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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 4月28日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 6月18日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年4月28日(9:00~12:53)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(副総裁)
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(審議委員)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(審議委員)
  • 春 英彦(審議委員)
  • 福間年勝(審議委員)
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 啓一 財務副大臣
  • 内閣府 大守 隆 大臣官房審議官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役加藤 毅

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(4月8、9日)で決定された方針1に従って運営した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ね0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、短期金利は引き続き低位で安定的に推移した。

 株価は、わが国の景気回復期待などを背景に堅調に推移しており、足許では12千円程度となっている。長期金利は、米国長期金利が上昇する中、わが国株価が引き続き堅調に推移したことなどから上昇し、一時1.5%台後半となる局面もみられたが、最近では1.5%程度で推移している。民間債利回りの対国債スプレッドは、総じて横ばい圏内で推移したが、足許低格付け銘柄の一部で拡大した。

 円の対米ドル相場は、米国金利の先高観の高まりや、新年度入り後のわが国機関投資家による対外証券投資に絡む円売りなどから反落し、最近では107~109円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、バランスのとれた成長を続けている。すなわち、家計支出、設備投資とも着実に増加しており、雇用についても、改善がより明確になりつつある。こうしたもとで、インフレ率の低下に歯止めがかかっている。

 ユーロエリアでは、生産や企業コンフィデンスの回復が滞り気味になっており、企業部門の持ち直しは足踏みしている。また、構造問題などが足枷となり、家計部門の支出が依然として低調であるほか、既往のユーロ高も重石となっている。このため、回復のモメンタムは弱い。この間、英国経済は、着実に成長している。

 東アジアでは、景気回復の足取りは引き続き力強い。中国では、内外需ともに力強い動きが続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、ほとんどの国・地域でIT関連財を中心に輸出・生産が増加基調にある。

 米国の長期金利は、強めの経済指標の公表などを受けた利上げ観測の強まりから上昇した。これを受けて、欧州でも長期金利が上昇している。この間、株価は、各国で区々の動きとなった。

 エマージング金融市場をみると、多くの国・地域で着実な経済の回復が市場の安定に寄与している。もっとも、地政学的なリスクの高まりや米国金利の状況などを受けて、中南米を中心に対米国債スプレッドが変動しやすい状況となっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、昨年10~12月に続いて、1~3月も、東アジア向けを中心に高い伸びとなった。この間、輸入も、国内景気の回復や国際分業の進展などを背景に、増加を続けている。

 設備投資は増加している。先行指標である機械受注は、10~12月の大幅増の後、1~2月は減少しているが、均してみれば、製造業を中心に増勢を続けている。この間、中小企業金融公庫の調査によれば、中小企業の業況判断は着実な改善を続けている。

 個人消費面では、都内百貨店売上高は、3月は天候不順の影響もあって減少し、1~3月の前期比は小幅のマイナスとなった。消費者コンフィデンス関連の指標は総じて改善している。

 こうしたもとで、鉱工業生産は、均してみれば着実に増加している。

 物価面をみると、国際商品市況は足許騰勢が鈍化しつつもなお強含みで推移しており、これを受けて輸入物価は引き続き上昇している。国内商品市況も、鋼材を中心に上昇を続けている。このような内外の商品市況高などを反映し、3月の国内企業物価は、3か月前対比でみて+0.6%と上昇幅が拡大した。

(2)金融環境

 3月の銀行貸出残高(前年比、償却等の諸要因調整後)は、−1.6%と、2月に続いて減少幅が縮小した。この間、日本銀行の「主要銀行貸出動向アンケート調査」では、資金需要判断が悪化したが、これまで急ピッチで改善してきたことなどを踏まえると、改善傾向に変化が生じたことを表すものではないと考えられる。

 CP・社債の発行金利や信用スプレッドは低水準で安定しており、発行環境は総じて良好な状況にある。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感の後退などから低下傾向を続けており、最近では1%台となっている。こうした中、マネタリーベースの伸び率も低下している。3月のマネーサプライ(M2+CD)は、前年比+1.9%と、幾分伸びを高めている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 海外経済に関しては、多くの委員が、米国の経済・物価情勢について意見を述べた。米国景気については、企業収益や設備投資が着実に増加しているほか、雇用の改善もより明確になってきており、バランスの取れた回復になっているという認識を共有した。こうした中で、多くの委員が、3月のCPIの前月比伸び率が高まったことに触れ、ディスインフレ傾向に変化が生じている可能性もあると述べた。複数の委員は、こうした動きは、予想よりやや早め、強めであるとコメントした。このうちひとりの委員は、労働市場や設備のスラックを前提とすると、需給ギャップの水準は大きいとみられ、その縮小速度が速いことが影響している可能性がある、と指摘した。この間、ひとりの委員は、原材料やエネルギー価格の上昇は、生産性の向上が著しい企業部門で大方吸収されているようであるし、3月の計数は振れの可能性もあるとして、もう少し計数等を確認してみる必要がある、との見解を述べた。

 また、多くの委員が、中国経済について、第1四半期の成長率が10%近い数値となったことや固定資産投資が高い伸びを続けていることを指摘し、投資活動を中心に過熱気味になっているとの認識を示した。そのうえで、中国人民銀行の金融引締め策の効果を注意深く見守っていきたいとの見方を述べた。

 わが国の輸出について、ある委員は、昨年10~12月に続いて1~3月も高い伸びを示したと指摘した。また、輸入も増加基調にあり、IT関連財を中心とする国際的な分業体制のもとで、日本経済も世界経済と歩調を合わせて回復していると付け加えた。

 ひとりの委員は、景気回復の動きは、中小企業や非製造業にも広がっており、地方へも徐々に波及してきていると述べた。別の委員は、企業間・地域間の格差は残存しており、先日の支店長会議の報告からも、日本経済は格差を残しながら全体として回復基調を続けているという印象を持ったとコメントした。

 この間、雇用・所得の改善は現状なお限定的であるとの認識が共有された。ひとりの委員は、一部の企業では過去の徹底したリストラ等により人手不足に直面しているほか、近い将来、団塊世代の定年到来もあることから、最近新規採用の復活、拡大に踏み切る企業が増え始めている、と指摘した。その上で、雇用者数は当分の間は緩やかながら増加基調を辿るものと予想される、と述べた。また、別の委員は、来年度の新規採用は好調であったようだとコメントした。もうひとりの委員は、人口の高齢化の中で若年層ではいわゆるフリーターが増加しているが、こうした点が統計の面でうまく捉えられていない可能性がある、と指摘し、これが雇用を実態以上に弱く見せているのではないかと述べた。

 ある委員は、雇用者所得のマイナス幅が若干減少傾向にあるほか、生活意識に関するアンケート調査や3月の全国消費者態度指数を見ても消費者のマインドは改善しており、個人消費はやや強めの基調を続けているとの見方を示した。また、別の委員は、消費者のマインド面のデータは改善しているが、販売統計は閏年などによる季節調整の影響で傾向が見極めにくくなっていると指摘し、個人消費の強さについては、もう少し時間をかけて確認していく必要があると述べた。

 物価面では、複数の委員が、国内企業物価の上昇テンポがやや加速していることについて、商品市況・一次産品価格の上昇の影響で素原材料価格が引き続き上昇している中で、中間財まで波及が明確化してきている、と指摘した。ある委員は、中間財価格の上昇には、素原材料の価格転嫁という要素のみでなく、需要要因も影響しているとコメントした。別の委員も、国内企業物価の上昇の背景にはコスト面・需要面の両方の要因がある、と述べた。もっとも、消費者物価への影響については、何人かの委員が、賃金がなお弱含みであることや個人消費の明確な回復は予想しにくいことを考えると限定的なものになるとみられるとの見方を示した。複数の委員は、こうした川上・川下価格の格差が企業収益や雇用所得面にマイナスの影響を及ぼさないか、注目していきたいと述べた。

2.金融面の動向

 短期金融市場について、多くの委員が、引き続き安定しているとの見方を示した。ある委員は、金融機関の決算発表が近いにもかかわらず、金融システム全般に不安感は生じていないと述べた。

 最近の金融・為替市場の動きについて、ひとりの委員は、米国の先物金利や長期金利が上昇した影響もあって、わが国の長期金利も幾分上昇し、為替相場の面ではドル高円安方向に進んだと指摘し、こうした動きは日米の経済の状況を踏まえれば、整合的なものと評価できると述べた。別の複数の委員も金融市場は各種のショックを吸収しつつ、経済情勢に沿って落ち着いた展開を示していると述べた。この間何人かの委員は、米国金利上昇のエマージング市場を含めた世界の金融資本市場への影響について、現在はなお限定的であるが、注意深くみていく必要があるとの見方を示した。

 ひとりの委員は、米国をはじめとする最近の金融資本市場の動きについて、短期間の動きをもって判断するべき問題ではないが、世界的な物価の安定やそのもとでの金融緩和・低金利という状況が今後どのように変化していくのか、わが国の経済・物価や金融資本市場に対する影響も大きいだけに、注目していきたいとコメントした。

 企業金融に関して、ある委員は、貸出市場・資本市場とも緩やかな改善が続いている、と評価した。別の委員は、マネーサプライの伸び率が小幅ながら上昇していることについて、金融機関の貸出姿勢の積極化や経済の前向きの動きが影響していると述べた。この間ひとりの委員は、「主要銀行貸出動向アンケート調査」で資金需要判断が悪化したことについて、やや予想外であったが、基本的には資金需要が引き続き弱いことを示している、と述べた。

3.経済・物価情勢の展望

 経済・物価情勢の2004年度見通しについては、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けると予想される、との見方が共有された。

 ある委員は、(1)東アジアを含めた海外経済の高成長、(2)企業部門の構造調整の進展等によって民間需要主導の回復が実現していること、(3)デジタル家電など日本の「物作り」の技術蓄積が活用されていること、を踏まえると、今回の景気回復は、バブル崩壊後の過去の回復局面とは異なり、相当の持続性を持ったものになる可能性があると述べた。別の複数の委員も、物価面で過熱感が生じておらず、成長を妨げる要因は乏しいと指摘した。もうひとりの委員は、内需の持続性の基盤が緩やかながら整いつつある、と表現した。この間、ひとりの委員は、設備投資の持続性や非製造業への広がりの程度、個人消費の強さが持続する蓋然性について未だ十分に確認し得ていない中で、国際機関の見通しなどをみても2005年度の世界経済の見通しは今年度ほど高くないとみられることを勘案すると、今年度の後半は前向きの循環にピークアウト感がでてくる可能性もある、とコメントした。

 企業部門では、輸出・生産が増勢を辿るもとで、企業収益の増益基調が続き、設備投資は製造業中心に増加傾向を続けると予想される、との見方を共有した。

 ある委員は、海外経済が高めの成長を続けるもとで今後も企業部門の改善の動きは続くと予想される、と述べた。また、企業部門の業績の改善と広がりは、短観や最近の中小企業金融公庫の調査でも確認できている、と付け加えた。もっとも、非製造業の設備投資の回復については、多くの委員が、有利子負債の返済圧力など制約要因が引き続き大きく、相対的に弱いものとなると予想されるとの見解を示した。また、複数の委員は、企業は設備投資や在庫投資の面でなお慎重なスタンスを維持していると指摘した。これに対して、ある委員は、減損会計の導入が設備のスクラップ・アンド・ビルドを促進する可能性があると述べた。

 また、生産活動や企業収益の増加の好影響は、雇用・所得面や資産価格の変化を通じて家計部門にも徐々に及んでいくと考えられる、との認識が共有された。

 この点、ある委員は、企業部門の改善が予想される中、その好影響が先行き何がしか家計部門にも波及していくと考えるのが自然である、と述べた。もっとも、この委員は、一方で企業の人件費抑制姿勢は根強く、波及は緩やかなものになると考えておくべきであろう、と付け加えた。別の複数の委員も、派遣労働者への切り替えなど賃金を抑制する構造的な要因があると指摘した。もうひとりの委員は、家計所得の伸び悩みに加えて、税・社会保障負担増などもあり、個人消費の回復は緩やかなものとなるとみられると述べた。

 総括的な判断の表現として、前回(昨年10月)の展望レポートで用いた「緩やかな回復」という表現を残すべきかについても議論があった。ひとりの委員は、(1)これまで日本銀行は、回復の広がりが乏しいという点に注目して、「緩やかな」という形容詞を付けてきたが、今回の展望レポートでは、企業部門の回復の広がりに加え、家計部門への波及もある程度織り込んでいる、(2)実質成長率に関する委員の大勢見通し(+3.0~+3.2%)は、「緩やかな」という語感とはやや乖離があると述べた。この点に関して何人かの委員は、2003年度の成長率が高いため、2004年度の成長率は高めの「げた」を履いているという事情もある、と指摘した。このうちひとりの委員は、こうした技術的な点を含めて、対外的には注意深い説明が必要である、とコメントした。

 国内企業物価については、内外商品市況高や国内需給の改善などを反映し、今年度は前年比若干のプラスとなる可能性が高いとの認識で一致した。

 また、消費者物価については、大方の委員は、(1)潜在成長率以上の成長が続くもとで、需給ギャップは縮小していくと予想されるものの、なお小幅の物価低下圧力が残る可能性が高い、(2)制度要因や米の価格などの一時的な物価押上げ要因は剥落する、(3)川上物価上昇の影響は、ユニット・レーバー・コストの低下である程度吸収され、最終財価格やサービス価格への押上げ圧力は全体として限定的なものに止まるとみられる、といったことを考えると、基調的には依然小幅の下落が続くと予想される、という見方を共有した。この間、ひとりの委員は、(1)昨年9月以来の円高は、消費者物価の下押し圧力となっていたが、最近の円レートの安定は、価格転嫁を容易にし、デフレ脱却の展望を強めることとなろう、(2)今年度中に消費者物価指数ゼロ%以上という意味でのデフレ脱却を確信している、と述べた。

 成長率見通しが高めであることと、消費者物価見通しがマイナスとなっていることの関係についても議論があった。ひとりの委員は、その基本的な背景は需給ギャップがなお大きいことであると指摘した。すなわち、失業率や設備稼働率の状況を踏まえると、需給ギャップは、景気回復の割には縮小していないと述べた。また別の委員は、ここ数年消費者物価の需給ギャップに対する反応が弱くなっていると指摘した。この委員は、例えば、2000年にかけての景気回復局面ではデフレ傾向が止まらず、その原因として輸入ペネトレーション比率の上昇が指摘されたと述べた。その上で、現在は、輸入ペネトレーションの傾向は一服しているほか、海外における素材価格上昇や国内の需要の増加に広がりがみられることなど状況の変化もみられ、今後の反応の程度に変化がみられるか注目していきたい、との見方を示した。

 上振れ・下振れ要因としては、多くの委員が、(1)米国の経済・物価動向や、それに関連して米国を含めた世界の金融資本市場に変化が生じる可能性、(2)中国経済の過熱のリスク、(3)イラク問題をはじめとして根強く残っている地政学的リスクなどを挙げた。ある委員は、日本経済は、仮にこうした要因が顕現化し海外経済にかなりの減速が生じても、自律的な回復を続けるというところまでは至っていない、と述べた。別の委員は、価格転嫁が進まない中での素材価格や原油・エネルギー価格の上昇がある種の供給ショックとして企業収益を下振れさせるリスクを指摘した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢の判断のもと、現在の「30~35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 ある委員は、今後、期待インフレ率が上昇していけば、金融緩和効果はさらに高まっていくとの見解を述べた。この間ひとりの委員は、将来予想インフレ率が上昇するような場面では、いわゆる時間軸効果を強めるため、コミットメントの2つめの条件、すなわち先行きのCPI上昇率見通しに関する条件について、1%以上とすることも有益ではないか、との見解を表明した。

 別の委員は、景気回復の中での緩やかな金利上昇は自然な動きであるが、自然な動きの範囲を超える急激な動きを回避するために、引き続き日本銀行の考え方を明確に発信していくことが、従来にも増して重要になると指摘した。またもう一人の委員も、米国金利の動きを背景に市場はより神経質になっているだけに、情報発信には細心の注意を払う必要があると述べた。

 この間ひとりの委員は、「証券化市場フォーラム」について、幅広い市場関係者の参加を得て、証券化市場の発展のための具体的な課題や解決の方向性について活発な議論が行われ、意義が大きかったとしたうえで、引き続き情報開示体制の整備など課題解決のための努力を続けたい、と述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状を見ると、企業部門の改善に広がりが見られ、景気は着実な回復を続けている。他方、物価については3月の国内企業物価が対前年比でプラスに転じたものの、消費者物価は基調的にはマイナスで推移しているなど、デフレは依然として継続しており、その克服こそが我々の直面している最大の懸案であることに変わりはなく、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  • 日本銀行は、量的金融緩和政策継続のコミットメントを明確にし、それを堅持するとしているが、最近、足許の景気回復や好調な経済指標の相次ぐ発表等を背景に、市場関係者の一部からは早期の量的金融緩和政策の転換を予想する声も聞かれている。本日公表予定の経済・物価情勢の展望における見通しがこの観点から世間の注目を集めていることは、十分に勘案して頂きたいと考えている。
     日本銀行におかれては、引き続き緩和的な金融環境が当面維持されるという予想が揺らぐことのないよう、新たな工夫を講じられないか検討を進めて頂きたいと考えている。
  • 今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。

  また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気は企業部門の改善に広がりが見られ、着実な回復を続けている。一方、物価面では依然として緩やかなデフレ状況にあると考えている。
  • 政府は6月初旬を目途に「基本方針2004」を取り纏め、これに基づき構造改革の取組みをさらに加速、拡大していくこととしている。デフレ克服のためには、構造改革の加速、拡大の政策努力を進める中で、政府の行うより強固な金融システムの構築に向けた取組みと日本銀行による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じ、資金供給が拡大していくことが重要である。日本銀行は、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示しているが、最近のマネタリーベースやマネーサプライの動向に十分鑑み、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金融資本市場の動向にも留意のうえ、より効果ある調節手段の実施も含め、適切かつ機動的な金融調節を行って頂きたい。
  • 今回の「経済・物価情勢の展望」においては、今後、幅広い経済主体による取組みにより需給バランスの改善が進み、デフレ克服の可能性が高まると展望されている。また、政府の「構造改革と経済財政の中期展望−2003年度改定」では、「名目成長率についても徐々に上昇し、2006年度以降は概ね2%程度、あるいはそれ以上の成長経路を辿ると見込まれる」としている。これらを踏まえ、集中調整期間後のデフレ克服を実現するために金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、さらに実効性ある金融政策運営を行われることを期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30~35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.「経済・物価情勢の展望」の決定

 次に、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、即日公表することとされた。なお、背景説明を含む全文は、4月30日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

以上


(別添)

2004年 4月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。

 日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上