このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2004年 2月4、5日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年3月15、16日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 3月19日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年2月4日(14:00〜15:42)
2月5日( 9:00〜11:52)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(4日)
    山本 有二 財務副大臣(5日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)(4日)
    谷内 満 政策統括官(経済財政−景気判断・政策分析担当)(5日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(5日9:00〜9:25)
  • 企画室調査役加藤 毅
  • 企画室調査役清水誠一
  • 金融市場局金融市場課長栗原達司(5日9:00〜9:25)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(1月19、20日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円程度で推移した。こうした調節の下で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給の下で、短期金利は総じて低位で安定的に推移している。

 長期金利は、1.3%前後の狭い範囲内の動きが続いている。民間債流通利回りの対国債スプレッドは、横ばい圏内で推移している。ただし、低格付け物に関するスプレッドは、投資家の積極的な投資スタンスを映じて縮小している。

 株価は、米国株価の上昇やわが国の景気回復期待から上昇基調を辿ったが、足許にかけては、銀行株がやや軟化したほか、対米ドルでの円高懸念等を背景に、幾分弱含み11千円弱の水準で推移している。

 為替市場では、円の対米ドル相場が、G7を控えて神経質な相場展開が続く中、小幅上昇し、昨年初来の最高値圏である105〜106円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、着実に回復しており、そのモメンタムが強まっている。2003年10〜12月期の実質GDP速報値は、前期比年率4.0%と引き続き堅調な伸びとなった。需要項目別には、住宅投資や減税効果を受けた個人消費の伸びのほか、設備投資も機械投資を軸に明確に増加している。加えて輸出の増加もみられている。こうした需要動向を受けて、生産も緩やかに増加している。さらに、雇用環境についても、明るい動きがみられている。

 ユーロエリアでは、家計部門の支出は低調に推移しているが、企業部門の活動が輸出主導で回復しつつあり、景気は全体として底を打ったとみられる。物価面では、今のところユーロ高の影響は表面化しておらず、緩やかな賃金上昇と食料品価格の高止まりなどから、消費者物価指数の前年比上昇率は2%前後で推移している。

 東アジアでは、景気回復の足取りが引き続き強まっている。中国では、内外需ともに力強い動きが続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、IT関連財を中心に輸出・生産が増加している。

 米欧の金融市場をみると、株価は、良好な企業収益などを背景に概ね高値圏内で揉み合って推移した。一方、米国の長期金利は、4.0%を挟んで振れの大きい展開となった。1月28日の米国FOMCのステートメント変更で利上げ時期が早まると市場に受け止められたことから、金利は一時期やや上昇したが、その後、落ち着きを取り戻し、下落した。欧州の長期金利は、米国とほぼ平行した動きを示した。

 なお、FOMCのステートメント変更を受けて、ラテンアメリカを中心にエマージング債の対米国債スプレッドが拡大している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、米国や東アジアを中心とした海外経済の回復を背景に、7〜9月に増加に転じた後、10〜12月は前期比+7.9%と著増した。地域別にみると、いずれの地域向けも高い伸びとなっており、特に東アジア向けがNIEs向けを中心に大幅に増加した。財別には、情報関連財や半導体製造装置などの資本財が増勢を続けているほか、デジタル家電等の消費財や自動車関連財が季節需要の高まり等の一時的な要因もあって大幅に増加した。

 設備投資は、緩やかな回復を続けている。機械受注等に比べ出遅れ気味であった資本財出荷(除く輸送機械)も、10〜12月期は大幅増となった。

 企業収益をみると、大企業は、製造業、非製造業いずれも増益を続けると見込まれる。なお、製造業に関し、円高による収益予想の下方修正はみられていない。

 家計部門の動向をみると、雇用面では、失業率や有効求人倍率などの労働需給に関連する指標に改善の動きが目立っているほか、雇用者数も下げ止まりつつある。11月の個人消費関連指標は、暖冬の影響等から弱めの動きとなったが、10〜11月を均してみれば、横ばい圏内で推移している。

 こうした下で、生産は、7〜9月に増加に転じた後、10〜12月は+3.6%と大幅な伸びとなった。先行きについては、輸出の増加を主因としつつ、設備投資の回復や耐久消費財の販売好調にも支えられて増加が続くとみられるが、10〜12月に比べればその増加テンポは鈍化する可能性が高い。

 物価動向をみると、国際商品市況は強含んでいるものの、輸入物価は、円高の影響がより強く表われていることから、引き続き下落している。国内企業物価は、内外商品市況の上昇や米・肉類の上昇を受けて、3か月前対比でみると、強含みの動きとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)は、米価格の上昇など一時的要因も押し上げに働く中、ゼロ%近傍で推移している。先行きも、当面はゼロ%前後で推移する可能性が高いが、基調としては、需給バランスが徐々に改善しつつもかなり緩和した状況の下で、小幅のマイナスを続けると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資が増加するなど企業活動が上向きつつあることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。一方、銀行は、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を幾分緩和している。この間、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断は、中小企業等ではなお厳しい状況にあるが、幾分改善している。

 CP・社債の発行環境は、高格付け企業を中心に総じて良好な状況にある。社債発行金利は、信用スプレッドが安定的に推移する中、横ばい圏内で推移しているほか、CP発行金利も引き続き低水準で安定して推移しており、社債・CP発行残高は前年を上回っている。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感の後退などから、低下傾向を続けている。こうした中で、マネタリーベースの伸び率は、前年比1割台半ばで推移している。

II.「国債の条件付売買基本要領」の一部改正等

1.執行部からの提案内容

 現在、国債現先オペにおけるマージンコールの担保は「国債」に限定されているが、金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、日本銀行が受入れるマージンコールの担保の種類に「金銭」を追加することとし、「国債の条件付売買基本要領」の一部改正等を行うことを提案したい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.「適格担保取扱基本要領」の一部改正

1.執行部からの提案内容

 金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、2004年3月に発行が開始される予定の物価連動国債を適格担保とすることとし、「適格担保取扱基本要領」の一部改正を行うことを提案したい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

IV.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、前回の会合以降、景気判断に基本的な変化はなく、「景気は緩やかに回復している」という認識を共有した。

 多くの委員は、前回の会合以降公表された経済指標などからみると、海外経済の回復を背景に、わが国の輸出や生産の増加と設備投資の緩やかな持ち直しが続いており、わが国経済は、概ね順調な回復過程を辿っていると判断できる、との認識を示した。何人かの委員は、10〜12月の輸出・生産等は、デジタル家電の季節需要といった一時的要因などもあって、かなり強めの数字となっているが、1〜3月には伸び率が鈍化すると見込まれ、景気判断に基本的な変化はないと述べた。

 まず海外経済に関して、委員は、東アジア・米国を中心に、全体として回復傾向を辿っているとの見方を共有した。

 米国経済については、多くの委員が、個人消費と住宅投資に加えて設備投資もIT関連を中心に明確に増加しており、バランスの取れた回復になりつつあると指摘した。複数の委員は、昨年10〜12月期の実質GDP成長率は、年率4.0%と市場予想の下限だったが、内訳をみると財政支出等が弱く、民間内需は事前予想通りであり、むしろ民需主導の順調な回復が確認されたと述べた。さらに、複数の委員は、経常収支の赤字は世界経済の回復とこれまでの為替レート調整の効果が出始め、先行き縮小していくことが考えられると述べた。ただし、複数の委員は、雇用面について、明るい動きはみられるものの改善のテンポが遅い点は引き続き気掛かりな材料であると付け加えた。この間、多くの委員は、米国経済や世界経済にとって、「双子の赤字」の問題と地政学的リスクへの懸念の高まり、これによる世界的な資本フローの変化が、引き続き大きなリスク要因と指摘した。

 アジアについては、多くの委員が、中国の高成長のほかNIEs、ASEAN等ほとんどの国・地域で回復の足取りが強まっている、と述べた。このうち、何人かの委員は、中国の景気過熱のリスクや、社会インフラの制約が生産のボトルネックになりつつあることを指摘した。また、多くの委員が鳥インフルエンザの問題を取り上げ、そのアジア諸国の経済活動への影響は不透明ながら、わが国の景気回復がアジア諸国への輸出に支えられている面が強いため、今後の動向には十分注意しておく必要があると指摘した。

 ユーロエリアの景気については、複数の委員が、景気は底入れしつつあるとの見方を示した。一方、ある委員は、内需、特に個人消費が予想よりも弱く、今後はユーロ高の影響なども懸念されると述べた。

 多くの委員は、こうした海外経済情勢を受けて、わが国の輸出は、IT関連財のほか、消費財・自動車関連財なども含めて大幅に増加しており、地域別にみてもいずれの地域向けも高い伸びとなっていると整理した。ある委員は、今回の輸出増加の特徴は、中国・香港向けのウェイトが非常に高い点であると指摘した。別のある委員は、先行き中国向けの輸出は生産のボトルネックや鳥インフルエンザの影響もあって減速することが懸念されるとの認識を示した。

 設備投資も、半導体製造装置などIT関連を中心に回復していることが改めて確認された。ある委員は、資本財・機械等では工場増設が目立つなど、設備投資に引き続き広がりと強さがみられると指摘した。

 こうした需要動向を受けて、生産・出荷が、生産財・資本財やデジタル家電等の耐久消費財を中心に大幅な伸びとなっている点を、多くの委員が指摘した。また、ひとりの委員は、全産業活動指数をみても、企業部門の回復が確認できる旨を付け加えた。

 家計部門に関しては、多くの委員が、個人消費について、若干持ち直しの指標もみられているが、基調的には横ばい圏内の動きであろう、との見方を共有した。一方、雇用・所得関連については、委員の間で、やや見方が分かれた。複数の委員は、労働需給指標の改善からみて、雇用にも少し改善傾向が出てきた可能性があるのではないかとの認識を示した。一方、何人かの委員は、有効求人倍率・失業率などの指標の改善は、雇用面の明るい動きとは言えるが、雇用関連の統計には振れがあり、また企業の人件費抑制意欲が根強いことも踏まえて基調判断をしていく必要があると述べた。さらに、何人かの委員は、賃金の回復の遅さにも言及した。ただ、いずれの委員も、企業部門から家計部門への回復の広がりという観点から、雇用・所得の動向に今後一層注目していく必要がある、という点を一様に指摘した。

 また、複数の委員は、持続的な景気回復のためには、製造業大企業の回復の動きが、非製造業や中小企業、ひいては地方経済にも波及し、わが国経済の二極化傾向が縮小していくことが重要なポイントと指摘した。

 物価面について、多くの委員は、消費者物価は、需給ギャップの大幅な縮小が見込めない下で、今後も小幅の下落基調が続くと予想される、との認識を示した。また、何人かの委員は、米・肉類の価格動向とともに、上昇を続けている内外商品市況や企業の価格設定スタンスなどの物価を巡る環境を今後も丹念にフォローしていく必要があるとの認識を述べた。

 複数の委員は、内外商品市況や運送費の上昇を受けて、企業物価が強含みに推移しつつあることを取り上げ、これが生産性の上昇で吸収されるか、企業収益を圧迫するか、それとも需要回復の中で最終財への価格転嫁が行われていくか、今後の大きな論点であると指摘した。ある委員は、中間財の価格上昇率がほぼゼロになっていることに注目していると述べた。

2.金融面の動向

 短期金融市場については、複数の委員が、日本銀行による一層潤沢な資金供給の効果もあって、総じて低位で安定的に推移していると述べた。債券・株式市場について、何人かの委員は、株価の小幅下落はみられるが、概して小動きとの評価を示した。この間、複数の委員は、10年物長期金利は1.3%前後で推移している一方、スワップレート、先物レートを含め中期金利はやや低下し、中短期ゾーンのイールド・カーブが若干フラット化している点を指摘した。ある委員は、企業業績の回復に比べれば、株価の上値は重いと述べた。別の委員は、債券市場・株式市場がやや動意を欠いているが、これは市場参加者が今年後半以降の景気を読み難いと感じている表れとも考えられると述べた。

 為替市場について、何人かの委員は、足許、G7を控えて105〜106円台での揉み合いが続いているが、米国の「双子の赤字」や地政学的リスクへの懸念等から、ドル安センチメントが強い状況は続いているとの見方を示した。

 さらに何人かの委員は、足許の金融資本市場は落ち着いた動きだが、為替市場を中心に市場の動きは神経質であるだけに、今後の動向と、企業のマインド面、輸出をはじめとする実体経済面等への影響について、引き続き要注目であると付け加えた。

 銀行貸出について、複数の委員は、銀行の貸出姿勢は積極化しているが、企業は手許資金が潤沢で借入ニーズに乏しく、債務返済姿勢も強いため、貸出が伸びる状況ではないと述べた。

V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断の下、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 何人かの委員は、前回の会合で決定した当座預金残高の引き上げの影響を注意深く見守っていくことが適当との認識を示した。

 会合では、1月に決定した追加緩和措置の影響等を巡って、意見交換が行われた。

 前回決定した措置について、多くの委員は、やや長めの金利がさらに安定化したほか、デフレ克服に向けての日本銀行の強い意思が理解され、企業のマインド面にも相応の好影響を与えているようである、との見方を示した。ひとりの委員は、銀行券の伸びが低下する中、マネタリーベースの安定的な伸びを確保することにも寄与していると述べた。また、別の委員は、当座預金という量の拡大と短期金利の関係について、二つの見方があり得ることを指摘した。一つは、短期金融市場の機能低下による潜在的な金利の振れが、当座預金の拡大によって安定化した可能性であり、もう一つは、ターム物のオペの増加によって、ターム物の金利が安定化している可能性がある、との整理を行った。この間、ある委員は、為替市場介入のさらなる増加などによって、日本銀行の資金供給オペが減少するのではないかとの市場の不安感が引き続きある点に注意が必要であると付け加えた。

 これに対して、ある委員は、市場の資金余剰感が強まっているほか、市場がデフレ対策として一定の効果があると受け止めれば、むしろ時間軸は短くなる可能性があったが、足許そういった動きはみられていないと述べた。

 1月の措置の狙いについては、複数の委員から、市場関係者等から措置の目的・狙いが分かり難いとの批判があり、このため様々な解釈がなされているのは、金融政策の透明性の観点からも望ましくない、との指摘がなされた。

 これに対して、別の複数の委員は、株式市場・為替市場などでは、特にサプライズと受け止められていないのではないかと述べた。何人かの委員は、量的緩和は歴史上異例な政策のため、その効果や波及メカニズムは通常の金利による政策運営とは異なっており、このことが分かり難さに帰着しているのではないかと述べた。また、何人かの委員は、展望レポートにおける標準シナリオはあくまでもその時点で蓋然性が高い予想であって理想のシナリオではなく、このため経済が標準シナリオに沿っていても政策対応の可能性があるということであり、この点、引き続き丁寧な説明が必要と指摘した。

 この間、ある委員は、市場参加者等の間で、為替円高や長期金利への金融政策面からの直接的な対応が求められるようになると、先行きの金融政策運営に支障をきたす可能性もあるため、こうした過度の期待を生むような情報発信は避ける必要があるとの意見を述べた。

VI.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、設備投資や輸出の増加など企業部門を中心に景気は着実に回復している。政府としては、今後とも各分野における構造改革を着実に推進し、民間需要主導の持続的な成長を目指して参りたいと考えている。
  • 景気が着実に回復している中、依然として継続しているデフレの克服こそが、我々の直面している最大の懸案である。
     日銀は、先日(1月20日)の金融政策決定会合において、景気は緩やかに回復しているとの認識を示されつつも、わが国経済が依然としてデフレ状況下にあることを特に重視され、市場の大方の予想に反して、当座預金残高目標の引き上げを決定された。政府としては、この決定はデフレ心理の転換に寄与するとともに、中長期金利の低位安定にも繋がるという観点から、景気が回復局面にある中でのデフレ克服に向けた日銀の強い決意の表明であると評価している。
     日銀におかれては、このような政策スタンスを一層明確化し、金融政策の実効性を高めるとの観点から、デフレ心理の転換に向けて一段と工夫を講じられないか、さらなる検討を進めて頂きたいと考えている。
  • 今後とも政府との意思疎通を密接にしつつ金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 第一点目は景気の現状判断だが、日本経済の現状については、設備投資と輸出に支えられて着実に回復しているという判断で、この点は、今、財務省が説明されたことと同じである。政府としては、引き続き為替レートなど金融・資本市場の動向に留意する必要があると考えている。
  • 第二点目は、経済政策の運営に関してである。日本経済の重要な課題はデフレを早期に克服すること、内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府としては、経済財政諮問会議においてわが国が目指すべき経済面での「この国のかたち」について、2月、3月に集中的な審議を行ない、4月、5月に重点政策の具体的検討を行う。そうした検討を踏まえて、6月初旬を目途に「骨太方針2004」を取り纏める。また、民間主導の経済成長を実務的に推進するために「改革工程表」を3月を目途に取り纏めることとしている。デフレ克服のためには、政府が構造改革政策の一環として進めている、より強固な金融システムの構築に向けた取組みと同時に、日本銀行による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じて、資金供給が拡大していくことが重要であると考えている。先般、閣議決定した「構造改革と経済財政の中期展望─2003年度改定」においても、政府・日銀が一体となった取組みによってデフレ圧力は徐々に低下し、2004年度までの集中調整期間の後にはデフレが克服できるという経済の展望を示している。
  • 三点目は、金融政策についてである。日銀は、先般、日銀当座預金残高の目標の引き上げ等の措置を採ったが、今後とも変化する金融経済情勢に応じて、より効果ある調整手段の実施を含め、適切、機動的な金融政策を行っていただきたいと思っている。また、物価の安定を含めて「中期展望─2003年度改定」で示したような中期の経済の姿を実現するために、金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、2005年度のデフレ克服を目指す観点から、更に実効性ある金融政策運営が行われることを期待している。

VII.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VIII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(2月5日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は2月6日に、それぞれ公表することとされた。

以上


(別添)
2004年 2月 5日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上