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金融政策決定会合議事要旨

(2003年10月31日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2003年12月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2003年12月19日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年10月31日(9:00〜12:15)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役清水誠一

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(10月9、10日)で決定された方針1に従い、日銀当座預金のある程度の変動を許容して運営した結果、同残高は29〜30兆円台で推移した。

 こうした調節のもと、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、円転コストのマイナス幅が一時的に拡大したことから10月14日に−0.003%となったほかは、0.001〜0.002%で推移した。資金供給オペの落札レートは、金融市場において資金調達に対する安心感が醸成されていることを背景に、全般的に落ち着いている。

  1. 「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 債券市場は、株価動向に振られやすい展開となり、長期国債流通利回り(10年新発債)は、最近では1.4%近辺で揉み合って推移している。期間別には、中長期ゾーンを中心にイールドが上昇した。また、国債流通利回りのボラティリティは、金利上昇がみられた夏場に比べて幾分低下したが、なお高い水準にある。この間、円金利スワップ・レートの対国債スプレッドも、中期ゾーンを中心に高止まった状態が続いている。社債流通利回りの対国債スプレッドをみると、低格付けゾーンで幾分縮小するなど、投資家の積極的な社債購入スタンスが窺われる。

 株式市場では、日経平均株価は、10月20日に年初来高値を更新した後、高値警戒感等を背景に急落したが、最近では押し目買いから値を戻している。主体別売買動向をみると、海外投資家はごく足許で売り越しに転じたが、これらの投資家の間では、日本経済が緩やかな回復に向かうとの見方に変化はないとみられる。また、個人投資家については、信用買いが増加していることが目立っている。

 円の対ドル相場は、年初来の高値圏である108〜110円台での揉み合いで推移した。このうち、10月末にかけては、本邦当局の介入姿勢を試そうとする動きや、輸出業者の想定レートのドル安方向への修正、米国の雇用情勢の改善傾向に対する懐疑的な見方等から、ドル安圧力が高まった。ただ、市場では、9月下旬にみられた極端なドル・ベア観はやや一服しているように窺われる。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、家計支出に支えられ引き続き緩やかな回復基調にある。7〜9月期の実質GDP速報値は、前期比年率7.2%増と市場予想を上回る高成長となった。需要項目別には、個人消費が減税の効果を受けて高い伸びとなったほか、設備投資も、情報関連投資を中心に伸びを加速させている。個人消費デフレーターについては、サービス価格の上昇もあって、プラス幅が拡大している。

 米国の金融市場をみると、株価は、良好な企業の決算発表等を背景に10月中旬にかけて上昇したが、足許では利益確定売りの動きもあって、揉み合いの展開となっている。長期金利は、10月入り後、景気の先行き見通しの強気化から上昇していたが、月央から株価の軟調を受けてやや低下した。FF先物金利から市場の先行き金利観をみると、来年春先にかけての利上げ観測が高まっている。

 ユーロエリアでは、輸出が回復しているほか、生産にもその好影響がみられ始め、景気は全体として底入れしつつある。

 欧州金融市場では、株価、長期金利とも、米国同様、10月半ばにかけて上昇し、その後幾分低下した。こうした中、英国の長期金利は、イングランド銀行が早期に利上げに踏み切るとの観測が広がったため、上昇傾向を示している。この間、ユーロ先物金利の動きをみると、市場では、来年春頃の利上げ観測を幾分織り込んでいる。

 東アジアでは、中国が内外需とも力強い動きを示すなど、景気回復の足取りが強まっている。ASEAN諸国では、輸出が中国との競合からやや弱い動きとなっているが、内需は底固く推移している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降、9月の通関統計や個人消費関連指標、鉱工業生産指数、および物価関連指標などが公表された。これらをみると、(1)輸出が再び増勢に転じている、(2)輸出の増加が生産の回復にも繋がりつつある、(3)景気の改善の動きが、製造業を中心とする中小企業にも徐々に波及しつつある、といったことが確認された。

 実質輸出をみると、4〜6月に横這い圏内の動きとなった後、7〜9月は東アジア向けを中心にはっきりとした増加に転じた。財別には、世界の情報関連需要の回復を反映して、情報関連財や資本財・部品が高い伸びを示している。

 個人消費関連では、残暑の影響もあって区々の動きとなった。百貨店、スーパー売上高は秋物衣料を中心に総じて不振であった一方、家電販売は、パソコン等が増加トレンドにある中で、エアコン、冷蔵庫が持ち直し、8月に続く大幅増加となった。

 雇用・所得環境面では、名目賃金の下落に歯止めがかかってきている姿に変わりはない。夏季賞与の動向を示す特別給与は、確報段階で幾分上方修正されたが、6〜8月通計では前年比−0.4%と僅かながらのマイナスとなった。9月の有効求人倍率は緩やかな改善の動きが続いているほか、完全失業率は5.1%と前月と同水準であった。

 鉱工業生産は、9月は前月比+3.0%、7〜9月は前期比+1.1%となった。10、11月の予測指数も高い伸びを示しているが、そのまま実現する可能性は低いと思われる。もっとも、ミクロ・ヒアリング情報によると、先行きの生産に対する企業の極めて慎重な姿勢がここにきて徐々に変化しつつあるように窺われる。

 設備投資に関連して、中小企業金融公庫のアンケート調査(9月時点)をみると、中小製造業の本年度設備投資計画は、前年比13.1%増とかなり強めの数字となっている。

 物価関連指標をみると、9月の輸入物価は国際商品市況の動きを反映した契約通貨ベースの上昇が為替円高により相殺される形でほぼ横這いとなった。国内商品市況は、鉄鋼や非鉄などの素材市況の緩やかな上昇が続いていることから、このところやや強めの動きとなっている。こうしたもとで、9月の国内企業物価は概ね横這いの動きとなっている。

 消費者物価指数(除く生鮮食品)は、全国の9月が前月と同じく前年比−0.1%となった。東京の10月速報は、前年比−0.1%と前月(−0.3%)に比べてマイナス幅が縮小した。これは米が前年比11.6%上昇したこと等を反映していると考えられる。

(2)金融環境

 社債、CPの発行環境をみると、発行金利の対国債スプレッドは総じて低水準で安定しており、良好な状況が続いている。長期金利がひと頃に比べて安定しつつあることなどを背景に、これまで社債発行を様子見していた企業が起債を再開する動きも一部にみられている。

 マネタリーベースは、日銀当座預金の増加を主因に、前年比2割程度の伸びを続けている。マネーサプライは、前年比2%程度の伸びとなっている。9月の前年比伸び率が+1.8%と前月(+2.0%)から低下した背景には、国債・FBへの資金シフトがあったと考えられる。

 「主要銀行貸出動向アンケート調査」(7〜9月期)によると、銀行からみた企業の資金需要判断DIの「減少」超幅は大きく縮小した。背景としては、新規出店資金や売上増に伴う運転資金の需要増が指摘されている。個人の資金需要については、住宅ローン金利の先高観から駆け込み需要がみられたことなどから、「増加」超幅が拡大している。一方、銀行の貸出姿勢についてみると、ここにきて大きく変化している訳ではないが、先行き、貸出ボリューム増に軸足を移す構えが窺われており、貸出条件面で、利鞘設定姿勢や信用リスク評価姿勢について、幾分緩和する動きがみられている。

 こうしたもとで、企業からみた金融機関の貸出態度は、零細企業を対象とする国民生活金融公庫調査でも、引き続き改善傾向にある。また、中小企業金融公庫調査による企業の資金繰り判断も前回ピーク(2000年7月)を上回る水準にまで改善している。

 このように、企業金融関連の各種判断指標は、緩和感の広がりを示している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.最近の金融経済情勢

 景気動向について、委員は、前回会合以降に公表された経済指標によると、輸出や生産の増勢が明らかとなり、経済情勢は「緩やかな景気回復への基盤が整いつつある」という前回会合時の判断に沿った動きをしている、との認識を共有した。何人かの委員は、内外の情報関連需要回復を背景とした輸出や生産の増加の好影響が、今後、設備投資などに徐々に波及していくことが期待できる、との考えを示した。

 海外経済に関して、多くの委員は、7〜9月期の米国の実質GDPが高い伸びとなったことに触れつつ、米国経済がリードする形で世界経済の成長率が高まる方向にある、との見方を表明した。米国経済について、このうち何人かの委員は、足許、これまで懸念されてきた雇用情勢にも安定化の兆しがみられる、と述べた。また、これらの委員は、減税の効果もあって家計支出が堅調を続けているほか、情報関連財を中心に製造業の受注や設備投資にも明るい動きが出てきていることを指摘した。

 輸出については、多くの委員が、再び増勢に転じていることが確認された、との見方を示した。複数の委員は、地域別にみて、東アジア向けの情報関連財の輸出増が目立っているほか、これまで幾分減少気味であった米国向け輸出についても、9月は持ち直しの動きがみられた、と発言した。これらの委員は、先行きについても、海外経済の回復を背景に、基調的に増加を続ける可能性が高い、との認識を明らかにした。

 生産についても、多くの委員から、これまで横這いの動きを続けてきたが、輸出の増加に伴って増勢に転じている、との指摘が相次いだ。何人かの委員は、ミクロ情報によっても、生産の緩やかな増勢が続くものと予想され、輸出の増加が生産活動の活発化に繋がりつつある、との見解を示した。

 何人かの委員は、こうした輸出や生産の増加を受け、今後、企業収益の回復を通じて設備投資も増加傾向を辿る、との見方を述べた。このうちひとりの委員は、中小企業金融公庫のアンケート調査において、中小企業の本年度設備投資計画が大幅に上方修正されたことは前向きの材料である、と発言した。

 個人消費に関して、複数の委員は、百貨店等で秋物衣料の販売が総じて不振であった一方で、家電販売が持ち直すなど、最近の販売指標はまちまちの動きとなったが、基調変化は窺われない、との評価を示した。これらの委員は、消費者コンフィデンスが総じて持ち直していることや名目賃金の下落に歯止めがかかっていることは、個人消費を下支えする好材料として捉えることができる、と付け加えた。

 金融面では、委員は、短期金融市場は日本銀行の潤沢な資金供給を背景に落ち着いて推移している、一方、債券、株式、為替の各市場については、引き続き不安定な動きがみられる、との認識を共有した。このうち、ある委員は、債券市場について、依然としてボラティリティが高く、短期金利へ悪影響が及ばないか注意が必要である、と発言した。また、何人かの委員は、過度の為替円高はわが国の輸出や企業収益にマイナスの影響を与える惧れがあるため、今後の為替相場動向を注意深くみていく必要がある、との考えを述べた。

 また、複数の委員は、金融機関の融資姿勢が若干前向きになる兆しがある、との見方を示した。関連して、もうひとりの委員は、主要銀行貸出動向アンケート調査によると、金融機関が貸出条件を幾分緩和しているようであるが、こうした動きが今後広がりをみせるか、金融環境を判断するうえで注目していきたい、と付け加えた。

2.経済・物価の将来展望とリスク評価

 次に、当会合において「経済・物価の将来展望とリスク評価」(展望レポート)を決定・公表する予定であることを踏まえ、委員は、本年度下期から来年度にかけての経済・物価の標準的な見通しや、これに影響を与え得るリスク要因についても議論を行った。

 まず、経済の先行きの標準的なシナリオについて、委員は、(1)本年度下期には前向きの循環が働きはじめ、来年度を通じて回復が続くと予想される、(2)ただし、過剰債務などの構造的な制約要因が残存するとみられるため、先行きの景気回復テンポは緩やかなものに止まる可能性が高い、との認識を共有した。

 ある委員は、前回(4月)の展望レポートの標準シナリオと比較すると、イラク情勢など世界経済を取り巻く不透明要素が夏場以降かなり解消されたほか、世界的な情報関連需要の持ち直しが明確になってきていること等から、経済情勢はやや上振れて推移している、との見方を示した。他の委員も、国内の設備投資が比較的早めの立ち上がりを示していること等に触れながら、同様の考えを述べた。また、別のある委員は、大企業・製造業を中心に過剰債務、過剰設備の調整がかなり進捗していることや、金融セクターでも、不良債権処理の進展や、株価上昇の自己資本へのプラス効果がみられることが、今後、景気展開にとって前向きな力として働くことが期待できる、との見解を述べた。

 先行きの物価の展望については、大方の委員は、緩やかな景気回復のもとで需給ギャップが来年度にかけて小幅縮小するものの、現状のマイナス幅はなお大きく、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品<以下同じ>)は、本年度、来年度とも小幅の下落が続くと予想される、との認識を明らかにした。このうちのひとりの委員は、今年度は一時的な制度要因が物価を押し上げているが、それらが解消される来年度は、表面上、消費者物価指数の前年比マイナス幅が若干拡大すると考えられる、と述べた。もうひとりの委員は、海上運賃の値上がりや国際商品市況の持ち直しの影響、および企業の価格設定行動の変化の可能性等を踏まえて、今後の物価動向を見守っていく必要がある、との考えを示した。他方、別のある委員は、需給ギャップの縮小は必ずしも小幅ではなく、かつ、需給ギャップの水準よりも変化幅に着目すれば、物価はもう少し強目に見通すことができるのではないか、と発言した。

 上記の標準的なシナリオに対して、上振れまたは下振れ方向に作用するリスク要因としては、(1)海外経済の動向、(2)金融・為替市場の動向、(3)不良債権処理や金融システムの動向、(4)国内民間需要の動向の4点が挙げられた。

 まず、海外経済について、何人かの委員が米国の景気回復の持続性がポイントとなる、との考えを示した。このうちひとりの委員は、先行き、減税効果が減退していくと予想されるほか、企業の根強い労働コスト抑制意欲を背景に雇用者所得の改善が期待しがたいことから、個人消費が下振れるリスクに注意する必要がある、とコメントした。また、別のある委員は、米国の経常収支の赤字拡大が世界経済のリスク要因になるとの見解を述べた。この委員は、こうした不均衡を為替相場の変動で調整しようとすると、かえって世界各国へのマイナスの影響が大きいことから、米国の貿易相手国の内需拡大により世界経済のバランスのとれた成長を目指すことが望ましい、と付け加えた。東アジア経済に関して、ひとりの委員は、高成長が続いている中国のプレゼンスが拡大しているのは好ましい材料であるが、同時に、中国における投資の過熱や資産価格上昇は、世界経済の不安定要因になる可能性がある、と発言した。

 金融・為替市場の動向について、多くの委員は、株価、長期金利、為替相場の変化の程度やスピード、組み合わせ如何によっては、経済活動に影響が生じ得ることをリスク要因として指摘した。また、金融システムの動向に関しては、何人かの委員が、不良債権処理の進捗や株価上昇もあって、このところ大手行を中心に金融システムに対する不安感は後退しているが、なお企業金融や実体経済に対して悪影響を与えるリスクが残っている、との認識を示した。このうちひとりの委員は、地域金融機関の不良債権問題やその地方経済への影響にも留意すべきである、と発言した。

 国内民間需要の動向を巡っては、何人かの委員が、景気回復へ向けた動きが非製造業や中小企業、家計部門へどの程度広がるかが重要である、と指摘した。このうち、ひとりの委員が、国際化を進める大企業の設備投資が国内の産業空洞化をさらに加速することとなれば、かえって経済の二極化を強めるリスクがあり、景気回復の広がりを確認するうえで、こうした点にも注目する必要がある、との考えを示した。他方、別のある委員は、景況感が製造業・非製造業、大企業・中小企業を問わず改善していることに触れたうえで、過剰債務や過剰雇用、金融システム面の弱さといった構造問題が解決の方向に向かっているとの認識が広がれば、企業や家計の期待成長率が高まり、それが設備投資や個人消費の推進力になる可能性がある、との認識を述べた。もうひとりの委員は、デフレから脱却するにはそうした成長期待の高まりが必要であり、企業や金融機関においても体質強化に向けた一段の努力が不可欠である、と付け加えた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、経済情勢が前回会合時の判断に沿って推移しているほか、短期金融市場も落ち着いた動きとなっていることから、当座預金残高目標を「27〜32兆円程度」とする現在の金融市場調節方針を維持することが適当である、との認識で一致した。何人かの委員は、こうした調節方針のもとで、市場のニーズをうまく汲み取りながら、機動的な金融調節を通じて、量的緩和政策継続のスタンスを明確にしていくべきである、との考えを述べた。なお、ひとりの委員は、当座預金の目標レンジを幅広くとりそれを活用することの意義は依然として見出しがたいが、現状のように同残高の平均を30兆円程度で推移させることには賛成である、と発言した。

 この間、ある委員は、現在の調節方針を為替相場と結び付けた解釈が散見されるが、金融政策に当たり、為替相場動向については、先行きの景気や物価への影響という観点からみていくことが必要である、との認識を示した。

 量的緩和政策継続のコミットメントに関しても何人かの委員が言及した。このうちひとりの委員は、(1)コミットメントの明確化は短中期の金利を安定させる効果があったと思われる、(2)一方で、量的緩和解除の必要条件のひとつとして政策委員の物価見通しがプラスになることを掲げたことが、将来の政策運営に当たり大きな制約とならないようにすることが重要である、とコメントした。また、別のある委員は、物価の先行きも含めてコミットメントの内容を明確化したことは、金融市場の期待安定化に繋がり望ましい措置であった、との評価を述べた。この点について、もうひとりの委員は、今回の展望レポートで示す来年度の消費者物価指数の見通し計数を前提とすると、引き続き、量的緩和政策を堅持するとのスタンスが明らかとなるが、消費者物価の前年比マイナス幅が縮小している中、金融政策運営を巡る様々な思惑が生じやすいだけに、コミットメントの内容に沿って金融政策スタンスを丁寧に説明していくことが重要である、との見解を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省の出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、設備投資の増加や企業収益の改善が続くなど、景気は持ち直しに向けた動きがみられている。このように、今後、景気は持ち直すことが見込まれる状況の中、デフレから脱却し、経済の本格的な回復を確実ならしめるうえで、引き続き実効性のある金融政策の役割は重要であると考えている。
  • 景気の持ち直しに向けた動きに対する当面のリスクは、金利および為替の動向である。実体経済の動きを先取りした過度の金利上昇や実体経済を反映しない急激な円高は、景気の回復に悪影響を与える惧れがある。
  • 日本銀行には、これらのことを含め、経済・市場動向について十分注視し、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  • 前回の金融政策決定会合で、量的金融緩和継続のコミットメントをより明確に示されたが、今後とも市場に対して量的金融緩和政策を堅持するとの日本銀行の金融緩和姿勢にいささかの揺るぎもないことを引き続き明確に示す必要があるのではないかと考えている。本日公表予定の展望レポートにおける標準シナリオや見通しが、この観点から世間の注目を集めていることには、十分ご勘案頂くようお願いしたい。

 内閣府の出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  • 10月の月例経済報告では、「景気は持ち直しに向けた動きがみられる」との基調判断を示した。また、引き続き為替相場や長期金利など、金融資本市場の動向には留意する必要があると考えている。日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服すること、および内需主導の自律的回復を実現することである。このため、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2003」の早期具体化を図っている。「基本方針 2003」においては、政府・日本銀行一体となった取り組みにより、集中調整期間の後には、デフレは克服できるとみられるとしている。
  • 今回の展望レポートでは、需給ギャップが小幅縮小に止まり、依然デフレ傾向が継続すると展望されている。今回も消費者物価指数を基準とする量的緩和政策継続のコミットメントを明確にされているが、今後とも金融資本市場の動向にも留意のうえ、より効果ある調節手段の実施も含め、適切かつ機動的な金融調節を行って頂くとともに、2005年度のデフレ克服を目指す観点から、実効性ある金融政策運営を行うことを期待する。
  • なお、展望レポートにおいては、GDP統計の見方について論じている。GDPデフレーターはパーシェ型価格指数であることから、消費者物価指数や企業物価指数などラスパイレス型である他の物価指数と比べ、相対的に低めとなるという一般的な傾向がある。こうした問題に対しては、より直近の経済構造を反映すべく、5年毎に基準改定を行っている。現在、平成17年の2000年基準への移行という課題とともに、デフレーターの推計方法も含め、推計方法全般にわたって検討を行っているところである。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、会合では、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を27〜32兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方が共有された。

 これを受け、議長から以下の議案が提出され、採決に付されることとなった。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.「経済・物価の将来展望とリスク評価」の決定

 次に、「経済・物価の将来展望とリスク評価」の「基本的見解」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、即日公表することとされた。なお、背景説明を含む全文は、11月4日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

以上


(別添)
2003年10月31日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上