること。
    • 準拠法が日本法であること。
    [2] 裏付資産に関する要件
    • 裏付資産(シンセティック型債券の場合は、信用リスクを引き受ける契約の対象となっている資産)の種類は売掛債権および貸付債権に限定せず、中堅・中小企業金融の円滑化に資すると認められるものを幅広く対象とする。
    • 裏付資産に占める中堅・中小企業(=資本金10億円未満の会社)関連資産の割合が、金額ベースで5割以上であること。
    • 裏付資産が金融機関の貸付債権である場合には、その債務者が金融検査マニュアルに定める「正常先」に分類されているものであること。
    [3] 資産担保証券の信用度等に関する要件

    (a) 資産担保債券・シンセティック型債券

    • 複数の格付機関から、最低BB格相当以上の格付けを取得していること。
    • 発行から償還までの期間が3年以内であること。
    • シンセティック型債券については、発行代わり金が信用度および市場性に照らして日本銀行が適当と認める資産(例えば国債等)に運用されていること。

    (b) 資産担保CP

    • 複数の格付機関から、a-1格相当の格付けを取得していること。
    • 発行から償還までの期間が1年以内であること。
    • 取引先金融機関のフルサポート型についても適格とする(適格担保における特例措置と同様の扱い)。
  2. 買入方式

    (1) 資産担保債券・シンセティック型債券

    • 募集期間終了後、対象先金融機関からの売却申込みを受けて、公募時の募集価格をベースに、売却希望金額を買入れる方式とする。
    • 買入対象先は、日本銀行の本店取引先の中から、信用力基準等により選定する。

    (2) 資産担保CP

    • 金利入札によるオペレーション方式とする。
    • 買入対象先は、現行のCP買現先オペの対象先をベースに選定する。
  3. 買入限度額

    (1)全体の買入限度額(残高)

    • 当面1兆円とする。

    (2)個別銘柄ごとの買入限度額

    • 資産担保債券、シンセティック型債券については、個別銘柄のトランシェごとの発行総額の5割を、日本銀行による買入れの限度額とする。
  4. その他
    • 本スキームによる買入期間は、2005年度末までとする。
    • 上記の買入対象資産、買入方式、買入限度額等については、資産担保証券市場の発展の状況・取引動向や日本銀行の財務の健全性等を勘案しつつ、必要に応じて見直すこととする。

以上