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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 4月 8、 9日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年5月19、20日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 5月25日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年4月8日(14:00〜15:58)
4月9日( 8:59〜12:31)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(8日)
    石井 啓一 財務副大臣(9日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一(9日 11:20〜12:31)
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(9日 8:59〜9:47)
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役正木一博
  • 金融市場局金融市場課長栗原達司(9日 8:59〜9:47)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(3月15、16日)で決定された方針1に従って運営した。この間、3月31日には、期末要因から流動性需要が増大したことを踏まえ、金融市場の安定に万全を期すため、当座預金残高を目標レンジの上限を上回る水準(36.4兆円)とする調節を行った。この日を除けば、当座預金残高は概ね31〜34兆円台で推移した。

 こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、3月31日(0.005%)を除き、概ね0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、短期金利は引き続き低位で安定的に推移しており、期末日も含め落ち着いた動きとなった。

 株価は、わが国の景気回復期待の高まりを背景に大幅に上昇し、足許では約2年8か月振りの高値となる12千円台で推移している。長期金利は、こうした株価の堅調を受けて上昇しており、一時1.5%台となる局面もみられたが、最近では1.4%台後半で推移している。民間債利回りの対国債スプレッドは、横ばい圏内で推移している。

 為替市場では、海外投資家による対内証券投資が継続する中、本邦当局による介入姿勢が後退したとの思惑もあって、円の対米ドル相場は一時103円台まで上昇したが、最近では105〜106円で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、バランスのとれたかたちで着実に回復している。すなわち、個人消費は緩やかな増加基調にあり、住宅投資も高水準を維持している。また、製造業の受注や設備投資が増加傾向にあるほか、生産も緩やかに増加しており、企業活動の回復に広がりが出ている。雇用についても、改善がより明確になりつつある。

 ユーロエリアでは、設備投資が振れを伴いつつも底入れしつつあるほか、生産も投資財を中心に回復するなど、企業部門の活動が持ち直しの方向にある。しかし、構造問題などが足枷となり、家計部門の支出が依然として低調であるなど、回復のモメンタムはなお弱い。この間、英国経済は、着実に成長している。

 東アジアでは、景気回復の足取りは引き続き力強い。中国では、内外需ともに力強い動きが続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、ほとんどの国・地域でIT関連財を中心に輸出・生産が増加基調にある。

 米欧の金融市場をみると、株価は、地政学的リスクの高まりなどから軟調に推移した後、企業業績への期待感や、市場予想を大幅に上回る米国雇用統計(3月)の公表などを背景に上昇している。長期金利は、ほぼ横這いで推移した後、足許では米国雇用統計を受けて上昇している。

 エマージング金融市場をみると、多くの国・地域において、株価が高値圏で推移し、対米国債スプレッドも低水準で安定している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出はこのところ大幅に増加している。すなわち、海外経済の回復を背景に昨年10〜12月に大幅増加となった後、1〜2月も中国やASEAN、EU向けを中心に10〜12月対比で+4.0%と高い伸びを続けた。もっとも、こうした高い伸びには、中国の年初の関税引き下げやASEAN向けスポット輸出といった一時的要因も寄与していることに留意する必要がある。

 企業部門の動向をみると、企業収益は、3月短観によれば、2003年度に大幅な増益となった後、2004年度も増益が続く計画となっている。これを業種・企業規模別にみると、製造業や非製造業・大企業では着実な増加基調にあり、非製造業・中小企業についても、2004年度は改善を見込んでいる。こうしたもとで、企業の業況感は、業種・企業規模を問わず、全般的に比較的はっきりとした改善がみられ、景気回復の動きが着実に広がりを見せ始めている。

 こうしたもとで、設備投資は回復を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は、1〜2月は、半導体製造装置やコンピューター関連を中心に、10〜12月に続いて高い伸びを示した。3月短観で、2004年度の設備投資計画をみると、製造業は、中小企業を含め、強めのスタートとなっている一方、非製造業では、現時点においては慎重な投資姿勢となっている。

 家計部門の動向をみると、雇用面では、労働需給を反映する求人関連指標が改善傾向を続けている。労働力調査の雇用者数は前年を幾分上回って推移しており、毎勤統計の常用雇用者数も前年比マイナス幅が縮小傾向にある。失業率もなお高水準とはいえ、緩やかな低下傾向にある。しかし、賃金面をみると、なおはっきりとした下げ止まりを確認できない状態が続いている。

 この間、個人消費は、各種の販売統計をみる限り、やや強めの動きとなっている。

 このような需要動向のもと、生産は、10〜12月期に前期比+3.7%と大幅に増加した後、1月も高い伸びを続けたが、2月に大幅な減少となったことから、1〜2月を均してみれば10〜12月対比で+1.2%と減速した。

 物価面をみると、国際商品市況は全体として大幅な上昇が続いており、これを受けて輸入物価は上昇している。国内商品市況も、鋼材を中心に上昇を続けている。

 このような内外の商品市況高などを反映し、国内企業物価は、3か月前対比でみて上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)は、米価格の上昇など一時的要因も押し上げに働く中、ゼロ%近傍で推移している。

(2)金融環境

 資金需要面をみると、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資が増加するなど企業活動が上向きつつあることから、民間の資金需要は傾向としては減少テンポが幾分緩やかになってきている。銀行も、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を引き続き幾分緩和している。企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断も、改善が続いている。

 CP・社債の発行環境は総じて良好な状況にある。CP・社債の発行金利や信用スプレッドは低水準で安定しており、こうした中で、これらの発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感の後退などから低下傾向を続けており、最近では1%台後半で推移している。こうした中、マネタリーベースの伸び率は、前年比1割程度となっている。マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台の伸びを続けている。

II.「補完供給を目的として行う国債の買戻条件付売却基本要領」の制定等

1.執行部からの提案内容

 2月26日の会合における議長指示を受けて、執行部では、国債市場の流動性向上や円滑な市場機能の維持等の観点から、日本銀行が保有する国債を一時的かつ補完的に市場に対して供給し得る制度について検討を行ってきた。今般、スキームの概要がまとまったため、「補完供給を目的として行う国債の買戻条件付売却基本要領」の制定を提案することとしたい。

2.委員会の検討・採決

 執行部から、日本銀行による補完的な国債供給制度は、国債市場の流動性向上と円滑な市場機能の維持等に望ましい効果をもたらし得るが、一方で、こうした制度が市場に対する過剰な介入となり、市場が本来有している機能を損なってしまう事態に陥らないようにすることが制度設計上のポイントである、との説明が行われた。委員は、こうした観点を中心に、執行部提案について議論を行った。その結果、委員は、執行部提案は、(1)原則として、1銘柄につき3先以上から売却依頼を受けた場合に実施することとしており、市場における特定銘柄の需給の逼迫度合いを確認するとともに、本制度の利便性を過度に損なわない範囲で濫用に対する一定の歯止めをかけることとしているほか、(2)市場動向を勘案して、日本銀行の起動で制度を発動し得る余地を残しており、上記のようなバランスに十分な配慮がなされたものであるとの認識を共有した。

 このような議論を経て、「補完供給を目的として行う国債の買戻条件付売却基本要領」の制定等が全員一致で決定され、別添1のとおり、対外公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 海外経済に関して、多くの委員は、地政学的リスクはやや高まっているものの、米国や東アジアを中心に、全体として回復傾向を辿っているとの見方を共有した。

 米国経済に関し、何人かの委員は、3月の雇用統計において非農業部門の雇用者数が大幅な増加となったことを指摘し、景気の回復がこれまで遅れ気味であった雇用に波及しつつあり、バランスのとれた持続的な回復につながる蓋然性が高まっている、と述べた。もっとも、何人かの委員は、(1)雇用形態などの面で構造的な変化が生じていること、(2)雇用者所得は引き続き横這いとなっていることなどを指摘し、雇用情勢やこれが景気回復の持続性に及ぼす影響については、もう少し見極めが必要である、との見方を示した。

 この間、何人かの委員は、ガソリンなどエネルギー価格の上昇や減税措置による所得税還付の一服などが個人消費にマイナスの影響を与える可能性に言及した。

 ある委員は、商品市況の上昇は、今後、企業収益の圧迫要因となるリスクがある、と述べた。また、複数の委員は、消費者物価や消費デフレーター(PCE)などの物価指数の前年比伸び率に下げ止まり傾向がみられ、ディスインフレ傾向が終息に向かいつつある、との見方を示した。

 何人かの委員は、米国経済の回復が一段と明確になる中で、FRBの金融政策スタンスに対する思惑から、実体経済の回復に先立って長期金利が上昇し、住宅投資への悪影響などを通じて景気にマイナスの効果をもたらすリスクがある、との見方を示した。加えて、ひとりの委員は、米国金利の上昇・変動がエマージング市場をはじめグローバル経済に大きな影響を与えるリスクがある、と述べた。

 中国経済について、何人かの委員は、景気は引き続き過熱気味に推移しており、政府の目標である7%程度の安定成長に軟着陸できないリスクも排除できない、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、昨年末に一時低下した銀行貸出やマネーサプライの伸び率も、ここに来て再び上昇に転じており、先般の中央銀行による引き締めはこうした動きを念頭に置いたものと理解できる、との見方を示した。この点、別のひとりの委員は、建築関連の鋼材価格の上昇が一服するなど、一部に過熱感の後退もみられる、と述べた。

 ひとりの委員は、海外経済の回復は、米国、東アジアだけでなく、新興国全般に広がっており、こうした動きが相乗効果をもってわが国の良好な輸出環境を維持することを可能にする、との見方を示した。

 委員は、海外経済がこのように全般的に回復傾向を辿るもとで、わが国の輸出が、中国向けなどを中心に引き続き大幅に増加しているとの認識を共有した。

 国内企業部門について、多くの委員は、3月短観の結果にみられるように、企業の景況感は業種・企業規模を問わず比較的はっきりと改善しており、非製造業や中小企業にも景気回復の動きが広がりつつある、と述べた。もっとも、複数の委員は、中小の非製造業の業況感の改善はやや出遅れ気味である、との見方を示した。

 設備投資について、委員は、資本財出荷の動きなどから窺われるように、足許の回復がはっきりとしてきている、との見方を共有した。3月短観で示された2004年度設備投資計画について、多くの委員は、企業収益が全般的に増加するもとで、製造業を中心に比較的順調な滑り出しとなっている、と述べた。もっとも、複数の委員は、非製造業、特に中小企業の設備投資計画が依然として慎重であることを指摘し、景気の回復は広がりつつあるとはいえ、非製造業への波及度合いについてはなお見極めが必要である、と述べた。

 別のひとりの委員は、企業業績は回復しつつあるが、持続的な成長を実現していくためには、減損会計の導入等によりバランスシートの調整を一段と進めることが重要である、と述べた。

 家計部門に関し、多くの委員は、個人消費は、各種の販売関連指標をみる限り、デジタル家電をはじめとして、やや強めに推移している、と述べた。この点に関して、ある委員は、こうした見方に基本的に同調しつつも、供給面から消費財の動きをみると、足許はむしろやや減少していることを指摘し、2月の各種販売統計は閏年要因が影響している可能性も否定できず、個人消費の動向を見極めるには3月以降のデータをみる必要がある、と述べた。別のある委員は、個人消費の回復は、景気ウォッチャー調査の結果などからも窺われる、との見方を示した。

 何人かの委員は、企業の人件費抑制の動きが続いているものの、家計所得は漸く下げ止まりつつある段階にあるとの認識を示したうえで、所得が明確な増加に至っていない中で、消費がこのところやや強めの動きとなっていることの背景について発言した。すなわち、ひとりの委員は、雇用環境が全体として改善していること、夏季賞与の増加など先行きの所得環境の改善が期待されることに加え、これまでの物価下落を反映した家計の実質資産残高の増加も足許の消費堅調に寄与しているのではないか、との見方を示した。また、別の委員は、リストラの一巡にみられる雇用環境の持ち直しのほか、株価の上昇や地価の下げ止まりが消費マインドの好転に寄与している可能性が考えられると指摘した。もっとも、この委員を含む複数の委員は、企業収益から所得への波及が未だ明確ではないほか、雇用形態の変化や年金制度改革など、将来の雇用・所得環境については依然として不透明感が強く、個人消費の先行きについては必ずしも楽観できない、と述べた。

 このような議論を踏まえ、委員は、景気の現状認識としては、緩やかに回復するもとで、様々な面で回復に広がりがみられるようになっており、国内需要は底固さを増しているとの認識を共有した。また、先行きについても、足許みられる景気回復がこのまま続いていけば、生産活動や企業収益からの好影響が雇用・所得面へ徐々に及んでいくことなどを通じて、前向きの循環が次第に強まっていくとの見方が共有された。

 物価面については、多くの委員は、内外の商品市況の上昇が続いており、国内企業物価も上昇しているが、こうした川上段階での価格上昇が川下の最終財価格に及ぶ動きは、現時点では限定的なものに止まっている、との見方を示した。また、これらの委員は、その背景として、(1)技術革新に伴う生産性の向上や賃上げの抑制などにより、企業におけるコストの吸収余地が拡大していることや、(2)原材料価格の上昇は、世界的な景気回復に起因するものであるため、輸出・販売数量の増加が企業のコスト負担をある程度相殺していることなどを指摘した。この間、ひとりの委員は、今後、原材料価格が一段と上昇した場合には、企業収益が圧迫され、最終財への価格転嫁が生じる可能性がある点に留意すべきである、と述べた。

 ある委員は、3月短観において、企業における設備や雇用の余剰感が96〜97年当時の水準まで低下していることを指摘した。この委員は、消費者物価の先行きを考える際には、(1)GDPギャップの大きさのほか、(2)GDPギャップの縮小テンポや、(3)輸入物価の動向にも注目すべきであるとの見解を示した。

 ひとりの委員は、今般の消費税の改正が消費者物価に与える影響について意見を述べた。この委員は、総額表示の義務付けの影響は一概には言えないが、事業者免税点の引下げは、中小企業に対するコスト上昇要因となるため、少なくとも理論的には消費者物価の上昇に寄与するはずである、との見方を示した。

 平成16年度の公示地価が公表されたことに関連して、何人かの委員は、土地価格の動向について意見を述べた。ひとりの委員は、地価は全体としてみれば引き続き下落しているものの、東京圏を中心に底入れの動きがみられること、3月短観において2003年度の土地投資額が製造業を中心に大幅に増加したことを指摘し、資産価格の動向とこれが景気に与える影響について注目している、と述べた。別のひとりの委員は、資産価格の下げ止まりがデフレ心理の後退に寄与する可能性を指摘した。この間、別の複数の委員は、地価動向には変化の兆しが窺われるが、本格的な上昇につながる可能性は低い、との見方を示した。

2.金融面の動向

 短期金融市場について、委員は、3月の金融市場がここ数年の期末とは様変わりの落ち着いたものとなるなど、安定的に推移している、との認識を共有した。

 多くの委員は、このところの長期金利・株価の動向について、経済・物価情勢と概ね整合的なものである、との見方を示した。ある委員は、足許の長期金利の上昇は、昨年夏の上昇局面とは異なり、(1)量的緩和政策継続の意図が市場に十分浸透していること、(2)金融機関は金利上昇リスクへの対応を一段と進めていることなどから、市場においても特に問題視されていないのではないか、と述べた。この間、何人かの委員は、景気の回復が一段と明確になるもとで、長期金利は上昇しやすい地合いとなるため、その動きを注視する必要がある、との見方を示した。複数の委員は、近年わが国の長期金利が、海外、特に米国の長期金利との連動性を強めていることを踏まえれば、米国の長期金利の上昇がわが国に与える影響には注意が必要である、と述べた。

 為替相場について、複数の委員は、従来は米国の「双子の赤字」に対する懸念を背景にドル安センチメントが強かったものの、最近では市場の関心は実体経済面でのパフォーマンスに移りつつあり、一方向的なドル安基調は修正されつつある、との見方を示した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢の判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 銀行券発行残高の伸び率がこのところ鈍化していることに関連して議論が行われた。何人かの委員は、銀行券の伸び率の鈍化は、(1)超低金利が長期間継続するもとで、金利低下に伴う銀行券需要の増加が一巡しつつあること、(2)不良債権処理の進捗や株価の上昇等を背景に金融システムを巡る不安感が一段と後退していることを主たる背景とするものである、との見解を示した。このうち、ひとりの委員は、こうした背景に鑑みれば、最近の銀行券の動きは、ある意味で望ましい金融情勢の変化を素直に反映したものとみることもできる、と述べた。また、この委員は、マネタリーベースの動向を評価するに当たっては、90年代後半以降、マネタリーベースの伸びと経済情勢が必ずしも同じ方向での動きを示していないことなども踏まえながら、幅広い視点から注意深い観察を続けていく必要がある、との見方を示した。

 ある委員は、マネタリーベースの伸び率の鈍化が金融政策の引き締めを意味するものではないことを分かりやすく説明することが必要である、と述べた。また、別のある委員は、マネタリーベースの対名目GDP比率は既に高水準に達しており、今後は、金融緩和の波及メカニズムの強化策を進めることなどにより、ストックとしてのマネタリーベースを有効に活用することが重要である、との見解を示した。

 ひとりの委員は、マネタリーベースの伸びを評価するに当たっては、貨幣の流通速度の変化を考慮する必要がある、との見解を述べた。この委員は、銀行券に対する需要は、主として、(1)名目GDP、(2)短期金利、(3)物価の下落率、(4)金融システム不安、といった変数で説明できるとしたうえで、今後、デフレが克服され、金融システム不安が一段と後退していくもとでは、名目GDPが安定的にプラス成長を続けるとしても、銀行券発行残高は相当程度減少すると予想される、との見方を示した。

 何人かの委員は、今後、景気が回復を続けるもとで、デフレ克服の目途が立たないうちに長期金利が先行して上昇するリスクを指摘し、日本銀行の政策スタンスについて適切な情報発信を行うことが重要である、と述べた。このうちひとりの委員は、金融政策運営に対する市場の期待を安定化させる観点から、中央銀行として望ましいと考えるインフレ率を早めに提示し、期待形成のアンカーとすることも検討すべきではないか、と述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、先日(3月26日)成立した平成16年度予算において、活力ある社会・経済の実現や国民の安心の確保に資する分野に重点的に配分するなどメリハリのある予算配分を行っており、景気回復に向けた動きを確かなものとするためにも、本予算の着実な執行に努めて参りたいと考えている。
  • わが国経済の現状を見ると、設備投資や輸出の増加に加え、個人消費も持ち直しているなど、景気は着実な回復を続けており、ここ数年懸念された年度末も今年は平穏に乗り越えることができた。
     他方デフレは依然として継続しており、その克服こそが我々の直面している最大の懸案であることに変わりはなく、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。日銀におかれては、引き続き景気回復を持続的なものにするにはどうすれば良いかとの観点から、新たな工夫を講じられないか、さらなる検討を進めて頂きたいと考えている。
     なお、今般導入を決定された日銀保有国債の補完供給制度は、円滑な市場機能の維持に寄与するものと期待している。
  • 今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 足許の景気は、設備投資等に支えられ、着実に回復を続けている。引き続き為替レートなど金融・資本市場の動向には留意する必要があると考えている。一方、物価については、国内企業物価が素材価格の上昇によりこのところ僅かながら上昇し、消費者物価は横這いとなっているが、GDPデフレーターが引き続き下落を示しているほか、消費者物価には一時的な押し上げ要因も働いていること等を総合的に勘案すると、依然として緩やかなデフレ状況にあると考えている。
  • 日本経済の重要な課題はデフレを早期に克服することおよび内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府は、先月取り纏めた「経済活性化のための改革工程表」に示された改革を始めとし、さらに加速・拡大すべき政策について経済財政諮問会議で議論し、6月初旬を目途に取り纏める予定の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に繋げることとしている。
  • デフレ克服のためには、構造改革の加速・拡大の政策努力を進める中で、政府の行うより強固な金融システムの構築に向けた取組みと日本銀行による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じ、資金供給が拡大していくことが重要である。今回議論があった日本銀行が保有する国債を補完的に市場に供給する制度については、国債市場の流動性向上や円滑な市場機能の維持を通じて金融市場の安定化に寄与する措置であると考える。
  • 日本銀行におかれては、最近のマネタリーベースやマネーサプライの動向に十分鑑み、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金融・資本市場の動向にも留意のうえ、より効果ある調節手段の実施も含め適切かつ機動的な金融調節を行っていただきたい。また、現在の情勢を踏まえた物価の安定を巡る諸問題も含め、「構造改革と経済財政の中期展望−2003年度改定」で示した、政府・日本銀行一体となった取組みによりデフレ圧力は徐々に低下し、集中調整期間の後にはデフレが克服できるという中期の経済の姿を実現するために、金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、さらに実効性ある金融政策運営を行われることを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添2のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(4月9日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は4月12日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(2月26日)および前回会合(3月15、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、4月14日に公表することとされた。

以上


(別添1)
2004年 4月 9日
日本銀行

国債の補完供給制度の導入について

  1. 日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、日本銀行が保有する国債を市場参加者に対して一時的かつ補完的に供給し得る制度(いわゆる「品貸し」)の導入を決定した1(全員一致)。
  2. 国債市場においては、時として特定銘柄の調達困難化やその懸念によって市場流動性が低下することがある。そのような場合でも、市場参加者が自ら市場で最大限の調達努力を払うことが求められるが、補完的な手段として、市場参加者が日本銀行から国債を一時的に調達できる途が開かれていることは、市場流動性の低下を防ぐうえで効果がある。
  3. 日本銀行としては、本制度が、国債市場の流動性向上や円滑な市場機能の維持に貢献することを期待している。
  1. 決定の内容については、「『補完供給を目的として行う国債の買戻条件付売却基本要領』の制定等について」を参照。

以上


(別添2)
2004年 4月 9日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上