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金融政策決定会合議事要旨

(2003年12月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年 1月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 1月23日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2003年12月15日(14:00〜15:36)
12月16日( 9:00〜11:19)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(15日)
    石井 啓一 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(11月20、21日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は28〜31兆円台で推移した。 こうした調節の下で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001〜0.002%で推移した。

 なお、足利銀行の一時国有化の決定(11月29日)を踏まえ、金融市場の安定確保に万全を期す観点から、週明け後の12月1日朝方、即日の手形買入オペを通じて1兆円の追加的な資金供給を行った。こうした下で、同日のコールレートの加重平均値は0.001%となるなど、市場は落ち着いた地合いで推移した。

 市場では年末を控える中でも、資金余剰感がきわめて強い状況が続いている。

  1. 「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給の下で、短期金利は低位安定を続けている。短期国債レートは、一時強含む局面もみられたが、足許では低下している。ユーロ円金利先物レートも低下基調で推移している。

 長期金利は、前回会合以降、概ね1.3〜1.5%台のレンジでの動きとなっている。民間債流通利回りの対国債スプレッドは、一部に利益確定売りがみられたことなどから幾分拡大したが、足許では落ち着いて推移している。

 資産担保証券市場の動向をみると、銀行の自己資本比率の改善等を受けてABCP以外の資産担保証券の新規組成額は足許減少傾向にあるものの、ABCPの発行残高は6兆円程度で安定的に推移している。また、ABCP発行レートの対FBスプレッドは、5〜10bpsで推移しており、投資対象として強いニーズがみられる。こうした市場の状況の下で、日本銀行による資産担保証券の買入実績は、ABCPを中心に約2,500億円(累計ベース)となった。

 この間、日本銀行が主催する証券化市場フォーラムにおいては、日本銀行の資産担保証券の買入基準に関して、市場参加者から、裏付資産に占める中堅・中小企業関連資産の割合に関する要件などについて、見直しを求める意見が寄せられている。

 株価は、米国株価の反発等を背景に12月初にかけて幾分持ち直したものの、その後は円高の進行などを受けて軟化した。もっとも、足許ではイラク情勢の好転に対する期待から再び上昇している。

 円の対米ドル相場は、米国の「双子の赤字」問題への懸念の強まりなどからドル安センチメントが続く中、足許では概ね107〜108円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は着実に回復しており、そのモメンタムが強まっている。すなわち、個人消費は減税効果の一服などから一時的に下振れているが、基調としては緩やかに増加している。住宅投資は高水準を維持している。また、IT関連財を中心に製造業の受注や設備投資にも明るい動きが続いているほか、生産も、力強さには欠けるものの持ち直している。さらに、改善が遅れていた雇用面でも、非製造業を中心に明るい動きがみられている。

 金融市場をみると、株価は、第3四半期の実質GDP(暫定推計値、前期比年率+8.2%)など市場予想比強めの経済指標の発表などを受けて11月下旬から上昇し、12月上旬には昨年上期以来の高値を更新した。長期金利は、振れはあるものの、概ねレンジ内での推移となった。FF先物金利などから市場の先行きの金利観をみると、11月末頃にかけて来年春先の利上げ観測が強まったが、ごく最近ではそうした観測は再び後退している。

 欧州をみると、ユーロエリアでは、内需は低調裡に推移しているが、輸出・生産が回復し、景気は全体として底打ちしている。第3四半期の実質GDPは前期比年率+1.5%と3四半期振りのプラス成長となった。また、英国では、成長に着実さが増している。金融市場では、米国金融市場と歩調を合わせるかたちで、11月下旬から株価が上昇し、12月初にはドイツ、英国とも昨年夏以来の高値を更新した。

 東アジアでは、景気回復の足取りが引き続き強まっている。中国では、内外需ともに力強い動きになっている。多くのNIEs、ASEAN諸国・地域では、IT関連財を中心に輸出・生産が増加している。なお、韓国では内需の低迷が続いているものの、外需に牽引されて生産は回復している。

 このように、前回会合以降、世界経済を巡る下方リスクは全体としてさらに後退し、米国、東アジアを中心に景気回復のモメンタムが強まっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、米国や東アジア経済の好転を背景に、7〜9月に増加に転じた後、10月も7〜9月対比でかなりの増加となった。地域別にみると、東アジア向けが、中国の高い成長や世界的なIT関連需要の回復などを背景に引き続き高い伸びとなったほか、8月までは弱めであった米国向けも、自動車の在庫調整が進んだことなどから、ここへきてはっきりと増加に転じている。先行きについても、海外経済が米国、東アジアを中心に高めの成長を続けると予想されることから、増加を続けるものとみられる。

 設備投資は、企業収益の改善を背景に、緩やかな回復を続けている。先行きについても、輸出や生産の増加が続く下で、回復傾向がより明確化していくと予想される。ただし、バランスシートの調整圧力や金融面の弱さといった構造面の制約要因が残存していることを踏まえると、キャッシュフローとの対比では慎重な投資姿勢が続く可能性が高い。

 家計部門の動向をみると、まず雇用・所得環境については、雇用者数が下げ止まりつつあるほか、賃金の下落にも歯止めがかかってきており、雇用者所得は徐々に下げ止まってきている。先行きについては、生産の増加や企業収益の改善が、雇用・所得面へも次第に好影響を及ぼしていくとみられる。しかしながら、企業は、人件費抑制に引き続き取り組んでいく可能性が高く、当面、雇用者所得の目立った改善は期待しにくい。

 個人消費関連指標をみると、耐久消費財についてはデジタル家電を中心に堅調な動きとなっているほか、7〜9月には天候要因のため弱さが目立っていた全国百貨店やスーパー売上高などにも持ち直しの動きがみられる。また、消費者コンフィデンスを示す指標も概ね改善している。もっとも、先行きの個人消費については、雇用者所得に目立った改善が期待しにくいことなどから、横這い圏内の動きを続ける可能性が高い。

 生産は、7〜9月に増加に転じた後、10月も増加した。先行きの生産は、輸出の増加に加え、設備投資の回復や耐久消費財の販売好調にも支えられて増加を続けるとみられる。とりわけ、目先10〜12月は、輸出や設備投資がいったん加速する可能性が高いことから、生産の増加テンポもかなり高まることが予想される。

 物価動向をみると、国際商品市況は強含んでいるものの、輸入物価は、円高の影響がより強く表われていることから、引き続き下落している。国内企業物価は、3か月前対比でみると、強含みの動きとなっている。消費者物価(除く生鮮)は、医療制度改革に伴う診療代の上昇やたばこ税引き上げなどに加え、米価格の上昇の影響もあって、10月の前年比は+0.1%と、5年6か月振りにプラスとなった。先行きについては、消費者物価指数の前年比は、米価格の上昇の影響などから当面ゼロ%前後で推移する可能性が高いものの、需給バランスが徐々に改善しつつもかなり緩和した状況の下で、基調的には小幅のマイナスを続けると予想される。

(2)金融環境

 クレジット関連の指標をみると、民間銀行貸出はこのところ前年比マイナス幅がわずかながら縮小してきている。この背景をみると、銀行は、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を幾分緩和している。一方、民間の資金需要は、設備投資が緩やかに回復しているものの、キャッシュフローの水準を下回っていることなどから、引き続き減少傾向を辿っている。これらの動きを反映し、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断は、中小企業等ではなお厳しい状況にあるが、幾分改善している。

 CP・社債の発行環境は、高格付け企業を中心に総じて良好な状況にある。CPについては、発行金利、対短期国債スプレッドとも低水準で安定しており、年末越えプレミアムはほとんど意識されていない。また、社債については、発行金利の対国債スプレッドが引き続き低水準にある。このような状況の下、CP・社債の発行残高は前年を上回って推移している。

 このような貸出および資本市場調達の動きを反映し、民間総資金調達の前年比マイナス幅はわずかながら縮小してきている。

 マネタリーベースは、伸びがやや鈍化し、前年比1割台半ばとなっている。マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台半ばで推移している。この間、広義流動性の伸び率は、特殊要因を除いてみれば、横這い圏内で推移している。

 企業倒産は、減少傾向が続いている。

 金融資本市場の動向や金融機関行動、企業金融の状況については、引き続き十分注意してみていく必要がある。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、「景気は緩やかに回復している」という認識を共有した。

 多くの委員は、最近の経済指標の特徴点として、輸出や生産の増加がより明確になってきている点を挙げ、わが国経済が概ね順調に回復過程を辿り始めていることを示すものと評価した。

 米国経済について、多くの委員は、IT関連を中心に企業部門の回復が明確になりつつあるほか、改善が遅れていた雇用面でも明るい動きがみられており、景気回復のモメンタムが強まっている、との認識を示した。

 ひとりの委員は、米国経済の先行きについて、これまでの家計部門を中心とする回復から企業部門を起点とする回復への転換が順調に行われる見通しが強まっており、減税効果の一服にもかかわらず、持続的な成長に結び付く蓋然性が高まりつつある、との見方を示した。

 別のひとりの委員は、米国経済の回復は、労働生産性の驚異的な伸びに支えられており、供給力の増加に伴い需給ギャップの縮小テンポが緩やかなものにとどまる可能性がある、との認識を示した。そのうえで、この委員は、雇用の改善が予想外に早く始まっていること、生産者物価が原材料・中間財等を中心に上昇傾向にあること、米ドル相場の減価が進んでいることなどを踏まえると、こうした労働生産性の伸びにもかかわらず、来年半ばには需給ギャップの縮小による物価上昇率の下げ止まり傾向が明確になるのではないか、との見方を述べた。

 中国経済について、何人かの委員は、IT関連財を中心に輸出・生産が増加しているほか、個人消費などの内需も増勢を維持しており、高い成長を続けている、と述べた。これらの委員は、足許の物価が食料品を中心に上昇基調にあることを指摘したうえで、景気はやや過熱気味に推移しており、中央銀行の引締め的な金融政策運営が経済・物価面に与える効果が注目される、との見方を示した。

 海外経済の先行きに関して、米国の「双子の赤字」やイラク情勢を巡る地政学的リスクなど様々な不確定要因は残存しているものの、全体として減速のリスクはやや後退しているとの認識が共有された。

 こうした海外経済情勢の下で、輸出は明確に増加しているとの認識が共有された。ひとりの委員は、夏場まで弱めであった米国向けについても、現地在庫調整の進捗などを背景に自動車関連が増加するなど、ここにきてようやくはっきりと回復していることが注目される、と述べた。

 企業部門の動向について、多くの委員は、12月短観において企業の業況感が一段と改善していることが確認できた、との見方を示した。何人かの委員は、業況感は製造業大企業で大幅に改善しているほか、非製造業や中小企業でも改善の動きが継続しており、景気回復の動きが徐々に広がりつつある、との認識を示した。もっとも、ひとりの委員は、非製造業や中小企業の業況感の改善は引き続き小幅なものにとどまっており、景気回復の広がりはさほど進んでいないとみるべきではないか、との意見を述べた。別のひとりの委員は、企業の損益分岐点の低下が鈍化しつつあることなどを指摘したうえで、業況感や利益率が先行き一段と改善するかどうかについては予断を許さないのではないか、との見方を示した。

 設備投資については、企業収益が引き続き改善していることなどを背景に、緩やかに回復しているとの認識が共有された。何人かの委員は、7〜9月のGDP統計(2次速報値)において、実質ベースの設備投資が大幅に下方修正されたことを指摘したうえで、資本財出荷が増勢に転じていること、先行指標である機械受注も再び大きく増加していること、短観をみても本年度の設備投資計画は非製造業や中堅・中小企業を中心に上方修正されていることなどを踏まえれば、設備投資は緩やかに回復しているとの基調に変化はない、との見方を示した。

 個人消費について、ひとりの委員は、所定外給与が増加していることや、株価の上昇等を受けて消費者のマインドが好転していることなどを背景に、消費の持ち直しとみられる動きが散見される、と述べた。別のひとりの委員も、企業の人件費抑制の動きが続く中で、所得が目立って改善するとは見通し難いことなどを考えると、個人消費は当面横這い圏内の動きを続ける可能性が高いものの、足許の指標に関しては、デジタル家電を中心に耐久消費財の販売が堅調な動きとなるなど一部に底固さがみられる、との見方を示した。この間、別の委員は、所得環境が大きく好転しないにもかかわらず消費が底固く推移している背景として、家計の貯蓄率の低下や貯蓄の取り崩しの動きが広がっていることを指摘したうえで、先行きについては個人消費が弱含むリスクも念頭に置く必要がある、と述べた。

 何人かの委員は、年金制度改革に伴う保険料負担の増加が、家計や企業のマインド面に影響を及ぼす可能性があり、今後の議論を注視する必要がある、との認識を示した。

 物価情勢に関し、10月の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比が5年半振りにプラスとなったことについて議論が行われた。多くの委員は、足許の物価動向には景気の回復に伴うマクロ的な需給ギャップの縮小や、企業の低価格戦略の落ち着きもある程度影響しているものの、これまでの診療代の上昇やたばこ税の引き上げなどに加え、冷夏による米価格の上昇といった一時的な要因が大きく寄与しており、消費者物価指数の前年比は、基調的には小幅のマイナスを続ける可能性が高い、との見方を示した。この間、ひとりの委員は、国際商品市況の強含みや中国における物価の上昇が、わが国の消費者物価にも影響を及ぼす可能性がある点に留意すべきである、と述べた。別のひとりの委員は、消費者物価指数の今後の動向を占う上では、雇用・所得が安定的に増加傾向を辿るかどうかがポイントである、との意見を述べた。

 何人かの委員は、GDPデフレーターがマイナス幅を縮小する方向で改訂されたことについて、統計的に把握される実質GDP成長率の先行き見通しに影響を及ぼす可能性も含めて検討していく必要がある、との認識を示した。

 以上をまとめた経済・物価情勢全体への評価として、多くの委員は、10月末に公表した「展望レポート」の「標準シナリオ」に概ね沿っている、との見解を述べた。

2.金融面の動向

 金融面では、何人かの委員が、足許の円高は他通貨に対するドルの全面安という側面が強く、米国の「双子の赤字」に対する懸念や、イラク情勢を巡る地政学的リスクがその背景にある、との見方を示した。ひとりの委員は、米国経済が力強く回復していることを踏まえれば、米国の経常赤字は当面増加する可能性が高く、更なるドル安要因となるリスクがある、との意見を述べた。

 こうした円高が経済活動や企業マインドに与える影響について、何人かの委員は、短観の結果などからみるかぎり、現在までのところ限定的なものにとどまっているとの認識を示した。そのうえで、委員は、為替市場の動向やこれが実体経済に与える影響について注意深くみていく必要があるとの認識を共有した。

 また、株価の動向についても、何人かの委員が言及した。ひとりの委員は、現在の株価水準はファンダメンタルズと大きく乖離しているとは言えない、との見方を示した。別のひとりの委員は、景気に関する好材料は既に株価に織り込まれており、株価が一段と上昇するためには企業の収益性が改善する必要がある、と述べた。

 短期金融市場については、多くの委員が、日本銀行による機動的な資金供給の効果もあって、足利銀行の一時国有化決定後も極めて落ち着いた動きとなっており、年末を控えているにもかかわらず緩和的な状態が続いている、との見方を示した。

 このところ、マネーサプライの伸び率がやや低下している背景について、何人かの委員が意見を述べた。これらの委員は、マネーサプライ、とりわけM2+CDの伸び率が高まるためには金融機関貸出が増加する必要があるが、現在のように構造調整が進捗する下では、企業は有利子負債の圧縮を優先するため、景気が回復基調にあるにもかかわらず、金融機関貸出が増加しにくい状況にある、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、M2+CDと実体経済活動の間には、非常に長い目でみればある程度の関係がみられるが、90年代後半以降、そうした両者の関係が不安定化している、との見方を示した。別のひとりの委員は、最近の数年間については、マネーサプライの伸びは金融システム不安と正の相関を示しており、金融システム不安が高まればマネーサプライの伸び率が高まり、金融システム不安が鎮静化すればマネーサプライの伸び率が低下するということもできる、と述べた。また、さらに別の委員は、構造調整の過程においては、金融政策の効果をマネーサプライの伸び率で判断することは適当ではない、との見方を示した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような、景気が緩やかに回復しているという情勢判断の下、現在の「27〜32兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 複数の委員は、金融機関の年末越え資金の調達は概ね順調に推移しているが、必要な場合には「なお書き」も活用しつつ、潤沢な資金供給を行い、市場の安定を確保していくことが重要である、と述べた。ひとりの委員は、市場が落ち着いて推移する中でも、年度末越えなど長めの資金に対する市場のニーズは引き続き強く、こうしたニーズをうまく汲み取りながら金融調節を行う必要があると述べた。

 ひとりの委員は、金融政策運営に当たっては、様々なマネー指標の中でもマネタリーベースに注目すべきであり、その伸びを中長期の名目成長率に見合ったかたちで安定的に増加させる政策運営が、デフレの克服だけでなく、長期金利の安定化にも資する、との見方を示した。別のひとりの委員は、マネタリーベースの約7割を占める銀行券については、そもそも日本銀行が直接的にコントロールするのは困難であるうえ、現在の銀行券発行残高の対名目GDP比率は長期的なトレンドを大きく上回って推移しており、金融システムの安定化などに伴って減少する可能性があることなどを考えると、マネタリーベースに注目した政策運営には問題が多い、と述べた。

 執行部から報告のあった資産担保証券の買入れについても、議論が行われた。何人かの委員は、資産担保証券の買入基準については、制度発足時より、資産担保証券市場の発展の状況等を踏まえて見直すこととしていたところであり、日本銀行によるこれまでの買入れの実績や、証券化市場フォーラムで出された市場関係者の意見も参考にしつつ、見直しの余地があるかどうかについて検討を行うこととしてはどうかとの意見を述べ、すべての委員がこれに賛同した。ある委員は、見直しに当たっては、現行スキームの導入時の考え方の基本線はしっかりと守るべきである、と述べたほか、何人かの委員は、市場の健全な発展を主眼とすべきであり、日本銀行による買入実績を増やすことに重点を置くべきではない、との見解を示した。

 こうした議論を受けて、議長は、資産担保証券の買入基準の見直しについて検討し、次回決定会合で報告するよう、執行部に指示した。また、その旨を別添1により対外公表することを、全員一致で決定した。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、設備投資の増加や企業収益の改善が続くなど、企業部門を中心に景気は持ち直している。
  • こうした状況の中、政府としてはこれまでの「改革断行予算」という基本路線を継続し、構造改革を一層推進し、活力ある経済社会と持続的な財政構造の構築を図るべく、平成16年度予算編成を行うこととしている。
  • 景気が持ち直している中、依然としてデフレが継続している。デフレはそれが緩やかなものであったとしても、長く続くことで人々のデフレ心理を深刻化・定着化させることにより、デフレの克服を一層困難にするものと考える。日本銀行におかれては、これまでもデフレの克服に向けた金融政策運営を行ってこられたが、デフレ心理の転換に繋がるように働きかけるにはどのようにしたらよいかという観点からも一段と工夫を講じられないか、更なる検討を進め、実効性のある金融政策を実施して頂きたいと考えている。
  • また、今後とも金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、わが国金融システムの安定を確保すべく機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  • なお、年末に向けて企業金融を取り巻く環境は厳しくなると予想されている中、こうした資金需要の高まりに対しても、弾力的な対応をお願いしたい。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気は持ち直している。株価や為替レートなど金融資本市場の動向には、引き続き留意する必要があると考えている。
  • わが国経済の重要な課題は、デフレを早期に克服すること、および内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」の早期具体化を図っている。「基本方針2003」においては、政府・日本銀行一体となった取り組みにより、集中調整期間の後にはデフレは克服できると見られるとしている。また12月5日には、改革断行予算を継続するとの方針を示した「平成16年度予算編成の基本方針」を閣議決定した。さらに、「平成16年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」の策定および「改革と展望」の改定を行うこととしている。
  • 政府は、12月1日、金融危機を未然に防ぐため、足利銀行の特別危機管理を開始するとともに、同行が業務を行っている地域の金融及び経済の安定に万全を期すこととした。政府としては、今後とも金融システム安定確保に万全の対応をとっていく。
  • 日本銀行におかれては、消費者物価指数を基準とする量的緩和政策継続のコミットメントを明確にされているが、今後とも金融資本市場の動向にも留意のうえ、より効果ある調節手段の実施も含め、適切かつ機動的な金融調節を行って頂きたい。また、現在の情勢を踏まえた物価の安定を巡る諸問題も含め、金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、2005年度のデフレ克服を目指す観点からさらに実効性ある金融政策運営を行うことを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を27〜32兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添2のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(12月16日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は12月17日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(10月31日)および前回会合(11月20、21日)の議事要旨が全員一致で承認され、12月19日に公表することとされた。

VIII.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2004年1月〜6月における金融政策決定会合等の日程が別添3のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2003年12月16日
日本銀行

資産担保証券の買入基準見直しの検討

  1. 資産担保証券市場の発展は、信用仲介機能の向上を通じて経済の持続的成長に貢献するとともに、金融緩和効果の浸透を図る上でも意義がある。このような認識の下、日本銀行では、同市場の長期的な発展に貢献するという観点に立って、市場の基盤整備に向けた市場参加者の様々な努力を支援している。
  2. 日本銀行による資産担保証券の買入れも、そうした支援の一環である。日本銀行は、制度発足時に、資産担保証券市場の発展の状況や日本銀行の財務の健全性等を勘案しつつ、買入基準の見直しを行っていく用意があることを明らかにしている。今回の政策委員会・金融政策決定会合では、執行部より、資産担保証券市場の動向や日本銀行による買入れの実績に加え、日本銀行の主催する証券化市場フォーラムで出された市場関係者の意見が報告された。委員からは、実際の買入れの経験を踏まえて、見直しの余地があるかどうかについて検討を要請する意見が出された。
  3. これを受けて議長は、本件について検討を行い、次回の金融政策決定会合において報告するよう、執行部に指示した。

以上


(別添2) 2003年12月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。 日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添3)
2003年12月16日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2004年1月〜6月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2004年1月 1月19日(月)・20日(火) 1月20日(火) (3月2日(火))
2月 2月5日(木)・6日(金)
2月26日(木)
2月6日(金)
----
(3月19日(金))
(4月14日(水))
3月 3月15日(月)・16日(火) 3月16日(火) (4月14日(水))
4月 4月8日(木)・9日(金)
4月28日(水)
4月9日(金)
----
(5月25日(火))
(6月18日(金))
5月 5月19日(水)・20日(木) 5月20日(木) (6月30日(水))
6月 6月14日(月)・15日(火)
6月25日(金)
6月15日(火)
----
未定
未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2004年4月)」の「基本的見解」は、4月28日(水)15時(背景説明を含む全文は4月30日(金)14時)に公表の予定。

以上