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金融政策決定会合議事要旨

(2003年11月 20、21日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2003年12月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2003年12月19日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年11月20日(13:59〜15:37)
11月21日( 9:00〜12:07)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(20日)
    石井 啓一 財務副大臣(21日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(10月31日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は28〜31兆円台で推移した。こうした調節の下で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、11月中旬に一部外銀のマイナス金利での資金放出を受けマイナスとなる局面もあったが、この時期を除けば0.001〜0.002%で推移した。市場では年末を控える中でも、資金余剰感がきわめて強い状況が続いている。

  1. 「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給の下で、短期金利は低位安定を続けている。短期国債レートは、6か月や1年といった長めのタームの物が低下基調を辿っている。ユーロ円金利先物レートも一段と低下している。

 長期金利は、前回会合以降、概ね1.3〜1.5%台のレンジでの動きとなっていたが、足許では株価の下落などを受けて低下し、現在は1.3%前後となっている。民間債流通利回りの対国債スプレッドは、低格付ゾーンで幾分縮小した。

 この間、シンジケート・ローンの組成は趨勢的に増加している。一件当たりの組成額については、徐々に小口化が進む傾向にある。なお、9月11、12日の決定会合でも報告した通り、執行部は証書貸付形態で実行されているシンジケート・ローン債権を日本銀行の適格担保として受け入れるための実務面での検討を進めてきたが、今般これを適格担保として受け入れることが可能となったため、明日(11月21日)から受け入れを開始する予定である。

 株価は、米国株価の一時的な反落や、11月に決算を迎える一部海外ファンド筋による利益確定売りなどを受けて下落し、日経平均株価は本年8月以来の10千円台割れとなっている。

 円の対米ドル相場は、ドル安センチメントが続く中、概ね108〜109円台での推移が続いている。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は着実に回復しており、回復のモメンタムも強まりつつある。すなわち、個人消費は減税効果の一服などから一頃に比べ鈍化しているが、基調としては緩やかに回復している。住宅投資は高水準を維持している。製造業の受注や設備投資にも、IT関連を中心に明るい動きがみられているほか、生産も全体として持ち直している。これまで回復が遅れていた雇用面でも、非製造業を中心に明るい動きがみられ始めている。

 金融市場をみると、株価は11月初にかけていったん上昇した後、横這い圏内の動きとなっている。ただし、ごく最近では、地政学的リスクへの懸念などを背景に若干下落している。長期金利は、11月上旬にかけて上昇したが、足許では低下し、10月末頃の水準に戻っている。FF先物金利などから市場の先行きの金利観をみると、前回会合以降、経済見通しの強気化を受けて、いったんは来年春先にかけての利上げ観測がやや強まった。しかし、その後のFRB当局者の発言などを受けて、利上げ観測は前回会合時と比べてもやや後退している。

 欧州をみると、ユーロエリアでは、内需は低調裡に推移しているが、輸出が回復し、生産も下げ止まるなど、景気は全体として底入れしている。第3四半期の実質GDP前期比は+0.4%と、3四半期振りのプラス成長となった。

 英国では、緩やかながらも成長に着実さが増している。こうした状況のもとで、イングランド銀行は11月6日、政策金利(2週間物レポレート)を0.25%引上げ、3.75%とすることを決定した。

 欧州金融市場では、良好な企業決算などを受けて、株価は10月下旬以降上昇した。長期金利は、景気見通しの強気化から11月上旬にかけていったん上昇した後、最近では再び低下している。

 東アジアでは、景気回復の足取りが強まっている。中国では、内外需の好調を背景に、第3四半期の実質GDP前年比は+9.1%と、新型肺炎の影響を受けた第2四半期(+6.7%)に比べて大幅に上昇した。多くのNIEs、ASEAN諸国・地域では、良好な外需環境を背景に輸出が全体として増加しており、生産も、台湾やシンガポールなどでIT関連財を中心に増加している。個人消費も、韓国などを除き、基調として底固く推移している。

 このように、前回会合以降、地政学的リスクの再燃懸念が一部にみられるものの、世界経済を巡る下方リスクは全体としてさらに後退し、米国経済がリードするかたちで世界経済の成長率が高まるという見通しの蓋然性が高まっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 本年7〜9月の実質GDPは前期比+0.6%と、7四半期連続の増加となった。需要項目別にみると、(1)輸出、設備投資は増加し、(2)個人消費は横這い、(3)公共投資は減少と、ほぼこれまでの見方に沿ったものとなっている。また、GDPデフレータのマイナス幅が、設備投資デフレータを中心に大きめに出やすい傾向も続いている。

 輸出は、米国や東アジア経済の好転を背景に増加しており、7〜9月の実質輸出は前期比+3.8%となった。地域別にみると、世界的なIT関連需要回復の下、東アジア向けがIT関連を中心にかなりの増加となったほか、米国向けも足許では持ち直しの兆しがみられる。10月の実質輸出も、7〜9月対比+6.2%と高い伸びとなった。先行きについても、海外経済が米国、東アジアを中心に高めの成長を続けると予想されることから、増加を続けるものとみられる。

 設備投資は、緩やかな回復を続けている。先行きについても、輸出や生産の増加が続くもとで、回復傾向がより明確化していくと予想される。ただし、バランスシートの調整圧力や金融面の弱さといった構造面の制約要因が残存していることを踏まえると、キャッシュフローとの対比では慎重な投資姿勢が続く可能性が高い。

 家計部門の動向をみると、労働力調査の雇用者数が下げ止まり傾向にあるほか、有効求人倍率は上昇し、賃金の下落にも歯止めがかかってきているが、雇用・所得環境はなお総じて厳しい。先行きについては、生産の増加や企業収益の改善が、雇用・所得面へも好影響を次第に及ぼしていくとみられる。しかし、企業は、雇用過剰感が根強い中で人件費抑制スタンスを維持する可能性が高いため、雇用者所得には、当面目立った改善は期待しにくい。

 個人消費関連指標をみると、耐久消費財についてはデジタル家電を中心に比較的強めの指標が出る一方、非耐久消費財やサービス関連については、冷夏の影響もあって7〜9月は減少となった指標が多い。これらを全体としてみれば、弱めの動きが続いていると判断される。今後についても、一部マインド指標の改善など好材料はあるが、当面は所得の目立った改善が期待しにくいことなどから、個人消費は引き続き弱めないし横這い圏内で推移すると考えられる。

 最近の経済指標において最も特徴的な動きは、輸出の増加が生産の回復に結びつき、前向きの循環メカニズムが働き始めていることが確認された点であろう。すなわち、7〜9月の生産は、IT関連財の生産増などを主因に前期比+1.3%と増加し、先行きの生産予測指数もかなり高めの伸びとなっている。先行きの生産は、輸出の増加に加え、設備投資の回復や耐久消費財の販売好調にも支えられて、増加を続けるとみられる。とりわけ、目先10〜12月は、米国や東アジア経済の好調などを背景に、生産の増加テンポは比較的しっかりしたものとなる可能性が高まりつつある。

 物価動向をみると、原油価格を中心に国際商品市況は上昇基調で推移している。一方、輸入物価は、足許では国際商品市況上昇の影響よりも円高の影響が強く出ている結果、下落している。国内企業物価は、3か月前対比でみて横這い圏内の動きが続いている。消費者物価(除く生鮮)は、4月の医療制度改革に伴う診療代の上昇や7月のたばこ税引上げなども寄与した結果、8、9月の前年比下落率は0.1%まで縮小した。先行きについては、冷夏による米価上昇の影響により、消費者物価の前年比が一時的にゼロ%以上となる可能性もあるが、基調的には緩やかな低下を続けると予想される。

(2)金融環境

 クレジット関連の指標をみると、民間銀行貸出はこのところ前年比マイナス幅がわずかながら縮小してきている。この背景をみると、銀行は、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、条件設定などの面で貸出姿勢を幾分緩和する動きがみられている。一方、設備投資は緩やかに回復しているものの、キャッシュフローの水準を下回っていることなどから、民間の資金需要は引き続き減少傾向を辿っている。

 CP・社債の発行環境は、高格付け企業を中心に総じて良好な状況にある。社債流通利回りの対国債スプレッドは、低格付ゾーンで縮小傾向にある。このような状況の下、社債・CPの発行残高は前年を上回って推移している。

 このような貸出および直接市場調達の動きを反映し、民間総資金調達の前年比マイナス幅は幾分縮小傾向にある。

 資金繰り判断や金融機関の貸出スタンスについての見方など、各種アンケート調査などからみた企業金融環境は、信用力の低い企業についてはなお厳しい状況にあるが、総じてみればやや緩和される方向にある。

 マネタリーベースは、日銀当座預金の増加を主因に、前年比2割程度の伸びを続けている。マネーサプライ(M2+CD)の前年比伸び率はやや鈍化し、1%台半ばとなっている。これは、長期金利の上昇を受けて、M2対象資産である定期預金等から、対象外資産である国債等に資金が一部シフト・アウトしたことが主因とみられる。この間、広義流動性の伸び率は、特殊要因を除いてみれば、横這い圏内での推移を続けている。

 企業倒産は、減少傾向が続いている。

 金融環境については、今後とも、株価など金融市況の動向や、銀行の貸出スタンスや投資家のリスクテイク姿勢の変化なども含め、注意深くみていく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について委員は、「景気は緩やかに回復しつつある」という認識を共有した。

 多くの委員は、最近の経済指標の特徴点として、輸出の増加が生産の増加に結びついている点を挙げ、これを「前向きの循環メカニズム」が働き始めていることを示すものと評価した。

 まず米国経済について、多くの委員は、足許かなり明確に回復している、との認識を述べた。

 ひとりの委員は、減税効果の一服等から消費に一時的な鈍化傾向がみられるとはいえ、経済指標は総じて良好であり、企業収益の回復が雇用の改善に結びつく兆候もみられていると指摘した。

 別のひとりの委員も、10月の雇用統計をみると、非農業部門雇用者数が3か月連続での増加となったほか、新規の失業保険申請者数も7週間連続で40万人を下回るなど、雇用情勢にも改善の兆しがみられていると指摘した。

 米国経済の先行きについて、ひとりの委員は、財政面からの景気刺激効果は来年半ばで息切れが予想されるが、これを他の需要が補うかたちで、来年も4%程度の成長パスの実現は可能であると述べた。一方、別の複数の委員は、来年後半以降、減税効果が剥落する中での米国経済回復の持続性や雇用の拡大は、なお不確実とみておくべきではないかとの見解を述べた。

 中国経済について、何人かの委員は、(1)内需が、消費者向けクレジットの拡大や都市部での一部不動産価格の大幅上昇を伴いながら過熱気味で推移していること、(2)インフラ投資や直接投資の増加等を背景に生産が前年比2割近いペースで増加していること、を指摘し、このことは国際商品市況や海運市況の上昇の要因にもなっていると述べた。このうちひとりの委員は、中国は少し前まで世界経済のデフレ要因と言われたが、足許の国際商品市況などへの影響をみると、こうした見方は変わりつつあると指摘した。

 また、ひとりの委員は、世界経済全般の回復傾向に関し、(1)中国以外の東アジア諸国も、輸出や生産の回復が、IT関連を中心により明確になっている、(2)ユーロエリアも、輸出の回復を受けて生産に回復の兆しがみられ、緩やかに回復しつつある、(3)中東欧諸国はユーロエリアへの輸出増を背景に、東アジアに匹敵する高成長を達成する段階に入ってきている、と発言した。別のひとりの委員も、米国の最終需要の増加が、アジアや欧州経済、さらには日本の輸出にもプラスの影響を及ぼしているとの認識を示した。

 輸出について、多くの委員は、前述のような海外経済全般の回復傾向のもとで、実質輸出が7〜9月期に続いて10月も高い伸びとなるなど、明確に増加しているとの認識を示した。

 さらに、生産についても、多くの委員は、9月の増加の後、10〜12月期もかなりの増加が見込まれているなど、輸出の増加が生産の増加につながってきていることを指摘した。

 このうちひとりの委員は、これまで、輸出が増加に転じる中で、生産の回復は冷夏の影響もあってやや遅行していたが、足許の生産はこれまでの立ち上がりの遅れを取り戻すテンポで増加している、と述べた。

 企業部門について、多くの委員は、企業収益や設備投資が増加傾向を辿っていることを指摘した。

 ひとりの委員は、(1)企業収益は、生産が横這いであった期間も含め、リストラ効果から既に増益基調にあった、(2)こうしたもとで、設備投資は、むしろ生産の増加に先立って増加を始めていた、(3)生産の増加は、企業収益や設備投資の増加見通しをより確かなものとする方向に働く、との認識を示した。

 別のひとりの委員は、稼働率の面からも設備投資が誘発されやすい状況にあると指摘した。さらに別のひとりの委員は、7〜9月期のGDP統計をみても、設備投資デフレータのマイナス幅が大きめに出やすい傾向が続いており、ここからみて、設備投資は名目ベースでは「緩やかな回復」であっても、実質ベースでは本年度2桁増となる可能性が高まっていると述べた。

 この間、企業部門の回復の広がりという観点から、何人かの委員が発言した。

 ひとりの委員は、日本経済新聞社の調査(中間集計)では、(1)本年度の収益は、非製造業も製造業並みの2割強の増益を見通していること、(2)設備投資も、製造業に加え非製造業もプラスの見通しとなっていることを指摘した。

 別の何人かの委員は、現在の設備投資の増加は、IT関連に集中していた2000年度の回復局面と比べ、家電や素材関連なども含め業種的な広がりを伴っていると指摘した。このうち複数の委員は、ヴィンテージの高い設備の更新需要も踏まえると、今回の回復は2000年度の回復局面よりも持続性があるといえるのではないかと発言した。

 さらに別のひとりの委員は、企業のリストラの動きをみても、単なる人員・経費削減という段階から、より前向きの経営改善の動きが出てきているように窺われると述べた。

 家計部門について、何人かの委員は、企業収益の回復を受けて、雇用者所得が徐々に下げ止まってきていることを指摘した。

 個人消費について、ひとりの委員は、(1)企業のリストラの動きが続く中で、所得が今後はっきりと増加していくことまでは見通し難いこと、(2)昨年までの消費性向にはやや出来過ぎの面があり、これがさらに上昇することも見込みにくいことから、当面横這い圏内に止まる可能性が高い、との見方を示した。別のひとりの委員も、今後年金や医療制度改革等の議論が本格化する中で、家計のマインドの改善はあまり期待しにくいのではないかと述べた。

 物価情勢に関し、複数の委員は、(1)海外経済の回復などを反映して、商品市況は全般に上昇していること、(2)一部素材業種などでは、産業再編などによる過剰生産体質の是正を通じて価格決定力を回復しつつあることを環境の変化として指摘した。さらに、このうちひとりの委員は、GDPデフレータの「パーシェ・バイアス」を考慮しても、現在の成長テンポは潜在成長率を上回っており、このペースでの成長が続けば需給ギャップも縮小すると予想され、デフレ脱却のチャンスは広がっているのではないか、と述べた。

 別のひとりの委員は、最近の都市部の局所的な地価反転や一部資産価格の上昇、海外経済の回復等が期待インフレ率などにどのような影響を及ぼしていくかも一つの注目点であろうと指摘した。

 以上をまとめた経済情勢全体への評価として、多くの委員は、10月末に公表した「展望レポート」の「標準シナリオ」に概ね沿っているとの見解を述べた。

2.金融面の動向

 金融面では、株価が足許やや下落していることについて、議論が行われた。

 何人かの委員は、株価下落の背景として、本邦株価が海外株価や海外投資家の動向に左右されやすい展開となっている中で、地政学的リスクの高まりを背景とする海外株価の調整に、一部海外投資家の利益確定売りといったテクニカルな要因が重なったことを挙げた。このうち複数の委員は、これらの要因が契機となって、期待先行から買い進んできた一部国内投資家の売りを誘い、これまでの株価急上昇の調整が生じた面もあろうと整理した。

 ただし、これらの委員を含めた多くの委員は、本邦企業の収益は増益基調を続けており、今後も生産増加の下で、このトレンドは維持される可能性が高いことを踏まえれば、ファンダメンタルズの面から本邦株価が大きな水準調整を迫られるリスクは小さいのではないかとの見解を述べた。

 また、ドル安傾向が続くもとで、円・ドルの為替レートが108〜109円台と年初来の高値圏で推移していることにも、何人かの委員が言及した。

 ひとりの委員は、(1)米国経済の回復力などからみて、ドル安が大きく進むことは考えにくいが、(2)一方で米国の「双子の赤字」などへの市場の見方が、市場を振れさせる要因として作用する可能性はある、と述べた。別のひとりの委員は、ドル安の背景には地政学的リスクの高まりもあるとみられ、今後とも中東情勢には注意が必要であると述べた。さらに別の複数の委員は、ドル安の進行は、米国資本市場への資金流入の減少等を通じて、世界経済の回復にとってもマイナスであるとの考え方を述べた。

 そのうえで、何人かの委員は、現在のところ、株価や円・ドルレートの動向が日本経済のファンダメンタルズに影響を及ぼしているようにはみられないが、これらの市場の動きは今後とも注意深くみていく必要があると述べた。

 金融環境全般について、多くの委員は、緩和的な環境が続いていると評価した。

 ひとりの委員は、中堅中小企業を含めた企業収益の回復は、キャッシュフローの改善を通じて足許の資金需要低迷の一因ともなっていると指摘した。別のひとりの委員は、資金需要は依然低迷しているが、金融機関の融資姿勢はやや積極的になってきており、資金供与の形態も多様化していると述べ、この面からも景気回復の基盤はよりしっかりしてきていると評価した。

 一方、ひとりの委員は、長めの資金に対する市場のニーズが引続き強いことや、市場の一部で金融システム不安の再燃を懸念する声がなお聞かれることには注意を要すると述べた。この委員を含めた何人かの委員は、先行き銀行の決算公表を控えているが、この受け止められ方や金融環境への影響については、注意深くみていく必要があると述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような、景気が緩やかに回復しつつあるという情勢判断のもと、現在の「27〜32兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 この間、ある委員は、長めの資金に対する市場のニーズが強い状況下では、引続き市場のニーズをうまく汲み取りながら金融調節を行う必要があると述べた。

 別のひとりの委員は、バブル崩壊後、不良債権問題やグローバルな競争激化といった多くの課題を抱えた民間経済は、かなりの時間をかけながらも、過剰債務や過剰雇用、過剰設備の克服など、調整を進めてきたといえると指摘した。

 そのうえでこの委員は、このような調整が需給ギャップの顕著な縮小をもたらすような需要全般の増加に結びつくまでには、なお暫くの時間を要すると述べた上で、マクロ政策面からは、民間経済の調整メカニズムを活かしながら、景気回復のサポートを粘り強く続ける必要があり、日本銀行としても、現在のコミットメントの下で量的緩和を堅持するとともに、様々な信用仲介ル−トの育成などに地道に取り組んでいく必要があると述べた。

 さらに別の複数の委員は、現在のコミットメントの下で量的緩和を堅持する姿勢を示す上で、10月に決定した透明性強化策は効果を挙げているように思われる、と指摘した。

 このうちひとりの委員は、(1)時間軸効果については、「量的緩和が継続する期間についての認識の共有を図ることを通じて、この間のリスク・プレミアムを減少させる」ことが重要である、(2)この点、前々回会合以降、短期ゾーンの債券金利は安定化しており、リスク・プレミアムは低下したように窺われる、(3)時間軸が長期化した兆しはないが、時間軸を徒に伸ばそうとすれば、むしろ将来の政策対応の遅れへの懸念を通じて長期ゾーンのリスク・プレミアムを高める可能性が高い、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、10月に決定した当座預金残高目標の上限引き上げの趣旨に関連して、景気が回復しつつあっても物価下落が続いていれば量的緩和政策を継続することを改めて説明する必要があるとともに、資金需要の高まりに対しては今後とも柔軟に対応すべきであるとの考え方を述べた。

 また、信用仲介ルートの育成という観点から、ひとりの委員は、(1)執行部から報告されたシンジケート・ローン債権の適格担保化は、市場型間接金融の発展に向けた取り組みの一つである、(2)この11月に始まった「証券化市場フォーラム」でも、実りのある議論を期待したい、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、設備投資の増加や企業収益の改善が続くなど、企業部門を中心に景気は持ち直している。先日公表されたQEにおいて本年7〜9月期の実質GDP成長率が前期比で0.6%増と7四半期連続でプラスとなるなど、わが国経済は緩やかな回復を続けている。
  • このように景気が持ち直している状況の中、デフレから脱却し、経済の本格的な回復を確実ならしめる上で引き続き実効性のある金融政策の役割は重要であると考えている。
  • 景気の持ち直しに対する当面のリスクは金利および為替の動向である。実体経済の動きを先取りした過度の金利の上昇や実体経済を反映しない急激な円高は景気回復に悪影響を与えるおそれがある。
  • 日銀におかれては、これらのことを含め、経済・市場動向について十分注視し、機動的な金融政策運営を実施するとともに今後とも市場に対して量的金融緩和政策を堅持するとの日銀の金融緩和姿勢に揺るぎがないことを引き続き明確に示して頂きたいと考えている。
  • また、年末に向けて企業金融を取り巻く環境は厳しくなると予想されている中、こうした資金需要の高まりに対しては弾力的な対応をお願いしたい。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 7〜9月期の実質GDP速報は、前期比0.6%、年率2.2%と7四半期連続のプラスとなった。一方、名目GDPは−0.0%、年率−0.1%とほぼ横這いになるなど依然デフレ傾向は継続している。今月の月例経済報告では、「景気は持ち直している」と基調判断を上方修正した。また、引き続き、株価や為替レートなど金融資本市場の動向には留意する必要があると考えている。
  • 日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服すること、および内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(基本方針2003)」の早期具体化を図っている。「基本方針2003」においても、政府・日本銀行一体となった取り組みにより、集中調整期間の後にはデフレは克服できるとみられるとしている。政府においては、制度・政策の改革を推進するため、経済財政諮問会議において集中審議を行っている。
  • 日本銀行におかれては、消費者物価指数を基準とする量的緩和政策継続のコミットメントを明確にされているが、今後とも金融資本市場の動向にも留意のうえ、より効果のある調節手段の実施も含め、適切かつ機動的な金融調節を行って頂くとともに、2005年度のデフレ克服を目指す観点から実効性ある金融政策運営を行うことを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を27〜32兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。
 この「基本的見解」は当日(11月21日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は11月25日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(10月9、10日)の議事要旨が全員一致で承認され、11月27日に公表することとされた。

以上


(別添)
2003年11月21日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。  日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上